Bパート
これは攻撃が始まる前の事である。
ゴクゴクゴク
「ぷはぁ~……、不謹慎動画って知ってる?ダイドー」
『周りの誰もがやらない事をして、注目を浴びるアレか?』
水道局にて、茂原伸はやっていた。
彼の妖精は缶の妖精、ダイドー。江藤の妖精、コクマロと似たようなタイプで、飲料缶の妖精である。
彼女と同じく、ダイドーの中身を飲むことで妖人化する事ができる。
一気飲みした後におでこを左手でやさしく押すような指をつくり
「『邪神たる黒霊獣が吼え湧き上げるは、絶望の沼なる青紫は死へと導く毒』」
ここ地下だし……。そこまで毒性はない……。
青空なんてものよりも、夜空を求めるように満月の形を両手で作って上に向ける。
「『月の神による影と闇の支配!太陽の神、逆立て沈め!星1つも輝かん!』」
常に世界はたった一人。それを伝えるかのような、一本指ポーズで締める。
「『世の滅亡を求め、暗黒毒龍の降臨!!"ユニオン・ドラゴンニクス"』」
言葉通り、黒と紫をベースにされた。ダークヒーロー風の妖人となった、ユニオン・ドラゴンニクス。
『長いから、茂原でいいよな。自由名にしてやったけど、長いから……』
「いやいやいや!!"ユニオン・ドラゴンニクス"だろうが!!超カッコ良くない!?ドラゴンだぞ!暗黒龍だけでも確かにカッコイイ。だが、僕は黒紫龍が好きなんだ!!分かる!?」
『いや、分からん……恥ずいんだが』
超長い意味と、超長い戦士名。
これだけでも戦闘が苦手なのが分かる。
「ダイドーさぁー。君に足りないのは、厨二力だよ!」
『なんだそのパラメータは、初耳だ』
「この想像力!この人間という種族を超えた頭脳!誰も僕の考えに追いつけない世界!僕こそが頂点!」
いや、それ被害妄想。
「そう!どうして、僕が今まで暴れなかったと思う?僕は強すぎるからだ!!毒を撒き散らす、暗黒紫龍の血を退いたハーフなのだ!その力はダイドーによって、解放され!世界を混沌に導くのだ!」
『すでにイタ過ぎる……』
「ふははははは、僕は!此処野さんに殺されかけたが、生き残った。そう!暗黒紫龍が僕を背に乗せ、現世に連れ戻し、僕は龍を超えて神になるべきだと!!」
時折、こいつの考えについてこれない。
というか、"萬"の中でもハブラレ者だった。それに気付いていないのは本人だけだろう。可哀想。
『話しを戻して、不謹慎動画がなんだって?』
「僕はあーいうの好きなんだ。誰からでも注目を浴びれる、僕だけの世界が現実に起こせた事実。あの、あれ、なんて言うのかな」
『承認意欲か?』
「そーそー。たぶん、それ!僕って凄いんだって、世界に広められる!」
ただのイタイ人だっつーの……。
「此処野さんはまさにその頂点だよ!僕とそう変わらない年頃で、世界を敵回している猟奇殺人鬼。殺すなんて事を平然としながら、戦っている凄い人だよ。僕の理想像!誰もやらないじゃないか」
『誰もやらないと思うが、誰もやられた事のない罰を受けるような気がするがな……。というより、自分が殺されかけた相手を尊敬するとか、おかしいぞ。お前』
「それが僕が、人間なんかと違う人間である証明じゃないか」
他人とは違う事で満たされる。自分が特別だと思い込む事に関しては、天性的な素質がある。
妄想力というより、被害妄想が非常に強い。
そして、独創的な考えもある。日頃のストレスで周りにある普通を許せないという人間はあれど、撒き散らしてしまう承認欲求は傍迷惑。
洗浄された水が街へと流れる大切な水の流れのところで、茂原はズボンを下ろして
ジョボボボボボ
「いやぁ、誰もやったことないよね?綺麗な水を送っている水道局さんの水に、僕の小便が混ざるなんてこと」
『動画撮影してないだろ。不謹慎動画を作るんじゃないのか』
「いいのいいの。別に……僕は、視聴するのは好きなんだよ。でもね、」
一通りのやりたかった事をした後に、
「世界が僕を知ればいい。真実を知るのは僕だけでいいんだ」
邪悪というよりかはそうあるべき、彼の中の常識。いや、知性と幼く語れるものか。
「水道局に小便と一緒に毒が流されている事を世界が知ったら、すごい事件じゃあないか。仮に世界が気付けなかったとしたら、世界とはこうも浅かったと感じ取れる。不謹慎とは広める事じゃあなくて、皆に知られてこそにあるもんだよ」
厨二感と異常性。
「大事件が起きたニュースを聞くと、悲しみと興奮が湧いて来る感覚あるじゃん。ホラー映画のドキドキとも似ている、ハラハラしてくれる世界」
セッティや江藤の非情性とはまた違った、人間の考え。
歳は"萬"の最年少。それ故の不安定さこそが、彼の普通なのかもしれない。
「僕、生まれて良かったよ。死ななくて良かった。毎日食べる物、毎日通う道、毎日使うお金、そこに不安というものを注いでやるんだ。人や世界が信じているものをメチャクチャにしてやりたい」
◇ ◇
ピュアシルバー突入より、6分。
「さ、蠍だった……」
飛島はようやく生きている従業員に遭遇した。それも複数人。今日、勤務していた人達だろう。
北野川にも協力してもらい、彼等から秘密の情報を得る。
「た、大量の蠍が現れたんだよぉぉっ!こんなところに蠍の群れが来たんだぞ!」
「わ、分かりました!これで少しは前に進めます」
精神が壊れているような目をしていた。精神を不安定にさせる毒か。蒼山に吐かせたタイプと同じ蠍だろうか。
『ピュアシルバー。こいつ等、北野川達とは違う毒に侵されてないか?』
「直接的に毒を仕込むタイプだろう。多少の接近でも対応できるようだ」
ただ、私達が侵入して来てから蠍を見ていない。幻覚作用もあるのか。
「真実は掴めたか?彼等に幻覚症状があるぞ」
『そんなの関係ないわ。ここまで話せれば十分よ』
『しっかり秘密は得られました!完璧ですよ、"ピュアシルバー"』
現実か幻か、本人が判断できなくても。真実だけは常に残る。
『濃い紫色した蠍が突如として、この水道局を襲ってきている』
『でも結構、小さいみたいです。壁の隙間をすり抜けて、従業員達の足を襲ってます』
シークレットトークの本領が発揮される。
『足のところに刺された傷があるはず。かなりの数よ』
『気をつけて、捲ったところに蠍がいるかも!』
ピュアシルバーはゆっくりと従業員のズボンをまくって、足の傷を確認する。十数か所。それも似たような箇所に刺されまくっている。弱い毒性だから同じところに、沢山の攻撃をしなきゃいけない証拠になる。
「佐鯨に連絡する。ジャネモンと蠍に気をつけさせて、突入してもらう。一旦、切るぞ。北野川」
コポポポポポ
『?なんの音だ』
ラクロが感じ取ったのは、水が引き込まれるような音だった。それはとても極小の音で、ピュアシルバーには聞こえていなかった。振り向いた時、そこには何もなかったからだ。
「佐鯨。突入してこい」
『おう!』
「いいか、中はジャネモンがウロウロしている。それとまだ私は見ていないが、この水道局を襲ったのは小さな蠍の群れだ。弱い毒性があり、幻覚症状を見せる。集団で襲われて、従業員がそれでやられている」
『奴の居場所は?』
「さぁな。ともかく、中は広い。手分けして、注意深く捜そう。私は今、地下にいる」
ドスゥッ
「!!」
針に刺された痛みより、注入される毒による効果の眩暈が来た。ピュアシルバーの左足首を襲った蠍が一匹。
「っ……蠍……」
『な、なにーーーー!?どっから来たんだーーー!』
すぐにピュアシルバーは蠍を振り解き、ラクロが噛み殺した。
『ど、どこから来た!?匂いはまったくなかった!物陰や人の中に隠れてたのか!?』
「くっ……」
毒というより体温を上げさせ、発汗機能を麻痺させるような攻撃か。何度も打たれると幻覚まで見える。
「部屋を出るぞ。囲まれてるかもしれない」
『おう!』
こーいう時こそ、冷静にならなければならない。
見えない罠がある。これを佐鯨に伝えなければやられる!
『ピュアシルバー。さっき俺、なんか水が引き込まれるような音が聴こえた!あの蠍、水の中を移動できるんじゃないか!?』
「水か……。いや、あの部屋に水はなかった。……私の汗や体内に蠍が入っているとしたら、外傷的な攻撃を仕掛けるのはおかしい」
『ちょ、直接やられたって!?でもよ、部屋の出入り口は俺が見張ってたし……』
「壁の隙間をすり抜けて来たと、北野川は教えてくれた……」
壁の隙間……?言っていて思うが、よく分からないな。
蠍が現れたのは、壁の隙間ではないんじゃないか。
「ふぅー、ふぅー……」
間違いなく、蠍は壁から現れたのは事実だ。問題はどのような方法で移動し、襲ってくるか。自動かつ遠隔操作が可能と見るべきだ。本人の強い意志が能力を高めている話もある。
「……さっき、音がしたと言ったな。水が引き込まれた音って」
『ああ!間違いないさ!幻覚じゃない!』
「蒼山と似た能力かもしれない」
かなり多彩な妖人だが、リスクの多さはあると見た。
◇ ◇
そして、施設に突っ込んでくる佐鯨こと
「『勇気よあちゅく燃えあがりゃあ、ブレイブマイマイハート!!』」
『もーっ!さっきは上手く言ったのに!!なんで失敗するの!ハイ、解除!!』
ブレイブマイハートが水道局に突っ込んできて……。
「じゃね~~~」
「あたしの怒りが込められた渾身の拳ぃぃっ」
格好の標的になっているジャネモンに向かって放たれる拳。
頭脳戦を完全に無視する、超脳筋系の襲来。
「オラアアァァッ!!」
ドゴオオオォォォッ
「どいつもこいつもややこしいぃっ!あたしは頭が良くないんだーーー!」
やらなくてもいい雑魚をぶちのめしていく、ブレイブマイハートであった。
正直に飛島や北野川などの心配など、自分は気にしていない。強い奴が強い。たったそれだけで突き進む。男たるもの、男らしくいく。今、女だけど。
「具体的にどうするかは聞かないで!」
『考えないじゃん。私とブレイブマイハートはさ!』
「だから、相性バッチリ!!」
敵は全員、ぶっ飛ばす。
「茂原、出て来やがれ!!タコ焼き殴りにしてあげる!!」
そう叫んで、ちゃんと出てくる奴がどこにいる。
茂原はこの水道局のどこかに隠れている。ブレイブマイハートの正面に立つとかじゃなく、じわじわと追い詰めていく気だ。
ブレイブマイハートの戦う姿を、"とある場所"から蠍は確認し、追跡を始めた。
『ギチチチチチ』
茂原の妖人化。
"ユニオン・ドラゴンニクス"
能力はシンプルそのもの。毒を散布し、操る能力。しかし、不正な契約を用いて、多様性に富んだ能力に昇華させている。これは茂原が自ら課した制約で動いている。というより、毒の発生条件組み込んでいるというものか。
超広範囲に撒き散らした毒は、調理されたその瞬間にのみ発現される変わった毒。
蠍という生物を具現化し、幻覚などを見せる毒を打ち込める。
飛島が驚くほどの多様性を持っているのは、彼も彼なりの覚悟を持っているという事だ。
「んー…………」
とある一室の壁の隅っこで、根のような物を生やしている妖人がいた。
その姿は単なる陰の人間。薄すぎる根暗野郎。不気味にしか見えない表情。
「くくくくく」
『妖人化すると動けないリスクはデカイし、ただジッとしているだけじゃないか』
「いいじゃん、それ。そーいう、契約で。歩き飲みもマナーが悪いじゃないか」
いかにも戦えそうな格好をしながらも、じっと体育座りで隅っこで待つ。
自分達が放った毒で人間達が苦しんでいる様を想像しながら、愉悦する。
「1人にとって、想像とは楽しみ」
自分語りが好きであり、それは自分が自分のためにやっている。彼にとって、ダイドーは自分の分身のように大切に思っているのだろう。ただ、その分身がちょっとだけ、まともな人格を持っている。
「毒を発している間、僕は動かない。僕の世界はこの姿勢、この場所から生まれるんだ」
ただの陰キャにしか見えない。それも卑屈に走った人間。
「蠍達は自動操縦だし、ジャネモンもテキトーに動くけど、僕なんかを見つけられっこない。到達するわけがない。だから、絶対に僕は負けない。いや、戦うことすらないからだ」
『しかし、茂原。この場所に佐鯨と飛島が突っ込んで来たら……』
「それも大丈夫。契約は色々したじゃないか。あーいう契約、こーいう契約。僕は全てを熟知してるから、いざという時は戦えるのさ。彼等とは狂気も背負ってきた過去も違うからね」
『……少し心配だ』
制約やら契約をゴチャゴチャと結びつつも、それらをキッチリ把握している茂原だった。単に記憶力が良いというより、妄想力と混ぜ合わさった記憶操作。単純に記憶する事も、あまりないからできるのだろう。
「ふひひひひ」
奴等が消耗するのは必死だ。
蠍は確実にお前達を襲う。
◇ ◇
"お姉ちゃん"……"お兄ちゃん"……"華"……。
「ふーーっ……」
水道局内での戦闘。連戦に加え、これまでの活動と此処野から受けた傷がやはり大きい。精神力のあるピュアシルバーであるが、体のダメージも大きい。弱いながら毒も入れられている。
壁に寄りかからず、床に立ち止まらず。
「ふーっ……」
『そ、そんなところで休めるのかよ!』
階段の細い手すりに乗るような形で、ピュアシルバーは止まった。これなら多少視界も保てるが。
息も荒く、まったく休めるような体勢じゃない。
「ブレイブマイハートが来てる。……少し、役に立てなかったな……」
『何言ってる!ピュアシルバーがいなかったら、ここまで来れてない!!あとは敵を見つけるだけだ!』
ラクロは、ピュアシルバーとリードで繋がれている。ピュアシルバーを乗せて捜しに行きたいが、ところどころの通路の狭さもあって、大きなサイズにはなれない。犬を連れそう形でここに来ている。
主人であるピュアシルバーを守ることが最大限の務め。
「ふーっ。……どーやら、茂原の能力と居所が分かりかけてきた」
『!』
壁がモゾモゾと動き始めた。意識はふらついているが、幻覚じゃないのは確か。
蠍がいる。それも群れでいる。
『ギギギギギギギ』
『こいつ等、別に1匹1匹大した事はねぇ!ピュアシルバー、休んで!妖精の俺にテメェの弱い毒なんか効かない!』
やる気満々のラクロ。一方で、ピュアシルバーは意識が飛びそうになりながら、スマホを取り出した。
「ラクロ、少し頼みがある」
『守ってやる!今度こそな!』
「……そうじゃない。今は違う……」
『!?』
「茂原を、倒すため……だ」
まだ、こんなところでくたばるつもりはない。全ての最善に、全霊を持って臨むこと。
命はどんなに優れていても、どんなに恵まれようとも、嵐1つで転覆する。
そして、嵐なんかで倒れもしない命もあることだ。
「やれっ、ラクロ!!躊躇すんなっ!!」
『!分かったよ!!信じているからな!』
どんな苦境を味わおうとも、……
表原:前々から思っていたんですけど……
レゼン:なんだ?
表原:主人公あたしなのに、役どころがビミョーというか。相手側のメインを倒すーみたいなカッコいいポジじゃないですよね?
レゼン:そりゃそうじゃん。人生振り返っても気付いてなかったのか?
表原:グッサリストレート!
レゼン:これ何回か書くと思うので、改めて載せるが。作者はメインの主人公を決めているけど、物語の大半のキャラにスポットを当てたがるタイプなんで、基本は主人公なんて誰でもいい感じらしい。




