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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第19話『ポイズンパニック&追撃の殺人鬼!表原、空から落ちる!』
50/267

Cパート

時間は、此処野と出会う前の事である。



「…………間違いねぇーな」


録路は、そのズサンな黒幕の"お願い"を受けた時、確信した。

自身も、そして、先代も。辿り着けなかった、キャスティーノ団やエンジェル・デービズの黒幕の正体。

部下の近藤や飴子達。同期の此処野や小宮山達との懐かしい思い出を呼び戻しながら、当時の事を振り返る録路であった。

当時のエンジェル・デービズのボスはその時、酔っ払っていたが教えてくれた。


【最初はただの取引からだったんだ。組をデカくしろ、妖人を増やせってなぁ】


後の自分がそうであったように、手紙や金という古い方法で依頼を受け、それをこなしていく度に金と組織が大きくなった。

とはいえ、それは決して珍しくない事だった。どんな組織にも、支援をする人間がいるものだ。

だが、そんな支援があっても、決して組織が必ずしも成長と成功を遂げるわけじゃない。その成功を客観的、将来的な希望も見れる人物であることに間違いなく、敵対する組織の情報やローリスクでハイリターンな商売を教えてくれる。


ただの若いだけのギャング組織。それもわずか5人で始めた組織が、たった1年で数千人の犯罪組織グループとなった。ここまでの成長を遂げることができた黒幕には、今も感謝しかなかったが


【一度もお会いできたことはない。それでも、俺達は彼についていった】


組織がデカくなり、自分自身ではもう完全な制御が困難となってきた。

録路や此処野、小宮山などの優れた人材を幹部として扱ったりとしたが、勝手も多く。古参の仲間達も独自の勢力を築き始めた。

この頃から不安を感じ取った。録路のように気付いていた者もいるし、だからこそ。

とても悔しいものだった。


【突然、連絡が途絶えて、因心界の襲撃を受け始めた。俺は黒幕に見捨てられたんじゃないかと、感じ始めたよ。同時に彼が因心界との関係者で、利用されていたと確信した】


周りから削られていく。自分のことを慕っていた人物ほど、消えていく。すでに自分がBOSSであろうと、信頼や忠誠を誓っていた者達は少なく、バラバラのまま敗れ去っていった。

その中心にはほとんどが因心界との交戦。


【録路。俺は因心界や黒幕に復讐して欲しいとかを思っていない。肝心なのは、】



大切なこと



【俺達のような人間ですら、彼に利用されては殺されていく事をどー思うかだ。お前はそーいうのが嫌いだから、お前に伝えておく。俺達はもうすぐ解体される。だが、黒幕は俺達のような組織をまた作るだろう。そーやって、俺達のこれからの意志は利用され、潰されていく】



憎しみを持って、因心界に挑んだところだって。きっと黒幕の思惑なんだろう。

だから、黒幕を特定しろ。

涙一族。革新党。妖精の国。その他多くの協力的な組織があって、因心界は成り立っている。どれかの勢力か、2つの勢力が協力し、意図的にやっていると見ている。


【"涙一族"には色々と黒い噂や世間から信頼を勝ち取れないとこがある。涙キッスが因心界の正義という意志を固めるために、悪役を作っていると俺は思っている。黒幕から妖精達を数多く提供してもらった事もあるしな。そんなのができるとしたら、妖精の国とパイプを持つ"涙一族"しかない】


とはいえ、彼女やその一族の仕業という証拠は1つたりともない。

革新党にしても、妖精の国。あるいはSAF協会だとしても、黒幕が何者であり、どのような組織を束ねているのかも分からないまま、エンジェル・デービズは因心界との最終決戦に敗れ、解体、解散することとなった。



「…………」


自由奔放な食い意地野郎も、殺戮馬鹿野郎も、正義の勘違い野郎も。多くの連中が観てきて、触れてきた善悪で生まれた。

良くも悪くも価値観を作られ、自分の考えってのを生んだ。これは感謝されるものだ。

ただ黒幕はそれすらも利用し、自分達の何かのためにやっている。利用される事は腹立つことだが、それが多いのも事実。こっちだって、金というものなり、武器なり、妖精なりを得ていた。ギブアンドテイクの関係。

ただ。その勝手で作られる危険な価値観が気に入らなかった。黒幕への不信感はそんなところ。忠誠なんてない事が互いの関係として、ベストだというのも分かっているが。

今、コンタクトをとっている録路自身にも、命の危機はある。



どんな奴なのか。楽しみであり、一度は手合わせたいという。戦闘的な好奇心とそのカリスマ性に興味はあった。あくまで興味だ。

乗るかどうかはまたその時だ。



◇      ◇




ドゴシャアァァッ



技量を持ち合わせていないマジカニートゥにとって、受け身と呼ばれる体勢もなく、墜落した形で地面に激突した。しかし、妖人化していた事が軽傷に留められた。


「大丈夫か!?」


すぐにレゼンがマジカニートゥの背に着地し、傷の手当を始める。

自身の生命力を分け与え、落下のダメージと此処野に突き刺された足の傷を修理していく。


「レ、レゼン……」

「応急処置だ!治癒力を強めただけだ!完全な回復じゃないぞ!」


起き上がり、走れるくらいの力はあると実感するマジカニートゥ。そして、ヘリは自分を見捨てるように先へ進んでしまう。見上げたとき、あの高さから落ちてきたのかと知れる。

それと



「ご、……ぐぉっ……」



距離はあるが、どうやら此処野も生きている模様。

マジカニートゥと違い、受け身のようなものはとっていたようだ。その技量も含めて



「あいつ、人間のくせにどーいう身体能力をしてやがる!?」



此処野の負傷は大きいが、あの執念から見るに、戦闘となれば勝ち目は薄い。奴の百戦錬磨ぶりと戦闘狂ぶりも、マジカニートゥが苦手としているタイプの人間。



「ど、どーする、レゼン」

「足は動くな?」

「う、うん。もう少し待てば、戻るよ」


すでに自分達は、茂原の居所を掴んだという任務を完遂させている。

飛島達の行動は正しいものだって、マジカニートゥだって分かっている。あくまで助かっているという立ち位置からだ。



「マジカニートゥ!」

「!」


立ち尽しているところに、自分の名を呼ばれ。そっちを向くと


「大丈夫だったか!」

「ヒイロさん!そちらこそ!無事でしたんですね!」

「ほ」


奇襲の初っ端で、ヘリコプターから落されたヒイロ。さすがに対応が早くて、レゼンもほっとした息をもらした。互いに戦えないため、ここで戦える存在がやってきてくれるのが嬉しい。

ヒイロはマジカニートゥの近くまで来て、確認をする。


「此処野は?」

「あ、あっちです!生きてますよ!」

「あれでも生きてるとは、しぶとい奴だな。ここで死んでくれたら良かった。ともかくマジカニートゥ、傷はあるかい?」

「い、いえ!私、大丈夫です!レゼンに治してもらいましたから!」

「そうか。すまない、あまり私が役に立たず」

「いえいえ!それより、私達はどーしましょう?飛島さん達は行っちゃいましたし……」


ヒイロの指示に従う。そーいうつもりだった。


「そうだな。ひとまず、ここから離れよう。遅れるけど、茂原のいる場所に向かう!万が一、失敗すれば大変だからね」

「確かに飛島さんは酷い負傷をしてる。連戦ができるとは思えないぜ」

「佐鯨が上手い事、タイマンに持ち込めば負けないよ。けど、相手はかなりトリッキーだからね。ともかく、ここを離れよう!」

「は、はい!」

「本部に連絡を入れて車の手配は済ませてる。合流地点まで私について来てくれ」



マジカニートゥとヒイロの二人が出発しようという時だ。ギリギリ取り逃がす前に、到着したのがいた。



ビイイィィィッ



「!!」


馬鹿デカイクラクションを鳴らして、これから向かうところの行く手を防ぐように現れたのは、



「どうやら間一髪で、間に合ったようだ。此処野は役目を果たしたようだし」

『ご、ごめんなさい。表原ちゃん達!今日は戦いますから!』


録路空梧とその妖精、マルカ。


「録路さん!……っていうか、無事だったんですか!ダイソン戦以来!あの時、ありがとうございます!」

「此処野が来たのは、お前が彼をけしかけたのか」


マジカニートゥは少々感謝をこめた声をあげ、ヒイロは当然のように警戒を秘める声を出す。録路はバイクから降り、1VS2でも構わないとして立ち塞がったのか。だが、構えがそーじゃない。戦闘を始める心にはなっていない。残念でもない表情で


「お前こそ生きてたか、マジカニートゥ。運の良い奴だ」

「!……なんか、今日は戦うつもりな感じですか」

「まぁな。俺もついさっき、黒幕から指令をもらってな」

「!!黒幕だと……」


レゼンとヒイロが警戒を強める。近くにそれがいるのかと、思ってしまう。


「用件はともかく、お前等を茂原の下には行かせねぇし。応援も来ねぇ状況だ。始末するには今が大チャンスってわけだ」

「……それは私達が、お前を始末するチャンスでもあるんじゃないか?」

「そーだな。そーとも言えるな、ヒイロ。なーんか怒ってる?舐めた発言だったかな?」


会話の奥。

おそらく何重のやり取りがその中にあった気がした。

ようやく録路から戦闘を始めるエンジンが掛かってきた。凶暴な面を出し始める。

タバコに見立ててトッポを咥え、喰いながら


「来いよ、ヒイロ!どーせ戦えるのは、お前だけだからな!」

「君は此処野と違って、強くてキレる頭を持ち、敬意を持っているよ。だからこそ、全力で君を仕留める。黒幕の指令も、その正体も聞かせてもらおうか!」



抜き合いの妖人化。

まぁ、ヒイロのそれはちょっと違うが、通信アイテムを取り出し、白岩に連絡を入れる。


「『愛のメタモルフォーゼ!』」


一方で録路もオーブントースターの妖精、マルカの中に入って焼かれていく。


「『このナックルカシーに食えねぇもんはねぇ!』」


ヒイロVSナックルカシー。

剣と拳の激突。



バヂイイィィッ


「っ………」


ダイソンとの死闘で、さらに強くなっているな。おまけに回復能力も高いと来た。

ナックルカシーは此処野と違ったしぶとさがある。長期戦になるのは仕方ないか。


「おい!此処野!!いつまで寝ていやがる!!」

「っ……だと、このクソデブ!!」


ナックルカシーの檄で大ダメージを負っている此処野が立ち上がってきた。それを見た瞬間に、マジカニートゥはレゼンの声など聞くまでもなく、


「逃げろーーーー!」

「距離をとれーーー!」


逃走を始める。当然だった。此処野のダメージは深く、ヒイロとナックルカシーの戦いに割って入るより、マジカニートゥを追いかけた方が楽なのはあるし。


「マジカニートゥを"任せる"。こいつは俺にやらせろ」

「たりめぇだ!!あの女は俺がぶっ殺すって決めたからよおおぉぉっ!!」

「!!」



全力とは程遠いが、此処野は逃げるマジカニートゥを追いかけた。

それを見てナックルカシーの集中がようやく、ヒイロに向いた。


「お互い、時間との勝負だな」

「!ナックルカシー。何を考えている。どーいう指令なんだ!?」

「そりゃあ、お前が考えておけよ」



◇      ◇


マジカニートゥはペース配分を無視して、逃げている。

その全速力に振り落とされないようレゼンも髪にしがみついていた。


「わわわわっ」


やばいやばいやばいやばい。あのめっちゃ怖い殺人鬼が私の方に来てるーーー!


「ど、ど、どーしよう!レゼン!!次の本気まであと何十分!?」

「17分ってところ!」

「そ、そんなに逃げなきゃマズイの!?」


マジカニートゥの身体能力は人間のそれを超えていても、相手が妖人ならあまり意味のない事だ。

接近戦の強さを見せ付けられ、さらには


「此処野って人には瞬間移動があったじゃないですか!!」

「アタナの能力の事だな!」

「知り合い!?」

「ああっ!同期だった!クソ無口な奴で、中身は完全なサイコパス!殺戮しか頭のない槍の妖精だ!!」

「ただの悪魔じゃない!!妖精にすんな!!」


そんな妖精がいるのかって、マジカニートゥはツッコミながら走っていく。レゼン曰く、


「同期だが!俺よりも遙か前に人間界に降り立った傑物!それは奴の実力(主に戦闘能力)もそうだが、何より同胞達を無機質に殺していて、手に負えず、サザン様が人間界に落とした妖精なんだ!」

「いや、すげー最低な事をしてるじゃないですか!!人間界にサイコパスを放り込むなし!!無責任過ぎ!」


総合的な面ではレゼンより上はいないが。単純な戦闘能力と殺戮能力を考えれば。アタナの場合は思想と能力が噛み合っていて、強大な戦闘能力を有している。これは強さにおける考えの違いがあるだろう。


「見てただろ!槍の妖精だ!物体型の妖精!確かに危険な存在であったが、あれとの適合者なんかまず現れないと思っていた!不正な契約をするタイプでもなかったし、誰かと正式な契約しなきゃ力も発揮できなかった奴だ!」

「つまり?」

「此処野神月って人間は、アタナと共有できる目的、実力があり、妖人契約を結べたって事!お前達、人間も悪いんだぞ!アタナがいなくても、あいつは殺戮をやってただろ!どっちも最悪な下種野郎だ!!」

「私に言ってもしょうがないじゃん!!」



サイコパスはサイコパスと惹かれ合う。

とはいえ、アタナの紹介はこの辺で良いだろう。



「アタナは、世界中の光が集まって生まれた槍の妖精なんだ」

「それだけ聞くと、サイコパスには思えない。そんなものかな?」

「さっきの光を浴びて瞬間移動をするんじゃなく、光を浴びて目を閉じた奴のところへ瞬間移動できる能力だったはず!光を背にしてれば、瞬間移動はできねぇ!!」

「っていうか、めっちゃ怖い能力じゃん!!目瞑ったら、瞬間移動されるって!?」

「そのまま攻撃に転じられる!」



アタナの実力とその能力を、レゼンが知っていた事がこの逃走において有利であったこと。

此処野の負傷が思った以上に大きいことが、絶望的な戦力差を僅差にしていた。

その僅差。それは500m以上も離れた距離も、彼が詰めて来るということだ。直線的な距離ではなく、逃走のための逃げをしている。単純な短距離走ではない動き、能力が求められる。それでも此処野とアタナのコンビは殺戮特化に相応しい、執拗性を兼ね備える。




ヒューーーーッ



「!アタナ!!空に投げられてる!?」



此処野はアタナを打ち上げ花火に見立てるように、空中にぶん投げた。

自らの武器をわずかな時間失うリスクもあるが、アタナが放つ光にはレーダーの機能もあった。


「"シャイニングレーダー"」



カーーーーーッッ


空中で輝き地上を照らす白き光。その中で動く生態を捉え、位置情報が分かる。広域なレーダーであるが、光の届かない場所や遮る場所ではイマイチの索敵な機能であるが、市街地から外れた場所で障害物の少ないとこでは十分過ぎる索敵レーダー。

此処野は逃げるマジカニートゥの位置をキャッチできた。



「思ったより遠くには逃げてねぇな」


傷を押して、此処野も走るが、


「そこの車を寄越せーーー!」


道路を走っていた車に飛び乗って、運転手を引き摺り下ろし、車強盗。

マジカニートゥは身体能力だけであるが、此処野には自動車やバイク、果てはヘリコプターなども運転できる技術があった。"シャイニングレーダー"は連発できないが、姿を捉えるくらいの位置までには使える。


「はぁ……はぁ……、も、もーダメっダメ……」

「マジカニートゥ!」


頑張れと言いたいが、足の傷だって応急処置。ここのところの体への負担もあり、すでにマジカニートゥの精神的な部分でも、奴等の狂気がすり減らしていっただろう。

単純な逃走ではもう追いつかれそうだと、レゼンは察した。とはいえ、本気になろうにもあと10分以上の時間を稼がなくちゃいけないし、先ほどの光を浴びたせいで、位置を察知されたとも判断した。


「はーっ、はーっ」


死んじゃうのかな。……殺されるのかな……?


「レゼン。私……」


生きる事に弱気になってくる。それでもレゼンは、一生懸命だった。向こうにあるものを見て、確認する。


「……マジカニートゥ。お前、泳げるか?」

「え?なに、こんな時に……」


追いつかれたらまず勝ち目がないし、隠れるという手段もまた、あのレーダーがある限り難しいものだ。唯一、此処野から振り切れる方法を考えるなら、見つけられないことだ。

これなら戦わずに行けるかもしれない。



ブロロロロロロ



「奴はこの辺りのはずなんだがな」



そして、4分後ぐらいに此処野がマジカニートゥのいた場所に辿り着いた。先ほどレーダーで探知した位置だ。周辺は林道にぽつぽつとある民家。しょっぱい道路だ。光を完全に遮断できるような林じゃない。隠れていても見つけられる。

此処野は再びアタナを空へと放り投げる。


「"シャイニングレーダー"」


こっから車を降りて、より近づく。向こうも車が使えないルートを選ぶだろうと予想してる。

傷を負っていても、詰められるとの判断だ。


「あ?」


だが、アタナから予想外の結果が此処野に送られる。


「女がどこにもいねぇだと?ふざけてんのか、アタナ!!」


いない者はいない。


「5分やそこらで、俺達を振り切れる奴じゃーねぇのは分かるだろ!むしろ、近づいたはずだ!!林にだってテメェの光が差し込んだ!どこかに隠れてるだけだろうが!光をちゃんと浴びせろよ!」


一度、アタナを手放すから連発ができない。

もう一度すぐに発動できれば、アタナの言葉を信じられる此処野だ。自分の負傷もあって、ここはけんをした。闇雲に動くのは消耗するだけ


「早く戻ってこい、アタナ!」


隠れる場所があるとすれば、道なりの家の中か。だが、侵入したような形跡はない。それに奴は一目散に逃げている。その可能性は薄いし、あそこにだってアタナの光は窓から差し込む。押入れとかに隠れたら無理だが。

本体は馬鹿そうだったが、あの妖精、レゼンはちっと手強そうだった。一か八かのプランをするとは思えねぇ。


此処野、5分以上も何もできずに足止めされる。

マジカニートゥがどこに消えたのか。


「もう一度、調べろ!アタナ!!"シャイニングレーダー"!!」



此処野の索敵は広範囲であるが、その手段は上空に投げられるアタナがあって分かる事。つまり、そのタイミングがレゼンやマジカニートゥにも見えるのだ。


「!潜れ!!」

「う、うん!!」


ジャポンッ



だから、その時に隠れれば、此処野達からは見つけられない。



カーーーーーーッ



その光は広く、5秒以上も長く光って周囲を捜し続けるが。アタナの光が差し込めるものに限り。少し濁り、冷たい川の中ではアタナが放つ光は激減、反射されていき、


「!またいねぇだと!?どーなってんだよ、アタナ!!」


アタナは感知できなかった。これは鏡などで反射させる事で、回避も可能であった。



「ぷはっ」

「か、川が近くにあって良かった。向かう先の水道局が使ってる川に飛び込めて、助かったぜ」

「さ、さすがレゼンだね。いやー、私も。多少泳げたのが良かったけど、レゼンの助言がなきゃ無理だった」

「この川も林道をちょっと越えた先の堤防の向こう側だ!目で探そうにも、見つけられないはず!少なくとも、時間は稼げる!」


川の流れは弱いものの、浮かんでいるだけで流され、此処野との距離をとれる。だが、此処野はまだ諦めない。一度殺すと決めた相手を取り逃がすなんて事、彼にあるプライドが許さなかった。


「弱ぇ奴は死ぬんだよ。逃げるなんてさせやしねぇ」


逃亡とは、敗北ではない。

そう思わせるような言葉だった。とはいえ、アタナで捜してもマジカニートゥが見つからない理由が分からなかった。ここらへんの地理に詳しくない事が原因だった。

此処野は、スマホで周囲の地理を確認した。この道からでは林のせいで見えなかったが、


「なに、向こうに川があんのかよ!?」


アタナの性質を知っている。水中に入れば、あのレーダーが弾かれることを知っている。

これで林の中や建造物の中にいる可能性はないと、すぐに判断。車を動かし、川を跨いで繋いでいる橋の近くへ移動する。


「ボートを"作る"ぜ!アタナ!!殺戮の時間だ!!」


居場所は掴めていないが、戦場を川にする模様。

隠れて逃げるというプランだ。素早く逃げるでも、徹底的に隠れるでもない。見つければ土俵だ。

ところで、今。此処野はボートを"作る"と言った。この川の周辺にボートなんかを貸してくれるところも、そもそも船着場なんてものもない。じゃあ、どーするつもりか。

木を切って、丸太ボートを作る悠長さがでるんだろうか。いや、違う。


「なんかさっきから空が光ってるよなー。ありゃなんだ?」

「けど、いい天気ですな」

「釣り日和、キャンプ日和と言った日ですな」

「やったー、ザリガニゲットだー!」


川で釣りをする人達、あるいは。その周囲で遊ぶ地元の子供達。此処野はそこへ向かうと同時に、アタナを振り翳し。



ドバアアァァァッ



「死ねクソ共がああぁぁっ!!ひゃははははは!」


日常という中に一瞬の絶望を咲かせる、殺戮を犯す。

釣り人達を背後から突き刺し、首を撥ね飛ばし。逃げて泣き叫ぶ子供達を殺意に包んで、ぶち殺す。通り魔と片付けるには、物足りなさ過ぎる。異常な狂気を放ち、それをやった理由は



「利用するだけだ」



此処野の殺戮で、死んだ者達から溢れ出る無念という邪念。理不尽過ぎるという邪念。

それはホントにそれでしかない。


「オラァッ!邪念のクソカス共!!ほれ、集まれよ!この俺に殺された無念でよぉ、生まれろよ!ジャネモンよぉぉっ?」



此処野が撒き散らし始めたのは、無数の不気味な色を放った飴玉が数個であった。

生まれたジャネモンは飴玉を美味しそうに舐める。

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