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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第17話『まさかの内通者!?レゼン、踏み潰される!まさかまさかのあいつがいる!?援軍ビックリ!』
42/267

Aパート

ヴィィィィ



表原とレゼンがその場ではなく、現地を離れてから本部に連絡をとったのは。確実な合流、情報伝達をするためというだけではなく。

人を操作するタイプの能力を持つ妖精を警戒するための処置。規則ルールを言われたからだ。


「面倒だよね。すぐに連絡できるのに……」


愚痴りたくなるのも分かる。通信機器は使えるというのに、"本部が確認している現在位置"を離れてから連絡するという規則に、少々表原は面倒に感じていた。


「電波の発展で情報の開示や発信は楽になった分、そう思うだけだろ」

「かもねぇ~」


表原とレゼンは知らない。一度戦ったけど……。

因心界の本部は、SAF協会に所属しているアイーガの能力を知っている。アイーガを装備してしまった人間は、アイーガに意志と技術を支配されて操られてしまう。情報が見やすく、聞きやすくなった分、人間を操作して本部に虚偽の情報を送り込んでくるのも、手としてはある。


連絡方法は必ず、テレビ電話。

姿形もちゃんと見せなければならない。メールなどの文章媒体では弾かれるだけである。


「なかなか繋がらない」

「本部への緊急コールは確実な分、罠警戒の精査があるんだろう」



ピィッ



『すまない、用意に手間取ってしまってね』

「キッスさん」

『君からのコールだったのが驚きだよ。ホントに急だ』



出てきたのは涙キッスであった。妹、ルルの復帰戦という事もあって心配な面もあった。

この連絡を受け取るのは常に本部にいる幹部以上。主にキッス、ヒイロ、そして、飛島の3名である。

その連絡を自室で受け取って、大急ぎで番組の録画準備のような事をしていた。

彼女はカッコつけるかのように、上司としての立場らしく冷静な振る舞いで机の上に表原達が映るディスプレイを置き、それを向き合わせるようにもう1つディスプレイを置いた。


『早く出てきてください』

「?」


緊急連絡だというのに、向こうの姿形が見える分、何かある。

そして、もう1つの通信が繋がって、そこに映し出された姿にレゼンは驚いてしまった。


『おっ。繋がったか。久しぶりだな、レゼン』

「えっ……ええええっ!?サザン様!?」

「誰?」


まさかの存在とご対面してしまうレゼンと、知らない存在だからこそ、目を丸くして声を出してしまう表原。そして、サザンの方もこうしてレゼンと話すのは久しぶりであり、映像とはいえ、彼の適合者である表原と初めて対面した。


『ひとまず、表原ちゃん達の連絡を聞こう』

「あ、はい!……って、レゼン」

「……………」

「レゼン!ぼーっとしないで!伝えてよ!」

「お、おぅ」


少しボケ~っとしているレゼンを初めて見た表原だった。

それだけでキッスの隣に映る妖精が、とんでもない存在だとは分かった。表原が説明した方が良かったと思ったが、レゼンがこーいうやり取りを担ってあげる。


「飛島さんが敵にやられちまった。今、例のマンションには佐鯨さんとルルちゃんの2人が、その敵を捜しつつ、飛島さん達を救出しようとしている」

『敵の能力は?』

「自分や相手を液体にする能力だった。マンションのパイプなんかを液状となって動いていて、特に飛島さんがいないんじゃ、追跡するのが困難だ」

『ふむ……』



飛島は今回の任務で重要な役だった。


『ルルは無事なんだろうな?』

「やられたのは飛島さんだけ。って言っても、俺と表原はこうして応援要請のため、抜け出して。佐鯨さんとルルちゃんは残って、敵を捜している。今、無事かどうか。あるいは敵を倒しているかどうかも、分からない」


レゼンの情報を参考にすれば、敵は正攻法とは違ったやり方を得意としている。

それに強い飛島がやられたとあっては、中途半端な応援や対策は無意味だ。液体となって、水道管などを通って行くタイプの敵となると、逃走も得意と見るべきか。

この手の奴は今、逃さないで仕留めるべき。ルルのことも心配だ。


『分かった。こちらから、白岩とヒイロの2名を派遣する』

「!白岩さんと……ヒイロさんも!」

『あの2人ならこの問題は解決してくれるだろう。君の位置情報を元に2人が向かうから、その場で待機してくれ。指揮はヒイロがしてくれる』


油断なく、戦力的な余裕を持ってして、対応する。


『"この件"に関してはひとまず、これで手を打つ。サザン様、後の事はお任せします』


キッスはそう言って、自分を画面の端に寄せ、サザンの映像を中央に持って来る。

サザンの姿を見て、レゼンの緊張が増した。まだなんの成果も出していない。手掛かりすら掴めていない。表原の事につきっきり状態。


『久しぶりだな』

「そうか?でも、それくらいの時間が流れたか」

『キッスから何度か聞いたけど、その子がレゼンの選んだ者なんだな?』

「ああ、表原麻縫。……アホだ。正直、間違えたかもしれねぇ」

「アホ言うな。偉い人の前だと畏まるのって、ダサくないですか?大天才のレゼンくん(笑)」


状況関係なしに、互いにからかい合う仲。

それになぜか安心した表情を見せたサザンはレゼンではなく、表原に感謝の言葉を送った。


『ありがとう、表原ちゃん』

「え?」

『心配だった。妖精が人を選ぶ瞬間、それだけは我々妖精の命を授けることに等しい瞬間。もしかすると、レゼンが死んでいたかもしれない。殺されていたかもしれない。因心界にいるとか関係なしに、私の大切な存在を護ってくれた君には感謝している』

「そ、そー言われると…………なんていうか、こいつのこと。好きじゃないんですけどね」

「おい」


赤子が親を決められないように、そう詳しく事情を知らぬ者同士が契約を結ぶというのはハイリスク。

レゼンとこうして喋れるだけでも、表原に感謝しているサザンであった。だが、そんな気持ちをもう置いてでも、重要な話しをしなければならない。


『すまない。ところでレゼン』

「うっ」

『調査ができていないのは知っている。ひとまず、この件に限ってはここにいる4名のみの話となる』

「……あーっ。表原」

「なに?」


レゼンの表情は思い出させるような、漲る喜びを切るような。裏切っている感じに


ボォォンッ


「本気出せ」

「え?な、なんで、ドライバーに変身するの?」

「誰にも見られない、聞かれないために、本気出せ!!」


表原の頭上に突き刺さり、超回転する。


グイイイィィィィィッッ


「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!』」


と、叫んでみたが。もうすでに四つん這いで吐いている状態。ついさっき解除したばかりで、また本気になれというのは難しい。


「おええぇっ、ちょっ、おえっ」

「サザン様の前でみっともない姿を晒すな。俺も恥ずかしくなるだろ?」

「あんたのせいでしょーが!!あんたにゲロをぶちまけるぞ!」

『……すまない、表原ちゃん。レゼン!適合者の体を気遣うのも、妖精の役目だぞ!』

「俺の力に対応できる人間がいねぇんだ」

『お前、人に合わせないのが悪い癖だと指摘していただろう!確かにお前の力は私を超える。だが、力だけが全てじゃない。適応する事もまた"実"の力なのだ』


説教臭さに懐かしさを覚えながら、謝罪にも心をこめて。


「悪い、表原。八つ当たりしてた」

「八つ当たりかーい!」

「今度なんか、礼をしてやる」

「レゼンのお礼とか、特訓みたいな感じにしか思えないんだけど!」


ホント、いつか空中分解しそうで、しなそうな。絶妙な距離感を保っている両者。少しだけ表原が


『M体質だな……』


キッスが小さくぼやく。SとMの相性の良さ的なものか。

とはいえ、そんな事をよくは思わないサザン。


『カミナリを落とすぞ』

「しょーがねぇじゃん、サザン様。表原でも妖人化に耐えられないんだ」


なんかイジメをする悪い子みたいな言い訳だ。

世渡り上手のオーラを感じさせる。


「…………あ……ふふふ」


そして、それは表原にも感じる。やられているばかりではない、やり返したろうという強い意気込みを感じる。悔しいままではいられない、何か強い心から来るものに働いて、本気は動き出すのだ。

レゼンに言われた本気と、自分の茶目っ気を交えた本気。



ズズズズズズズ


「"イス・モノスローム"」


現れたのは、暗黒感を漂わせる、不吉を感じさせるイス。そのイスの上に、レゼンを座らせてあげるマジカニートゥ。


「お、なんだ。優しいじゃねぇか。デザインはちと、中二臭いイスだが……」

「ふふふ」


座るレゼンの上から、さらにマジカニートゥが座る。それはまるでイスの上に置く、やわらかなクッションを扱うように力こめて座っている。


ブチイィッ


「ぎょえええぇぇっ!?い、いきなり何しやがる!?ぐおぉっ?」

「え?だって、これを発動条件にしたんだもん(笑)。本気で」


ミニエルフを上から踏むように座って、やり返していくマジカニートゥ。


「ギブギブ!」

「え~、我慢してよぉ~?そうしないとさ……本気にならないよ?」

「テメッ!悪知恵を身につけやがって!」


このイスにレゼンを乗せ、その上からマジカニートゥが座る事で発動するタイプの能力。この条件を満たした時、自分の周囲にいる存在を連れ去るように、暗闇の空間に引きずり込む。

現世とは違った場所であり、これはコココン戦で体験した異空間もまた参考にしており、マジカニートゥの悪知恵と共に成長を感じさせるものであった。


物凄く狭い空間であるが、誰にも感じる事ができない暗い空間。


「お、重い。くそっ」

「女の子に重いとか言っちゃダメだよ」

「お前!小さくて可愛い妖精の上に、圧し掛かるなんて外道だぞ!」

「いやいやいや、そーしないとレゼンの言っていた本気になれないんだよ」

「俺に協力させる本気を編み出しやがって!さっきの撤回だ!コラァッ!」



ギャーギャー言い合って、話しを進められないが。マジカニートゥの機転のおかげで、内密な話しができる。なんだかんだで仲良くやっており、協力し合えることで、万が一の最低ラインを割った時の対処をせずに済んだサザン。


『レゼン、そのまま聞け』

「ぐおぉぉっ、聞く聞く!早く、喋ってくれ!サザン様」

「ゆっくりでいいですよ~」


そして、本題。表原の心の覚悟はまだ聞いちゃいないが、


『レゼン。お前には、"妖精が妖精の国から不当に人間界へ降り立つ"、不正を手引きしている者を調査するよう指令を出していたな』

「ま、まだ何も手掛かりないが……」

『そいつはキャスティーノ団を裏で操っている輩だ』

「!?」


いっきなしに、とんでもない情報をサザンが発信する。それに目を丸くしてしまう表原に、驚くレゼン。


「な、なんでそこまで断言が?」

『以前からの予想はあったが、間違いなく。SAF協会に属さず、人間界と交友を持ち、妖精を授ける者。それを組織的に成せるのなら、キャスティーノ団を裏で操る存在ができなければオカシイからだ』


やや、証拠の無い決め付けではあるが。それほどの情報を握っている、サザンとキッスの両名。そして、それを聞かされた表原。


「あ、あれ?だって。この間の会議じゃ、そんなこと言ってませんでしたよね?黒幕がいるのは聞かされてましたけど……。それを倒して完全決着って……」

『……あの場でそれを言えなかった理由がある』


キッスが代弁する。自分の甘さがあるのかもしれないと感じつつ、


『因心界側に、キャスティーノ団のスパイがいる。あるいは、属さずとも裏で操っている存在と協力している者のいずれか……』

「!!ええぇっ!?」

「で、デカイ話になったな」


そして、本当に分かっていた事。あり得ないと知りながら、再び揃うことを思っての談笑すら、幻の事だった。


『そのスパイは、"十妖"の一員である事には、……残念だが、間違いはない。故に、あの場でこの事実を伝えられなかった。この事を知っている人間は、私と表原ちゃんだけだ』

「!!」

「え……」

『……誰かは分からん。そこでサザン様が信頼するレゼンくん。そして、パートナーである表原ちゃんに頼っているのが、今の状況だ』

『表原ちゃんとレゼンではないのも確かだからな。レゼン、情報は与えた。とにかく、見つけるんだ』

「りょ、了解……」

「ちょ、ちょちょちょ!待ってください!」


任務であるレゼンと、指令と思っているマジカニートゥに考えの違いがある。


「な、仲間を疑うんですか!?正直、キッス様とサザン様の言っている事の方が、信じられないです!」

『だろうな』

「だって、みんな……そりゃ、変なのとかいましたけど……キャスティーノ団を操ったり、悪い妖精を人間界に送り込んだりしているような方なんて、いるんですか!?それに協力する人がいるんですか!?」

『私だって信じたくない。だが、事実。それも……間違いなくだ』


表原は知らない。だが、レゼンは知っている。

キッスは仕方なく。納得させるために通達する。


『実はレゼンくんが人間界に降り立る少し前に、"十妖"を集めていた。レゼンくんを必ず、因心界が手に入れるための会議をな。そして、レゼンくんは事前にこの調査を任されていた妖精。その任務を知っているのはおそらく、私とサザン様、レゼンくんの3名だけだったはず』

「そ、それが?」

『キャスティーノ団もSAF協会も、レゼンくんの調査に事実、初動が遅れていた。だが、レゼンくんが因心界に加入したすぐに、妖精の国で起こっていた、"人間界へ不正に降りる妖精の数"が格段に減ったのだ。まるで、証拠をつかまれないようにと……』

「!!?」

「俺が因心界にいる意味を、奴はすぐに察知したってわけか。それもSAF協会よりも早く……か」

『ただの構成員レベルではこの迅速な対応まで想像が及ばない。こうなると、もう幹部の連中が情報を流し、この不正を一時的に止めたと見るべきもの』



証拠を隠すための行動が、逆に協力者の特定を許した。

相手のわずかなミスだった。

とはいえ、


お前(レゼン)の存在が抑止力となれば良いが、相手からすればさらにお前は狙われる危険性がある』

「………」

『この問題、ほとぼりが冷めるまで、大人しく沈んでいくとは思えない。必ず、なんらかのリスクを冒して、また大規模にやる。分かるな?そんな危険が起これば、互いの世界に深い亀裂ができる。必ず、その前に見つけて捕えるんだ。協力者共々、この存在を捕まえるんだぞ』

「……分かっている、サザン様」


双方のトップからの、シークレットミッション。それを今、初めて知る表原。


「…………」


胸中。

わずかに残る、キッスの願いを含んで、サザンに向けて訊いてみる。


「逆で、いいですか?」

『?逆……?』

「……あなたが偉いとかあたしには分かりません。でも、分かるのは大切な仲間って人を疑うなんて事が心苦しいって事です!しかも、あたしにはよく分からない、あなたに!!」

「お、表原。相手はな……」


レゼンは自分の態度を棚上げしながらも、表原の止められない気持ちを少しでも止めたかった。


「あたし!そんな人はいないって、信じて調べますから!!"妖精さん"!!」

『…………』

『…………表原ちゃん。サザン様の事を知らないから、今。抑えておくが、君を』

『キッス。私が悪かった事だ。謝罪するのは私の方だ。表原ちゃん。そう願う結末を私だって望んでいる。だから、君の成功を心から願うよ。それくらいはする……』



プツンッ


こうして、サザンとの通信が途絶えた。その時、キッスはやや、ほっとした顔になっていた。一方で、表原にはムカムカと違った、戸惑いがあった。そんなこともあって、キッスの方から声をかける。


『表原ちゃん、調査方法について知りたいか?』

「!……啖呵切りましたけど、正直やり方が分かりません」

『だろうね。ところで、まさかとは思うけれど、周りに直接聞かないよね?それが心配なんだ』

「刑事ドラマって大変ですね」


実際に、それもたった一人と一頭の妖精で、黒幕と繋がっている人物を探す事になった表原。それもこんな唐突で重要な役。能力とは違って、吐きそうな何かを出しそうな気分。

仲間を疑う役。まだその歴も短いからこそ、選ばれているという不遇感もある。


『早々、手の内は見せないだろうが。1つに、その者がキャスティーノ団との連絡を取り合っている現場を抑えること』

「あ、白岩さん……それにあたしもなんですけど……」

『内容は粉雪から聞いている。あれはただの世間話だから心配ない。まー、白岩のマイペースぶりには困ったものだが……内容も多少、吟味してくれるとありがたい』



1.キャスティーノ団と連絡を取り合っている現場を抑えること

2.不正な妖精を人間界に送り込んでいる現場を抑えること

3.黒幕と呼ばれる第三者とのやり取りを抑えること

4.自らに介入、あるいは危害を与えてくる者と遭遇した時



『この4つの内の、どれか1つでも満たせば、情報を私に送ってくれ』

「……あの、最後が不吉なんですけど」

『君がこの調査をしているとあれば、不意を突かれるかもしれない。だが、君の死から私とサザン様なら追跡はできる。そう怯える必要はない』

「そ、そうですか!?マジで大丈夫ですか!?裏切りから暗殺とかシャレにならないんですけど!!」

『そんなバカなマネをする者が、キャスティーノ団の黒幕や妖精の国での異変を犯すわけがない。していたら早い段階で捕まえていた。だからこそ、次の問題が起こる前に捕まえるしかない』



あえて言えば、エンジェル・デービスからの時を含め、黒幕としてやってきた人物である事が、表原の命を保証しているものだ。

この人物は分かっている。誰かは知らないが、たった一人と考えれば。キッス、ヒイロ、白岩、粉雪、佐鯨、北野川、蒼山、野花、飛島、古野。この10名を始めとし、妖人は300人以上の超戦力を一度に敵に回すというのは、命がいくつあっても足りないものだ。調査する表原の不審な死=犯人という仮定は、正しく。双方に爆弾が付けられたと同じ。


『内通者の気持ち、立場を考慮すれば。表原ちゃんを始末するより、君を出し抜く、白をきるといった作戦にするだろうな』


因心界の情報を入手できない内通者など、黒幕にとっては不要な事だろう。もし、因心界が望んでいる情報を手にしていたら、逆に不利な事になる。そーいう駆け引きの中で、不審な動きというのは出てくるもの。キッスの前ではしないだろうが、表原の前でならやるかもしれない。



『気をつけてくれ。もうこの通信が切れた後、君はその極秘任務に着手しているということなのだ。信頼する仲間として、生き残ってくれ』


4つ目の問題で、危険に感じること。

ジャネモンなどの第三者の存在に敗れ、死んでしまうこと。

キッスの読みではいずれ、黒幕が表原を狙ってくるのを予想している。



◇      ◇



一方、そのキッスの読みとは違って。キャスティーノ団の本部では、ある異変が起こっていた。

今、因心界と激突しているわけだが。

唯一、その黒幕と連絡を取り合える録路空梧は、不信感を抱いていた。


「……………」


おかしい。

妖精を集め、妖人もいくつか用意できた。

奴の望むとおりにやったってのに、なんで連絡がねぇ。

こっちの状況を把握できているはずだろ?

今までのやりとりとは、どこか変わったな。


ここまで迅速とはいかないが、その存在からの連絡を受け、実行してきた録路だ。

奴の存在を自分でも追いかけているわけだが、こーして連絡を切られるのは少々、予定外。



ガチャッ


「おーい、録路。大分、俺達も形になってきた」

「うるせぇぞ、近藤」


得られた妖精と無事に適合し、妖人となった近藤達。能力を知ったからには、実践の場で使用したくなるのも当然。"萬"の時間稼ぎのおかげもあるが、もうそれは要らないんじゃないかという、ガキの粋がりを感じさせることを抱いていた。

そして、録路は。ただ準備していただけでは、ダメなのかと感じたが……。


「因心界にふっかけんな。どーせ、奴等から来るんだ。居場所は特定されているだろうし」

「あー。つまんねぇな。正直、俺は妖人になれたから、お前の意見を聞く理由もなくなったが。義理で付き合ってやる」


キャスティーノ団の後ろには何かがいる事くらい。№2の近藤も察知している。

だが、そーいう事よりも自分を第一に考えているのだから、利用する程度にしか思っていない。連絡待ちをしている録路に、兵隊共の状況を教えに来た。


「ひとまず、お前が手に入れた妖精達を全部使った。無事に妖人になった」

「そうか」

「飴子が待ちきれず、出ちまったが。他はちゃんと留めてもらっている」

「うん」

「………で、俺達は因心界が来るまで待つだけなのか?退屈なんだがよ」

「江藤と茂原が遊んでるんだ。今の内に修行でもしてたらどーだ?似合わないがな」



戦争の準備は、整い始めている。

そして、録路はこの黒幕の不信感に対して。とある事を思い出した。


「……………」

「どした?」

「……なんでもねぇよ」


それを口にしなかったのは、確証が持てないこと。

黒幕の狙いが一向に不明な事も、繋がっている。

そんな録路の行動に打算した付き合いをしていた近藤は、野心を持っていた。手にした能力を含めてのこと。金儲けを始めとした人生の遊び。


「あーあ。これはもう、つまんねぇ仲になっちまったな。分かってたけどな。とはいえ、伝えたぜ」


黒幕なんかどーでもいいさ。俺は沼川達と組んで、いいビジネスを作ってやるぜ。因心界と戦争になったら程々に戦って、バックレ。罪は全部、録路に背負ってもらうとするさ。


「つまんねぇのは俺もだがな。お前達は」


これはもしかすると、あれか。

エンジェル・デービスと因心界が戦争をおっ始めようって時の、BOSSがキレていた事と似ている気がするな。決戦が近いってのに、一時的に奴との連絡がとれなくなった。

だが、必ず俺の前に、その顔を出してくるよな?




◇      ◇



トプンッ


表原とキッス、サザン。

そして、録路と頭鴉の話し合いをしている最中。

戦っている者達がいた。そーいう言葉を遣うというのには、あまりに卑怯なことであるが


「隠れてないで、出てきなさい!」

「こっちはいつでもやれるわよ!!」


涙ルルこと、ハートンサイクル。

佐鯨貫太郎こと、ブレイブマイハート。


両名は背中を預け、隠れているイムスティニア・江藤こと、ルービュルを待ち構えていた。

雨が降る中でマンション1階の広場にて戦闘態勢をとっていたわけだが、この2人を同時に相手取るわけがない。飛島という人質を抱えている事も含め、乏しい連携をとらないこと。

ジャネモンというか弱いながら、この2人の行動を崩せるモンスターがいる。



「じゃね~~~」

「こそこそと!ジャネモンを生み出さないで!!」



ルービュルの方が自分を知っており、奇襲作戦を当然として立ち回る戦闘スタイルは表原とレゼンの思った通り、佐鯨達を苦しめた。

2人は敵が隠れにくい場所に誘おうとしている、見え見えの考えであったが……多少の頭を使っていることは褒めるべきか。


「じゃね~~~」

「上から来ないでよ!」

「上空の敵なら任せてください!」


空中にいる敵ならば、ハートンサイクルのミサイル攻撃が強力。蝙蝠や鳩のような飛行能力を持ったジャネモンを、撃ち落すため、顎を上げる。一方でブレイブマイハートは地上にいるジャネモンに攻撃を仕掛ける。録路のナックルカシーに勝っていた、ブレイブマイハートの攻撃力。怒りを含んで込める一撃は、怪物を虫のように屠る。

隙はあるものの、素の強さが一発逆転の恐ろしさを持たせる。



ムワ~~~



シトシト振る雨が地面を濡らせていく。それを、ブレイブマイハートの熱で水蒸気に還っていき、周囲が蒸していく。ハートンサイクルの爆風、熱量でかき回されていく。

液体となって襲ってくるなら、自分の熱で焼き尽くせばいいというブレイブマイハートらしい、安直で強い防衛策。

しかし、もう1人はどうだろうか?



ドバアアァァッ


「!!?っ……」



ハートンサイクルの左膝を地面から貫いたのは、水鉄砲のような勢いを持った液体。

喰らったと同時に左足が液状に変わっていき、バランスを保てず転ぶ!


「い、います!!ブレイブマイハート!!」

「!」


2人は目でルービュルの姿を探す。

むしろ、これを読んでいたのか。狙っていたのか。ブレイブマイハートの動きはかなり迅速であり、液体となって逃げようとするルービュルを迫った。液体になっているためか、移動する動きはそう速くはない。妙なところに逃げられる前に、


「焼き尽くしてあげるっ!」


身体能力は上。敵に近づくというのは、ルービュルもそれだけ危険を承知していた事。

雨という天候、飛島と違って探知能力を持たない格上であった事。

様々な条件が味方にし、賭けを成せるまでになった。

その運を引き寄せるように落下する。様々な思考と策、運までも用いてのこと。



ドバアァァッ



さすがのブレイブマイハートでも、意識の外から降ってきたルービュルの本体を避ける事も、防ぐ事も難しかった。液状のまま地上に落下すれば、本体へのダメージは少ない。ブレイブマイハートの半身を、ハートンサイクルの左足を液体化させたルービュルは、2人を見下ろしながら、体をゆっくりと人間化していく。それと同時にじわりじわりと、2人の体を液体化し、コントロールができないようにしていく。


「ぐおっ……」

「うぅっ」

「もう1人は逃げちゃったかな。ま、いいや」


液体となっていくと、意識はそのままでも能力がまったく使えない。


「ブレイブマイハートに、ピュアシルバーまで倒した。私ってば絶好調ね。ボーナスでも要求しようかな」

『その時は、シチュー1年分な』

「く、くそっ……テメェなんか」

「姿さえ分かっていれば、どーってことないのに……」


そんな負け惜しみ。ルービュルがどれだけ不利な状況で、引っくり返したか。

2人にはやや足りていない総合的な強さ。精神力、思考力。人間的な力で覆した戦い。


「ふんっ。あなた達を餌に、因心界の連中を1人ずつ」


トプンッ


完全に液体化した2人を瓶詰めにしてしまう、ルービュル。


「保存してあげる」



◇      ◇



ガシャコンッ


かつては、エンジェル・デービズの実行部隊の1つ。

組織の幹部だった、録路や此処野とは対等な立ち位置に近かった。


"萬"


小宮山がまとめ上げ、残りの4名が特殊な任務をこなす。直接的な戦闘能力より搦め手の使い手が集中しているのは、そーいう役割であったからだ。

妖人化を解除しても、一度液体化したものは瓶やタッパーなど、蓋をした容器にいれれば解除はされない。

奇妙な感覚ではあるが、本人以外が液体となっても、意識と感覚を持ち合わせており、喋ることもできるのだ。江藤の役目は、"シチューやカレーを作る係"と"拷問"であった。



「目は見えないだろうけど。感じるでしょ?飛島、佐鯨、ルル」


3人は液体化され、同じ瓶に詰められる窮屈な状態となっていた。

暗闇というより真っ白な景色が広がる視覚情報。神経関係をバラバラにされ、身動きは何一つできず。それでも幾つかの感覚だけは残る。聴覚、触覚、嗅覚、味覚。3名はどこかに移動させられているのを感じた。



コトンッ



「私の能力は自由に対象を液体ジェル化させるわけだけど、液体化した状態だと打撃や熱に強いし、一種の無敵状態にもなる。でも、弱点をつくと一溜まりもない」



3名が入った瓶が置かれた場所は、冷気が溜まった箱。

即ち、冷蔵庫の飲み物を置くスペース。


【くっ……】

【つ、冷たい】

【さ、さみいぃぃっ】


じわりじわりとダメージを与えていく他は無いが、3名にとってはほぼ素肌で冷蔵庫の中、押し詰められる形で囚われる環境。液体を詰めた瓶が3つの声をあげる。

北野川の能力による完全なる調査とは違うが、この能力による拷問もまたエグい。

液体となっても、感覚は残り、声を発することができる。人じゃない状況もまた、精神的なダメージを与えるものだ。



バタンッ



「妖人化した状態で液体化しちゃったから、持って1時間かな?」


とはいえ、住民もこうして殺していった。

閉じた冷蔵庫に聞こえるよう、江藤は教えてあげる。どこか狂っていると伝えるには、十分な迫力。


「人間ってのは栄養価が高くてね。一度、その味を知ると病み付きになんの」

【!?】


江藤の妖精、コクマロはほぼ嘘八百を知りながらも、こう脅しこめた自分語り。弱者となった者を虐げるという言い方の悪さ。ちょっと控えろやって、ご高説が終わってから告げたい。


「とはいっても、人間を調理するなんて難しくて。最低1日は冷蔵庫で寝かしつけないと、調理もできない。体が豆腐みたいになって、包丁で切ると水分が零れ出る。切る感触もいいの。骨なんか感じない。その人間豆腐をお味噌汁に入れたり、マーボ豆腐もいいかな?冷凍庫で保存すると今度は固くなり過ぎちゃって、ダメになっちゃう。あと意外と人間は焦げやすくて、脂がフライパンにこびりついちゃうの。主食として遣うんじゃなく、オカズの一品に添えるととても美味しくできる食材よ、人の栄養価になると思って死んでいってね」


ほとんどの誰しも、自分という人間が食われる事など感じない。

それを極有り来たりな家族家庭の食卓にあると、思わせるような言葉。

じわじわと甚振る拷問とかみ合った、ご高説。


「じゃ、コクマロ。大金星に大サービスで、特上のシチューを作ってあげる」

『おぉー!やった!ただし、人間は入れるなよ。マズイからな。生臭さっていうのが、残るし……』

「1人取り逃がしたから、また誰かが来ると思うけど、人質の優位はある」



イムスティニア・江藤が佐鯨、飛島、ルルを撃破するという、"萬"の中で、とんでもない戦績を残す。

しかし、彼女は後に……。



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