Cパート
気の遠くなるものである。
変化のあるものを、この変化のない状況で1つ1つ探って行く事。
「あーっ、敵捜すってのは大変だな。バラけてもいいんじゃねぇか?」
「ジャネモン退治の方がいいような……というか、それしか変化なし」
今に刺激を求めるタイプには辛い任務。いるかどうか分からない敵を捜すとは、本当に必要なのかと思える。だが、そんなことが積み重なって平和なり安全なり、当たり前というものが生まれるのだ。
佐鯨とルルは多少飽き気味になったが、飛島と表原は真剣な表情でやっている。
「人のご自宅を訪ねるのも楽しいと思いますけど?人の生活から発見があるじゃないですか」
「隠れて襲ってくる敵だ。油断をするな」
お金とかは盗まれているが、漫画本などを見るとついつい読んでしまう表原。
立ち読み感覚の読書。長い時はレゼンが髪を引っ張ってやる。
「お?有名選手の直筆サイン?」
一方で佐鯨はスポーツ系のグッズに目を光らせる。2人共敵を捜せよ、ってツッコミはあるが、そんな道中を愉しんでいる。何かの発見はそーいうものからある。
ルルは人の家族の成長記録や、ペット関係の代物に目をやっていた。あまり、そーいう事を見る機会がなかったが、家族一緒に映っている写真が珍しくないのを知ると、ちょっと羨ましく思う。
「…………」
お姉ちゃんは生まれた時から因心界にいて、家族みんなが揃った事。あまりないんだよね。
お父さんとお母さんの妖精が、あのサザン様だった。
それなら涙一家だけじゃなくて、人間界全体も妖精の国も、お姉ちゃんへの期待が高まっていくのはしょうがないよね?色んな重圧や責任もあって、人を護らなきゃいけない意志と強さも持ち合わせなきゃいけない。それなのに私の事まで気にかけてくれる。凄いお姉ちゃんだから、その近くにいられる妹でありたい。この任務で成果を出さなきゃ!
「うん」
そして、唯一。
この事件に取り組んでいる飛島。かれこれ2時間くらい、40件近く家を見てきて、確証がとれた。
こちらは4人。
「表原ちゃん、レゼンくん」
「なんです?」
おそらく、レゼンも敵が"どの位置"にいるのかは分かっているんだろう。だが、向こうが攻撃できないように。こっちも攻撃ができない。そのためのカードに、表原とレゼンの両名に力を温存させた。
「今日、妖人化してもらっても良いかな?」
自分と同じく気の毒だったので、あまり気が進まなかったのもある。
「相手の位置は特定した。あとは炙り出しと、奴が逃げられないように囲うだけ」
「ホ、ホントですか!?」
「佐鯨もルルちゃんも、君のマジカニートゥの力を知らない。実際のところ、私も君の能力の不安定さを懸念している」
本気になった事に対して優位になれるアイテムの具現化。
様々な状況で有効な能力であるが、表原もレゼンもその能力がどーいう物なのかは分からないという欠点がある。
「仮定の話しからでも能力は固定できるか?」
「仮定がしっかりとできてりゃ、それに似合う能力にはなるはずだ。慎重なのは当然だな」
「というか、飛島さん!マジで分かったんですか!?位置まで分かったんですか!?」
「大きな声を出さない。佐鯨に聞かれたら面倒だ。あいつ、戦いたがる。今回は捕える任務の方がやりやすそうであるし、キッス様もできれば生け捕りと言っていた」
"萬"の一員からの秘密なら、かなりのものを拾える。決戦までに仕入れたい情報はいくらでもある。相手がかなりの強情で口を割らなくても、こちらには北野川がいるため、そんな気概など無意味。
「もしかすると、敵がこちらの会話を聞く術があったりすれば、君の能力で捕える前に逃げられる可能性がある。何食わぬ顔で使って欲しい、合図は送る。妖人化を促す」
居所を答えなかったのは自分達と同じく移動しているからである。
『僕ちんには、臭いを掴めなかったぞ』
「臭いのあるところだから」
『?』
ラクロにも飛島の予測している位置は分からなかった。
「ひとまず、次のお宅でやるわ」
あなたは家の奥から。私は玄関から。
「………………」
「………………!なるほど」
コッソリと、表原とレゼンの両名に江藤がどのようにして、姿を隠しているのかを伝えた飛島。
確かにそれならば佐鯨の熱攻撃から逃げ切り、今もなお、この家の中にいてもおかしくはない。向こうが仕掛けて来ないで、こちらも仕掛けられないのも分かる。
トプンッ
次のお宅を訪れた時。
飛島の方から提案した。
「佐鯨、ルルちゃん、表原ちゃんは奥に行ってくれ」
「おう」
「はーい!」
佐鯨達は指示された形で家の奥へと行く。事情を知らないため、それはもう同じ行動パターンに思える。
飛島はゆっくりとした足取りで風呂場に向かった。
堂々とした釣り出し……。
「『隠れもないクリアを、ピュアシルバーは照らす』」
さらに妖人化し、ピュアシルバーとなって、迎え討つ体勢。それでもまだ江藤は姿を見せない。ラクロの臭いも検知できないが、飛島には伝わっていた。
「殴るがいいか……?」
江藤は移動の際、"その中"を流れていた。
「出てきた方が身の為だぞ」
『ピュアシルバー、位置が分かるのか?人の臭いはないぞ』
聞こえているかどうかは分からない。ただ、逃げていった事はない。
相手の動き、反応をまたずに。ピュアシルバーは大きくなったラクロに命令する。
「ラクロ!風呂場を叩き壊せ!!」
『おう!!』
「マジカニートゥ!!」
バギイイイィィッ
「どわぁっ!?」
「なになに!?風呂場から!」
大慌ての佐鯨とルル。一方で表原は合図と共に妖人化。
「合図だね!レゼン!」
「いくぞ!」
レゼンが大きなドライバーへと変化し、表原の頭に突き刺さって回転する。
「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!!』」
気を遣ってくれたことと、状況から言ってその隙が敵の狙い目にもなってしまう。
「おええぇっ、ええっ」
「そこ台所だから」
緊張も合って、吐いているマジカニートゥ……。
そんな展開とはまったく別に、ついにピュアシルバーは、江藤のルービュルの姿を捉えた。
下の階のお風呂場に着地した両名。
ビチャァッ
「ぐっ……」
腰から頭まで人の形を保ちつつも、液体というよりジェルのような成分になって蠢いているルービュル。体の赤色を見る限り、ラクロの一撃が確実にダメージとなっているのをピュアシルバーは確認した。
「やはり、自らを液体化してパイプの中を走っていたな。打撃も効くのは嬉しい誤算だ」
『な、なんで風呂場にいるって分かったんだよ!!』
能力の予想で、敵がパイプの中を移動しているのは十中八九、予想済み。
残りはタイミングと位置の確認だったが……。
「家の構造の大半は玄関の近くにお風呂場やトイレ、洗濯所といった、水場がある。私達が色んなお宅を訪ねていれば、そこに潜みやすい傾向になるのは仕方ないな」
「…………」
「あとは私達が各々バラけるだろう、ギリギリのタイミングで仕掛けただけ。大分前からやろうと思っていたが、スカされる可能性があるため、焦らさせてもらった」
ルービュルの攻撃を喰らう前から、隠れて戦う事を予測できたからこそ。タイミングも完璧だった。
「さて、お喋りは本部でやろうか。行け、ラクロ!」
『奴の臭いは探知した!絶対に俺が逃がさねぇ!』
ピュアシルバーVSルービュル。
姿を捉えられ、半身のないルービュルにとっては圧倒的な不利であった。
ジェル状のため、打撃を吸収できても完全な無効ではない。しかし、距離をとらずに迎え撃っていた。
『俺に勝てるかーー!!』
ラクロの凶暴な野生的な攻撃。1,2度、回避はできても、スピードの差を活かされ、ルービュルの回避が間に合わない。巨大な爪で抉られる。
ビュゥゥッ
『!奇妙な感覚だが、手応えがある!』
「このままラクロのスピードで押させてもらう!」
『わずかに体が溶けても、お前を先に殺せるぜ!』
「くぅっ」
それはもう強引。パワーとスピードで捻じ伏せていく、トリッキーな相手を嘲笑うような力技。小細工を無にしていく。ラクロの攻撃の回転はさらに上がって、ルービュルのジェル状の体を散り散りに引き裂いてみせた。
ビシャアァァ
「体が赤くなったな。その出血量では助からないかもな」
『動かなくもなったぜ!』
ものの4分程度の戦闘でルービュルこと、江藤の体は動かなくなった。隠れて戦う能力だからこそ、こうして見つかれば大した敵ではない。多少、足場が荒れてしまったが。決着といったところか。
ピュアシルバーを解除した、飛島。そして、上からブレイブマイハート、ハートンサイクルの2人も、ラクロがぶち空けた穴から降りてきた。
「おーっ!なんだ!?飛島!片付いたのか!?一瞬過ぎるだろ!」
「ああ、敵が水道管とかのパイプの中を走っていたのは、結構前から気付いていたからな」
「いるなら、いるで言えよ!」
「敵に気付かれたら、逃がす場合がある。位置が位置だけにな。マンション内の水道管なら修復できるが、熱が伝わって地域全体に及んだら、それこそ大災害だ」
佐鯨に言えば、普通にやっただろう。後先、考えないで……。
「て、敵ですかー!?」
「あれ?表原は?」
「知りませんよ!」
ルルも到着。残りはマジカニートゥこと、表原とレゼンを待つだけの3人。万が一、逃がしてしまった時のため、保険をかけておいたが。どうやら無事に終わった。
『……すんすん……』
「……ラクロ?」
反応したのはラクロだけであった。そして、その反応に疑問を持てたのは飛島だけであった。上階の風呂場を突き破っており、ラクロの攻撃も相まって、散乱とした戦場になっており、ここがどーいう部屋なのかを見失ってしまう。
「じゃあ、残りはジャネモンの退治だけですか!」
「そーだな!」
ルービュルの能力を把握しておらず、倒したと思っていた佐鯨とルルの反応はないに等しい。飛島が瞬時に嫌な予感をしたのは、ルルの後ろに転がっていたシャワー……。
「2人共、危ない!!」
ブシャアアァァ
その声と同時に、2人を突き飛ばした飛島。そして、突如シャワーから噴射されたのは、ジェル状の液体であった。突き飛ばされた佐鯨とルルはそれを喰わなかったが、飛島はモロに浴びてしまった。
『飛島!!』
「うおおぉっ!?」
「ひ、飛島さん!?」
ジュルルゥ
「!」
野郎ぉ……。始めから体を2つに割っていたのか!
どーりで弱いと思った。くそっ、体が溶かされていく。
トプンッ
急速に飛島の体は溶けて、一部はルービュルの体と同化した!そして、崩れて地面に転がる飛島。佐鯨はすぐに妖人化をするも、ルービュルもすぐに声を張り上げ、距離を置き始める。
「動くな!佐鯨!!今攻撃すれば、飛島も無事じゃすまない!」
まだルービュルの能力を知らない佐鯨が情報戦に敗れるのも当然。
「迷うな!私ごと焼け!この機を逃すな!!」
戦いだ。命を捨てる覚悟なんて、平然と持っている。だが、それよりも仲間を捨てるなんて覚悟。この佐鯨にはない。だったら、仲間を取り戻すことを考えるもの。
「っ!」
堪えた。ルービュルの言葉に屈したわけではなく、自分の正義に従った。仲間を殺して勝つなんて事は、自分の流儀じゃない。この戦場にて甘い考えかもしれないが、……
トプンッ
そして、飛島の体は完全にジェル化し、さらにラクロもジェル化して連れ去ってしまう。
それほど速い攻撃ではないが、ルービュルが対象者に纏わりつくことで、行動不能のジェル化に追い込み、さらにはルービュルと一体化するというもの。敵を攻撃すれば、仲間も攻撃を受けるというもの。なんて嫌らしい戦い方だ。
完全に取り逃がし、苛立ちをぶつけるように佐鯨はルービュルが現れたシャワーを蹴り壊す。
そして、ルルの方はあまりの出来事に呆然とし、ショックを隠しきれない。
「くそぉっ!!」
「っ……ひ、飛島さん……」
今、私を庇って……。
「おい!表原!早く来い!!」
人質とりやがるわ、逃げるわ、盗むわ……。俺はそーいう奴が大嫌いなんだよ!正々堂々とやれ!
「お前の力で敵を見つけろ!!倒すのは俺がやってやる!!」
結果はどうあれ、佐鯨達にも敵の能力とその動き方も伝わった。
そして、遅れながらマジカニートゥが到着する。少し気分が良くなってからのご登場。
「ど、どーしたんですか?」
「どーしたもねぇーよ!飛島がやられたんだ!!すぐに追いかける!敵はジェルみたいな奴で、パイプの中を移動している!飛島もそれにやられて連れ攫われた!」
怒り気味。目の前で、しかも救われた形というのが、熱くなる原因でもある。事情の方は多くを語らずとも、表原とレゼンも察する事ができた。飛島の予想通りの能力だ。敵はマンション内のパイプの中を移動しているようだ。
「お前の能力なら敵を見つけられるんだろ!?」
「で、できなくはないですけど……」
まだ能力を発動していない。音で分かった事だが、飛島がしっかりと敵を捉えたのは伝わっていた事が幸いだった。だが、マジカニートゥは佐鯨の怒り顔に後ろに退いてはいたが、意識は前に向いていた。レゼンも同じで、佐鯨をまず諌めた。
「また落ち着けよ。自分が現場の目の前にいて、何も動けなかったなら、すぐに動くべきじゃない」
「!!」
説教が上手いと。マジカニートゥは関心してしまう。
「飛島さんを救う手出ては、ここの住民達を救う手立てにもなる。敵の仕組みは大体分かった」
レゼンの言葉に佐鯨も冷静さを取り戻し、ルルもショックから立ち直り始めた。
とはいえ、厳しい状況だ。
むしろ、相手は最初から飛島を狙っていた。このメンバーで最も変えの利かない人間を選んでいたのが、ギリギリまで待っていた証拠。保険を双方兼ねていて、向こうが得をしてしまった保険。情報提供者もいる。かなり不利な形勢だ。
「ふーっ、落ち着いた!」
言葉だけだとは思う。
それでもレゼンは、飛島の代わりに指揮をとる。即座に敵が逃げた事を察知すれば、やはりタイマンには向いていない。奇襲のみ。連れ去ったということは
「飛島さんとラクロも、住民達も、液体化されてどこかにいるだろうな」
「ホントか?」
「連れ去るってのはそーいうもんだ」
相手の位置と、相手の逃げ道を塞ぎ、飛島達を救出する。大まかに問題の3つを挙げたが、これらを全て本気で取り戻すとなると、何が出るのやら……。敵を倒すという事が簡単だと思う。
「………………」
レゼンは落ち着いていたというより、冷めていたという感情に近い。
確かに強いのが揃っていても、適正じゃないものも見えてきた。
「マジカニートゥ、どーする?俺が決めていいけどよ」
「えっ!?あたし!?」
「……俺や佐鯨達の顔色とかを気にしないでいい」
レゼンがこの場で言う事。それは変わりない事であるが、彼の契約者である表原麻縫の意見も尊重するべきものである。この怒りに満ちたり、失意のあるような状況で。表原がどのような決断を下すか。
レゼン自身も楽しみにしていたところがある。自分の考えと一致するかどうか、それは100%正しい事ではないが。大切なのは
「"お前が、お前を決めろ。何をするべきかどうかをな"」
判断を下す材料は沢山転がっている。それは何気ないことでもだ。
マジカニートゥこと表原は頭を悩ます。そんな顔に
「飛島を早いとこ助けなくちゃマズイぜ!」
「なんでも良いですから!敵を追いかけるべきですよ!」
2人の声と、
「……………」
無言でそっぽを向いているレゼンの顔が映る。
ここにはいないだろう、飛島さんはどう思うだろうか。おっと、余計な事だったって表原はすぐに祓った。
この状況でどうするべきか。
もうかれこれ、この現場には3時間以上はいる。表原自身はまだ敵を見ていないが、飛島の予想通りという敵。隠れて戦うことを得意としており、飛島を始めとする人質もいる可能性が高い。
雨も降って来ている。
「……帰ります」
「は?」
「え」
別に考えたというものじゃないが、飽き飽きしてきたことと、疲れた事もある。何時間もこうして見つからなかったモノを捜す。ようやっと見つけてこれ。思い出の詰まったアルバムが見つかったはいいが、汚れちゃっててよー分からんみたいな感じに。
「お腹も空いちゃったし、帰りましょう!このことを本部に連絡しないとマズイですし」
…………その言い方はなんだと思う。
無論、当たり前であるが。佐鯨がぶちギレで、女の子である表原の胸倉を掴んだのは、当然。拳を振り上げるまでいった。
「何言ってんだよ!!飛島もやられちまってんだよ!!逃げてどーするんだよ!!みんなの命が懸かっているんだぞ!」
それにビクついて目を瞑った。まさかそこまで来るとは思わずの、驚きの方が多い。
「そーですよ!本部に……お姉ちゃんに報せなくても!……私達でなんとかできるはずですよ!!あなたには調査できる能力もあるんでしょ!戦いならあたし達ができます!」
ルルも佐鯨とほぼ同じ理由で帰還を拒否。まともに戦うことになったら、佐鯨はともかく、ルルにも負けそうな表原であったが。
やる気のない言い訳を口にした先ほどとは違い、さすがの表原も感情を露にした。
レゼンに対しては、妖精という違いがあったが。人に対してこんなに感情を出したのは自分自身、初めてのような気がする。両目をかっと開いて、佐鯨の手を振り解いて、
「あたしが今、本気に成れる事が撤退なんですよ!!」
「!?」
今の全力の気持ちを答えていた。
詳しい計算も、佐鯨もルルの2人を納得させる言葉もない。そんなカリスマ性もない。自分の分かっているやる気を伝えたことだ。
「分からないんですか!?私達が連絡できず、逃げ帰れないまま敗れたら!!またここに来た人達が、同じように敗れる可能性があるんですよ!!この敵は!」
「なんだと……!」
「負けるまでに逃げるべきです!!ここはあなたのプライドとか、ルルちゃんの見返したい気持ちとか、それを捨ててでも、生きて報告することなんです!命を賭けているなんて、特別な事じゃないんですよ!!それはバカが特別だと思い込んでるだけです!!」
感情が爆発すると、心の中にある奥の何かがボヤけている。そして、それが世界中の誰からも"違う"と突きつけられても、おかしくはないこと。
「負けるなんて事を考えてる時点で負けるんだよ!!」
まず、意見、思想の違い。当然にあること。
体育会系、熱血野郎の佐鯨貫太郎の気持ちも当然に理解できるものだ。まだ、試合中盤でビハインド状態。アクシデントに巻き込まれて、拮抗した実力と見ているだろうか。
「撤退するやる気なんて!どーいう発想だ!!戦いを舐めてんのか!?」
「人の考えも自分の考えも、整理できない人が言いそうな事ですね!!」
もし誰もいないところで、表原の心の檻が外れたら……。帰ってくるのは最も虚しい事だろう。
佐鯨の拘った言い分を嫌っているわけじゃないが、
「じゃあ、2人で戦ってください!あたしは帰ります!!飛島さんがやられた事を伝えます!この報告を本部に伝えないと、飛島さんがタダやられてしまっただけです!」
「なんだとっ……テメェな……。飛島の失態まで報告するのか?飛島は報告されたくねぇぞ!嫌なことしやがるな!勝てればそんな事伝える必要はねぇ!俺が取り返すからな!」
「それはあなたが思ってる事ですし、これからあたしが思う事もそうかもしれませんけど。飛島さんはすぐに撤退しろって言いますよ!」
佐鯨は表原の手を振り払って、どこに行くかも分からないのに
「あー、いいぜ!!帰れよ!やる気のねぇ奴は嫌いだ!!仲間をやられて見捨てて帰るなんて、もっと嫌いだからな!!」
敵を捜しに向かった。そして、ルルも自分の感情と表原の今の気持ちを聞いて。
「正直、失望ですし。見損なった感じです」
「……そうですか。あたしはライバルだなんて、ルルちゃんの事を一度も思ったことないですよ」
表原とルルの睨み合い。許せない気持ちで見ているルルと、それを意識してないでその行動に疑問を持っている表原。
「あなたが特例で"十妖"の人達と一緒に行動できるのが、あたしには分からない!佐鯨さんの言うとおりですよ!逃げる考えで戦場に来ないでください!」
「生きる事が大事です!戦う事じゃなく、あたしは護りたいモノを大事にする!」
「このマンションから出たら、あなたは絶対に戦えないですよ!向いてないです!」
両者の意見は合わず、分かれる。
表原とレゼンはこのマンションから抜け出すのであった。そして、佐鯨とルルの2人はここにいる江藤を捜し、絶対に倒す事を決めていた。
◇ ◇
雨中に、傘を持ったまま飛び降りる者があり。
スタンッ
「妖人化を解除しなくて良かった~」
平然とした表情のまま、マジカニートゥはマンションから脱出した。窓の外からダイブというハラハラものの脱出劇。初めてやってみたがスリルだけを感じられたのは、妖人化に慣れてきた証拠か。
あんなに怒鳴った後だ。少し平静さが乱れるかと思ったが、落ち着いているマジカニートゥこと表原麻縫。
マンションから離れて妖人化を解除する。
本部に連絡を入れ、事情を説明する。その前にだ
「よく判断したな。俺もお前と同じ意見だ」
「………仲間のつもり?あたしは薄情だよ」
「いや、佐鯨達が間違っている。あいつ等じゃ相性が悪すぎる。なにより敵の位置を掴むことと、囚われた仲間を助ける事の両方をやるのは応援を頼む他ない。サボり癖もたまには役に立つな」
「そーいう考えないよ」
レゼンのこーいうところ。時折、意見を尊重してくれるところが嬉しい。少し認めない口調がムカつくけど
「ありがとう」
「報告したら、判断も聞こうな」
「うん。あたしだって、飛島さんをそのままにするつもりはない。助けたいから、助けを呼ぶ」
そう信頼を確かめ合っている。
傘を開いて、冷たい雨で風邪をひかないようにする。歩きながら、因心界の本部に連絡を入れる。まさにそんな時である。
「君達の判断は間違いじゃない」
「!?」
「!」
横から声をかけられる。それはとっても離れたところで、道端のマンホールの上に立つ見知らぬ青年が、この雨の中で傘を差さずに表原達に顔を向け、声をかけたのだった。
「だけど、正解でもない。人生そんなものだ。残る因心界が勝つかもしれない」
その声に表原もレゼンも驚きながら、男に向かって身構える。
「だ、誰ですか!?」
「!!表原!こいつ、妖人だ!妖精はなにか分からないが、やべぇ力を感じる!」
「そ、そんなに!?」
安全な脱出をしたつもりが敵に待ち構えられたとでもいうのか。この声かけに危機を感じたのは当然であるが、雨に濡れる男は気にしていない。また、表原達のことを敵意にも感じてはいない。
そっとした優しさだろうか。
「……仲間を呼ぶのなら、早い方が良い。それも大袈裟に」
「な、何者ですか!?」
「僕はこのマンホールを見張っている者だ。たまたま、目的とした場所が同じだっただけ。衝突しない方が良いだろうね」
「どーかな?」
なんだこいつ?
雨の中、傘を差さずに立ち尽くすところも、普通じゃない。
それよりコイツの素質。すでに表原以上だ。
「名乗れ!お前、因心界の者じゃないな!キャスティーノ団か!?SAF協会か!?」
「警戒が高く、判断の長けた妖精に。まだ不完全とはいえ、自分の気持ちと考えを整理できる子か」
聞いちゃいねぇ。教えないとは違う。
「良いコンビだ。僕も養ってくれる最高のパートナーがいるけど……」
「というか、あたし達の会話を聞いてた?」
「お前、何者だ?なんでそんなところに突っ立ている?見張りってなんだ?」
男はほげーっとしたまま。表原達の方にも顔を向けなくなった。なんなんだ、気味が悪いと。
「答えないならいいや、関わるのは止めよ」
「ああ」
表原とレゼンはすぐにその場を離れる。
「因心界は豪勢だね~。こちらも負けてられないんじゃない?」
この男が後に、ある存在と関わっていた事が判明する。
次回予告:
小宮山:イムスティニア、私の退場早くない?
江藤:んー、当初の予定からそうなっていたらしいよ。ドンマイ
小宮山:もうちょっと出番があっても良いと思うんだけど。過去編待ちかな
江藤:岱勿はまぁいいとして、セッティと茂原の出番多すぎ。もっと少なくていいでしょ
茂原:いやいやいや!なんで僕を弾くの?セッティに至っては、コココンがメインだったし!
岱勿:俺達、”萬”はどんな汚い依頼もやるって組織だろ
小宮山:ま、強さよりも分野に特化した人達ばかりだしね!じゃ、次回予告!
江藤:『まさかの内通者!?レゼン、踏み潰される!まさかまさかのあいつがいる!?援軍ビックリ!』
岱勿:……お、次回。江藤。とんでもねぇ連中が来るぞ。死ぬな




