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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第16話『コトコト、煮込んで出来上がり!カレーが大好き、妖精シチュー!イムスティニアの罠!』
40/267

Bパート

ブロロロロロ


「見えてきました」

「あそこが目的のマンションですか……」


鶴島ワイドクイーンヒルズ。15階建てのオートロック、大型居住区マンション。

近所では珍しい大型マンションであり、4年ほど前にこの街に建設された。

交通の便はあまり良くないが、大型スーパーや中規模の病院、美容院などの建設、開業に伴い、近年では注目されていた場所であった。



「最寄り駅まで徒歩11分。だけど、最寄り駅に快速は止まらないため、通勤やお出かけにはやや不便」



マンションの建設は他に4箇所ほど行なわれたが、いずれも中規模のマンション。この地域では唯一と呼べる、大型マンションである。

人気が出そうで伸び悩む背景に……。


「不況だってさ」

「切実な問題ですね」


それなりの値段設定。立地の微妙さ。まだ周囲が開発が中途半端であること。車があった方がいい。

ビミョーにビミョーを重ねて出来ちまったマンションだった。


「でも、全世帯入っているんだろ?やりづれぇな」

「いや、佐鯨さん。すでに避難指示は出されてるんです!というか、すでにジャネモン達の巣窟で死者も出ていますし、行方不明者だっているんですから!」

「そうだな。向こうの方から戦いに来いと、言ってきているものだ」



ベンチや花壇のある中庭。U字型を描いたマンションの区画。



「因心界の避難勧告は出されている。それを無視して居座っている住民の被害は、こちらの責はない。存分に戦える。だが、あんまりマンションは壊すな。物損は別だよ、佐鯨」



キキーーッ


「質問なんですが、マンション内にジャネモンの群れは確認できているんですよね?飛び出したりしないんですか?」

「召喚したジャネモンは、呼び出した人物が命令できるタイプもあるみたいですよ」

「まず掃討するべきはそのジャネモン達だな」


目的地のマンションから300mほど離れた駐車場に車を止め、そこから徒歩で向かう4人。

今回の作戦、指揮。それを任されているのは飛島。


「私がマンションを保護するまで、防衛重視の戦い」


飛島華。ピュアシルバーの能力は、一度保護した物を修復する事ができる能力。

この能力を使えば、激しい戦闘となって周囲が破壊されまくっても、修復することができる。

とはいえ、マンションという建物全体だ。それなりの時間がかかるし、ここはもう敵のアジトといっても差し支えない。邪魔されるのは必死。


飛島はポーチから動物用のシャンプーを取り出し、ラクロにつけてあげる。


「『隠れもないクリアを、ピュアシルバーは照らす』」


ピュアシルバーとなって、……大きく成長し、シャンプーの首輪をつけられたラクロとなる。

そのラクロに表原とルルも一緒に乗る。佐鯨は乗らずに待機、ピュアシルバー曰く。


「こちらの準備が終わったら、焼き払え」

「おーぅ!任せろ!」


佐鯨の、ブレイブマイハートは熱を操る能力。火災が起きてもおかしくないので、防衛や護衛には不向き。

保護が完了すれば敵を掃討できるほどの力があるため、それまで力を残せ。という理由。

性格の大雑把さも加えて、なんでもかんでもやってしまうだろう。ピュアシルバーの保護でも修復できぬ箇所もある事だ。



「『れとだいだいきらめけ、ハートンサイクル!』」


そして、ルルも妖人化。ハートンサイクルの能力は、様々なミサイルの具現化。見た目はオレンジベースの魔法少女なのに、能力そのものが魔法少女っぽくないって、一緒に搭乗している表原は心の中で思っている。


「レゼンの妖人化より良いなぁ~。可愛らしい」

「いちいちケチ付けるんじゃねぇよ。毎回、お前言うよな?」


連戦に不向きな表原のマジカニートゥは後。佐鯨とルルがいる事を考えれば、敵の位置や情報を入手する能力になってもらう方が得策である。


『これほどのマンションの保護には20分ってところか?それといろんな箇所ポイントでやんなきゃ、保護しきれない』

「分かった。15分でやるぞ、ラクロ」

『おう』

「話しを聞いていないようなやり取りだけど、カッコイイ~」

「互いに信頼しきったやり取りですね!」


ピュアシルバーとラクロはリードで繋がっている事も条件となっている。

ラクロの保護を考えると近距離の戦闘は不向きか。ハートンサイクルは中距離と遠距離を間合いとしている。


「ハートンサイクル」

「はい!」

「ここにいるジャネモン達はこちらがマンションに侵入した時点で襲い掛かる。その能力で先に撃墜させるんだぞ。私達の状況では、接近戦は不利だ」

「了解!!」

「だからといって、敵の注意を惹きつけず。だ」

「えっと……はい、大丈夫です!」


なかなか複雑な事を言われたため、頭から黒煙が上がってそうな困り顔を披露するハートンサイクル。要領の良い子ではない。なんか自分と似ていると、表原は彼女に親近感が出てくる。

飛島を始め、粉雪や野花、北野川も性格はあれだがちゃんとしている女性達。唯一、白岩には似た波長を感じていたが、あれはベクトルがなんか違う。天然キャラの幅が大きい。対して、ルルは真面目ちゃんで懸命なところもあって……なのにこー、残念な結果ばかりというか。

応援したいという、外野目線ではなく、仲間目線で見てしまう。


「やたら無闇に撃つと攻撃されちゃうって事だよね」

「わ、分かってる!表原は!あたしの活躍を見てなさーい!飛島さんも安心してください!」


出会った時から妙な対抗心を入れられている。表原もレゼンも、そんな気はないのであるが……。そこはやはり、ルル自身の問題だ。




ボォッボォッ




「"牡牛座ラームフェザー"」




ハートンサイクルのミサイルのバリエーションは多いが、本人をして、様々な標的を攻撃することに対しては自信のある能力であった。

今回の場合、標的が複数いる中で的確にぶつけるには、それ以上の数のミサイルを作り出し、それぞれ自動で決めた攻撃で襲い掛かるミサイル群。



「じゃね?」

「じゃね~~」


マンション内に入って来た表原達を確認したジャネモン達の何頭かは一気に襲いかかっていく。

ハートンサイクルの能力への警戒もあり、敵が迫る速さもあった。しかし、敵も複数ながらも重圧を感じずに、表原は淡々と訊いてみた。


「私が今まで見たジャネモンより小さいね」

「無理矢理、生物化させているのでしょう。ジャネモンは邪念を糧に産まれるそうですが、ほんのわずかな心の揺らぎのみで生み出されると、あのような小動物未満のジャネモンなんでしょうね」

「小バエってところだな」

「レゼンくん。私の前でそーいう汚い生物の名を言わないで頂きたい」


因心界随一の綺麗好きが少々お怒りになってしまったが、


「いけーー!」


ハートンサイクルの得意とする、複数がターゲットの乱戦は表原達に近づく前に撃ち落す立ち上がり。



ドゴオオォォォッ



「うわっ!熱っ!」

「正確に敵を撃墜させてるな!」


この相手は弱いため、ハートンサイクルの小型ミサイルの一発でほぼ瀕死となっている。動く敵を正確に捉えているところはレゼンからも一定の評価を感じ取れた。



「えへへへっ」


自分が敵の注意を惹きつけ、倒している間に。ピュアシルバーがマンションの保護を始める。


『保護している間はわりと無防備だからな』

「喋るな、真剣にやれ。ラクロ。噛むぞ」


確かに大勢いる雑魚を的確に倒すという攻撃には最適。コントロールも申し分なく、大勢を撃ち落しているが……判断が自動で破壊力はほぼほぼ一定。



「じゃね~~~~!!」

「うひゃぁ!?」


柴犬のようなジャネモンはハートンサイクルのミサイルを数発喰らっても止まらず、そのままハートンサイクルの方へ突っ込んできた。


「ちょっ!なんとかできないんですか!?」

「あ、あたしの能力は接近じゃあんまり強くないんです!」


雑魚掃討の技を発動している時、一撃に込める超火力のあるミサイルは具現化できない。また、自らの言葉通り、接近戦は得意じゃない。自分の爆撃に巻き込まれる事もあるからだ。

表原も妖人化していない。


ヒュランッ


「能力ではなく、見極めがなっていない」


ピュアシルバーが変わってサポートに入る。

圧倒するほどの強さをまだ持っていない以上は、補うは自分が持つべき強さであると思う。ルルの心意気は認めているが、自分への評価と自分を見つめ直す事が足りていない。それではどんなに優れた能力であろうと、ムダになってしまう。



グイイィィッ



この状況。多少、強い敵に備えて、もう少し火力をあげるため、数を少し減らしたミサイル群を具現化すればいい。

見極めと判断が足りてない以上、まだまだ幹部の道は遠い。あなたは強さや能力だけで幹部になりたいというのなら、佐鯨と匹敵する強さか、蒼山のような特異性は必然。それはあなたが嫌っている、才能とか家系の類いじゃないか?



ビシイィィッ



ピュアシルバーは、ラクロと繋がれているリードを上手く使い、近づいてきた柴犬タイプのジャネモンの首を拘束する。締め上げる技術とその対応の早さ。さらにラクロは


『いでででっ!』

「保護する作業を続けていなさい。ラクロ」

『体引っ張るな!』


多少、傷を負うも、作戦続行中。

リードの首絞めでジャネモンを倒してみせる、ピュアシルバー。


「た、倒し方がエグイですけど!すごくカッコイイです!ピュアシルバー!」

「あ、ありがとうございます!!」


ハートンサイクルの接近戦の不得手は、格闘能力をそこまで持ち合わせていない事もあるだろう。ピュアシルバーもそこまで接近戦は強くないが、このようにラクロを保護に回している時の対処法は本番前に幾度も練習を重ねたからの成果。

自分に足りないものを補う。知らぬ人は、そーいうものをまるで天性のように感じてしまっている。



「続けるのよ。ラクロ、急いで!」

『首を引っ張るな~~!』



戦闘は奮闘。

ハートンサイクルのミサイル群の音が、マンション内に響き続けること18分。

多少の被害はあれど



バヂイィィッ



『保護は完了!』

「佐鯨!準備は整った!!全員を焼き払え!」


3人を乗せたラクロが飛び上がり、これが合図となった。

安全な距離から奮闘の様子を見ていた佐鯨も、相方のバーニと共に力を溜め込んでおり、


「よーし行くぞ、バーニ!!」

『うん!』



電子レンジの妖精、バーニの体が大きくなっていき、その中に佐鯨が入っていく。


「録路くんのナックルカシーと似てる……。ダサくない?」

「とはいえ、気に入らない妖人化だ。蒼山ほどではないがな」

「本人に聞こえてないからって、そーいう発言はどーかと!!」


やや外れを引いている表原と飛島からしたら、ルルの妖人化は当たりの部類。ちょっと羨ましい目でルルを見ている。


「ちょっ、2人共そんな目で見ないでください……」

「ルルちゃんは良い妖人化だよねぇ~。その可愛い変身が羨ましい……あたしなんか妖人化する度に……」

「本当の変身ヒーローになってみたい。なぜ私は、私自身に変化があまりないんだ……。能力だってラクロが持っているし……」


この2人、メンドくせぇ。って、互いの相方は思っている。

相方が似たもん同士だなって長く話せそうだ。


「今度、飯でも食いに行かないか?ラクロ」

『おう!俺達だって好きでこーいう妖人化じゃねぇのにな!』


そんな約束よりも、改善の約束をして欲しい。

2人にとっては学校の環境や職場環境の改善と同じだ。


「レゼンさぁ~。もうちょっと、努力してくれない?」

「ラクロ。ルルの妖精、ターメに指導してもらったらどうだ?蒼山のフォトでも構わない。北野川のカミィでもいい」



そんな愚痴を続けておられるところ、よーやっと。佐鯨の妖人化が完了する。

レンジの中で踊る男が、可憐な美少女に大変身し、熱い決めポーズをとって出てくる。


「"熱炎祭車ねつえんまつりぐるま"!!」

『違う違う!!佐鯨!!それ必殺技!!今回、使う必殺技!』

「…………あ、間違えたわ!」

『もーっ!しっかりしてよ!!勇気よ熱く燃え上がれ、ブレイブマイハート!はい、解除!!』

「しゃーーっ!」



表原が初めて見る、佐鯨の妖人化。ブレイブマイハート。炎がキャッチフレーズといった感じの妖人であり、粉雪のクールスノーのような属性にあった妖人化。なにより……


「ちょっとーー!なんであんな熱血体育会系の少年だった佐鯨くんが、あたしが見惚れちゃうような可愛い系の熱血少女に変身してるのよーーー!!レゼンーー!!」

「なんで俺を掴みながら言うんだよ?」

「性転換するほどの変身もあるのに、なんであんたはドライバーであたしを回転させるだけの脳しかないの!?バカなの!?」

「個人差ってもんがあるんだよ!お前等の拘りに俺とラクロはついていけねぇよ」

「どー見ても佐鯨くんの、ブレイブマイハートは、男の人が所持していい妖人化じゃないですよ!!女の子にこそ相応しい姿です!」

「お前さっき、ダサいとか言ってなかったか?」

「変身過程は超ダサいんですけど!ポーズにあったコスチュームに変身姿はパーフェクト過ぎますよ!」


こいつもう、妖人化検定でも立ち上げて、批評家でもやってりゃいいんじゃねぇか?

そんなことを思っていながらレゼンは、飛島の方を見る。

バカに騒がしくないから冷静なんだろうか。



ブチブチッ


「ラクロ、やはり私は納得できないな……」

『ぎゃああぁっ!俺の毛を抜くな!毛、抜くなーー!!』

「奴の変身姿が"私の望むもの"なんだがな、……叶えてくれないか?」

『そこまでできるかーー!!』


こえぇっ……。

ラクロの毛を毟り始める飛島。そこには眩しさ0の、陰湿さ100の、暗黒面に落ちた飛島の姿があった。一体なんなのか?なんなんだ?その拘りは?

ルルはどうなんだろうか?


「可愛くて強いのが羨ましいです……なのに、決め台詞を間違うのはどーかと?しっかりして欲しいです」

『そうだな。せっかく、バーニさんがちゃんとしているのに。カッコつけて欲しいもんだよな』


あれがちゃんとしているのか?

ターメは分かっているのか?


分からん。俺とラクロにはまったく分からん話なんだが。

だが、分かることがある。


「今度こそ!!"熱炎祭車ねつえんまつりぐるま"」

『二回目だとダサいけどね』


ブレイブマイハートの攻撃でマンション内にいるジャネモン達が一掃されること。そんで、その余波を喰らうことも。

ブレイブマイハートから発せられた熱は、地面に伝わり、目標となっているマンション内を隅々まで駆け巡り、熱をさらに猛らせる。物体は熱のみを蓄え、生物はその熱に焼かれていく。



ゴオオォォォッ



「じゃ、じゃ、じゃね~~~」

「じゃね~~~」



マンションの隅々が炎で焼かれる鉄板とイメージすれば、分かりやすい。

隠れていたり、逃げようとも。そのマンション全体に熱が伝われば、誰だろうと逃れられない!




『あちちちち』

「すっご……熱。やばっ」

「下に落ちてたら焼け死んでいただろうな。妖人化してても無事じゃすまない」



まだ本命と出会っていないが、一気に敵のアジトを崩した表原達。

順調な進撃である。



◇      ◇




トントントン


「ふっふふ~、ふふふ」


表原達が到着する5分前。彼女達が攻撃を開始する前に、敵はこのマンション内の一室を占拠し、あろうことか鼻歌を唄いながら、台所で包丁を握ってじゃがいもの皮を上手に剥いていく。

見た目と年齢は一致する。高校生ぐらいの子が夕飯を作ろうとする、1つ家族風景と思われる展開であるが、そこには彼女と妖精の2名しかいない。


今、彼女が作ろうとしているのは……


「心躍るね~じゃ~がいもく~ん、トントン刻むよ~た~まねぎく~ん、忘れて~ないよにんじんさ~ん」


ジュワ~~~


「お肉さんも~躍って~、野菜さん達と~熱く馴染む~、お水ちゃんは400、牛乳ちゃんも400」


ポコポコポコ


「あくをと~って、ようやく!ご主役登場~」


スッ


「カレー粉ちゃ~ん、お鍋に溶けるの~」

『そこをシチューにしろよ、江藤!!』



ポチャンッ



「グルグルっと回って、か~んせ~い。お手軽カレー!」

『いやだから!そこはシチューにしろって!!なんでカレー粉を入れるんだよ!シチューの元は買って来ただろ!!』


美味しそうな香りと共に、パーフェクトな味付けで出来上がったカレーを頂く。

この女性こそ、今回。因心界達が狙っている"萬"の妖人。

イムスティニア・江藤。


「逆に聞くけど、日本人とインド人のハーフである私が、どーしてシチューを作るの?私はこの見た目通り、カレー大好きです!」

『俺様はカレーが大嫌いなんだよ!!色合いが美しくなく、あの辛さは舌の感覚を麻痺させ、本当の味を伝えていない!』

「それ単にあなたの味覚が、辛いのを嫌っているんでしょう?はいはい、シチューだって作ってあげるから。じっとしてなさい」



そんな江藤の妖精。机の上に乗る行儀の悪さは、生物型の妖精だとしたら許せないものである。

さすがにしっかりと行儀よく、食べ物を頂くべきである。


『シチューの白さ!牛乳を入れて作る料理は、シチューのみこそ許される!牛乳入れて美味しくなるカレーという料理には、意見書を提出し、投入できないよう世界に訴えてやる!』

「子供達はカレーの方が良いし、作る奥様達もカレーの方が良いっていうよ。料理作れば分かる」

『なにを!?』


まるで常時飲んでいる酒が切れてイライラしている存在。

そんな妖精に江藤は、とてもご丁寧に自分なりに語るカレー論を伝える。


「だって、カレーは白米とかパンの1つあればそれで料理だから。シチューはオカズだから、物足りなさあるし。もう一品用意するの大変だし、カレーは季節や国、場所を問わず美味しいじゃない。みんなでキャンプするならカレーは定番。あとカレーはなんと言っても、バリエーション豊富で色んな調味料と組み合わせて合う味を出すことができる。さらに調理方法も比較的お手軽で料理を始めるには最適なメニュー。じゃがいも、たまねぎ、にんじんを切って、お肉と一緒に油を引いたお鍋に投入。弱火でじっくりと炒めつつ、この時たまねぎがしんなりとした感触、程よいきつね色になったところで火を止めて、水を400ml。牛乳を400mlで入れて、あくをとりながら煮込んで10分。カレー粉を入れてさらに5分混ぜれば、簡単で美味しいカレーができるのよ?時間かかっても、かなり簡単!それに作り置きしておけば、冷凍食品としてもいける。保存食としても有能過ぎる。子供に料理を教えるために、火を使うこと、包丁を使うこと、じっくりと調理すること。その大切さを一度に教え、学べる料理はカレーじゃない。そんなカレーにケチをつけるなんて、本当にどうかしているわ」


………はい。


『お前のカレー論が長すぎる事の方が、どーかしてるわ!!なっげーーよ!!』

「カレーを語らせたら、これでも短いくらいよ。シチューの歴史が浅ましいとは思わない?」

『というか、江藤!シチューとカレーの作り方は似てるからな!シチューの方が具沢山で美味しいからな!カレーだけが特別じゃないんだぜ!!』

「ふっ……所詮、シチューは具沢山にしなければいけない料理。クリームだが、ビーフだが見た目と味を変えようと、国境を越えて、インドカレー、洋風カレー、和風カレーなどなど、様々な型があるカレーの奥深さには及ばないの!」

『なにをーーー!!』



そんな騒がしいやり取り。どこか表原とレゼンのコンビを思わせる、仲の悪さ。しかし、主従関係は逆。力関係は江藤の方が強い。


「はい、シチュー」

『お~~、待ってた待ってた!さすが、俺様が見込んだシチューを一番上手く作れる子だぜ~』

「カレーの方がもっと美味しく作れるわよ?」

『早く!早くくれー!俺様はもうお腹ペコペコだ!分かるだろ、俺様の胃袋!俺様の体!』

「分かった分かった」


ペットのように飼われている、江藤の妖精の正体は……。


パカッ


「熱いから気をつけて」


タッパーのフタが空いて、その中にあったのは少し汚れた白色で残るシチュー。その上から江藤は自分が作ったシチューを流し込む。


ゴクゴクゴク


流し込まれたシチューがナニカに飲み込まれていくが、一定量を超えるとタッパーの中に広がっていく。


『ぷは~~、生き返った!!コクマロ様の完全復活だーーー!!』

「コクマロってカレールーの品名と同じよね?」

『こまけぇ事を気にするな!これで俺様は無敵だ!因心界の幹部達を返り討ちにしてやるぜ!江藤!!』


シチューの妖精、コクマロ。

普段はタッパーの中に入れられている。契約者が作るシチューのみしかしょくせないリスクを持っているが、


『江藤のシチューは間違いなく絶品だ。お前と契約して正解だ』

「本来、私達は契約できないんでしょ?コクマロだけがリスク背負って……」

『それでも俺様は旨いシチューを食いたいんだよ!!妖精の国じゃひもじい思いをしてきたからな!腹一杯食えるなら、不正でも間違いでもしてやるんだよ!』

「……そっか、じゃあ。美味しいシチューも作ってあげる」


なんと大雑把で大胆な妖精であろうか。旨いシチューを食いたいだけで、不正な契約をしている者がいるとは、……。ある意味、これまで出てきた妖精達とは一味違う。見た目からしても、食料の妖精というのも珍しいものだ。


「セッティと代勿はともかく。小宮山がやられたからね、少しは仇討ちでもしてあげて、向こうで喜ばせてあげたいわ」

『ふっ。大船に乗ったつもりでいな。俺様は"萬"の中では最強の妖精だからな』


江藤はセッティや代勿のように派手にやっているタイプではなく、わりと頭を使って戦うし。協力などもしていた。


「録路からの情報によれば、代勿は野花と蒼山、北野川にやられた。チーム分けしてるみたいだから、私達の方に来てるのは佐鯨と飛島。佐鯨は確かに録路よりも強いけど、もっと厄介なのは飛島」

『強くねぇのにか?』

「冷静沈着。リーダーシップもあるし、なにより私達の位置を特定する能力がある。佐鯨の獲物は録路だって事もあるけど……先に消すなら危険を冒してでも、飛島からやらないとね」


人の家の冷蔵庫を空けて、缶ビールとそれを割る"自前の飲み物"を取り出し、コップに注ぐ。


「さーって、表も騒がしくなってきたし。妖人化するわよ」

『おう!』


ゴクッ


元担ぎに酒を体の中に流し込んで、コクマロの一部も飲み込む。



「『美味を閉じ込め、ルービュル』」



トプンッ………


彼女達が妖人化した瞬間、この場所から急に消えてしまったのだ。



◇      ◇



ポツポツッ



空は薄い雨雲に覆われ、小雨が降ってきた。

マンションはブレイブマイハートの熱によって、高熱を発し続けており、そこに雨が当たれば蒸発していった。マンション全体がゆっくりと冷却されていく状態でもある。



「蒸す……」

「ですね」

「おーいおい!これからどーするんだよ!」


熱さに平然としている佐鯨に対して、表原達はこの暑さに滅入った顔を出す。

彼の能力によって、目に映っていた限りのジャネモン達は焼き消された。そして、まだそれぞれの部屋の中にいるであろうこのジャネモンを召喚した人物。

その調査をこれからゆっくりとやる。

だが、そっちの事より気になっている事を飛島は伝える。正確な人数を割り出せていないが、


「まずは消えた住民達を捜す」


因心界側の指令は、"萬"のイムスティニア・江藤を討伐すること。

それを無視した行動。あるいは無意味な行動。すでに囚われていて、日が経っていることも含めれば良い成果は得られないと思われるが、


「どーやって、敵が住民を捕えているか、消しているかが分かれば。これから捜す相手と対峙した時の対処がとれる」

「な、なるほど!」


ブレイブマイハートの熱によるマンションへの全体攻撃。もし、江藤にやられた住民達が喋れる程度の捕縛状態ならば悲鳴が上がる。あるいは焼死体も見つかる(怖いこと考えてる)。

逆にそれが無いという事は、コココンのような異空間に引き摺りこむタイプ。


「死体の腐臭は数日経っても、人の手がなければ消せるものじゃない。その臭いなら私達でも分かるくらいだ。逆に……」

「なければ、奴の能力で消しているってところか」

『ようするに僕ちんの鼻で、敵の能力が分かるって事だね』

「そうだ」



表原達は固まったまま、マンション内に突入する。すでにオートロックの暗証番号は入手済みで、これで中に入ることができる。


「鍵掛かってる家があるだろ。マスターキーはないんだろ?」

「そうとも限らない。玄関がオートロックだから、鍵をかけていない家もあるそうだ。それに」



バギイイィッ


飛島、思いっきり。ドアを蹴破って近場の家にお邪魔する。

意外と身体能力も高い。


「私の能力で保護しているんだから、扉くらい壊してもあとで元に戻る」

「だ、大胆ですね!飛島さん。というか、蹴破って破壊するなんて……」

「あたし達にはできませんよね」


表原とルルもちょっと引き気味に見てしまう。


「おっ……ははは、佐鯨に蹴らせれば良かったね」


飛島は流したような顔で、綺麗に靴を脱いで並べて上がる。真似るように3人も続いて中にお邪魔する。


「気をつけないとね」


コココン戦のことがよっぽど思い知っているのか、表原はかなり警戒した顔で周囲を見ている。一方でルルと佐鯨は声を出したり、押入れやクローゼット、お風呂場などを大胆に開けたりしていた。


「おーい!誰かいねぇのか!」

「もしかして、避難しちゃったところのご自宅ですかね?」


ぶっちゃけ、そんなところを飛島とレゼンは見ていない。そして、表原はそんな2人の思考に並べるように少し考え始めた。


「ここだけ見ても分かりませんよ」


不意に出た言葉であったが、飛島もレゼンも納得顔で


「100世帯以上ある。10件くらい見回れば、違いや共通点が分かると思う」

「人が最近いた形跡とか、ラクロには分かるのか?」

『さすがに臭いでそこまで分からないな、レゼン。どーいう人が住んでたくらいは分かるが、それは物で分かるじゃん』



手早く4人は無作為に選んだ家に入り込んで、調査をおっ始める。

相変わらず、佐鯨とルルは人を捜している。だが、表原も。表原なりにこの状況を考えている。

全ての家の中が同じというわけではないが、訪れた家の大半が荒らされたといった形跡が少なく、お留守にしたままと言った感じの、もぬけの殻。

何かの物資が盗まれているとしたら、お金やキャッシュカード。反面、高級そうな美術品や芸術品、家具といった類いには手がつけられていない。

持ち運びやすいモノだけを奪い、あとは放置と言ったところ。

ここまでの事、やり口を考えれば



「相手は空き巣のプロかもしれないな。それに適した能力を備えている」


それ言ったら、自分達は乗り込みのプロですよね?って、扉を蹴り壊している飛島を見て思う表原。

そこまでの想像力は及ばなかったが、表原としたら、なんらかの能力で収納できる能力かと想像していた。


「家が荒らされている痕跡も少ない。おそらく、抵抗もできなかったんだろ」

「私達のような入室ではなく、何か特殊な手段で入ったかもしれない」

「窓から入ってきたんじゃねぇか?」

「佐鯨さん。それでしたら、窓が壊れているご自宅があると思いますよ」

「!そ、そーだよな!なんか、馬鹿にした顔で見るな!」


話している質はどうあれ。人がいれば、それだけ意見が出る。なんだかそれは楽しいものだって、今思うのは仲間の中に入れているからか。

表原もこの中に飛び込んだ。


「気になったんですけど、お金とか持ち運べるモノはかなり盗まれてるのに、肝心の住民がどこにもいないのって変じゃないですか?」

「ん?……どーいうこった?」

「表原。それは敵に住民が連れ去られただけじゃない?」


佐鯨は分からず、ルルとしてはついでにしか思っていなかったが。


「……表原、お前。良い事を言ったな。俺、気付かなかった」


自然に頭をなでなでするレゼンと


「そこを突き詰めると敵の能力が大まかに突き止められるな」

「へ?」


ほぼ核心を持てる飛島の言葉だった。

自分自身はまだ良く分かっていないし、少しばかり反論染みた返しをしたルルも分かっていない。

そこからは飛島の推理タイムとなった。


「相手は罠を仕掛けるんじゃなく、直接仕掛けてくるタイプ。それも身を隠し、ギリギリまで標的に近づくタイプだと私は推察している」

「固まって行動すりゃ仕掛けてこれないし、安全って事か」


佐鯨もこーいう分野では頭が回る。学力無くても、戦術脳があるというのはこーいうことか。


「もし人を殺すタイプなら血痕や荒れた跡が残るはずだ。それが無いという事は、標的を"特殊な状態"に留め、抵抗できないようにしていると見た。それが表原ちゃんの言っている、金だけを盗んで他を盗めない理由にもなる」

「江藤はその特殊な状態で自由に動き回れるが、俺達がそんな状態になったら動けねぇ……つまるところ、行動停止の能力。捕まったらどうなんだ?マジに身動きできないか?」

「そこは喰らってみないと分からないが、隠れてる場所の特定と江藤の戦闘能力もそこそこあると見るべきだな」



何気ない事から話が飛躍し、大まかであるが。江藤の能力がどんなものかを予想できた。

このマンションは広く、隠れるところも多い。

予想から、今やるべき事は江藤の位置の特定だけでなく、移動手段の特定。ラクロでは、江藤の臭いは探知できない。そもそも、人が沢山住んでいた場所だ。臭いで特定できるのは老若男女ぐらいで、特定の人物を知るにはそいつの持ち物が必要になる。



「…………」



江藤には自信があるんだろう。

でなければ、この状況下でこのマンション内に潜むわけがない。


「だがよー、飛島。ホントに敵はこのマンション内に今いるのか?俺、さっき熱攻撃をしたじゃねぇか。どの家も相当高温になって、倒せたかもしれないぜ。まぁまだ、全部の家を訪ねたわけじゃねぇけど」

「その可能性もあるな。だが、全てを確認したわけではない。ここは安全に行くべきだ。それに奴は私達が乗り込んでからも、ここにいるはずだ」


こっそりとやっていたんだろうが、向こうも制御ができていないと見える。


「じゃね~~」

「じゃねも~~」


またマンション内でジャネモンが発生し始めている。明らかに雑魚なジャネモンではあるが、調査の邪魔には十分。


「あーー!せっかく掃討したのに、また増えてる!」

「っ……ったく、敵は隠れておいてこれかよ!」

「脱出は簡単だろうが、そう易々と倒せない相手のようだな」




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