Bパート
フロントガラスの大きなヒビは、確かに人の形をしていた。
わずかに道に落ちている血の跡。
「何かにぶつかったんですよ!」
トラック運転手は語る。
そして、そうとしか言えない事故の爪跡。
「衝突前に声も聞こえたんですけれどね。何も見えなかったんです!ホントです!」
警察もこれにはお手上げと言ったところか。
しかし、それの答えをすぐに教えてくれる者が現れる。
「それはきっと妖人の仕業でしょうね」
「!野花さん!」
「おおっ!"因心界"の方がいらしてくださいましたか!」
「ご苦労様です。警察の皆様。あとの調査は"因心界"が対応致します」
「はっ!」
"因心界"
それがこの社会を支える1つの巨大な組織。
「キャスティーノ団の可能性もあります。我々も全力で対応していますが、今回。管理が行き届いていない不手際、真に申し訳ございません」
「いやいやいや!超常現象に真向から対応していただいてる、"因心界"を否定するわけじゃありませんよ」
「はい。人に宿る力。それを使うのが何も持たない、人。人がどう使うか。そこでしょう。"因心界"はその管理を真っ当していただいている」
警察だけでなく、国家との連携も深い。妖精の国からとも連携ができている。
管理が行き届き、人間社会と交えられる武力集団。
『話は分かった。そいつは透明になれる能力を持っているわけだな?』
「そうみたいですね、キッスさん」
たまたま現場近くにおり、素早く駆けつけた野花。警察と連携し、事故を手早く処理していく中。"因心界"の本部に連絡を入れる。同時に粉雪からの要望も伝えた。
「粉雪から、索敵しても宜しいか?っと。さすがにそう遠くまで行ってないとの判断です」
『ふむ。交通網がグチャグチャになるが、放置するわけにも行かないしな。構わない』
「分かりました」
涙キッスの了解を得た。それを見越して、すでに粉雪は準備を整えていた。
大空に残るは雪雲。
「OKだって、粉雪」
「あんまり手間取ると、交通ストップどころじゃないからね」
シンシン……
粉雪の雪が都会に降り注ぐ。
事故現場の検証により、相手が透明である事実以上の事は分かっていた。
「血はそこまで流れていない。奴は生きている」
「雪で細かく人を特定できるの?」
「個人個人はさすがに無理だけど、常に位置の特定さえできれば十分。奴は高速で動き回れるはず、そいつを特定して追いつき捕らえる」
殲滅に特化した戦闘機みてぇな事を軽々しく言う粉雪。クールスノー。
彼女がその程度で収まるなら、甘く安すぎる考えであろうが。
降り始めている雪の数々がレーダーとなって、透明化していようと特定できる。距離を詰めれば、透明化など関係はない。
◇ ◇
クールスノーの言葉通り、マジカニートゥは生きている。
そして、高速で走っている。いや、高速で頑張って帰宅を目指す。
トラックにぶっ飛ばされること、20mほど。そこから起き上がって、すぐに高速道路から離れる早業。彼女にとって、トラックにぶつかった時は死を感じたが、うっかり見えない綺麗なガラスドアに、全力疾走でぶつかったくらいの衝撃で済んでいた。
「や、やっと。制御できる感じになった!」
「いい加減、家に帰れ」
それでも頭から血を流し、腕を骨折。胸骨もいくつかイッた。
すぐ動ける程度のダメージで抑えたに過ぎない。
「これホントに大丈夫なんですかね!?もらしてて、怪我してるんですけど!!」
「大丈夫だ。すでに大丈夫じゃない」
今、人間に戻ったら死ぬだろうか。だが、今が凄く苦しくて痛いのだ。
それでも家に帰るという思い。
「もうどうとでもなれですよ!」
ヤケクソ。その生き方である。
すでに色々あって、迷子状態という悲しい存在になっていた。帰る方向を見失い。電車に乗ろうにも、金もない。
「無賃乗車しろよ」
「で、でも!こんな姿で透明化が解除されたらヤバイじゃないですか!1時間しか持たないんですよね!?それまでに家に帰れる自信がないです!それに、匂いとか残るんじゃ」
「……そうかもな。確かにキツイ臭いをしている」
「いちいち言わないでください!できるかぁっ!」
コッソリ帰りたいのだ。この透明能力でこっそり帰りたい。
それを願っているのに、まったく成功する気配がない。
「はぁっ……」
やっぱり何をやってもダメなのかもしれない。
「あたし、やっぱ。ダメかも」
「ダメじゃなかった時あるのか?」
トドメ刺しとる……。
そんな言葉に反論できない辺りが、希望の欠片のない表原のこれまでの生き方ということだろう。
「良い事なんてなかったなぁ」
「14年だけ生きてて、人生を知った被るな。そんなことは死ぬまで思うな、バーカ」
「レゼンは励ましたいの?それとも、貶したいの?」
「両方ない。それが羨ましいんだよ。俺達妖精はな。人間に妖人化してくれないと、死んでしまうんだ。でも、妖人化したからといって絶対に死ぬわけでもない。この辺のところは、家に着いたらゆっくり話そうと思うが……聞きたくないなら、帰るのを止めればいい」
「……体が痛いし、こんな姿で死にたくない」
なんでこうなんだろう。
人生、訳わかんない。どうして、生きているのか。それを考えてしまう人生の道に来てしまった、表原。
シンシン…………
「まだ人生って楽しめるのかな?」
「!!ちょっと待て、そんな事どーでもいい!」
「え?」
唐突に話を区切られ、自分語りという。1つのストレス解消を閉ざされる。
「この雪は……まさか……」
それは希望だろうか。それとも絶望だろうか。
透明中という状況下を考えれば、それはあまりにタイミングが悪い。どーしてこーなったか、分からない。
「!見ーつけた」
雪が周囲の物に接触。本来、落ちるはずのところに落ちず。雪が人でありながら、人とは異なった動きをした者を感知する。相当遠くからの追撃であるが、一度掴めば逃がさない。
相方の野花を置いて、クールスノーは単身でマジカニートゥに直行する。
「と、透明化を解除できないか!?」
「え!?」
「この雪。おそらく、クールスノーの技だ!つーか、知らないのか!?」
「ク、クールスノー?」
「網本粉雪だ!!奴の名は、妖精の国にも名が轟いている!"因心界"の幹部、"十妖"の1人だ!」
「!あ、網本さんって。確か……」
妖人という存在はとにかく希少。都市伝説とも言えるレベルのところもある。
故にマジカニートゥが知らなかった事もあり、網本粉雪は知っているところもある。
◇ ◇
「不当な妖精の人間界の進出はこれまでの秩序を乱す事である」
サザンは危惧している。
「先に述べたが、妖精は力を与えることがほとんどだ。それが人間社会を掻き乱し、妖精の社会をも乱す」
故にこの問題を解決せねば、混乱と暴走は止められない。
涙キッスに頼み込んで、この事件の解決に協力していた。無論、人間界もそれに取り組んでいた。
「当然、処罰。処理すべきことです。"妖人"は人間という生物を何十倍もの成長で生きてしまうものです。これが平然と起これば、我々の管理外を超えて、お互いの破滅にも成りかねない。事実、キャスティーノ団などとの反社会的組織も形成されている。最近の事件の多くが警察や国、法の範疇を超え、"妖人"はもう都市伝説や噂などにも収まらなくなってきている」
「済まない。私が人間界で活動できれば、もう少し協力できるのであるが」
「私の大切な家族を巻き込みたくはありません。サザン様も私の家族と同じですよ」
「そうかな?」
時間が進めば、時代は変わり行く。
正義にも様々あり、伝統を重んじるか、革新に行くか。
「今、私の他に網本粉雪が、"因心界"に所属している事が幸いです。彼女には社会的に強い影響力も有している。ただ強いだけではなく、人間界のヒーローとして活躍してくれるのが嬉しいことだ」
網本粉雪。クールスノー。
彼女の名前は2つ共に有名である。その名だけ見れば、涙キッスよりもだ。
因心界のエースとして、クールスノー。
そして、人間としての網本粉雪は……
「若くして政治家も兼ねている。ただ単純に強いだけじゃなく、人間社会における情報網と多くの後ろ盾を持っている」
◇ ◇
「テレビやネットによく出てくる有名人ですよね」
「そうらしいな、サザン様から聞いている。というか、"因心界"の最強候補として有名だ!涙キッス、白岩印、そして、網本粉雪。この三強がいるからこそ、人間界における正当な妖人組織と言える武力なんだ!俺がいるとはいえ、今のお前じゃ足元に及ばない!」
その解説はまるで敵が説明するかのようなものであるが、半々である。
「と、透明化を解除しろ!クールスノーに説明して降伏するんだ!!」
「はい!?」
「俺が向かうところなんだ!だが、向こうは俺を知らない!!透明化したままじゃ、何言ってもしまらないどころか、攻撃されるぞ!」
「解除って……え!?このジャージを脱ぐんですか!?」
「脱げよ!それで解除されるはず!」
「ちょっと!もらしてるのに、人くるわけですよね!できるかぁ~!恥ずかしい!!」
「この姿で戦う方が恥ずかしいわ!負けた瞬間も考えろ!無理だ!戦う理由もねぇのに!」
迫ってくる事と迫られる事で意識の違いがある。レゼンがヤバイと伝える意識と、マジカニートゥの甘い意識は違う。その認識よりも高みにいる、クールスノー。
脅威的な身体能力という点では、彼女には凄みがある。
「!」
クールスノーが視界に捉えたのは、雪の積もりが明らかに見えないのに人型というもの。
「あ、人が……」
「!!」
見えていないという事実がある以上、マジカニートゥの意識が鈍く。認識の違いがある。見えていないという安心感と不安感が、互いにズレる。先制は当然としていて、クールスノー。
ドゴオオォォッ
マジカニートゥを正面から着地と同時にアッパーカットで上空に打ち上げる。
拳の一撃であるが、トラックに衝突した時より激しく来た。
「っ…………」
「やはり、透明能力か」
姿を見せないとあれば、クールスノーの殲滅するという意識が剥き出しになる。
重なった傷の数々に追い討ちをする。
「マジカニートゥ!しっかりしろ!」
レゼンはマジカニートゥの服をキッチリ掴み、声を掛け続けるが。あまりに見事な一撃で意識がぶっ飛んでしまった。それを対峙している者達が気付かず、動きを封じたところで脇腹を突き刺した飛び蹴りで、さらにぶっ飛ばす。
人間とはいえ、妖人。それを軽々と蹴り飛ばし、マンションを貫通するほどの威力で蹴り飛ばすのは異常。その一撃で
「うわぁっ!?」
しまった!
マジカニートゥと離れたせいで、俺の透明化も消えた!マジカニートゥの姿も俺からじゃ認識できねぇっ!
「姿を隠すのは結構な事だけど、出て来ないのなら見えない死体として片付けるわ」
身体能力のお化け。
乗り込んでいる車は化け物スペックの差であろうと、運転手の力量が本来覆るはずのない車の差を軽々越えている。素人以下と百戦錬磨の違いはこーいうものか。
一瞬の隙が、どれほどの実力差を覆すものか。弱気の発想とも言うが、慢心なく、躊躇も抱かず全力で叩きに来る。姿が見えないとはなんと皮肉を事を作るのだろうか。
「止めろ!!」
レゼンの声は戦闘中のクールスノーには届かない。真剣なる戦闘において、住民の安全はもちろんであり、第三者の声を拾うよりも率先して動く方法が確実に救えるからだ。
人間でなく、妖精である事も含めれば、無理。そして、離れていく。
ドヂャァッ
「頭かな?」
ドゴオオォッ
握った両手の打ち降ろしが、マジカニートゥの頭蓋骨を見事に叩き。地面にクレーター生んで、見えずともに埋まった形を作った。戦闘センスの光る攻撃にもう数秒で終わろうという時だ。
グイィッ
「!」
マジカニートゥの首根っこを掴んで、ようやく透明になっていた彼女の姿を見たクールスノー。
「……なにこれ?」
自分が与えた傷が思っていた以上に深く。それよりも大分傷付いていた体。
「こいつが……。涙キッスが出迎えろって言ってた奴かしら?こんなにあたしやっちゃった?」
敵か味方かも分からず。透明になっていた以上、実力行使をしたクールスノー。
このまま病院に連れて行けばいいか。
「おっと、本体よりも妖精が第一と言っていたわね」
妖精にも色々いるから。そいつが自立行動タイプで戦闘向きの可能性もある。となると、この子は手元に留めておいた方が良いか。本体がやられると妖精の寿命も奪われるわけだからね。
そいつがどうやら、あたし達を上回るって言う話し。殺したり浄化する気はなかったけど。
クールスノーは警護のような守り方である。
「手を離すと透明になる能力のようね。ホントにヤバイのかしら?」
経験上。そう遠くないところに妖精はいる。
向こうから声を掛けてくれればいいが、
ピリリリリリ
『粉雪』
「野花。例の妖人ちゃんを捕えたわ。ちょっとやりすぎちゃったけど、回収を手伝ってくれない?まだ妖精を見つけてないのよ」
『了解。粉雪のGPSで追うから安心して、捕まえてて』
「うん、さっすが相棒」
次回予告
表原:ぐわーー、めっちゃ痛い!こんなに殴られたの初めて!
レゼン:なんとか生き延びる事ができた……命拾いした
粉雪:もーぅ、隠れてるから手加減できなかったわ
表原:謝らないんですか!?
粉雪:ふふ、いや。なんか楽しみな子が現れたって感じ。嬉しいのが勝っているの。一緒に戦う日も近いかも
表原:いやいやいや!あなたに完全にボコられて、病院送りの入院確定コースです!
レゼン:トラックに撥ねられたより重傷を負ったぞ
粉雪:それでも次回はやってくるのよ。さー、次回は?
表原:『私の決意表明、これから生きてみます!その後に寿命宣告だーー!』
レゼン:これは次回で表原の命が終わるんだな
表原:なんでまた、私が楽しめないタイトルなの!?