Aパート
"妖人"
それは人社会に大きな影響を与えていた。
一個人、そして、妖精の出会いにその適正年齢がほとんど幼いことで、事件は多い。
「ひゃっはーっ!玩具だぜっ!」
「いけぇぇっ!コンビニ型ジャネモン!!」
ドシーーーーンッ
『24時間営業なんてやってらんねぇーんだよぉぉっ!!休ませろーーーー!!』
「わーーーっ!もうコーヒーにタバコ、振込み、からあげを同時に頼まないよーー!」
「便利だから!便利なんだから!軽んじていてごめんなさーい!」
録路達、キャスティーノ団が暴れたコンビニは今。"ジャネモン"と呼ばれる、一種の怪物化をしていた。
両手足が生え、動いては住民達に危害を加える。
『やってみろよ!深夜営業!!18時間勤務!!こっちは人がいないのに、次々と似たコンビニが立ち並んでよぉぉ!誰が運営するってんだよーーー!!いい加減にしろよぉぉっ!!』
「わーーーーっ」
"ジャネモン"は、邪念を糧に生み出される怪物。人を始めとした生物しかり、意思を得た物体や事象にしかり、とあるアイテムを使うことで生み出されるのであった。
「いけーーーっ!ジャネモン!暴れろーー!」
「ひゃっはー!終わっちまえーー!この世の終わりにしてやるぜぇぇっ!!」
ただの不良程度ならば、警官という人間組織で十分である。しかし、"妖人"やこの"ジャネモン"の問題となると、些か大事に成りかねない。軍を必要とするような、危険生物に。こちらも同じような対策を社会はとる。
国にいる正式な"妖人"を集め、社会を護る組織を設立した。
「見て、粉雪!あんなところにジャネモンが現れてるわ!」
「キッスの指令はそれじゃないんだけど。ま、仕方ないわね。私が相手してあげる。車を止めて、野花」
それが"因心界"、妖人の多くが所属し、ネットワーク・管理化された組織。
バァァンッ
「外で変身するの?車内の方がいいじゃない」
「外の方がカッコイイじゃん。変身しているところは大衆には人気があるの!蒼山がそー言っていた」
「……うーん、どーだろ」
車から降りたレディスーツ姿の女性は、ズボンのポケットと胸ポケットからそれぞれハチマキとストラップがついた、小さく不思議な人形のような物を取り出した。ズボンの方は赤色、胸ポケットの方は青色。
この2体もレゼンと同じく妖精だということ。
「『凍てつき白染め、クールスノー』」
彼女の名は網本粉雪。妖人としての名は、"クールスノー"。
"因心界"に所属し、その強さは組織のエースと言って間違いない強さを誇る。
涙キッスの指令でレゼンの妖人となった者と、接触することをしていた。
「私は先に探していた方がいい?」
「すぐに終わるわ。待っていてよ、野花」
街中で暴れるジャネモンに注意が行った周辺住民であったが、季節外れと地域を間違えていると言っていい。
シンシン……シンシン……
「ゆ、雪?」
「これはまさか……」
「網本粉雪様!!クールスノー様だーーーー!!」
彼女の"妖人"としての凍てつく戦いは、単身無双。
その姿にファンもいること、憧れもあること。多大な影響力があること。
「なんだぁっ!雪……って事は、クールスノー!?」
「ひゃはひゃは!寒い寒い!」
『寒いんだ馬鹿野郎!温かいコーヒーと一緒に宅配依頼もすんじゃねぇー!!』
彼女の戦闘は、雪の降るフィールド。天候の支配からである。
「闇に満ちた悲しいジャネモンちゃん!このクールスノーの雪で、全てを受け止めてあげる!」
変身したその姿は味方からも敵からも、女神と思える可愛らしく愛らしい、蒼と白を纏う雪の女性ヒーロー。
「クールスノー様だーーー!本物だーー!」
「この町を護りに来てくださったのですかーー!?」
「ジャネモンをやっつけてくれーーー!」
「粉雪さーーん!応援しているよーー!」
当然ながら、住民達も粉雪の雪を浴びている状況。急激な気温低下にも見舞われているが、
「熱い応援してくれたら、私も自分もHOTになるでしょ?」
と、本人の弁である。
とはいえ、あまり長い事。住民達の前で戦う事はできない。雪による体温低下から免れない。交通の麻痺だってある。変身を解除すれば、この雪は一瞬解けるため、数分とかけずにジャネモンを倒しにかかる。
「覚悟はいい?一瞬で終わらせちゃう」
『なんだテメェ!!横暴な客はお呼びじゃねぇーーだよ!』
ベギイィィッ
『ぬぁっ!?こんな雪で、体にヒビが……』
「私の雪は特別よ!小さくても降り積もれば、あなた達を浄化できる」
人間以上にジャネモンにとっては、クールスノーの雪の被害が大きい。
『う、動けない!なんだ!?粘着……?』
あっという間に動きを止めて、"ジャネモン"の根源である邪念の浄化を始める。そして、ジャネモンの命さえもとる。雪を纏った拳による、
「"雪拳"!!」
単純な殴打であるが、浄化効果も含めて、その破壊力は
『ぐわあああぁぁぁっ』
ドグラシャアァッ
コンビニ型ジャネモンを一撃で葬り、全体を崩壊されるほどにある。
「おおおぉぉぉっ」
「凄い!クールスノー様ーーー!」
「あなたこそ平和の象徴です!」
まさに圧倒的な強さ。
「ホント、凄いわ。粉雪」
同じ"妖人"であり、旧知の親友である、野花桜も憧れるほどに彼女は強い。因心界の統括は涙キッスが務めているが、その組織が人間界において支えられているのは、この網本粉雪の存在にある。
「さて、どーしましょ。ジャネモンを出したって事は、最低でも逮捕しなきゃね」
クールスノーはジャネモンを操っていた不良達に目を付ける。
「ひ、ひぇ~。やったのはジャネモンじゃねぇーか」
「ひゃはー。でも、クールスノーと戦ったなら箔がつくぜー!サインをくれっ!」
逃げるという事はできない。戦うしかない強制イベントを前に
「『このナックルカシーに食えねぇもんはねぇ!』」
「!!」
その瞬間。黒い影がクールスノーと不良達を横切った。とてつもないほど大きな影。
「はぶるぅっ」
「へばぁっ」
通ったその後に残ったのは
グチャグチャガリガリ
不良達の下半身。そして、クールスノーの半身。
その先にいる、おデブさん。口の中にある物を良く噛みしめながら、尋ねる。
「テメェの雪はマジィな……」
「!あー。遠いとこからの殺気に用心してたら、これは大物が来たのね。録路空悟くん」
「今はナックルカシーだ。間違えんな」
食われたクールスノーの半身は雪だった。とはいえ、その3人を通り過ぎ様に喰らった者。
「あ、あいつは!キャスティーノ団の統括!!」
「悪党じゃない!!」
「クールスノー様!そのままやっちゃってください!!」
妖人の名は、"ナックルカシー"。本名は録路空悟。
「周りから自己紹介されちゃったね。おデブちゃん」
「ふん」
ポケットからクッキーを食べているという、余裕。
こっから一戦交えるか。クールスノーは彼を挑発する。
「私さ。あなたみたいな汚い豚の体した人、嫌いなの。できれば触れたくないから、戦いたくないわ」
バクゥッ
「ほぉー?」
さらにナックルカシーはポテトチップスまで取り出し、クールスノーと対峙しながら食べている。雪の降りが大きくなっている事も感じながら。
「あぁっ、失礼だったわね。豚さんはまだお肉として重宝するのに。あなたみたいな油に汚れたデブは、食料にもならず、殺菌しきれないほど黴菌まみれって感じ。豚ちゃんをあなたなんかと比べてしまって申し訳ないわ(笑)。くすくす……」
「…………」
クールスノーのユーモアのある煽りは、己を満面の笑みにしていた。
ナックルカシーはさっき出したポテトチップスも食い終わり、袋を踏みつけて
「げふぅっ」
「ふふふ、始める?ナックルカシー。戦闘準備は整ったでしょ?」
「俺は最初からテメェと戦う気はねぇ。どれだけテメェ等が罵ろうと、俺は自由にやる」
挑発に乗らず……。
「はぁー、腹減った。牛丼の次はラーメンでも行くわ」
「……帰るならいいや。それと、奇襲するならもうちょっと場数を踏みなさい」
大胆にクールスノーに背を向けて去ろうとする。それに追撃をしないクールスノー。唐突過ぎる上に街中。天候を操ってしまうクールスノーは彼に勝てるであろうが、被害は相当デカくなる。取り逃がす可能性もあるため、交戦を控えた両者。
「1つだけ訊く」
「あら?」
「お前ほどの実力者がなんでここに来た」
「負けたデブに教える事ないでしょ」
◇ ◇
激闘、天候変動。激しい展開がその近くで起こっているのに
「あのぉ、着替えの予備ってあります?」
着替えを求む変身ヒーローがいるらしい。自らのショックが招いた事であるのに……。
今の状況。
「いつも同じ服だと匂い、気になったりしません?せめて、夏場にクリーニングは出せるでしょうか?」
「未だかつて、こんな酷い変身を遂げた奴が今それを気にするか」
「!あ、あ、当たり前です!ちょっと!パンツまで濡れてますよね!?変身解いても意味ないですよね?"ジャージ"でいいですか!?着替えたいです!」
まだ校庭で表原は変身し、レゼンと揉めていたところである。
「まず、家に行こう」
「この状態で行けるか!!どーすりゃいいねん!!」
「犬や猫、鳥だってな。好きにやっているだろう。家に帰るまで辛抱しろ」
「わ、私は人間なんですけど!これでも!!そんなの無理です!」
「俺としては犬や猫、鳥に悪いと思ってんだけどな」
障害物などなく隠れる事ができない広い校庭で、変身ヒーローがおもらしている無様な光景。
それどころじゃないため、分かっていないが
「ちょっと可愛くなってる気がするのに……こんなのってあんまりだよ」
「お前の無様ぶりが露呈してるだけだろ」
溜め息を出して、レゼンは今。表原が欲していること、夢見る事を教える。とんでもないのを選んだ気がしたと、今になって思う。
「しょうがねぇーな。マジカニートゥ。お前に授けられた能力で、この状況を打開しろ」
「でしたら、30分くらい時間を戻してください!!あなたとの出会いから拒否します!死にたかった!」
「そんな能力はねぇ!現実噛み締めて生きろ!もう事実になった!」
人は想像力豊かでなければいけない。
願望のそれとは違う。そいつは遠く、射程距離が外れた先にある口だけの世界。想像力とは自分ができる許容範囲にできる考え方、行動に繫がること。
「一度だけだぞ。とにかく、想像しろ」
「はい?」
「お前の想像したい物を、創造するんだよ!さっき言ったろ!欲しい物だよ!」
「え、えええっ!?言ったっけ!?」
「気が動転してると外すぞ」
表原麻縫。マジカニートゥ。
今、こんな無残な姿ながら、状況打開を図る。現状、変身の際に起こった破壊行為の影響で、表原がおもらしをしたという事実を知るのは本人とレゼンのみだった。みんな破壊された学校の方に意識がいくのは当然だ。もったいない。
マジカニートゥは思い出したように、口に出したものを縋った。ドキドキにある僅かな希望を見る。
描く。動く。
「よーく、想像しろ。"できる"って、気持ちがまず重要だ」
本人の劣化版であると伝えられた通り、そーいう系統である。
マジカニートゥが宿った現状の能力は、"『何か』に本気になった時、『何か』における優位、便利になる『アイテム』を具現化する。"
相当高度な能力であるが、リスクなしというわけもない。
ボォォンッ
「!」
それはもう、これだけ続いた似非科学的なギャグ調に乗せられていた展開にある中に反して、魔法という不思議なパワーが働いて生まれた、無から有の生成であった。
「じゃ、ジャージが出てきた。私の寝巻き……ちょっと違うかな」
「んじゃ着替えろよ」
「えぇっ!?校庭のど真ん中で着替えろと!?」
「誰が脱げと言った!?気が動転しすぎてるだろ!その上からでも着ればいいだろ!」
「そ、そっか!」
多少マシになったレベルであるが、これで……なんだ。
変身しているくせに上下ジャージ姿がそう。制服着こんで、ジャージも穿いてますという残念感になっていると、一男子は思い。温かいんだよ馬鹿野郎って、言ってやろうとする一女子がいることだろう。
「マジカニートゥの能力は、お前の『本気』に働いて、それに応えられるアイテムを生成する。ってところだ」
「わ、私の本気に……じゃあ!」
「そ。ともかく今は着替えたいって『本気』が、そのジャージを生み出した。制限時間は1時間」
「す、凄い!便利じゃん!」
スゥゥ~~~~
「お前みたいな卑屈で無能には『本気』になる事そのものが、相当な条件だが……。おっと」
レゼンは急にマジカニートゥの肩に乗る。
「あぶねっ。アイテムの生成はそーなんだが、こいつには困った欠点がある」
「困った欠点?」
急いでマジカニートゥに触れたのも当然であった。もうすぐ発動しそうなところであった。
「生成されたアイテムは、確かにその本気に応えられる能力を秘めている。だが、お前自身はそれを最初から知る事ができない。俺自身も分からないんだ」
「な、なんですか!?その仕様!あんまりじゃないですか!!せっかく、秘密道具みたいな感じだと思ったのに!」
「逆に考えてみろ。色々ある事に対して、本気の1つでお前は誰よりも有利なんだ」
能力の発動条件に、マジカニートゥの『本気』という認識が必要。
アイテムが生成されている時間は1時間。
対象とされる物事は1つ。(解除不可)
マジカニートゥとレゼンの2人には、どんな能力を秘めたアイテムか分からない。
「俺がいれば、お前は無限の可能性を秘めている」
「!………口の悪い子」
どんな能力かは分からないが、すぐにレゼンは今生成されたアイテムの能力が分かった。
能力のONとOFFの切り替えすらも、マジカニートゥの意志というわけではない。常時発動なのか、時折の発動なのか、複雑な条件化で成立するか。定められてすらいない。確かに無限の可能性であるが、悪く言えば無きに等しい可能性。
「このジャージは、どうやら着ている者を透明化するらしい。おそらく、俺も透明化している」
「え?」
「だからお前の肩に乗ってんだ。これならもらした状態でもバレないだろう」
「い、言うな!それ言っちゃダメ!!」
変身後、初めての行動。それが家に帰るだけという、なんとも情けないお話であるのだが。
トォーン
「わひゃ!?」
変身後特有の。自身の力を制御できずに大ジャンプしてしまうこと。
学校の最上階まで達するだろう。超・跳躍。
ダダダダダダダ
脅威的なダッシュ力。
「わぁっ!?速い!高いよぉぉ~~!!」
「揺れる揺れる!少し抑えろ!」
「ど、どーするの!?止まらないです!」
学校を飛び出し、街を走る姿は高速道路で走る車のようなもの。男子高校生がマウンテンバイクで帰ろうとしている横を、楽々追い抜くほど速い。
めっちゃ家帰りたいという希望が、とんでもなパワーを生み出しているのか。
「あ、言っておくが。マジカニートゥ」
「ふぁい!?こんだけすんごい力にも何かあるんですか!?すんごい力が出てますけど!!」
「それは通常時の身体能力だ。100mなんて一瞬で駆け抜ける」
感覚はまだ慣れていない。
自分の体とは思えない。自分で見ても分かるほど、人間離れした身体能力を手にしていた。
それでいて自分は誰からも見えていない、透明人間状態。
普通、こんな姿でこんな芸当をやっていたら、驚きはもっとある。通り縋った人達にとっては、何かが起こったくらいにしか分からない。
「妖人の身体能力は、個人差とタイプによって異なる。お前はこれでも低いレベルだ」
「ええっ!?これでも低いの!?世界記録を出せそうなくらいなのに!」
「体力も相当使う。能力とは一切関係ないが、ハチャメチャに動くとあとがキツイ。それと妖人には多少の麻酔状態と疲労軽減がある」
「というと……」
「人間状態になったら、ガチの苦痛が襲い掛かってくる」
「それ先に言ってくれませんか!?メッチャ動いているんですけど!!制御できてないくらいに!」
もう隣の駅まで爆走してしまうほどである。ものの2分くらいのこと。
「で?家に向かっているのか?」
「いや!制御できてなくて!!知らないところまで来ちゃいました!」
「おいコラ!おいどーすんだ!!家に行けって言っただろう!線路にまで入って来てどうする!帰宅道かと思って、油断してたぞ!」
ダダダダダダ
「というか止めて!足が勝手に動いて!1歩動きたいだけで1000歩進むくらいのことなんですけど!!」
さらにもう1駅を通過。そのような言葉になるのは、普通に今。線路上を爆走しているからである。あわわわわ、の思考でぶつからない広い場所に来たわけだが。向こうにはマギカニートゥ達の姿は見えていない。何も異常なし。
ガガガガガガ
「電車来てる、電車来てる!!轢かれて死ぬぞ!!向こうからは俺達が透明で見えてねぇんだ!!全速力だぞ!」
「ああああぁっ!」
危機回避で、飛び出るように線路から大ジャンプ。
列車の上を走る、道路に乗り込んでいくが……
「そっちも高速道路じゃねぇーか!!2tトラックがーー!」
「わーーーー、死ぬぅぅっ!今度こそーー!!日に2度も死に掛けるぅぅっ!!」
ドガラシャアアァァッ
高速道路を突っ走る大型トラックと大激突して、吹っ飛ばされるマジカニートゥとレゼンの2人であった。