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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第13話『因心界”十妖”の集結!白岩印の登場!!』
29/267

Aパート

「因心界、幹部の全員集合か」



本日は午後13:00より、因心界に所属している幹部、"十妖"の全員集合である。

現在、午前9:00であるが、その準備を進めている太田ヒイロ。

場所は、因心界本部の幹部専用会議室。進行役と仕切りは彼が毎回務めている。



「準備は順調か?」



本部に在住しているキッスとヒイロ。それから飛島と白岩にとっては、家でやるような感じである。

家を持っていないわけではないが、本部に住み込むというのは緊急時の対応が役割になっている。そんな緊急事態なんて早々ないわけであるが、先日の後始末処理などは白岩を除いた3名が主に担当している。



「まぁーね。飛島ちゃんに色々言われているわけだ。抜かりあれば、怒られるさ」


10人全員が向かい合う机。ティーセットに、抓めるお菓子の準備、花瓶に入れたお花まで添えて。

会議にしちゃあ、お茶会気分の緩い感じ。

その出来栄えに。


「幹部は女性の割合が多い。可愛くいかなきゃ」

「あなた方の息抜きもあるんでしょうね。佐鯨くんはいつも居辛い顔をしてる。彼、単純なのもあるけど」

「ところで飛島はどこにいる?」

「本部全体の大掃除をしているようだよ。いつも以上に頑張っているようだ」


キッス、ヒイロ、飛島の3名は会議の準備をする。

一方で、この本部に向かってくる幹部達。



「やーっぱり、野花の車がサイコーね」

「南空さんは怒らないの?」

「気にしてないわよ。ところで、野花。この前、敵に捕まったとか聞いたけど。ちゃんとしなさいよ。セーシが傍に居るのにもったいない」


やはりというか、当然というか。

このような全員集合には一度たりとも欠席も遅刻もない、サボりもない。網本粉雪が、野花桜と共に本部入りする。

基本、外での活動を中心とする2人はこーいう時も一緒に行動している。


「妖人化すれば余裕だったでしょ?なんでしないのよ」

「だって、飛島も蒼山も、表原ちゃんだっていたのよ!やるわけないじゃない!!」

「いや、それが面白いんじゃない」

「からかうの止めて!」


まだ車内での出来事であり、野花はそんな絶対拒否宣言を知っている粉雪に伝える。



「私の妖人化を知っているのは、粉雪と北野川、キッス、ヒイロしか知らないんだから。これ以上知られたくないわ!」

『そーか?恥ずかしさを忘れちまえばいいじゃないか』

「あなたが原因でしょ!」


セーシの首……となるのか分からないのか、その体をぎゅ~~っと握ってあげる。


「野花。それ知らない人が見たら、○○○を握って絞り出してるみたいなんだけど」

「そーいうツッコミしないで!」


妖精のやっぱり形って大事だなって……思える一面である。

実際のところ、野花の実力は不明瞭が多い。妖精の国の相当な古株であるセーシが野花のパートナー。人間側からすればどれほどの実力かは分からないが、セーシを知っている妖精達はその強さを相当警戒するほど。

その実力と能力については、涙キッスに次いで、謎という幹部である。

もっとも、野花自身が戦う事を拒否しまくっているので、実力が乏しいと思われる。




◇      ◇




パシャッ



「ナースも良いなぁ……」



因心界直属の病院に盗撮魔が現れる。とはいえ、そのやり口はカメラマンのように堂々としている。ナースもそんな嫌な感じをしていない。ただただ、優しい笑顔を振るって働く姿を記録しているだけなのだ。パンツは撮ってない。

ブスブスブスゥ



そんな男に鉄槌を食らわす、メスの突き刺し攻撃。予測不能なくっつく攻撃を無防備にもらう。


「ぎゃあああぁぁ」

「蒼山くん、病院内で盗撮はよくありません。あと、騒ぐと迷惑です」

「いやいや!今、背中とかお尻とか、腕とか刺す古野さんの方が危ないですよ!!血が出てるじゃないですか!」

「生きていて良かったです」

「殺す気でやってたの!?ねぇっ!」


病院に来たら怪我をされたという状態。


「私のお迎えですか」

「うん。飛島から言われて、僕は古野さんと一緒に来るようにってね」


蒼山は古野と共に、本部に向かう事になるわけだが。



ブロロロロロ



「迎えに来た人が後部座席を使うって、どーいう事なんですかね?」

「いや、僕。車の運転ができないから」

「まったく、蒼山くん。あなたは能力以外はまったく取り得がありませんね。弄られキャラぐらいですか?」

「全然嬉しくないんだけど!なに?僕、やっぱり存在価値がない?辞めていいかな、因心界」

「あなた働けないでしょ。すぐに牢屋行きです」

「止めて止めて!なんで急所を攻撃してくるの!?」

「君は全身急所ですからね。それが悪いとは思わないんですか?」



続いて、蒼山と古野が本部に到着。

まだ正午前であるが、この本部にある食堂で軽い食事をすることに。そこには丁度、飛島が正面の出入口を掃除中でいた。


「やりすぎじゃないか、飛島」

「綺麗好きなところは見習うべきでしょうかね?」


普通の男から見れば、掃除というより芸術的な輝きを出す内装工事並である。

ちょっと唖然としているお2人に、飛島はその事について気にせず


「おや、古野さんと人間のゴミが来たんですね」

「酷くない!?」

「随分、綺麗にしてくれているね」

「もうすぐ終わります」

「ところで今、何人集まってます?」

「私、キッス様、ヒイロさん、白岩、粉雪様、野花さん、古野さん。……8名ですね」

「目の前にいる僕を忘れるなよ!数に入れておいて、呼ばないの酷くない!?」

「あとは佐鯨くんと、北野川ちゃんか。北野川ちゃんはサボるかもしれないね。佐鯨くんが大変だ」

「それについては、キッス様に考えがあるそうですよ」



◇      ◇




因心界の会議を前にして、北野川には緊急の指令がキッスから通達された。


「ちっ」


ふざけんじゃねぇーよ。

って、苛立った顔で舌打ちもする北野川。会議に出てくるお菓子と紅茶は美味しいが、話しの内容はクソ真面目な中身。真剣に今後の方針を考える、そんな正義が気に食わない北野川であった。

そんな会議の雰囲気が分かっているよりも前に、時間制限付きかつ難しい任務を通達された。


これすら無視してカフェでゆっくりしてようと思えたが……。

その任務がこれまで自分に秘密にされていたものであり、興味があった存在。飄々としてぬるま湯に浸かっているキッスが、やっぱりキレ者ってところを知れた。

あえて、ノッてあげる事にする。



「表原麻縫を本部に連れて来いか」



こそこそと粉雪と野花が護っているし、最近じゃ飛島やヒイロ達とも交流あるみたいだし。SAF協会も面白い素材と、表原の妖精については興味を示してる。

私だけ外れ者にする秘密。私の好物を知ってて、ここまでキッスは隠してたのね。ズルイ奴。

蒼山の馬鹿が先に古野のおじさんを連れ出してくれたから、ここは強引にやってもいいわね……。ちょっと傷つけてもさ。



そんな悪意ある心を覗かせる北野川に、止める男の子の手。



「ダメだぞ、北野川」

「佐鯨、あんたなに?」

「俺の任務は北野川と表原を護ることだ。ここは病院。暴れるところじゃないだろ」



抑止力のために佐鯨が付いている。

なんだかんだで、このコンビで纏まっている2人である。

北野川は嫌そうに佐鯨の手を振り解き、


「汚い」

「手を拭くな!傷付くぞ!」



表原のいる病室に向かう。その途中、北野川の目に入った名前があった。

立ち止まって


「ルルも入院してるんだっけ?」

「そうみたいだな」


キッスの頭の回転については認めている。多少、自分をコントロールするんだから。しかし、そんな事を許さない本心もあるから。北野川は寄り道という名の、ウサ晴らしを始める。

ルルの病室に寄り道。


「おい!」

「あんたはそこで待ってなさい」


キッスも、粉雪も。北野川は嫌いである。

そんなことを本人達は理解しながらしらんふり。確かに強さだけは認めるが、弱いところは誰しもある。特にキッスに関してはどーしようもない。自分以外の弱点がある。

いい気味と判断し覗くだけで、向こうからのイヤな反応を見れる。


「っ……」

「あらぁ~。ルルちゃん、久しぶり。お怪我は大丈夫~?」


粉雪のような陰口ではなく、北野川はストレートに来る。

他人が落ち込んでる姿はそそられる。どSである。

ルルは北野川の姿を見ただけで、背筋が凍るような、殺意とは違ったオゾマシサを抱く。此処野の悪口バージョンってところか。


「き、北野川さん」

「弱いんだから、無理しちゃダメじゃない」


容赦ねぇ罵声。皮肉めいた事すら隠さない、悪口。


「……な、何しにきたんです。あなたはここを護るような人じゃない!」

「いや、あんたに用ないけど。見かけただけ。そういえば、キッスがお見舞い来たんだって?忙しいのに、構ってもらえて良かったね。その姉妹愛、羨ましいね」


グッサグサと、ルルの心の弱点を突きまくって弄ぶ。キッスを攻撃するのが難しいが、ルルから苦しめれば必ず、キッスも嫌がる。比較させてやれば特にルルは苦しむ。

健気にしてんじゃねぇよって、北野川は一瞥している。


「あたしに用ないなら。……出てってください……」


悪口を受け止めて落ち込む姿が、本当の小動物のようで可愛いものだ。

それを何一つ分からず、護ってるつもりでやって来たのが


「北野川!いい加減にしろ!」

「佐鯨。あたし達がここに来た理由を言いなさいよ」


それとルルも会っているという事は知っている。何も考えてなどいない佐鯨まで使って、ルルを嵌めようとするのは、もう北野川がプロといえるか。ルルがそんだけ対象にされやすいという事か。


「表原の護衛と本部への案内だろ」

「!!」

「そうそう。表原ちゃんは、キッスや粉雪に気にいられてるから。幹部の会議に参加して欲しい。……だってさ。ルルちゃん、戦力外なんだから。退院したら、もう辞めたら?」


自分の方が経験しているし。妖人の一族からの者だというのに。ついこないだまで、普通の人間だったものが。圧倒的な妖精を手にしただけで、全てが引っくり返される現実。何をしているんだ、自分は?そんな途方にくれた、追い込まれた孤独感。

強大で絶対的な実力を持って、組織の全てを支える姉。その姉をバックアップしてくれる家族、一族、国家。そんな中にいる、自分というどうしようもない存在。


北野川と佐鯨が退室すると同時に、ルルは毛布に顔をやってその眼で濡らす。

ルルの上に乗っている雲の妖精、ターメもその心中を理解しながら、声をかける。



「うっ……ううっぅっ……」

『ルル』


悔しい。……悔しい。…………悔しいぃぃっ。


「ううぅっ、えぅっ……」

『……泣くなって言うわけないさ』

「えっ、ええぇぇんっ、うう」

『北野川さんが口悪いのは知ってるだろ』

「でも、……でもっ……」


事実が、事実で……事実だ。

悔しくて悔しくて、それでも


『ルルは俺を責めないんだな。俺も一緒に戦ってるんだぜ』

「……え?」

『俺だって……イスケ兄さん(キッスの妖精)やサザン様に遠く及ばない。もちろん、レゼンにすら勝てない。でも、俺を信じてくれる、ルルの期待には応えてやりたい。これから100回負けるかもしれない。でも、1回。奇跡のような勝ちをルルに見せたい。パートナーだからよ』

「っ…………」



優れた血筋、優れた環境。それでも、結果の出ない人間がいる。そーいう生物もいる。

そして、生物の幾つかは自決を選んだ。これ以上の望みはない。当然、そーいう運命もある。

背負われた責任に対して、あまりに無力な生命。

ルルの自決しかねなかった、責務の重圧プレッシャー。それを乗り越えられたのは、やはり通常の人とは違う精神の強さと、それについてくる環境であろう。今はまだ、涙を流し続け、転がるように敗北とミスを続け、頭の中が入れ替わるくらい苦しむ。



無論、そうして生きる者に共通する事がある。

それは決して1人ではない事だ。

同じように悩み、同じように苦しみ。同じように何かを気付いて、自分自身の答えを出す。


その答えで乗り越える事も、本当の意味で後悔もなく諦めることもできる。

足りないモノがまだあると、この沢山の涙でルルはそれに気付き、やがて知れる。




◇      ◇



ルルに挨拶を終えた北野川は、メインである表原の前に姿を見せた。


「ふーん、トロそうな顔してるわね」

「あ、あの。い、いきなりなんですか?」

「で?そっちが噂のレゼンくん?」

「因心界の、……北野川だな。ってことは」



レゼンの言葉に。北野川の胸ポケットにしまわれている手鏡が震えだした。

珍しいなと、北野川がそれを取り出せば



『レゼン。あんた、こーんな、のほほんとした子を選択したのにゃ~?』

「て、手鏡!?その中に人がいる!妖精なんですか!?」

「カミィ。久しぶりじゃねぇか」


サング同様、レゼンと知り合いの妖精であった。


『相変わらず、見る目のない奴だにゃ~』

「うっせ。お前の口と能力の悪さほどじゃねぇよ」

「え?なんて言っているの?」


適合者である北野川にはカミィの声、言葉は届いているが。表原にはその声は届いていない。手鏡の妖精、カミィを持ってあげるレゼン。

鏡の中にいる人間じょせいがカミィの本体と言える。猫口調らしい、意地悪ぶり。

だからこそ、北野川とマッチしているし、能力もえげつないんだろう。


『どこまでその余裕面が持つかにゃ?確かにこの子からは白岩に匹敵する素質は感じるにゃ。でも、それでも。レゼン、お前の力に堪えきれてないにゃ。見る目なし~、手加減なしにゃ~』

「割られたいのか?随分と喋るようになったな。嘘泣き、カミィ」


妖精にも良い奴、悪い奴がいるものだろう。

レゼンとカミィのやり取りの中、北野川は大胆に座る。



「いだぁっ」


表原が使っているベット上。

毛布の中に足を入れている表原の、その上に座る無礼ぶりな対応。

さすがに一緒に入って来た佐鯨も止めようとしたが、


「ただのスキンシップじゃない。佐鯨は黙ってな」

「っ………やりすぎだっての」

「ちょっ!なんですか……」

「自己紹介。私は、北野川話法。この手鏡は私の妖精、カミィ」


荒っぽい紹介であるが、それよりも荒っぽい態度で自分を伝える北野川。

そんな伝え方で一瞬にして表原は悟るし、レゼンも分かってしまう。


"この人、嫌いだ。絶対、私(表原)と合わない"



「あんた、学生よね?何歳?白岩より下?」

「14ですけど……」

「はっは~ん」


北野川は何を思ったか知らないが、より上に立てる何かを得たのだろう。おそらく、先輩という立場か。嫌な人だ。

露骨にやっているから余計に嫌だ。

不敵に笑いながら、レゼンからカミィを取り上げて確認する。


「14ならルルより下か?」

『そうにゃ、話法』


これは本当に笑えないことね。笑っちゃうんだけどさ。ホントに使えない子だ。


「じゃあ、本題と行こうか」


表原に座るのを止めて、立ち上がった北野川。


「あんたを因心界の本部に連れて来いって、キッスから命令されていてね」

「えっ」

「キッス様が?」


これにはレゼンも驚きであった。こちらから向かう必要があったと思ったのに……。そして、佐鯨の方からも声をかけられる。


「丁度、俺達幹部同士の会議があるからな。たぶん、出て欲しいってところだろ。あんた等の噂は聞いてるさ」

「SAF協会の連中を追い返してるし、そこのレゼンくんってのは強いんだって?あんたと違ってさ」


なんか一言ムカつく……。


「あいつの指令っていう、大義名分があるから。拒否は出来ないわよ?逆らって、私と戦うってんなら別だけど」

「だから、北野川。穏便にやろうぜ」


正直、拒否したい表原。佐鯨の言う幹部会。粉雪達が参加している話し合いなら、知り合いがいる分気楽と言えるか。北野川とは話したくないが……。


「"十妖"の事だよね?きっと」

「そうだろう。古野さんも、飛島さんもいるならちょっとは気分転換になるだろ」


あのクラスの集まり。よくよく考えたら、ほとんどの幹部とこれで面識がとれたレゼンと表原だった。

拒否できないというのなら仕方ない。表原自身にもそんな気持ちが出来ていた。

とはいえ


「じゃあ、本部とやらに行きますから、北野川さんでしたっけ?」

「ん?」

「ちょっと、嫌いです。あんまり話しかけて欲しくないです」

「嫌われちゃった?でも、いいわ。そーいう対抗心、気にいるから。おもちゃとしてだけど」


第一印象、最悪。見た目的にも、結構な上から目線に似合うギャル系お姉さん。顔も大人の悪役女性らしい、顔つき。自分が子供だって思うくらいの見た目からでも、歳の差を感じるが


「…………」

「なに魅入ってるのよ?ああ、私が綺麗でごめんね」


自分のメイクに自信があるから、見惚れさせてしまったかと。自画自賛の北野川。それに対して、表原は北野川をマネるように軽蔑な目で、メイクのされていない服の膨らみを見た。


「あ、いえ」


飛島さんもそのくらいだったから、止そう。あの優しくて頼りになる、飛島さんにも悪い。

口に出すときっとこの人は五月蝿いだろう。


まだ、ここの部位だったら私にもワンチャン有りと、北野川への対抗心的なものを宿す表原。しかし、それを台無しにする空気の読めない男がいた。それも的確に表原の目と思考を当てていた。直感が優れている。


「お前の胸見て、体も貧相だなって思ったんじゃね?」



カチンッ



ギャル系女王の立ち位置でいた北野川の見た目。唯一にして、最大の弱点。

それは貧乳であった。

粉雪、キッス、野花などの女性陣と比べると、明らかに小さい。成長期の中間ぐらいの表原とどっこいどっこいである。ついでに、先ほど馬鹿にしていたルルよりも明らかに小さい。年下なのに……。


「おい、佐鯨。このあたしになんと言った?」


キレマークを出して、彼の胸倉掴んで確認という謝罪の強要をとるほど、わりとここだけは気にしている北野川。言わなくて良かったとホッとしている表原。

かなりコンプレックスにしているようだ。つまるところ



「女性特有の性悪さがモロにある人か」

「じゃあ、この絡みはそーいうところから?」


レゼンと表原はコソコソと、北野川が佐鯨に詰め寄っている隙に陰口で話し合う。

敵の多さな理由に、ほぼ確実に負けるところがあるといったところか。


「別に気にする事でもねぇだろ?お前、モテるだろうしよ」


そんなことでご機嫌をとれるわけがない。

大事なもんは大事なもんだ。

ただの強さでの比較も腹立つが、こーいうところの比較もムカついている。とはいえ、怒ることにも百戦錬磨ぶりがある。冷静に、キレている。


「人に向かって、顔を上げられない奴が女性見比べなんよ」


北野川の喋り方、やり口は明らかに相手に首輪をつけた犬のように、見下ろせる場所に追いやる手法。

その言い分はかなりずるい。

とはいえ、そんな事が通じるとしたら、蒼山くらいか。佐鯨の場合、無自覚で空気を読めないところがある。


「俺はちゃんとお前の顔見て言ってるぞ」

「だから、ムカつくこと言うな。クソガキ。大人の領域に入った口振りは止めな」



クレーマーかい。ってレベルで、特に言っても現状変わらないこと。



「悪かった。それでいいか?」

「ど・げ・ざ。ド・ゲ・ザ。土・下・座。一部の女性を差別した罪は重いのよ」


言葉だけでなく、体勢まで要求。法律を良く知らないし、そこまでの事じゃねぇって、佐鯨は優しく思っている。本当なら無視が一番妥当だし、ここで強要を続ければその事実が法廷まで持ち越しだ。北野川だって、コンプを抱えた事実が広まるというものだ。余計に傷口を広げることもある、特に天然は簡単に言いやがる。


「じゃあ、デカくなりゃいいじゃん。女の体のことよく知らねぇけど、でかくなんじゃねぇーの?白岩とか、キッスさんとか、粉雪さんとか、野花さんとかよ。でかくなんじゃね?」

「知らないとか言うなりに、テメェ。正確に胸デカイかつ形良い順に言ってんじゃねぇよ」

「いや、白岩以外は僅差だと思っていたが、違うのか?北野川の方が詳しいじゃないか」


などというやり取りを20分近く、言い合う2人。どこに落とし所をつけるのか、困ったものであり、結局解決にならない。というか、北野川が納得しないのが悪いか。第三者目線と思考。


「五月蝿い……」


もうスマホの中にある漫画アプリで楽しんでいる表原にとっては、2人の口論なんか耳障りでしかなかった。早く本部に連れて行くのなら、早くして欲しい。会議とやらはよく分からないが……。

この五月蝿さには困ったものだ。



◇      ◇



ドルウウゥゥッ



「ふん」


北野川の運転は荒い。

この歳で私用のスポーツカーを所持し、ジェットコースターのように派手で十分な緩急ある運転は、後部座席にいる者達を恐怖に陥れる。シートベルトの大切さを思い知る。


「うおおぉっ」

「ひゃあああ」


ちょっとしたアトラクションである。

因心界の待遇はよく、緊急時のサイレンを鳴らすパトカーのように、道を無理矢理空けさせ、制限速度と対向車線を無視して突っ走る。正義を掲げた、純粋なる嫌がらせであった。



キキキィィッ


「着いたわ」

「ゆ、ゆっくりで良いだろ。北野川、怒ってんのか?」

「野花さんと飛島さんがホントに良い人なんですけど……」


因心界がとんでもない変人の集まりだというのを思い出した表原だった。

こんな問題だらけの組織の会議に出席するのが、少し怖くなってしまった。


「ここが本部か」


レゼンは見上げるこの因心界の本部。病院からでもこの高層ビルを見る事ができたが、近づいてよく分かる。感じ取れるというものだ。


「妖精が沢山いるわ。まだ適合者と出会っていない者達がね」

「やっぱりか」


北野川がレゼンの考えそうなことを先に伝えてくれる。因心界の正義は掲げられたものだけじゃない。


「なんか光り輝いてんな」

「キレー」

「飛島の潔癖の度が過ぎるだけでしょ」



本部に連れて来ただけでプンスカ中の北野川。ずかずかと本部に入っていく北野川に後ろから付いていく佐鯨は尋ねる。



「どこ行くんだよ」

「ここまで連れて来たんだから、あとはあんたがやんなさい」

「トイレか?早く済ませろよ」

「佐鯨、デリカシーないわね。モテない男の特徴よ」


本当にそれは思うと、佐鯨の後ろで頷く表原である。

あまり心は込めてないけれど


「ありがとうございます、北野川さん」

「ふんっ。どうせまた会うわ」


送ってもらった礼はする表原。


「あーっ。ま、ここにいりゃあ、安全だろ」

「佐鯨くん。どこで会議とかするの?」

「5階の会議室だったかな?忘れたけど。ヒイロがいるところでやるらしいぞ」


全然分からない。

佐鯨の実力は高いようだが、このような雑務能力はほぼ皆無と思える。心配である。


「テキトーだな、お前。幹部でいいのか?」

「正義の心と力を持っているから……選ばれているんだぜ!!」

『そこが佐鯨の魅力なんだよ、レゼン。男らしい大雑把っぶり』

「バーニ。それは違うと思うぜ……」

「なんていうか。北野川さん共々、幹部って大変ですね」


そんな言葉にハッとした顔になって


「腹減ったし、ウンコもしたいから。また後で会おうな」


そんなこと伝えんなと、表原は迷惑そうな顔をして、佐鯨も見送る。


「ヒイロさんか、飛島さんを捜した方がいいかな?」

「連絡繋がるだろうし、この中の案内をしてもらった方がいいな。たぶん、何度も来る事になるかもしれない」


レゼンの言葉は表原よりも、自分に対して言っている。

ここに来る事をまずは目指せと、妖精の国の王であるサザンに言われているからである。どーゆう形であれ、因心界のトップである涙キッスと出会える機会だ。

そういえば、まだ表原にも詳しくその事を伝えてはいなかった。



「色々な部署があるみたいだね。掲示板いっぱい……デパートみたい」

「因心界の本部なんだ。ただの戦闘ができる連中の集まりじゃないし、その他の人間も使うだろうよ。ほら、この前揉めていた、保障のトラブルだったりとかよ。この処理もここで対応しているんだぜ。きっと」

「なるほど。えっと、5階はどんなところだろ」



表原はエレベーターの前にある、各階に配置されているフロアの地図や掲示板を見ていた。

佐鯨は5階とかの会議室と言っていたが、そこに会議室があるにはあるが。


「講義室みたいだな」

「新人妖人のレクチャーをしているみたいだね。こっちで教わりたかったなぁ~」

「……こーいうのは趣味というか、使命にもならない奴が受けるもんだ。よーは、一般の構成員様御用達ってところだろ」


妖人になった者達全てが、突出した戦闘能力や稀有な能力を持ち込めるのはまずありえない。レゼンを保護するべく、粉雪達がすぐに動いたことは因心界にとっては珍しいケース。

特別がいくつも集まれば、普段と変わりないこと。

表原に自覚は薄いが、こんなにも幹部達に護られている事は失いたくない、貴重な戦力扱い。有する才能も、レゼンという妖精がいる名目だけではない事が伺える。

すでにそのレベル。領域に入っている。

一般クラスの妖人との立会いなら、ほぼほぼ完封するほどの実力を有している。そんな新人教習やもう伸びのない人間達の集いの中に入れてやることは、なんのプラスにもならない。

住んでいる世界、住むべき世界が違うのだ。それは文字通りに。


「……………」


とはいえ、残り2週間を切っているだろう。

SAF協会のアイーガとの死闘、不正の妖精のコココンとの戦いで、かなりのレベルアップを果たしたがまだ足りない。現状の表原のレベルに釣り合うか、それ以上の相手と戦う必要がある。

どっちかは分からないが、相応しい強敵とこの表原で戦わなきゃな。


「レゼン?」


あともう少し必要か。

表原が俺をまた少し、理解して、使いこなせるまで。



「どーしたの?険しい顔しちゃってさ」

「あ、悪ぃ」


聞かされた時は絶叫して、病院内に迷惑かけるほどだったのに。

今はそれよりも縮まった寿命だってのに、そんなこと忘れたみたいな面で、落ち着いてやがる。この開き直りぶりも"相当な死にたがり"だったせいか。そんな悪夢を見続けても、生き抜いていくお前を、少しは生かしてやりたいよ。俺は。


「いきなり幹部に声をかけるのも難しいだろうしな。しらみつぶしに回るのも良いかもな。途中、出会うかもしれねぇ」

「あ、だったらここの最上階に行ってみない?景色良さそー」


妖精も、人間も違っているが、互いに心と呼べる思考と重なる感情があった。

レゼンにとって。

ここに来るまでの理由と意味、ここに辿り着いた理由と意味が、自身にとって異なっている事が意外な事であった。

妖精としての使命が第一であり、そこに偶然にも転がって来た。一人の人間と繋がる理由。

そいつはちっとも可愛くもないが、色々と曲がりながら自分とは違う成長を遂げる姿に、ちょっとだけ気を許せる。


妖精と人間。それを合わせて生きる。

それが妖人。

なんか。言葉でも、意味でも。足し算でも掛け算でもなく。

それって。ややこしく答えのない事を生き続けるまで、問題になって、楽しんで答えに近いものを探るものか。

ややこしい事がちょっとだけ、楽しいもんかね。



ウイイィィーーン


エレベーターに乗り込んで、最上階を押してから言うもんじゃないが。


「そういえば、一般の私達が普通に向かっていいのかな?」

「場所によっては警備員に止められるかもな」

「だよねー」

「佐鯨達の様子からすれば、一般の出入りはそれなりに自由なみたいだが」



チーーーンッ


「あ」

「どーも」


入ってきた人達はスーツ姿。妖人の情報なり、キャスティーノ団の事件調査なり。いろんな人間との連携が行われているわけだ。

最上階を選んでいる表原達に悪く思いながら、その4つ上。

エレベーターは閉じるが



チーーーーンッ


「また……」

「妖人の方ですよね?いや、みんなエレベーターを使うんでね」

「階段よりエレベーターの方が楽なんですけど、ほとんど各駅なんですよ」


表原を新人さんと思っている人が親切に教えてくれた。妖精であるレゼンを見ても、まったく驚いていない。きっと別の意味で当たり前だからだろう。

次の階で止まって、また人が入ってくる。

高層ビルの都合上しょうがないか。最上階なら、一定のフロアを無視するエレベーターでも使えば良かったか。探せば良かった。


「そういえば、昼時だね」

「フロアによって、売店や食堂があるんだよ」

「結構な人がいるから何箇所か設けているんだ。ここを訪れる方も少なくないしね」



チーーーーンッ


そんなこんな。入ったり出たりを繰り返して、最上階まで残ったのは表原と


「ん?」

「え?」


あまり歳の差を感じさせない、髪を耳の下らへんで結ぶ、ツインテールにした小柄な少女だった。

最上階だからほぼ同時に出るわけだが、表原の頭の上にレゼンが乗っていることで。


「あの、頭の上にいるのって妖精だよね?」

「は、はい」

「じゃあ、あたしと同じかー!良かったー。今、いないけど……」


互いに妖人であるという、共通点を知った彼女。

テレ気味ながら表原とレゼンに助けを請う。


「あの、あたし。この本部のこと。まだよく覚えられない上に、ここで絶賛迷子中なの!助けて!ここまで来た縁って事でさ!」

「……え?」

「それ俺達も大差ないぞ?」


なんだろうか。天然というか、アホというか。

ポジティブに向かっていく笑顔で、表原の手をとって走り出す謎の彼女。


「じゃあ一緒に回ろうよ!ヒイロか北野川を一緒に捜そう」

「ちょっ!?」


結構強い力で引っ張られ、コケそうにもなる表原。それに気付いて彼女は止まってくれた。悪気なく


「あーっと、ごめん!あははは。迷子が2人になったから、テンション上がっちゃった」

「勝手に私達も迷子にしないでください!」

「俺達はただのしらみつぶしだ……」

「ごめんごめん」


マジマジと、これでようやく互いに向き合った両者。

彼女の方は表原の頭に乗るレゼンの方に目をやったが、表原の方は彼女の顔の下を見ていた。


「!」


胸、デカッ。これ、胸なんですか!?


「妖精くん、名前は?」

「俺から聞くのか?俺はレゼン。こいつは表原麻縫」


勝手に自己紹介されているわけだが、表原は少々絶句していた。

ついさっき会っていた北野川と比べると、壁と胸……という差ではなく、壁と気球の差だ。めっちゃデカイのに浮きそうな、飛びそうな、やわらかそうな胸をしている。

表原は少しドン引き交じりの、引きつった顔で尋ねる。


「し、失礼ですけど。その胸、何センチあるんです?」


歳を聞くのは失礼なので、バストサイズにする。

とはいえ、男だったら完全にセクハラ発言である。


「この前ってか、1年前の身体検査では96センチだったかな」


普通に答えるのか、あんた!?っていうか、1年前でそれ!?なんでそんな数値でるわけ?

ロリ巨乳というか、超巨乳のせいでロリ扱いされているかのような、グラマーな少女との出会いにちょっとショックを受ける表原だった。才能もそうだけれど、遺伝というのも酷いものだ。


「あははは、バランス悪いからちょーっと、萎んで欲しいんだけどね」


それ全国の貧乳の皆様が口揃えてキレるだろ……。それだけ大きい胸でこの発言である。


「私は大丈夫、大丈夫。まだ成長あるから……」


歳を聞かなかったのは正解だろう。たぶん、表原とそんなに変わらないお年頃なのはレゼンにも分かった。すこーしだけ、彼女の方が上だと思うが。

人の体の成長など、妖精にはよく分からない事であるが。

彼女のそれを成長だっていうのなら


「その時になるまで努力するんだな。ちょっとだけ、差は縮まるぞ」

「う、うん……」


1人の女として。ちょっとだけ夢見て、大人っぽい自分になる未来を憧れるのは良いことである。

それは男という存在もそうである。


「んー!展望用のテラスはいいねぇ!」


1人、観光客みたいな感想を言いながら、数人くらいしかいない因心界の本部の最上階から見渡す彼女。

このはしゃぎぶりはなんなんだろうと、ちょっと景色を楽しめない表原とレゼン。そんな綺麗なものより疑問の方を見つけてしまうものだ。


「あれ?まだ上にあるの?」

「そうみたいだな」


エレベーターはここを最上階と決めているが、まだこれより上の階が少しある模様。


「それに今見ると、売店で売られてるのが変わってますね」

「キャラクターグッズ?」


その事実を楽しんでいる彼女が教えてくれる。


「そーだよ!この本部は皆様のテーマパーク的なところでもあるからね!粉雪さんの、……。あ、クールスノーのグッズや写真集とか売ってるし。飛島さんの手作り御守りとか、蒼山くんの漫画とかも売られてるんだよ!そーいうのも本部の商業収入になってるんだって!ヒイロが言ってた!」

「正義の組織らしくない………。ですけど、親しみやすさはでますね。男の子とか好きそー」


ヒーローも人間だって伝えられるような、ゆる~く明る~くの印象がある本部の中。

表原とレゼンは売店にある商品を眺めてみる。まともそうなものもあれば、


「おい、蒼山が描いてる本にR-18というシールが貼られているんだが……」

「蒼山くんってさ。可愛いパンツが好きだなんて、変わってるよね」

「ツッコミはそこじゃねぇよ!」



政治団体、革新党の党首である網本粉雪がいるように、専属で因心界に務めている者は少ないものだ。

蒼山は売れない二流漫画家兼、盗撮魔。野花はファッションデザイナー。として社会で活躍している。

また、佐鯨や白岩も学生をしていたり。幹部だからといって、ずーっと妖人としての活動をしている者は少ない。むしろ、キャスティーノ団の録路やSAF協会の此処野の方が妖人として、反社会的に生きているところは多い。

売られている中に、表原はとあるファッション雑誌を見つける。表紙に映っていたのは網本粉雪であり、


「あ、やっぱり。粉雪さんって、女性モデルもやってましたよね?こっちの印象があたしは強いなぁ。妖人とか政治家の人とかよりも」


野花経由であるが、網本粉雪と北野川話法は臨時の女性モデルも務めている。


「そーいや、そんなこと言ってたな」

「お父さんがよく読んでたというか、口にしてたというか……うーん。あんまり、良い印象がないんだけどね」


その言葉は家族の方に言っているんだろう。よく思えば、表原の事は結構ほったらかしであったレゼン。プライベートの事は極力控えた発言をしていただけに、ここで軽く訊いてみた。


「ところで、お前の家族はお前のこと心配してねぇのか?家にも行ってねぇし、病院に来てもらってもねぇよな」

「家には帰りたいけど、家族に会いたくないなぁ。お母さんにだけはメールしたけどね」

「どんな両親なんだ?」

「お母さんは見ればすぐに分かる人。お父さんは………あんまり良い人じゃないというより、ダメな人?みたいな感じ。丁度、喧嘩中だったし」

「ふーん。ま、いずれ会うとは思うか」


表原の顔はただただ嫌っているというわけではなく、迷惑がっている。方向性は同じでも中が違っているということ。振り払うように本を置いて、他の物を見て気になるモノを見てみれば、キャラクターグッズなんだろうが。随分と可愛いデフォルメ女の子戦士のキーホルダーが……


「これ誰ですか?」

「それ佐鯨くん。佐鯨くんの妖人化、ブレイブマイハートは女の子になって熱を操る能力になるんだよ。結構、見た目キュートなんだよね。一部の男子に人気なんだよ」

「いやいや!佐鯨くんて……北野川さんと一緒にいた男の子!?え?こんな妖人化なんですか!?TSですか!めっちゃ変身じゃん!」


佐鯨の見かけは体育会系、熱血スポーツ男子って印象が強かった。デリカシーのないところを除いた見た目を察すれば、ゆくゆくは青少年。女の子にモテそうなのに、妖人化すると男に人気とか。色々回って可哀想に思える。

本人はそーいうところを気にしたりはしていないが。

……そして、こーいうグッズ商品があるという事をよーやっとツッコム。


「というか、誰が作ってんだ?こーいうの?」

「蒼山くんの同人会がやってる!キッス様もノリノリだし、粉雪さん達も宣伝にはなるからって事で大半了承してる。野花さんもそーいうところは握ってるかな」


一般に知ってもらうためという目的より、商売的な目当て、道楽目的の方が多い。因心界に務める者達にとってのだ。好んで因心界で活動する者もいれば、好きでもなくここにいる者もいる。そんな中でも少しは楽しもうと、各々サークル活動というものを自由に作らせているし、多少の援助もしている。

ヒイロは新人妖人達の講習会の先生として、毎週水曜日に本部で合同練習や講義をしていたりする。キッスも不定期であるが、本部の一室を借りてお茶会を開いている。

そのことを聞いて、表原は改めて……


「めっちゃ緩い組織ですね」

「だよね~。こーいうとこは良いよね。キッス様の気持ちが現れていて」


彼女はそこが気に入っていて、明るい笑顔で返してしまう。


「厳格な人じゃないのか?」

「家柄はそーみたいだけど。あの人、結構フワフワしてますから」


いや、たぶん。あんたの方が1000倍ふわふわしていると思う……。

と、表原とレゼンは心の中で思っておく。まだ涙キッスと出会っていないため、比べることができないが。


「あっ!そうだった!ヒイロ探さなきゃ!キッス様にも呼ばれてるんだった!」

「え」

「よーし、手分けして探そう!GOーー!」


思い出したことの重要性。彼女は慌てて、またどこかへ行ってしまう。


「あのー。ヒイロさんを捜すためにあたし達と一緒にいるんじゃないんですか?あたし達の目的、同じじゃないですか」


なんともアホというか、慌てているというか。

嫌いではないが。


「要領の悪い人だな。あんまり動かないで時間潰せばいいだけなのに……」

「その言い方、酷い」


けど、ほぼ同じことを思ってしまう表原でもあった。

忘れっぽいのか、その場のノリが多いのか。


「あの人、なんなんだろう?」

「ま、俺達も俺達で時間近くまでゆっくりしてようぜ」

「え?……あっ」

「そーいうことだ」


とか言いながらも、本部からの景色や売り物に興味を示している表原とレゼンであった。

あまり動かずともなんとなくではあったが、気をまわしてくれそうな人に心当たりがあったからだ。



チーーーンッ



その人とその妖精は予想通り来た。



「北野川と佐鯨はいい加減で大変だったでしょう?会議の場所すらロクに覚えてなくて」

『レゼン。探したぞー』

「飛島さん!ラクロくん!さっすが!優しくて常識人!」

「いや、ホント。助かりました。退屈でもなかったし、結構ですよ」

「それでは案内しますよ」



◇      ◇



因心界、"十妖"の幹部会。

それはいつも20階で行なわれる。

19階と21階という階層はなく、ただただ会議するというだけのために存在している階層。信頼ある者、力のある者しかここを使ってはいけない証拠だ。

緩いところは緩く。締めるところは締める。


「は、初めまして……」


飛島と共に入室した表原とレゼン。"初めまして"と言ったが、すでに大半出会った人達が待っていた。

デカイ長机に、3つの小さな花瓶に生け花。雰囲気に合うお茶と、苦手な人用のコーヒーのご用意。和菓子に洋菓子、色々と抓めるものを添えながら。

1人はいつも携帯しているガムを食べながら、声をかける。


「表原ちゃーん。来たのね」

「大分、調子良さそうじゃない。松葉杖とかないのね」


粉雪と野花。


「佐鯨と北野川ちゃんより早いのか、あいつ等はなにやってんだよ」

「蒼山くんの方こそ、なんで君はそんなあやとりをここでしてるのかね?」


蒼山と古野。


「ここまで来てもらって済まないね。こちらもみんな離れられないから」

「ヒ、ヒイロさん!傷、大丈夫だったんですか!?」


ヒイロ。此処野との戦いでの傷の全てがもう、完全に癒えている事で表原は喜びと驚きの顔をした。

そして、表原とレゼンが初めて出会った人。因心界のトップを務める、涙キッス。


「君が表原麻縫ちゃんか。ルルと粉雪から話しは聞いているよ」

「は、はい!」


さっきキッスの事を言っていた人は、比較的緩い人だとか言っていたが。大人の鑑のような着物姿は、厳格さが際立っている。緊張が高まるし、なにより人目見ただけで自分達とは全然違う。気配というものを表原も察知できた。


「かしこまってもしょうがない。テキトーに座っていてくれ。席場所は決まっていない」

「じゃ、じゃあ……」


表原は迷いなく、蒼山から離れるように席に座った。懸命って顔で粉雪は見ていて、一方で飛島は迷いなく蒼山へと近づいて、


ガツンッ


「いだぁっ!!」

「人のパンツであやとりすんな!!ここをなんだと思ってる!」


余裕の鉄拳制裁かつ、蒼山の隣に迷いなく座って変態行為を自粛させる。

めっちゃ良い人。表原の中で飛島の評価は爆上げである。


「っていうか、粉雪さん達。なんで注意しないんですか?」

「だって、私のパンツじゃないから」

「蒼山と関わりたくない」


粉雪と野花。直球の返し。表原は初対面であるが、キッスの方に顔だけ向けて確認すると


「?ああ。蒼山は能力が便利だから、多少のことは許す。ヒイロも同意見だろう?」

「俺にまで振らないでくれ」

「まぁ、粉雪と野花と同じく。私の下着ではないからな。北野川と白岩の下着でもないから安心できる」


それでも安心はできないんですけど……。


「君の下着だそうだ。表原ちゃん」

「はいいい!?」

「蒼山は君のいた病院に行っていたからな。古野を連れにな」

「ちょっ、蒼山さん!!なにしてんですか!!」

「ち、ち、ち、ちげーし!!キッスさん!いちお、この下着はルルちゃんのでもないですからね!!働いているナースさんのパンツを盗んだだけだから!」

「全然、反省してねぇーし!誰のとか関係なく、死刑!!」


机バンバンして、顔を赤らめて蒼山に抗議する表原であったが。キッスは企み成功って感じに意味のない種明かし。


「ふふ、私の冗談だぞ」

「キッスさん。あなたの冗談は結構笑えないんですけど」

「でも、自分の装備品くらいはチェックしてなきゃダメじゃない?」


そんな騒がしいやり取りをしている中、遅れてきた2組。

遅刻ギリギリ、場所すら忘れているというのに反省の色を出さない2人。


「うるさいわね。静かが取り柄のこの場所が台無しじゃない?」

「表原ちゃん来ていたのか。いや、場所忘れててさ。わりぃ。俺、北野川に案内してもらってたわ」


北野川と佐鯨もここに到着。一緒に来ていた表原には分かる。北野川さん、またメイクし直して来ている。


「珍しく来たわね、北野川」

「別にあんたと喋るつもりはないわよ」


北野川は粉雪と犬猿の仲を示すように、彼女と両端となる席を選んだ。

向かい合いたくもない。顔が見える。しかし、


「あ、あの……」


表原と席が近い。隣の席が空いている。誰が座るんだろうか?


「佐鯨。あんたはあの下着馬鹿を見張ってなさい。向こう側」

「え?お前が俺の席を決めんの?」

「この私の、隣に座るっていうの?」


一匹狼面の姿勢をとる。粉雪からして珍しいと言われるだけに、こんなところへの参加が嫌いなのである。


「北野川。お前がお茶を苦手だというから、洋菓子を用意したぞ」

「ありがとうございます。ねっ。キッス」


お茶や和菓子が苦手なのもあった。苦いのはダメだ。

会議が始まる前に、自分でコーヒーを作って、クッキーを頬張る北野川。


「まったく、気を利かせたのに。まだ来てないの?」


さっさと始めたいところ。そんな顔を一番している北野川であったが、それを言い出さない。

みんなはやれやれって感じで最後に残ったアホっ子を待っている。


「残りは白岩だけか、予想通りだがヒイロ。ホントにここにはいるんだろうな?」

「ただの迷子だよ。たぶん来る。きっと来る。うん、来ると思うよ」

「白岩ちゃんは方向音痴でドジっ子ですからね」

「いや、本部に在住してたのになんで迷うし」

「まー。典型的な奴だけど、その中でも群を抜いているわよね。あの子だけは……」

「彼女を待つだけならいいんじゃないですか?みんな、そうでしょ」

「蒼山にしては妥当な意見だな」

「ふん!白岩だもんな!俺よりアホだもんな!気を利かせなきゃな!」


会議時間を過ぎても、誰もそれに対して怒ることはなかった。

むしろ、らしいとか言われる始末……。

白岩印。


「白岩って、確か。因心界でも凄い人だよね?いろんな人が言っていた気がするよ」

「ああ、粉雪さんと涙キッス様と同格の強さって言われてる人だ。俺は見た事ねぇんだがな」


北野川の入場で多少殺伐とした空気になったが、白岩の名前が挙がるだけでちょっと和んだ空気になる。周りとの仲は良さそうだ。話を聞く感じ、悪い人ではなさそうだが。自分と同じような人。なにが違うんだろうと、表原も多少興味が出る。



そして、5分後。



「ごっめ~ん」

「あ、来た来た」


ここにいる全員が聞いた事のある声だった。あの表原にもだ。

どん臭さを笑顔で謝って、正直に告白する顔。

それより姿を見れば、彼女だって分かるほどの圧倒的な乳がある。


「迷ってて遅れちゃいました。白岩印、今!到着で~す!……って、あれ?あなたはさっき……」

「さっきの人が白岩さんだったんですかーーー!!」



表原麻縫と白岩印の出会いであった。

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