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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第12話『キッスのフリータイム!各勢力、動き出す!!』
27/267

Aパート

表原、野花、飛島、蒼山の四名がコココンとの激闘をやっている間のことである。


「おや、珍しいですね」


古野も直接、外で会うのは久しぶりである。因心界の本部が運営している病院に、お見舞い用のお花を携えて現れたのは妖精のお供すらつけていない、涙キッスであった。


「視察を兼ねて、ルルのお見舞いだよ」

「本部から離れてよかったんです?」

「白岩が帰ってきたから、しばらく任せている」

「……あの子に防衛なんか任せられるんですか?飛島さんも出て行かれたし、ヒイロさんは負傷したままでしょう?」

「なーに、ただの代わりだ。事件が起きなければ誰がその椅子に座っていようと関係ないものだ」


こーいうメリハリがあって、適度に自由だからこそ、因心界のトップとしては最適なんだろう。有能な部下にとってはありがたい環境を作っている。一方で、護られている者達にとっては少々懸念材料というか、やり方が甘すぎて不安が出ている声も少なくない。

元々、妖精と妖人という存在は稀有であり、人間社会の秩序を狂わしかねない力を保持している。正義という法も比較的甘く、危機というものを傍に置いて暮らしている原因には、なんらかの弱さがあって当然とみる。


"それでも"という言葉を付けて。人間にある社会の法をもっとも護っている強い組織が因心界であり、人々は彼等を頼るのである。その強さを持って抑止力になること。



「……………」


一日も早く復帰をしたい。

そーいう面で病人はいるべきものだ。ここの退屈なんぞより、ほぼ何もできないという時間が、生きていく心と体をじわじわと削られていく。ゲームなり本なりを満足できずにいるのは、それ相応に生きていない事が原因。特にそうではないのに、つまらない理由を当たるには良いものだった。


「入るぞ、ルル」

「!お、……キッス様」

「今日の私はお姉さんとして来ているよ。別にそんな堅苦しい呼び方は、プライベートなら要らないだろう?」


キッスは入院しているルルの部屋を訪れる。

ルルのお世話をしながらキッスは世間話をする。


「父さんと母さんは来てくれたか?」

「うん。2回ほど周りのお世話をしてくれたよ。あの2人、いつも通り元気だったよ」

「そーかそーか。ルル、勉強も頑張っているようだな」

「あまり学業に割ける時間ないから。こーいう時だからさ」



特に捗っているわけでもないし。何ができるか、何が満たされるかで。やっていた真似事に過ぎなかった。

キッスはお花を入れ替え、差し入れの林檎を剥いてあげる。


「ほれ」

「あ、ありがとう」


なんでも卒なくこなす姉だ。

それだからこそ、自分なんかのために来てくれる姉が好きじゃない。

心のこんな矛盾を的確に知っているところもだ。


「この病院を護ってくれたそうだな」

「!」

「あの此処野と戦った状態で、よくやってくれた。お姉さんとして嬉しいよ」


全てが皮肉に聞こえる。

お姉ちゃんの株が上がってよかったね。ってか?


「……そんなわけないよ。よくやったなんて」

「ん?」


妹のために剥いていた林檎をなんだと思い、キッスは食べながらルルが表面上隠している事を吐かせている。その当人はただのイライラの亜種としか思えていないだろう。


「護ろうと思ったのも、妖人としてだし。でも、結局。護れたのは表原ちゃんがいたからだし。此処野とのなんか、なんか。……戦いにすらならなかったし」


姉は強い。

自分からでは到底見えない距離にいる人だ。


「あたしにはお姉ちゃんに、なんの役にも立てない。家族に心配させるし、……邪魔でしょ?こんな妹……」

「ルル」

「見舞いになんか来なくても……」


そんな自暴自棄のルルにキッスは、とてもシンプルな言葉を伝えた。


「家族の事を心配しない家族などいない。していないのなら……その家族は理由があって家族じゃないんだろうな」

「………」

「そして、組織を纏める者が部下を心配するのは当然だ。部下の評価と貢献が、上司の評価になるわけだしな」


そんな言葉。そんな安い台詞。重さなんて分かりやしないけれどだ。


「お前が家族であり、部下でもある。それが成せぬとあれば私の方こそ失格なのだ。家族を護れぬ者、組織を纏められぬ者。私は私の目と心で判断する者をしっかりと見極めている……そのつもりだ」


100を言って、5くらいは拾って欲しい。

そんくらいの気持ちのある言葉だった。自分の落ち度とルルの落ち度を比べること事態、間違ってはいるのだが。


「ルルが戦っている時、お前が怪我をしている時。今のお姉ちゃんのほとんどは、因心界にとらわれている。助けて欲しい言葉を聞き流すしかない。ルルのように強い正義感と使命感を持っている存在もまた珍しいんだ。数少ない時間でルルをケアするのも、私が姉としてでもあり、組織のトップでもある役目だ」


現場で戦っている者と、組織間での駆け引き、やり取りの重さはまるで別である。

やることが違うからこそ双方の理解は難しい。

ただ、キッスの度が過ぎる強さと確かな実績、傍で見て来たからこそ、その差が明らかであるルルには分かるのだ。

分かるから……。



「……お姉ちゃんには、分かってくれないよ」

「ふむ」


比較対象が大きすぎる。

分かっている。自分自身、よく経験しているからだ。


「お姉ちゃんは因心界のトップ。あたしは……あたしは、ただの。妖人。……涙家の中なら、落ち零れだから。強い人達のことを考えて欲しいよ」


姉のこんなところが、本当に。本当に嫌いだ。

姉はなんでもできるとしながら、自分自身への評価には厳しいんだ。妬ましいぐらい。


「ならルルは。これからもルルのできる事をすればいい。私にだってできない事はたくさんある。現に、ルルは人を護るために戦い。負傷をしている。私は人を護る時間すら」

「だったら今の時間で……!」

「"常に誰かを護っていなきゃならない時間"を作らせない世の中にしたい。私はこの身だからこそ、自由な時間が欲しいからな。因心界が、そんな平和を護る立場で世界を護ろうじゃないか。そのためには強くなること、強くなるなら、怪我をしっかりと治して自分を見つめ直さなきゃな?お姉ちゃんとの約束な」

「………誰でもそうじゃないよ」



どーしてそこまでしてくれるのだろうか?

単純に、純粋な、そんな家族でいる事がどれだけ良いものなのか。ルルにはまだ分からないでいた。強い正義と強い家族を兼ね備える、それが理想であり素朴であり、幸福の1つである事。当たり前ってのがどれだけ難しくて、複雑でいて、でも……分かりやすい面もある。



サクッサクッ



「ともあれだ」

「なに」

「いや、本当なら。此処野にやられたという時に来たかたったんだが、ルルの無事がこーして見られて良かった。というか、林檎が美味しいな。また剥いてしまうな」


いつの間にかキッスの方が林檎を食べている状況だった。

ぼーっとしているところも気付かされる。味も分かっていなかった。


「まず、ルルは焦らずに怪我を治してくれ。もう少ししたら、幹部会を開いてちょーっとやるからさ。ルルも後の作戦に加えるかもしれない」

「!幹部会って。ぜ、全員を集めるんですか!?」

「うん。古野も呼ぶから。その時はまた、この病院の事を任せるぞ。数時間くらいだがな」



後の作戦。それの詳細は分からないが、"十妖"の全員を集めるとなる時。デカイ抗争が必ず起こるものだ。入念な準備をし、長期的な事になるのは間違いない。

幹部になること。ルルにとってはちょっと先を見た目標の一つであった。そこなら姉の事を少しは分かるかもしれない。そして、姉も自分のことを分かってくれるかもしれない。



◇      ◇



「お疲れ様ですね」

「ああ、古野。丁度良かった」



お見舞いを済ませた後に古野に用事があったキッス。ルルに伝えていたが、幹部の会合を開くため。日程調整をお願いしたかった。しかし、古野から意外な切り込み。彼らしさもあるんだろうが。



「ホントに仲の良い家族ですね」

「そうか?そー見てもらえると嬉しいものだな」

「病院内にいすぎるとストレスがありますからね。いや、ストレスを馬鹿にしちゃいけませんよ。お見舞いというのはそーいうストレスを吐いてもらうとこですから」



運動もロクにできない状況。動く口は達者で、誰かにそれをぶつけることでちょっとは心の付加も減るものだ。

不満や不安を少しでも吐ければ変わるものだ。

また元気に復帰して欲しいものだ。


「私もルルと話していると落ち着くんだ。家族に会えるのは、ルルくらいしかいないからな」

「……察しますよ。誰でも好きにやっているわけじゃない事をね」

「ルルの事を頼む。あの子は無茶をしたがる子だからさ」

「ええ。大丈夫です。それではお気をつけて」



こうして、キッスも病院をあとにする。

車なんかを使わず、歩いてここまで……まぁそこまで遠くはないのだが。

帰りの街中を歩いている時、気付く。


「あ、古野に予定を聞くのを忘れていた」


Uターンしようと思ったが。メールかなんかでやり取りすればいいやなど。ちょっとルルと似ていて、似ていないところがある。古野の場合、病院に在住しているため、席を外している時間はそう長くはできない。

政治関係の都合もある粉雪からは前もって周知してから、集めるように頼まれている。他にも学校やその他の仕事を掛け持ちで行なっている故、緊急な会議以外は2週間以上も前から決めていた。定例会議なんて事を設けていないのはムダというより、敵に情報を漏れた時が問題となるからだ。

特にキッスと粉雪、白岩の3名が一同に、集まるというのは他所の防衛力を低下させる事になる。


キャスティーノ団、SAF協会は、この3名の動向をチェックしている。

3名の内、1人が神出鬼没にうろついていれば、敵もうかつには動けない。キッスの言う、抑止力の1つとなっている。化け物なんだよ。とにかく、3名だけは突き抜けている。



ガチャッ



粉雪の自然すら操る狂気の度が過ぎる戦闘能力。

白岩のデタラメ過ぎるアホ100%の戦闘能力。

目立つ2人に対して、本部に在住し続けているキッスの実力というのを、詳しく知っている者が少ない。因心界の中ですら、キッスが"戦う"ことすら知らない者が多い。当人も戦うというのが好きじゃない。

抑止力のためであり、戦いを好まない事で周囲への安全を護るためである。




「……………」



護衛どころか、自身の妖精すらいない状況。

因心界の幹部、構成員達には常に妖精と同行、携帯するよう伝えながら自身はしていない。甲冑の妖精、イスケを持ち運びするにはこの"女"の力ではちょっと重いため、プライベートでは持っていかない。


「モテる女は辛いなぁ」


私服姿……。スーツ基本の粉雪からしても、キッスの私服は完全な和装姿で周囲からかなり目立つ。そんな人に視線がいかないのも無理な話。だが、そんな視線とはまったく違う、殺意のある目をいくつかキャッチ。

キッスはその視線の先よりも自分のこの服の方を見た。クリーニングしてもらう予定はないからだ。この相手が腕利きだと助かると思い、周囲の人達と同じように歩いていた。



ドオゥッドゥッ



大方、賞金に目をやった命知らず。国家・社会で使われるアマチュア殺し屋と言ったところか。

キャスティーノ団のような、ゴミ達の中での傭兵部隊。

街中だというのを気にせず、ライフルで狙撃してきた。銃弾は合計7発。3,4人の暗殺部隊といったところか。

それならば少し許そう。



ガイイィッ



「腕の良い奴がいるな。私の眼と、後頭部を的確に狙い撃ったのだから」



全7発は的確にキッスに当たっていた。お気に入りの服に穴が空いても許してくれる寛大さ。なにより、周りの人達には何かが通り過ぎ、激突したとしか分からない音だった。

周囲への混乱が少ない。戦うマナーが良くできていて助かる。

キッスは自分の目が捉え、そして喰らった弾丸の角度と距離を割り出して、駆ける。


「うぉっ!?」

「なになに!?」


道路に違和感なく溶け込むという危険性。

危険なロードバイクが歩道と車道の間をすり抜けている感覚で、和装姿の女性が走っているのだ。


「…………」


敵は複数のポイントから狙撃している。全員を捕らえるのは難しいか。

ともあれ、正面近くの奴等だけはとっ捕まえておくか。一般人も巻き込む依頼があれば金でやりそうだしな……いや。それよりも……。まだプライベート時間はあるな。しばし、楽しんでくるか。


スマホで時間を確認し。キッスはなにやらつまらぬ思惑を出しながら、この狙撃グループを単純な足で追いかける。

一方で、追われる立場となった連中が浮き足立つのも当然だ。



「な、なんなんだ!あの女ぁっ!?」

「た、確かに顔面を撃ち抜いたはずだ!!目玉に喰らったはずだっ!!」



正面から狙った二人にとっては衝撃であった。

追いかけられる事も、敵を完全に撃ち抜いた事も。


「頭を撃たれて死なないなんて、どーかしてるぞ!!」

「こんな事きいてねぇぞ!頭鴉どんからすのガキが!!」


ただ単純過ぎる失敗結果によって、こんなやすっちい依頼を受けた事に絶望。傷一つつかない相手から、こちらが把握できない追撃を受ける。当然のように逃亡する暗殺者達。

マンションの屋上から降り、ワゴン車に乗って逃亡。


「合流地点に急いで向かおう!!」

「くそが!!ふざっけんな!!ボーナス寄越せよ!!」


失敗の際は、急いで狙撃地点から離れるのは基本である。他のメンバーとも連絡をとり合い、ひとまず合流し。後の方針を固める。



ブロロロロロロ


「どけどけどけ」


ビイイイイィィッダァンッ


「邪魔だよ!テメェ等!!」


ブロロロロロロ


車はほぼ急ぎ足。このワゴン車でガンガンとすり抜けを行い、クラクションを鳴らされても、危険運転だとしてもお構いなし。それは彼女も同じ事か。荒らっぽい運転のおかげで、周囲が気付きながらも当人達は追われることを恐れて、無視してくれている。

その場でメールを送信。

お相手は本部にいる白岩とヒイロの2人にである。


『寄り道する。もう少しの間、本部を任せる』


キッスはすでに狙撃者達の車を特定し、大胆にもその車の屋根に乗り込んでいた。荒っぽい運転だとそんなことをされたことも気付けないものだ。

振り落とされる事もなく、椅子に座っているように留まっているキッス。


「高速か」


時速100キロを越す道路。車の上。



ピロリン



「粉雪?」


メールだと、送った相手と違う相手から連絡を受けるとビックリする。

何事かと思って開けば。


『やっほー。キッス、車の上に乗ってるみたいだけど、どーしたの?今、あなたの4つ前の車にいるわ』


端から見れば、もう馬鹿しかいない。

危険な運転に気付かないわけなく、それを危険とも思っていないのが2人もいた。

キッスはその理由を悪ふざけな任務でもなく。


『こいつ等が降りたら危険運転の説教をさせたくてな。今、大丈夫なのか?』

『もちろん』

『私がこいつ等を説教し終えたら、乗せてくれ』

『了解。離れて見ていてあげる』


随分とタイミングが良い事だ。


「偶然にしては出来すぎだな」


敵からしたら、最悪だろう。ご覧になったようにキッスの化け物過ぎる実力に加え、後ろには最強狂気の粉雪が控えている状況。しかも、その事にまだ彼等は気付いていない。だが、キッスはいちお、粉雪が連絡の通り。4つ前の車を見た。運転席にいるのは粉雪に仕えている老執事、南空さんだった。粉雪の姿は見当たらない。後部座席にいるのだろうか?


『粉雪。お前、本当に車内にいるのか?』


その文字列はキッスにも同様なものを返したいものだ。

そして、粉雪はこーいう返答をした。


『いないけど。それが?』

『いや、どーいうことだ……』

『南空から連絡もらって、手伝えを指示しただけよ。私自身は政務中よ』

『なるほど、理解した。気を回してくれてありがとう』

『どーいたしまして』


やっぱりという気持ちと、どーしても煮え切らない気持ちのぶつかり合い。

因心界がいまいち纏まっていないのにも、自分の器量が足りないからか。粉雪のような民衆達へのカリスマ性がないからか。白岩のような無垢で純粋過ぎるものがないからか。

トップはいつも下から言われ、上には言えぬ。苦労があるんだよ。

南空の連絡先を知らないため、様子見をしていて欲しいと願うキッス。まぁ、粉雪ではないため。それほどの心配はあり得ないだろうと判断している。



ビイイィィッ


「網本党首ですか」

『南空さん。キッスの見送りまで頼むわ。手出しは……要らないわ。邪魔者だけ排除しなさい』

「かしこまりました」


こちらは南空サイド。たまたまというか、あんな乗車して、あんな暴走運転をしていたら、目立つものである。粉雪に報告したら、代わって見守るように指示を出された。

キッスを狙うという馬鹿なこと。キャスティーノ団の録路や、SAF協会のシットリが指示したものとは考えにくい。キッスを侮っている連中の仕業と見ている。釣れる者は少ないであろうが、数少ないキッスの実力が見れる機会は貴重である。少々、趣味が悪いが、手持ちのカメラでキッスの様子を追っている南空。

妖人の最強は、彼が仕えている網本粉雪であるが。

名門涙家、その現当主を務める涙キッス。彼女もそれに匹敵すると、仕える粉雪が語るほどだ。

個人的な興味がある。



◇      ◇



使われていない造船所の一部屋にて、札束を数える手つきが双方共に慣れていた。


「んー……」

「いかが致しましたか?」


人は不安によって、備えを作る。経験することで学ぶと同じくだ。

それはとても大切な事であるが、作られるというものでもある。一概には言えず。とはいえ、悪質と呼べる手もあるものだ。



「やっすい商売だな。あんた等はこーやって、俺達と出会って金払うだけで良くてよ」

「ふふふふ。別に悪さしてるのはあんた達でしょ。近藤くんは、頭が良くて、商売上手なところが良い」



キャスティーノ団のナンバー2、近藤頭鴉。

その彼と向き合いつつ、護衛を3名つけて話しているこのインテリヤクザのような、スーツ男の正体は。


「保険会社は随分と悪いところだな。沼川左近さんよ」

「ちゃ~んっと仕事しております。国民の皆様が因心界を支えてもらうため、保険に入っていただく。ご支援させてもらう。信頼と安心には、お金が必要じゃないですか~?もちろん、キャスティーノ団さんという悪党も必要ですがね……」


相互の関係とは言いがたく。

キャスティーノ団と取引を用いてのこと。


「涙家が支えている、保守性では国を護れない。だが、網本粉雪が因心界の席に座すれば。私共の商売は大繁盛でしょう。彼女なら政界との繋がりも深く、国という大義名分で我々は動ける」

「……ははは、まー。そんときの豪邸はちゃんと用意しておけよな?いつだって切り捨てる事ができるのは、俺もあんたも同じだからよ」



因心界はこの国における妖人集団の中心であり、強い正義を持った組織。……というのは、骸形な側面が強い。あくまで妖人達を管理している団体。国家の援助は決して良いものでなく、妖精の国という曖昧なところからの世界介入には、厳しい見方を持っている。

かつて表原麻縫が知らなかったように、妖人と呼ばれる存在を情報操作などで民衆達には都市伝説のままにしておきたいところも、国家としての思惑がある。そーいう国という安全で時代遅れとも言える存在の者達からは、名門である涙家の涙キッスが因心界を支え、責任までも背負って立つ事を望んでいる。


よーするに、金払いたくねぇし、責任なんざとりたくねぇ。

投げやりである。

変わりたくない者達であり、変わりたい者達もいる。

考えている事が等しいのが、腹立たしいか。


その難題を分かりやすくすれば、


「本部にずっと引っ込んでるキッスを外に引きずり出し、どーにかして殺しさえすれば、簡単に早く丸く収まる。国と世界そのものが妖人を認め、愚民共から有無を言わさず、金と人を徴集する」

「その旨い汁を私共で頂くと……」

「録路なら倒す手筈があんだろ。因心界をぶっ潰してぇついでによ。小手調べに金で雇ってみた連中の情報もありゃ、参考にはすんだろ」


頭鴉にとっては、その先のことなどどーでも良い。無論、沼川もだ。

今ですらここに転がる金で上手くやっていけているからだ。何事も加減というのが大事。

キッスが因心界から離れてくれる方が、より儲けが出る。表立ってしまうような行為にはリスクもあるものだ。あくまで粉雪が因心界を正式に率いてくれた方が、こっちが助かるというのは彼等の考え方に他ならない。



「じゃあ、私達はこの辺で失礼します。楽しみにしていますよ」


頭鴉は使える。録路や此処野の根源には、ただただ漠然とした悪意のみ。金儲けの頭はない。だが、頭鴉は大人の悪ってものを理解し、利用し合う。こいつがどこで死ぬか分からないが、毟れる。愚民共から金を毟り取れる、作られた悪が出来上がる。


「あーっ。こっちもこんな金以上なもんを期待している」


いい小遣いだよ、テメェはよ。沼川。

金に妖精。力と自由を手に入れば、商売なんざ楽勝だ。利用しきったところで、お前を消せばいい。



バタァンッ


お互い、関係には利用価値という判断である。

沼川が去った後、頭鴉も動く。自分が差し向けた傭兵部隊の結果報告を知るためだ。

そして、その場所は今。



「君達は手強いな」



とある港の倉庫にて、4台の車が入っていた。

銃火器を持った9名の傭兵部隊と涙キッス。計10名。準備運動がてら、手足をぶらつかせ、特に入念に手のストレッチをするキッスは。

右手を見せながら、宣言。


「この私が……右手の親指と人差し指を使ってやらねばならん相手だよ」

「な、な、舐めてんのか!!」

「ふざけてんじゃねぇぞ!!」



涙キッスの戦闘の大多数は、"舐めプ"……である。

粉雪のような殺意、悪意、狂気の塊がある手加減なしの殺戮戦闘とはワケが違う。

そーいう意味では相手の命は多少、助かりやすいかもしれない。



ググッ



「そう気を落とすな。お前等じゃ、勝てないまでも遊び相手にはなれよう」



パァンッ



空気の炸裂音にしては短く。風が通り過ぎたという、遅すぎる表現では足りない。

喰らった者をして、"音が弾丸になった"。それほどに強くて早く、避けようのない空気を弾いた一弾。



ドゴオオォォッ



「な、なんだっ!?」

「余所見をするんじゃない」


キッスの空気弾は強い上に連射、乱射とできる。



ドゴオオォォッ



「おわああぁっ」



な、なんだこの女!?ホントに生身の人間か!?直接触れもしていないのに!

指で空気を弾くだけで、人をぶっ飛ばすなんて技があるのか!?こんな攻撃で俺達が倒されるなんて、あってたまるかよ!!



相手にしてもらえているが、舐められているという屈辱。ただそれだけでは、キッスのまだ底知れない強さを感じ取るすらできないだろう。

遠くで見ていた南空には感じ取れる。


「ただただ強過ぎるのですな。あのお方は……」


実際。長く、粉雪様と共に戦っている一人。それほどの時間と経験を共にしながら、キッスの能力については粉雪様も一切分かっていない。妖人化せずともこれほど強ければ、能力は必要ないとも言える。

"白兵戦では白岩印こそが最強"と、このお二方が称しているが。双方共に謙遜とも見られますな。



ベキイィッ



「うーむ、一通り片付いたかな?」


プスッ


触れる事すらなく、指から放たれる空気弾で圧倒したキッスは、テキトーに選んだ人間をまだ宣言通り。人差し指一本で相手の腹を突き刺し、持ち上げて尋ねる。急所を外しているが、とてつもない痛さである。


「い、いでぇぇっ」

「私を狙うのは構わないが、誰の指示で私を狙ったんだ?命を獲りたくないんだが、教えてくれるか?」


明らかにキッスが襲撃されている。それは南空も分かっている。だが、この圧倒的とかいうレベルの差どころではないこの現実が、そんな理不尽を認めるわけにはいかない。

助かりたいあまり、金よりも優先して


「ど、頭鴉だ!近藤、頭鴉に!命令されたんだ!金で!だ、だから、助けてくれ!もう、しねぇよ!!」

「いいよ」


ゆっくりと相手を下に降ろしてあげるキッス。それどころか治療まで始める。襲ってきた相手に対して、この慈悲である。


「命は大切にするんだぞ。お前達が知りもしないで戦った相手。そいつは怪物だった」

「……………」

「金をもらったら、人を助ける人生にしてみるといい。罪を犯して死ぬというのはつまらない事だ」


強過ぎるからこそ、悪意も敵意も意味を成さない。

涙キッスの独特な価値観によって、ここにいる者達は救われた。大嵐の中、海を渡ろうとしたみたいな冒険だった。そんなやり取りにどう思ったか。決着と見て、南空はキッスの前に現れる。

なんか人を助けてあげた。キッスがそんな感じの顔で帰りの車に乗り込んだのだから、南空の方から失意ある言葉を車の発進と同時に投げかける。


「あなたは"組織のトップ"としては、失格でございます」


キッスの顔はしてやったりという面が薄れ、少しばかり哀愁を漂わせるものに変わった。


「…………そうだろうな。向いていない」

「罪を慈悲のまま許すというのは、罪を繰り返しても問題ないという事を植えつける。また、次の罪で味を知る事もあり得ます。むしろ、失敗を経て学んだ分、狡賢くもあり性質の悪い事ですよ」

「南空さんのような厳格な教育者だからこそ、粉雪のような強い方ができているのであろうな」

「あの子はまた違いますがね。ともあれ、絶対の強者であるあなたが、貧弱な弱者の罪を見逃す行為。より脆弱な者がしいたげられる事があり得るのを、あなたは見過ごした」



何が正しいかどうかは、各々の判断。確かに金さえ積めば、人を殺すことをなんとも思わないような素質がある連中。反省しているという口だけ常套句が出てきての、再犯は目に見えている。


「彼等にも人生あるから。やり直しの機会を与えただけ」

「彼等のせいで誰かの人生潰れたら、ダメじゃないですか?」

「…………」


なんとでも言えるものじゃないかと思う。


「私の自由だ。自由とは強さ。……粉雪ならあなたにそう返すだろうな」

「ふむ。やはりあなたは失格ですよ」



ピロリン


そんなやり取りをしている時に、メールが届いた。


「!飛島か」


捜索していた蒼山の居場所、その生存を無事に確認できた報告であった。

これで全員の所在の確認がとれたため、キッスは召集をかける。


"十妖"。全員を集めた、因心界の戦略会議。

そして、そいつは因心界だけに限らない。多くの組織が今、これから始まる抗争の準備に動くのだった。


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