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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第60話『LAST STAGE ”696 VS 373”』
259/267

Hパート


「各駅停車は嫌いかな?」


ぐにょ~~~っと。


「座ってもいいんだよ」



周囲の景色は藍色の空模様。自分が立っている、この部屋。奴の言う通り、まるで列車内のようなところ。壁もないが、風もない、ワープ中の様相をしているようだ。

寝台列車みたいな座席、テーブル、お菓子や飲み物……。

別の空間に連れて来られたクールスノーは


「……ふ~ん、喧嘩売ってる?」

「ん」


連れて来た奴のことではない。


「サザン。あんたがここで動いてくるなんてね。いつもは”妖精の国”に引き籠って、内務やってるんじゃなかった?」


その質問に対して、サザンに言っているようではなかった。クールスノーの視線はサザンの後ろに控えている2人であり、その1人に対しては、異様な感情を出したい気分だった。


「”妖精の国”を護るのが王様としての務めだ。まぁ、こんなとこで戦う気はないよ。今はワープ中。その速度をかなり落とさせてもらった。妖精達によって、到達する時代にラグがあるのは、この移動分。各駅停車か、特急か、……はてさて」


ここに来た時は周囲の把握を意識したこと。自分を警戒したこと。

自分のフィールドを作り上げて戦うクールスノーにとっては、異空間に飛ばされるというリセット行為は慎重になる。自分が振り解けなかった相手の手は、


「ナギさんと、カホまで用意するなんてどーいうこと?死んでいる2人を利用するって、私に対するヘイトなのかしら?」


サザンの後ろに控えているのは、アダメが用意してくれた涙ナギと涙カホの人形だった。サザンの相方であり、SAF協会との戦いで2人は戦死してしまった。

サザンもバツが悪い気分になる……が、



「手段を選べる楽な王じゃない。なにがなんだろうと、護るのなら嫌われようじゃないか。私にはナギとカホがいる……まぁ、本物じゃない事は言っておくよ。信じるかな?」

「私が振り解けなかった。万物全てを”掌握”する能力は本物でしょ」


少しの手加減も油断もしない。

状況として、圧倒的な優位なのはサザン側ではあるが……。クールスノーをよく知っているからこそ、ここで仕掛けたところで、勝率は40%あればいいくらい。クールスノーも自分の経験から言って、たぶん、勝てるっていう頭はある。

ナギとカホが揃った時は最強と呼ばれていても、過去のお話。

そして、死んでいる身体を利用しているようなもの。何らかのリスクや条件があることは、ルミルミを助けに来た、涙マキから分かる。



「死んだはずのマキが目の前に現れた時。こーいう事態をほ~~んのちょっと、覚悟はしてたんだけど。いざ、ナギさんと戦うとなると、困るわねぇ」


好意を持っていた人だから


「私の中のナギさんを侮辱しないでよ」

「君からの嫌悪や軽蔑は、とるに足らないな。思ったほどにね」


クールスノーが熱くなるような言葉を吐けば、サザンは涼し気にそれを流す言葉を吐く。

マジで今からやり合うかと、しそうだったが。

クールスノーの方から力を抜き始め



ドサァッ



「ここ、思ったより広くて、各駅停車の割には早いじゃない」

「停車する駅は少ない」


サザンの言う通りにしたわけではない。あくまで自分の意志で、サザンと向かい合う形で椅子に座ってあげるクールスノー。



「クールスノーと戦う場合。広大なところで、常に”移動”し続けるエリアで戦うのが、理想的だからね」

「よく研究してるわね」

「ナギは君の事を良く知ってた。カホはそれ以上にね」


自分のフィールドを作り上げるまでの格闘戦。それも2対1。

勘の鈍り、引退からの復帰、相手はここまで前線で戦い続けて来て、手の内を知る者。

それが五分五分。若干、サザンに分が悪いと踏んでも……。



”妖精の国”を護るというのなら、これ以上に何をしてきてもおかしくはない。



覚悟の上ではサザンの方が上に至っていた事を、クールスノーは察した。ぶつかる予想は十分にしていたが、こっちはサザンを殺しに来ているわけじゃない。彼よりも上にいる存在、アダメだ。

それにルミルミとの戦闘をしてきたばかり、……着くまでの休憩は必要だ。

そう、



「着くまでに」



これだけの好条件で迎え撃っているサザンをして、やる前から勝敗に%(パーセンテージ)を持ち込むほど。クールスノーは常々、強くなっている。

覚悟という精神的な部分は、拮抗かあるいは捨て身のいずれかで発揮。”妖精の国”を護るというのなら、何をしてもいいのが、サザンのやり方だ。



「話でもしないか。お互い積もり積もった事があるだろう。クールスノー……いや、テンマ、フブキ。お前達もいい加減、私と喋らないか?」



自分達が激突するのなら、言葉を遣うのはこの時ほど好条件はない。


「言っておくけど、私もテンマもフブキも」

「…………」

「止める気ないんだけど?あんたが逃げてくれるのが、嬉しいかしらね?」

「……残念だが、それは王様の立場上。できないなぁ」


意志は曲げないとクールスノーが言ったのは、サザンがちょっとでも思う理想であり、クールスノーとしても色々含めて、サザンを思い合っての事だった。

”協力しろって言葉を遣わなかった”

この事から、ルミルミ達、SAF協会との違いが明確になっている。


「ふ~、いい加減。話しをしないか?テンマ、フブキ。私と同期だろう?そんな喋った事がないから、お前達の声も忘れちまっている。クールスノーの口からは、今は聞きたくないんだ」


クールスノーに代弁させることで、テンマの思惑を聞いて欲しくない事だろうが。

サザンがここで、言い当てなければ、これから先の話し合いに影響が出ないだろう。そして、その思惑についても、おおよそついている。


「お前達。”妖精を全滅させる気”か?」


自分と同じ種族を殺す。

とても残忍な行い。


「最後に君達が残って、ハッピーエンドのつもりかい?」


目的がそうであるなら、革新党と手を組んだ理由にも行く。だが、テンマとフブキの2人が、なんでそんな行為を肩入れし、むしろ、主動しようとするのか。

2人は、クールスノーという怪物を用意してきたのだから。

2人の行動の理由。


「……サザン。あなたとは話すつもりはなさそうよ。だって、そうじゃない?こーいうのって、自分の思うままにするべきなんだから」

「困るんだよ。世界がそんなに単純じゃ。複雑なんだよ。王様って楽じゃないんだよ」


こっちの身にもなってよって、情けない表情を晒すサザン。

そこにはたどり着けない。アダメを殺すだけなら、ルミルミと一緒に手を組めばいい。サザンがそーいう立場なら、そーするのだ。しかし、彼女達はしなかった。機を待って、自分達の仲間として戦ってきた。

アダメだけじゃない。その理由は


「……ルミルミの、妖精のためにある国を作る。……その思想に共感せず、この私に戦いを挑む。いや、ルミルミと戦えるんだから、そーいう理由じゃないのも検討がつくが。私にはそこまでなんだ。何があった?何を知ってる?私は王様だ。不躾ながら、”妖精の国”の事は全てを知って、自由に喋らせてもらっている。こうして2つの世界の平和に貢献している」



少しは喋ってもらおうと、自身の悪ぶりを伝えた。

サザンも喋ってないで、キッスやクールスノー達に指示を出した。アダメの存在やその理由なんか教えてしまえば、”妖精の国”も人間界も揺れ動く。クールスノー達に言える事も少ない。

そっちが喋らないんだから、こっちも喋らない……。じゃあ、戦うしかねぇ。いや、それ困る。


「まいったな。フブキはともかく、テンマは喋らないか?どうして、2人共喋らない理由を教えてくれないかな。その辺はクールスノーでもいいのかな」

「条件つけるなら、色々とペラペラ喋りなさいな」

「……そうなると、人間である。クールスノーの存在が困るのだよ。言葉を作るのは難しい」


う~~んっと、考えながらサザンはどうやって話すかよりも、クールスノーの前で話せることを吟味中。隙だらけに思えるが、サザンの後ろに控えている、ナギとカホがしっかりとクールスノーを見張ってる。クールスノー側からすれば、ダメージ少なく、サザンを倒したい。その隙を隠しているだけでも、サザンもやり手だ。

どちらかといえば、サザンは自分が脅されている側と思っている。


「……………」


到着まで時間はたっぷりある。私がここで倒れたとしても、キッスやマジカニートゥが先回りできる可能性がある。クールスノーとしても、まだ対決は避けたいところ。

テンマとフブキが口を割らないんなら、クールスノーを刺激してからの方がいいか。できれば、戦いたくない。クールスノーが止まって戻れば、一番良い。

彼女の理由。



「南空茜風は死んだ」

「!!!」

「名誉のために、誰にとは言わない」

「ハッタリでしょ。私とあんたは一緒にここに来たのだから。現実世界の様子を感知できるわけ?」


その言葉を鵜呑みにするわけもない。サザンも、死ぬことは分かっているくらいだ。

感知と言ったが、それに対して


「多少の未来が分かってる。南空はここで脱落だ」

「……嘘ね。南空が死ぬことはない。まだ道の途中。脱落だけなら、手土産がいるわね」


予想してはいないことを含めての発言。

クールスノーがやや冷静さを欠いたのは事実だ。サザンの発言は大きい。そこから


「もう止めておけ。人間がこれ以上、関わる意味はない。私を殺すならそれでいいが、キッス達を完全に敵に回すような事だぞ?」

「すでにヒイロを脅して、ここまで来た。戻る気はない」

「まだここなら引き返せる。南空がいないなら、もう理由はない。お前の中のリーダーは死んでいる。これから先を語ったり、戦う大義があるのなら……テンマとフブキに、理由を語らせろ!お前自身もそうしないとダメだろう!」


クールスノーの願う気持ちよりも、テンマとフブキの願う気持ちの強さを天秤にかける。

南空が死んだことは、確かにハッタリだ。ここからじゃ、本当なのか分からない。サザンもここは賭けに出ていた。テンマとフブキをここで、クールスノーが確認したがる気持ちは出て来る。

おそらく、南空とテンマの関係は、”対等に近い”……が、”利害の一致”もあり、若干のズレがある。



「”大義がない強さは弱い”」



この場での覚悟がサザンの方が強い理由。

大義がハッキリしているのは大きい。


とはいえ、”大義”とは


「私達が決まってればいい。大衆を従わせる王様とは違うのよ」


あくまで同じ群れを作り、高め合うためだ。

より殲滅を意識しているクールスノーからすれば、必要がない。理由を秘匿にするのは……



「……やっぱり。だから」


サザンはその理由を教えろって言っている。秘匿し続けるな。


「妖精同士殺し合ってどうする気だ!?」


それは自分達のルールだ。それに今更、喚くなんて、自分でも情けない。

情けないけれど、……。どうして、こいつ等に強い意志がある。何を考えてやがる。とても良からぬこと。まだ喋らせるのかと、サザンは



「答えが合うまで、こっちは話すぞ」

「どうぞ」



◇             ◇



フブキとテンマを語る上では


『テンマっていう、妖精を捜しているの。彼も、あたしのように、粉雪のような凄い人を捜しているはず』


網本粉雪の


「……分かったわ」


昔話を語らなければならない。


「南空さんだけじゃなく、フブキにも救われた。今は2人のことを考えてみる」


南空に引き取られてからのこと。

養育されながら、フブキが捜している妖精、テンマを捜していた。とはいえ、世界は広すぎるし、彼女一人。革新党の面々でも捜せなかった。


「でっけぇな~」


少々、自分の背が高い。でも、この人の方が凄く強い。こんな人もいるのかって


「お前、強くなるな」


それがどーいう気持ちになったかは……後で分かる。


「ナギさん。私達、今。テンマっていう妖精を捜しているんです」

「なんだよ。粉雪は妖人なのに、フリーなのか?だったら、俺が立ち上げようと思ってるチームに加わってくんねぇか?妖精を集めることもしてるから、お前達の都合にも合うぜ」

「……理由は聞かないんですか?」

「困ってたら助けるくらいしか考えねぇーの」



フリーというのはちょっと違う。涙ナギと出会う前より、革新党の面々に世話になっていて。



「ナギ。私の”養女”に手を出しているとは、本当か」

「南空さん!?あんたの知り合いだったのかよ!!?」

「お前は昔から……」

「これはホントに偶然だって!たまたま、粉雪が困ってたから、その……」

「あくまで、私達とは”対等な関係”な!粉雪は、私の跡を継いでもらう!」

「分かってる分かってる!あんたとは揉めたくない!!お互い、国を良くするのが目的!拳をぶつけ合う馬鹿同士じゃないだろ!」



因心界と革新党、2つの組織に席を置く。

南空はこの時、かなりのスピードでナギに迫っていた。因心界も今ほど、大きな組織でもなかったし。彼等と行動をしてから半年後に発見する。


『テンマ!!』


網本粉雪のもう1人の相方、テンマと出会った。


『フブキ。お前はパートナーを見つけたのか』

『うん!!この粉雪と一緒に!テンマの方は!?』

『いや、残念ながらな。……”目的の妖精”も捜しているが、見つけられていない』



フブキもそうだが、テンマも心強いパートナーを捜していた。ただし、彼にとっては……。とても重要な存在。


「力だけじゃダメって事?」


出会った当初、テンマは粉雪と契約する事は無かった。そもそも、妖精が契約できる人数は一人だけであり、その例外となったのは、この網本粉雪に他ならない。


「南空さんはどうかしら?相方としてなら私も安心できる」

『あの人とは適合できる妖精なんていないと思う。私達と対極な存在』

『あの男か……俺の目的には共感してくれると思うが。……サザンやルミルミの息が掛かった因心界の者達にはできない。俺はそこには行けない!』


テンマとフブキの目的の全てを聞いているわけではなかった。

彼等にとっては、妖精としての、大きな裏切り行為を行うがため。テンマを見つけた後で、その処遇を粉雪が握った事は幸いだった。


「フブキ。テンマくん。あなた達、その大きなことに私を巻き込むつもりだろうけど。それってホントにやりたいものかしら?」

『??』


粉雪はその目的を聞かなかった。その理由は、


「無茶をやるんじゃない?無理をやるんじゃない?好きよ、私」


相手を見定めたかった。自分が変わろうとして、そう変われるものじゃないから。そして、他の人達もそうだ。


『何を企んでいる?粉雪』

『粉雪!い、い、今まで黙ってたけど、あたし達は……』

「いいのよ、フブキ。私はあんた達の目的に興味があって、聞かなかった。南空さんもそーいうのを望んでいる。だから、私がここで無茶をする。そして、あなた達の無茶とその理由を教えなさい」



お互いに信じるかどうかだ。

そのためだけに、粉雪はテンマとの契約を選んだ。本来、不可能とされるべきことだ。前例すらないことで、妖精達からも人間達からも、死は免れない。


『……フブキ。俺はフブキが信じた、網本粉雪を信じるぞ』

『テンマ!でもさ。失敗したら、きっと』

『死んだら同じだ。いいだろう!!俺は、粉雪の無茶に乗る!!それから、俺達の目的を教えてやる!!一蓮托生だ!地獄まで付き合ってもらう!』

「ふふふ、良いわね。相当な覚悟があってさ。私って、もう何度かは死にかけてるからね」


1人で2人の妖精と契約する。それがどのような妖人となるかも不明だ。

並みの存在ならば、妖精共々、死ぬ。

妖人としての類まれな才能、邪悪さ。今の世界を変えようとするには、それだけのもの。変えられる奴が普通や良心を持ってるわけがない。



バギイイィッ



テンマとの契約。そして、クールスノーとして、妖人化した時。

網本粉雪とテンマの身体は崩壊しそうになった。だが、お互いの素質がその例のない事を可能にした。


「『この無茶では死ねない』」


フブキの全身に、テンマの全身がくっつくかのような状態で留まる。

双方の能力を発現できるまで、自分の身体能力を制御できるまで……。網本粉雪にとっては、すぐの事であり、テンマにとっても同じことだった。

とはいえ


『奇跡だ』


テンマは言うし。


「やはり普通ではないですね。あなたのような存在は、私にとっての転機だ」


万が一よりも高い確率だった。

南空も、その事については、反対こそしなかったが。条件付きで見守った。死んで欲しくはなかった。

現在に至るまで、2つの妖精と契約できる人間の素質ある者はいない。単純な力ではなく、適応する力というのが網本粉雪の凄さと言える。


「体の方は大分慣れてきたわ。これでまだまだ……南空さんやナギさん。フブキとテンマのために、私は戦える」


自分が強くなりたい理由はとても簡単なものだ。

そこに命を懸けられるかどうかは、人によるものであるが。

網本粉雪は……



「テンマ。フブキ。2人と契約したからこそ、感じるモノがあるんだけれど。その口から、あなた達のやりたい事ってなによ?」

『知れば戻れないぞ』

「戻るつもりはない」



計画は4人となった。

テンマとフブキのとある目的が、粉雪と南空に伝えられた。



『”妖精の国”を滅ぼす。人間達の未来のために、妖精達はこの星から去るべきなんだ』



……テンマとフブキのとある目的。

それは自分達も含めて、妖精達の根絶である。そして、彼等の根源には



『俺達、妖精は。……作られた根幹には、人間達を争わせ、絶滅させるためにある。粉雪は違うと言いたいが、人を平等にさせるだなんて、そんな甘言から理不尽な力を与えてしまう。管理。制御ができない人間ほど、強い力を生み出す妖精は、人間社会に害だろう』



人間達のためにあるのだ。



『私もテンマも。……”妖精の国”では、妖精遺はみんな人間達のためにと、ご指導をされてきた。けれど、私達の実態は人間達を滅ぼすためにあった』


淡々としているテンマの言葉よりも、フブキの心から伝わってくる、絶望した声。


『グチャグチャになった。師事してくれた方を恨まずにはいられない。私達が人間達を思うからこそ、離れなければいけない!私達が人間達にできる事をしたい!!』


粉雪は直にフブキとテンマの声を聞こえるが、南空は2人の声が聞こえないため、粉雪が機械的に訳してくれた声でしか分からない。しかし、だからこそ。


「……テンマ。フブキ。お前達の生まれは、お前達が死ぬ時に決めればいい」


妖精が同じ仲間達を滅ぼす決意。南空はあくまでも、自分の価値観と一致したからの協力に過ぎない。


「私も同じ考えだ」


……そのニュアンスが、テンマ達と異なっていることも薄々は感じていた。


「人間の成長と発展には、己が変わる必要がある。妖精に甘えれば、秩序が壊れるのは察している」


南空も自分の推測、考えが一致した事で変わる事は無い。

そして、粉雪の方は


「ふふふふふふ」


ちょっと自嘲気味に笑っていた。聞いたら確かに戻れない。この事実を因心界に持ち込みでもすれば、まとめて袋叩きにされる。強くなるために命を賭けた後の方が、ちょっときつかったが。粉雪自身。分かっていることは


「自分の事よりも誰かのために動く方が合ってると思うのよね。どんな形であれ。私は嬉しい」



目的があった方が楽しい。……を超えて来る。世界を変えて来る話を出されたものだ。



「そうね。いいわ。それ。面白い」

『粉雪』

「テンマとフブキは、自分の運命に抗う。南空さんも理想の社会・秩序のために命を懸ける。私はそんな2人を支える方が向いている。いえ、それが役目と言える」


素直に、世界と戦うと決めた連中に応えたい。それが真っ黒でなく、強い意志が込められたモノであると、粉雪は喜んで協力に応じた。ここからでも、自分がどんな戦いに身を投じるか、辛いことをするかまでも分かっていた。だが、それはテンマ達のと同じで……”完璧ではなくても、その未来や世界を作り上げる”こと。



「具体的にはどうするつもり?テンマ」

『……粉雪と南空の全てを信じるにも、時間はいる。お互いそうだろう?』

「そりゃあ、テンマとは出会って1か月もないからね。フブキがあれだけ言ってても」

『ちょ!粉雪!テンマの前で言わないでよ』

『妖人化できても、まだ1回だ。もっともっと慣れる必要がある。気の遠くなる改革になると思う』

「慎重だな。私の寿命までギリギリになるかもな……だが、世界はそう変えられない以上は、変わった時に対する準備は必要だ。テンマ、すぐに用意するべきモノを言え」

『ああ』



……まずは、協力してくれる味方達と強い力が必要だ。

俺とフブキ以外でこの計画に協力してくれる妖精は、まずいないし。何より、妖精の真相を知らずに育っている。若い世代の妖精を味方につけるなら、革新党という組織に忠誠を誓えるような、立派な組織にするべきだ。

それから俺達以外にも、強大な力を持つ妖精の協力は欲しい。

その妖精に1人だけ心当たりがある。

サザンやルミルミとも繋がりがあり、彼等よりも強い力を持っている事は変わりない。



「革新党を大きな組織にし、……妖精、セーシという存在を、先に見つけるのだな?人間界に来ているかどうかも怪しいが」

『セーシさんは必ず引き入れたい。彼は、大昔に地球を滅ぼしたという伝説を持ち、なおかつ、初代に生成された妖精の唯一の生存者。このことに共感するかは不明でも、協力してくれる可能性が高い』

「その妖精とも私は契約すべきかしら?」

『粉雪ばかりに力を集めても良い事は無い。それにこれ以上は危険だ』

『セーシさんって、私達は一回もお話したことないし。引き入れるなんてこと、できるかどうか……どんな方かも良くは分からないし』

「革新党として、信頼のおける人物が現れた時、セーシを託せるようにすればいいか」



協力の有無はともかく、簡単に手出しができない巨大戦力は必要だ。

そして、表として出せる大きな組織作り。他の妖精達からとしても、妖精によって今は救われている人間達にとっても、この計画は隠す必要性がある。


「……粉雪様」

「?いきなり、”様”づけってどうしたの?気持ち悪い」

「悪くはないですね。……この計画をやるならば、私よりも粉雪様が前に立った方が宜しい。計画を実行する際、私が生きている保障はないですし。トップが倒れるとなると、組織が瓦解してはいけない。これからも強くなれるあなたが上に立ち。薄暗い事は私が引き受けましょう。色々な情報操作も必要になる」



革新党という組織をより大きいモノとするならば、若い力の芽吹きは必要。南空は先を見越して、粉雪に組織の権威なども譲渡し始めた。とはいえ、それは表向きであり、裏では粉雪と自分はほとんど対等な発言力を持つようにした。


「全ての厄介事を押し付ける気?困るわね」


とはいえ、南空の案には粉雪も賛成であった。世界を変えることが自分の目的となるのなら、力も相まって、色んな高揚感に包まれた。南空の説明からも、100%異論はなかった。


「うーん」


やはりそこは、信頼できる期間があった。

テンマがこの計画を主動しているが、それの信頼を短期間で得るのなら


「テンマ。あなたの言う事を信じるのは良いとして、あなたはこれだけ?」

『む?欲深いな』

「いえいえ。私と一緒に命を懸けたことは認めるけど、それでもまだ、1歩足りてない気がするの」


南空の本気度。自分の本気度。……テンマとフブキがどれだけ本気かを、粉雪は図り始めた。


「革新党として、私が表立つ。目に見えてる奴は私が惹きつける。何もかも私が戦う。テンマも私と戦ってくれるのは分かるんだけど、”首謀者”ってのは隠した方が動きやすいでしょ?」


契約した妖精が自由に動くとは想定していない。


『何が言いたい?俺は妖精達からの汚名を背負うつもりだ』

『あたしも!テンマ一人にさせない!!』

「粉雪様」


これにはテンマやフブキの声を聞けるのが、妖人達にしかできない事だ。南空のような人間は妖精の声を聞き取れない。それ故に粉雪は思い切った提案をテンマ達に出したのだ。


「”箝口令かんこうれい”」

『…………』

「ようは、テンマは私が許可するまで、ずっと黙っていなさい。黙っていれば、あなたがこの計画の首謀者とは誰も思わないし、誰からもこの計画に気付けない。これは”妖精の国”に戦う上では大事になる」


許可なく発言をする事は許さない。そんな脅し。


「具体的にあーだこーだと命令されるのは、嫌いなのよ。方針さえ出してくれれば、私と南空がやる。あなたがそのルールを護るなら、私達も信頼できる。テンマが喋るんだったら、私と南空も考えを話し合って纏める」


3者が意志疎通を完璧にこなすなんて難しいと分かっている上で、テンマには”箝口令”という形で、この計画の首謀者である事を条件に出した。

常に黙って支える。それは耐えがたい事だろうと思えたが、テンマの意志はそのような事で止まるものではないし、戦う上や目的を確認する上で自分から言える条件でもある。

それに自分自身も、粉雪達を100%信じる上では、黙って見守るのは悪くない。



『いいだろう。俺はこれから黙り続ける。他の妖精との無益な会話は一切しない。それならば、粉雪は全力で応えてくれるのだな?』

「もちろん、約束するわ。あんまり喋らないでねってだけよ。必要な事だけ喋ればいい。フブキとは喋るくらいは」

『!テンマが”箝口令”に従うなら!あたしも従う!!テンマ達と一緒に戦うなら、いつでも一緒でいる!』

『フブキ……』

『テンマ!あたし達、同じ目的でしょ!辛いことも一緒だよ!粉雪は信頼できるもん!!』

「良いわね、フブキ。2人共、黙っていること。そうすれば、私と南空はあなたの計画に動く。困った時は相談するし、一緒に戦う。良いわね?」



テンマとフブキがこれより喋ることがなくなった理由。

粉雪と南空がこの計画に協力した理由。

すでに犠牲を承知しているからこそ、長くて困難なモノであろうと情報と準備、数少ない機会を伺っていたのだ。




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


表原:わ~~!懐かしいですね!この挿絵!みんなの集合絵!

キッス:ふふふ、第一部が結構不遇な章と思っているようだが、実際はちょっと違って、とある仕掛けをしていたのだ!!ようやく、その答えを教えようかなって!

白岩:分かる方いるんですか?そもそも、ありました?

キッス:そー言うな。作者は元々、挿絵に挑戦するために書いた物語というのは、事実だ。……で、その仕掛けはいくつか散りばめられていて、代表的なのは、第一部にあった挿絵だ。特に一枚目!

表原:う~~~ん、なにか変なところあります

野花:画力が追いついてない!

北野川:もっと単純なところよ……。キッスがこの挿絵のあとがきのところに、わざわざ「ピース」って言っているのよね。しかも、これは”萬”討伐前の会議。白岩初登場の回。

キッス:そうだな、そうだな。北野川、正解を言っていいぞ。

北野川:この挿絵の時点で、キッスと粉雪は、キャスティーノ団の首謀者が誰か分かっているって事なの。キッスは”2人いる”って事と、暗に”ヒイロの姿”を隠している。粉雪も、この挿絵で唯一、”ヒイロ達に顔を向けながら目を瞑っている”の。

表原:!!わーーー!ホントだ!!

白岩:えー!?あたし、このこと、最近知ったのにーー!?キッス様達、もう気付いてたの!?

野花:画力が低いところに目が行っていた!

キッス:そして、2枚目だ。これは某アニメのEDのカットを参考させて頂いた、集合絵なのだが……。意外と良い出来だと思う。

表原:北野川さんだけ、なんか上手い気がする

北野川:これって確か、どこかでヒントを出してたわよね?みんなの指の数だっけ?

野花:そもそも、この集合絵……この作品と照らし合わせると、なんか変ね。私と表原ちゃんが上下なのはいいけど、粉雪と北野川が上下……。というか、真ん中に表原ちゃんじゃない?こーいうの

キッス:良いところを見るな、野花。そうだ。それにルルが入ってきても良いのにな。なぜ、この6人で映っているか。そして、どうして喋らないんだ?粉雪

粉雪:……嬉しそうに訊くな、キッス。ぶっ飛ばすわよ。

キッス:この挿絵はな。6名の実年齢が分かる挿絵になっているんだ。(作中内で表原が1歳上がるので、若干違うか……)

白岩:みんなの実年齢が……!それって、あたし達。作品内でチョロっと言っただけですよ。

粉雪:私は言ってないわよ♡あなた達と同年代よ♡

野花:私達が赤ちゃんの時にはもう、妖人として戦ってたでしょ。粉雪……。で、どうやって分かるの?私もチョロっとしか言ってないわ。いちお、23。

北野川:私は20。

キッス:私と野花、北野川、白岩、表原ちゃんは、年齢を答えている場面やそれが分かるエピソードがあるからな。因心界が発足した時に、私が生まれてる。だから、25。……丁度、下の段の私達が年齢を答えたな。

表原:それがどーいうことです?

キッス:下の段の3人の年齢を足してみるといい……いくつになる?

白岩:えーっと……20,23,25……で、”68”。これがどーいうことなんです?

野花:68…………68………!あ、下のキャラの指の数は、”6”。上のキャラの指の数は、”8”!!”68”……になる!

表原:ちょっと、強引な気もしますが。……もしかして、あたしはその時は14で……白岩さんは、17でしたよね?

白岩:2人を足すと、……”31”!……これが、下にいるキッス様達と一緒になるなら……粉雪さんは

粉雪:計算をするな!!私はそんな年齢じゃないわよ!!

キッス:ふふふふ、まぁ、しかし。……作中の辻褄を全部合わせると、そのぐらいの年齢なのは非常に妥当なんだよな~

粉雪:ったく!!

キッス:今見ると、面白い第一部の話として。第9話はオススメかな。まだ設定をしっかり固めてない感じだが、ヒイロの正体について、みんなして隠していたり、今見ると面白く思える此処野の言動やクールスノーへの対応……色んな伏線に繋がっている話だな。

白岩:ぷぷぷ、太田呼びはちょっと笑う……。さすがにここでヒイロ呼びしたら、妖精だって分かっちゃうもんね。

キッス:他にも、南空が粉雪の呼び方を変更したり、妖人化の変身モーションを無くしたり、口癖無くしたりとか……ここらへんのあらは、ちょっとしょうがないかって。一人でやってる都合上、纏めきれないし、設定を変えたくなったり……。ず~っとこの作品に集中して書けたわけでもないからな。

表原:作品作りってやっぱり難しいね。


挿絵(By みてみん)


粉雪:……で、なんでこの挿絵をまた持ってきたわけ?

南空:これはいけませんな。で、持っておられるんですか?普段から

粉雪:…………持ってるわよ。気にはしてないわ。

南空:そうですか。私に手加減をしろと伝えたのは、気のせいでしたかな?

粉雪:遊んでくれる同年代は貴重だからね。ただ、納得言ってない事として、周りからは録路の評価が高いのが気に喰わなかった。

南空:残念ながら、強さという面なら互角でも、人として見る評価があるものです。あの子はその辺がダメだ。粉雪様からの遺伝とは思いませんよ。

粉雪:ふん。最後まで計画を狂わせて悪かったわね

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