Hパート
「「なにを言っていたんだ?」」
その現象を引き起こせる条件としては、圧倒的であり比べようのない強さと
【なっ、……わ、我こそは最強・無敵っ】
不死身と言える身体を持つ存在と対峙する時にだけ起こる。
”無限ループ”
ジャオウジャンは今、”生きている”と”死んでいる”をグルグルと回って、記憶どころか運命までも同じ結末を何百回も味わっている。
その記憶の齟齬に気付き始めているが、自分の運命に逆らえない。
「これは”輪廻”だ。非常に珍しい現象だな」
ジャオウジャンの体内で特等席を作り、その攻撃を共に浴びている存在。ムノウヤはヒイロ達のトリガーを避けたことで、その”無限ループ”から脱してはいた。しかし、ジャオウジャンと共に死ぬほどのダメージを負っている。
不死身と言える彼にも、限界を感じさせるほどの恐るべき力に、フルフルと体を震わせるのは、ジャオウジャンのそれとは異なって希望であるが故。
「僕もジャオウジャンも一瞬で死んでいる。だが、いちお、不死身だ」
ヒイロとレンジラヴゥは、その台詞を一度しかジャオウジャンに伝えていない。
その台詞は、ジャオウジャンが1度目で死んだ時に言われた言葉だ。それはあまりの衝撃で時間が戻ったように感じて、復活をする。続くことが、自分を高揚とさせる叫びであろうとだ。だが、それに意識することなく、ヒイロとレンジラヴゥがジャオウジャンを再び殺す……。時間が戻るように錯覚し、ジャオウジャンは復活する。
数十回と繰り返すことで、1度目に死んだ時の風景や言葉が染み付いてくる。体が反射的に、その声を幻聴として、その死を幻視していく。自分の精神状態もやがて縛られ、迷いと恐怖を産み、逃れられない。
行き着く先は、”人格崩壊”。
精神と身体が分離し、別のモノとなるだろう。
【世界の理不尽!!混沌を支配するっ!全人類の邪念を吸い上げる、神はっ!!】
な、なにが起こってるんだ……?
なんで我は、なんで我は、……こうも昂れる?なんで同じことを何度も喋る?なんで我は思うように動けんのだ?我は絶対にっ
【我に敵うモノなどいなっ】
「「なにを言っていたんだ?」」
ズバアアアアアアァァァァァァァッッ
ヒイロの一撃がもう500を超えるほどの死をジャオウジャンに与えた。
彼1人がその力を持っているわけじゃない。続くように剣を振るうレンジラヴゥに、ムノウヤは感謝した
「うん」
「ムノウヤ!」
レンジラヴゥの握る剣に戸惑いがあった。彼を純粋な”悪”と見なすには、あまりにも優しすぎる。軽すぎる。だが
「”怠惰”はね、命の……大悪党だよ」
「!!!」
ムノウヤのいる特等席は、ようやくをもって、曝け出された。ムノウヤにも蓄積されているダメージに、そのまま通るであろうこと、レンジラヴゥの剣。
抵抗はない。助けると思うなら、自分を恨んで欲しいと思っていたが……。レンジラヴゥの意志に、1mmも入っていなかった。自分は君にとって、大悪党だと思っていたが、思ったよりも悪さはできなかったようだ。
ズバアアアアアアァァァァァァァッッ
「今度”も”ゆっくりできるといいね、ムノウヤ」
「!……ふふ」
ムノウヤに痛みはないが、意識が遠のく。
眠りとは違うが、恐怖を感じなかったことで、自分の不死性から生死観がおかしくなった。
けれども、ここで彼なりの結論が出て幸せな気分になれた。
結局、自分の生きるも死ぬも、
「ふふ」
”今を生きてる奴が決めることなんだろうね”
ズバアアアアアアァァァァァァァッッ
レンジラヴゥの攻撃の後、念入りという形でムノウヤをさらに斬ってしまうヒイロ。
「これで死ねたぞ、ムノウヤ」
ルミルミとシットリに勧誘された理由。その期待に十二分に応え、満足のいくムノウヤだった。もちろん、ヒイロとレンジラヴゥもだ。
ムノウヤ、戦死……。
「レンジラヴゥ」
「ヒイロ」
”輪廻”に至るまでの戦闘……というには、あまりにも差すらも感じられないほどのこと。
ヒイロ達がその状態が解くに至ったのは一つの願いを叶えたからだ。
そして、ジャオウジャンは1000に迫る死の回数、それと同じ数だけの昂ぶりを繰り返した結果。
【うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ】
こみあげて来たモノが、自分を壊しに掛かっていた。
傲慢、怒り、驕り。それらは、ヒイロ達にとっては、羽虫に思われていたという現状を知る。自分が中心だと、世界はそうできているって、命がそう思っていても不思議ではないが。勘違いだったのもまた事実。それは
【ああああああああああああ】
忘れたい。死にたい。消えたい。
なにもかも上手く行かない絶望。負の感情の集まりによって生まれてできた怪物は、一時、世界を穢すこともできる。
だが、自分達と同様になにもかも上手くはいかずとも希望を持ち。よりにもよって、
【なんだよなんだよなんだよ】
”自分が集めた世界を超える”
【貴様等の力はあぁぁ!!邪悪なんだよ!!】
”独善的な愛”
愛された事などない心から生まれた怪物なんて、彼等からしてみれば羽虫だった。
愛し愛されて、怪物となる覚悟と実行は自分の世界を壊してきた。その理不尽はジャオウジャンの存在理由を覆すものであり、
【あり得ねぇ!!】
かろうじて、”精神崩壊”から逃れようとしたのは、怒り・不条理。
自分が一番だ。自分が全てだという矜持。
自分の世界にそんなものはなく、そんなのが力にならないと思っている。
しかし、言葉一つで自分の正しさが吹き飛んで、思考を乱して、思想をも狂わせる。それほどに愛と対になりうる、死は大きい。
「「なにを言っていたんだ?」」
ヒイロとレンジラヴゥの問いかけ1つ……。それは2回目であったが
【止めろおぉぉぉぉっ!!!】
その言葉1つで、ジャオウジャンの身体と精神は、すぐに死を体験し始める。自分すら恐れる暗闇に引き込まれる感覚。自分が頂点と猛る彼がすぐに、この時に出した言葉は
【助けて助けて助けろ助けろ!!】
”その時に、自分の周りには誰もいなかった”という悲惨な孤独。
【怖い怖い怖いっっっ!!!】
斬られる感覚を思い出す。体が勝手に動いてしまう。それは、自分がこのようになってしまった経緯、経歴、経験。そんなものを怒りやぶちまけで発散してきた事が、さらに強い力で返って来ている。
逃げたくも体が壊れていく恐怖を感じないほど麻痺し、精神が壊れていくこと、自分が消えていくことに恐れる。
【おあぁぁっ!?はあぁぁっ!?】
自分の気持ちを抑制できない。
それが怖いことを自分は知りたくなかったのだ。
”……人が変わったとっ。”
周りに認識された時、自分は変わってしまった。
【ふぅーふぅー】
すでにジャオウジャンは勝敗における心の入れ替えが終わっている。それでなおも、戦闘を続行する。
【止めろ】
なんだよ。なんだよ。なんだよ。お前等、2人掛かりで卑怯だぞ!我よりも強い奴が同時に襲い掛かるなんて
ズバアアアアアアァァァァァァァッッ
肉体が死に慣れているが、精神はさらに恐れる。ジャオウジャンにとっては、肉体ではなく、心を斬られている。一度、緩急をつけたのは……次に来る恐怖にまた恐怖すること。いつまた、この心の傷を抉るかどうか。
【おごおおぉぉっ!!?】
死ぬっ。死んでいるんだよっ。止めてくれえぇぇっ。降参だっ。降参だっ。
【我の負けだああぁぁぁっっ!!止めてくれぇぇっっ!!許してくれええぇぇっっ!!】
少しの安息からできた、元に戻りたくない恐怖は、矜持をへし折った。
そして、それらがどんなに無意味かどうかをジャオウジャンは、何度も知っている。そうして、自分が出来上がっているのだから。否定をされて今まで生きているんだから
「「なにを言っていたんだ?」」
【っっひいぃぃっ】
…………フリを
道化となれ。
”邪念”の根源が誰しも近寄らなかった理由を
【負け負け負けにゃ~~~っ!おひゃひゃひゃおほぉぉぉ!われははいぼくしゃ~!!】
自分はあなた達とは違うのですと、……確かに生命体として違っている。
”なにを言っていたんだ?”という問いかけを、ジャオウジャンは実行し始めた。無能で無益な
【ごきょひょひょひょおぉぉっぉぉっ】
関わっても意味のない存在。食ってもマズイ毒しか得られないような存在。
それでも本人がおよそ最後に思う生存本能。
【うきょろろろほひょひょひょほぉぉ】
傲慢さなどなく、ましてや矜持もなく、……それでも死なぬ方法を模索した時、近寄り辛い言動をとる他なく、それが自分の日常だったと思わねばならぬくらいのこと。
ズバアアアアアアァァァァァァァッッ
【うぎゃあああぁぁぁぁっっ】
これでもダメか。これでもダメか。許して許して許して許して。酷いだろ酷いだろ。
より滑稽な存在に。
近寄るな。近寄るな。近寄るなぁぁ。
【ひぎいいぃぃぃっっ!!】
ジャオウジャンの体質に変化が現れることは、身体が強烈に反応している証拠である。拒否の強さ。近寄るなという雰囲気を出し始める。ジャオウジャンを構成している”邪念”の質が、外敵を遠ざけようとしていくが……。彼等は近づいてくる。こいつらは我の敵っ……。
「何度だって、あなたを斬る」
【!!】
ほぼ、無限ループを解かれてもなお、ジャオウジャンは殺されていく運命。
国1つを一瞬にして残酷に滅ぼせる力を持ってしても、この二人にとっては、自分の国は砂浜に作ったお城のようなものだった。海の波1つでサラリと流されゆくだけでなく、波は何度でも大きく向かっては飲み込んでくる。
◇ ◇
「ふふ……」
この戦場の遠くで不敵に笑っていたのは、ルミルミだった。
その場にいない自分であるが、あの3人の中ではもっとも望んでいた展開となったからだ。
「あははははは、ヒイロくん!!存分に戦ってよねっ!!」
ジャオウジャンの誕生は、ヒイロとレンジラヴゥに”切り札”を使わせるため。
「君の能力発動から1分毎に、”未来は1年分無くなっていく”」
その未来はどれだけ遠くかはルミルミにも、使用者であるヒイロにも分からない。
曰く
「これがあのアダメ(バカ)が考案した、宇宙再開発の手段!!」
見えない未来のために、現在や過去を犠牲にするやり方。
それを逆に
見えない未来を犠牲に、現在や過去を繁栄させるやり方。
「世界の発展には目に見えぬ犠牲!!分からない犠牲がある!!気付いた時にはすでに手遅れの世界!!」
ヒイロくんの本気は”愛”の力。
生物達は生存するため、遺伝子を残し、そこに雌と雄の愛があるそうだ。見えない未来においても、遺伝子は残り続けている。それをヒイロくんはレンジラヴゥを基点に、遠い未来からレンジラヴゥに届くように回収し、彼女でも耐えきれない力を半分、自分ももらい受ける。
結果、2人の力はとんでもない力。私やシットリはもちろん。ジャオウジャンすらも軽く超えた力を持てるでしょうね。すでに千回くらいは殺してるんじゃない?
「とはいえ」
”その代償と比べたら、それに見合った効果を得られるモノではないと、ヒイロくんは自覚してる”
1・
発動をし続けると、未来から”愛”の力を受け取るレンジラヴゥの身体の危険。ひいては、ヒイロくん自身の体が決壊する恐れがある。任意に解除はできるとはいえ、供給量を抑える手段がない。
2.
完全に無敵に思えるようで、2人の強さは基本スペックを強化しかない。直接的なダメージしか与えられず、影武者や分身体、ギミック持ちの対象を倒す術がない。
ジャオウジャンはあの強さを有しても、リスクのあるギミック持ち。奴の心臓部を破壊しない限りは不死身。
3.
未来から力を徴収すれば、当然、それは現代に迫っていく。
いつの未来から徴収しているのかも分からないし、それが現在にまで届いた時。
「世界は崩壊する」
それがあたしの理想。
「人類は死ぬ!妖精だけが未来に進める世界になる!!マキっ!!あなた達だって、……いえ。ここからだよ、みんな!!」
”最初から人生を始めたいって思うことはあるでしょ?”
”最初から人類を始めてみようよ”
”あたしはそこに立つ!”
ここからの戦いは、ジャオウジャンの心臓を死守するか、破壊するか、謙譲するか。
それとも時間切れで未来の終わりが、現在にまで及ぶのだろうか。
ラフォトナ:ここでは蒼山ラナとしてではなく、ラフォトナ様で行くぞ
宇多田:私達、ブルーマウンテン星団。こうして一同集まってやること
並河:いつもやばいことしかしないな
安住:元々、R-18指定の幻犯罪組織だからな。
田所:せっかくだからこの場でしか語れないことを……って、ナギ!
ナギ:よ。ここは自由だから、俺もこっちに来たぜ。いちお、ここには名を残して在籍してたからな。
猪野春:お~。まぁいいかのぅ。な、宇多田。抑えろよ
宇多田:ちっ。
ラフォトナ様:僕はブルーマウンテン星団の2代目だ。初代の、”蒼山ラオ”の設定について話しておくね
宇多田:もし過去編をやるなら、彼が主役のお話の予定でした。
田所:ラオは1対1なら相当強い設定だからな。
安住:そして、超が付くほどの”シスコン”な奴なんだよ。兄妹揃ってアレな奴等だ。
並河:俺達みたいなはみ出し者を纏めてくれた辺り、世話好きな男だったよ。
猪野春:儂、あいつと何度も喧嘩しとるけどな
ナギ:第三部のエロシュタイン島編で、ラオについて……というより、その妹さんが出て来る予定だったんだが、……もし、ラオの過去編をやるとしたら、妹さんを出すと齟齬が生まれそうで止めたんだ。ちなみにロバート裁判長みたいなポジだったのかな?敵として、寝手くん達と戦ったと思う。
宇多田:ラオ様の活躍を分かって欲しいのですが。強すぎるのは、なんとやらです。
安住:過去の人扱いはしゃーないな
猪野春:実際、その一部をラフォトナが再現したが、疲弊していたとはいえ、ルミルミとシットリを単独で同時に抑え込めるぐらいはあったろうな。




