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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第11話『蒼山ぶっ殺す!蒼山ぶっ殺す!!不正妖精の襲撃?そんな事より蒼山ぶっ殺す!!』
24/267

Bパート

キャスティーノ団、SAF協会。この2つの巨大組織が因心界と敵対し、平和と秩序を脅かす。

その集合体によって立場や見方は変わるもの。


妖精という視点から、これからの事を考えれば。

人間界に降り立って、妖人となる。それだけで自分に襲う痛みと命を削る危機を脱することができる。

自分本位であったり、あるいは人間の方から歩み寄って契約を結ぶこともある。

いずれも



『通常や正規であれば、妖精と人間に害はない』



サザンが構築した人間界への召喚は、妖精達にとっては安全であり、人間達にとっても安全を保障していた。

しかし、妖精の国にいる妖精達にとっては悠長であり、苦痛が長いものであった。

人間達への配慮?妖精と人間は違うではないか。

互いの国の王達が友好を結ぼうとしても、平民達にはカンケーない事だ。

ある者は痛みを逃れ、ある者は人間界への興味、ある者は自ら手にした力を誇示するため。

様々な理由で妖精の国から不正に人間界に進出していく。その速度は、ここ最近から上がっている。それを知らないで妖人となった人間達を蝕んだり、制御が効かず人間社会を不安定にさせることもある。



あるいは……。



『単純に人間への憎悪で人間界を脅かせば、妖精の国の立場も危うくなる』



レゼンに、この不正を認め、手引きする者を突き止めてもらわねば。

秩序は壊れたまま。


長く不当な妖精が人間界に暮らしていれば、人間への脅威は甚大ではない。そーいう妖精はすでに後が引けず、人間の事をより理解しているからこそ。平然と恐れられる手段を使う。感情と理性を持ち合わせる悪とは、やり辛いものだ。

自由に横暴に生き残ろうとするしぶとさ、恨みに強い拘り。



今、静かに表原達に襲い掛かる者はそーいう妖精だった。

戦うことを好まず、それでも襲うという事には滅法強い妖精。


◇      ◇



がさこそ……


「では始めましょうか」


飛島がバックから取り出したのは、それをそのように持ち歩いているのはどうかと思う代物。


「し、下着じゃないですか。丁重にビニール詰めされてますね。ちょっと派手……」

「表原ちゃんはまだ知りませんよね?このパンツは北野川話法のものでして、こちらもどーしようもない外道のパンツなので勝手にお借りしてきました」

「人のパンツを勝手に持ってきていいんですか!?」

「安心してください。このパンツ、蒼山も穿いていてさらに嗅いでもいるので、奴の臭いの方が強いです。北野川ももう穿けないからって捨ててましたし……まぁ、私のパンツを使いたくないのが一番の理由ですがね」



すっげー自分勝手な事を言っている。

でも当然か。下着泥棒を追跡するため、下着の臭いから追いかけるというどーしようもないスタート。

ラクロは仕方なくとはいえ、下着についている蒼山の臭いを記憶し、痕跡を辿り始める


「そんなに遠くはないかもね。このホテル内のどこか……」

『ホテルの出入り口。ロビーには奴の臭いはしないね』

「蒼山は転送能力を持っています。部屋を借りているというわけでもなさそうですし」


相手のできることを把握し、まずどのように蒼山がここに来ているのかを想定していく。

まず、徒歩ではない。


「駐車場方面から行きましょうか」

「推理ゲームみたいです」


ホテル内に備えられている室内駐車場へ向かう3人と2頭の妖精。

車を使っての侵入が妥当と見える。


「ホントに見つかるのかな?」

「捜索だけに限らず、何事もそーいう小さい事を長く続けるのがスタートなんだよ」

「私とラクロは各車にある臭いを分析するので、野花さん達は車の影やその下などをチェックしてください」


ホテル内に入っていれば、多数の監視カメラの目に入って分かるものだ。従業員も客も複数いるこのホテル内に、堂々と隠れられるところは少ない。


「トラックの中とかが怪しいような」

「お客様のものだからさすがにね」

「可能性はあるだろうが、そーいうところは臭いで分かるだろう。たぶん」



駐車場に隠れられるスペースはない。そうなると車の中か。だが、ラクロの鼻で蒼山の臭いをキャッチできない。それどころか


『蒼山の臭いはまったく感知できないね』

「ふむ。仕方ありませんね」


ほとんど0であるという結果。

続けてもしょうがないという判断で


「野花さん。他に駐車場ってあります?ここはお客様専用ですから、従業員・ホテル専用の車の出入りが出来る場所とか」

「あるわよ」


3人は再び移動を始める。

駐車場の周りでウロウロされていたら、可愛くても気になってしまうものだ。


「まったく、なんなんだ。人の車をジロジロと……えーっと、タバコタバコ」


これから外に出ようとする男性客は一服しようと、助手席に置いてあった電子タバコを手にとった。


「ん?」



パッ


無音にして、素早い抹消。

加えて相当遠くからの攻撃。妖人3人、妖精3頭の物凄く近くで行なわれていながら、気付かれていない攻撃。

そして、消されていく人数はどんどん増えていく。



「ねーっ!早く料理を持ってきてよ!」

『……………』

「ねぇっ!訊いてる!?」



パッ



ホテルの内線でのやり取りですら、双方を一瞬で消し去るほど。

その消える瞬間を目の前で見ていた者も


「ああーーーっ!け、警察に!ひ、人がいきなり消えた!!」


スマホを手にとって



パッ



成すすべなく消されていく。

連絡手段も断たれることで、混乱もそう起きずに平静なままである。

騒ぎがなければ戦いや警戒などは起きない。平和が生んだ、少しある害悪。気付かれなければ何でも良いわけだ。



「お店専用のスペースって独特な感じですよね」

「ええ」

「隠れられるところも結構ありそうだ」


臭いとかも食材や用品の運送もあって、人がいるという気配は感じられない。

だが、店の専用ならもっとじっくりと調査ができる。


『ふんふん』

「どう?ラクロ」


車を1つずつ丁寧にチェックするラクロ。



「ん?……飛島さん。あのバスをチェックしてくれないか?」

「どれです」


レゼンが気にかかったのは、1台のバスであった。それは自分達も1度乗っているバスであった。少しながら蒼山に覚えがあったのも、その気付きに到達した。ラクロがその周辺の臭いを調査すると


『!ここっ、わずかだけど。蒼山の臭いがする』

「バスのトランクの中か。人が1人は入れるスペースがあるのは事実だな」

「ここを空けてもらえますか?野花さん」

「キーを持って来るわ!」



コンコン


野花が行った後、飛島はチェックがてらノックをした。人間がいるとしたら、返事があるかもしれない。


「蒼山ーーー!この中にいるのですかーー?聞こえてますかーー!」

「こんなとこに入るなんて子供っぽいですね」

「いや、なんか。イジメでもされたんじゃないかと……」

「でも、下着ドロしている人も悪いんじゃ……」

「それは言えるな。表原」

「蒼山ーー!」


飛島のその声に。中から非常に弱々しいが、涙が混ざった情けない男の返事が来た。

返すように中からノックと共に



「ひ、飛島~……飛島か~?よかっだぁっ……よかったぁっ……」

「!やはりここに居ましたか」

「そうだよぉっ!ずーっと居たんだ。相当前からいたのに、放置され続けてたんだよ!日数にして1週間以上!およそ5話分も!!こんな暗い場所に閉じ込められてたんだよっ……なにこの仕打ち。禁固刑じゃん」

「あっ」



そういえば、クールスノーとナックルカシーの観戦の時に居た奴かと。レゼンは完全に思い出す。そして表原も、それを思い出した。

全員、蒼山のことを忘れていた。

ここにいるのに周囲にあまり臭いがなかったのは、閉じ込められていたというのが正解。


「時折"妖人化"して、愛しい下着と食べ物、トイレを確保できたから良かったけど。良かったけどやっぱり、暗くて暗くて……怖かったんだ!それに女性の肌と香水の匂いでつけられた下着がやがて、僕の恐怖に満たされた臭いばかりついた下着となって、囲まれる恐怖が分かるかい?」

「おい!蒼山!!私達からしたら、この扉を開ける方が怖いんだけどなぁ!!助けない方が良いかな!?死んでくれないかな!?」


飛島もキレ気味というか、男のような威圧的な低い声で、情けなさと現状の様子について激怒する。

表原も退き気味。いや、退いている。


「レゼン。確か、粉雪さんや野花さんが嫌っていた人だよね。たぶん」

「だろうな。いや、なんか。余裕ありそうだし。無視した方がいいんじゃねぇか」

「同意ですが。この馬鹿の能力だけは貴重なんで……死なせるわけにはいかないんですよ。どのみち、ゴキブリ以上にしぶとい変態ですし。閉じ込めて死ぬ奴じゃない」

「よく死ななかったな。タフさだけ見ても、人間を超えているようだ。何日も生きてやがるとは」

「……あの思うんですけど、妖人化できるなら。中からトランクくらい壊せないんですか?」


ふと表原が何気なく言ったことであるが、周りの空気が硬直した。馬鹿と馬鹿は波長が似ているせいか、考えも分かるのかもしれない。本能的な意味で。つまり、逆算して考えれば……。


ドガアアァッ


飛島はトランクを蹴飛ばしながら、中にいる蒼山に尋問をする。


「蒼山~。やっぱり、ちょっと出てきてもらいましょうか~」

「え、え、え……いや。その。いや~」

「もしかしてだけど。あんたさぁっ……いや、事実もあるんだろうけど。まさか、出たくないとか。そこに住みたいとか、思ってないでしょうねぇ~。え?おーい……ど変態」

「いやいや、そ、そ、そ、そんなわけないじゃないか!だ、だ、大体。ここで過ごしたい人、いると思うか~い……?僕がいくら変態だって、それはちょっと酷いんじゃ?」

「あんたの能力を知っているんだよ。私達は……。下着泥棒の件にしても、食い物にも、排泄にも、寝床にだって。あんたの能力だったら困らないって想像が付くんだけど?ここがホテルだって事、気付いていたわね?」


今の状況を例えるなら。

それは男がエロ本やエロ動画を使っている間に、お母さんなり、妹さんが入って来たというプチ修羅場の状況である。ノックや声かけはして欲しいものだね。


「蒼山。今、妖人化してないようね?言っておくけど、少しでもして証拠を隠そうとしたら。私が先にこのトランクをぶっ壊して、中にいるお前を始末する」

「ちょちょちょちょ!!救出じゃないの!?救出に来たんじゃないの!?」

「妙な動きしない。ちなみに野花さんももうすぐ来るからさ。それまでに遺書を書き上げなさい」

「結局、死ぬじゃないか!こ、こんなに酷いことをされたのにさ!」

「私の方だってあんたみたいな、超ど変態を捜す刑を喰らっているのよ。通信をワザと切っていたわね。おかげで手間取ったし……。いや、見つからないようにしていたことは。因心界への裏切りともとれる行為よ!」



能力の詳細はもう少し先だが……。飛島の話からして、蒼山には転送能力がある。

その転送能力で食料だったりを運び込んでいたんだろう。ついでに下着も。

動かずに自由に遠くの物を運びこめる力。


「確かに仲間としているなら心強い能力だな。性格はおいといて」

「なんか選ばれた人みたいでその辺は羨ましい。というか、ズルいですよ。あの人」


超A級の犯罪者+変質者である事に違いない。彼を抱える事は因心界として問題であるが、それをカバーできる能力であるに違いない。むしろ、そんな能力があったら、こーいう場所で自由に好きな事ができるであろう。不純な事に能力を使って、何が悪いと開き直ってもおかしくない。

ちょっとだけであるが、表原も欲しい能力だ。レゼンなんかと違って、怠ける事に関しては最高級の能力じゃないかと思う。バスのトランクは割りと広いし、買い物要らず。確かに隠れて過ごすのならサイコーかもしれない。



「まったく、なんでこんなところに隠れているのよ!」


そして、バスのキーを持って戻ってきた野花。妙なことを言っているが、ここに蒼山をぶち込んだのは彼女である。仕方なかったとはいえ、それが原因。

野花がバスのエンジンをかけ、電子ロックされたトランクを解放するとそこには……



「あっ、あっ……」


ようやく解放された喜びとはまるで逆の絶望に染まった表情を出す蒼山。そして、中にはこのホテルに出されていたであろう、料理のお皿や自販機にあった飲み物。はては、他人のスマホと手動充電器。暗いとか言いながら、小さい蛍光灯までも用意され。ちょっとした個室になっていた。

それよりも目立つのはシートが敷かれた一面を全て覆い隠すほどの、女性用下着の床……!


「………」

「うわぁっ……ちょ……」

『言い訳できないねぇ、蒼山』


全員がドン引きするほどの光景。なにより絶望しているのは


「!!ちょっ!!なにこれ!?あ、あ、あ、あ、あたしの下着まで!!あんんたぁぁっ!!」


当然。野花である。

自分の下着も知らぬ間に、蒼山の餌食となったのだから……。

野花と飛島は、逃げられない子鹿のように震える蒼山を引っ張り出し、駐車場の床に叩きつける。


「もうダメじゃない!!あたしの下着まで、転送したのねぇーーー!!?殺してやるぅっ!!」

「ああああああぁぁっ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「許すと思ってんのかぁっ!色んな下着で○○○○まで、したわよねっ!?ふざけんなっ!キモイ!!」

「乙女の純潔なる下着が、お前のような低俗な童貞に利用されるという気持ちが分かっているのかーーー!?」



しばらく、お待ちください……………。



「あの、その……帰っていい、のかな?」


被害を免れたとはいえ、油断できないため。表原は一刻も早く蒼山と、彼に怒っている野花と飛島から離れたかった。当然のような刑だと思う。法律や人権というのはとてもお優しいと思えるほど、乱暴にして、正当なる行為が目の前で起こっている。ちょっと怖くて動きにくい。


「一言、礼を言って帰るのが筋だぜ。その、お前も。蒼山が死ぬところを見た方がいいだろ。たぶん、下着ならオーケーみたいな感じだ」

「そ、そうだね!警察が来る前に、確実に消し去った方が良いよ!」


隠れて遂行できる能力は凄いが、反面。見つかった時に対処のしようがないという欠点がある。

完璧な場所を手にしたと思われたが、発見されれば逃げ場のない地獄。



ボロォッ


「うっ……うう………早く。話し、終わって……」

「はー、はー……。これだけやっても、こいつは1話跨ぐと回復するからウザイわよね。飛島」

「ええ。寒気のする、超ど変態に相応しい回復力です。あなたは見損なうという底が見えませんよ、蒼山」



やりすぎなんじゃないかと、表原がちょっと心配するが。大丈夫なレベルでリンチをした野花と飛島。おかげさまで無事、事件を解決。後処理とすれば、この使えなくなった下着達の代わりを用意するとか、これまでに掛かった費用を蒼山の給与から引いてあげることか。


「はーーーっ。自分の下着をやられた事ないキッスは良いものよね、指示するだけで。あと粉雪も」

「彼の行為を分かっていて許すのは、無垢な白岩ぐらいですからね。あれは天然ですからか」


トランクの中にある、というか大半は下着。駐車場にいくつかばら撒かれるほどの数にはうんざりしている。とりあえず、野花は自分の下着とみているものを回収し始める。


「破棄しなきゃね」



その中の1つの下着を手にとった瞬間だった。


「!」



バヂイイィィッ


人ではなく、妖人だからこそ。若干のタイムラグがあるんだろう。あるいは、どのように人間が消えていくかが感じ取れるからか。


「!」

「野花さん!?」


突如、野花の真下に現れた奇妙な魔法陣。光り輝いて、野花を存在しないであろう中へ引き摺りこもうとする。と、同時に


『!うおおっっ!?俺は拒否されてるのか!?』

「セーシ!」


野花の懐に入っている妖精、セーシにはその魔法陣に適応されておらず、除外されようとしていた。野花のみを引きずり込んでいる。


『早く、妖人化するんだ!!そうすれば、抵抗できる!』

「えっ!?」


表原がいる、蒼山がいる、飛島がいる。その状況だけで……


「それはイヤ!!」

『はいいいぃっ!?野花!最速の妖人化が無意味じゃねぇか!!人前だからって、躊躇してるんじゃねぇーー!』



パッ



セーシが野花桜のみに言っている間に、野花桜だけがその魔法陣に引き込まれ、消えてしまった。このホテルで密かに行なわれていた消失事件の被害者達のように……。セーシだけが駐車場の床に転がった。


「野花さん!」

「待て、動くな!表原!!」

「分からないけれど、攻撃されている!!」

『僕ちんには何も感じなかったよ!』


まったく見えず、何をされたのか分からず。野花が消えてしまった……。敵に近い者が周囲にいるという事だろうか。


『レゼンくん。悪いんだが、俺を拾ってくれないか。ラクロは四足の妖精だしさ』

「うっ。しょうがねぇな。俺が手に持てるサイズに小さくなってろよ」


レゼンはセーシを拾い上げる。ここで初めて表原がセーシと対面する。


「あの、レゼン。何を拾い上げてるの?なんかさっき、野花さんのお父さんに見せられたものに似てるけど」

「あー。そのな。こいつが、野花さんの妖精なんだよ。名をセーシ」

『バイブ型の妖精だ。あとで使ってもいいよ。あ、表原ちゃんには俺の声が聴こえないか。これでどんな妖精か伝わるかな』


ブイイイィィッ


「勝手に動くな!ヘシ折るぞ!」

「……野花さんは、不幸の星に生れ落ちたのかな。凄い嫌な日だろうな、今日」


野花のいろんな一面を知ってしまった表原。これは間違いなく、痴女の認定。本人が認めなくても素質は十分にある事だろう。というか、そんなものを所持していて恥ずかしくないのだろうか?

レゼンが持っているとはいえ、表原は恥ずかしい。

一方で飛島はこの事態に直面しても、平静であった。落ち着いて状況判断ができ、みんなに確認をする。


「敵を見た人、いる?」

「いや、まったく見えなかった」

「うん。何があったのか、分からなかったです」


となるとすれば、敵はこの近くにはいない。

全員を同時に攻撃できるという事もないだろう。続けざまに仕掛けてないのも良い証拠だ。

考えられる妥当な範囲は


「じゃあ今の敵は様々な条件。トラップを満たした時に、能力が発動するタイプね」

「えっ!?そこまで分かるんですか!?」

「気をつけて、何がきっかけか分かったもんじゃない。疑い続ければ膠着し続けるし、ロビーに戻りましょう」

「!他の人達に連絡もした方が良いと思いますね!野花さんも心配だし」

「そうね」



さすがに十妖の1人だ。普通なら動揺し、相手のことを考える事はできないであろう。

姿を隠しているが、飛島達の行動を敵はチェックしていた。

同時に、


「蒼山。執行猶予を与えるわ」

「あの。まだ、話を跨いでないんで……その。体が痛い」

「あんたの能力ならこの敵を捜して、倒せるでしょ。少なくとも罠を見破れるはずよ!やりなさい!男でしょ!」



そのレベルと同等の実力者もいる。

直接戦闘を得意としている野花をいきなり消せたのは大きい事だが、戦闘にならない間合いであれば、飛島とこの蒼山を先に始末した方が相手にとっては良かっただろう。


「敵は相当ヤベェ奴と見るべきだ」

「レゼン」

「俺と野花さん、飛島さんや変態一名を同時に相手どるつもりなんだ。能力から言って、タダの馬鹿が使う能力じゃねぇーしな」

「ぼ、僕もちゃんとした苗字で言って欲しいな。蒼山という苗字があるんだよ」

「パンツ頭に被ってんじゃないわよ!変態そのものよ!」

「やられる前にやりたいからだよ!!飛島!!男のロマンを分かってくれないね!」

「まったく。さっさとやりなさい。もう元気じゃない!」



…………さすがに妖精界きっての大天才。ただの天才ならば高慢、驕りが見えるものであるが。

この冷静な分析力と状況判断。


「セーシさんが弾かれたところを見れば、俺とラクロにも影響がないかもしれない。人間限定に発動するタイプの方が多いからな。俺達が率先して動くべきだ。野花さんだけで済ませているとも思えないしな」

『分かったよ、レゼン!』

『強力であるほど制約もあるものだからな。一瞬でその考えが出るのか、レゼン君は』


セーシも感嘆とする。

野花がいなくなって、冷静さも欠いていた。持ってくれることも含めて、ありがたいことだ。



「人間と妖精を分離し、消す能力ってところね。合点が行く。となると、敵の居所が分かれば野花さんを救出できるかも。蒼山!」

「待って待って。二人共、冷静過ぎ!」

「そーですよ!ハラハラしてるんですよ!私もあんな風に消えちゃったら」

「……言い方が悪かったわね。おそらく、どこかに閉じ込められているだけ。生きているはずよ」

「へ?」

「殺すんだったら殺せば良いじゃない。相手は消したというより、移動させて人質として使いたいはず」


確かに一瞬で殺し、動揺させるなら目の前で殺してやるべきだ。錯乱して、トラップに引っ掛かる可能性もあるわけだ。できないというより制約に含まれているといえる。もっとも人質となっていれば、危機が迫っているのは変わらない。


「ただの気休めかもしれないけどね」

「表原、消えた先の事は考えるな。それより敵の攻撃条件を考えた方がいい。妖人化したいが、敵の姿が見えてすらいない長期戦になったら、数の有利がなくなる。変身しているだけでも体力とかが落ちるからな」

「うん!気をつける!」


常にマジカニートゥにいられるわけじゃない。妖人化できる時間はそれぞれ異なるが無制限ではない。それは粉雪、キッスのような、最強クラスでも体力切れはある。一撃必殺に近いこの罠とはいえ、闇雲に妖人化すれば敵の思う壺だ。レゼンと飛島は注意深く周囲を観察し……戦場がここでよかったとちょっと安心するものを見つけた。


「監視カメラがある。それもフロア全部にあるってくらい。敵の正体が掴めるかもな」

『事態の説明をすれば、映像は見せてくれると思うし。俺が野花と離れていれば、事態も飲み込んでくれる』

「これを見て、敵の能力の全貌が分かるかもしれませんね。巻き込まれている人も多いでしょう。必要に応じて利用もできる」


すでにレゼン達の3名はこのホテル全体を攻撃されていると、想定している。

切り替えの早さに、思考力の高さ。一方でこの3名は


「追いつけないんだけど」

「僕も戦うことは無理なんだけど……」

『情けない2人だなぁ~。ま、僕ちんもだけど』




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