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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第58話『LAST STAGE ”SNOW VS ANGEL”』
239/267

Dパート


「!!?」



4人が同時に驚いたのは確かだった。

できる事ならという要望を100%応えてくれたこと。そして、標的として見ていたこと。

ナックルカシーと此処野の動きは、咄嗟。



「!」


しかし、金習も驚きこそあったが、冷静のまま。そして、相手が自分の命を狙っているという状況でなお、戦闘態勢。


「来な、ガキ共」


金習の足は止まったままであるが、上腕、背筋に異様な変化を起こした。

ジャオウジャンを取り込んだ際に体の構造を変化させる術を学習し、ただ待っていた間にも体の内部では激しい細胞同士の競争があり、勝ち残ったモノが金習の体の一部となっている。



メギギギィィッ


骨や神経が異様な発達をすること。その奇怪な物珍しさを不気味に思われ、コンプレックスに感じるのも世の常。しかし、合理的に扱えるというのなら金習が使用に躊躇いもない。

ナックルカシーと此処野が迫る咄嗟で、金習には6本の腕が現れ、それぞれに迎撃をさせる。戦う2人も同様に、それに合わせて攻撃をぶつける。



ゴオォォォッ


面の大きさから、ナックルカシーには5本の腕。此処野の槍を止めるのに3本の腕。


「!!」


2対1。ヒイロが加われば、3対1という状況。自らの足で後ろに下がるよりも、攻撃を利用させてもらう形で吹っ飛んだ方がいい。その冷静な判断と対応。生物としての進化も含めて、金習の強さ。

自ら生やした腕によって、吹っ飛びつつも、通路を破壊しながら広い場所へと誘導する。地の利を活かせているところまで、初対面となるヒイロから強さを把握させるに十分なこと。交戦している2人からすれば、承知していたことであり。


「舐めてんじゃねぇ!!」


金習からしたら、吹っ飛びたかったという理由でしかないが。突刺しにくる槍を適度にあしらうため、彼への対応がナックルカシーよりも低かったのは確かである。殺意も怒りも最高潮である此処野が、その屈辱をすぐに返そうとし、槍のアタナを金習に向けて投擲したのは自然のこと。




ドゴオオォォッ




「おわわわわっっ、なになになに!?」

「たぶん、ヒイロさん達も来た!!」


逃亡をするマジカニートゥにも伝わるほどの戦闘が、ものの数秒。しかし、それでもマジカニートゥが安心して止まるわけもない。少なくとも、誰かとヒイロ達がぶつかった事が確かで、全員に当たったわけじゃない。



スタンッ



「しつこいものだね。死んでもいいなら、嫌いじゃないよ」


金習が選んだ場所は、


「町?」


軍人同士の模擬戦をする訓練場だった。市街地と思わせるここは、一際、広く。派手な戦闘をするには持ってこいと言ったところ。

今の舞台は、市街地となっているが、……森林、砂漠、雪山、海上。……想定される戦場を作り上げてくれる場所だ。簡易の研究施設となるフロアとはいえ、陰険な感じが漂うところばかりではなかった。

そのギミックを知っている金習と、知らない3人とでは地の利の差があるだろう。



ザッ



「……3人か」


ヒイロ、ナックルカシー、此処野がそのまま、金習を追いかけたのは自然な流れと言える。

用があるのは2人。その内の1人は、


「ヒイロ!録路!!」

「ああぁ?」

「此処野……」


ヒイロの見立てからして、3人掛かりならば、時間との勝負。そして、彼が自分の義姉を倒し、白岩印をも倒せたという評価にたがわない。

もし、”私情を挟まない”のなら、今。この3人で金習と出会えたのは、こちら側としては最高の展開。

マジカニートゥの”本気”が、偶然をも味方した……そうとれる、最良パターン。……に、



「こいつは!俺がる!!」



感情が爆発したようなもんだ。



「ふざけてんのか!?テメェにあいつを狩らせるとでも!!」



2度も戦っている録路からすれば、金習の相手をしたいのは当然のことだ。

一方でヒイロは此処野の提案に、


「任せていいか?相当、強いぞ」


同じ以上の気持ちがあり。金習を誰かが止めなければ、白岩を助けることが難しいと分かっているヒイロ。即座に動かなかったのは、少しでも温存を図るため。ヒイロに異論はなかった。一方で、その提案が金習に聞こえたのも確か。



「……………」


ジッと、3人のその様子を伺う。

3人がかりでも負ける気はない。各個撃破の方が容易いのは確かであり、ヒイロ達の事情も概ね勘付いている。自分の命だけじゃない理由で、ここに来ている。

ナックルカシーの激怒に、此処野はさらに数歩前に進みながら、アタナを手元に戻しつつ


「俺はお前等と違って、仲間を”護る”とか、”助ける”とか……そんながらじゃねぇ!護るもんと助けるもん、やってこい!俺は」

「……………」


自分の理由とお前等の理由を伝えた。

ナックルカシーも、冷静な判断と自分の感情を考えれば


「敵を殺すのが、俺だ!他のことまではお前等がやってりゃあいい!」

「……録路!先に行くぞ!」

「………………」


ヒイロはナックルカシーを呼び掛けるだけにし、この場を此処野に任せて走る。しかし、それだけでナックルカシーが許せるわけもねぇ。突入前に各々の優先順位を決めていたのに、結局は感情で決めやがった。こいつと出会ったら、俺が相手をするって……


「此処野、テメェ……」

「……俺が死んだり、あいつが逃げた時は、……お前があいつにトドメを刺せばいい」

「なんだ?お前が勝てるビジョンはねぇのか?だったら止めとけ、馬鹿」



茶化してやるだけ。

それだけでテメェの感情を優先してやる。

合理的なモンってのは、後から付け足してやる。


「トドメの話をしただろうが、豚がよぉ!」


此処野がその返事を言う前に、ナックルカシーもヒイロの後を追いかけた。そして、同じく。此処野も金習に対して、攻撃を仕掛けたのだった。


「……ふふっ、君が1人で相手かい?」


監視を兼ねていた金習も、この3人の行動には合理的なモノを感じ取った。しかし、代償が大きいとすぐに分かる。

突いてくる槍を軽々とあしらって、


バギイイィィッ


「私の相手が務まるかな?」


白岩の救出はもちろん、今のマジカニートゥも無防備状態と言える。ヒイロが白岩の救出はもちろん、マジカニートゥの護衛に一人は向かう必要がある。それは状況次第で決めていたが、結果最良だろう。ナックルカシーの方が向いているし、マジカニートゥからしても、此処野に護衛を任せるのは不安でしかない。


そんなところまで考えちゃいない。


金習もそれを察知し。その理由は、念のために



「そもそも、君が私と戦う理由。あるのかい?」


ヒイロが察するだけの強さ。此処野自身も金習と対峙したからには、把握できている。それは


「無謀もいいところ」


ヒイロ達の手でも借りりゃあ良かったと、金習は思い起こさせるように、自分の体から生やした6本の腕で此処野に襲い掛かって、軽々と彼を吹っ飛ばした。……金習からすれば、ヒイロ達を追いかける理由はない。此処野を始末してからで良い。そーいう判断。


「……理由か」


吹っ飛ばされても、特にダメージを感じさせずに受け身をとりつつ、槍を構える。

此処野の顔に怒りというモノが消えたようだった。その表情で



「白岩とルミルミちゃんを倒したってのはテメェでいいか?」

「?まぁ、そうだろうな」



金習の評価を彼女達以上とする、それは”危険度”を込みすれば上回るであろう。

とはいえ、金習自身はその問いに、100%のことは言わない。

本人としては、


「無事にしちゃあいないさ」


此処野の”理由”を、煽るだけのこと。

白岩達の状態を憶測にさせることで、精神的に責める。……という揺さぶりに、此処野は動じない。

漲っている力を見誤っているのは、金習の方だった。


「十分だ」

「!!」


あまりにもアッサリと此処野が吹っ飛ばされたのは、”その時”相当の実力差があったに違いない。

生やせる腕の1本を軽んじたのは、金習にはない経験。

自分が攻撃を仕掛けた時、此処野も返していたのだ。

ただの、腕一本を斬り落とす。



ドサァッ



「テメェの全てを”否定”すっから」

「……なるほど、そっちが”理由”か」



此処野 VS 金習


2人の戦い、その些細ささいなことから……。


◇           ◇



外。大雪。


「粉雪様。サポートをしてください」

「!」

「ふん。”人間”が来るのね」



クールスノー + 南空 VS ルミルミ。


「あなた様の雪は、この老体にも効きます。かなり長い戦いになると、ルミルミと一緒に息切れをしてしまいそうだ。動ける内に私が、ルミルミと戦います。合理的でしょう?」

「ええ、そうしてくれる」


チームプレイで同時に戦う。何も一人を挟み込むといったやり方だけではない。こーいうやり方もある。

南空の提案をクールスノーがスンナリと受け入れたのは、南空の言葉よりも、信頼に対するものだ。


「『金色こんじきに輝く月の輪』」

「…………」

「『ブライトエンジェル』」


ルミルミが”妖人化”をし、その力が……”人間”にとって、どれだけか。

網本粉雪に付き従う人間だという認識を、超えたのは確かだ。


ブイイイィィィッ


南空が握るチェーンソーの音。クールスノーの豪雪を気にせず、ゆっくりとルミルミに歩み寄る。それにクールスノーも反応して、2人から離れるように移動しつつ、雪の壁……雪のドームを作ろうと動く。

完全に外部からの干渉を阻止するためだ。


「す~~っ」

「!!」


ルミルミが吸い込みを始めた。

剣士としての実力もそうだが、その他の能力も優れている。相手が張り合うような関係でないことで、ルミルミも相手の土俵で戦おうとする意志が少ない。それが全力となっているのを、本人が自覚していないところが。その頭を小馬鹿にされる理由であろう。するのなら、話は別。

取り込み始めているのは、クールスノーの雪そのものであり、利用するのはお互い様として



「わああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ」



ビリビリビリビリィィィッ



凍る空気に亀裂を入れるほどの雄叫び。

クールスノーの雪を”肉”とし、ルミルミが”命”を与える。利用するのはお互い様ということを


【グルルルルル】


おおかみ……」


ルミルミの周囲に出現したのは、クールスノーの雪で作られた、白い狼の群れ。


「”邪生転換”」


ジャネモンを作った。という見方で間違いない。

個の力の差は、ルミルミにだけあると言えるが、


「26頭ですか」


”無意識に、制限をかけていたと言える相手ではない”


「南空」

「問題ありません」


ルミルミを護るように陣形を組む狼の群れ、26頭。その数の差による暴力を、南空が気にもかけずに間合いを詰める。チェーンソーを駆動させながら


「サポートのままで構いません。私もろとも、ころして良いです」


早く”間合い”に来いよ。

南空がルミルミとの距離を詰めていく。それに狼達の群れが広がっていく。

”狼達”の相手は南空であり、クールスノーとルミルミの戦闘。それがルミルミが、心の中で思い描いた戦略であり、南空がそれを崩しに狙う。



トンッ



単純明快に。

ルミルミ本体を狙うこと!!

超接近戦。

ロマン武器の1つと言える、チェーンソーを振り回し、届く距離。かつ。格闘戦を仕掛けられること。狼の群れを恐れず、ギリギリまでゆっくりと距離を詰め、そこからの踏み込みはルミルミの剣と南空のチェーンソーを交えた。


「へぇ」


重く、弾こうとする力。ギザギザとした刃は、刀身をひっかけてくる。武器の違いであり、それを狙っているのが技術的なこと。ルミルミが握る剣の強さが増した。

南空の戦闘は、大技にチェーンソー。小技に体術。

右手で握るチェーンソー、左足が足元の雪を掴み。


「!」


蹴り!……いや、目潰し!?



蹴り技を仕掛けつつ、クールスノーの雪をルミルミの頭部に運ぼうとする。危うく、力だけで立ち向かおうとしていたら、怯んだかもしれない。その怯みが命取りとなる。

ルミルミがバックステップをし、間合いをとったのは見事であり、この距離では作り上げた”狼達”が動き辛い。自分はこいつに足止めをされる気などないとし、クールスノーに意識を向けた……



ドスウウゥッッ



「再生するんだろう?」

「………あ?……」



淡泊。この雪景色に合う、南空の淡々とした殺意。

ルミルミが、それを油断と捉えているが故。自分以外だったら、死んでいたのは事実だろう。

それでも


「まぐれ、……が。……おまけしといてあげる」

「そいつはもう重すぎる。私も買い替えようと思っている。まぁ、愛着はあるモノだ。返してくれ」


後ろに退いたその直後に、チェーンソーをルミルミに向けて投げつけ、右胸に突刺すという早くて荒い技。南空はクールスノーにサポートを頼みつつも、ルミルミを隙あらば殺すという意志を見せているのには十分。

ルミルミは右胸に刺さったチェーンソーを抜きつつ、


「!」


南空は素手で、四方八方からくる狼達を相手どる。

そして、クールスノーもゆっくりと自分の力を溜めこむ。自分のフィールドを作り上げていく。この軍事基地よりも広く、取り囲むように雪を積む。ルミルミはチェーンソーを後ろに投げ飛ばした。


「すーぅ」


南空は大きく息を吸った。それはクールスノーの連撃と似通っている、予備動作。

その間の無呼吸の行動に隙はなく、的確に破壊する一撃を繰り出せる。


「!」


想像力も増す。”狼達”が見せる南空を食おうとする動きに、どこか違和感を感じた南空が急に迎撃を止めて、回避に動いた。

”狼”が雪崩のように……



ドゴオオォォッ



「ちょこざいな」



4頭の狼が繋がりながら命を終えたが、その死体の出来には、粘着性をみせた。つまり



『フブキだけじゃなく、俺の能力まで利用したか……』

「下手な迎撃だと止められてたわね。お互いに、天才ね」



”狼”に触れていたら、クールスノーのシールの性質が発動し、南空の動きは封じられていただろう。打撃での応戦は少し間違うと、ダメージ以上に大きな足枷を生む。

それでも、クールスノーは南空が時間を稼ぐことを信じて、大技の準備と、それの使い所を見極め始める。ルミルミもまたクールスノーを止めようとするのは確かであり、南空がルミルミを自由にするわけもない。



ビヂビヂビヂィィ



自動再生に時間が掛かる。チェーンソーを突き刺された部位の回復が、通常よりも遅い。


「……ふん」


あいつのチェーンソー。喰らうと外から中までグチャグチャにされるせいで、綺麗に治すのに時間が掛かる。それにクールスノーと同等の格闘能力。それ以上に、かんと反応……。

覚えておく……。

さっきのあたしの油断まで、あいつは読み切っていた。


「焦ったのはこちらでしょうか」


ルミルミの注意を私に向けて頂ければ、それだけで満足だったが。それでも粉雪様に警戒するところは、さすがに1対1を避けたに値するお相手。度量に関しては、やはり、あのナギまでもが認めた逸材。

もし、私から始末しようというのなら、容赦せずに、ルミルミは私と一緒に死んでいたでしょう。粉雪様の命を狙うことこそ、ルミルミが生き残れる唯一の活路。……しかし、”唯一”でしかない。

この雪原の中に埋まったところから、花を見つけるようなくらいの活路。……私だって死ぬつもりはないですからね。ルミルミには勝つ可能性を残すのが、戦闘上手。



次回予告:


表原:あれ?ちょっと早い気がするような?

レゼン:最後のステージだから変更点が色々とあるそうだ……。色々とやりたい事はあったが、やりたい事を絞ったとのこと。

表原:まさか、金習と戦うのが、此処野さんなんだね。録路さんじゃないんだ(2回も戦ってるのに)

レゼン:初期は録路だったんだが、……話を深く考えてみると、此処野の方が良かったとのこと

此処野:へへへ、悪いな。大物を獲ってよ

録路:……ちっ

レゼン:当初は録路が連戦で、金習と此処野をぶっ倒す話になっていたんだが、あまりにそれじゃあ此処野が可哀想だからって事で、金習を相手にさせたそうだ

此処野:おい!!それどーいう事だよ!?

録路:……よくは分からないが、俺にもちゃんとした相手がいるんだよな?

表原:…………ええっ!?録路さんの相手って、あの人なの!?


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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