Cパート
見事です。
「……………」
クールスノーとルミルミとの、刹那の駆け引き。
それを圧倒して優勢にさせる動きを、南空はそのように評す。基本、粉雪のやる事に肯定と賞賛を送るのは、……。
「!」
ルミルミが気付いたことは半分である。そして、もう手遅れだと分かり、迎撃に務めたのは無理もない。ルミルミ個人には関係がないからだ。一方でクールスノーが上空から確認したのは、軍事施設の全容と……その出入口の箇所だった。
高所にいるという利点は確かにあるが、刹那でそれを把握し、表原達の状況においても把握、フォロー。これだけでも到達できる戦闘の巧者は、まずいないだろう。
本来、ルミルミのことは此処野に任せたいと、粉雪は言ってはいたが。こうして、ぶつかってしまえば、すぐさま本気になる。
2番でも3番でも。
順位は何でも良いが、可能性は1つでも……。
「テンマ、フブキ」
”切り札”
『!…………解く』
『禁』
”本気になった時に使う戦い方”
などという輩。その半分以上は、ただの枷や強がりになる。
どんな状況でも全力を出せたかどうかで、その”切り札”の質は異なる。それは決して数える事ではないし、”ここぞ”って人生の中で、……そのことは”連続してやらねぇといけねぇ”ことだと分かるもんだ。それがレベルアップだ。
クールスノーは、今に研ぎ澄ませ、昔の出来事から理解し、先で叶えるために戦おうとする。
パラァッ
『僕と』
『あたしの』
全てを解き放って、粉雪。
「命を賭ける戦いは、あんたが相手で良いわ」
「来なよ。格下ぁっ」
テンマとフブキ。2人の妖精の口は通常、塞がれていて、周囲の妖精達からも気味悪がられてる。それは粉雪が2人に科したルールであり、2人もそれを守り通した。
”切り札”と名をつけるなら、正直なところ、キッスや野花の方がそれらしく。クールスノーのそれは、単なる基礎能力の向上に過ぎない。しかし、そのシンプルな強化こそが最大の強さであることをクールスノーも、テンマとフブキも理解している。
あいつを見れば分かる。
『ルミルミ。お前に勝てる妖精はいない』
『あなたは強いもんね。全部が2番だもん』
全てを器用に、そして、卒なく満遍なく、強い。
テンマとフブキがルミルミと戦うことだって想定していないわけもない。彼女とは同期でもあり、その強さは妖精の国の頃から見ていたから分かっている。そして、共に戦った事も、敵として戦った事も十分に理解しており、妖精としての優秀さならばルミルミだろうと思っている。
彼女に勝つには、彼女の全てに勝とうとするのは敗北を意味する。不可能。
ある1点だけに勝ち、そのまま押し切る。
シンプルな力技。自分の得意分野に持ち込むことで、……ルミルミに勝機がある。
それほどの覚悟を遥か前から持っていた。それをルミルミという相手は知らない。
ヒュ~~~~~
冷たい風が吹く。
それはクールスノーの雪が降るよりも早く起こったことだ。
気温低下が著しく、雪を降らせてくれるような気温ではなかった。
周辺一帯が極寒の地に変わる。
キランッ
「!!」
クールスノーの遥か上空。ルミルミがそこで青白い輝きの数々を見た。雪雲の上に乗るクールスノー、南空がゆっくりと降下していくのに対し、その輝き達の落下速度は早く、明らかに殺意を持った雰囲気。
「”凍結世界”」
さらに上空にある水分を凍結させ、凶器に匹敵する雪……刃を落とすといった方が良いだろう。
雨とは比較にならない物量。それが刃となる。コンクリに突き刺せ、さらに重量で圧し潰す。
上空に落ちては来れなかった水分のほとんどを、この軍事基地に向けて降り注がせた!
「へぇ」
ルミルミが、クールスノーの”凍結世界”に対し。”受け”に回らなかったのは、彼女もまた、全力で戦えるというサインであり。クールスノーもそれに、敵として熱くなってきた。
ドガアアアアァァァァァァッッ
降雪・降水量を、ほぼ1点に集中した時の重量。危険な軍事兵器の試用もされるこの施設において、外部への影響を無くすほどの頑丈さを持っているのは確か。それを持ってして、
バギイイイィィィィッッ
中央の円形の建物の崩壊から始まり、4つ角の建物すらも雪の重さに耐えられずに沈む。囲い部分も一気に白い雪で覆われ、瞬く間にこの場は白い世界しか残らなかった。
軍事施設の地下1階部分は建物の崩壊によって、潰れるものの。それより下の階では、わずかに通ってきた雪の刃が地下2階に降り注いだだけであった。
クールスノーの”凍結世界”により、完全に外から中への侵入は困難になった。それは中から外に出るのと同じく。
容易には動けず、目の前の敵に当たるという戦場に変えた。
ルミルミとの戦闘を受け入れての行動である。
シンシン…………
クールスノーの雪も降り始める。自分のフィールドを作り、”凍結世界”によってやってきた雪だって利用する。
上空で確認できた、地下へ繋がる出入り口を自分の雪で念入りにコーティングし、封鎖した。これは自分の攻撃によって、地下で戦うであろう、ヒイロ達を巻き込まないようにするためのこと。その逆で、もし。上空に攻撃しようというなら、少しの足止めは必要という判断だ。
クールスノーも、南空も、ルミルミも。……こいつを倒し終わるまでは、他への気を許そうとはしなかった。
「30点と言ったところでしょうか」
南空はルミルミの行動に辛口採点。
だが、テンマとフブキからすれば
『さすが、ルミルミ。そう簡単に感情的にならないか』
『自分で防御しなかったのは正解だね』
おそらく、”妖精”としてなら最大級の相手として見ている。その評価に違わぬ、冷静な対応。
ルミルミが”凍結世界”を前にとった行動は、極めてシンプルだ。
クールスノーと南空が乗る、雪雲の下に入り込むことだった。”凍結世界”をそのままやってれば、クールスノーも南空も無事じゃ済まない。自爆技となる。
自分達には落ちて来ないように制御する都合上、その下や近辺にいれば、必然的に喰らう量は減るし、十分に対応可能。もちろん、自由な飛行能力のあるルミルミだからできる、選択。……そして、妥当な選択だった。
フワァァッ
クールスノーは装着しているスノーボードを滑らせ、一旦、南空を雪雲に残し、飛び降りた。
上空のアドバンテージを考えれば、自由に飛べるルミルミが優位。自分より高くてもいいが、雪雲より高い位置に逃げられると不利は確か。
ルミルミの動きに反応しての行動。それはとても速い判断。
「!」
3者が誘った動き。
しかし、先ほどの採点がどのようなモノか。
雪積もる地上に落ちるクールスノーに対し、ルミルミは彼女を見ずに、雪雲の上に残った南空を狙ったのだ!
「それが-70点」
チェーンソーと剣のぶつかり合い。
それは南空がルミルミに反応していた事である。
「頑張ったポイントが欲しいか?」
もし、ここで南空を瞬殺するようなら、クールスノーに与える精神的ダメージは大きい。戦闘直後という油断もあろう場面でも、この強者を相手。この極寒の寒さから出る、”命の大切”さも相まって、油断するわけねぇだろう。
まだ赤ちゃんの姿でいる、ルミルミの頭部を空いた左手1つで掴み。
ドゴオオォォォッッ
地上の、雪で詰められた場所に向かって、ルミルミを投げ落とした南空。
そして、クールスノーが離れたことで雪雲が、人を支えるほどの重量を失い、南空を落下させる。
バシィィッ
雪の上に叩きつけられたルミルミであったが、自動再生などを絡めて、即座に回復。ノーダメージと言える。無感情で雪の上に立ったところを、スノーボードで加速してきたクールスノーが雪崩と共に突進を仕掛ける。
ドゴオオオォォォォッ
手応えがないことをクールスノーは察知。
全力じゃないで、”これ”……。
勝ち負けが大事なのに、楽しませてくれる。とても厄介な相手だと改めて認識し、ゆっくりと弧を描いて旋回。同時に南空もこの雪の下に着地する。
ルミルミは
「”雷槌千煩”」
自分の身体から雷を発し、クールスノーと南空を牽制。それはクールスノーが猛吹雪を降らせたと同じく、全方位に攻撃を仕掛けるということ。
クールスノーと南空の2人に隙は無く、横に並び立った。
「南空、大丈夫?」
「心配されるほど、老いてしまいましたな。まだ心配無用です」
雪がクッションの役割を果たしたとはいえ……。この猛吹雪の中とはいえ……。その上を軽々と行く。
「いやはや、中々に。粉雪様にご心配ばかりかけそうです。……ルミルミか」
あのルミルミを相手に、退く姿勢を出さない。
「私のことなど気にせずに。もろともで構いませんよ。足を引っ張る老体と思えば、この命を獲りなさい。ルミルミと同価値なら嬉しい限りです」
「……同じ条件よ。私が要らないなら、その武器で私を斬りなさい」
「お優しいことです」
クールスノーと南空の会話。そして、フブキとテンマの会話。
ルミルミが牽制をして、2人が近づかないとしても……この猛吹雪の中はクールスノーのフィールド内。一方的に相手を葬る事ができるとしても、ルミルミが落ち着いていられることは。確かにまだ、本気の応対とはいえない。まだ、”妖人化”をせずに2人と戦っている。
「……ふ~~ん」
”余裕だろうか?”
「意外ね」
「そ?」
「?」
そいつはお互い様だろうか。
クールスノーと南空に伝えているかと思ったが、ルミルミの合わせない視線が答えだった。
それがちゃんと対象者達に向き合っていること。
「ず~~っと、喋らない奴等だと思ってた」
『………僕達の”覚悟”だ』
『そうよ、ルミルミ』
テンマとフブキ。
「あんた達って結構、思ったほど喋るんだね」
ルミルミとサザン。
4人は同期でも干渉し合った事は少ない。それ故、テンマとフブキの2名が、ルミルミの目の前で話すという行為そのもの、とても珍しく思える。見ない方が物珍しいまま。
これが”彼等が見せた覚悟”とやらかもしれない。
それをして
「喉が嗄れるほど喋って、2人だけのお話をしなよ」
ルミルミをして、小さくて、ムダな覚悟。
「次喋るのが、どちらかの断末魔かもしれないんだから」
それを嘲笑う。殺意マシマシな表情。
塞がれた口から解放された二人に、届いたちゃんとした、訴える言葉だった。
開く口を持った者がどうなるものか。
◇ ◇
軍事施設に冷たい風が入って来た。
「!!」
それが寒いという情報だけだったら、手遅れだった事だろう。
レゼンは即座に機転。
「マジカニートゥ!」
「さぶぅ!?なにっ!!」
恐怖した寒さと勘違いするくらい、危機的な状況。
助けたかった白岩と出会えたのに、本人が錯乱状態で襲い掛かってきて、ダメージになるくらいに殴られる。
マジカニートゥが本気を出す準備はできても、その機会をレンジレヴィルを相手に仕掛けるのは難しい話。素の身体能力では、大きな差がある。
きっかけを作るのは困難。
「待て~~~~!!!」
「白岩さんのテンションで追いかけて来ないでください!!ジャネモン化してるし!!」
あと少しで捕まってしまう時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「!」
レンジレヴィルが寒さに止まったわけではなく、ここからでは見えない上空からの気配を察した。勘の良さが災いした。流れた冷たい風は、クールスノーが地下内部に侵入したマジカニートゥに伝えたメッセージ。
軍事基地全体を攻撃するという意。
それをすぐに察せたのは、クールスノーの無茶苦茶ぶりを知っているからだろう。仲間としてだ。
「ぬわわあぁぁ」
基点も飛ばしながら、さらに下へ。
自分も巻き込まれてしまうとの必死さ。
レゼンの声かけがなかったら、立ち止まっていたかもしれないし、逃げただけだったろう。
地下2階から地下3階へと行き、そこからさらにダッシュ。その間、レンジレヴィルは。
「ジャオウジャン様ーー♡♡」
レンジレヴィルの記憶では、まだルミルミの傍にいると思っていた。マジカニートゥという逃げる敵を殺すよりも、ここは彼女の本心である、失いたくないというモノが働いた行動だった。
”凍結世界”の攻撃。地上を雪原に変えてしまうほどの攻撃に巻き込まれたのではないかと、
「あああぁぁぁっっ」
マジカニートゥを排除するという決めたことを忘れ、かといって、ジャオウジャンを捜すといったことなく、ここに留まって停滞。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
建物を圧し潰し、出入り口を雪と瓦礫で塞がれ、脱出は難しくなろうと。
「ジャオウジャン様。あたしは僕。僕なのに。御守りできなかった。役立たず、役立たず、僕として、ヒイロ、ヒイロ、ヒイロ、ヒイロ、どうすればいい。いていていていて、来て来て来て」
レンジレヴィルが何一つ行動せず、状況の混乱をそのまま受けたのは、洗脳によって表面化した精神力の弱さ。
新たな主に何かがあると、自分がどうすればいいか分からないのは、洗脳の象徴。
辛うじて、マジカニートゥはレンジレヴィルからの逃亡に成功した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
フロアが揺れても動かなかった。それは人形と同じようだ。
グサァッ
「……あ。痛い」
”凍結世界”の刃が、レンジレヴィルに刺さったことで、声が出て冷静になる。
自分の力がまったく衰えないことで、ジャオウジャンが少なくとも生きておられる事に気付けたのだ。そして、
「さすがジャオウジャン様♡死にませんよね♡私の前から消えませんよね♡苦しくならないですよね♡」
情緒不安定。
とても良い事を知ると、とんでもなくプラスに行動する。浮き沈み激しい。
どこにいるか分からないが、生きていると確信すると
「すぐにマジカニートゥを排除します♡喜んでください♡褒めてください♡」
行動を移すまで、1分53秒というムダな時間。
もし、違う奴なら、トドメをさせるくらいのことだった。
◇ ◇
ガチィィンッ
『推しの男性』
空間の基点。設置完了。
地下3階。南東の建物、階段付近にて、それが出来上がった。
これで準備は整ったはずだが、マジカニートゥは悲鳴を挙げている。それも逆なことを言いながら
「来ないで来ないで!!白岩さん!!ヒイロさん、来るまで待って!!」
白岩の強さを知っているだけに怖さがある。
操られている事を、混乱の中で察知し、逃げながら叫ぶというマジカニートゥの愚行。とはいえ、それすら本気。生き残るための必死さを伝えるには十分。
今は、逃げが大事。
「!」
レゼンは、レンジレヴィルが追ってこない事を確認していた。しかし、”大丈夫”なんて言葉を遣うことはできなかった。今の様子は、どう考えても
「金習にもバレた!」
それを前向きに捉えるべきか、最悪と捉えるべきか。
マジカニートゥ達の日頃の行いが試されることだ。レンジレヴィルと違い、金習にはマジカニートゥの位置がもうバレた。待ち構えてたりすれば、ここからバトルになる。数秒でも早く、ヒイロ達を呼びつけろって思っている。
今、マジカニートゥは。それ以外の本気は使えない。
ナックルカシーと此処野を身体能力で倒している、金習とぶつかる。最悪、レンジレヴィルと挟み撃ちなんてされたら、一貫の終わりである。
その挟み撃ちを避けるべく、闇雲に逃げることは正しい。混乱している人間の行動を読み取れるような事はない。それでも不安があるのは確かだ。金習の位置は、まだ分かっていないのだから。
「何かを使った?彼女も面白いことをするんだな。生け捕り確定だ」
レゼンの不安。マジカニートゥの不安を受けたという点もあるだろう。
金習は先回りなどせず(位置的にできなかった)、地道に追いかけるという選択をしたのは、冷静に考えれば自然な事だった。身体能力は、レンジレヴィルよりも劣る事も知り、自分がマジカニートゥの位置を知れる。あまりに優位な条件である。そして、今は立ち止まっているが再び追いかけるであろう、レンジレヴィルの行動を制する上で……。
マジカニートゥが通った階段付近を目指したのは、当然と言えた。
もちろん、マジカニートゥが何かを放出し、奇妙なエネルギーを発する事に興味を持ったのも事実。
「あれか……!」
結界で見るよりも、自分の目で見た時。
ズズズズズズ
空間の向こう側が歪んだ。そして、中央に波紋を起こして
ポーーーーーーンッ
「今行くよ、印!!」
「「行くぜぇぇっ!!」」
ヒイロ、ナックルカシー、此処野。
その3人が空間の向こう側から現れ、金習の目の前へ!




