Bパート
とある軍事基地に辿り着いた者。
それは再び姿を変えており、かつては忠誠を誓った者達すらも何一つ思わず、屠る。
「君達はもう邪魔だ」
それは死の宣告であり、最期の命令である。
兵士達、関係者達の悲鳴は現れても、……他が知る由もない。
「また新しくなるには、大掃除」
金習は一度、150種類ものジャネモンを抑え込んだが。ジャネモン達もまた、彼に抑え込まれたままではなかった。金習の体が、巨大な樹木の密林や太平洋のような広大な海にも匹敵する器だとしても、その器からわずかに零れ落ちて、制御不能の怪物を体から発生させてしまう。
それにいちいちリアクションをとったりする輩や、連鎖するように心を揺らす存在は、邪魔でしかない。
ただでさえ、異常体質がさらに異常さを増したところで、金習に動揺はなく。そちらの方を信頼するとして、
「今の私なら君達のしてきた研究なんて、すぐに理解できる」
最高権力者に、最高の肉体、最高の頭脳……そんな事よりも、
軍で対応する範疇を超えた兵器を、”合図をする1つ”以外で動かせる手段を持つようになれば、独裁者という冠を被れる。
【テメェ、イカレてやがるぞ。仲間皆殺しか?】
「??別に。軍は今、私と君だけで十分だろう。”今のところ”は」
【はははは、狂ってる。その中に”俺達”がいねぇな】
「よく分かってる。しかし、気持ち悪い体だ。少し落ち着いたらお前を体内から除去するとしよう」
金習に抵抗するも、共感するかのように話もするジャオウジャン。
最後のピースである戦争を引き起こせる人間は、金のためや人類のため、正義のため、……なんていうのが、1mmも入っていない事で安堵?安心?ジャオウジャンからして、1つ言えるのは
【高揚とはしねぇ】
「お前も私の体から出ていけ」
【連れねぇなぁ~。ここまで来てやった仲じゃねぇか】
この軍事基地には、非常に危険な兵器がいくつか保管されている。
こいつを使っての戦争は一方的な虐殺であり、その後はプロパガンダまで用いての人類の強制的な合意を成せる。
敗者や死者の弁は受け付けない。しようものなら、その舌を引き契るだろう。
それほどの大規模となれば、自分の意志に抗おうとする連中がいてもおかしくはない。人の理性までは学習できない。金習がこの軍事施設の全てを単独で制圧・支配にしたのは、”これほどの戦争が非人道的である”からに他ならない。
「手が欲しいものだ」
【お】
「目が欲しい、耳が欲しい、鼻が欲しい、足はいらねぇ、脳はいらねぇ、」
【マジかマジかマジか。お前、どんな学習能力をしてんだ?】
金習の子供の体が膨れ上がり始めると、体から触手のような腕がいくつも現れ、その腕の長さは数10mを超えている。腕には目玉のような器官が生まれており、周囲を監視もする。
身体の変化によって現れる熱量の全ては、金習の頭脳に集約され、この施設を支える発電量を超えたエネルギーがあっただろう。両耳や口、果てには眼球などから蒸気のような煙を噴き出しながら、自ら殺してしまった人間達の分までの労力を一人で行う。
まるで蜘蛛の巣のように、金習の体が張り巡らされる。
ビジャアァァッ
【我の真似か】
「学習の基礎に過ぎないぞ」
瞬く間に軍事施設の内部とその周辺は、金習の体内に収まったと言えるような光景となった。金習から生えてきたいくつの腕は、彼の神経のような役目と言える状態となり、この感覚を本体である金習は察知できる。
ジャオウジャンという存在を学習した上での成果。
科学者達を抹殺しても、何も問題はないと言えるような、彼の技能。
この怪物をして
【人間を超えてくれんと困るぞ、人間】
人間じゃない事を伝えている。
それに気にする事もなく、自分の計画を進める。こっちは戦争の準備を整えた。その上で、後始末とその後の活動。
自分が優れた生物となり、一人でもその力は一国の労力と言ってもいい。だが、それに胡坐をかくことなく、さらなる学習や進化を求めていくのが、人間の原理。自分のような生物を、恋愛や繁殖という感情を抜いてもなお、欲する知恵はある。
そして、自分以外のそれら。そこに篩をかけて、沢山落ちていく、アレ。
死という形で収めるよりも、より効果的に……その肥料の質を高めたい。そこに白羽の矢がたったのは、
「君達の力を借りたいんだが、協力してくれないか」
「…………」
「嫌です!」
ルミルミと白岩印であった。
金習に連れ攫われ、この軍事施設に収監されていた。
「私の愉しみが削がれるんだがなぁ」
収監までは力ずく。そこからは交渉という形で穏便な協力を求めるが、抵抗の激しい2人にはやりたくない金習。
特に白岩は、金習とその中にいるジャオウジャンに対してはかなりの敵意を見せている。
「君はもっと人のために尽くすとか考えないかな?私が求めたい事に、妖精の力が必須だと説明しただろう。そのルミルミちゃんも含めて、人間ならば良い話だと思う。そして、君は先生に向いていそうな眼差しだ。指導者としても良いと思うが」
「指導者に向いているとすれば、あなたに従うのはオカシな事です。あなたのための指導者にはならない!」
「あぁ、それもそうか……”実験台”にランクダウンさせるのは、正直に、惜しいんだがな」
妖人としての価値を見て、白岩は収監中。金習としては、白岩の利用に関しては……もうちょっと先でも良い話だ。なにせ必要なのは、妖精という存在が大量に必要であり、
「ルミルミちゃんの方はどうかね?」
【あっ!そうだ、テメェ、ルミルミ!!さっさと我の心臓を返しやがれ!!それもねぇと、完成体にならねぇだろうが!!】
「妖精は人間のためにあるのなら、その妖精の管理をちゃんとしたい。……ぶっちゃけるよ、妖精が大量にいる。君なら連れて来られるんじゃないかな?」
「むっ!ダメだよ!ルミルミちゃん!そんなこと!!」
その軽い口が言ってるんだから……。白岩が悪い。
金習の計画の大前提には、妖精が必要である。その生産には地球が適さず、別の世界から連れて来る必要がある。ルミルミにはそれをして欲しい。
「……………」
黙秘を続けていた。しかし、それでも金習は自分の計画を伝えた。優秀という人達からすれば、それが”実現できる”というのは夢のような話であり、……人類の法を、最初に破ってくれると、勇気のある発言。
それはルミルミの
「人間は死んでしまえってね」
SAF協会を設立した目的と非常に合致する。
なにせ、人間を減らせる計画には違いないからだ。とはいえ、
「全滅じゃないなら、別に……乗る理由はないよ」
「んんーっ、困ったもんだ。私よりも残酷だなぁ(棒読み)」
誰一人も生き残らせないほどのことだ。
これには金習は困るが、人間じゃない怪物からすれば
【金習。テメェ、面倒だなぁ。おい、ルミルミ。お前の意志を尊重して、我と組まないか?】
「はぁ?お前に助けを求めるつもりはない」
【なんだって~?】
ルミルミの目的と一番一致するのは、ジャオウジャンである。とはいえ、ルミルミの願いを叶えるとしたら、金習も死ぬわけだ。”殲滅の程度”は考えて欲しいものだ。
「こーなると意見が合わないんだ。折衷案は、この大事な場では、いけないのだよ?」
【「「お前が一番合わないんだよ」」】
「3人共言うのかい?まったく、もう一度言うよ」
金習のとある計画は、妖精という存在の価値を知った上で一気に加速していった。
数百年先に到達しそうな話になる。
「日本という国を、”妖人と妖精の国”にしてみたい」
「言葉で誤魔化さないで」
「失礼。じゃあ正直に、”奴隷と資源の国”にしたい」
政治家なり、活動家なりが、考えそうな夢の話。それは確かに実現できる技術があっても、法の整備や資源、財源、土地の確保といったこと。握る権利も重要なことになる。
「妖精は人のために力を与える。それは、特別を除けば、”優れていない”人間ほど効果が高いのだろう?それは今後の人類の問題を解決するに良い話だ。……良い肥料に、捨てるべき人を混ぜるのは、古来からの理想だ。その肥料に妖精というこの上ない素材が見つかった」
【ジャネモンでもいいじゃねぇかよ】
「理性が合った方がいいだろう、”資源”として教育された人間が良い。暴れるだけではコストも掛かる」
金習が手にしているようで、まだ手にしていないようなモノ。
「私の知り合い”だった”、濡利達のおかげで大きな土地の権利はある。だが、それでもまだまだ足りていない。時間も足らない。人類の多くが、飛び越える事を恐れる人の理性もある。そーいう常識を掃えるのは、”形式がどうあれ”戦争だよ。命が掛かった人生ほど、価値観が歪み直される事はないからね」
「歪み直す?あなたの価値観はとても真っ直ぐとは言い難い!」
「??価値観に、真っ直ぐというのはないのだよ、白岩ちゃん。より柔軟に、より雑になる必要性もある。話はソレたが、”資源”となる妖精を提供して欲しいものだ。ジャオウジャンの様子からすれば、妖精には人間が必要なのだろう?戦いというのは、”コレっきり”にして、平和な活動にシフトするべきじゃないかな」
「甘い話」
最後の戦いと銘打って、”コレっきり”という平和が訪れるものだろうか?
妖精達にとっての平和とは思えない。
「ジャオウジャンを取り込める奴が言う言葉じゃない」
「だそうだ。こいつが消えたら、気持ちは変わるかい?」
【消えてたまるかぁっ!!だいたい、ルミルミがそれで従うわけねぇーだろ!!】
「仲間を売ったりはしない!あんたなんか、人間なんかにねっ!!」
ここらへん。やはり、まだまだ平行線か。
しかし、金習は頭を抱えながらも、まるで字が読めないってくらいの認識の低下を示すような声で
「手始めに日本をぶっ壊すよ。あそこには君達の仲間なり、強敵もいるんだろ」
「!!」
「そんなこと、動けばどうなるか分かるでしょ!?」
邪魔なもんをどかすくらいのこと。
ホントに戦争を始めるっていうのは、実権を握る支配者が一つを間違えるもんだって、分かるようなお手本。白岩の警告する声なんて聞かず、ルミルミに言う金習。
「妖精は日本だけで暮らしなさい。その場所は私がこれから作る……君の目的は全人類の撲滅のようだが、解せない理由の1つに、なぜ君は故郷に帰らないのか?帰れない事情があるんじゃないか?」
「………………」
「自分の場所をまず確保するべきだ。私はそこを提供できるし、見返りをちょっと求めるだけさ」
「………………」
「妖精の力で、”新たなエネルギーを生み出す”。この地球を支えるエネルギーで、ひっくり返すのさ!社会の根幹をっ!人間を滅ぼしたいという、望む結果で迎える希望は君にあるのかい!?」
ルミルミにとって、金習のやりたい計画など、耳にも入れていない。
でも、聞こえる声がある。
「そんな横暴で世界を変えられると、本気で言ってるの!?」
自分の住む国を壊す。そこらの生きる事に諦めた人間達が言うのなら、笑い話なものだが。こいつの場合は違う。あまりに危険な暴力装置をいくつも持ち、本人自身もしかり。
「始めは受け入れがたいものだ。しかし、私はいくつもその汚れをもう背負っている。白岩ちゃんのような子供には理解し難いだろうが、忘れられた犠牲で幸せは作られるものだ。日本という場所全体をエネルギー装置として、世界へと供給する。新エネルギーは常に進歩をさせるんだ。君がこうして訴えても、数百年後には同じことを問いかける事になる。私はそれを数百年早く許可するのだ」
誰にも止められない。
「ふふ」
哂ったのは、ルミルミだった。
「あはははははは!!おっかしーーーっ!」
「……そうだったかな?夢は大きくあるものだよ」
「いやぁ、それを哂ってはないんだけどさ。大前提にあんたにあたしの強敵達を倒せるとか思ってんの?」
金習は協力をしてもらうため、ひとまずは理想を語った。それは夢のような話であり、上手くかみ合うのかどうか。
そんなことよりも
「お前等にヒイロくん達を潰せるわけないね。向こうにいる妖精のみんなだって、あんたの奴隷になりゃあしない!!」
哂うルミルミの言葉に少しの安堵な表情と、少し惚けたような顔をする白岩。
一方でジャオウジャンの方は、彼等の強さを知るだけに……憤りの様相。
哂うのは
「「はははははははは」」
ルミルミと金習。2人だけだった。
そして、金習が笑った理由は
「素晴らしい事を言うねぇっ!!いいねぇ、いいねぇ、そーいう評価。くくくくく、間違いないって顔だ。ますますさ」
「!」
「ぶっ壊してぇなぁ」
狂気が詰め込まれた一言だった。
……その後、少し考えてから、金習は意外な行動に出た。
「ルミルミちゃんは解放しよう。また、考えてくれませんかねぇ」
「!待って、白岩もっ」
「彼女はまだダメだ。私もジャオウジャンも、白岩ちゃんの気質が好かない。しかし、ルミルミちゃんは気に入った」
【我は気に入ってねぇぞ!!】
なんとルミルミを解放するという選択。その時、白岩を気に掛けた事も含め、即座に逃げるのは考えづらいとは分かっていた。そして、自分自身がこれから戦争を引き起こすと伝えた事実を、傍で見守った方が立ち回りも良いだろうと判断。
「すでに見てもらった通り。私はこの軍事施設の中を自由に把握できる。白岩を連れ出そうものなら、どうなるか、分かっているだろう。それでも大人しくしてればいいさ」
「……そっ」
「ルミルミちゃん……!あたしは大丈夫だから!!ヒイロがいるんだから、絶対平気だもん!キッス様も、粉雪さんもいる!!」
「白岩……でも、あたしもまだここには残る。自由にさせてもらうけど」
金習の読み通り。ルミルミは、檻から出たとはいえ、ここに残った。
この施設を良く知らないため、それを見回るつもりのようだ。
【いいのか?】
「ルミルミには、君にも用事があるんだろ?」
【それはそうだが】
「敵対する事はない。良くて中立の状態ならば、放っておいていい。白岩とは完全な仲間という様子でもないのは、二人の言動から察した」
金習とジャオウジャンも白岩を収監する場所から離れた。一人寂しくなってしまった白岩であるが、強い心でただ待つことを選択。自分が攫われたとなれば、絶対にヒイロが助けに来るって信じているからだ。
監視状態にある以上、下手なことはできない。機会を伺う。ルミルミだって、そうしていると思っている。
「ルミルミと白岩には人質としての価値がある。ならば、やってくる奴等がいる。そうなれば手札が増えて、手段を選べる。そうすぐに日本を攻撃もできん状態だ」
【なるほど。あの二人を人質にして、妖精を回収するってわけね】
「二人の発言と、私の対峙した奴等を感じてみれば、……”妖精の国”に行ける手段を知る奴等がいそうだ。その1人から判ればいいんだ。ルミルミのあの強気も崩れれば、態度を変えるさ」
【………………】
このヤロォ、ちゃんと分析してやがるな。唯我独尊の支配者や権力者かと思っていたが……。
ルミルミから心臓を取り返させねぇと我の命が危ないが、金習を放置し続けるのも危険だ。こいつとルミルミが争ってるところを割り込んでやろうと思ったのにな。
まぁいい。人質作戦をとるなら我にも都合が良い。
ルミルミから奪うには、奴が戦って、消耗してくれねぇとな。
金習の読みは間違いなく当たっている。近いうちに、全面戦争よりもひでぇ乱戦は確実。
そこを生きて勝ち抜いてやる。
!、そうだ。だったら、こーいうのをしてみるか?
「……………」
まったく、どいつもこいつも。
とはいえ、妖精達の管理は私達がやるべきものだ。妖精には意志など要らない。
ただただ、人間のゴミクズを製粉して、資源に変えてくれるのなら(例えの話)。
優秀な妖精の個体がいくつかは必要だ。
◇ ◇
ブイイイィィィッ
「……………」
殺しに飢えるチェーンソーの音を聞くが、本人の顔は浮かない様子。
搭載されている刃の質、向き、大きさはいずれも異なっており、綺麗に切断するものからかけ離れた構造をしており、対象物を”グチャグチャにしながら切断する”というのが、このチェーンソーの特徴である。
その持ち主は
「少し重くなったか?」
変わらぬ重量にも関わらず、そんなことをぼやいてしまう。
自分の老いには気付きたくはなく、ため息をついてしまう。
「これでは金習を殺すのに、5分は掛かりそうだな」
冗談か否か。
その実力は今も未知数でも、粉雪が信頼するほどの人物である。野花壌とはまた違った状態で、強いと評される老兵。普段は秘書役を思わせるが、身体能力と格闘能力、いくつかの武器を扱う。
「どう思う?ナチュセンコ。さすがに時間が掛かり過ぎるか?」
「言葉がもう、殺人鬼よりも凶悪なんだよなぁ」
南空茜風の浮かない顔には、この大一番に来るべき一人が来ない事だろう。
革新党としても動きを見せるようだが、どーやって動くかまだ分からない。南空としては
「粉雪様の指示通りに動くだけ。準備は整ったんだな?」
「大変だったが、いつでも良い状態に」
あとは数少ない始まりの機会と、心臓の音すら貴重になる、制限時間。
別ルートで金習の命を狙うのは確実のようだ。
その上で野花壌が来ないことと
「……………」
なにやら他の思案をしている南空。
長く生きている古強者だけあって、今まで感じた事のない、不安には敏感なのだ。
今まで溜めていたモノが噴き出して、噴火でも起こりそうな予兆。
「南空さんは死なないでしょうに」
「……分からん。あの伊塚の爺も死んだのだ。そして、金習もすぐに死ぬ。そしたら、次に私もあろう」
「なら、壌にもう一度」
「あの女は来ないと決めたら来ない。ナチュセンコ以上に付き合いは長いから分かる。それに今からじゃ、間に合わん。互いに無事を祈ろう」
バババババババ
ヘリコプターの轟音。それは南空をお迎えするもの。
その中から出て来たのは
「南空!出るわよ!!準備は?」
「問題ありません、粉雪様」
「……頼りにしてるわ」
「こちらこそ」
……今更、言うべき事ではないのでしょうが。
粉雪様。
「派手に行くんだからね」
「ええ、あなたのお好きに……目的の遂行ができれば」
私は昔々から、あなたには。
我が子のようには思っておりません。
ですから、この戦い。もしかすると
「どうしたの?浮かない顔ね」
「久々に、勝てる戦いではなく、楽しむ戦いだからかと」
「そう。……そうよね。楽しいわ」
”あの時の過ちを、子として許した”
その後悔をするかもしれません。




