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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第56話『SAF協会 VS 金習』
221/267

Aパート


「ふ~~ぅ、はぁ~~」


見た目、子供。実は、爺。


「どうやら、私だけのようだな。その作用は分からないが、お前達はすでに失敗作の烙印」

「「……………」」


金習はペドリストとの戦いを経て、体が一気に若返り、挙句の果てに子供の姿にまで戻ってしまった。学習をし続ける彼の肉体の変異は、彼の持つストックには現れず、その者だけを成功体。それ以外を失敗作とした。

見た目だけでなく、彼の体から湧き上がる力は異常そのもの。金習という存在は、本体が死んでも、ストックがその代わりを務める事で異質な残機を持った権力者+実力者。暗殺が難しいとされる存在ではあるが、その中に許せないほどの個が生まれ


「”捨て駒”となれ」


まだある残機に、捨て駒という命令を下せるほどに……。

残機となっている者達は、金習の持つ”狂気”に戸惑いもなく、頷いた。容姿すら変わってしまえば、身代わりにもなれない。もし、万が一の出来事にも対応できるように教育がされている。突然変異にも従順。

これからはこの者を護るべく、従うべくと……。


「日本に行く。忘れ物はしないように、掻っ攫うモノは掻っ攫わないと、”海に沈んでしまう”」


不吉な事を言いながら金習が向かった先は日本。

そして、彼が欲するモノは、今手にしている力が訴えている者達の存在だった。



「寝手も、ハーブもイチマンコにも”宿主”ができた。これで必要なジャネモンの種類は……」


一方で、じーーっと待っている組織。SAF協会が滞在する宿泊先。

レイワーズの目標であり、その達成を求めている妖精のルミルミだ。残り少ない、ジャネモンの図鑑は更新され、……151種類を集めたその時。

ジャネモンの王様、”ジャオウジャン”の誕生である。

それがどのような性分になるかは、レイワーズの中で勝ち取った者の影響が出るだろう。ムノウヤのような存在もある。

だが、ルミルミにとっては、”ジャオウジャン”が誕生すれば、それでいいと思っている。



「……残り2種類」



必要な邪念は、残り2種類!

そして、その2種類はなんと、SAF協会が手中に収めている。ジャオウジャンは誕生さえすれば、圧倒的な力を持つのだが、……ルミルミがそいつの基盤となっている、”ジャネモン図鑑”を所持している状況。人間で言えば、心臓に近い部位を持つ。

順当に誕生するならば、その図鑑を持つルミルミがジャオウジャンを強制的に従える事も可能。そのタイミングもSAF協会が選べるという好機!



「そうか。もうすぐ、揃うのか」



レイワーズとしては、ジャオウジャンの誕生は嬉しい事であるが、ルミルミがその大事なモノを所持することは許せない。

必ず、ルミルミから奪う必要がある。


「生きてりゃあ、なんとかって奴か。……しかし、トラスト。お前はエフエーに従ってるんだろ?」

「エフエー様と怪護様は、親しい”邪念”の間柄。共闘もしているではないですか」

「この前、主を裏切った癖にねぇ~」

「……破片と言える私とて、ジャオウジャン様の一部。ならば、ルミルミから図鑑を奪うも当然。その過程で私が死んでも構わない。レイワーズが勝利となるならば、喜んで死を受け入れる」


ムノウヤからの言葉は突き刺さるが、トラストとしては生命体が持つ本能的な行動。

主と同じ格を持つ存在に、その権利が行き渡れば本望だと思っている。それを託せるのなら、生き残っている中でも怪護であった。とはいえ、本人は少しばかり気が乗らないものの、ケジメも含めてか。



「俺はSAF協会と合流するだけだよ」

「ルミルミと白岩は弱っています!怪護様と私、……ムノウヤが協力すれば、ルミルミと白岩を殺害し、図鑑を奪い取れる」

「今は王になる気分じゃねぇ」

「しかし!王は、王です!!今しかできません!!」

「……あ~、お前ってホント。エフエーの部下だな。……流行りに乗る感じで言うな」



怪護は、トラスト達と話して同行する事になっていた。だが、本人が言っている通り、SAF協会のところで厄介になるぐらいの認識。それに怪護はもうとっくに”宿主”を作っており、ルミルミからはお役御免な存在と言える。そこがトラストとしては、王になるチャンスだと言うべきところであり、怪護としてはややこしい事になっている。


「SAF協会のところに、因心界も来るだろうよ。俺には借りを返したい奴がいる」

「その答え、随分と軽いんじゃないかい?羽毛並だよ」


まだ怪護の内に、因心界と戦いたい。そのためにSAF協会のところに行くだけ。しかし、その本心は違うんじゃないかとムノウヤに指摘される。面倒な野郎がいるなって、舌打ちしながら彼を睨む怪護。トラストも似たような雰囲気。こっち側のようで、こっち側じゃねぇっていうムノウヤの態度。元、ジャオウジャンだから高みの見物か。

その指摘に怪護は、とりあえず、今の心境も含め。



「俺もまだ決め兼ねてんだよ。今は戦う気分じゃねぇから、理由が欲しくて……お前等と一緒にいるだけだよ」



ちょっとこの話に乗るまでに、五月蠅いおばはんと過ごしているのもあった。そーやって過ごすのも、終わりには良しなのと思うが、……自分は違うことを思い出せば、あそこで居ていいわけがない。

かといって、その気分でもねぇし。結構な葛藤だ、怪護は……。


「単身で因心界に勝てねぇし、田熊も向こう側についた以上はよ」


言い訳を口にして誤魔化す。それすらも見透かされる。

そーいうわけで怪護は突発的にトラストに尋ねるのだ。王になりましょうと言うのなら、その手段。



「そもそもトラスト!ルミルミを殺害するにしても、完成された図鑑を奪うにしろ、優位な状況が必要だろう!?なんか手があるのか?」

「そうだね。僕は死なないけど、ルミルミちゃんと白岩、此処野を敵に回せば、無事じゃ済まないし、敗北死が濃厚だよ」


必要なジャネモンは、あと2種類。SAF協会の手中ではあるが、その1種類は今……。



「おそらく、こいつがルミルミには必要なんだ」


トラストは自分の剣を具現化させつつ、剣身に角度を変えて光らせて、その中の様子を見せる。そこにいる猿の妖精、ゴックブ。SAF協会、最後の1人と言われている存在ではあるが、果たしてその”存在”にはどんな意義があるのやら……。トラスト達も疑っているが、ルミルミの言葉を信じれば、僅かながらも勝機がある。


「これを取引材料にし、図鑑を奪い取る。ルミルミは弱っているし、ジャオウジャンを復活させるところまでは、私達と意志は同じ。交渉はこっちの方が優位に進められる!」


因心界 VS ハーブの総力戦。その後でぶつかったのは、3つの思惑だった。

SAF協会 VS レイワーズ VS 金習。

すでに疲弊している3つが、共に敵対するであろう思惑。そして、命だけでなく”モノ”を奪い取るという戦いは強さがモノを言うものではない。

3つに目的があるということは……。



ガリガリッ



「「まったくよー」」


その三つ巴に、因心界が深く関われないのはハーブに備えていた事実もある。だが、キッスも見過ごすわけには行かず、信頼できる戦力を送って様子を探らせ、最終決戦までに削りまでしたかった。

菓子を食いながら、SAF協会達が宿泊している場所を訪れる。そいつと同じような気持ちで、対面した時は同じ言葉を吐いた。



「暢気に旅行気分か?」



録路空悟がこの場に現れる。そして、それを快く出迎えちゃくれないが、暇潰しには良いと思う顔。



「お前が来るのかよ。録路」

「此処野。護衛なんてらしくねぇな。それともビビッてたのか?」



此処野神月が、録路を出迎えた。




◇             ◇



ギシギシ……



「!」



こちらに向かってくる足音が重い。

療養中の白岩、それに付き合い、睡眠不足にもなっているルミルミ。弱る2人でも、やってくる奴が強いと判れば身構える。しかし、此処野の軽い声がしており、相手がそれに乗っていること。



ガラララララ


「……おー、本気で大丈夫か?お前等……」

「ろ、録路くん……」

「あんたがあたしを殺しに来たの?」


録路とは親しい白岩と違い、ルミルミは好戦的に身構えようとするが、録路と一緒に来た此処野は


「こいつがそんな真似はしねぇよ。ルミルミちゃん、休んでろって」


その言葉をすぐに信じるくらいには、ルミルミも落ち着き。録路もこの場でドカッと床に座りながら、ポテチを食べつつ。


「俺が来たのはお前等の様子を見に来ただけだ。キッスには報告する」


指示したキッスの命令はもちろんのこと。


「ヒイロもこっちに来たらしい。あいつにも会ったら、伝えておく」

「!!ヒイロが!ホントに!?」


その知らせに白岩が今すぐ行こうとするが、録路と此処野が彼女を止める


「向こうからこっちに来る。お前が勝手に動いても意味ねぇ」

「立場を忘れんな」

「うっ…………来たって事は、因心界で厄介事をしてるんだもんね。粉雪さん達と関わってるだろうし……」


戦う気などはないが、こうして二人が弱っているのなら話がしやすいもんだと、録路はこの場を仕切るように提案する。

というより、分かっているだろうが


「その厄介事が終われば、あいつ等はここに来る。俺は事前調査って事で先行しに来たわけだ。今、キッス達がどーいう状態か知らんが、まともにやり合えないのは分かってるだろ?さっさと戻るなりするなら、キッスが便宜を図るとな」


間違いなく、今のSAF協会は敗れる。それを脅しととらず。


「無事だと思うかな?」

「ルミルミちゃん」

「白岩はいいけれど、あたしも此処野くんも、ムノウヤも、あんた達を無事にするとは思えないよ」


勝ち負けではなく、無事には済まないという脅しを返す、ルミルミ。

いくら万全にしても犠牲が出るという言葉に


「キッスや粉雪の考えは分からないが。俺は少なくとも、”まだ戦わない”。組織力から言って、お前等が圧倒的に不利だ。レイワーズに集中していたのも、お前等が勝手に自滅するのを待った。頼れるのは此処野とムノウヤぐらいだが、ムノウヤがお前に忠誠を誓ってるかどうかは、疑ってるだろ」


ルミルミが無双するにしても、その限界は決まっている。ムノウヤの気分屋な性格を考えれば、本気で戦うかどうかも怪しい。

仕掛けないと勝ち目すらないのがSAF協会の厳しい現状なのだ。

録路はふーーーっと鼻息を荒くし


「ヒイロが戻ってきたのならお前等の命は保障すると思う。少なくとも、革新党からの脅威は向かないだろ。早い方がいいぞ。キッスが心変わりすると面倒だぞ?」

「ここまでやって辞めると思う?」

「はぁ~~……無理だな。お前の説得は無理だと思ったよ」


ルミルミが意気地になるなってのは分かっていた。

録路としては、自分の意見や情報、キッスの気持ちを含め、ルミルミと白岩に伝えきったから立ち上がって



「じゃあ、”お前等”とはここでサヨナラだ」



部屋から出ていく。それに続いて此処野が見送るつもりか、ついていく。その違和感に白岩が気付いた



「あ、此処野くん!見送り!?」

「なんだ?」

「……その」

「”お前等”には用がねぇのは、俺も同じだよ」



録路が立ち上がってから此処野が一気に戦意を出した。録路が伝言や様子見だけで来た……にしては、此処野がアッサリと通したのはさすがに違和感がある。

それにこーいう雰囲気は少し昔を感じてしまった。一緒に戦いもしたから、白岩には気付けた。

白岩に止められたせいで、遅れてしまった此処野はやや駆け足で録路に追いついて並び



「悪ぃな」

「……どこでやる?」

「人気のねぇ砂浜でどーだ」

「邪魔がいなくていいな」


ブロロロロロロ


大型バイクで二人、この宿泊先から離れるのであった。

様子見も兼ねていたが、録路の本命は違う。そして、それに応えている此処野。

決闘の場所を砂浜に……もとい、此処野が修行として使っていた場所まで移動。


「結構、久しぶりだな。こーしてお前と戦うのはよ」


此処野はタバコを吸いながら、……


「思い出せるもんだな。よく負けてるからだったか?」


録路はお菓子を食いながら、……。



此処野は妖精のアタナを、録路は妖精のマルカを傍に置く。

すぐにでも2人が戦闘を始めそうな雰囲気を出しつつも、そーなったらどうなるか分からない以上は、答えだけは互いに出さなきゃいけない。生け捕りだの、尋問だのは喧嘩に不要。



「録路。誰の目的で俺に戦いを挑むんだよ」

「涙キッスからだよ。理由は知らねぇが、お前を消せってな」

「……そうか。だが、その理由が本心じゃなくていいぜ。”任務”なんて考えず、お前みてぇな豚野郎を捻りてぇ気持ちで満ちてたところだ」

「俺はそれがついでに過ぎねぇよ。とっとと来やがれ。ビビッてるのか?」



同僚に近い立場で、こいつを殺してぇという純粋な暴の激突。

相手を真正面からぶちのめす事だけを考えりゃあいい。


此処野 VS 録路



◇             ◇




ブロロロロロ



車体の揺れる心地よさ。ムノウヤは後部座席を全て使って、睡眠中。運転するのはトラストであり、助手席には怪護が居心地が悪そうに座っていた。

ここに来るまで、半日以上のドライブ。さすがに飽きて来ている。


「もうちょっとゆっくり行こうぜ」

「ダメです」

「急いでも変わらねぇーって……」



急ぎたくねぇってか、答えを決め兼ねているまま。着いちまったらもうやるしかねぇ、気持ちを出さなきゃいけない。それを拒むように怪護は言っていると……、本人も気付く。

トラストは気付かず、とにかく着く事を目的にしていた。



「ルミルミが私達の反旗に気付くのは十分にあり得る」



グループに分かれ別行動をしていたSAF協会。ルミルミからすれば、ジャネモンを生み出すためにトラスト達を向かわせたわけで、”彼等が戻って来てほしい”わけではない。任務が完了すれば、帰還の有無は問わない。寝手とアセアセが離脱しようが、任務を完了しているため怒ることもなかった。

そして、白岩をルミルミが保護している状況も、逃亡という選択はある……が、


「そんなみみっちい事を考えるような奴なのか?」

「!」

「俺とお前等が手を組んだぐらいで、揺らいだり、頭を使うとは思えねぇよ」



トラストの作戦は机上の空論。怪護とムノウヤはそれを聞くも、無理難題だと笑っている。それをちゃんと口にしてやった、怪護。

相手は弱っているとはいえ、最強の妖精と呼ばれる実力者。シンプルに強いし、なんでもアリとも言える能力。本体の知能に多少の弱点はあれど、強引なやり方で崩せるとは思っていない。

なにより



「死んだらそこまでだぞ。お前」

「……最終的にジャオウジャン様が自由であるのなら!私はそれで構わないのです!!」


実力差を分かっている。挑めば、生存確率の方を考えるレベルだ。

使命や忠義に重んじるトラストに、命の大切さなんて分からないだろう。



ブロロロロロロ



トラスト達が乗る車のその上では、大きくプロペラが回る音がする。景色豊かな自然の中ではあまりにも不自然。それが車に張り付いて来ている事に、



「……おい、ヘリで追ってくるのはなんだ?」

「分かりません。因心界の者達でしょうか」


怪護もトラストも気付いたし、寝ているムノウヤも感づいた。しかし、3人共。狙われる相手に心当たりがない。なによりの違和感が



「少し様子を探ってやったが、……来るぞ!!デケェっ!!」



ヘリコプターの中から感じ取れる凶悪な邪念。それらが収束した後、放出されてビームとなった。怪護達の乗る車どころか、走る道を全て吹き飛ばす光弾。

持続されたビームは、道と繋がる山を破壊し、周辺に地滑りを引き起こす。海にもその衝撃が走り、大荒れを引き起こした。

消し飛ばされた道は溶けながら土と海に混ざり行く。



「んん~~」



兵器とは、何かを破壊するためにある。それが生物の一体に同化したとなれば、本人以外の良心や道徳などは無価値。彼の武を超えねば意見も選択もできない。



「気のせいではないようだな」


そして、その兵器が自分に訴えてくる。自分と同じ存在達がそこにいるというモノ。それに対して、上空からビームをぶちかますという、訴えを何も考慮しない行動。ただし、情をかけたというのなら、相手がそれに気付くまで待機していた事だろう。



「3人共、逃れたか。別の山に入ったかな」


車は完全に大破し、跡形もない。しかし、その車内には3人の死体はない。その事実よりも攻撃してきた側がしっかりと把握していること。


「なるほど、面白い」


金習の目標に、怪護、トラスト、ムノウヤの3名が入った。

そして、車から脱出し、山中に逃げ延びたトラスト達は当然ながら



「なんだよ、いきなり。あんな攻撃をする奴が因心界にいるのか?」

「全員、無事ですか?」

「なに言ってんの、トラスト。確かに凄い攻撃だったけど、あんな攻撃は寝てても反応できるよ」


山一つを消し飛ばすビームを向けられた事に恐れもないどころか、敵の様子を探れるほどの余裕。

怪護の思う通りに


「ここから徒歩か走りで、ルミルミのところまで行くか?どれくらい掛かる?」


相手をせずに自分達の目的地まで行くかを話すほどだ。

彼等はまだ金習という存在を知らない。


「あと1時間くらいだった。走れば2時間以内には着くかと」

「怠いなぁ~。車をちゃっと奪った方が良いって、ここは山の中だけど」

「1時間以上もあれに邪魔されるとなりゃあ、鬱陶しいな」


怪護 + ムノウヤ + トラスト VS 金習


山中での戦いが始まった。


挿絵(By みてみん)

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