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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第55話『因心界 VS レイワーズ!俺と大差ねぇじゃねぇか!!』
214/267

Aパート


「そのブルーシートの下を見せてくれないかな?」


赤羽の荷物に指差した者。それは紛れもなく、ご本人である。


「どけっ」

「当てていい?ガソリンじゃないかな?……困るなぁ、そーいう危険物」

「どけって言ってるだろ!!テメェ等さっきからぁぁっ!!!」


キレる赤羽とは裏腹に、物静かな注意をする男は、寝手食太郎であった。因心界の本部にいるのは自分の幻影であり、野花に代わって自分が出て来た。

なんで彼が勝手に戦場に来た理由は、彼の強さとかではなく、言葉にした通り、危険性を見たから。

力が無くても火を扱えてしまうこと。電気を良く知らなくても使えること。モノは使い様であり、赤羽が持ち運んでいるそれは明らかに使用用途とは異なる臭い。そして、そこには


「出版社に火でも放つのか?」


ハーブが力を求めて彼と契約をしたが、彼の本心を知るまでにはあまりにも時間が無さすぎた。


「そんなことをして、君が得られる事はないと思う」


間髪を入れず


「得ると得ないとか。……君の中ではどーでもいいんだろうけど」


あまりに短絡である行動。そして、あまりに度を超えている行動。


「るせええぇぇっ!!」


寝手の見た目がとても細く、自分が怒鳴って暴力に出ればすぐに退くと思った赤羽。しかし、寝手の体は赤羽の拳をアッサリとすり抜けてしまう。それでも必死に殴ろうとする辺り、……もう無茶苦茶。

寝手は幻影を使いつつ、こうして止めに来た理由はシンプルであり


「他人の人生はお前が触れていいもんじゃない」


社会や周囲の不満。それを暴発させるのは、人間1人がどこかでやらなければいけないこと。しかし、そこに制御をつけないのなら……本体の始末になるのも止むなし。


「クソが!!説教か!?テメェも、あのハーブと似たような奴かぁっ!!うがああぁぁっ!!」


上空に突如として現れる黒煙。それは昨日のモノとは違って、より厚みが増えていて、中で雷が発生しているかのような音も出す。一日だけで、また数段とレベルが上がった。そして、それを赤羽が未だに自覚をせずに暴走させる。



「おがああぁぁぁぁ!!俺がなにしたってんだ!!誰も俺じゃねぇのによおぉっっ!!」



ゴポオオォォッ



空の全てが地上に降りて来るように、何重にもぶ厚い黒煙が……赤羽と寝手……その周囲、……街を二つ分飲み込んだ。


「『惑わせ!フーロン!』」


感覚を操作し、幻を作り出す。1対1でもかなりのやりようがあるも、全体攻撃を仕掛けるタイプには苦手。

妖人化だけでなく、


「もう一度!使わせてもらう!!」


ルミルミからもらった玩具の銃で、再び自分自身をジャネモン化させる。

この力まで使い、あのペドリストとほぼ互角……相討ちに持ち込んだ。

自分の思考、”なんとなく”、それらを類似的に再現させる。扱いは難しいが



ズヴヴヴッッ



不気味な音を出し、黒煙も空も地上も沈んだ。そこにいる寝手を除いた生物達も、無機物達も同様にだ。寝手の能力が発動し、それはすぐに全体に作用した。赤羽の黒煙が広がる範囲と同等。

空気中に舞う埃すら、大岩になりそうな重量となって


バダアァンッ



「ぐおおぉぉっ!?重ぉっ」

「……お前の黒煙は吸うつもりはない」

「おっおっ!?!?な、なんでぇぇっ!?」


赤羽が混乱しながら地べたに這いつくばる。それは寝手以外のみんながそうなったほどだ。

黒煙が自分の呼吸器官に侵入するのを妨げるため、あろうことか。

地球に掛かっているだろう、重力の値を変更してしまった。

黒煙が圧し潰されて消え失せても良いくらいの、激しい重力。人間達がぶっ潰れ、建物ですらも支えきれずに折れる。宙に浮くことも、寝手よりも高くあることを許さない重力。




バギイイィィィッ



「うぎゃあああぁぁっ」



赤羽の絶叫はマジもんであり、これ以外には考えられないようにもなった。

寝手の持つ”邪念”の濃さは確かだった。


「……あ~~~~っ」

「!!」


だが、寝手の天才ぶりが事実だとしても、それを上回る怪物。激しい痛みは確かにあったが、赤羽自身も黒煙に身を包まれていたおかげか、クッションの役目もあったか、……建物をぶっ潰す重力でも無傷な体。

赤羽個人に異常な身体能力はない。だが、それを補うくらいには


「そうか」


ジャネモン同士でぶつかる分。原動力が”邪念”そのままである以上、ダメージが思ったよりもフィードバックされていない。

赤羽を地面に圧し潰したが、黒煙が赤羽自身を覆い始め、纏わりつき……



「なんだか軽くなった」



本来、赤羽に掛かるはずの不条理な重力を黒煙が引き受けている。より広がっている黒煙は潰れ始めていくが、赤羽の体を軽くさせ、立ち上がって来た。



「あ~、そのビックリはなんだ」



纏っていた黒煙が膨れ上がる。すでに上空を覆い尽くせる量の邪念など、まだまだと言ったところだったのかもしれない。赤羽はまだ理解できずに、出力を上げていき、黒煙をさらに濃く広げ、……寝手の重力に抗おうとしてきた。



「…………ふふ」



好かないが。同レベルか、それ以上。……その時見せる興奮は、赤羽にはない。

寝手の表情が少し緩んだが、この戦闘においては全力である事に違いない。明らかに赤羽の使い方は間違えているが、それ故の強さであり、制御とも言えるものかもしれない。

寝手自身も、これは気の緩みが勝敗に影響が出ると判断。そして、それが招くのは……お互いの能力を直に味わう事だろう。




ゴギャアアァァッ



住宅地のいくつかをその重力で破壊し、




グシャグシャ



黒煙に食い殺されるように消滅し始める建物。

寝手と赤羽。互いの能力の余波が、周囲に影響を与え始めている。しかし、当人達はまだ、その影響に陥っていない。



◇             ◇



「!」


キッスは処刑台の下に意識を向けた。

確かに、列車に乗っていたのはハーブともう1人。そして、


「クールスノーが敵と一緒に消えた」



シンシン………



吹雪は少し弱まったが、継続して発動しているという事は無事か。こちらの情報は感じ取れているだろうか?

しかし、クールスノーを強制的に離脱させる能力の持ち主がいたか。この場での敗北が、より重く感じるモノになったな。



「「ああぁぁ~~」」



キッスとルルが対峙するのは、ハーブによって改造させられた人間達。それも十分なジャネモンとなる素質を持った者。……無能な連中達を組み合わせたキメラのジャネモン。声が2つか3つ合わさって出され、非常に気味が悪い姿。翼が生えて空を飛ぶが、どこかぎこちない。クールスノーが降らせる大雪の中で旋回している。

様子見にもとれるが、知性の欠片もない。そんな動き。



『どうした、キッス』

「イスケ、少し厄介な相手だと思ってな。単純なパワーだけなら、レイワーズの1人と遜色ないかもしれん」


一度、触れた時。

キッスの体が敏感に反応し、奇妙な違和感を祓った。なんだろうと弾き返すとされる、超硬度で特殊な体質を持つキッス。それでもあえて、こいつが自分の前に立ちはだかり。ハーブとしては不本意ながらも、強力な戦力を離脱させる能力付きの協力者。

3人の中で一番のハズレを引いてしまったのは、キッスなのかもしれない。明らかにハーブが、念入りにキッスを対策してきたジャネモン。3人の中でキッスが接近戦を得意としており、なおかつ、直接的な攻撃が多い。

それでも無力化してきた肉体があったから。そこに穴を開けられるとすりゃあ、


「うむ」


カウンター系の能力OR付加を与える能力。あるいは、その両方。

いずれも私とイスケの体に通せると思っている自信。……ハーブは人体の改造が得意とすれば、こいつも無根拠じゃなさそうだ。ジャネモンになる奴を合体させまくるだけでも十二分の脅威。


「行くぞ」


キッスの戦闘が慎重から入ったのは、驕りがない証拠だ。普段、弱すぎる相手にはナメプを仕掛ける彼女が、能力を警戒してから動いているのは……相手側の自信を感じ取っている。

それでも攻撃をしなければ、始まらないのは確かだ。



ドゴオオォォッ



ハーブの仮説と、キッスが自負することは概ね同じだった。

キッスの体はあまりに頑強過ぎるため、それと比較すれば彼女の”回復能力”は優れてはない。あらゆることに耐性があろうと、一度それを突破されれば大き過ぎる弱点となって返ってくる。


「「お~~ぉ?」」


それがジャネモンのキメラという答えに行き着いた。

ハーブの改造によりこいつは、耐久力だけならばハーブをも凌ぐかもしれない。タフネスさがなければ、キッスと戦うなんて出来もしない。


「よいっ」


キッスも、ハーブの仮説を読み切っている。そのため、様子見はしつつも大事な一発目は、かなり全力。


「しょ」


渾身のキッスの一発を受けたジャネモンのキメラは吹っ飛んだ衝撃で



ガゴオオオォォォッ



サッカースタジアムの観客席を貫き、お客様がここまで足を運んでくれる通路の、さらに下に体が埋まるほどだ。



「「ごあぁ?ああ?」」



なおも意識を保ち、動いているこいつも十分な化け物である。

そこまで追い込みつつ、自分の体に着いた雪を手で祓いながら静かに詰め寄ってくる、キッス。初撃は全力でいったが、連撃にはしなかった。ゆっくりと敵の様子を伺う。


「……抵抗はないかな?」

『タフな野郎だ』


並のジャネモンなら全身が吹っ飛んでいる強打でも無事。キッスの顔を見るや、ジャネモンのキメラも起き上がりながら


「「お?おぉ、……お~、仲間ぁぁ~ぁ?」」

「?」

「「俺達は”仲間”だぁ~……分かるだろぉぉっ……」」

『気色悪い。なんだよ、こいつ』



キッスとイスケの事を、自分と同じ”仲間”だと語る。人間を外れているが、人間をやらせてもらっているキッス。甲冑の妖精をやらせてもらっているイスケ。仲間だとは心外。そんなの……


「「嫌なこと、あるだろぉ?お前等もぉぉ~~……誰にでもあること、お前も知ってる事ぉ~」」

「!!」



不気味な台詞と共に、キッスとイスケの背後に現れたのは……自分の顔をした、奇妙な小さな生命体。泥や木の人形に近い。それが口を開く


「あははは、ゆっくりしたいなぁ~……」

『めんどくせぇな~……』


自分達の心にある、安らぎを求めるような感情を自分の声にしているようなもの。


『な、なんだ!こいつ等!?』

「これがお前の能力か。……私達の心に植え付けてくるタイプなら、……私達の硬度に対抗できるわけか」

「「戦うなんてムダだぜぇ~……誰だって、最後は落ち着き求めるだろう?……この世には無理もある」」


接触した相手を怠惰・意志の欠如へと誘う能力。

触れれば触れるほど、それが強くなり、行動能力も落ちていく。一度、触れるだけでぞれを増幅させる、お邪魔キャラも追加。



「寝ようよ~、部屋でゴロゴロしてようよ~、美味しい料理を食べようよ……」


耳元で自分の声で喚こうものなら、鬱陶しい限り。その言葉に耳を傾けず、ハーブのやり方を褒める。


「安らぎの過剰か……。確かに私は害するモノを弾き飛ばすが、こーいう判断は体じゃできないな。やるな、あいつ」

『関心してる場合かよ!』



究極の悟りの1つ。誰もが求めるところ。



「「俺達は、諦めるんだよ」」


諦めた集合体。もう心から、”こんな人生は嫌だと嘆いた”、ギブアップの塊。

触れれば触れるほど、味わう諦め。


「ねぇ~え、聞いてる~?」

「少し黙っていろ。こいつを倒したら、ゆっくりするさ。そこの私」


一度、触れさえすれば、能力が発動する。

憑りついた者は術者が気絶・解除をするまで、外されることはない。これは自分自身の心の中にあるモノ。これに攻撃を仕掛けても、何も解決には至らない。しかも、耳元で鬱陶しい。

長時間、これに憑りつかれると疲労感が蓄積され、やがては怠惰な感情に苛まれる。さらに術者に触れれば触れるほど、そのダメージを返すように疲労感を与える。ジャネモンのキメラのタフぶりも考えれば、非常に噛み合った能力と言える。相手を完全に怠惰にさせれば、取り込んでしまうほどの事もやってのける。


確かにキッスがこいつと戦うのは、相手が悪い。

だが、この怠惰はあくまで



「……ふぅ。お前の価値観を話すんじゃない」

「「あぁ?」」

「お前達の休日と私達の休日は、質が違うんだ。動いた後のシャワーすら知らんな?」



付け入る隙は確かにある。

少なくとも、ムダな考えはせずに、このジャネモンの抹殺を狙うだけ。



◇            ◇



「クールスノーが敵と一緒に消えて、キッスは敵と一緒に通路へ!!」


飴子は自分の能力を活かし、処刑台に駆けつけて、ルルと合流した。とはいえ、彼女と共にイチマンコの護衛ではなく、雪降るこの場の状況を把握するには処刑台が良かっただけ。今は、



「ヒイロはハーブと交戦中!!」


ハーブの連れて来た連中の数が3名。その数に誤差はないが、敵の能力に想定外をしている。

飴子達の指揮を任されているのは、


「クールスノーが消えたって事は、私達じゃどーしようもないわね」


北野川である。飴子と通信しながら、加勢をしようとする……わけもなく。


「逃がさないのは、ハーブに集中するべき。つまり、私達はヒイロが必ず勝つことを求める」


3つの戦場の内。1つは介入不可能(クールスノー VS 錦糸)。キッスのところに関しても、北野川はキッスが負ける姿を想像できないため、心配はしていない。それに


「あのハーブが結局強いわけよ」


ハーブを結局逃せば、この作戦が無意味になる。

クールスノーとキッスが、相対する敵を撃破しなければ帰って来れない以上は、ヒイロが単独でハーブの相手をし続けなければいけない。そこへの加勢もまた、不要と見る。


「あたし達はどーします?」

「待ってるだけ!?」


表原と黛の二人は、事実上の待機である。

クールスノーがこの場から消えてしまったが、雪は降り続けており、こっちの状況をクールスノーが把握できているのではという仮説もして、北野川の判断は



「まぁ、待機してなさい。万が一、キッスとクールスノーが負けたら、あんた達が相手をする。……ヒイロが負けたら、すぐに撤退ものよ」



4人はあくまでも、足止めや詰め役。

ハーブにこれ以上の仲間は、ここに来ない。北野川は一連のハーブ達の動きから、連携もなく、付き合いも短いと判断できた。キッスには足止めと言われた役も、こうして主力が噛み合えばまずあり得ないこと。

その戦場で北野川に連絡が入る。



ビイイィィッ



「?野花」


ここ以外の万が一を相手にするのは、野花の役目。

そんな彼女が北野川に連絡を寄越すほどは


『北野川!あんた達、今大丈夫!?』

「……ええ、クールスノーが戦場から消えちゃったけど」

『えええぇっ!?ちょっ!何があったの!?』

「知るか」


ちょっとした意地悪に動揺をした野花を愉しむ北野川の悪い顔。しかし、


「なんの用?」

『そっちに赤羽は来てる!?』

「……いや、来てないわね」

『じゃあ!!やっぱりっ……赤羽和希は今、寝手と交戦しているわ!!』

「!なんであれが勝手に動いてるの?本部であんたと待機でしょ」

『知らないわよ!勝手に動いたんだから!』


万が一の場合、野花が対応する。その対応に北野川達を動かそうとしたのは、……主要の戦力をこれ以上、バラけさせたくないところもある。寝手がこんな行動を起こすとは、……数時間とはいえ、本部をがら空きさせたのは危険過ぎたこと。


「了解。暇してるのが、2人ほどいるから。行かせてあげるわ」

『ホント!?そっちは大丈夫なの!?』

「あたしと飴子がいれば、大丈夫。ヒイロを援護するなら、ハーブとの戦いに割って入るよりも赤羽を狙った方が容易いからね。黛と表原を向かわせる」


本人達の意志はともかく、寝手と赤羽の戦場に表原と黛を送り出す、北野川。

ここにある3つの戦場は、おそらくいずれも長期戦にはなると読んだ。

そして、どれかの勝敗1つで全てが決する事までも。



◇            ◇



「あ~」



一人の男は帰り道。


「転職な~。やっぱり、40過ぎとなると、どこも厳しいものか」


娘と妻を支えるためのお仕事。会社には内緒で転職相談を受けてみたが……良い反応は得られなかった。今の会社に未来がないというのなら、乗り換える判断は決して薄情ではないし、自分や家族を守る方法と言える。

まぁ、その状況を揃えるとなると、何かを捨てる必要は出て来る。何も知らない仕事を覚えるとなると、勝手は大きく違う。向き不向きもやらなきゃ分からない。


そのままでいる事も悪いと分かってる。変わるも大変だと分かる。保険が大事だと言われるが、その保険を付けちゃ自滅する事もある。あとほんの少しな勇気と、新しい場所でやってけるかどうか。

人生、運も必要とは言うがね。ホントに運で済ませていいものか。死ぬまでも、死んでも分からない事だろう。



「……滅入ってどうする!」


今は家に帰る途中。それだけのはずだった。




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