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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第53話『因心界 VS レイワーズ!俺はただ真面目に……』
205/267

Bパート


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!ひひひひひひひ!!おひょひょひょひょ!!」

「……………」


クールスノーはその度に呆れる。

ハーブのいきなりの発狂。ハーブはクールスノーの強さを直に触れ、それの興奮が抑えきれずに



「あ~~ああ~~~!!俺はなんて酷い性的な興奮まで感じてしまうのだぁぁっ!!あわわわわわ!」

「……あんた、馬鹿寄りね」

「殺されるけど殺したい!!なんて女性に俺は出会えてしまったんだああぁぁっっ!うおおおぉぉっっ!!」


ハーブは両手で頭を抑えながらグラウンドを走り回り、クールスノーの事など忘れて我に浸ってしまう。ハーブの強さに一目おいたが、精神性はとても醜く幼稚、制御できない。

このまま格闘戦をやっても良かったが、クールスノーは


「もう悪いんだけど、準備が整ったわ」


すでに彼女の大雪が野球のグラウンドの外まで完璧に収まった。

格闘戦の強さだけでなく、この吹雪の天候を作り出し、操作する本当の能力1つまでもが強力なのだ。一度、大雪が降り出したら、多くの敵が逃げ出してきたほど。逃げられずに敗北・死亡した者も多い。




シンシン…………



「おあああぁぁっ!!この大雪でも冷めさせられぬ、この熱気と狂気は!!俺死んじまうんじゃねぇのおおぉっ!?」


にも関わらず、ハーブはこの状況下をまったく理解できていない。

体が熱い。心までも熱い。それだけで幸せの快感で包まれていた。そんな無防備過ぎる状態に襲い掛かる。



「”白龍逆鱗”」



クールスノー、最大の攻撃の1つ。自らの大雪で作り上げた雪原のフィールドで、雪崩を連続して引き起こして相手を葬る。


「!!」


ムノウヤほどの耐久力のあるレベルでなければ、この大技で凍死、圧死、……生き埋め!

これを喰らう前にフィールドから出なければ、助かる術はない。



ドゴオオオォォォォッッ




「今日、スノーボードを持って来てないのよっ」



クールスノーの周囲は身を護るために特別な鎌倉状に固定した雪にし、それ以外の場所は海のように荒れ狂う波でいて、雪の性質を保ったまま対象を屠る。



「ごぼぼぼごぼぼ、おぼおぉぉ~~~!?」



ハーブの悲鳴も上がるほどであり、それでもなお、止まらぬ雪崩。

3分で野球のグラウンドが雪山にもなり、クールスノーもハーブも、その姿を確認できずに埋もれている。もちろん、大雪は降り続けたまま。



ビキイィィッ



そこに2か所。形の違うヒビが現れ、雪に埋もれた状態での脱出が行われた。



「これじゃあ、自爆になっちゃたわね」


1人は当然、クールスノーであり。その少し先の方で



バギイイィィッ


「へーーーくしゅん、えーーっ、くしゅん、はうううぅっっ!いや寒い寒い!!おおぉぉっ……」



全身ずぶ濡れで這い出てきた、ハーブ。雪が彼の体の熱のせいか融けてしまっているのだろうか。

しかし、それにしてもだ。


「私の雪崩に、ムノウヤ以上に無傷で上がってきたのは屈辱ね」

「はっくしゅん!!いやいやいや、寒い寒い!おおおぉっっ。凄い力じゃないか!俺、死ぬと思った!!」

「そう見えないのがムカつくとこ」


何らかの力でハーブの生き埋めは不可能だろう。そもそも、壁を貫通して移動もしていた。拘束は無理だ。格闘でねじ伏せるのも、ハーブと手合わせしているクールスノーだからこそ、リスクは高いと考える。

とはいえ、ハーブは正直な奴だ。

物理的な攻撃には相当な強さを誇るが、体温を奪われたりする攻撃にはさほど耐性がないような感じ。まだそれを使ってない感じでもある。


「おーし、俺もやるぞぉぉ…………?」


ハーブが今度はこっちの番だと、クールスノーに迫ろうと足を動かそうとしたが


「お?……おおぉっ?ええっ!?なんじゃこりゃあぁっ!?」

「悪いわね。私ってあんたが好んでるタイプの女かも……」

「あ、足がべったりくっついて動かねぇっ!体全体が!?」


ハーブの体がまるで強烈な粘着物で固められているかのように、全然動かない。これに寒さと雪を加えると……。熱が冷めてきて、焦り出すのは当然。


「おおお!?な、なんだ!?お前、雪を操る能力じゃないのか!?ちょちょちょ!!」


パニックになるのも当然だ。あれほど派手な大雪と雪崩攻撃、本体の格闘能力。これがクールスノーの能力であると思っていたが、……もう1つあり、むしろこっちの方がクールスノーの厄介さ。

雪に付与されている、強力な粘着性。体中に雪がついてしまえば、離すことが難しい、全身をコーティングしていく。熱で雪を融かそうとしても、その粘着性がより強固なモノとなり、相手を完全に拘束!そして、大雪の餌食にする。


「うごおぉっ!?」


な、なんて鬼畜な奥の手!!これは大雪放置プレイか!!それとも、雪像プレイなのか!?な、なんにしてもこの能力はやばい!!このクールスノーはホントに強いっ!!



「驚かせたところで、確実にいくけど」

「!!」



クールスノーの手には雪玉が作られ、その後ろにも大量の雪玉がドンドン出来上がっていく。

雪とシールで固められた雪玉は野球ボール以上の硬度であり、それが超人レベルの身体能力を持つクールスノーからハーブに向けて投げられるのだ。



バギイイィッッ



「ぶべら!?」

「”雪合戦”」


確実にハーブを粘着状態で拘束し、その上でハーブから離れて自ら作った”雪玉”を投げつけて攻撃する。

投げやすく、鋼鉄に近いモノが絶え間なく投げられ、大雪で体温を奪いまくるという戦略に、ハーブは成す術がない。



ドゴオォッ



「ぐほぉっ!?」



な、なんて戦略に幅のある美人だ。俺が太刀打ちできないなんて、思いもしなかった。このままじゃ、いずれ消耗しきって、ぶっ倒れちまう。クールスノーか!……強いっ……こんなに強い人間がいるなんて!



ポロポロと、痛みとは違う涙をまた流し始める、ハーブ。こいつ、まだまだ底がないのか。

クールスノーの若干の不安とは裏腹に



「ま、負けたくねぇぇっ!!お、俺だって、やれるんだああぁぁっ!!」



この追い詰められた状況でハーブの心にまた火がつく。体中が雪まみれとなり、粘着状態になっている体、体温を奪われる中でハーブがとった行動は、



バギュウゥッ



「!!」


ハーブの能力もシンプル。それを突き詰めた結果が機転の強さにも繋がる。クールスノーが距離をとって、ハーブの相手をしたのは正しいだろう。確実にハーブの攻撃を封殺していた。しかし、完璧に捕縛をしてたかと言えば、否。

体が粘着しているのなら、その体を捨てちまえばいい。

蛹が羽化して姿を変えるように



「おわわわわあぁっ、あひぃぃ~~~」



ハーブの体が接着されながらもブルブルと小刻みに震え始める。クールスノーが投擲してくる雪玉にぶつかっても無反応になってきた。そして、



バゴオォォッッ



生物が持つ、皮膚・肌。それらを置き去りにして、ハーブの体内の全てが体から飛び出したのだ。クールスノーから見れば、人体模型が急に現れたようなモノであり、


「寒い寒い!!」


ハーブは寒さに悲鳴をあげながら奇天烈な動き方で、クールスノーから逃れようとする。皮膚・肌を置き去りにして、徹底された拘束から脱出してくるという離れ業。それに加えて、ハーブの体もまた人間とは異なり始める。奇天烈な動きもその予備動作かもしれない。しかし、人間の足が4本になるというのは、いかがなモノか。



「逃げるぞーーー!!」


四足歩行をする獣のような姿となり、クールスノーの大雪の範囲から一目散に逃げ出す。まずはそうでもしないと、戦いようがないと感じ取った。あまりにもこの状態で戦うことに勝算がないと、ハーブは認めたのだ。それほどクールスノーの攻撃と捕縛能力に肝が冷えた。


「ちっ」


一方でクールスノーも逃げに動いたハーブを追いかけるが、


「速い!!」


走ってじゃあ、今のハーブには追いつけない。その獣の姿が……いや、色や見た目は人間のままであるが、獰猛な肉食獣のようなスピードで逃げに動いていると、2本の脚じゃ追いつけない。

クールスノーは走りながら、雪のスノーボードを生成する。雪崩に乗ってハーブを追いかけるという判断。だが、最高速度で上回れても、範囲から逃げられる可能性がある。



「うおおおぉぉぉっ!!」


四本の脚で駆けていく、ハーブ。それでも市街地に行かず、人の少ない方へと移動している。彼にもクールスノーが雪崩を使って、追いかけてくるんじゃないかと予想していた。

捕まったら、次の脱出は難しいとも思っていた中。前方で立ち塞がる人が現れる。



「!!?」

「………悪いが、逃さん」



クールスノーの冷たい美しさもそうだが、和風の赤鎧を着けた、武士のような美人。



「うっひょーーー!!こっちもこっちで超美人!!あなたの犬にもなりたいっ!わんわんわーーん!!!」


ハーブが彼女を見た瞬間に叫んだ台詞だ。自分の命が危ない状況で、この感情。正直、やり辛いって思う相手は、向かってくるハーブに向かって。この渾身の拳で応戦するのが一番




バゴオオォォッ



「!!」


涙キッスの拳。それに彼の妖精である、イスケも加わった硬度から来る打撃。

なんだろうと大ダメージを与えるが。四足歩行だから、足という腕よりも強い部位があるんだろうか。



「ぐぎぎぎっっ、2対1はちょっとヤバ過ぎだろ」

「……初見で止めるか」

『キッスの拳を軽々止めた!?』


イスケは驚くものの、足を二つ使って防御しただけに過ぎない。それにキッスが殺す気で攻撃してきて、逃げることから立ち止まっただけでもハーブにしては絶体絶命。雪崩を呼び込み、その上にクールスノーが乗ってここにやってくる。

10秒もねぇってとこ



「どいてくれ!お前も死ぬぞ!!」

「粉雪は私の仲間だ。悪いけどな」

「……そうかよ!」



10秒以内でこのキッスを倒すのは不可能であるし、逃亡しようにも勢いを止められてしまった。作戦なんか思いつきもしねぇ。そんな状況の中でハーブは臆せず、キッスとの打撃戦に臨んだ。とはいえ、一度受ければキッスの攻撃と防御の評価ができる。

次はまともに受けずに必死な顔で避ける!


「うおぉっ!?」


なんだよ、この美女の体!?今まで出会ってきた人間の中でも頑強!この体に傷なんかつけられねぇだろ!この世にある貴金属を合わせても、作られないような体をしていやがる!どんな鍛え方をすりゃあ、ここまでの体が作られるんだ!


「へぇ」


キッスもハーブの瞬間的な思考と行動。そして、驚いている割に余裕や愉しみを感じさせる表情。今まで騒動を起こさなかったら、こーいう事は好きじゃないかと思ったら、むしろ大好きな方かと驚いた。もうちょっと言葉を交わせそうな気もしたが、あいにく、時間もない。

打撃を受けられ、避けられと来て、……ハーブを野放しにすればどんだけの被害がでるか。


キッスは左手を広げてハーブを掴みに来た。それは激しい攻防の中で緩いものであり、ハーブも掴まりたくもねぇと払いのける


「てぃっ!」


クールスノーの雪崩がもうそこまで来ている。ハーブが逃げないとヤバイと思っているところに、キッスは。お互いの攻防でできた死角から、今度は素早く



バギイィッッ



「っ!」

「仲良く雪崩に巻き込まれようじゃないか」



ハーブの足の1つを踏みつけ、逃さない!雪崩に巻き込むだけでなく、キッス自らも取り押さえる!だが、ハーブも反応が早く。



「悪いが2人相手はお断りだ」


自分の足の1つを躊躇なく分解。フィギュアの足を切り取るくらいに簡単なもので、キッスの足蹴の拘束からアッサリと脱出。しかし、ハーブもキッスも目にやるほどの雪崩がもうそこまで、


「あんた等、くたばりな!!」



ドゴオオオォォォッ



クールスノーの雪崩がハーブとキッスを巻き込んだ。




◇             ◇



「ええぇっ?」


ちょっと待ってくれって言いたい事を聞かされた。だが、もう3度目だったりする。

さすがに断ることから入る。


「さすがに勘弁してください」

「そう言わず。表原くんは色々と経験があるじゃないか。若手よりも君の方が良いと思うが」


ただの人員整理だろ~~って、顔を出す。表原徹は楽しかった海外旅行から戻って来た後、会社に相談をされた。

簡単に言えば、転勤である。この転勤の多さに、娘はすごーく怒っていたわけで


「他の奴にしてくださいよ!」

「ダメだよ!君を求めているんだろうから」


嘘つけ。


「楽しい家族旅行をしてきたそうじゃないか。家族に気兼ねなく言えるんじゃないか?」

「……それができたら苦労しませんよ」

「まぁ、今すぐというわけではないよ。家族にはその事を話してくれたまえ。半年後にはここにいないだろうしね」


なんて会社だ、この野郎!

絶対に許さないって思っていても、立場が弱いんじゃどうしようもない。残ってくれと言われるような実績もない。満足に海外旅行を楽しめたのにも、会社が必要としないからか。



トボトボ



「どーやって、巫女と麻縫に話せばいいか……」


巫女の事は心配だ。また不安にさせちまう。どうにかして、転勤を避けられないか……そしたら、実績つけろよって会社に言われるのは当然か。他所でなら挽回あるかもってことか。

いやいや、猶予は半年もらってる。その半年でどうにか実績をあげ……られたら苦労しねぇよなぁ~。

巫女と麻縫に話をつけた方がいいような。



『お父さん、一人で行ってよ』

『麻縫はもうすぐ高校受験よ?……単身赴任はできないのかしら?』



もう、麻縫は中学生だ。家出もできる反抗期。……いや、家事全般をこなせる中学生になったのだ。巫女だって心配をしない。

というか、俺が嫌だよ。娘が作る料理は旨いし、巫女が賢明に作ってくれる料理はもっと旨い。俺、料理はそこまでできねぇよ。巫女と麻縫がセットで来ないと、俺が家に帰ってきたとき大変だ。麻縫が家出した時、洗濯やったりするのもダルかったんだから。


やっぱり、断らなければいけない!!これ以上、家族に迷惑はかけられねぇ。


「うう~~む」


帰宅途中に考えを巡らせる表原徹であった。かなりの難問である。


「……お」


そんな彼にも海外旅行で、新たな親友ができたのを思い出す。ちょっとばかし、相談に乗ってくれないかと……。


「育~~!!なんか上手い方法はないか~!」


野花育ならなんか上手い案があるかもしれない……もとい、ちょっとしたコネを使えないかと思い、受け取っていた連絡先に問い合わせる。メールではあったが


『育。ちょっと相談があるんだが、今日の夜に飲めないか?』


「すぐに来るかどうか、……」


『OK!!俺にも丁度、話したい事があるんだ!!』


「おおーー!マジか!!こりゃあ、都合が良いや!」


悪くても酒飲んで忘れてやろう!!やっぱり、野郎との飲みは良いぜ!


「え?なんかすげーところをセットしてくれんのか!?なんか悪いなー!」


表原徹のこれからの奮闘は、……。

この後、意外なところで怒りや悩みをぶつけ、人をひっくり返すこととなる。

彼はまったくまだ、それを知らない。



「お~~い、タクシー!」



巫女にもメールを入れて、今日は帰りが遅くなると伝えた……すると、巫女の方も今。家にいないらしく、それは逆に丁度良いかと思った徹。駅前でタクシーに乗り、育が用意してくれているお店まで。


「にしてもあいつ。よくこんな誘いに、店まで用意できたなぁ~」


そんなに不思議には思わなかった。やっぱり、金持ちと一般人とは価値観は大きく違うんだろうと、徹は考えながらお店まで向かう。高くついても、今の悩みを飛ばすには気軽に話せる奴が良い。



「はい、着いたよ」

「おぉっ、ありがとな」



お店の前まで来て、ちょっと高いタクシー代を払った後。店の中で野花財閥の名義を使えば、すぐに案内してくれた。


「おーっ!徹!」

「育ー!急で悪かったなー!」

「いやいや、俺もちょっと気まずくてさ。丁度、飲んでくれる野郎を捜してたんだ」

「??」


案内された部屋には育しかいなかったのだが、育がノートパソコンを使っていて、そこに見える映像を徹に見せる。そして、育は”静かに”を伝えるよう、口の近くに人差し指の一本。

なんだろうって顔で徹が映像を見ると、このお店のカメラらしく


「……え」

「そーいうことだ(小声)」


映っていたのは、野花壌と表原巫女が楽しく飲んでいる様子だった。それも2つくらい離れた個室を借りてだ。


「巫女。お前もかよ……」

「いや、俺の妻。壌が無理矢理、巫女ちゃんを誘ったんだよ」


愚痴や悩みがお互いにあるものだが、妻と夫がそれぞれで同じ店で愚痴るというのは早々ないような。


「俺が巫女ちゃんを案内してたんだ。飲み始めたのは20分くらい前だ」

「それはご苦労だったな」

「あ、いちお。巫女ちゃんは徹が来てることは知らないからな。壌には伝えたけど」


男と男。女と女で話し合う。だからこそ、仲良くできる事もある。友情に近い寄りの話。

最初に相談するべき相手として、友達は良いのだろう。


「転勤の話をされてたな」


ビールを頼んでからすぐに自分の悩みを打ち明ける徹。とにかく、聞いてくれと言う顔だから育は聞く顔になっていた。


「以前、話した通り。娘の麻縫も、巫女にだって迷惑をかけてるんだ。二人共、新天地に苦労する。俺だって苦労する。ようやく慣れたなーって時に、こんな話を寄越すんだ」

「なるほどな」

「半年の猶予はもらったんだが……」


うーーんって悩む徹に、育は知り合いという立場だから言える事を簡単に言ってくれた。


「転職も視野に入れたらどうだ?」

「あ」

「家族を大事に思うんなら、家族の傍にいられる仕事を捜すのも、選択の内だろ?確かに生活に不安は出ると思うが、収入と環境はどっちもバランスってのが大事だと思うぞ」


考えてなかったわけじゃない。そこに踏み込むための勇気は必要で、


「転勤を家族に言うのと、転職を家族に言うのはそんな大きな差はねぇんじゃないか?」


転勤だとすれば、周りの環境が大きく変わる。確かに収入だけなら安定した。

転職だとすれば、周りの環境は抑え込めるかもしれない。しかし、収入面や将来などに不安がある。

どっちが正しいかなんて、進んでみなければ分からないが


「……なるほど。転職か……思い切って脱サラするか?」

「考えなしの脱サラは危険だぞ」

「はははは、そこは考えてるだけ。別の会社もありか」


転勤の相談ばかり考えていた。転職という選択肢も入れてなら、巫女と麻縫には話せそうだ。それなら早い内に行けるかもしれない。


「転職は心機一転だからな」

「明らかな無職ならともかく徹は、ちゃんとした正社員だったんだから。年齢はともかく、採用側も妻子がいるなら見込みアリと判断すると思うぞ」

「中年ぐらいだからね!別に転職としては珍しいけれどってくらい!!」



転職の提案に気分が良くなってきた徹。転職しようと思えば、あんな嫌な上司達とも会わずに済む。前向きになれる。



ゴクゴクゴクゴク



「ぷはーーっ!……久々にビールが旨いっ!……で、育はなんの悩みなんだよ?アッサリと俺の悩みを解決してくれるのに」

「そうか?あくまで指針を出しただけだよ。あとはなんとかしてくれ」

「おうよ!」


酔っ払いで一般人気質の徹に、育の悩みなんか解決できそうにない。しかし、話しだけは聞ける耳だ。

育自身の悩みじゃなく、


「壌の事なんだよ」

「壌さんの事?」

「ああ。俺じゃあ、まず止められない。……壌は元々、色んな男と付き合ってたし、俺はどっちかっていうと貧乏人だったし」


始めはバイトの上司として知り合って、そこからお付き合いをして、デキ婚のような形だ。それ以前に壌が色んな男を喰っているのも知っている。ブルーマウンテン星団の猪野春は元夫であるし。

彼女にその気はないだろうが、


「簡単に人を振り回せる女だから、俺の気持ちを知ってても聞いてくれねぇよ」

「…………なんか俺と似てるって言いたいのか?」

「そうじゃないが。徹と仲良くできそうな理由も、きっと同じなんだろうって事だ」


誰が言おうが、自分の事は自分でやるという女だ。離婚も何度かして、ようやく出会えたパートナーですらも止められないのだ。

それと一緒かは分からないが、自分の都合で仕事も女も、家庭だって振り回してきた男だ。表原徹という奴は、


「お前が止められないのが悪い!」

「!」


酔った勢いで出た言葉ではあるし、徹が言える事ではないのだが


「虐められるのなら、虐められないくらい強くあればいい!」


随分な言い方であり、これまた酷い言い方であるが


「だって、俺は弱いからっ!!もっと弱そうな奴を捜してたんだからな!!それが巫女だったんだよ!」


こいつ、やっぱり自分の娘とソックリだな。本質はやっぱり弱い者虐めで成り立っている。だが、それは社会全体がそうできている。みんなそれを批難するけれど、表面上なのだ。

強くなることも大事だが、自分より弱い奴を捜しに行くことも大事なのは確かだ。

ただ、そう見定めたと思っていたらだ。


「……けど、巫女がいないと俺は生活できねぇし。麻縫も自立してるし~……。なんか、あの時は俺が強かったんだけど、いつの間にか逆転されてるんだよな」


初めから虐め目的で付き合ったわけじゃない。ただ暴力を出してしまっていたのは、恐れがあったからだ。自分がこのレベルでなら、お山の大将でいられる。けど、いつまでもじゃない。


「壌さんに敵わないってのは分かるけど、お前もパートナーだろ」

「……まぁな」

「なら、強いとか弱いとかより、どっちが互いを知ってるかじゃないか?そう思って止められないって分かるのなら、壌さんよりも育の方が有利な気がする。壌さんがお前を止められるなら、お前だって壌さんを止められるはずだ。……手段は知らねぇが、娘にも話してみたらどうだ。いるんだろ?俺は会った事ねぇけど」

「……うーん、俺の娘。桜に話してどうなるか~……娘とちょっと険悪だし」

「ははは、俺と麻縫よりも険悪なんてないぞ。たぶん。おそらく、娘も壌さんに振り回されてる側だろ?」


それは一理あるより、百里ある。


「娘にも相談しろよ。俺だって麻縫と話し合うからよ!約束しろ!」

「……ああ、転職OKだったら、俺に言えよ」



◇         ◇



シンシン…………



雪崩がキッスとハーブを巻き込み、雪一面となったフィールド。猛吹雪の中で二人の様子を探っているクールスノーは、立っている。


「……………」


大雪を降らせ、相手の視界すら封じている。それを逆に利用し、ハーブは雪の中に潜みつつ、クールスノーの右側面から襲い掛かった。クールスノーの意識の外から狙ってきた、ハーブの奇襲。逃げの一手をしてきて、2対1という状況、そこから反撃をするなんて思いもしないだろうと、ハーブはクールスノーへの反撃が決まると確信したが、



ボギイィィッ



「!!おっ……」



クールスノーはそんなハーブの思い上がりを見切っており、逆にハーブの喉仏にキツイハイキックを与え、さらに続けてハーブの右目にハイヒールのかかとを食い込ませる。

クールスノーの雪に触れれば、その位置は彼女には筒抜けとなっている。だから、そんな頭の中の反撃なんて通じない。


「ぐっ」


右目が見えない戸惑い。わずかな隙を見逃すほど、クールスノーの戦闘意識は甘くなく、左手でハーブの顎を掴む。雪が積もった地面へとそのまま力で押し倒す。ハーブの背は雪に包まれ、瞬時に接着される。能力のONOFFの早さも異常だ。防御に回ろうとせず、クールスノーをこのまま攻撃しようとするも、すぐに掴まれた左手を離し、さらに後方へステップするクールスノー。目に余計な動きがなく、この連携の練度は高い。



「!」


クールスノーが退いたと同時に、空中からキッスが落ちて来る。彼女の硬質さを考えた攻撃は、クールスノーよりも上であるのは間違いない。



ドゴオオオォォッッ



「ぐええぇぇっ!!うごおおぉっ!!」


雪原のフィールドをぶっ壊すクレーターができるほどの、キッスのシンプル過ぎる踏みつぶし。その直撃を受けたハーブの正面の顔は白目となって、口も叫んでいた。

体が引き契れてもおかしくない一撃に、



「ごらあぁぁっ!」



ハーブは反撃に出た!乗っかるキッスを追い払うよう、腕を振り回した後。

この2対1という不利に文句もつけず。”奇妙に”立ち上がってきた。



「やっぱ2対1ってのはキツイぜ」

「腹が減っちまうから手短にいこう」



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