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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第52話『最終ステージ準備前!ちっこい大脱出とちっこくならない幻!!』
202/267

Dパート


「この城にいるみんなを必ず脱出させる!」



エロシュタイン島。

今、金習の原子力潜水艦から砲撃されており、島を消されようとしていた。

フィニンの奮闘空しく、砲撃は止まずに島は火の海となって、沈んでいくだろう。

多くの人間達が城の地下で集まった中で、ペドリストはあまりに無茶な願いを叫んだ。



「ふざけんな!船は2隻しかねぇって言っただろ!!何百人と乗せれるわけがねぇ!!」



当然、そんなのを認めるわけもない。スターブはソレを知らないから当たり前の言葉を放った。ここでスターブを自身の能力で実践しようとすれば、失敗するだろう。

信頼が大事だと、ペドリストは手段を伝えた。


「船を操縦できる人以外を僕が小さくして船に乗せる!」

「はぁっ!?なんだそりゃ!」

「……できるの、あなたに?」

「た、確かにそれなら全員を救えると思いますけど」


能力を知らない。半信半疑。スターブと壌の言葉は、信頼をしていないものだ。しかし、ペドリストの案ならば確かに全員が助かる道があると、アセアセは頷きつつ肯定していた。

だけど、この場で仲間がいないのはペドリスト。術中に嵌まってしまえば、思いのままだ。

しかし、同じ奴がいる。自分はそんなことはしないと潔白するよりも、理をとって語る。


「例え船で脱出しても、どこか分からない場所から砲撃されるのであれば、脱出する船も狙われるだろう。それを避けるためにも、あそこにいる彼の力がいる」


ペドリストはこの砲撃が島の消滅だとするなら、脱出する船がやられても不思議ではないと不安を言いつつ、その上で脱出のカギとなるのは自分以外にもう1人。寝手の存在だ。

何らかの方法で姿を誤認させられる寝手の能力は、脱出には必要。だから、表原に頼んで復活させた。


「あたしはそのつもりないんだけどなぁ」

「まぁまぁ。今は、ペドリストの作戦を聞こうぜ」


レゼンもペドリストの作戦をしっかり聞いている。自分達だけ脱出するというのも、とんでもない罪悪感を背負う。

いくつかの問題はあるが



「エーブラックが船の準備してくれてる。もう1隻はダースサン、お前ができるよな!?俺、できねぇ!」

「ええっ、できるけどさぁ~。超重要じゃない。スターブ!」



時間がまずない。



「酒瓶とかでいいかしら。小さくした人達を安全にいれるモノ」

「みんなをちゃんと誘導しないといけませんね!」

「!…………」


そうしようとかの合意などいらず、周りが動き始めた。それほど危機的でも落ち着いているのが多く、


「ペドリスト。君が動かないと始まらないようだ。みんなを助けよう」

「…………ああ。そうだ!助けたいんだ!」


復活した寝手の言葉でようやくペドリストも動いたくらいだ。

事情を知り、どうにかできる者達が冷静に動くしかない。

まずは、その時間のなさを周りが助けてくれた。


「船の準備はできたぞ!慌てて乗るなよ!」

「いいか!”全員”でこの島を脱出する!!」


エーブラックとスターブが地下の港で指揮をとり、多くの子供や大人達を冷静にさせていた。


「酒瓶ってこれだけ足りますか!?」

「子供達をこの中に入れて大丈夫かな?」


飴子の能力ですぐに酒瓶を発見し、それを表原やアセアセが急いで運ぶ。


「き、緊張しますけど!あたしが最初になります!」

「みこみこ!お願い!!」


人を小さくする、常識外れを理解させる上でも実験体が必要だ。その役に表原巫女がすぐに名乗りを挙げて、ペドリストが発する白い膜に触れて小さくなっていく。かなりの超スピードで、小人ぐらいのサイズとなる。

続けて


「じゃあ、少年!私もお願~い!」

「うん」


野花壌も小さくなる。用意した酒瓶に人を誘導するには、小さい指揮者が必要だ。

その役を買って出て来れた。



「あいつの白い膜に触れればすぐに小さくなれる!」

「酒瓶はまだあるし、間隔をあけて中で待機しろ!」


スターブとエーブラックの指示から、ペドリストに小さくしてもらう人間達。

小さくなった者達は壌と巫女の誘導で酒瓶に入っていき、間隔に余裕を作っておく。



ゾロゾロ……



「早く!早く!」

「まだ150人以上!」



ドタドタ……



酒瓶にはおよそ10人は入った。それほど人を小さくできるのなら、ホントに脱出ができる。

人の問題はこのままいけるかもしれない。

なれば次の問題だ。


「エーブラックとダースサン、こいつとあいつ」


船の操縦はエーブラックとダースサンの2名。

索敵を妨害する上で寝手も小さくするわけには行かず、そのまま乗り込む事になる。

200人以上を2隻の船で脱出する手段の”準備”は間に合う。

だが、思った以上に




ゴゴゴゴゴゴゴッ



「城に火がついたな。もう島が火の海だろうな」




島への砲撃が早い。爆発音も炎もこの地下に迫ろうとしている。スターブ達からでは見えないが、



トプンッ



「……島はもうすぐ崩壊するでしょう」



飴子が瞬間移動で島の状況を確認し、戻って来た。最後の酒瓶には、表原、アセアセ、飴子、壌、巫女、スターブ、ロバート裁判長が入る予定だ。

城から海に出て見つからずに脱出する作戦。寝手が追跡を阻止する事はできても、無差別な爆撃から守るものではないこと。今の状態で出航し、無傷で逃げれるかどうかは別。



ガゴオオォォッッ



城の城壁が焼け落ちていく衝撃と音がここまで響いた。


「無事に海まで行けると思うか?」

「50%ってところだろ。分の悪い賭けじゃない」


見捨てれば、助かっていた可能性は高い。

やはり”誰かが犠牲”になれば



◇             ◇




エロシュタイン島の全てが炎に包まれたと言っていい。それでも生き証人は許さぬと、無慈悲な爆撃が続いた。


「買い溜めた在庫処分ですが」


兵器を使わねば、維持費がムダになる。

エロシュタイン島の砲撃はこれから成すべきことの布石。

金習は島の陥落までを見届けるだけである。強力な兵器は後ろに回していたのは、使い切るためだ。その気になれば、もっと早く島を陥落させられた。



「生き残りは出てもらいたくない」



金習がいよいよ島の消滅を待ち望む中。エロシュタイン島に異変が起こった。



ギュウウウゥゥッ


焼き尽くしている島が引力を発するように、風も波も、弾かれることなく。



「なんだ?」


閉じた花を現すようにうつろう。

自然現象の全てが閉じるように動き、もはや燃えているだけの城も中へと消える。

映像だけではなんともと、金習は直にその現象を目にするべく、原子力潜水艦の外へと出た。



「……なんだ?」



見たのは映像と同じ、島が花のように閉じていく。

だが、直に見る事で島が閉じるのではなく、”沈んで”いる事が正解だと分かった。これは砲撃による影響ではない。金習もそれに触れているからこそ、


「妖精か、ジャネモンか」


異端な力だ。

原子力潜水艦の攻撃はそのままにしつつ、金習はなんと、エロシュタイン島へと水面を駆けるのである。


「ははははは!!これは思わぬ事だ!!何をしているか!!」


高ぶる気持ちに金習の体も変化を遂げる。

喰われるも、逆に学習をしてみせた金習。彼の肉体には今、メーセー、エフエー、キョーサーの3名のレイワーズ達の魂が作られていると言えた。自分の”同類”が近くにおり、それも強い力を発するも、花火のように決して長くはないと分かること。



「見させろ。食わせろ。支配させろ。学ばせろ」



学習というものは、淡々と覚えていくのが望ましい。しかし、生物がそれを持てば途端に膨大な力を生み、”欲望”となる。欲望が、希望になり、絶望になる。体はそれに刺激され、魅了される。



バシャアアァッ



金習の一個体に過ぎない者が”同じレベル”から外れた。

それは同種の生物が起こす突然変異と同じであり、それ以下は瞬時に自分を悟る。人生で誰しも体験し、それを見過ごしてきていること。


”敵わないと思う化け物”



「ぐひゃああぁっ」



水面を駆ける金習の体の中身が飛び出す。血肉に意志が宿るかのように噴き出し、眼球や鼓膜が総入れ替えするよう飛び出し、神経は大切に汚れなきように洗われ、脳などの臓器が新構築されていく。

”人間が一つ入れ替わる”



バシイイィィッッ



「はっはははぁぁっ、あははははぁっ」


金習の精神の高揚は、雄と雌が交わり新たな子を宿すかのような神聖なる儀。それによる生じる、生命の神秘を乾杯するかのような極楽に匹敵する快楽。

島へ近づくほど、体にあった老廃物が剥がれ、新たな生命が現れる。それもこの先にいる”怪物”と重ねるような姿、



バシャアァァッ



「おおぉっ?なんだ?私の体が、どんどん、漲ってくるぅっ。これはぁっ!これはあぁっ!!不死身を身に付けたか!?」



その興奮はもっともだった。生物がそれを成すなど、科学的に証明されてはいけない。

この金習は今。紛れもなく生まれ変わった。

見た目、10歳ほどの子供の姿へと変わってしまった。誰しも持つ、生命の老化を克服したとも言える完璧なる姿。



「若返ってる!?いや、生まれ変わっておる!?いや」


水面に映る自分の新たな姿を知り、興奮しつつも、落ち着いている。

若返りという、大人の幼稚さではない。生まれ変わりという、敗北者の願望でもない。これが



「これがっ!私の完璧な姿かぁっ!!全てを手に入れるための、姿か!!」


学ぶことにおいて、最適な体を維持し続ける。

それがこの姿であること。全て思った通りに学習できる。自分の体に全部が馴染んでいく。全能感を飼ってる気分だ。



ガシイィッ



エロシュタイン島に金習が足を付けた時、この島にいる生命の”邪念”を感知した。

気配が分かる……という第六感に近いものじゃない。聞こえる、見える、匂う。嫌悪や有害を除いて、良質なモノだけを把握するまでに精度良く、金習の体は学習する。自分が完璧と誇るもそこは未だに天井知らずの予感。

今は島の中で起こっている出来事を、歩きながら集めている。

この砲撃による火の海でも、まだ生き延びている者、脱出を行っている者、少しでも長くこの島を維持しておこうとする者。今向かうべきは、この島を護ろうとする奴。これが自分を引き寄せるように、容易に感じ取れる歪さだった。




「子供か?まいったものだ」


口から出される言葉。しかし、心で幼き者を傷つけるのを躊躇う良心はない。明らかに発散するために”邪念”を出し


「……子供にやられたのか。……みんな」


同じく子供の姿をする怪物、ペドリストはこの場にやってきた金習に警戒を示した。


「…………」


どこか知ってる雰囲気と、こいつをも手に入れたいという欲望が増す。金習はこの不可思議なオーラを出すペドリストを理解し、学習しようとしている。そんな危険過ぎる生物である事を知らずも、自分と同類の魂が奴から感じ取れる事にペドリストは今の心境も含め



「みんな、助けてやる。僕はそーして、ここにいる」

「一人でこの殲滅作戦に耐えているのか。なんの意味があるんだ?」



島を攻撃する輩の主犯が、この金習だとは知らないペドリスト。

だが、こいつを倒すことが自分の願いである事は理解した。島の崩壊を防ぐため、自分の周囲に発した白い膜のオーラ。この中に入ったモノはペドリストに到達する事もなく、無限に小さくなる。

今、島に放たれる兵器の数々をその能力で被害を抑え込み、崩壊を遅らせている。それが結果として金習の注目を浴び、おそらく



「何をそこまでする価値があるんだ。お前のような命に……」



最良の動き。

もしもここにペドリストが残らなかったら、逃げることしかできない海上で、巨大な軍事力と圧倒的な個の強さを持つ金習が襲い掛かっていた。その事を分かり、己を固く守ったペドリスト。

砲撃がまだ続いている事で不安はあるものの、自分が信頼できる奴ならきっとなんとかしてくれる。その気持ちが金習を前に、全力で立ち向かえていた。



「他の誰にも、己の命を決める価値はできない」



ペドリスト VS 金習



……

…………



◇           ◇




ブウウウゥゥゥッ


2隻の船がエロシュタイン島から出発した。

周囲の視界が感じ取れることは、不思議な事に波に逆らう水しぶきを上げていた。


「ホントに良かったのか?」


エーブラックにとっては、本人の判断だったとしても許せるとは言い難いこと。

しかし、


「時間がない。それに……奴の言う通りだよ」


ダースサンは自分達の後ろに積んでいる、小さくなった人間達が入っている瓶の数々を見ながら、これは間違いじゃないと納得するしかなかった。


「……………死ぬような奴じゃないよ、彼。僕は戦ってるから分かる」


寝手は正直、……誰かに顔を見せたくはなく、燃えているエロシュタイン島を見ることもできず、ましてや逃げる先でもない。ただただ、海を見ていた。今、寝手の力でこの2隻の船は、自分達以外からは認識する事が困難になっている。

島への砲撃の余波さえ来なければ、無事に脱出できる。

そして、それは……



「島が崩壊すれば、きっとこの船を見つけられて消される事だろう。エーブラックさん達は一刻も早くさ」

「…………ああ、お前等。……強ぇよ」



エロシュタイン島への攻撃を妨害できるのなら、脱出する確率は大幅に上がる。

しかし、それを成せる奴がペドリストしかいない。そして、……。


”彼が死ぬことで、今小さくしている人達が元に戻せるというのなら、彼がエロシュタイン島に残る理由としては十分過ぎるものだった”


「……これだから、仲間と関わるのは好きじゃない……どうして」


意見のぶつかり合いも良い。だが、どうして。寝手もまたツイテいない奴だ。


「どうして、心許せる仲間が、僕から離れていくんだろう」


波に抗って進む船が飛ばす水しぶき。そこにほんの少しだけ、海からではない、ちっちゃな水が海に零れていた。



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