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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第52話『最終ステージ準備前!ちっこい大脱出とちっこくならない幻!!』
201/267

Cパート



最初は……



「「はぁ?」」


って表情で、揃って首を傾げた北野川と黛の2人。

さらにそこから5分ほど話して


「ぎゃはははははは」

「あははははは!ひぃ~~、お腹痛いぃぃっ!」



大笑いするほどの話。久しぶりって感じに、このビッグニュースに笑うしかねぇだろっていう。

そのニュースを凄く嫌そうに持ってきたのは、


「マジマジ!?マジなの、表原っ!!ひ~~っ!」

「やばやば!あんたには絶対にお似合いだよーー!!ぶはぁっ、笑うっ」

「うがーーーー!!他人事だと思ってーーーー!!」


ブチギレと恥ずかしさが同居した顔をする、表原麻縫である。

因心界の本部にて、北野川と黛、……さっきまでチョロっといたけど、野花桜と一緒に、



「とんでもない旅行でしたよ!!」



エロシュタイン島の顛末を話していた。

本人からしたら脱出した方法とか、野花壌の滅茶苦茶よりも、とんでもねぇ事態。



「寝手くんに絡まれまくるんですよ!!!」



こっちは嫌悪しているというのに、一方的な好意を向けられ、彼女の申し込みまでしてくる始末。……そして、性質が悪い事に


「母親が推してるんですよ!!寝手くんのことを!!」

「ぶふふっ!超ウケる!あいつって、蒼山と同格の変態でしょ!」

「母親から薦められるとか!!すっげー、相性バッチリじゃん!!」

「ふっざけんなぁっ!!」


なんと、表原巫女が自分の娘と寝手のお付き合いをかなり認めているのであった。むしろ、推しているくらいだった。娘からしたら、関心どころか嫌悪だって言っているにも関わらず、


『一途な恋愛はあと2年ぐらいしかできないわよ』


「別にいいしっ!!寝手くんとか、絶対無理!!」


そう言いつつも、巫女は巫女で……寝手の良さをそれなりに分かったらしい。


『彼、好意を持って優しいわよ。麻縫も気が合うところあるんじゃない?もうお互い、見知って助け合ってるようだし。歳もそこまで離れてないじゃない。彼のメイドさんもなかなか心優しくて、身の回りのお手伝いをしてくれる。人を成長させる1つは、恋愛や人間関係よ。彼の容姿も悪くないじゃない』


「んなわけあるかーーーー!!?お母さん、ちゃんと相手の事を見て!!」


うぎゃーーって、発狂しまくる表原。その姿にまた爆笑する北野川と黛。


「ひーっ、ひぃー、笑い死ぬ!」

「親公認とか、すっごいじゃん!付き合え付き合え!!」

「ぐああぁっ!いやいやいやいや!!」

「表原、落ち着きなさい。ぷぷぷ、ぷぷ……」

「含み笑いでよく落ち着けって言えますね、北野川さん!」


表原が被害を受けている事を除けば、因心界側からしたら凄く大きな条件を寝手は出してくれた。


『SAF協会、辞めてこっちにつくよー』

『ちょっ!いきなり何を言うんですか!?寝手!!ルミルミ様に怒られます!粛清されます!』

『……僕が認めてたのは、シットリの下であって。ルミルミちゃんの下には正直、就きたくないんだよね。違い分かる?』

『どええぇ~~っ!!そ、そ、そんなこと聞かれたら、殺されますよ~!』

『別に大丈夫。因心界が僕達を護ってくれる』


なんと寝手とアセアセがSAF協会を離反し、因心界側につくという条件を出した(寝手の一方的)。降伏という形だ。

寝手の実力が抜けるだけでなく、因心界側につくとあれば、表原の彼氏なんかアッサリと認めてくれる。……信用はしていないが、



『表原ちゃんの近くにいれるのなら、それ以外に不信と思われても構わないよ』


「いや、一番不信感を抱いてんのは、あたしだ。ボケぇっ!!」



表原の意向を完全に無視して、寝手が因心界に加入。彼が仮にスパイに入ったとしてもだ、北野川の能力があれば、その真意を事前に見抜くことができる。……表原からしたら、それに嘘の報告をして帰らせろって北野川にお願いしたわけだが、北野川は事実が面白過ぎてそんなウソをつく気はない。時には真実の方が面白いのだ。



「今のところ、裏切る気はないでしょ。表原の事ばっかり考えてたわよ」

「うわあーーー!聞きたくない聞きたくない!!あれに色々と考えられてんの、マジで無理ぃぃっ」

「あはははは、表原最高のパートナーだよ!ぷぷぷ!」

「黛ちゃんも応援しないで!!あれを快く引き受けないでしょ!」

「だって、あたしはあいつに被害を受けないも~ん。勝手にやってどうぞ!」



蒼山と違って、寝手に関しては周りの仲間達が拒否感を全然出してくれない。彼と違って女性が感じる嫌悪感が、蒼山と比べるとかなり落ちるからだ。内心で考えている程度にしているのと、剥き出しになっているのでは大分違う。それに寝手が今、興味を持ってるのは表原だけ。これも大きい。

表原からしたら、北野川達も


「寝手くんに操られてんのかーー!!」


知らぬ間に洗脳をされているんじゃないかと、錯乱する。なんで、寝手を追い出したり、殺そうとしたりしない。

被害が出てないからだ。


そーいう阿鼻叫喚をする表原。それと違って、寝手はかなり楽し気に因心界の本部を連れ回されつつ、面会を受ける事になっていた。

ちなみに、


「あんまり表原ちゃんにちょっかいを出しちゃダメよ」

「え~~、嫌われてくれるのも、短い期間なんだけど」

「嫌なものは嫌なの」


彼の案内役をやっているのが野花である。

意外にも、寝手を歓迎側。というか、彼女にも理由がある。


「私にも気持ちが分かる」


彼が唐突に表原に告白したおかげで、自分の両親と一緒に行動する苦労が表原から吹っ飛んだのは有り難いこと。何を言われるか、何をされるか、かなりビビってただけにこーなってくれたのは、気持ちが楽になった。表原の苦労が10倍ぐらいになった気もするが。



コンコンッ



「キッス、ルル。寝手くんを連れて来たわよ」



因心界の幹部の者達が集まる会議室。そこで待っていたのは、キッスとルルの2名。

ちなみにアセアセがこの場にいないのは、寝手が変なことをしないため。アセアセ自身が人質扱い。幻術・幻覚を見せる能力である以上、その源であるアセアセには傍にいられると危険だ。



「座ってくれ、寝手くん。君の実力と話なら、北野川や野花。……表原ちゃんからも伺っている」



キッスの言葉に敵意はない……あるとすれば、ルルがそれを明確に出している。すぐにでも妖人化して、寝手を始末できるくらいの警戒心。

表原を揶揄う笑いが多い中で、唯一、本当に表原に同意して怒っているようなルル。

案内をした野花は扉に背をかけるも、ゆったりとしていて、妙な事はないと踏んでいる。



「よっしょ……面接。尋問?」

「北野川が君の事を大分調べてくれている。私からは特にない。ついこないだまで、戦っていたわけだ。君も警戒する必要はなさそうだ」

「お姉ちゃん、それはあたしに言ってる?」



先にどっちが喋るかって言ったら、当然にキッスがやるべき事だが。譲られる形でルルが寝手にど直球をかます。


「寝手くん!!表原があなたを嫌がってるんだから!一方的な好意なんか向けるのはとても迷惑ですよ!!」


本人に言われるのならともかく、他人に言われたとあっては


「はははは、ルルちゃんは知ってる雰囲気で言うね」


寝手が気にするわけもない。今、彼女が自分の事が嫌いとかはどーでもいい。

変態が一度も火を灯せば、大勢の人間の言葉の雨でも消えやしない。

ルルの言葉にキッスも微笑みながら


「それは一利あるな。あまり無理な好意は持つべきものではない。ルルにもそんな経験があるとはな。誰に無理な好意を抱かれている?お姉ちゃんが解決してあげよう」

「いや、いやらしくあたしの事を思ってる時のお姉ちゃんの事だけど」

「……え?」

「え?」



…………


ルルのポカーンっとしつつ、真面目そうな顔でキッスを見る。

キッスはガーンっとして、信じられない顔でルルを見ている。


「……いつもああなの?野花さん」

「まー、ルルちゃんとキッスは結構スレ違ってるけど、仲良しよ」


そんな野花のフォローを聞いたキッスはすぐに元気になった顔になる。


「わはははは、ソウダソウダ」


カタコトな時点で動揺している。

しかし、一つの咳払いをすれば、シャキンっとカッコいいお姉ちゃんの登場である。こっちバージョンなら、ルルは憧れているんだが、なんで二人きりの時になってくれないのか。


「君を幹部にするかは未定だけれど、専用の部屋なら蒼山が使っていたところがあるから、アセアセと一緒に使ってくれ」


VIP待遇。蒼山の部屋なんか誰も使いたくねぇからってのもある。


「ルルの言った通り、表原ちゃんとはしばし会えないと思ってくれ。君とアセアセはここで待機だ。野花、ルル。彼の監視を頼む」

「了解」

「ぜーーったい、表原に悪いことをさせないから!」



しばらくは監視付き。今は、野花とルルが兼任する形。次に、北野川と黛がやるらしい。

その後の経過観察でどうするか、因心界で話し合うが。キッス本人からすれば


「相応の待遇を私は設けるつもりだ。粉雪はどうか分からないが、蒼山の事はやたらと嫌っていたし」


キッス以外の女性陣は、嫌ってるって思うけれど……。


「君の我慢次第だ」

「なるほど、〇〇禁という感じだね」

「うわぁっ。あなた、やっぱり蒼山さんと同レベル……」

「君の妖人化以外のスキルやアセアセの奉仕能力も踏まえると、戦場に出るよりもここで働いた方がいいだろう?すでに次の作戦に移行していて、丁度、君にもお願いしたい事がある」

「??」



ルルと野花はまだ、作戦の中身を聞いちゃいなかった。

それ含めて、次の作戦なんだろう。キッスがちょっと前まで敵だった寝手に話してくれるのは、すでに彼が思う以上に終盤なのだ。

倒すべきレイワーズはもうあと1人。そして、戦力は整い始めた。


「私と粉雪がレイワーズのハーブを殺りにいく。すでに時間と場所は決めた」

「!!」

「私達のバックアップとして、表原ちゃんと北野川、黛ちゃんの3人。……ハーブは未だに、”宿主”を手にしていない。それはこっちには好都合だが、SAF協会としては不都合なんだろう?」


”宿主”がいるかいないかでの、強さは大きく違う。

だからこそ、先に殺したいのだが。それを邪魔するのはSAF協会であり、ハーブもいよいよとなって、それを見つけ出すだろう。因心界としてはそんなことをさせたくはない。……が、


「曰く、奴がレイワーズの中で最強と言われてる。私も武人の1人だ。是非とも戦ってみたい」


粉雪も偵察として、彼の様子を見た。

写真で見る姿よりも生で見たハーブの強さは、確かにレイワーズの中でも抜きん出ている。キッスはまだ本格的にレイワーズと手合わせしていないが、どの相手も超が付くほどの危険なのは把握してる。

キッスの言葉にどれほどの真実があるか、分からないが



「寝手くん。ネットの中で顔が利くなら、ハーブに代わって”宿主”を捜してくれないか?」



キッスの思惑。

おそらく、組織と個人の思惑が一致していない。

戦闘中に”宿主”が見つかってしまったら、そりゃあ、しゃあないよな……。



「急ピッチは大変だよ?けど、SAF協会の新しい義理にもなるかも。図らずに」

「ふふふっ。できれば、そう願うよ」



その約束が果たされるかどうか。

ハーブが求めている”宿主”が極めて特殊というか、早々現れて来ないのも原因。多くいても、現実で出会えるほどの事ではない。彼が”宿主”を見つけなければ、ジャオウジャンが完成するピースは揃わない。

寝手には情報処理を任されることになる。

チーム分けをすると



Aチーム:

キッス、粉雪:ハーブの討伐



Bチーム:

寝手、野花、ルル、古野:因心界の本部OR病院で待機



Cチーム:

表原、北野川、黛、飴子:ハーブの”宿主”の討伐。ただし、現在までに”宿主”が現れていない。



Dチーム:

録路、茂原:SAF協会の討伐。現在、録路が休暇中のため、動いていない。



「寝手くんのこれからは治療班にも回って欲しい。古野とは別の治療が得意だからね」

「働くって大変だ(僕が見れる患者は限られてるけど)」



後方支援に特化させることで監視もしやすい考え。

それはともかく、以上の4チームでしばらくは行動を共にする。物騒に最強2人が手を組むのもヤバイが、録路の任務も大きく危険なもの。本部が大事というのも分かるが、



「……ルミルミの相手は録路にはキツイんじゃない?私も行こうか?」

「録路と茂原のは威力偵察で済ませてる。すでに表原ちゃんが十分過ぎる戦果を出しているわけで……ルミルミの周りにはまだ、倒すべき敵が何人かいる」


寝手とアセアセの離脱だけでも大きい。

しかし、SAF協会を纏めて倒せると思っていない。確実に戦力を削っていく、長期戦が効果が高い。


「ルミルミ以外の相手を減らす。それが任務」

「分かったわ」


意外に交戦しても構わないという野花の発言はキッスを驚かせたが、SAF協会との戦い方は変えない事が大事としている。

レイワーズが片付いたら、すぐにそっちの対処に回るつもりのキッス。



◇          ◇




「で、ででで、ですから!!」



日本に戻ってくるまでの事。

SAF協会を抜けると言いだした寝手を説得しても不可能であり、また、その事をSAF協会の面々に告げるというのは最高難度である。まず、直接話し合うという選択肢はない。

帰りの船でアセアセがルミルミ達が泊まる宿に連絡を入れ、話しを聞いてくれるだろう此処野を呼んでもらった。



「私達、SAF協会を抜けますので!!その!!ルミルミ様に宜しくと!」


バイトを辞める時の感覚に近い報告。それを受けた此処野からすりゃ、


『直接、本人に言えやっ!!』

「ひ~っ!」


だって、ルミルミ様に直接言ったら、報復されそうで恐いじゃないですか!

此処野だってこーいう事されたら、殺しに来そうですし~!私としては頑張ってるんですけど!!


「報復とかしないでください!ホント!!もう色々あり過ぎて!!に、任務は遂行したと!!」

『あ~~っ!!因心界が終わったら、テメェ等殺しに行くぞ!』

「来ないでくださいって電話してるんですよ!!」


一方的に一方的に……。

アセアセは罪悪感を抱えながら此処野に伝言を頼む。


『……そんじゃあ、俺がぶっ殺しに行くまで死んでんじゃねぇぞ!ルミルミには言っておく!!』

「は、はい~~!!」



これ一段落着いたら、絶対に報復に来ますね。私達、そんなに一緒じゃなかったんですから、赤の他人で良くないですか。お菓子と作ってみんなに振る舞いましたけど~。



「連絡ついた?此処野なら大丈夫だったでしょ」

「寝手ーーー!!あなたの勝手で怒られましたよーー!!もーーー!!」

「任務が成功してたら、特に問題ないさ」



そんなこんなで寝手とアセアセの、SAF協会への脱退はルミルミ達には伝わったのである。

2人は報復を恐れてはいたが、正直に興味はねぇ此処野と暇でもねぇルミルミ。あと3人に関しては、寝手とアセアセがどうしようが勝手と言ったところだろう。

組織としては、纏まっておらず、個々に我が強すぎる。

絶対的な力を持つルミルミですらコントロールできない猛者の集まりだ。



「だそうだぜ。ルミルミちゃん、白岩」



アセアセからの連絡を受け、宿泊先の部屋で寝手達の離脱を告げる此処野。

此処野の言葉を聞いた2人は今、



「そ、そうなんだ……」

「眠いって言ったじゃん……」


高熱に苦しんでいる白岩と、寝不足と疲労の顔を出すルミルミ。

特にルミルミに関しちゃ、こうなると



ドゴオオォォッッ



「あっちにいかないと、君でもやるよ」



超不機嫌。

ルミルミの剣と此処野の槍がぶつかり合って、互いに殺し合いもあり得る。ルミルミのお世話というのは命がけになり、信頼できるシットリやダイソンがいない状況が本人にとっても危ない。



「俺が子守唄でも歌ってやろうか?ルミルミちゃん」



行方不明となって、涙一族の里に赴き。そこからキッスとルルの戦闘。さらに妖精の檻を長距離輸送。白岩の治療にと……。ルミルミがいくら無双と言えど、長い休息期間、いわゆる睡眠期を必要としている。その睡眠期には確実に背を任せられる、シットリかダイソンがいての事だった。

此処野がルミルミの命を求めやしないが、信頼には欠けるということ。……それでいい。



「ルミルミちゃんは少し休みなよ。あたしが……やるから……」

「白岩!あなたは……」

「ここまであたし、ほとんど何もしてないから。自分の事くらいは……」



フラフラと立ち上がろうとする白岩に此処野はため息つけず



「じゃあ、やれ。俺も手伝ってやる。ルミルミちゃんは寝てろ」



白岩の肩を持ちつつ、ちょっとだけ彼女を借りる。

旅館の廊下を歩きながら、此処野が白岩を連れて向かったのは受付だった。



「お前はルミルミと部屋を代えろ」

「でも、……」

「ルミルミの相手なんか俺はする気がねぇ。あの赤ん坊の何が可愛いんだ?2歳児が地球を壊せる力を持ってるもんだぞ」



ルミルミの睡眠期は自分の空間に引き籠っていたりするが、その警護に俺じゃ不安という事だろう。空間の中にいちゃ、白岩の様子も気になるだろうしだ。


「お前はヒイロが戻ってくるのを待ってろ。今のお前を殺すのなんか、簡単でつまんねぇんだ」


部屋に案内すると白岩を転ばせるように寝かせつつ、此処野は布団まで用意して。


「水やタオルとか。……衣類も用意すりゃいいか?」

「……うん、ありがとう」

「体調治してから俺に言え」


病人の看護なんかやりたくないと思いつつ、赤ちゃんの世話よりマシだなってこと。

白岩は大人しい部類だが、ルミルミは寝相の1つ1つで暴れやがる。シットリが手を妬くわけだ。



「此処野く~ん。眠れないから、君の子守唄ってどうなの?」

「ルミルミ。少し待ってろ。覗きに来るな」

「オムツとミルク、おしゃぶり、玩具などなど……ご用意するように」

「へいへーい。まったく、……」


そんなことを思っていたら、ルミルミが様子を見に来た。最強の癖して、やる事が赤ん坊。そーいうのがないと機嫌を損ねる。


「抱っこは下手だからいいよ」

「空を飛べるくせに抱っこって……」


此処野への注文を聞いて、


「抱っこならあたしが得意だから、してあげるよ」

「おい。白岩」

「いいのいいの。まだ、寝たいとかないから」


部屋だけ用意してくれればいいと、白岩がルミルミの世話を少しだけ買って出る。あやして寝たらすぐに休むとして、戯れる白岩。優しくポンポンとルミルミの背を叩きながら、抱っこをしたりと遊んであげる。その間に此処野がルミルミが言うものを揃えてあげる。

子供と女はよく分からんって顔で、此処野がまたルミルミの部屋に来た時、白岩はルミルミに子守唄を唄っていたところだった。優しく体を揺らして、歌って、あやしつつ。


「あ、此処野くん。準備してくれた?」

「むっ」

「悪かったな。全部、任せちまって」


その方が良いと思った此処野が去ろうとしたら、白岩が笑顔で呼び掛ける


「此処野くんも子守唄くらいできるんじゃない。一緒に歌おう!」

「はぁ?」

「さん、はい!」

「…………お前に続けばいいんだろ」


此処野はちょっとため息をついてから、全然知らない子守唄を白岩に続いて唄ってみた。意外と唄うという事は、体を温めるようだ。しかし、素っ気なく唄っているせいか、気持ちとやらが入ってないせいか。それよりも実力ねぇのか、才能ねぇのか。



「……此処野くん」

「なんだよ」

「酷いくらい音痴過ぎて、唄わないでくれる?」

「お前が誘っておいて、なんだこの野郎。これだから俺はこーいうのが嫌いなんだよ!」

「耳に雑音残って全然眠れないよ!」

「悪かったな!!俺は音痴だよ!」



◇             ◇





ブヂィッ


心地よい歌が流れている中で、安らかに手術台の上で眠る権田飴子の姿があった。

その近くにいるのは、シークレットトークの3名。優しい子守唄が部屋の中に響き、飴子の脳内を刺激する。頭を縛り付ける鎖を引き契るようだ。



「手術室で歌というのはどうなんですかね?」



本来なら外傷を治す手術室なのに、精神治療のために利用するのはどうかと古野は思う。

北野川曰く、6時間以上は使用するとのこと。

古野の能力は主に外傷専門。力になれないのは事実。なので、北野川が代わって飴子の治療をする。



「よくそんな条件を出しましたね、表原ちゃん」

「む~~っ。レゼンの提案に渋々乗っただけだもん」

「でも、お前が決めたんだろ?あとは北野川とカミィを信じろ」

「ぜーったいに失敗して欲しい」



権田飴子の治療とは。

彼女に罹っている洗脳を解くことである。記憶操作も可能であるシークレットトークならば、洗脳から解き放つ可能性もある。

表原は飴子を助けたいと思っているんじゃなく、


「寝手くんに洗脳された時に、助かる術はいくつか欲しいもん」


万が一……絶対に万が一だ。

自分が寝手に洗脳されるようなら、助けて欲しいと思い、能力が近い北野川にできるかを尋ねた。もちろん、自分がどういった経緯で寝手に絡まれているのか、彼の能力がどーいうものなのかを伝えたくらいだ。

飴子はかなり長い期間で洗脳されているため、解いたとしても果たして本当に上手く行くのか。

北野川もやってみなきゃ分からないとして、引き受けた。

記憶の穴は少なくともできるだろうとしている。



手段がなければ、寝手の因心界の加入を絶対に拒否していた。付き纏う事も拒絶した。

一度、洗脳しちまうと解除ができないと、本人も言っていただけに洗脳解き方もこれから学ぶという。



「よくもまぁ、危険人物をこちら側に引き入れましたね。表原ちゃんの型破りなところですよ」

「古野さん。あたしは寝手くんが嫌いですよ!そこは勘違いしないでください!多少。ほ~~んの少し!助けてもらった恩はありますけど、机から落ちた消しゴムを拾ってもらった程度ですから!」

「はいはい」


そんなに嫌ってるなら始末すればいいのに、しないんだから内心は結構認めてると思うんですけど。

本人のために言わない方が良いですかね。


「私はまだ表原ちゃんから聞いてなかったんですけど、その旅行はどうだったんですか?」

「あーーー!!それ北野川さんや野花さん達にかなり笑われたのに!!」

「いや、どのように脱出したとか。気にはなってますから」

「うわーーーん!」


言えば言うほど、思い出したくない事まで蘇る。表原は泣いて、レゼンにバトンタッチ。



「どうやって俺達があの島から脱出したかっていうと……」



エロシュタイン島。最後の脱出劇についてである。



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