Bパート
世界地図から島1つが消えてしまった。
その事について、覚えておくのなら
”なにもなかった”
そこに島なんてなく、海と同じだったことを覚え直してほしい。それは世界中の人達全てにとって。
そして、無くなったことを覚えておくようにと……。
この問題において、どのような会議が開かれるか。国際に関わる者達がすぐに集結するのは当然であった。
「どうしてくれるんだ!!?」
海底火山の噴火のような、未曽有の大災害。しかし、今回のは明らかな武力行使があり、それによっての消滅が確かなモノである。当然、島の近くにいる国家が強く訴えるのは確かである。
危機がある。だが、
「次に消えるのは、あなたのところで良いのか?」
「!!」
国同士の関わる場で抗議よりも先に、自分の抱える武力を主張して静まるようにした。無論、冗談の範疇である。しかし、それができるのもまた、軍事力あってのこと。
金習の宣戦布告ともとれる言葉に、すぐに言葉を返せるのはホントにやり合えるだけのもの。
「止めろ、金習。ここはお前の処遇の場。島を消した自覚を持って欲しい」
「…………その通りだね、ナチュセンコ。いや、すまない。ひとまず、私への批難を止めてくれなければ、対話もできまい」
武力とは発言力にも繋がる。脅すものがあるかないかで、得られるものの動かせることも違ってくる。ポイントをしっかりと決めて使えば、節約にもなる。
今はまだ、”島が1つ”無くなっただけという事実。
それに少しばかりの安堵を持つ連中もいる。
使われた武力をどのように抑え込むかの話はするもの、その答えとして
「”制裁”は免れないかと」
「やれやれ、困ったもんだねぇ」
各国が協力して、金習の国に対しての”経済制裁”を仕掛ける。それは案であり、あくまで各国が示せるポーズでもある。世界が本気で”どうにかしよう”などと、思ったことなどない。
思った以上に繋がりがあり、互いに武力を持ってのこと。挨拶1つに拳銃などを使ってお互いにしているくらい。もうそろそろ、人間が操れる範疇を超えて来たモノが現れた。
この事件しかり、……ここまでやってきた戦争しかり、……各々。見て見ぬふりをしてきた問題。
人間の価値感を変えること。
この場にいる、国を代表して、席に座る者達しか価値観を決められない。常識を決められない。思想を決められない。
やがて暴走すれば、国という概念も無くなるかもしれない。
ナチュセンコが金習に告げておく。
「いくらお前のような危険思想を持つ人間だとしても、この世界全部を敵に回せば滅ぶぞ」
人間が拳銃を持つくらいなら、弾が尽きるまでが限界だ。だが、こいつが持っているのは核を初めとした軍事力。真正面でやり合う気もなく、国民と自分の違いもよく理解しているから性質が悪い。
滅んでも憎しみの力で、何度でもやりそうだ。
「ちょっと困るな。私と敵対する国が大勢いるのかい?まったく、困るんじゃないか?」
ナチュセンコの大げさ過ぎる例えに金習は飄々と、自分に味方する国だってあると主張する。
誰かに支配されたい、誰かを支配したいの気持ちは誰しも持つ。
あまりに強すぎる力は、精神性と一致しなくなれば……。
「……”提案”だけなら、この場でしろ」
一触即発の争いを経て、この話し合いの場所を設けてあげたナチュセンコ。これは明らかに、金習という人間が改めてどんな奴かを、世界に伝えるためだ。
「不要な人間の有効活用。及び、我々のエネルギー問題。国家で何度も争うのは悪いじゃないか。大勢の人が死んで可哀想だ」
いや、征服支配の思想を服に着たようなお前が、そんな事言うんかい。
そーいうツッコミを心の内で留めつつも、金習なりの人間に対する考え方を知る。
だから次の言葉には繋がるわけもない
「だから僕が、地球全てを世界征服すれば、平和じゃないかな?」
「あくまで建前だろ?お前が生きてる内には達成できんぞ」
ナチュセンコを始め、即座にそれを否定する各国。一人称を可愛げにするくらいの冗談を言う金習は、考え方と理想を伝えた上で、手段を教える。手段から伝えれば納得なんてできない。
「平等に世界が使える”場所”が欲しい。平等に世界に使える”人材”が欲しい。平等に使える”資源”があればいい!それが手段の1つ。……始まりだ。島を一つ消してやったのは、その予行演習というわけさ」
予行演習?
「”国を1つ、消しちまおうよ”」
世界のために犠牲になる場所が必要だ。
優れたエネルギーを産み出せても、なんらかの危険が伴う。もちろん、それを解決する術は未来にできるかもしれない。ただ、今にそれはない。時間を稼ぐ必要はある。色んな良い言葉を作ったところで
「国1つを消すだの、正気の沙汰じゃない」
「その国にいる人達はどうするんだ!」
「お前が消えればいいだろ!」
最後がもっともらしい、犠牲の出し方である。
しかし、国を1つ、消しちまおうって事には
「大陸にいる国は危ないだろう。ケーキを狂いなく3等分に切れる腕は誰にもない。だからこそ、周りが海に囲まれている方が綺麗に収まるじゃないか」
反対する。しかし、各国の連中の声は道徳的な反対だ。
金習が言った反対は、キッチリ狂いなく、大陸にある国を1つ消すという手段が難しいからの反対だ。間違いなく、自分はやりますよってアピールもしている。
その上で
「人間としての道徳や良心は捨てて、まずは聴いて頂きたい。私はそれをやりたい」
暗殺者がこの場にいても、殺せねぇのが性質の悪いこと。
彼等の言う、人間としての考え方には興味を示さず、金習は自分の考え方を伝えたい。
「争う場所を一つにしよう。エネルギーを生み出す場所も一本化しよう」
……リスクを考えれば、適度に分散化させる方が適任だ。一つに固める事には危険が高い。
だが、
「危ない人間達も一つ場所に隔離しよう!!」
じゃあ、お前だけだな。などという心の声も言いそうなくらいだ。
とはいえ、それは金習を見ていれば納得のいくこと。それに
「国とはいえ、”デカイ島”でやれば、想定されるリスクだって多少なりとも軽減される……という考えか」
「分かってるねぇ~、ナチュセンコ。とてもいい話し合いを提供してくれただけある」
「その無法地帯となる島の管理は”世界”がやるのであって、お前だけが関与するつもりはないよな?」
「まだ出来てない事を言うもんじゃない……」
人の道徳を除けばだ。
時代のどこかで、人間が向き合う必要がある出来事。
多くの国が形だけでも大量の殺戮兵器を買い、誰かの発言を聞く権利を持てるようにし、世界に問いかけてもくる。”それ”に困った国はより大きな国から助けを求める……。良い感じで争いをしてくれる分にはいいが、バランスを崩せば威圧だけで済ませた兵器が世界を襲いかねない。
”使わせない・使わない。”
を想定して、買わせてはいても、説明書を後生大事に抱えてる奴はいない。
人が急に変わることだって、知っているはずだ。支配者層に理性なんてあったら、やってられない。
一番近い、人間が向き合うべきことの例えの1つだろう。
世の中には、人間が見て見ぬフリをする事がいくらでもある。
「私が言うのもなんだが、”国を減らす”というのは人類にとっては、いずれとるべき選択かもしれない」
戦争をしたいと言ってるんじゃなく、支配をしたいとも言ってるわけではないナチュセンコ。消すなどという物騒な言葉ではなく、
「”併合”という形は悪くないんじゃないかな?助け合うという意味で」
「君も君で物騒だね。〇クラ〇ナを攻めたりしないよね?」
「どこの世界線でそれをほざいている?」
ナチュセンコは金習と協力する気はない。だが、利用する気はある。
やり方があまりに派手なのが不安ではあるが、こうした世界に問いかける暴力がどれほど大きいモノか。国そのモノが、”遊び”や”儲け話”を度外視した行為をした時、世界がどう動くかを知っておきたい。
もちろん、見放せる距離感を保ったまま、協力といったところ。
金習の提案には多くの問題がある。
「金習。まずは”大義”や”正当性”が必要だ」
「分かってる」
「そして、世界に発信できる”資源”・”報酬”……それらがなければ、世界が同意するにも至らない」
「ああ」
「あとは気にしないが、……やるならお前1人でやれ。その後の結果で、迅速に世界が動き方を考える……あえて平和的に言うのなら」
電撃作戦にしろ。
長期間の戦争は世界にとっては、不利益かつ不毛なんだ。
”人類がいつか似た問題に直面する時、お前がやった答えを提出する。”
◇ ◇
コトォッ
「正義面した悪人だな」
ワインを飲みながら、ナチュセンコに酷評する。
「南空さん。あなたがこの場に来て、私にそんなことを言うんですか?」
ナチュセンコが帰国に向かうまでの飛行機。
そこで会合していたのは、革新党の南空とであった。
国同士の緊急会議で金習とナチュセンコのやり取りを聞き、彼のやり方を笑った。そして、世界は一時”保留”を選択した。状況によって、立場を決めようという考え。
「やれるだけの事はした。私はまず、沈む船に乗るつもりはない」
ナチュセンコは、いずれ人間が選択する機会まで。世界がそれを見届ける……というよりかは見定める場を作っただけだ。
まともにやり合えば、火に触れたら火傷するくらい分かること。
分かっていて言うが、
「とにかく、金習の”初動”を止めさえすれば、世界は動く形にはした。問題は”それ”すら難しいということだ」
防衛が難しい理由。
”いつ”・”どこで”・”なにが”……それがまるで分からない攻撃に対して、最小限の被害にすることだ。
もし、その被害が大きければ立て直しは難しく、すぐに世界も掌を返す殲滅に変わる。
金習に対して、言ったことは”金習のため”に言っていて。
世界を思えば、とにかく防いでくれと、ナチュセンコは思っている。
「その時は出たとこだろうな」
「……あなた、何か嫌な企みをしていますね?私は残念ですが、話をするだけにしたいのですけど?」
「しばらく、世話になる。ナチュセンコ」
こっちもこっちで図々しい爺だ……。
「はぁ~、自分の国に被害が出る(金習は公言しなかったが)かもしれないのに、……」
「なんとかするだけの”切り札”が日本にはいる。ナチュセンコは、”空白の数時間”の内に世界に答えを出させるな」
多くの人が知るのは数日後、関わる者にとっては1分が1日ほどに感じる長い時間になる。
状況の把握。……それは、エロシュタイン島で疑似的な模擬戦にもなっただろう。
”空白の数時間”とは、第三者が調査に入り、結果を報告するまでの間のこと。ここで勝敗だけなら決すると分かる。あとは、どのように戦争を止めるか否かの話し合いと、チンタラしながら消費期限ギリギリの兵器の使用を繰り返す。
とても短い時間を、なんとか引き延ばせというもの。
その時間の中でなら
「金習を完全に殺せる機会。それはお互いに……じゃないか、世界にはメリットになる」
大義・正当性。
それは戦争の後には必要なことだ。
南空がどうしても金習に、そして、ナチュセンコに求めたこと。
彼の前では、2人共掌で踊る人形ってところか。とてもじゃないが、
「あなたの自信よりも、金習の方が上と思ってますがね」
◇ ◇
ブロロロロロ
「記憶喪失だって言うなら、大変ねぇ」
「建前だよ」
そんな設定をまだ引きずるのかこいつって、顔をしながら助手席に乗る怪護。相変わらず、話し全振りでウキウキしているミチヨ。前くらい見てくれよって思いつつも、こんなところで誰かに出会うよりも野生動物を見かける方が確率的に高い。
「内科?外科?……それとも農家に連れて行く?」
「病院はいいっつーの!」
自分が意識を失っていた間。……仲間がどーなってんのか、結局は分からない。
ここから因心界の本部まではあまりに遠すぎる。こいつに運転してもらっても街までか……。
田熊の奴は生きてるようだが、なんともされてねぇのか?
「……まぁいい、食ったら眠くなった、寝る」
「ええーー、寝ちゃうのかい!寝ないように私がずっと喋ろうかい!」
「ずっと喋ってるだろーが!」
「隣で寝たら、私まで眠くなっちゃうだろう!話す話す!」
話してたら考えが整理できねぇーんだよ。
因心界の奴等と戦うにしても、……エフエーやイチマンコはどうしてるんだ?ペドリストとハーブは生きてるのか?あいつ等と組んでもうひと暴れも有りかもだが、わざわざあいつ等と組みたくはねぇな。めんどくせぇし、あいつ等にやる気はあんのか?
ジャオウジャンの完成はまだみたいだが、もうじき集まるってなんなら、SAF協会を捜した方が良いか?……って、イチマンコがいなきゃ、場所の特定は難しいな。ブラブラ放浪して見つけられるわけねぇーし……。
田熊が生きているのは分かる。だとすれば、俺が生きてる事も伝えられてもおかしくねぇが……。余裕がねぇのか、今度でも構わないって事か?ムカつくな。って言っても、田熊がもう協力してくれねぇだろうから、俺も本来の実力は出ねぇか。
「……………」
あれやこれやと、怪護は自分の事を考えてみた。だが、早急にやるべきことがない。というより、有ったとしてもできない状況には変わりない。とりあえず、ミチヨとはさっさと別れて、最低でも因心界の様子を探るといった事は良いと思う。
だが、自分が気絶していた日数も含めると、危険でしかないこと。前回のように勝算や準備も何もねぇー……。走る車から見える自然の景色。目についた野生動物が植物の葉を食べている……それで分かる。
「敗北……ってことか……」
自分は負けたんだ。
信念そのものをぶち折られた。
「ふー……」
なんとか拾った命がある。信念が折れても、ムカつく事に命がある。とても理不尽なことだ。
ただボーッとする事で見えてくることもあるが、おそらく、自分にはないし。多くの者達にそれはない。何か見つけてぇな。
しばらくは、ミチヨの行先に任せる……
ブロロロロロ
怪護は眠り、その横顔を見たミチヨはちょっと優しく笑って、喋るのを止めてあげた。
「……幸せそうな人」
なんでこんなところにいるのか。ミチヨには知ったこっちゃない。こんな山奥では野生動物や、生きるのに苦労している人達しか出会わない。”眠る怖さを知る人達ばかり”だと言うのに、……。
「きぃっ……」
野生動物が多い。それに気に留めないくらいの人間達だ。ミチヨに限った話ではない。
「きーーきききぃっっ(よくもこの俺様を!散々な目に遭わせやがって!!貴様等の匂いは覚えたんだ!!)」
……すまない。どなたですか?
そう言葉をかけてあげたい、猿の妖精がいる。どうやら彼には、怪護との因縁があるらしいのだが。怪護自身は、正直に覚えていない。付け回されていたなんて思いもよらなんだ。
というか、お前生きてたんかい。
「ききききぃぃっ(この俺を後ろから斧でぶっ刺しやがってぇぇっ!!)」
田熊英吾と契約を結び、SAF協会の最後の1人……らしい、猿の妖精のゴックブである。
怪護の戦いを起こした事件の1人……のような気もするが、ぶっちゃけお前は関係ない気もするな。
「きーーーっ!(今度は俺が貴様を殺してやるぅっ!)」
後ろから斧でドカンとやられたせいで、怪護にやられたんだと本人は思っているわけだが……。興奮状態となっていた田熊勇雄に、ゴックブもやられている。
あれだけのダメージを負い、契約者である田熊英吾を失っても、まだ生きていられる辺り、彼のしぶとさには説得力があるのかもしれない。そして、行方不明扱いの怪護に辿り着ける辺り、執念と手段も持ち合わせている。
道路に飛び出し、怪護が乗っている車を襲撃しようとする、ゴックブ!
ドゴオオォォッッ
「ああ!お猿さんを撥ねちゃったわ!!」
急に動物が飛び出して来たもんだから、ミチヨもブレーキが間に合わずにゴックブを撥ね飛ばしてしまった。
「……ま、いっか」
軽いノリで済ませて、そのまま行ってしまう。時速50kmくらいの車に撥ねられたら、大ダメージは間違いないが……
「ぎぎっ……(な、なかなか。……やるな。次はこうはいかん)」
ゴックブは生きていた。辛うじて
というかよく、怪護の居所に辿り着いたモノだ。単独でできる事とは……
「レイワーズの1人が見つかったようだね」
「怪護様は、エフエー様とも通じ合えた。穏便に話しからするべきだ」
言ってはいないんだがな。
こいつの暴走を後ろで見ていた2名。2人共、SAF協会と密接に関わってこそいるが、利害の一致でしかない。
林道からこっそりと出て来たのは、ムノウヤとトラストだ。
「怪護を捜す上で田熊勇雄の家を調べたら、君が生きていたのはこっちとしてはラッキーだった。君の鼻も便利だけれど、怪護の出している”過去の影”を僕が追跡する方が早い」
「解析するのに時間は掛かっていたけれどな」
「空高く飛んでたなんて計算外さ。でも、計算できないのは……」
最初は二人共、ゴックブを助ける気はなかったが、この妖精がルミルミの言う最後のピースの1体らしい。
とはいえ、
「”これ”がとてもそうには見えないが……」
「侮らない方がいいけれど、彼にもちょっとねぇ。情けないとも思えなくなってきた」
正直、ムノウヤとトラストが首を傾げるくらいのことだ。ゴックブにその素質はないと、見抜いている。
こんな傲慢で、愚かで、暴走しがちという危険な奴。よくここまで引き連れて来れたと思ったら、トラストが作り出した剣にある。
バギイィィッ
エネルギーを吸収し、放出する能力。
トラストが具現化した剣にはその性質がある。その応用として、斬りつけた生物を一定の時間、自分の剣の中に閉じ込める事ができる。
「”宝石剣牢”」
ゴックブを斬ることでトラストの剣の中に閉じ込められる。そして、剣の具現化を解除すれば持ち運び可能な状態となる。発動には事前に膨大なエネルギーを溜めこんでおく必要があり、そのエネルギーが堅牢を作り出せる。
とはいえ、制約もいくつかあり、名ばかりというくらいには
「僕ならぶち壊せるんだけど」
「余計な事は言うな」
ムノウヤほどの実力者なら、トラストの剣の空間を破壊できる。
決して鉄壁じゃないこと。それにトラストの本領でもない。




