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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第9話『此処野達はカチコミに来たよ!!因心界VSSAF協会!病院大バトル!』
20/267

Cパート

「うわああぁっ!なんか、病院内も騒がしくなってきたよ!レゼン!」



アイーガの襲撃及び、ドクターゼットの戦闘音は表原達の病室まで届いていた。それだからこそ、涙ルルは飛び出したように慌てて戦地にいったのだろう。避難者や負傷者が昇ってくる階段を逆走してまでだ。

一方で標的とされている、その事実すら知らない表原は焦っていて、悲しいかな。レゼンを頼っていた。


「落ち着け」

「!」


レゼンは平静を保っていたからだ。

こんな騒ぎの中で一番、落ち着いていた。


「クールスノーの戦いを観てみよう」

「え?なんで?悠長過ぎない!」


そう思っていて


「そっか!粉雪さんが助けに来る事を懇願するんだね」

「残念だが二人共、病院内の状況を把握できていないみたいだ。無理もねぇけど」


非情な現実である。

向こう側にいるヒーロー達は目の前の者しか救えない状態。

そんな悔しい巻き込まれ一般市民の気持ちになれというのだろうか。

しかし、クールスノーの戦いは劣勢である。



バギイイィッッ



「す、素手でジャネモンを粉々にしてるんですけど。浄化とかさせないんですかね?」

「そんな甘いことをやってる状況じゃねぇんだ。分かってねぇのか?」

「え?」



表原から見れば、クールスノーの圧倒的狂気染みた暴力の前に、見える大きな怪物の数々が玩具のように壊されている。圧倒的な実力差。むしろ、怪物達は畏怖しない事が悲しくてしょうがないとも思える。

だから、分からない。


「雪が降ってねぇ。おそらく、クールスノーの能力を妨害する能力を持っているジャネモン達なんだ。大気の温度を上げたり、雲を近づかせない能力とかな」

「あ、確かに降ってない!じゃあ、粉雪さんはあれでも」

「全力で対応しているだろうが、実力は半分にも満たねぇって事だろう」


その証拠としては、両手足という少ない箇所のみを自分が降らせる雪で纏っている事。


この手の敵と戦った時を想定し、そんなテクニックを身につけたのだろう。


「あの戦い方の意味が分かるか?」

「意味?」


レゼンは良き手本をしっかりと見せ、そこからさらに詳しく伝える。

クールスノーがやっているレベルの戦いは高次元過ぎるが、基本となるものがしっかりとしている。その部分が少しでも理解できてくれればいい。いくつもの観戦でそれを養う事が寛容。


「闇雲に能力を使わず、消耗と敵の注意を避けてんだ」

「え?じゃあ、本当は雪を降らせられるのに降らせてないの?」

「だろうな。もう7体は倒したんだ。雪を降らせてもおかしくねぇのに、それをする気配がないってのは……敵に苦戦を伝えているんだ。そーいう全力の戦い」



何回か、体験している事も含めて、クールスノーの戦いを観ていた表原。

振り返れば、録路が急いで逃げていて。出会った当初も、レゼンが酷く雪を警戒していた。それだけクールスノーの強さを恐れているという事。

雪が降り始めたら即退散。それがSAF協会の撤退のルールであろうと予測。クールスノーはそこまで理解して、雪を降らせない。撤退の判断を遅らせて一網打尽にする考えなのだ。


「敵を倒すのは間違いない。違いがあるとすれば、通常は目の前の敵を倒すこと。クールスノーは全員を倒す事。多少の犠牲を引き換えに狙っているんだ」

「!……そ、そこまで考えているの」


あんな一瞬で。自分の能力が使い辛いという状況で。

敵を倒そうという気持ちを保つのだけでも凄いのに。


「マ、マネできないよ。あたしには、無理」

「別にできろとは言ってねぇよ。手加減して追い込めるほどの実力だってないんだ。本当に高次元の戦い方をしている。一挙手一投足」


戦闘脳に関して言えば、因心界の3強の中で随一。

能力も非常にシンプルだからこそ、汎用性が高く、完全な対策ができない。奴より強くなるしかないという、単純な勝負にさせるだけの頭脳と精神力を持ち合わせている。


「今表原に大切なのは実力以前に、思考力と判断力、自信だぜ」

「3つもあるの!?」

「じゃあ纏めてメンタルにしとくか!?」

「いや、なんか3つのままで!急ピッチで鍛えられそうで怖い!1つ1つで!」


レベルの高すぎる場所に踏み込むこと、それはすぐにできないものだ。何事も段階がある。表原の場合、それがあまりにも下の方から始まっているだけ。精神的な強さが根付けば、基礎も活きてくる。誰だってそうだけれど。


「クールスノーは敵の襲撃時点で全員を倒す事に集中している。後で出てくる敵達も含めて、そーいう考え。予測を立てていた。無論、自分と相手の力量差も考えてる」

「粉雪さんが絶対勝てるじゃん。本気になれずとも今、ごらんの有様じゃん」

「それだけの思考で終わってない。クールスノーがジャネモン一体にどれくらいの時間で仕留められるかまで、計算しているんだ。時間掛かったらもっと手荒に行っていた」

「!そっか。あまりに瞬殺ばっかりだから気付かなかったけど、囲まれてるし、時間掛かったら失敗しちゃうもんね。あるいは誰かを取り逃がすかも」

「そうそう。考えろ考えろ」

「あと、もっと早く敵を倒していたら、怯えて逃げちゃうかもね。そこまで考えてたりするのかな?」

「おー。頭の回転、良くなってきたじゃねぇか。絶対にそうだぜ。一頭倒せば、それ以外に構う時間は増えるはずなのに、ゆっくり確実に倒しているのが証拠だろうよ」



思考、理解。これまで辿り着いても、実行、成功に至るまでは相当先の事であろう。

理解が到達すると少しだけだが


「憧れる」


夢の一歩を踏み出される心が生まれる。

なんであれ、何を目指すであれだ。

こんな原点がなければ何も始まらない。

とうに忘れたもん、捨てたもんでも。

その一歩には憧れや夢があったのだ。



「……だからよ。お前が言うから、今回はそこで打ち止めしてやる。思考力のテストな」

「え?」

「おそらく、別の敵がこっちまで来る。あれはSAF協会の敵。キャスティーノ団よりも計画的だし、組織的な事だから本当にヤバイのが来てる」


ほんの少し、レゼンが甘いことを言ったと感じた。

いかんいかんとそんな事で騙されるものかと、自分の頬を抓る表原。


「相手の能力を考えろ。そんで慎重に本気で倒せる武器、能力をイメージするんだ。俺の能力は思考力がかなり問われている」

「……あたし、勝てるの?そんな相手が来るっていうのに」

「自信が欲しいか。偉くなったな」


ちょっとだけである。そんな不安がないわけではないが、以前より減っている。それが最後に消えそうだって思えて


「レゼンを褒めさせてあげたいから!あたしにできる!?」


レゼンは自信満々の顔で答えてやる。


「俺がいるんだ!絶対に勝てるさ!!表原!」


分かっているよって。


「知ってる!レゼンの自信過剰ぶり!」


ボォォンッ


レゼンは大型のドライバーとなり、


「さぁ、やるぞ!表原麻縫!!」

「うん!!」


表原麻縫は心の底から受け入れての変身。駄々を捏ねたりせず、今わずかに灯った憧れやら夢やら、自信やら希望やら。その炎の大きさ、光の眩さを確かめに。


グイイイィィィィィッッ



「ああああああぁぁぁぁぁ」



超高速回転が行なわれる。

まだまだこの変身には慣れてこない。ちょっとはここを軽減してほしいものだ。


「おえええぇぇっ」


吐く。メッチャ吐く。惨めな四つん這いを晒してでも吐いて、楽になる。

そして、妖人化。


「あ、"あたしだけかい!マジカニートゥ!!"、うぷっ。気持ち悪い……」

「気持ち入ってたから、ちょっと回し過ぎちまった」

「空回りしないでよ、レゼン」


◇      ◇



「まったく、レゼン以外に足止めされるなんてね!」

「!!」


アイーガの言葉を聞いたハートンサイクルは、その目的にムッとした。

自分が姉の指令で伝言をしに行った人物、表原麻縫の妖精だ。さっき一緒に、太田と此処野が戦っているところを見ていた。


「あなた方の目的ってそれなんですか!」

「あら?知ってるの。どこにいるのかしら?」


SAF協会である事は明らかで、目的が病院の破壊や幹部を狙った襲撃でもないこと。

その事実を知って、致命的過ぎる発言が零れた。


「表原麻縫の事が、そんな……」

「!おい」

「!へーっ、レゼンの適合者の名前はそーいう名なんだ。あんた、馬鹿?」


あの妖精に、あの子に何があるの。病院の中にまで敵が侵入しているって言うのに、どーしてみんなを守りにも来ないのに!自分が元凶なら戦いなさいよ!妖人でしょ!


『ルル!今はそんな事を気にするな!』

「分かってる、ターメ!」


自身の妖精、ターメの声かけでようやく今と向き合うハートンサイクル。

しかし今、うっかり失言した事に気付けていないほど、冷静さを欠いていた。ドクターゼットに言われても分かっていなかった。

アイーガに冷静さが加わり、焦りというものは無くなっていた。状況を見れば、アイーガ達の優位は変わっていない。"十妖"の新加入、ドクターゼットの能力も分かり、それに攻撃性能がないこと。やってきた援軍、ハートンサイクルも小威力のミサイルを飛ばしてくる程度。

妖人の病院とはいえ、まともな戦意があるのはこの2人ぐらいと見ている。でなければ、もっと派手に攻撃されてもおかしくない。粉雪が来る前にだ。

欲しいもう1つの情報も手に入れて、あとは片付けるだけ。



ドゴゴゴゴゴゴ



「な、なに!?」

「ゆ、床が……」



地震を思わせるかのような縦揺れ。病院全体が揺れていると思われたが、少し違う。

ドクターゼットはアイーガの弓矢を意識したが、彼女ではない。ジャネモンの能力であることを推察。揺れる床を能力で地面と結びつけようとしたが、


「つ、強い!!」


この能力。クールスノーやナックルカシー、ブレイブマイハートと同じ、シンプル故の出力の強化がある!

私の能力は複雑であるが故に出力が劣っている。マズイ!


"何かの能力"で、床が持ち上がっていく。

それを懸命に抑えるドクターゼットであったが、アイーガがそれを見逃すわけじゃない。弓矢をドクターゼットに向ける。


「能力というのは条件によって、出力パワー性能スペックを調整できるの!あんたの能力じゃ、このジャネモンの出力は止められない!」

「!」

「そして、この弓矢も動かせないでしょうね」


一気に形勢逆転される展開。

ハートンサイクルは一瞬で判断し、再びミサイルを具現化する。


「させない!ここで倒してあげる!!出力パワーなら、あたしのミサイルは負けない!」

「おっと。パワーだけじゃ勝てない事を知らないようね!とんだ大馬鹿さん!私以上の馬鹿!」


瞬殺して能力解除を狙おうとしたが、気の焦りが招いた。

出力を上げすぎており、病院内で使うのは危険過ぎるレベル。さらには負傷者と避難者を含め、相当な人数がいるこの病院でそんなものを使えば


「止せ!ハートンサイクル!あのジャネモンの能力は……」



ドクターゼットの声を無視し、敵を倒す。


「あんたや表原麻縫なんかに、あたしは負けない!絶対に!!」


その一念でハートンサイクルが放ったミサイル群は



ドゴオオオオオォォォォォッ



ジャネモンの能力によって2人の上方に激突、天井で大爆発を引き起こした。

その破壊力はこの大きな病院を半壊させるほどのものであり、ハートンサイクルの戦闘能力は確かに備えていると言える攻撃であった。直下で浴びたハートンサイクルとドクターゼットの方がダメージは大きい。

アイーガ達は、ハートンサイクルのミサイル群を自爆させたのだ。



◇      ◇



「ふぅっ……ふぅっ……」

「はっ……はぁー……」



三箇所の戦闘の中でもっとも早く決着がついたのは、太田ヒイロVS此処野神月であった。

かたや突き刺され、かたや斬られ、……。

それでも続け、泥臭い勝負を続けたまま、武器を手にとっていた。

両者のダメージは大きいが、精神の揺らぎがあったのは此処野の方であった。


「ふーっ」


くそが、こいつ……どーなってやがる!?心臓をぶち刺してやったのに、なんだその涼しい顔は!?死なないと思ってやがるのか!カスの粉雪なら、あの別格の強さのくせにアホな白岩ならともかく!こんな野郎に!この俺が負けるわけねぇ!!倒されるわけねぇ!

殺す、壊す、それこそが強さであり、勝者だ!俺がそうだろう!

粉雪がまだ控えているんだ!こんな野郎を温存して殺せねぇでどうする!相手は妖人化もできねぇ奴なんだぞ!!生身で勝てなくてどーする!?


「はっ」


左胸と右手を潰されたが、勝機はこちらにある。

どうやら、クールスノーはわざと雪を降らせてないようだね。そして、此処野はまだそれに気付いていない。

分かっている。ここで此処野を仕留める。退却の決断まで鈍らせている今、俺がトドメを刺す。

あと一太刀で奴は倒れる。息が整った瞬間、奴の動きを見切り、入れる。

片手の剣でも迎撃覚悟で命をとる。



状況判断を込みで、ヒイロの精神的優位がある。襲撃された側だが、ホームグラウンドと言えるところだ。そこの差がある。だが、此処野の戦闘狂の一面を支える心も揺れちゃいないし、火も燃え上がったまま。

精神的にイカレつつも、強い。飢えている。

そして、闇雲に行きそうな場面で自制している。高い戦闘脳が成せるクールさ。


「…………」


次の刹那が勝敗を分ける。

めまぐるしく、本能も込みでの思考が始まる。



ドゴオオォォォッ


その時、ハートンサイクルのミサイルの誤爆による大爆発が起こる。

守ることに意識が言っていたヒイロは一瞬だけ、病院に意識がいった。その瞬間、此処野は逃さずにヒイロへの攻撃を仕掛けたのであった。


【勝負はもう決める。狙うなら奴の首だ。最速でブッ刺す】


【勝負の顔だ。狙いは首だろう。見切って捌き、逆に君の首を刎ねる】


【首が切り離されりゃ死ぬ。あるいは行動不能……】


【彼の突きのタイミングを見誤らなければ、捌ける】


【心臓を貫いても死なない奴が、体に"穴を空けたまま"俺と戦う奴が……】


【来い。此処野……】


【……穴を、……空けたまま……?】



想像力の差は戦闘の想定の差に直結する。異常な状況の中で当たり前のものが不思議に思えること。此処野は本能からそれに賭けた。最大級の殺意がヒイロの予想通りの首を狙っていた。


「!」


誘われたとかなく、そこしかないだろうと防御重視。突きが伸びきった瞬間が、こちらが踏み込んで切り伏せるチャンス。一方で此処野はその殺意を完全にフェイントに用いて、最終的に狙った箇所は……



ドスゥッ


「?なんのマネだ」


ヒイロの右足であった。完全に無警戒であり、貫いた。だが、これでヒイロは倒れない。


「まだ"これ"じゃあ、殺すに遠いかよ」


本能が体に訴えた答えの実行、貫いた。

だが、ヒイロは右足をアタナで貫かれようと無理に前進し、此処野の首を斬りに向かった。


「たんねぇな」

「!」


だが、此処野の想像力はヒイロの遥か上を行き、実行して見せた。短い時の中で戦う事を止め、そこまで損傷していない右足を貫き、抑えたことにより。より前に出る事はありえなかった。

故に。



フオォォンッ



此処野はヒイロの攻撃の間に素早いバックステップをし、カウンターの斬撃を回避した。足の追いつきがなくなり、バランスも崩れたとあっては無防備。だが、互いにそうだ。


「アタナ、戻れ」


ここで差が出る。ヒイロの右足に突き刺した槍の妖精、アタナは光を放って此処野の手に戻っていく。抜く動作を省いた事でまた行動権を得る。崩れたバランスを立て直したところ、ヒイロをまた。



グサアアァァッ



突き刺す一撃。今度は左足。人体の急所を狙ってこない。命を狩ろうとはしない此処野。両足に深いダメージを負って、地面に転がったヒイロ。此処野を見上げるしかない。

首にまた突きつけられる形で、


「守る者がある奴は弱ぇんだよ!殺す者が誰よりも強い勝者なんだからな!!」

「なるほど、そーいう狙いだったか。これは」


効かない。死なない。それ故に関心が減っていく。

此処野は見抜いた。ずーっと見ていてようやく気付いた。そーいうこともあるものだ。


「心臓をぶち抜かれて生きているみてぇだが、再生はしていなかった。なら、達磨にしちまってから殺すまでだ。想像力が足りてなかったなぁっ!太田ヒイロ!!」




ヒイロの首が刎ね落とされる。


太田ヒイロVS此処野神月。

勝者、此処野神月。



◇      ◇



「表原麻縫、表原麻縫……」


ハートンサイクルこと、涙ルルが口にした名。それをレゼンの適合者と判断したアイーガは探し始める。

とはいえ、大爆発によって病院は半壊しており、グチャグチャな状態であった。

先に発見したのは自爆のようになってしまい、かろうじで意識を保つ涙ルルであった。


「うっ……この……」

「派手に爆発させてくれるじゃない。今思い出したけど、涙キッスの妹さんね」


消すならそっちの方が良いかな?

後々を考えれば、この先有望な戦力は少しでも削るべき。動けちゃいない相手だ。

涙一族は妖人輩出の名家。ルミルミ様もかつて関わりのあった場所なだけに、警戒はしておられるはず。



「………」


でも、シットリに怒られるのはイヤね。

それがキッスであれば、確実なトドメを刺すけれど、違う子。

奴が"本部に在住させている"という状態であれば、こちらも作戦を立てられる。自由に動ける粉雪と白岩の動きを注視すればいい。涙キッスの強さは、未知数。暴走するかのように動き回れると、均衡が崩れる可能性もある。

それに未来の敵と想定すれば、レゼンは今の内に消し去るべき存在。



いかにレゼンが大天才と言えど、適合者の意識によって、足を引っ張られる可能性は高い。

まだ日が浅いことは察しており、この隙を突いて殺す。今がチャンス。

妖精同士の争い、妖人同士の争いはそーいうものだ。

必ずしも才能や努力、出会い、その全てで勝てるという保証はない。もっと言えば



「相手が大天才であろうと。必ず、負ける事は無い。それが私達の生存法則」


瀕死のルルにトドメを刺さず、アイーガは表原の捜索に入る。


「ジャネモン、瓦礫を打ち上げなさい」

「じゃね~~」



ゴゴゴゴゴゴゴ



ジャネモンは半壊した瓦礫を打ち上げまくる。能力的には、ドクターゼットと似ているんだろう。


「あー、顔分かんないや。半壊させてくれちゃって……病室が残ってれば、キッチリ掴めるんだけど」


涙ルルの失態は大きい。だが、偶然も重なっていた。

病院を半壊、少し炎上させたこの状況。高い実力を兼ね備えているアイーガとこのジャネモンを相手に、真向勝負では敗れ去っているだろう。

名前を知れても表原の顔までは分からないアイーガ達は瓦礫をどかしながら、それらしい人間を探す。

もっと言えば、妖人。その区別くらいは、アイーガも見ればできる。



「闇雲に攻撃する奴じゃなくて助かった。妖人の気配も察知できねぇようだ」

「あの女の子と、ジャネモンがこの病院の襲撃犯なんだよね!」

「声は小さくな。潜んでいる意味はねぇ」


病院の半壊。怪我人はさらに増えている。

息を殺し隠れながら、観察しているマジカニートゥとレゼン。それと別の場所ではあるが、


「結界が消えてねぇ。これは有り難いな」

「!そういえば、まだそうだね!」


ドクターゼットも爆発に巻き込まれながらもすぐに身を隠して、この"接合結界"の維持に努めていた。


「ふぅ……ふぅ……」


考えようによっては、これは敵との戦力差を埋める唯一の手段であったかもしれない。

奴等は強い。

身を隠し、こうして情報を曝け出してくれる事。隠れ蓑が多くなった場所ならば、隙を作れるかもしれない。

だが、私はこれ以上の死傷者を出さぬよう。治療に専念するので手一杯だ。出血や火傷関係は私の能力じゃ治らない。この状況を含め、飛島さん。早く来てくれ。先ほど本部に要請したんだけれども……。

この場はもう、ひとまず。預けるしかない。表原ちゃんとレゼンくんに!



戦場の全てに懸けられた期待。マジカニートゥはその事をまだ知らない。レゼンも伝えず、プレッシャーを与えていなかった。隠れていられる時間はそんなにない事が分かっている、ジャネモンの能力。

それでも丁寧に伝えていく。優しくすらある、大切な声。


「あのジャネモンは浮力を操っている」

「!物を浮かせる力だね」

「無生物のみ適応だろう。ところ構わず、瓦礫を浮かせて、俺達を探しているのかもしれない」

「どうすればいい?」


答えを言いながら、その答えを解かせていくように話しをしていく、レゼンなりのあゆり。

表原の質問は、分からない事が分からないといった、アホレベルの事から進歩して、知りたいという欲求にレベルアップしていた。


そこに疑問を投げかける。



「なんでそんな能力を奴は身につけさせたと思う?」

「んー……」


マジカニートゥの能力には、思考力と想像力が問われている。

子供や頭の悪そうな奴が考えそうな"絶対最強武器"をイメージしたところで、相性しかり、出力の欠陥だったり、そんなものは誕生しないとレゼン自身は知っている。相手に合わせて最適な武器を発現させるのが、この能力の最大メリット。



「もう忘れたのか?さっき見てたし、教えたじゃねぇか」

「!ク、クールスノーさんの雪を降らせないため!……かな?」


自信なさ気だが、物の見事に100点満点だ。


「そうだ。じゃあよ、そんな能力を持っていたのに雪が積もったら、相手はどうする?」

「え、えっと…………どーしようもなくない?それ」

「うん。対策してきた相手ってのは、対策を破られると酷く脆い」

「…………テストでヤマ張って外した感じって事だね」


今の答えのつもりじゃなかったんだけど。気付かなかったのかな。まぁいいか。


「そーいうイメージだ。裏をかくんだ。今、こうして隠れて息を潜めているのも対策なんだ。相手のやりたい事をさせないイメージで、能力を使え。今回は俺、何も言う気はねぇ。全てをマジカニートゥに託す」

「あなた1人の期待でも重いよ」

「じゃあ、死ね。戦うしかねぇ、結果はお前自身にしか変えられねぇ」


レゼンにはなんとなく今、表原が自分との適合者になれたのか理解できた。どこかしら似たものがなければ、力は使えても適合しないだろうに。

おそらく、成りたい事じゃないだろう。

表原麻縫の奥底に眠った意識の意図、全ては光り輝く眩く清らかなもの。そーして、見つめてきては触れてきて、汚れていた。傷付いて来たというのは、傷つけられる痛みを知っていること。それを心で拒んでおいて、苦心しながらも、表現するのがマジカニートゥの戦い。相手も、自分も、向き合わせる能力なのだ。


苦心を思いやれるのは、どうやら考え違えど、気持ちは同じ。



ボォォンッ



現状、最大にイメージした結果。ここまでを通して見て来た、自分なりの答え合わせのない最良がこれ。

マジカニートゥが具現化したのは、ただの"折り紙"であった。


「"私が持った地変(ニッポンドーラー)"」


レゼンが一瞬。不安に思う気持ち。どー使うのか予測もつかない、マジカニートゥの気持ち。

かみ殺して、もうこの全力で戦うしかない。




ゴゴゴゴゴゴゴ



「!!」

「おっ!もしかして、あんたかな……!!しかも、レゼンもいる!!じゃあ、かっくじつ!」

「なんだ、俺を知っている奴だったか」


隠れ蓑にしていた瓦礫を打ち上げられ、発見される。

命の獲り合いはすぐに行なわれる。


「じゃね~~!」


ゴゴゴゴゴゴゴ


手始めにマジカニートゥの床を浮力で上昇させる。予想通り、生物には適応できない。

逃げ場を失ったところにアイーガの攻撃が炸裂する。


「じゃ、死ね!この矢に貫かれて……」

「!」


グイイイィッ


マジカニートゥは自分が生成した折り紙の一部が何もせずとも、引っ張られているのを確認した。


「この能力!もしかして!」

「死ねぇぇっ!」



生成したマジカニートゥには分かる。ドクターゼットの"接合結界"より大きく覆っている自分の空間。引っ張られているのが自分の場所であり、



ドゴオオォッッ


「じゃね~~!?じゃね!?」

「うわぁっ!?ちょっと!一箇所だけ上げなさいよ!周りまで上げてどうするの!狙いが定められない!」


これまで好きな箇所を思いのままに浮き上げていたジャネモンであったが、この折り紙によってそれが阻止された。地面とくっついたんじゃない。折り紙が


「空間にリンクしているんだ!」


ドクターゼットの能力を触れたことで想像力が高まった。いや、それよりも前から色んな戦いを見て来たことで想像力が増えた。即ち、可能性の拡大だ。

敵の位置は折り紙からでは上手く把握できないが、とりあえず、試しにと



「えいっ!」


この折り紙を表向きに折ってみる。



バギイイィィィッ


「ちょおおおぉっ!?じ、地割れーーー!?」


なんの前触れもなく、アイーガとジャネモンがいた場所で地割れが発生し、2人を叩き落した。


「おおおおーー!!すぐに理解したじゃねぇか!!」

「なにこの力!今まで一番、まともで強いんだけど!!折り紙のくせに!」


生成した本人もビックリの超強力な武器。それだけじゃない。レゼンが言ったようにマジカニートゥの理解力も早かった。理解を得るための実行力も良かった。



ドゴオォォッ


「いったぁっ」



ドゴオォッ


「じゃねっ!?」

「ジャネモン!私に圧し掛かるな!くそ!さっさと早く、この地面を浮力で上げて、地上に戻るのよ!」



だが、地割れに落ちたアイーガも戦闘経験豊富。予想していなかった力であったが、相性が悪いというわけではない。むしろ、地割れ程度の能力ならば、このジャネモンの能力で対応できる。

少しの時間。


「たぶん、病院全体か、それ以上の範囲」


マジカニートゥがこの強い能力の前に気付けた事は、危険度でもあった。敵を倒すために必要な能力であるが、ここは負傷者達も多い場所。

臆病ながらも、勇気をもってやったことは。


「半分斬るね!ぶきっちょだからなぁ」


自分達がいるであろう範囲の折り紙を切ることだった。

生成される武器はランダムであり、その性質すら使ってみなきゃ分からないというのが、現状の能力。だからこそ、やってみなきゃ分からない。ルールを予想し、自らのイメージを実行する。


「マジカニートゥ、いや。表原麻縫」


こいつ!とんでもねぇ成長を秘めてやがる。

今、お前の命を狙いに来た連中がいたっていうのに、周りの心配をしたのか。自分の能力に巻き込まれないようにと。空間とリンクする能力は強大が周囲への被害が甚大じゃない。心配した、考える、対処する。敵を倒したかった俺よりも早かった。



「よーし、切れた!汚いけど」

「それでもいいんだよ」


気付いちゃいないだろうが、お前は今とんでもねぇ速度で人間のレベルを駆け上がったぞ。



人の成長は鍛錬、修練である。だが、最も人を成長させるのは、鍛錬したものが活かせた瞬間である。

成功したという事実が自信となり、証明に変わるのだ。

マジカニートゥはまだ気付けていない。無自覚な事で手に出来た自信は少ないが、以前よりも上回ったのが事実。またそれだけではない。立ち止まっていたであろう事態に関わらず、体が動いたという慣れが現れたのだ。それは必ず良い意味でも悪い意味でも、自分が"ここまで続けていた"動きがあったという事だ。

ずーっと、ずーっと。

自信なく、止まっていれば慣れなんてところまでは辿り着かない。



バリィィッ


「汚く破っちゃったから、地割れのあとが酷いね」


ちょっと悠長になっている。

そこにアイーガの声が届く。


「甘いんじゃないのー!?こんな地割れでアイーガが敗れるわけないでしょ!」

「うぇっ!?そっか!瓦礫の上に乗って、浮力を使って上がってきたのね!」


敵に迫れる事実にかなり焦りが出てきた。

レゼンはもう少し、マジカニートゥの成長を見たかった。敵に能力がバレてしまった以上、対策を取られる。助ける事に頭は回っても、敵にトドメを刺す頭はないか。

それができないくらい優しいか。あるいはやっぱり馬鹿なのか。

あとホンの少しで敵にトドメをさせなくなる。気付け、マジカニートゥ。レゼンはそう願っている。できるはずだと。

アイーガとジャネモンの姿が見え始めようとする、本当にあと数秒。ここで奇跡的な事が起こったのである。レゼンでは予想し切れなかったこと。



「閉じ込められなきゃ!ジャネモンの能力で何度でも浮上できるのよ!!残念ね!」



………………………………………



「あ、そーすればいいんだ」


それはあの時、ルルの失言を発した事を重ねたような事。焦っていたマジカニートゥであったが、アイーガの言葉をヒントに簡単な対処が分かったのである。

アイーガ達の浮上よりも先にマジカニートゥは彼女達のいる折り紙を、裏面向きで2つ折りしたのであった。そーすれば当然、



バヂイイィィッ


「ぎゃああああぁぁ」



地割れが起こっていた地面は、その穴を閉じるように動いたのであった。つまりはアイーガとジャネモンを挟み込み、地中に埋めたという事か。アイーガは顔だけは間に合い外に出ているが、……


「いだいいだい!し、しまったーー!つい、言ってしまったーー!!私の空気読めないとこの馬鹿ーー!」


呼吸をするので精一杯。

ジャネモンはこの一撃で一瞬で昇天、消えてしまった。



マジカニートゥ VS アイーガ+ジャネモン

勝者、マジカニートゥ。



◇      ◇



勝者と敗者は決められる。

確かにそうしなきゃ終わらない。


ガシィッ


「!?なんのマネだ!達磨ゴミ!」


心臓、首。両足や他の傷が軽く見られてもおかしくないやられ方であっても。ヒイロの左手は此処野の足を掴み取った。


「死んでも守る手、かっ!?馬鹿じゃねぇの!!お前は敗者なんだよ!!」


喉を完全に貫かれており、まったく声が出ない状況であったが。

まったく、そんな勝敗を思っちゃいない。




「敗者も死人も、何1つ守れやしねぇんだよ!!」


ほんの少しでも粘り、此処野の殺意の狂気を寄せていく。

此処野は、自身から溢れる狂気と殺意に酔いしれている時だった。

死を覚悟させる極寒の地の雪崩の如く。



「はぁ~」



冷たい吐息は首筋にかけられる。


「その通りよね、敗北者」


ドゴオオォォッ


クールスノーの"雪拳"が此処野の後頭部を襲った。

達磨となって地面に転がるヒイロの上で、勢いよく宙に舞い転がっては、



「!?このっ」



体勢を立て直す。

酔いしれた狂気が冷めるほどの、奴からのオゾマシイ殺意。

地面に転がった時には受け身をとって、槍のアタナを出しては身構えた。すぐの迎撃。


「!?」


いねぇ!?


そんな驚きを一瞬に本命が動いてきたこと。奇襲に怒ることなく、沈んだ狂気を沸騰させて殺意を沸かす。

ヒイロ戦ではその類いを使わなかった、彼の妖人化。

躊躇なく


ガシィッ


「ダメダメ、女の子に槍なんか向けちゃあさ」

「!?」


阻止をするクールスノー。

アタナを握ったら雪で氷結させるだけでなく、接着化もさせる。ヒイロ戦で疲労が出てるとはいえだ、妖人と人間とでの差があるにしてもだ。


「うおおおぉっ!?」


豪快にアタナを基点に持ち上げて振り回しては、近くの建物に此処野を投げ飛ばす。スピード、パワー、テクニック。いずれの技量が此処野の殺人術を凌駕している瞬間だった。



「ぐおぉっ」


建物にぶつかった此処野は、それでも倒れず、素手のまま迎え撃つ。

動くために壁から頭を離そうと……



ベチィッ


「!?」


雪!?

さっきの後頭部への一撃で、粘着性のある雪をくっつけてやがったのか!


体のダメージから言って回避は絶対にできない。受ける姿勢であった。それでも、満足な体勢をもとらせてくれないのはかなりの不利。此処野には分かっている。

クールスノーはオーバーアクションをとりつつも、それで足りると見て、首から上に拳を打ち込む構えを見せながら突っ込んできた。首が壁にくっついているところも含め、此処野のガードがそこに集中するのは必然的だろう。

故に



バギイイィィッッ



「はぐああぁっ!?」


金的を蹴り飛ばすには十分過ぎるフェイントであり、ガードの一切もなく蹴り飛ばした一撃は、体と精神の崩壊を意味する。


「童貞卒業おめでとー」

「ぐっ、ぞ、バ……バァ……」


勝負はとうに尽きているが、此処野の土俵で戦うのなら、それらしく。

痛みを分け合えとでも伝えるかのように



グサアァァッ


金的をハイヒールのかかとで突き刺し、下がってきた腕を見て、空いた顎にアッパーカット。上に吹っ飛ぶかと思える威力であったが、此処野の首が壁にくっついたまま。むしろ剥がれない粘着性が恐ろしいか。

此処野の返り血が顔にかかったクールスノーは、



「たんないわね」


左目に躊躇なく指を突っ込み。


「まだまだ、神月は殺意が足りてない。到底及ばない」


ジュブラァ


「うげっ」

「泣くんじゃない」


取り出したのは此処野の左目とそれに繋がる神経をすぐに投げ捨てる。

雪を纏った手で此処野の右耳を掴み。急速に冷やしながら



パキィッ



右耳を剥ぎ取る。

それと平行するように此処野の舌も、手で凍結させて引っこ抜く。



「おぎゃああぁらっ!?」



太田ヒイロのバラバラ遺体も異常とさえ言えたが、クールスノーの解体テクニックはさらにきめ細かく、生きている事を不思議に思わせるほどの拷問ぶり。もうとっくに終わっているというのに、



ドゴオオォォッ



自分でくっつけた首を剥がすための、膝蹴りを叩きこんで、地面に此処野を這い蹲らせようとする。

だが、此処野は両肘をつきながらも、倒れないよう堪えた。

これだけの致命傷。もう情報が混乱し、脳への障害が懸念されるほどの事をされながら、



「こ、殺すんだ……人間全員、ぶっ殺す……」


殺意は緩まず。それは互いに同じことであり、この意志を嘲笑うように、伝えたことは


「ねぇねぇ、これで死なれちゃ困るのよ。お雑魚ちゃん」


どの口が言ってやがると、猟奇的な彼女に伝えたい。

クールスノーは此処野の背後をとって、自分の体を撒きつけてあげる。ちょっとした幸せすら、感じさせてくれない瀕死の人間に、首をとって締め上げる。


「でも、逝け」



ゴキイィィッ



首を絞め落とすだけでなく、骨を折り。



バキイィィッ


背骨も粉砕する。

その姿、バラバラにされたヒイロ以上に惨すぎる姿形であった。


「ここまでやれなきゃ、まだまだガキんちょね。神月」


圧倒的な実力差のみならず、此処野の象徴と言える狂気と殺意ぶりでさえも、霞んでしまうこと。


クールスノー VS 此処野神月。

勝者、クールスノー。




◇      ◇



因心界VSSAF協会。

太田ヒイロと古野の負傷。因心界専属の病院の半壊。加えて、その近辺に住んでおられた方々の被害。

キャスティーノ団とは比べ物にならないほどの被害であった。


だが、捕えた。

いや、一人もう死んでるとしか思えない仕打ちを受けているけど……。


「ううっ」


やばいやばいやばい。絶対、シットリに怒られる。むしろ、粛清される。私や此処野がいくら黙秘を貫いても、あっちにはカミィがいるから、絶対に秘密を暴かれる。

私が捕まるのは絶対にマズイ。

でも、死にたくない。めっちゃ今、死にたくない。この恥は必ず返してやる。表原麻縫。



体を埋め込まれた事により、アイーガは自由がきかず。

此処野の時間稼ぎもクールスノーによって、失敗に終わったと言えよう。

自分への粛清の恐れ。負けて捕まるという恥。


ゴゴゴゴゴゴゴ



「ん?」


そんなとき、地中から轟音が響く。


「なんだ!?」

「あ、あたしは何もしてません!」


マジカニートゥも、表原麻縫に戻っており、この異変の原因を掴めなかった。



ドガアアァァッ



再び起こったのは地割れ。それも、アイーガを巻き込むような地割れであった。

その中から現れたのは


「ひとまず、お前から回収だな」

「うわああぁっ!あ、あんたは……」


キャスティーノ団の統括、録路空梧であった!

そして、できた穴の中に落ちて行くアイーガ。警戒の外からやってきた敵襲に動揺するのはしょうがないし、録路の方もそんなところに目をやっている気もなかった。



「『このナックルカシーに食えねぇもんはねぇ!』」



聞いてねぇぞ、こっちは。

こんなくだらねぇ抗争に付き合う気はねぇのに、"いきなり"の連絡でこの抗争を終わらせろだぁっ?

あの此処野まで俺が回収すんのかよ。妖精は確かにあいつからじゃねぇと無理だけどよ。

もう死んでるんじゃねぇのか?



本人、乗る気がないのに命を賭けろと言われた状況。

キャスティーノ団の統括は録路であるが、その上の存在がいる。彼等に資金や武器、人材を供給している者。その者から直接的な指令であった。

だからといって、瀕死状態の此処野の回収なんてまっぴら御免と言える。クールスノーと戦う事も含めてだ。

基本的に作戦を練るタイプの録路。

突発的な事は避けたかった。それでもしなければいけない状況。何度かはやらなければいけない危険。気配を断つだけでなく、超スピードでクールスノーの背後に迫り



「!」

「うおおぉぉっ」



バギイイィィッ


ガードされるものの、強烈な拳で彼女を吹っ飛ばした。

そして、人間の形をギリギリ保った此処野を抱えて、走って逃げる。


「こんな馬鹿野郎、助けたくねぇぜ!」


オゾマシイやられ方をしている。

やはり粉雪の強さは、単純なものじゃない。



「クールスノーさん!」

「………ふぅ」

「!!」


不意の一撃をもらった事で表原を始め、周囲は心配したが、本人は何を考えているのか立ち尽していた。キッチリガードもできていた。

これにはナックルカシーも少し驚きながらも、全力で逃げていった。

想定していなかった伏兵の登場にクールスノー。



「録路の考えじゃなさそうね」



地下からやってきたか。

雪を降らしちゃいなかったけど、地下を掘れる妖人と一緒に来たのが、この救出が下調べくらいしている証拠ね。

キャスティーノ団のバック、やっぱり相当でかい。

敵対勢力であるはずのSAF協会の手助けまでさせるなんて。

一体、誰が本当に動かしているのかしらね。

こいつを捕えない限り、本当に終わらない。今は泳がしてあげる。完全なしっぽを掴むまでね。



あと少しで因心界の完全勝利なところを、掻っ攫われる結果。

此処野神月とアイーガを取り逃がしてしまった。

この失態は確かな敗北ではあるが、それ以上に1つの闇を知れる事件でもあった。



挿絵(By みてみん)

次回予告:



録路:………あ?次回予告をしろ?

此処野:なんで俺達がそんな事しなきゃいけねぇんだ。暇じゃねぇよ

録路:俺、カップラーメン食うのに忙しい。

此処野:俺はよぉ!逃げ惑ってる幼稚園児を、後ろから刺し殺すのに忙しいんだよ。

録路:今、死体のくせに喋るんじゃねぇよ、噛ませ犬。

此処野:なんだとこのデブ!!少しは喋れるっつーの!次回予告くらいやってやる!

録路:次回

此処野:『ヘンタイを探してください!?表原、飛島と一緒に下着フェチを追う』

録路:おー、よくお前。そんな恥ずかしい次回予告を言えるなぁ~



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