Bパート
人を見る目がない。そう評価させるレゼン。しかし、仕方がない事。例えば、海に生きる生物の中で最強を語るなら、それはきっと鯱だと思う。だが、レゼンは潜水艇。それも人間が乗り込んで戦争に適した潜水艇だ。勝負にもならない。
人を見るという事ができない。これが正しい評価。
それが選んだのが、表原麻縫。
「……死にたいだ?」
「そうよ!」
恐怖を知っている。辛かったを知っている。
だから、ただデカイだけの声と薄っぺらな言葉で誤魔化される。
「お前、何をしたか覚えているか?」
「飛び降りたのよ!学校でよ!それだけ死にたかったの」
それはとーっても、怖いことだ。学校でそれをやり、幽霊でも出てくればたまったもんじゃない。それに留まらず、評判下げること間違いなし。担任は異動するだろう。
それほどに飛び降り自殺とは。否、自殺とは惨いものだ。
で。それでだ……。
「だったらなんで、学校の2階で飛び降りてんだよ!言動がおかしいだろうが!!」
「……………」
「死にたきゃな!ちゃんと屋上まで上がって、飛び降りろ!!鍵がどこにあるか分からないから、やっぱり4階……でも、怖いから2階でって!!自殺を舐めてんのか!!」
「ひっ………」
「お前はな!心の底から全てを舐め腐ってんだよ!!ホントに死にたい人間は!!さっさと死んでんだよ!!後先を心配しねぇ!もう一度言う!自殺すら舐めるな!!」
また、怒られる。
「ふぇっ……うええぇぇぇっ」
何度も泣いた。泣きまくった。
「止めてよぉぉっ、止めてよぉぉっ。なんで!どーして……私を……私ばかり!酷いよっ、エルフさん」
「あぁぁ?」
これから死ぬ人間に適正があるからという理由で、レゼンは表原を選び、救った。
まだ契約は成されていないが、自分が言ったとおりのこと。多少、表原が自分の才能についてこれるとはいえ、使い切れない人間であることに変わりない。
"死にたい人間は見捨てろ。"
世界はそう答える。だから、表原麻縫というゴミを拾う事はない。ちゃんと捨てる。
けど、"妖人"という現実。才能があるからとはいえ、努力を積み重ねたとはいえ、生死の境を渡り歩く者。ホントにふとした時に、消えていく。
「死にたいよ、でも、怖いよ……私は。何もないから!それすらもできない!そんな口だけの褒め言葉、いらない!!」
そこまで語ることはない。
レゼンは表原の異質ぶりが、とある才能を秘めている理由をここで明かした。
「"妖人"の資質は、人間の希望にある」
「そんなの聞きたくない!」
「好きにしろ。……人間、誰にもどこにも運命を持つ。才能も、環境も、その1つ」
はるか昔。
人間界に降り立った妖精はその時、人間達に手厚く振舞われた。そして、人間という生物を理解し、協和していくため。人間達に加護を与えた。
それが、"生物の運命"と呼ぶものだ。
「曰く、人はバランスを保つ。誰しも、誤差に過ぎぬほどの才の中和。例えば、先生によって好き嫌いがあるだろ?誰にだって得意不得意があるもんだろ?」
「私は全部ダメです」
「9教科だけだからな。だが、人生にはそれ以外のものがいくつもある。"妖人"もその1つだ」
確かに天才。壊滅的に人を選ぶセンスがないレゼン。こんなゴミを助けるのは、どうかしている。世界の命運がこれから懸けられようとも、言葉とは違って"俺がいる"という超絶な自信故のこと。
表原は見る目のないレゼンからでも、ぺちゃんこでぐしゃぐしゃな折り紙って代物。使いどころねぇし、使える奴もいないであろうゴミであるが、この大きさが地球よりもデカイ。それほどにデカイ折り紙、意味のない自慢。そーいう例えにある、珍妙なゴミだ。
「お前が例えば、100種目の競技で99種目全部が0点。だが、たったの1種目。そいつだけは∞を超えて測れるほどにあるもんだとすりゃ。お前は人間と同じ平等の中にいる」
ゴミがいくら喚こうが、泣こうが、怒ろうが、失禁していようが
「死にたがっているゴミな事に変わりない。なら、一回だけ。挑戦して死ね。お前は何も挑戦していない」
「…………」
「もっとも、この超天才である俺と契約する。それ即ち、お前がどれだけ天才であろうと不釣合い。今望んでいる死にたがりが、すぐに叶うかもしれない。悪くないだろう?」
なんでも良かったさ。
ただ1つ。レゼンが思った事は、表原ほどの逸材がこんなにすぐ出会えるとは思わなかった。
路傍にある石が、ダイヤモンドだった。ってくらいのこと。たった一つにだけ光もの。
先ほど語った運命も、メチャクチャな法則であり、実質はなく。証明することもできない。人間と妖精の友好的関係を伝えるだけのこと。誰もが幸せだったり、不幸だったりするものだ。そして、明日。幸せになるかもしれない。それより強い不幸かもしれない。
分かるとすれば、前を向いて生きろと。
表原麻縫は知らなくていい。まだ。
「……分かったよ!どーせ、私にはない!ないから!好きにしなさい!!」
「じゃ、契約だな」
シュラッカランッ
2人以外は何もないこの場所で落ちて来たのは、クリップボードに挟まれた書類とボールペン。
それらをレゼンから渡される表原。
「はい?」
「この契約書にサインをお願い。あと生年月日と住所と連絡先。この3つは必須。細かい書類はまた後でお願いするのと、簡単な保険にも入ってもらうから。戦時保険という戦闘時での怪我や被害に対する保険でして、月額1000円からになります。また個別に連絡を飛ばす電話、メールも出すため……ってここらへんは、どこかの組織に加入してからで良いか」
「いや、なにこれーー!?コレが契約!?」
子供的な意味では不正解であり、大人的には一般的な正解。
「契約しないと"妖人"にはなれないぞ」
「いや!想像してたのと違うんだけど!!すごーい技術を使えるんでしょ!?これスマホの契約でしたっけ?」
「何言ってやがる。妖精と契約することで能力は確かに使える。だが、俺の意志も必要になるのは当然だろう。変身物のヒーローだって、ちゃーんと相方と合意してるだろ?」
「初っ端で書類書かせたのは、あんたが初めてな気がする!?特殊なアイテムとか、カッコイイ変身とか……」
「当然あるぞ。何を心配している。子供達にとっては"妖人"はヒーローのような存在とされている……らしいぞ」
「自信ないんかい!でも、おおおっ!夢あります!変身って!憧れがありました!」
「"妖人"になれる人々には強い変身願望もあるとされるわけだ。とりあえず、書類の注意事項は読んでくれ。形式上ってことだけれど」
「注意事項……」
注意事項なんざ、軽いものだろうと思う。
金を借りるときや契約金のチェックは必要であるが。
「金なんてとらん、心配するな」
「あの」
【"妖人"となる場合、ご契約された妖精はあなたと共に活動と行動をします】
【手にした能力は契約前から決まっております】
【万が一、"妖人"としての適正がない場合、死亡する危険性があります】
【あなたを"妖人"にさせることによる、あなたへの被害はこちらでは対応しておりません】
「危険過ぎるじゃないですか!!」
「馬鹿野郎!10分くらい前に飛び降り自殺未遂敢行した奴が、なんでこれしきの命を張れない!」
「そ、それとこれとは違いますよ!!なんて怪しくて、ヤバそうな契約!」
「爆弾解体するんじゃないんだ!さっき言ってた、スマホ?みたいな契約と同じだ。よっぽどの事がない限り、"妖人"になるくらいは危険じゃない。お互いのメリットだけはある。……俺だって、お前と契約したら。俺の力を使いきるまで一緒にいなきゃいけない」
「なんですかそれ!まるで嫌な人と席が隣になったかと思えば、永遠に行っちゃうパターンなんですか!?結婚みたいな感じですか!?」
「なーんで結婚まで行く!結婚を地獄だ!って表現にするのは止めろ!そーいうのは大半が独身連中の願望だからな!ほぼ嫉妬だからな!」
こいつ、中学生のくせにピュア心が育っていない。夢もねぇし、生き抜く力すらないのに、リアルに生きていこうとする誠実さ。
「ところでどんな力を宿すんですか?」
「そーいう話か」
「だって契約しちゃったら解除できないんですよね?これもう悪徳商法とかの類いじゃないですか」
「嫌な言い方をするな!……とはいえ、俺の場合はちょっと例外なんだ」
「例外?」
「俺が天才過ぎるから!お前が俺のどれだけ劣化版を身につけるか分からん!だから、分からん!」
「先ほどから思ってましたけど、あなたまったく妖精ポジションじゃないですね!見かけだけじゃないですか!!辛辣な妖精は人気出ませんよ!」
「ふん。よく言われるよ。天才の辛いところ」
「それ天才関係ない。よしんば天才だとしても、あなたは私達と分かり合えない!」
サインをする前に、改めた気持ちでこの空間とこのエルフを見る。
思い込めて
「これなら転生が良かったなぁ~。異世界転生で悠々自適の快適ライフとか、王国の悪役令嬢とか」
「なんだそれは?天寿真っ当や事故死ならともかく、終わらせる命が続いて欲しいと願ってるなら、贅沢はほざくな。お前は今、自分の命を他に預けた行為が罪と思え。返してやれる俺だから、まだ良かったものの」
「…………厳しい、死ね」
まだ、手が震えている。その手で今、これから先すらなかった道を進むことになる。
もうどうにでもなれという気持ち。自分がこんなのと契約を迫られるのは、これまでやってきた罪だって。子供に言うには厳し過ぎることだろう。同情してくれませんか、って。言葉すら発せられない。
書き込んだフルネームが綺麗にハッキリと見えた。
「表原麻縫。これが私の名前」
「おう」
こうして付き合って、忘れていた事ではあるが。
契約には必ずこちらも紹介する。
「俺はレゼン。これからよろしくな、麻縫」
「レゼン。よろしく…………」
「……どした?」
妙な沈黙はサイズの違いの握手と思われるだろうが、この2人にそんな友情物語はなく。
悩みきっている面であるのは、レゼンにも分かった。
表原はボールペンを置いて両の人差し指をグルグルし始めて語る。
「……あのー。そのー……」
「なんだよ」
「お恥ずかしながら、私。家の住所知らない。3階に住んでて、野木町9丁目まで。アパート名は……えっと、柏パレスアパート!の308号室だって事くらい!」
家の位置は分かっているけれど、決められた区画まで覚えてられない。
子供でしたらよくある事。
「家さえ分かればいいじゃん!そこから最寄の駅までの行き方を知ってればいいじゃん!」
「あー、あ。分かる。そりゃあ、分かる。別に気にしなくていい」
「風景だけしか覚えられない。使われない数字を覚えるのって大変じゃん!」
「うん。そーだな。まぁ、マンション名さえ分かれば、あとでこっちも連絡できるし」
「電話番号もその……今、スマホが手元にないから。分からない……。電話帳開ければ分かるの」
「…………」
あるある。
それあるある。
たったそれだけの事であるが、
「じゃあ、死にます。こんな私に声をかけてくれてありがとう」
「待て待て!待て待てホント!!大丈夫だ!そーいう大人だっているんだよっ!住所間違えて覚える事もあるさ、電話番号を間違える事もある!便利な世の中だもんな!」
「ううっ」
「これで契約を破棄されると、面倒なんだよ!妖精の国から書類をまた取り寄せなきゃいけないんだ。サザン様にも怒られるし」
妖精との契約は原則として1人のみ。契約の書類が複数あると、違法扱いになってしまうため、レゼンも予備がないのである。すでに名前を書いている以上、このまま押し切りたい。
しかし、なんという優柔不断なクソ野郎。
「分かった分かった!いいか!落ち着け!俺は天才だ!お前のようなクズをフォローしてやれるほどにな」
「ううう」
「ひとまず、変身しよう!それからでも本契約できる。そしたら、速攻で家に帰って!住所とスマホとやらの電話帳で!連絡先を記入!完璧じゃねぇか!」
「第一話をそんな形で使っていいんですか?ヒーロー物の第一話で、敵とすら戦わず、何かを護ることすらなく、家に帰るだけなんて!どんな恥さらしなんですっ!」
「メタメタだな。俺もそれだが……!どーいう気分だと思う!」
「…………」
「一言。悔しいだろ!天才だろうが、それを噛み締めている。まずはそんなことでもいいから!って、自覚する。変身して、家に帰るんだ!」
「……うん。お願い!レゼン!私を変身させて!!すっごく、変だけど!!」
「ああ!」
ボォンッ
互いの気持ち。それは進んで行くこと。
レゼンはエルフ姿から先に変身する。それは妖精が魔法のアイテムとなって、表原麻縫を変身させる。
「こ、これは……………」
『さぁ、行くぞ』
手にとって握る。
『馬鹿!どこ触ってんだ!?』
「いや、あの?レゼン……だよね?天才とか言ってた、レゼンだよね?」
『当たり前だろ!なんだよ!見かけで判断してるようじゃな』
先ほどからこー。一般的な妖精。そして、変身ヒーローとは一線を画している連続。
手に取った代物は魔法とは程遠い。むしろ近代的なイメージをみせてくれる。
「ドライバー?」
『ドライバーだよ!!汎用性のあるプラスドライバーだ!!行くぞ!』
「どーやって変身しろと!?キャトルミューティングされるとしか見えない姿なんですけど!」
『人間はうっせーな!!行くぞ!』
レゼンは高速回転しながら、表原の手から離れ、宙へと舞った。
『避けんなよ!』
「え」
そして、手にとれたほどのサイズだったレゼンが、気球のバルーンのように膨れ上がっていく。それがドライバー。高速回転もさらにスピードを増し。
『さぁ、変身だ!表原麻縫!!』
「待って、待って!そんなにデカくて回転してるドライバーで、頭刺されたら、死、」
『別に死んでも良かっただろうが!』
グイイイィィィィィッッ
「ああああああああああああああああああああ!!!これのどこが変身じゃーーー!?」
◇ ◇
「ひ、人が落ちて来たぞ!」
「この子は2年の表原だ!」
同時刻。
表原の夢の中と並行して、現実世界は非情にも進んでいく。
「なになに?飛び降り自殺」
「ぷっぷー、馬鹿じゃないのー」
「なんなんだよ、まったく」
意識なく頭から血を流して倒れる表原。それに近づく生徒や先生達。その多くがその人が邪魔だという認識に、対応を迫られている。
そんな中、表原は白目を剥いたまま、立ち上がるにしちゃエキセントリックな動きをしていた。
「お、表原!大丈夫か!?」
「うーっ……」
意識はない。
だが、その意識が徐々に夢の世界から戻されるように、体とリンクを始める。夢の世界で今、表原は頭を軸に急激な回転を受けている。体が何千と回っており、体の全てが変わっていく感覚を体感していく。
同時に
グルンッグルンッ
「お、お、表原!?」
「何を回って!?」
「う~~~~~」
周囲から見れば、表原がふざけているかのように回っていると思われる。しかし、彼女の両足はモーターの中心軸と同じく固定されており、
「スカート捲ってる!」
「パンツ見えてる!!」
表原には分かっていない。制御効かず、両腕もプロペラのようにフリーに動き始め、心配している周囲の者達に襲いかかる。
ドゴオォォッ
「ぐへっ」
「なになに!?ぎゃーーー!?」
回転している力もあるが、たった一撃で人を軽々と吹き飛ばす裏拳の乱舞。ところ構わず動き回り、コンクリートや花壇の破壊、大量の土煙。削岩機とも思えるパワーで周囲に被害を与える。
「う~~~~~」
意識を失いながら、表原は変身していく。着ていた中学校の制服も違うものとなり、本人の心の中で抱いていた姿。選ばれたとされるお嬢様のようなコスチュームとなっていく。着ていたパンツにもスパッツという装備が施される事により、これでパンチラの心配もなくなった。
そして、さらなる回転を遂げて表原は浮き上がっていく。意識がようやく戻ってきそうなところで、巨大ドライバーと化したレゼンもこの世界に具現化され始める。アップロードももう少しで完了という合図だ。
「ああああぁぁぁっ」
その状態。
表原の頭よりも大きいプラスドライバーが突き刺さっている。おまけに転落した時の傷を抉るように血を流しながらのこと。
ようやく、表原はグルングルン回って状況を把握できずとも意識を取り戻す。
『最初の変身には時間がかかる』
「あびばばばば!!なんかっ、違うんですけど!!想像してたのと、全然違うぅっ!!」
『どんな変身シーンも、最初だからこそ時間が掛かる。いや、掛けるものさ。じっくりと楽しめる時間は最初ぐらいしかないし、それ以降のパワーアップはあれど、ほとんど変身モーションに変更はない。時間稼ぎと尺稼ぎにもなるし、2,3回見れば、本人もその他の人達も満足するからな』
「私も!変身ヒーローも、スマホやゲーム機じゃな~い!!なんだこのドキドキしない変身は~~!?言っちゃいけねぇ事も言うのぉ!?」
『俺のやり方ならお前が強くなって行く度に、改造も容易なんだぜ。効率的だ』
「せめて、パワーアップって言え!!改造で強くなる少女って、どんな夢があるのよ!?こんなの機械人間じゃん!騙したわね!!」
『なんとでも言えばいいが、これが"妖人"の変身方法なんだ。変身に夢はない!!』
「いや、夢がない!!」
妖精として、人間の可愛さやカッコ良さはどーでもいいんだろう。そこはやはり種族間の違いであり、目的の違いもある。レゼンの方が深刻的であるが故だ。人の夢に付き合っている場合じゃない。
『だいたいよぉ~、人間だってスピーディに進めたい時があるんだろ。そこにお前、長ったらしい変身やエフェクト、動きを入れてみろ。最初ぐらいはいいよ?カッコイイから。だけど、人間ってのはだんだんそーいう事に慣れちゃって、見向きをしなくなる。挙句、鬱陶しくなる。誰だって、ゲームのエフェクトのOFFや見慣れた会話をスキップする。変化できるんだったらともかくよぉ』
うぜっ。
しかし、分かること。
使い捨てとしているような発言ではあるが、生物の全てがそうできている。
「あああああああああああ」
キイィィッ
ドライバーの回転はゆっくりと落ち着いていき、止まった。そして、レゼンはドライバー状態から元のエルフ姿に戻り、表原を地上へと降ろす。というか、落ちる。
ここでカッコよく着地なんだろうが、頭が物理的にもミックスされた表原は、そんなことすらできるわけもない。
ドシャァッ
6階建てマンションから、人形をうっかり落としたみたいな落ち方。
変身した表原の体は校庭に転がった。
「どーだ?こんくらいの高さから、ただ落ちただけでも死なないし、怪我もないだろ?"妖人"になれた証拠だ」
どんな証明の仕方だ、コラァッ!?
と。表原に変わってツッコんでやろう。今の表原はそんな落下劇よりも恐ろしく、体の異変に苦しんでいた。
「おえっ……気持ち悪っ………」
超高速回転で回ったこと、自殺未遂での傷の痛み。主に脳への衝撃が大きく、シェイクという甘いような感覚に苦しんでいた。怪我という怪我は落下での事では起きなかったが、視界のグチャグチャに吐き気。
ヨロヨロしていて立つことが難しい。
「うぷっ……おぇぇぇ、ええ」
ゲロを吐くほど、体に掛かった負荷があった。
表原は少しずつクラクラが収まり始めて、ゆっくりとふらふら立ち上がる。力なき存在のように。自分を見つめる。
「へ、変身したの……?やばっ、スカートの裾にゲロが……」
状況の把握に苦労しているところで、左目が突然に赤く染まる。自殺未遂をした際、額を傷つけたところからの出血である。
「ああぁっ、なに!?」
驚いて尻餅つくほど、かっこ悪い。さらにもう驚きで声をあげられないところに、自分が変身した際に学校が大きく壊れている現場を視界に入れ、動揺。
本人の時間では、制止した時間の中で動いているかのように、世界は周る。
じゅわぁ~~~……
変わったんだ。
今、表原は。世界が変わった事をハッキリと知った。
「変身、"妖人"化は終わったようだな」
「レゼン」
表原はまた立ち上がり、レゼンを見上げる。
ちゃんと無事にできた事で説明する。失敗すれば意味のない事だったから。
「1つ、言い忘れた。無事成功したのもあるが」
「な、なに?」
「"妖人"となった者には名が与えられる。今、その名を与える。"妖人"となっている間はそう名乗るが通例だ」
「名前………」
「人は意味を、妖精は名前を与える。適合したから今伝えたんだが」
自分に新たな人生、新たな名前。それはこうして偶然、授かっていいものだろうか。
運命ってのはそーいうことの連続。
「お前は名を知って、俺は意味を知る。叫べば力の解放となる」
「うん……ってことは、今。私。コスプレしてるだけ?普通の人と変わらないの」
「いや、あんだけ学校をメチャクチャにしてるのは、表原の素の身体能力だけだ。話しは逸れたが、お前にその名を伝える」
表原麻縫。14歳。
レゼンと出会い、"妖人"となった彼女のその新しい名前と物語。
さぁ、その第一歩は。
「"マジカニートゥ"」
「………え?マジでニート?」
「"妖人"の資質は先ほども言ったが、人はバランスを保つ。それほどの才気を持つという事は、お前は将来。ニートであるという戒めだ。他にもあるけれど」
「えええぇっ!?なんかこう、違うの希望で!可愛いので!」
びしゃっ
「え?なに、水溜っ…………え?」
表原は今気付く。自分の下が酷く濡れている事。
跳ね上がっていくこっ恥ずかしさを、混乱かつ必死に食い止める口、加勢して両手。故に顔はどんどん赤くなる。しかし、真実を告げるようにレゼンは淡々と伝える。耳は防げない。
「歴代の"妖人"でそーなったのは、マジカニートゥが初めてだろう。表原麻縫……」
我慢できずに、もう叫ぶ。
「い、い、い、いやああぁぁぁっ」
不覚のおもらし。想定外のダメ押し!!
「"あたしだけかいっ!"」
「それを"意味"にするか?丁度良い感じだ」
「もう死にたい!!やっぱり死ねば良かった!!」
こうして、表原麻縫。
マジカニートゥの誕生と出会いは終わったのである。
なんて最悪な日なのだろうか。だが、今日はまだ続く。
飯食って風呂に入って、布団の温かさに浸るまでが、今日という一日なのだから。
次回予告
表原:うわーん、なんでこんなことになっちゃうんですかー!最悪最低の変身だよ!
レゼン:お前がダメな奴だからだぞ。
表原:ぐっさりストレート!うぇーん、この変身コス、もう着替えたい。
レゼン:できるぞ。本気でそう思えば、俺の能力で着替えられる。
表原:ホントに!?でも、着替えるだけなのに本気とかあるの!?
レゼン:些細なところから始めろ。起きてすぐ着替える事もできないタイプだろ。寒い日の朝は、毛布に包まってるだろ
表原:うぐぅっ
レゼン:って、そんなことより。とんでもない人がお出迎え……っていうか、攻撃してくる気か!?
表原:へ?
レゼン:やばいぞ!俺達、死ぬぞ!
表原:自殺未遂した後に命狙われるなんて、あたしだけかいっ!
レゼン:次回
表原:『雪雪降れ降れ!網本粉雪さん、マジカニートゥをフルボッコ!』
レゼン:お楽しみに~
表原:全然、楽しめるかーーー!!