Dパート
下の階で何かが起こったのは確かだ。
しかし、それで気が休まるものではない。
寝手 VS ペドリストの戦いを、魔法使い同士の戦いとするなら、こちらは格闘家同士と言えるほど、互いが人間の域を外した怪物。
「待ちくたびれたにゃん」
「おーぉ、律儀に待たせちまったようだ」
6階~7階に行く、たった一つのエレベーターの前にいる壌。そこに辿り着いたスターブ。
お互いの体格は同じくらいであり、性別の違いがあるくらいの事であり、察して戦いに気をつける部分はなかった。
「いよおおぉぉししし!!!スターブが間に合ったああぁぁっっ!!あぶねぇぇーー、ギリギリぃぃ!!(法律が時間で解除されて焦ってた)」
喉元まで届きかけたナイフが離れたくらいには、嬉しくもなってブリッジでもやってしまいそうなくらいに腰を逸らして笑うロバート裁判長。7階からの高笑いが壌にも、スターブにも聴こえる。
「そんなに叫ぶなよ、ロバート裁判長。もう黙ってろよ」
懐に出すタバコを出し、特別に火を使わずとも、指先だけでタバコを灯しては口に咥えるスターブ。
彼の特異性を改めて認識する壌。
5階で足止めされてる時間が長かったのは事実だが、そこから確実にスターブと対峙する選択をとるため、唯一のエレベーター近くでスターブを待った理由。
「おそらく、あなたが邪魔になるから……」
ここでブチ殺すしかないわ……
「おう。来いよ……」
お前が良い女だと判らせてやるよ……
ヒュウゥッ
疾風に至る。
2人の体が同時に消えたかのように、捉えてみせた数台の監視カメラ。
重要なエレベーターを近くに置き、監視カメラを複数配置するくらいには広い。障害物・道具はなし。バスケコートの半分くらいにはある広さは、純粋過ぎる”超人”まで達する格闘戦を行うのはあまりにも最適で
バギイイィッッ
”どっちが強いか”が、明確に決めつけるバトルステージ!
互いの蹴りがぶつかり、この足技が主力となっている壌の強さ。一発のぶつかり合いで、スターブの左足が痺れて押される。それだけでスターブの強さも計り知れない。
たまらずに、スターブが体勢低くしてバックステップして壌との間合いをとろうとするが、壌は彼の動きを悟っても自信満々に踏み来んでは顎を掠めるほどのほぼ90度の上段蹴り!
「っ!」
スターブの回避を察知し、追撃。足技という一発強くも、攻撃を繋げる器用さは難しいながら、壌の動きには洗練されて隙がない。カウンターすらとらせてくれないほど素早い。むしろ、この”間の少なさ”が圧倒的な強さに繋がっているとスターブには分かる。
振り上げた足でかかと落としに、
バヂイィッ
溜めが少なくともロケットみたいに放たれる前蹴り。
「うおぉっ!」
それの速射。左の軸足も全然ブレずに、しっかりと力を溜めて放って来やがる。どえれぇ女ぁっ!
バシイィッ
「危ねぇーな!」
「!」
ようやく、スターブが壌の右足の前蹴りを見切り、避けつつも、彼女の足首を手に持ち。勢いを流すように投げ技を繰り出す。
猛攻のヤバさでは壌の方が上回っているが、それを凌ぎつつ分析し、返し技まで行うスターブもまた超一流。軸足をブレさせれば猛攻している足が死ぬ。
そして、足を避けつつ。相手の動きを封じる投げ技……というより、攪乱に近い動き。滑るように足を延ばした壌へと接近し
バギイィッッ
張り手の一発を叩き込んでみせる。しかし、壌がそんな攻撃をまともに喰らうわけもなく。ただただ、スターブが壌との距離を保ちたかっただけ。”今のところは”……だ。
「余裕ねえーな」
ようやく、ってくらい。スターブは口に咥えていた2本のタバコを床に吐き捨てる。わずかに立ち上る煙の流れを見つつ、
「お優しいのねん」
「あんたが魅力的なもんで」
お互いに余力を残していた様子見に過ぎなかった事だ。もしかすれば、壌の方が力を出しているのかもしれない。
男であり、体格的にも似合わない張り手を使って来たスターブ。戦う構えからも拳を作らず、開手。少し落ち着ける間が、愛しく思ってろって。スターブの異常性が発揮される攻撃。
向かってくるスターブに、壌も足技で応戦。
バヂイイィッッ
足は腕力の数倍の力。それが壌の身体能力で来るのだから、まともに受けては砕かれてもおかしくない。
「!」
しかし、スターブも強引さを出す。決して、真正面で壌の足技をもらわず、弾くようにして……指の数本で済ませて
バヂイィッ
壌に一度、防御態勢を作らせる。乳首を隠したその腕で、スターブの左の張り手を受ける。そして、間髪入れずにスターブは右の張り手。彼もまた、攻撃の回転が速い!張り手の連打が増す!
バヂヂヂヂッッ
「いや~~んっ、胸のお触りですか~」
「あいにく、こんな美人でも手加減できねぇよ。お前は強ぇ」
セクハラ案件かに思えるが大真面目。スターブの張り手の連打は早く、なによりも長い!壌が防御に回ってから反撃に移れない。スターブが攻撃をさせない、より激しい攻撃をしているからだ。カウンターを決める前に崩される。
先手が有利と分かる、どシンプルな連打。壌がカウンターや相討ちを狙わずに、一旦、距離をとろうと大きくバックステップ。その後ろはもう壁になる。
スターブが攻撃の連打で追い詰めた形。壌は
ドッ
「!」
追い詰めたその壁に足をかけてしまう。溜めを作って、自分の体を丸める壌。
壁際に追いやった相手がこーいう返しを繰り出すことは、スターブの経験からなく、近づく度胸はなく間合いは詰め切れなかった。それがどう影響するかは……
「ほいさ~~」
緩い声と共に飛んでくる蹴り。絶対に受けたらヤバイと察知して、スターブは体勢を大きく崩してでも避けた。
「っ……」
一瞬、壁に足をかけて溜め作って、跳んできた。それだけでもやべぇのに
「……ここの反対側まで跳ばれたら危ねぇな」
やっぱり、”身体能力”だと壌の方が上回ってやがる。そーいう輩はホントに初めてだぜ。
マジでこいつの蹴りはやべぇ。
「お褒めの言葉、ありがとう」
結構ヤバイ相手だね。噂の”アレ”もマジだとしたら、長期戦はこっちが不利。
ヒュ~~~
スターブの落とした2本のタバコ。そこから漏れ出る煙がスターブに向かうように……。
互いに人間ながら、あの野花壌と互角に渡り合える身体能力の秘密。
7階で、音だけを頼りにスターブの戦いを感じとっている2人。
「スターブの存在は、人類の進化の1つだろう。奴は……」
彼の絶対的な強さを金と地位で買い取ったロバート裁判長。ペドリストとの契約で得られた力よりも、自分が持っている各国の弱味よりも絶対に信頼できる強さ。
スターブの正体は人間でありながら
「”五感で酸素を認識し、操作までこなせる”……そして、奴自身に呼吸という生命活動は、必要ない」
どーしてそんな化け物が生まれたのかは知らないが……。
奴は生物的に、生物を超越している。空気を要らずに人間としての行動が可能なこと。
スタミナ知らず、呼吸知らず。
スターブの身体能力の異常性は、”持久力”にある。
戦闘の継続力。自分自身の全力を維持できる時間の長さ。巨大化する異常体質のフィニンよりも格が上なのは、生物の範疇を超えている持久力故。そして、もう1つ。
「スターブは格闘が強いだけじゃないんだよ、なぁ、ダースサン」
「……そりゃあ、あんなのされたら、大抵死にますよ」
”酸素”を検知するという、彼自身が持つ個性。それを操って、どのような戦闘を起こすか。
愛用のタバコを指先のみで発火と焼却を成せるのは、火に必要な酸素の操作を成しているからだ。
その応用として、1対1の格闘戦においては、スターブの”持久力”と”体質”によって無類の必殺を作り出す。
バヂイィッ
「気ぃ抜けてきたなぁ!」
壌とスターブの蹴りが激突し、壌の方が上回るはずの身体能力についてくるスターブ。
お互い、同じ高さでやり合っているはずだが、壌だけはさらに標高のある山の上で戦っているような息苦しさを感じている。スターブの近くにいればいるほど、酸素を奪い取られる。呼吸に制限が掛かれば、身体能力に負荷が掛かる。
超持久力+呼吸の制限。
スターブが、切り札たる所以。
ガシイィッ
いよいよ、壌の体にクリーンヒットした張り手。じわりとくるダメージに
「これはいよいよ……」
「!」
「手ぶら真拳、”奥義”を見せちゃう相手かもね?」
全力に制限がないスターブと、全力に制限がある人間としている壌の、戦闘における考え方の違い。
スターブという男の戦い方が分かって来た。
「ははは、嬉しいぜ」
まだ終わってくれない事に喜んでいるスターブ。仕留め方が単調だが確実故、これをどうしてくるか見てみたい。いずれもそれらを返り討ちにしてきた。
2人の全力が魅せられる最中に
「!」
「あ?」
ここにやってきたのは、
「ふへー、な、なんか、ここ……息がし辛い……」
「な、なんだこりゃ……」
ぜーはーぜーはー言いながら、レゼンの指示でこの6階まで上がって来た巫女と、小さくなった表原達。
「あー、みこみこ!!それに可愛くなったね、まほまほちゃん達ー!ちっさかわい~」
「はぁ~、はぁ~……あ、あの。怒りたいんですけど……それどころじゃ、……はぁ~」
「頭がぼーっとする……」
スターブからすりゃやり辛いなぁーという顔。
せっかくの戦いだってのに、何も知らされてないお客様がいるとは……。そんな彼の表情を読んでか、
「気にしなくていいわ」
「いいのか?巻き込んじまうぜ」
「みこみこ。10分は耐え凌いで!こいつはもう、5分もあればぶっ飛ばせる!」
チンタラと仕留められるつもりはないと、壌の戦闘形態が変わっていく。
彼女の横顔から、粉雪の殺意マシマシの戦闘モードになるような雰囲気を感じる。革新党の大幹部であるし、きっと
「こ、粉雪さんと”一緒”に戦ってるんだもんね」
「だろうな。相当長く、付き合いもあるんだろうし」
な~んで、この人と肩を並べて戦ってると思われるんですかねぇ~(粉雪の心)。
しかも、口を揃えて
「「変人だけど」」
……いちお、粉雪に戦い方を仕込んだ一人だ。断じて、同年代ではない。いくらなんでもない。
レゼンの見立てから互いに”妖人”ではないが、人間の皮を被った化け物であると察知した。自分達の息苦しさにはあの男が関与しており、それを突破するには壌が勝たねばならないこと。
口には出さずとも、巫女も両手でグーを作って、壌を応援。
壌の構えは依然変わりなく、自分の胸を隠すように両手を開き、前へ……。
変わらない。ブレない。その戦闘スタイル。
「……行くぜ」
あえて、スターブから進んできた。巫女達の事はカンケーなく、本気で行くぞと勇んでいる証拠。すでに多くの酸素を奪い取り、壌の体にも影響が出ているだろう。どうやって自分を5分で仕留めるか
ザッ
「!」
その時、スターブは……後方に吹っ飛ばされていた。
◇ ◇
【不可能】
南空は知り合った。あくまで己と引き合う人間。
しかし、枠が違う。南空茜風は人間のようで人間ではない。人間個人で到達する域ではない。
持ち得る財を、持ち得る人を使い、
【いえ、私を手術して欲しい】
【!……困りますなぁ。不可能と言ったはず】
【私にそれが通りますか?伊塚院長】
これからの技術の発展には犠牲が付き物……。その中に入ってはいけない者がいる。……いや、違うか。
”失敗は許されない。”という圧力。私を犠牲にはするな。
野花壌は、南空の強さに憧れた。彼がどのような末路になるか、見てみたい。それを知るにはすぐ近くにいるべき力。
【整形といったやり方では納得しないでしょう。肉体的にも精神的にもとなれば……】
”薬以外にはないでしょうな。……それも、超危険な薬の投与”
未確認だったわけではない。人間の中には何かの変異で、人間を超越する者。それを”仙人”と呼んでいた。
人間がそれを、奇跡をひたすらに待つだったわけではない。時には、”人権を持たず”にいる人が転がっている。それらを使って、”仙人”を人工的に作り上げる計画があった。研究をしたい、その成果を得たい、ただただ人権で遊びたいなど、様々。
ある程度の成果が出た中で、本当に”人間”を使うとしたら誰が手を挙げてくれるか……野花壌がそれを挙げたことには、本人の意志があり、周囲も譲りたかったこと。リスクは背負いこみたくない。
壌は自身の体で、多くの金と協力を得た後、その成果から作られた薬を投与してもらった。
ゴクンッ
……一医者として理想は、
【この一度きりで繁栄してもらうべきこと。子の体は産み側がとても重要なんでね】
壌が普通を超越することから、彼女から生まれる子もまた超越した存在になってもらう事である。
犠牲少なく、量産をとれるとするなら、やはり人間のやり方に沿った上で道徳を反したい。
……………
子を宿すには少々の時と、多くの異性を選んだことである。
それが薬の副作用でもあり、彼女の精神形成を崩したところもある。
しかし、忘れず、曲げず。
共にいる南空に言い聞かせた。
「南空さん。いつか」
「…………」
「人々が豊かになって、平和に暮らせて……」
ただただ、それだけ。
人に求めたいことは色々あるから、人がそれを叶えられるように……。
革新党は人がより成長できる社会にするためへ。
◇ ◇
壌とスターブの体の違いとしては、生まれ持つ天然なスターブと、その時の人類が持った科学力で生み出された壌。
彼女の圧倒的な身体能力は人類がいずれ持つであろう、肉体の強さ。”例外の1人”を除けば、未だにそれは人間には量産ができない夢と、一つの成功例ではあること。
「!」
スターブは見えていた。鬼神のような速度で、壌が自分との間合いを詰めてくる。その間、自分の体は金縛りにでもあったかのように、動かない。彼女の早過ぎる蹴りがスターブの体を透過した。
そのおぞましさに、スターブは身を退き、体勢がよろけるほど
「っ……」
が、壌は数歩しか動いていない。ゆっくりと動いただけのような……。
「え!?な、何があったの?」
見ている表原達にも、スターブに何が起きたか分からない。ただ、今。スターブが何かを感じて一気に退いた。
続けて壌はスターブに迫っていくのだが、彼は
「お、おい……」
何かを恐れるように壌から下がっていく。今見えた幻を恐れたんだ。
何も気付かずに向かえば瞬殺される。スターブが得意の長期戦をするのなら、手短に仕留めることか、あるいは攻撃をさせない事が有効。壌には、人の限界が見えていた。
「『琴葉』」
未来予知とかじゃーない。期待とかそんなの。対策していたから反応するとか。そーいう慣れを刺激してくる攻撃に近い。
当たり前に通る道を歩けば、いつの間にか思ったよりも進んでいるとか。
時計の針を眺めるよりも、それを見ないでいるほうが早く感じるといった。人の感覚の刺激をしている。スターブが逃げているのは、その感覚で見ると、自分がやられているからだ。戦闘でそれをさせられる事は、
ガゴオオオォォッッ
スターブの背にした壁がシートを外した豆腐のように綺麗な形のまま、壌によって蹴り飛ばされた。
大口を開けて唖然とする表原達。だが、巫女だけはかなり目を輝かせて壌を見ていた。
蹴りの威力もそうであるが
「不意に外の空気が入ってきて、酸素は操れるかな?」
「!」
壌の本気が”相手”を必要として、初めて発揮されること。スターブの事をよく知った上で、圧倒し始める。彼の特別を小細工と言えるくらいの、圧倒的な力。
これまで逃げて凌いでいたスターブの体が竦んだ……。それは彼が見て来た幻影が、実体となって来る事。
バギョオォッ
ガードする腕を蹴りの一発でへし折ってきた。急所を隠そうとする防御も立派だが、0で防げるものではないし、柔らかい部分もある。
「!おっ」
れ、連発でこの蹴りを防ぐのは無理か!次のが分かっているが、避けっ
バギイィッ
スターブの左手首が砕ける音。上に二つ続いた蹴りが蛇のように下に流れると察知し、顎をより引いて対応を試みるも。足が襲い掛かって来たのは、その顔にだった。
バギイイィッッ
「おわっっ!?」
ローキックが来るとイメージできたのに、そこから切り替えやがった!?なんだこいつっ。速ぇだけじゃねぇ!俺がこいつの動きを数秒早く見れるように、こいつは……
ガシィッ
俺の動きをさらに先を見ている。こいつの戦い方はそれじゃなきゃ、説明できねぇ!
バゴオォォッ
顎を蹴り上げると同時に、スターブの鎖骨付近を足で掴んで投げ飛ばす。反射、反応がさらに向上している。そこにスターブの思考した通りに、壌が見ているスターブの動きは彼よりも先のところを見ているだろう。
スターブはなんとか起き上がり、反撃を試みようとするも。飛来してくる瓦礫、
「くぉっ」
蹴り壊した壁の破片を俺に蹴り返すかよ!これは弾いて、壌の攻撃を一度振り切らねぇっと……。
「!!」
攻守の選択から避ける受けるの選択。後手後手になっている事で、壌はスターブを選択させるように仕向けた。彼が空気の流れを読めれば、壌もまた相手の動きを読めて、コントロールできる。
常に胸を護るように両手が出ている壌の構えがゆっくりと動く。基本は足技であり、その足技が研磨されており、必殺にもなり得る力も持つ。それ故の下半身の強靭さと柔軟性が様々な対応を持つ。おそらく、何でもできる。
そこから、両腕を使わないというハンデは、重圧になる。幻影を見ているのは
「お前が両腕を解放すりゃあ」
もし、壌のポリシーに揺るぎがないとすれば、その両腕を使われた攻撃でより早く死んでいる。だが、相手にとっては壌の動きが読み取りやすさもある。対応できる相手ならば、むしろその方が戦いやすい。壌が自分に枷を付けている分、相手はその枷がいつか外してくるのかと警戒する。使わない手を、本当に使っていないなんて事はない。
バシイィッ
壌の足が、回避に徹するスターブの足を捕えた。それに体が崩れると同時に上へと投げ飛ばされる。選択をさせた後、今度は選択もさせねぇ状況に持ち込んだ。
蹴り上げたスターブの真下に入って壌は逆立ちとなった。グッと体を丸めて、逆立ちのまま、敵を嵌める。
落ちてくる相手を蹴り上げること思えば、
「『武利牟 ON TRICK ROOM』」
両腕の力で自ら跳躍しつつ、接近したスターブの体に足を合わせれば、無重力なんじゃないかというくらい、壌の足はスターブを蹴り、そのスターブもまた壌と天井に挟まれる形となる。
空中故、動けず。落ちようにも壌の攻撃で上がり、壌もスターブを利用して中々落ちて来ず。
結果、解放に至るには……
ボゴオオオォォッッ
6階の天井破壊以外はなく、その勢いのまま、一気にスターブを天まで蹴り飛ばす。
ガゴオオォォッ
上にいた2人は床が一気に跳ね上がるところまで見れたが、何が自分達の天井を突き破ったかまでは見えなかった。人っぽい、穴が開いたなって思っていたところに
「これであなたの護衛人は始末したかな~」
「あ、あ、……の、の、野花壌……」
「まだあなたに特別な力があるけれど、法律に詳しいのなら今の状況はお分かりですよね?」
法律は暴力には勝てない。
だから、法をちゃんとしないとね?
「ちょっ!タンマ!!タンマタンマ!!なんでも言う事聞くから、命はとらないで!」
「え?今、なんでもって言った?」
ちょっとはノッてあげつつも、そんなことできませ~んって笑顔で近づく、野花壌。もう彼女を止められる戦力が、ロバート裁判長にはない。命乞いをしてでも助けをこうも、言わずとも無理ですって野花の顔。
小物ムーブを決めているが、スターブなどを抱え込める器と各国の弱味や協力を仰げるロバート裁判長。彼が金習と組まれると厄介なのは間違いない。
「ダースサン!!お前、……」
最後の護衛人であるダースサンに声をかけるロバート裁判長だが、彼女はすでにおらず
「ごめーん。私はさすがに命まで捧げないので、勝手に死んでてください」
「おおーーーいい!!お前、いつの間にかできた穴からなに抜け出そうとしてんだ!!大金払ってるだろ!」
「いやもう、払えなくなるでしょ」
ほんじゃ~~って感じで、ダースサンは外に飛び出して……。
上に吹っ飛ばされているスターブだけでも回収しようとしてくれるが、
「ん?」
ダースサンの行いが悪いのか。あるいは、ロバート裁判長を完全にやりたいか。
島内を横切った光線が現れると……生物を焼くためにできた炎が噴き出る。
それから轟音と共に、海上から放たれているいくつもの光線が、このエロシュタイン島にやってきていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「な、なんですか!?城が揺れてる!?」
「地震じゃない!」
城内にいる者達にはまるで分からない出来事。揺れと光、炎が、……島全体を襲い始めていた。
まだ彼等には確認できていないが、この島の近くにはもう、とある原子力潜水艦が到着していたのだ。
そして、それらの情報を野花壌が得られなかった事で、嫌な予感。
バギイイッ
「はぐぅぁ……」
「殺すのは後で、人質として来てもらいましょうか。ロバート裁判長」
明らかに軍事的な攻撃。迫ってるにしても、こんなに近くに来てるんだったら……。
育つーりん!あなたは、大丈夫なんでしょうね!?
壌はロバート裁判長を一瞬で昏倒させつつ、自分の大好きな夫の心配をする。彼が島中心の情報を収集していただけに、その彼からの情報が途絶えてしまった事と、今起こっている軍事的な攻撃が無関係であるはずがない。
予定の作戦では、金習の足止めはナチュセンコがやっており、彼等の足止めが終わる前にロバート裁判長を確保すること。彼等がやられたって事か?それともこっちの知らない何かが起こったか。




