Bパート
”仙人”
人間の中で、極めて稀に現れる人間。
時代に生きる人々を超越した存在は、地球の進歩、人類の進歩に大きく貢献している。
このような人間が生まれるのには、血筋か環境か、ただの運命か。
まだ人間達はそれを多くは知らない。存在している程度のこと。
「アダメさん。今、なんと仰いました……?」
妖精の国の方がその事について知っている。なにせ、人間を滅ぼそうとしていた存在が現在もいるんだから……。
そんな存在である残念な神様、アダメは今
「だ、だから。1冊ないのよ!私の、妖精の国について記された、超大切な日誌がないの!!」
日誌を失くしてしまったらしい。
サザンとルミルミが実際に見てしまった、妖精の国にある全てを記したアダメの日誌。
その日誌が無いという事にサザンは首をかしげる。
「な、何を仰るのですか?それらは私が責任持って管理してます。ロゾーにも見せてなかったし」
自分の身の回りの管理を任せていた、レゼンやロゾーにも周知させなかった重大な代物。
アダメからちゃんと譲渡されている。しっかり保存してあるとサザンは思っているのだが、
「そ、そうじゃないのよ!サザン!お、お、落ち着きなさい!」
「お前が落ち着け!」
「じ、実はね。怒らないでね。サザンとルミルミに渡した日誌以外に、もう1冊あるはずなのよ。主に”人間の生態について書かれた”日誌で……私直筆じゃなかったから、渡し損ねてたーって……」
妖精の国の真実やら秘密が書かれた一冊が。……いつの間にかない!
「お前、ふざけてんのかーーーー!!!?」
「ぎょおおぇぇぇ!!」
そんな大事な物が失くなったという事実も怒るべき事なのだが、いつ失くなったのか、どこで失くなったのかも分からない。在っただけという事実を今伝えられたところで、サザンからすれば
「私にどうしろってんだーー!?」
まさにそれである。
ルミルミが行動するきっかけがアダメの起こした事件と、それを記した日誌にある。そんな大事なもんを失くした。
「今から探してどうなるものでもない!!」
「そ、そ、そうだよね~」
「失くしていいもんじゃねぇだろーー!!」
無いもんは無いとして……。
大まかな内容だけではいけないと、サザンは断片的で良いからどんな中身なのかをアダメに確認をとると……
「いやぁ、私が”盗んだ”この宇宙の資料と、私が”書いた”妖精達の役目について纏めた資料なんだよね」
「中身は分かります?見られたらマズイのってあります?」
「ん~……私が書いたところは確か、妖精と契約して人間が力を手にできる仕組みについて……みたいな感じかな。もう数万年前のことだしなぁ」
妖精と契約する事で、その人は超常的な力……もとい、妖人化を成せる。
その原理については妖精自身も人間界に召喚される前に勉強しているが、より根底のお話。
「人間には誰しも自分の力にセーブを掛けられているらしいの。みんな、”能力”については平等なの。不平等なのは、”思想”、”環境”、”遺伝”くらい。サザン達妖精は、契約によって人間の”能力”を刺激し、妖人化にさせるの。人間にも超常的な力を持つ人はいるでしょ?涙一族みたいな人達とか」
「私達が人間を覚醒させる、補助的な生物には変わりませんね」
「そうそう。私がその隙間を突いて、”あなた達を使って人間達を争わせよう”って魂胆をね……。確か、そんな中身……」
バギイィッ
サザン、もう怒り過ぎて、アダメに対して右ストレートを顔面に叩き込む。
「お前の感情までその資料に記載されてたら!!私とルミルミが5冊もかけて知れる、あなたのちゃんとした真相が一発で分かるじゃないですか!!というか、真相が悪意塗れしか分かりませんよ!!」
「れ、レディの顔を殴るとか……何もしてない妖精のくせに酷すぎ……」
「やらかしてるだけのアダメさんに言われたくないんですけど!!」
なんだよそれ。いきなりもぅ~~。
とんでもないのを失くしてくれたな。絶対に回収しないと、後々揉め事に成りかねない。もしかして、ルミルミやシットリがそれを持っていたりするのか?まだ誰も手にしていない事を願うしかないな。妖精がアダメさんの事を知れば、大混乱どころの騒ぎじゃない。国が亡ぶ。
「もう1つの、”人間の生態について”というのは?」
「”仙人”って呼ばれている一部の人間についての事かな。人間の中でも極稀にいて、妖精が無くても超常的な存在。長い時代で時折現れる彼等によって、人間達はゆっくりと進化と思想、進歩を遂げる。……っていう設定かな(大雑把だけど)」
「そこにあなたの手が加わっていないのは、事実ですね?」
「なんでもかんでも私のせいにしないで。人間本来の特性。遺伝子の変異とも言える、進化とか」
異物には抵抗を覚える。
長い時間と社会の中で人は慣れていく。
緩やかな進化に慣れていく。奴も生物の一端。環境で変化するし、それを記録も思想もするんだから速い。
「とはいえ、その進化はまだ妖人化に及ばないはずだけどね。妖人化のパワーって人が使える範囲を超えてるんだから」
「人として精神を保てない者ほど、強く反応するように”改造”したアダメさんが言いますか」
アダメ、サザンはまだ侮る。
そして、それは事実。
だが、怪物がいると知る傍には……敗者に並ぶ強者の何かがいること。
オオオォォッ
「!外が騒がしい」
「何か来たのかな」
「じゃあ、おそらく……」
城の外でなんらかの歓声が上がった。こう言っちゃなんだが、アダメはもちろん、サザンよりも人気や慕われる存在はいるものだ。世界の神や王様よりも、今の英雄に人々は声をあげたがる。
「ヒイロさんが帰って来たーー!」
「長旅お疲れ様ですーー!」
城下町に住む妖精達から歓迎の声と抱擁される彼。それに笑顔で応えながら、城の方へ向かうのはヒイロであった。
妖精の国に帰還後、自分の実力を高めるために修行の旅に出ていた。
「みんな、久しぶりだね。ゆっくり話したいが、まだ”始まって”いないんだ」
ヒイロの帰還である事を察知してか、
「わ、私は隠れた方が……」
「ダメでしょう?」
アダメは逃げようとするのだが、サザンがとっ捕まえて逃がさない。
妖精の国で頼れる妖精はもう、彼しか残っていない。
「失くした物全て、ヒイロに託さないと」
「また怒られたくないよぉ~」
サザンとアダメのおふざけをしている間に、ヒイロもまっすぐにサザンの部屋までやってきた。
「俺が印に会う手筈はできてますか?」
地球のピンチでも、妖精のピンチでも。それより最優先で来たのは、自分のパートナーへの再会。
その言葉にサザンはため息をついてから、
「もちろん、できている。とっとと救ってきてくれ」
「偉そうに言ってんじゃないわよ、サザン」
「お前に言われたくねぇんだよ」
サザンとアダメから見ても、ヒイロの修行は自分の思った以上の成果になっただろう。
大して役に立たない……もとい、やらかしをしている実力者の2名をして
「成長しているな。ヒイロなら私を超えるはずだった。……ルミルミよりも強い。そして確実に、シットリよりも強い」
ヒイロが妖精の国に帰還する前に、自分の力の多くを白岩に託したのは、自ら蓄えられる力を増やすため。渡した分だけ、自分の肉体に力を溜めこむ事ができる。この修行で白岩に託した力以上のモノを身に付け、ヒイロは戻って来た。
互いがこの状態で妖人化をすれば、レンジラヴゥの”真の力”を発現できるかもしれない。それが、レイワーズと……その先に出現するだろう、ジャオウジャンを倒すために必要なもの。
「そこには並ばない。ルミルミ義姉さんとシットリは、俺より強い」
「そんなわけないでしょ」
「修行したから分かる。そう感じる事もある」
「…………”まだ”はつけないんだな?なら、私はヒイロが弱くても構わない」
ヒイロは強さを得ても、超えられない者を悟っていた。手合わせをして”勝てる”という、結果を求めたわけじゃない。どうしても必要だから強くなったルミルミ達と比べて、自分が強さを求めたのは”理由”が違うからだ。強さにおいて必要な、確固たる信念。ルミルミとシットリはそれを持つ。土壇場での強さにおいては、あの2人が上回る。
サザンはそれを認めてもなお、ヒイロに期待と信頼を寄せる。
「ちょっちょっ。なんか私が知らないところで、話しを決めてる感じ?」
「アダメさんに言われたくないんですが」
強くなる前に”こうするということ”。サザンが理解し、ヒイロも覚悟している。
知らぬアダメにとっては、ヒイロの後ろ向きな発言に不安を覚える。こちらの事情を知っている、最後の妖精なんだ。
「ヒイロ!お願い!!復活するであろうジャオウジャンを止めて、人間と妖精の関係を改善してよ!!私にはもう侵略目的とかないんだから!人間に妖精の国の事を掴まれたら、ここもヤバイ!」
改善などの関係はあなたの役目でしょって……ヒイロの冷たい目を他所に、
「マズイ話が3つある。1つ、どうやらアダメさんが”妖精の国”の事情を記した日誌の1冊が紛失してる」
「……少なくとも、俺は持ってませんよ」
「2つ、レイワーズの数は減ってもジャネモンのコンプリートがもうすぐだ。すぐに白岩と合流するんだ」
「もちろん」
「最後に、……白岩の状態はきっと良くないだろう。おまけにキッス達も我々に疑念がある。ルミルミも自由に行動してるみたいだ」
優先順位をつけてサザンが言っていることは分かる。
サザン達は人間界との繋がりがキッスを経由しなければいけないこと。ルミルミを捕縛し、自分達に情報を吐かせるキッスの行動を考えれば、人間側として妥当な事であり、これから加勢に入るヒイロに協力してくれるかどうかも怪しい。ヒイロだって、キャスティーノ団を秘密裏に纏めて、白岩を含めた自分達のために活動をしていた罪がある。
特に粉雪がいては、噛みつきも酷い事になる。
白岩の居場所を突き止める最短のルートは、因心界との関係を改善することは必要不可欠。白岩を護ってもらうためとはいえ、ルミルミに任せている事も含めれば、単身では接触すら危険。
順を付けて自ずと、ヒイロが取るべき最短は
「レイワーズの1人を手土産にするしかなさそうかな」
サザンとしては、ヒイロに情報収集の役を”妖精の国”のために担って欲しい。ヒイロ自身から白岩のところに行かれては、得られる情報と信頼は少ない。キッスなら上手くやってくれる期待はあるものの、順番を間違えれば戦う危険がある。
「俺はすぐにでも印に会いたい。きっと、辛いはずなんだ」
「分かってる。分かってるなら、……分かるだろう?だから、」
”条件”は呑んでやる。
サザンとヒイロの密約は、”妖精の国”からしたら許し難いこと。周囲が大いに悲しむ事である。
白岩に会いたいのに、まだ会ってはいけない苦しみを感じつつヒイロは
「まだ少し待たせるのを許して欲しいなって、印が思っていて欲しい」
もう少しなんだが、まだ遠く感じる。
◇ ◇
「到着したかっ……フィニン、スターブ!」
エロシュタイン島に着いた。
連絡が入り、7Fで凌ぎ待つしかないロバート裁判長は滾った。
彼にとっての、最強クラスの2枚の切り札。
国の軍隊に匹敵する武力を持つ所以に、ロバート裁判長が抱える特殊部隊にあり、その中でも1,2を務める猛者。
”仙人”
人間を超越した人間。
その2人を抱えているため、ペドリストの契約に頷けたのもある。
プシュッ
「注射は嫌ぇだな」
「あなたには打ってないでしょう」
エロシュタイン島の港に到着した、フィニンとスターブ。
城内の様子はここから分からず、急ぎ城内に入って侵入者の対処に当たるべきであった。しかし、執事姿のフィニンは自らの腕に自前の注射器を打ち込む。とても痛々しいと、スターブは口に咥えたタバコを燃やし尽くして見守る。
注射の中は明らかに薬が入っている。だが、それは補助的な道具に過ぎず、フィニンの特異性を活発化させる。
「……おぉぉっ」
グゴゴゴゴゴゴ
外見からした冷静な執事であるものの、ブクブクと体が膨らみ始め、執事としての衣類もぶっちぎり、そのさらに履いている特殊なゴム性の衣類がフィニンの体に合わせられるように伸びていく。
それ即ち。
「デカくなるなぁー、お前の特技を久しぶりに見た」
「関心するな。手に乗れ」
人間の巨大化である。
フィニンの通常の身長は180前後と、人間的な高身長であるが。フィニンの持つ体の特異性と、薬によって得られる巨大化は……体長20mを超すほどの巨人となる。
その巨体が悠々と動き、掌にスターブを乗せて走る様。
「楽ちん楽ちん」
城を傷つけず、フィニンの体躯のみだけで城の最上階まで外からスターブを運べる。
このままなら……。
「とはいかねぇか」
「……敵も同じか」
城壁に”そのまま立つ”ほぼ半裸の女が1人。
「ロバート裁判長の忠告とやらは、もう大丈夫とみたんだけど。あんた達のそれってズルじゃない?こっちは必死に階段や壁を歩いてるんだけど?」
野花壌が5階の外壁に立って、スターブとフィニンを待ち構えていた。
フィニンの巨人ぶりに驚くことも、恐れる事もない。お互いに人間だというのに、内面は怪物のそれと自負しているんだろう。もっとも、自分達の中での話。
迎え撃つ態勢のまま、壌はフィニンに尋ねる。
「あなたは確か女性なんだよね?男性ホルモンの異常分泌で、肉体が変化しちゃうっていう体質だとか」
生まれた時からホルモンのバランスが破綻しており、女性という性別でありながら男性のような体格を持つ。そして、男性をも超える雄度というべきか、……筋肉や骨すらも、異常な発達を見せる。
フィニンが10歳の時、彼女の身長は3m50cmを超えていた。日に日に成長していく彼女の存在を知ったロバート裁判長は、貴重な人材であると認識し、彼女の体の全てを購入。人体実験を行うことも珍しくなかったが、ついに周囲と同じ体格を維持できる体にしてもらった。
巨大化するために打ち込んだ注射には、彼女の体を抑える薬を一時的に抜くといった代物。
圧倒的なパワーを有するも、肉体の消費・負担も大きく、特に空腹になりやすい。
フィニンがロバート裁判長に連れ従うのは、やり方はどうであれ、自分を救ってくれた大恩人であるためだ。
「スターブ」
「今のお前が暴れたら、ロバート裁判長も巻き込まれるぞ。城の中にいるんだ。落ち着け」
壌の言葉にフィニンが仕掛けようとするも、自分の状態を弁えれば大事な城を破壊しかねない。ここは自分の掌に乗る、スターブが相手としてやってくれる。空中戦も良いとして、
「おっしゃーー、行くぞーー!」
フィニンの大きな掌から城壁にいる壌に向かって、跳んでいくスターブ。
この巨大化するフィニンよりも実力は上に当たるのが、彼である。自ら咥えたタバコを燃やし尽くすという芸当ができる。佐鯨の熱を操るタイプ、あるいは炎の使い手にも思えるが。彼もまた、素は人間である。
空中で舞いながら、壌への攻撃を繰り出す。
バギイィィッ
壌の蹴りとスターブの蹴りがぶつかる。その時のスターブの表情は驚きが多く、若干の焦りもあった。
「ぉぉ!?」
こいつが野花壌か!とんでもねぇ身体能力をしてやがる!こっちは上から来てんのに、押し負けるっ!
”空中戦”はこっちが不利過ぎるな
「すーぅ」
「あなたとまともに戦う気はないわよん」
スターブが”息を吸い込む”ところをみた壌。地上戦ならば、その厄介さは発揮されたであろう。倒す目的とは違うが、スターブをこの城に近づけないためにも、空中ながら壌の動きは……
グイィッ
「!」
あ、足の指で俺を掴みやがった!?蹴りと同時に、そんな真似すんのかよ!ここ空中だぞ!
「君達も1階から上がって来なさいにゃ~ん!」
空中でスターブの体を足で掴んだ壌は、彼を振り回すようにし、自分と体を入れ替える。上にいたスターブが壌の下に行ってしまい、互いに落下しかない選択でも
ゲシッ
「ぶへっ」
「ほいさ~!!」
スターブの体を足場に見立てて、壌がジャンプしてしまう。彼女は再び城壁にとっ捕まり、逆にスターブは地上に落とされる。
ドガアアァッ
「~~った~。いってーな!!マジ蹴りじゃねぇだけ、受け身が楽だったけど」
急いでロバート裁判長の下へ行きたかったが、壌が城壁で見張っている以上、地道に上がっていくしかない模様。そして、フィニンもこの巨大化を活かした暴力で壌とやり合いたいが、スターブに止められたようにロバート裁判長を巻き込みかねない。
幸い、ロバート裁判長の傍にはダースサンがいる。
「動くな、壌」
「それは無理ね~」
脅しすら意に介さない。巨大な拳を多少セーブする必要がある上に、壌本人の戦闘能力も高い。
「スターブが登るまで待て」
フィニンは小さな虫を捕まえるように、多少の城の破壊は仕方がないと手を迫らせる。そんな攻撃に対し、壌は胸元を片手でしっかり隠しながら、もう1つの手で城壁を掴む。足しか使えない状況に関わらず、
バヂイイィッッ
「じゃあ、ちゃんと足止めしなさいよ。あなたじゃ私を止められないけど」
「っ……」
その足の応戦だけで、巨大な手を弾きのける。フィニンの手を一つとっても、壌の体を軽く超えているというのに、彼女の足の力はそれ以上。腕力の3倍はあると言われていても、彼女には疑わしい。
壌 VS フィニン + スターブ。
そのやり取りは、フィニンの巨大化があって見れるモノだ。城の7階にいるロバート裁判長と護衛役の1人であるダースサンは、見ていただけに……
「うおおぉいっ!!なんとか倒せよぉっ!!スターブは無事なんだろうな!!」
「あいつがあれくらいで死にはしないと思いますけど、来るまで時間稼げますかね」
「落ち着いているんじゃない!!あの化け物女がここに来るんだぞ!!あんな痴態を晒しておいて、巨人化してるフィニンと互角にやり合ってんだぞ!どーしてくれんだ!」
「私に言われても困りますよ~。絶対にここまで来たら、殺されますよ。冗談抜きで……ワズーシャやエーブラック達は大丈夫かなぁ」
戦う身からすれば、野花壌というのが、ここまでの化け物だったのは驚き。もうすでに呆れてしまっているダースサン。あれがここに辿り着いたら、助からないだろうという予測はしている。おまけに壌の行動からして、ロバート裁判長の能力をある程度には見切られた感じだ。
相手を大きく制限できる力でも、そのルールを聞かれる事は確か。
ロバート裁判長が能力を多用にしなかったのには、欠点も分かる。
まず、効果が現れない例外がいること。
育の情報から、本人達にはその理由は分かっていないが、表原巫女がロバート裁判長のルールをすり抜けている事から穴が多いこと。
そして、使用回数の少なさからして、永続的なルールは組み込めず。その時間も決して長くはないこと(時間は分からないが)。おそらく、今はもうその適用時間が切れていると、壌と育は睨んだ。
ほぼネタが割れてしまうと
「言われた事を護られたら意味がないんだよ!!敵味方関係ないんだ!!」
だからこそ、フィニンとスターブの2名の到着を望む。
確かに野花壌の強さは異常であるが、巨大化しているフィニンは仕方ないにしろ、スターブ個人の実力においては信頼しており。
「あいつがここに辿り着けば、私をなんとかしてくれる!」
このフロアに壌より早く辿り着けば、彼の”本領”が発揮される。
それは壌と並ぶものだと、信頼している。
ロバート裁判長ができることは、壌を倒すかではなく、壌の動きを止めること。それに頭を巡らせる。敵味方を問わないこの能力で有効な手段を考えた時、フィニンの姿を見た……
「む~~~っ……!!」
ここまで来られたらマズイ。
だが、フィニンやスターブなどを巻き込みかねない。ペドリストも何をしているのか、……。
「ダースサン。スターブは強いよな?あいつが負けるなんてことはないだろうな?」
「そ、そりゃあ。……”人間同士”であいつより強いのはいないでしょ」
「スターブは壌を殺せるよな?」
責任重大じゃないか。……化け物同士をして、スターブの強さと異常性は認めている。ダースサンだって
「負けないですよ。というか、彼にこの場は懸かっている気が……」
いくら護衛に不向きな状態で巨大化しているフィニンと、壁に捕まっている状態で戦闘をしている壌がいかに化け物か分かっている。それでもスターブのサシでの強さなら勝てると、頷く。
「うおぉしっ。そうだよな!そうだろう!!あいつを信頼しているから、優遇もしてる!!」
ロバート裁判長もその意見に、自分の信頼も乗せて動きを見せる。
壌を足止めさせ、スターブとぶつける作戦。1階に落ちてしまい、一から上がって来なければいけないものの、壌と同じく人間的な異常性を持つ彼ならすぐに来てくれるはず。
これで決まった、次のロバート裁判長のルール。マイクを強く握って、島全体に響くように伝える。前に発動した時はフィニンとスターブはいなかったが、
『これより!誰も6階に踏み入れるな!”いいな”』
その法律が生まれた時、この島にいる者達に悪寒が伝わる。絶対に守らなければ、危険であるということ。
しかし、これを発令するということは、前回の法律はもう消えたと言える。これはロバート裁判長の能力の大きな情報と弱点を晒したこと。6階に誰も踏み入れる事はできないものの、制限時間なり、他のルールはしばらく作れないだろうこと。
壌が現状、5階に足止めされるだけ。
ロバート裁判長には、表原や寝手の存在に気付けていない。何かが起こっているのは理解しているが、それはペドリストとフィニン、スターブに任せること。自分が死ななければいいという覚悟の現れ……ある意味で、ビビり。
「今のがペドリストと協力した力というわけか……」
フィニンがそれを聞き、巨人化している自分を利用されてはマズイとすぐに城から離れてしまう。
「あ」
スターブを足蹴にしつつ、空中でジャンプする壌が。巨大化しているフィニンを利用して、7階にショートカットもできなくはなかった。6階に踏み入れる、間接的にいるだけでもやられる可能性が高い。
「も~~、面倒ねぇ。せめて、制限時間が分かれば始末して終わらせるんだけどぉ~~」
しばし、壌は5階で足止めを受ける。
フィニンは一度巨大化すると、すぐには元のサイズには戻れない。そのため、今は城の中に入るという事は実質できない。壌よりも先にスターブをロバート裁判長の下へ届ける役目であるため、
「不甲斐ない」
その任務は失敗し、自分もすぐには駆け付けられない事を悔やむ。フィニンもスターブに任せる他ない。
一階から地道に上がっていくしかない、スターブ。壌と同じく、異常な身体能力を持っている彼。城の構造を知っているだけに、ルートも最短。それに加えて、”息すら必要としていない”ダッシュで5階に向かう。
6階には行くな、ペドリスト(変な存在)には関わるな、という指令を守るスターブ。
「今度は上手く行かせねぇぞ、壌~」
一度、手合わせして……彼女の強さには、今まで感じない喜びが生まれた。間違いない同類であり、敵として現れるのは久方ぶり。
壌とロバート裁判長達の戦いも進んでいく中で
ガゴオオォォッ
寝手 VS ペドリストの戦いは、”昇っていく”壌とは逆に”落ちていく”戦闘となった。
両者の本気に殺意はなく、己の欲望に塗れているからだ。
……床が崩れていく衝撃が起こり続ける。




