Dパート
エロシュタイン島へ入るには、VIPルートか。商品としてのルートか。その2種類だけである。
VIPルートには、数少ない専用の”参加資格”の証明書が必要であった。
「えーっと……」
ブルーマウンテン星団が保有している”参加資格”は1名のみ。
これを持って、エロシュタイン島が保有している港から船に乗らざるおえない。
”参加資格”はそれはたまげるぐらいの金額で売られており、一度の購入でパーティーへの参加が自由にできる。……というほどだ。”参加資格”を盗まれようが、紛失しようが。特に再発行のないほどの金額を出さなきゃ、入手できないほどの価値。
「こちらがパーティーに向かう船ですよね?なんだか私、場違いで申し訳ないです」
「大丈夫大丈夫!!みこみこは可愛い!お買い物して、バッチリメイクもして、清楚なお嬢様になっているよー!私と一緒に楽しもーよー!」
「壌さんのお洋服も素敵です。私もそーいうの、一度は着ても面白いかと……ふふ。ビックリする徹さんも見たい」
「イケイケでしょ!まだまだここからぁっ!……っていう、美人2人が頼んでるんだよぉ~ん」
”参加資格”の数と購入者は、エロシュタイン島に記録されている。それとは違う名を持つ者が参加する事も良しとしてる辺り、参加方法は緩いのかもしれない。”参加資格”を係に見せた後、自分のフルネーム、出身国、紹介者などを登録。そして、乗船へ。
移動する船は決して大きくないが、それを護送する船が3隻。それも兵器を搭載している厳重ぶり。不審な動きがあれば、船ごと沈める事もある。VIP側は、世界の大物達・富豪・有名人。国に関わっている人物といったもの。
こんな豪華で混沌としたパーティーに、明らかな場違いと思っているものの……。
「ですから、そーいう事は……」
「なになによー!私はみこみこの補助者だよー!」
「いや、変質者でしょ?なんつー、カッコをしてるんですか?」
係の思わず、ツッコムくらいにはド派手で露出度がヤバイ服を着ている壌。そんな彼女が乗船の最中でトラブルを起こしていた。通常の船のやり取りではあっても、こーいうのはなかった。
「車椅子の方のご利用は……」
「あー、差別するんだー。プンプン!上の人を呼んでよー!」
「い、いけないですよ。壌さん。揉め事はやめてください!」
「揉めてないもん!普通にみこみこを乗船させないのが悪い!登録しているのは、みこみこ!」
後で知る事になるが、……表原からしたら、さらなる大激怒の行動。壌はなんと表原の母親である、巫女と一緒に乗船する気だった。初めて会ってから、意気投合して連れてくるという暴挙。当然、彼女の身の安全も第一。
「ボディガードだっているでしょ!!ここの参加者達!それと変わらないじゃない!」
「その方はちゃんと”参加資格”に人数が書かれていて、金額も払われているんです!」
「あなた達にみこみこのお世話ができると思うの!?私がいないとみこみこ心配だよ!男の子に車椅子の女の子を優しく扱えるの!?」
”参加資格”が2名で、ボディガードを連れているケースがある。それをしてないのに入島までさせろとは、運営側も困った者。しかし、巫女は車椅子での入港を希望。自由な参加を許すこともあり、障害の理由で拒否は難しい。
係の者が上の人間に問い合わせをする事に……。その間、巫女は壌に対し
「やっぱり、私にはいいですよ。本当の参加は、壌さんでしょう?」
「だめだめだーめん!まほまほだって行くんだよー。母親として、可愛い娘の姿を見たいでしょーよ!」
「それはそうだけど、……あの子、どこに行っちゃったのかしら?お父さんはホテルで酔ってるし……でも、他の子でも……」
「あっちはあっちで、あとで育つーりんと父親談義するよんよん!」
参加の遠慮を伝えたが、壌の独特なテンションに振り回される形で結局、向こうがOKするのなら行く決心を固めた。なぜだか分からないが、娘も参加するというのだ。子供は別枠と聞いて少し不安に思ったが、
「レゼンくんがいるし、そっちはそっちで大丈夫だよー!まだ近くに育つーりんがいるはずだし!」
「……そうですね。麻縫も少しは自由を楽しんでるもんね」
壌の事を信用して、麻縫とはそこで出会えると思っている巫女。彼女はエロシュタイン島がどーいうところなのかを知らされていない。
単純に仲が良くなったから一緒に行こうという壌の考え。これは80%、友達として思うところ(女性だって気になるとこ)。一方で20%は、自分が任務に当たる上で、本気でお客様としているわけには行かなかった。
参加者が自由に行動できるかというと、NO。それより入島はできるボディガードぐらいの立ち位置がいい。お客様は自分自身も含め、富豪クラスのVIP。お客様を傷つける事はそう出来ない。巫女にもそれ相応の対応があると思っている。
そーいう計算を、誰にも伝えないのはとても問題ではある。
「表原巫女さん。今、上の者と掛け合いました。船内でいる限りは、野花壌さんの乗船は認めますという通達がでました。島内ではお一人での行動となりますが、宜しいでしょうか?」
「え、壌さんは中に入れられないんですか?」
「島の中ってちゃんと車椅子で動けるのんのん?」
お客様が若い奴とは限らない。動ける奴等が来るのが想定されているため、車椅子での行動にそこまでの不便は現れない。しかし、島の中の事など係は知らない。しかし、
「いや、ダメです!できるのは船内までです!ホントにすみません!」
「壌さん………」
「う~~~んっ」
城の手前までみこみこと一緒に行けるかと思ってたけど、そこまで甘くないか~。
”参加資格”が1名様だけだし、猪野っち春っちの強欲~!でも、巫女が中に居てくれたら
「じゃあ、みこみこ!このお守りを大事にねっ!」
「え?あ、はい……」
「何かあったら飛んでくるからねっ」
壌が巫女に渡した謎のお守り。……というより、極小のGPS機能が詰まっており、巫女のいる位置情報が、島の外で待ってサポートに徹する育のところに送られる。島内ではVIPも含めて、電子機器の使用は禁じられ、船内で回収されてしまうからだ。裏社会の重要施設。大切なVIPにもそれに努めてもらう。しかし、意外な事に銃やナイフといった護身用の携帯はOK。暴れる相手もいるという事であり、自分の身は自分で護れるよう努めて欲しいのだ。
表原巫女は車椅子で城内まで入場する予定。
一方、野花壌は船までの同行は許されるも、エロシュタイン島へ入る事は禁止とされた。
ま、それを超えるレベルをやるのだから、カンケーない。壌の任務は、ロバート裁判長の始末だ。船を監視される事も想定している。
◇ ◇
ブロロロロロ
「お母さんと一緒にお買い物できたのは良いんですけど」
壌と巫女が船に乗り込む少し前。別行動として、表原は育と一緒に車で移動中。その前に家族と一緒に食事をしたり、パーティーに出るからと服選びと……
「お金も出してくれるなんていいですけどね……。あたし、14ですよ!なんでこーいう露出の強いっていうか?」
「若い内に着ないとダメになっちゃうよ。体が」
「どーいう意味ですか!」
「ははははは、いずれ分かるよ」
プクーっと頬を膨らませる表原。可愛い服を選びたかったのに、完全に汚いおっさんが想像しそうなエロい服をチョイスされた。というか、壌が選びやがった事にご立腹。
「お嬢様っぽいのがいいのに~……こんな薄くて大事なトコしか護ってくれない下着と、短いスカートって~~」
「お子様の好みと男の好みは違うんだよ」
「何冷静な口調で、女の子を絶望に叩き落してるんですか!?」
「そーいうジャンルもあるんだって!っていうか、そーいう子をね。商品としてだね」
「人権があるもんでしょ!!!やっぱり、あたしは止めたい!!」
嫌です嫌ですって断ったが。折衷案として、両方買ってあげるという対応に完敗してしまう。その上、母親の巫女も壌が選んだ服にちょっと興味津々という。
「だから、お前。……母親に似てるけど、内面は父親似なんだよ」
「うるさーーい!レゼン!!」
細かくは言えないが、表原は間違いなく父親似の性格であり、Sっ気は薄い。巫女は意外と根に持って、行動ができるタイプだった。
車内ではまだ普通の服だが、
「現地着く前に着替えは済ませてくれよ。俺は席を外してあげるから」
「あーーーーっ!こんな下着姿同然の奴、知り合いに見せたくないのに~~!」
「上着はちゃんとあるだろ」
「羞恥心だって有るよ!」
取引される前には着替えておくようアドバイスされる。
後部座席に座る表原は、改めて自分が着る服を見るのだが……、可愛いとは思えん。派手……ってか、ゲキ恥い。こんなの大人になっても着たくない。大人になるって分からない。
「ううぅっ」
壌と巫女のVIPルートと異なり、商品としての人身売買ルートによるエロシュタイン島への潜入となった表原とレゼン。
人身売買のルートはVIPルートとは違う船で行く事になる。外装だけはいいが、中身はかなりボロい観光船だと育は言う。人身売買の乗船には、”売り手”OR”売人”OR”仲介役”のいずれからの招待・承認が必要である。
基本は各国の売人を通して団体の子供・女性達で乗せられるケースが多い。
”売り手”は直接、子供の親族が販売人となり、仲介役は売り手の存在を隠して販売する方法だ(親に売られた事を子供に秘匿にするやり方)。
売人ルートであると多くの人間が運び込まれる分、扱いが良いとは言えない。しかし、”売り手”OR”仲介役”の場合は、扱いの良い運びをされる。1ルームに2人か3人と入れられる。
船の中での行動は部屋の中では自由。しかし、許可なく部屋から出ることは取引の失敗に繋がり、危険な目に遭う。そして、エロシュタイン島の到着までに20~30分毎に、見張りと目利きが来るそうだ。”売り手”から仕入れた人間は身なりや身分などもハッキリされており、何より綺麗な扱いとなり、そこから金額が上乗せされるとのこと。
表原は、野花育が”仲介役”となって、売られることになっている。
「育さん!!なんか凄いことになってますよ!」
「お金はホラ……君達に買ってあげた服に回すから」
「別料金で請求しますよ!あたしが独占します!」
「じょ、冗談冗談。……俺が”仲介役”の資格があるからな。本当なら島内まで入りたいけど、俺は壌ほど動けないからサポートに回るよ」
「けど、人身売買の資格持ちって。あんたも危険な奴だな」
「俺は仕事で!エロシュタイン島はな、政治的にも利用されてるんだ!まだ子供はそーいう事を深く知らなくていいよ!若さが一番!」
軽く言ったが、世界の悪党に繋がる話。レゼンは
「表原には関わりを持たせるな、あんた」
「分かってるよ。それは護る」
知らない話は知らない方がいい。随分と踏み込んでいるが、恥ずかしさなんかで済めたら天国なところなんだろう。
キーーーッ
目的地に着いた。すぐに育は、相手との話し合い。その間に表原はしょうがないけど、可愛い服じゃなくて、エロい服をアクセサリーも添えて着用。全身鏡で見たら恥ずかしくて死にそうになるが、
「うーっ」
「俺が服の中に隠れるスペースもあるし、これでいいだろ」
「けどさ~」
その後、育と怖い警護の者達と一緒に船へと運ばれる。その時、育はこの人達は自分が信頼できる連中と教えてくれた。だが、彼等も船の中にいるだけ。島に入ってしまったら、何もできないとのこと。
「今日は218名の輸送だ」
「随分と多いな。団体が入ったか?」
「売人側が187名、売り手と仲介役で31名だそうだ……パーティーだもんな」
こちら側の船には、商品としている人間達以外にも、アイテム、ドラッグ、危険物などを積載している。
商品の人間達の中にはすでに”ソレ”を使っていないとダメな人達もいる。
富豪達の、質の悪い趣味だ。
「表原麻縫。君はこの部屋に入れ」
「は、はい……」
案内されて入れられた部屋は、机と椅子、毛布。窓なしという……、囚人の移送にしか思えない作り。これでも良い方とは……。
1人で占有できるのなら広いと思えるが、あと2人来るらしい。
自分のような恰好だとしたら、
「まだ同情できるんだけど」
「……奴隷ってのは、服を着てるだけでも良いもんだ」
「そーいうものなの」
レゼンの言葉通り。売人側の人間達の環境は、表原がすぐに泣くくらい悲惨なものだ。結末が分かっているような、どす黒い絶望が積められた感じ。体の寒さよりも人生の凍結ぶりが伺えるくらいにだ。彼等はきっと、……。
ガチャッ
「あ」
待っていると、自分と同じ部屋になる人達が2人やってきた。
男女のペアだ。
女性の方はこれまた自分と同じく、恥ずかしそうな顔をして、猫耳と猫のしっぽ。すごーい水着を着ている。ちょっと寒そうに両肩を震わせている。男性の方は凄く高貴そうな、どこかの御曹司にも感じさせるオーラ。なんでここに運ばれたのか分かってなさそうなくらい、由緒ある家から来た身。雰囲気がこっち側には思えない。
「す、座っていいですか。寒いなぁ」
「ど、どうぞ」
女性がそう言って表原と向かい合うように座る。その声と恰好には
「んん?」
「ん?」
表原も服の中に隠れていたレゼンも、少し首をかしげ
「……あれ?」
相手の恰好がとてもイヤらしいもんだから、全然知らない人だと思っていたんだが……女性の方は聞き覚えのある声に、表原達と同じような呟きを……。そして、誰よりも早く見抜いたのは男性の方で
「君、……表原ちゃんかな?」
ずばり的中させた。
「ええっ!!?」
よりにもよって、自分を知っている人間に出会った。それもこんな格好で、こんな状況で。まだ、任務だからと割り切っているキッスや粉雪ならともかく。偶然にも出会うことで
「ね、寝手くんとアセアセさーーーん!?」
「な、な、なんでSAF協会と出会うんだよ!?」
「こ、こっちの台詞ですーー!?なんで表原ちゃんとレゼンがーーーー!?」
「……前の一緒の船に乗ってたのには気付いてたけど、同席になるものかな~~~?」
周りにもビックリするほどの大きな声をあげるのは、無理もない。そして、表原にとってはこんな辱めを知ってる男の人に見られた事で、相当なパニックになった。超死にてぇって、……恥ずかしいってホントに死にたいと思った。
この2名の出会いは、偶然ではなく、仕組まれたもの。それをなんとなく早期に察したのは寝手であった。そんな事ができるとしたらだ。
ブロロロロロ
無事に表原を人身売買のルートで潜入させた育。車を運転しながら、
「色仕掛けをして、相手に協力を求めるんだ。表原ちゃん。服は島に入ってからで良いんだよ」
野花財閥の乗船名簿を育が見た時。
死んだはずの伊塚院長がいる事を知り、ちょっと調べてみるとSAF協会の寝手達であったのに気付いた。金習側の人間ではないし、実力も確かであるが故。上手に扱えばこちらと利害が合うかもしれないと、育が表原と寝手達を同部屋にしてくれたのだ。




