Fパート
ちっぽけだろうが。
「クソ野郎があぁぁっ!!」
お前が世界を獲ろうが、変わらねぇよ。
こっちの相棒は俺のもの。
ドゴオオォッッ
「っ……そ、底力かい……君の」
もしかすれば、金習の想像よりもその上を行くか。
ナックルカシーもいよいよ、その”切り札”を使い始めたか。
劣勢の中、金習との格闘戦で打ち勝ち、その1人を壁に押し付けては粉砕してみせた。
「出てこい!次ぃっ!」
妖精との友情か。信頼か。
そーいう正しさを感じない。金習が見えたのは、ナックルカシーの狂気。
「おーおー、粘る粘る」
人を大きく前進させるのは、狂気だ。こうして命を狙われると、こんな命に
「価値を見せなくてはねぇ」
金習はナックルカシーの太い左腕を右手で掴んだ。その太さは金習の手で握り締めるには足りないくらいの太さであり、決して柔らかいものではないが
「!!?」
『なっ』
ナックルカシーの体を片手一本で持ち上げ、フリスビーのように軽い玩具感覚にして投げ飛ばすほどの怪力。すぐに反対側の壁にぶつかり潜水艦すらも動くほどのパワー。
「ぐはああぁぁっ!?」
連戦の度に。そして、残機が減ってく度に強力に成長と学習をする。金習の肉体変化を恐れず、意識をハッキリとさせているから。
ガゴオォッ
「!?」
金習の拳銃を握った右手が、ナックルカシーの口にぶっ刺さる。
その目で見た時。自分の口に銃口が入っている事よりも、震撼したのは金習の右腕が人の形状を保って、一気に伸びて来たのだ。あり得ない。人間の構造を超え始めてきた。
パァンパァンッ
ナックルカシーの喉を貫通する2発の銃弾。後ろにのけ反っていくところに合わせ、金習は右腕を引きつつ。今度はナックルカシーの脳天に銃撃を合わせる。
「ごぉっ…………」
右手の拳銃を捨て、ナックルカシーの首を掴んで強く握り締める。菓子を絶対に喰わせない事を徹底させる。その上で金習の方へとナックルカシーを引き寄せ
バギイイィィッッ
「悪いがこの辺で……」
彼を甚振る。というより、本気で潰さなくてはと思えるように。首を固定した上でのナックルカシーへの殴打。顔面を撃たれてもなお、辛うじて生きているナックルカシーが死ぬまで、続けるつもりであった。
まさにその時。
ゴオオォォォッッ
「??」
原子力潜水艦に異変が生じた。今、こいつは自動操縦で潜航しつつも金習の国に戻ってはおらず、海域の間でほとんど停滞しているような状態であった。
これよりも前に衝撃があったのも確かであったが、今回のは違うことを感じ取った。
「なんだろな」
まだ楽観的な態度ではあった。それもそうだ。
深海だ。到達するのなら同様な潜水艦は必要であり、これほどの原子力潜水艦に対抗するにはよっぽどのこと。
ゴオオォォォッッ
「!!っ」
その、”よっぽど”がある。
金習はナックルカシーとの戦闘のおかげか、これにはさすがに警戒をしたが。この中からじゃどうにもならないと察知した。
ゴウウゥゥゥゥッ
「な、な、なんですか!?この揺れと衝撃!!」
化け物めっ。そう思われた奴が吐く
「化け物めっ」
まだまだ足りない、自分の本当だった位置……。
◇ ◇
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「むむむっ」
『早く終わらせてやる!』
水中・深海・空気の制限。
おまけに相棒のイスケの力も決して満足に出せない。そーいう状況の中で
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うーーー!!」
キッスは力の限りを使い、深海にあるこの原子力潜水艦を海上へと運ぼうとしたのだ。自分の体以上の大きさでその重さすら、比較にならないが。
『さ、さっさとやるぞーーー!!もうサビサビしたくねぇぇっ!!』
「そうだな、イスケ」
海流の異常がさらに広がり、それはまだ先である海上にいるシークレットトーク達にも伝わる。
「みんな!ここから離れて!」
「結構、大きいのが浮上してくる!?」
「そ、それより助けて!!」
2隻の船は離れ、海上へ浮上してくるだろうキッス達を待つ。さすがに茂原は、ルルが回収してくれた。
水位の変化と海中から聞こえてくる轟音。
改めて引き上げさせられたら
「ホント、馬鹿」
シークレットトーク達の目の前に現れたのは、いかにも戦争を始めるといったレベルの原子力潜水艦。それを怪力1つで海上まで運んでみせるキッス。一気に上がってしまった原子力潜水艦は、すぐに入口を開いたのであった。
「まったく、どこの誰だい」
現れたのは金習と、仮面を被った3人の男達。合計4人は潜水艦の上に立って、周囲の様子を確認した。
大海原に船が2隻と空を飛んでいる少女が1人。
「ぷはぁっ。あー、疲れた」
『は、早く上がろうぜ!海水が気持ち悪いぃっ』
海上に浮上してきた、鎧の女。
この潜水艦を力技でやったのは、彼女か?とんでもない怪力だ。これほどの資源も考えられるのか。
……そうか、彼女が涙キッスか。南空が言っていた標的。
「!……おー、あなたが金習だな。初めまして」
「可愛いイルカもいるものだな。それともシャチか?」
キッスも金習の存在を見て、潜水艦に上がろうとするのを見る。これだけの事をやってのけ、今の手元にいる残機が4つ……。しかも、他にも仲間達がいる。原子力潜水艦を所持していても、こんなところでは機能しない。
「”小心(お元気で)”」
金習は一言の挨拶でおしまいにしようと思っていたが、金習の不気味さを見るか、まだ姿を出さない録路の事を含め。空中にいたハートンサイクルのミサイル攻撃、
「”獅子座”」
の標的にされていた。
潜水艦の外で逃げ場が限られた状況。飛び道具の気配もない金習にとって、遠距離攻撃は厄介な事であったが、
ギュウゥゥッ
「へ?」
金習がハートンサイクルに左腕を伸ばした。それはストレッチとかではなく、弾丸が飛んでくるような勢いで10数mもの距離を感じさせず、腕が伸びてきた。妖精の類がない人間が、そんな芸当をしてくるなど想像していないハートンサイクルは油断していた。
バシイィッ
「うっ」
宙を飛ぶハートンサイクルの右足を掴んだ。まだ、ミサイル攻撃が発射される前だった。油断もあったが、速度・反応も人間じゃない。ハートンサイクルはミサイルを具現化しつつ、金習と牽制し合う。
しかし、金習が警戒しているのは
「あー、ここまでは正当防衛でいいかね?」
海上で浮いているキッスに向かって言っている。自分の伸びた腕よりも、妹を掴むその手に。強烈な殺意。
金習の言葉を呑んでいるわけじゃない。
「ここは私の国の海域だよ。君達が長くいる事は危ない」
「…………で?」
「私も危ない。ここは仕切り直し。手を出すのは止めてくれないか?」
言葉の交渉がどこまで行くか分からないが、録路の姿が見えないこと。妹の危険を前にキッスは、
「潜水艦は置いていけ。そこに私達の仲間がいる」
「仲間?……」
その言い方は、金習を逃さない。とさせる言葉であった。しかし、
「構わないよ。これが勿体ないけれど、すぐにガラクタになるかもしれないね」
「!」
金習の思わぬ発言。キッスからすれば、逃げ場はないと思っていただけに抵抗を予想していた。
「っ!」
ハートンサイクルの右足を掴んでいた伸ばした手と腕を戻した後、金習と続く仮面を被った者達は海へと飛んだ。
「今回はこの辺で失礼するよ。また会おう」
「!」
海に向かって飛んだと同時に、波に抗うほどの脚力。飛び散る水しぶき。4人同時に
「人が水面を走ってる!!?」
海の上を走り、4人共別々の方向へ走って行った。近くに島なんてないだろうが迎えの船があるという事だろう。金習達が逃げていく様子を見て、キッスが潜水艦の上へと上がる。それと同じく、ルルと黛も潜水艦の上に着地。
「あいつ等を追っかけないでいいの?一人くらいさ」
「無駄だ、黛ちゃん。それに奴の言う通り、日本の海域を出ている。これ以上は問題になる」
「4人共、水面を走ってましたね。あれが金習って人なんですか」
「ああ。私達もさっさと日本の海域に戻らないと……」
バゴオォォッ
3人が集まったところで潜水艦の入口で大きな音が。黛とルルが構えるのであったが、
「心配するな」
キッスの一声の後。出て来た人間は
「はぁー……はぁー……やっぱり、お前等か……」
「録路さん!」
「しつけーデブ……」
「俺は死にかけだ。菓子をくれ……お前等。もう俺の手持ちにねぇ」
「治療よりも食うんかい!」
金習との戦いで瀕死になりそうなダメージを負った録路であった。なんとか耐えきった上で、自力で潜水艦の出入り口までやってきていた。
「ルル、黛ちゃん。北野川達の船をこちらに近づけるように」
「あ、うん」
「はいはい」
キッスの指示で一旦、ルルと黛は潜水艦から離れる。
周囲にはキッスと録路だけとなった状態で、キッスは2つほど尋ねた。
「金習という男はどーいう奴だ」
「化け物だ。今、いねぇのか?」
「4人共、海面を走って逃げた」
「なるほど、やりそうだ。……あれに妖精を利用されるのは、俺はムカつくな」
「あまり良い予感がしないのは同意だ」
あの録路が仕留めきれないどころか、逆にやられるという実力者。レイワーズとはまた別に、警戒しなければいけない。しかも、国の権力者と来た以上、迂闊な手出しは混乱を招くな。妖精の存在を権力者に知られると危険とは、よくよく父が言っていたな。
「……そうだ、録路」
「?改まってなんだ?」
「お前にだけ、頼みたい事がある。嫌だったら内容は言わんが、内容を聞いたら引き受けてくれないと困る。どうだ?」
「…………物騒だな。あの金習を殺せって事なら、むしろ俺にやらせろ。連戦だったのもある」
「依頼したい事なんだが」
…………………………
キッスが録路に依頼した事。
「……はぁ?」
「私やルル、表原ちゃん。ましてや、北野川にはできん事だ」
「汚れ役かよ」
「頼む。期日は特にない」
それはとても、今の状況でやるべきじゃない事だ。
次回予告:
濡利:私と椰子葉の挿絵はなしですか。(今回のCパートくらいの予定だった)
金習:時間がなかったらしい。作者がリアルで忙しい状況との事だ。
椰子葉:それは構わねぇーが、俺とか雑過ぎね?
金習:本来なら、二人共最終戦の手前までってところだったんだが、レイワーズ戦を同じ時間軸で3つも同時にやった関係で、大幅に前になった。(ホントは金習戦が最終手前)
濡利:そして、その関係で用意されたのが……
ナチュセンコ:私が後任の2人の代役を務める形になりました。まぁ、粉雪や南空さんとは戦いませんけれど、急ピッチで出来上がりましたとさ。私も一人二役なんだけど。
金習:次回はそんな2人の舌戦と、エロい島のお話さ
ナチュセンコ:次回『仲間に売られて潜入しちゃいますよ、イケない島の本気かよ!』
金習:ほのぼのとしているといいね




