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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第48話『五つ巴③、録路VS金習』
181/267

Dパート


「”理不尽”」



金習は妖精の力を目の当たりにした感想は、まさにソレ。

しかし、どの口が言ってんだと言いたくもなる金習の特異性。



「理不尽も良いところだ。君から感じるのは、とてつもない暴力であるが。とても才能や努力……もちろん、許されるような心の持ち主には見えない」

「お前が言うな。”民族虐殺”とかしてたと聞いてるぞ」

「私のは必要な犠牲の上であり、彼等が逆らったに他ならない。むしろ、世界が私のように優れていればいいし、私の優秀さに貢献できたことは功績なのだよ。どうあれね」



才能と努力に、清らかな心があるかと言えば、そうとも限らない。

時には他の者が嫌う悪意が根源にあって、その才能と努力が活きる事の方が多い。

金習のそれは幼少期からの英才教育や特殊な環境下だからこそのモノであり、録路のそれはまったく違う。



「運命の出会いなどとは、愛し合う以外では辞めてもらいたい事だね」

「ロマンチックなところ悪いが話し合う気はねぇぞ」



金習のタダなるぬ雰囲気を確かに感じ取ったナックルカシーではあったが、明確なジャネモンとかの力は感じない。人間の中で異彩を放っているだけと見つつも、ナックルカシーは全力で人間を超えている身体能力のまま、突進していった。

金習の目はナックルカシーを凝視しつつ、タックルしてくる体。こちらに向ける左の肘。


ガシィッ


「あ?」


ナックルカシーのタックルが金習の両腕で止められた。そして、徐々に勢いを落とさせ、止めてしまったのだ。

最初はナックルカシーの左肘を止めてから、ゆっくりと左足へ。金習は右手で抑えるようにして止めた。膝蹴りでもかませそうな状態だが、



ギュゥッ



ナックルカシーは左足をより踏み込んで、軸足としてしっかり固定。体を無理矢理開くように回転させ、金習の上胸部分めがけての右のハイキックを繰り出した。やや強引。しかし、パワーで押し切ろうとして図ろうとしたのは、戦闘する脳がパワーよりも調べたい事があった。ナックルカシーは金習の頭を見ていた。彼の視線は最小限で、ナックルカシーの体全体を見るように動きが少ないが、人間の動体視力や観察眼なんてモノじゃない。



ドゴオオォォッッ



「っ!……ん~、痛い」



防御が間に合ったが、ナックルカシーのパワーでガード越しでも響いている。言葉と共に真実であるが、ナックルカシーは不気味さを感じる。

身体能力の優位を活かし、左のアッパーを



「それはフェイク」

「!?」



フェイクとして、金習の体が後退したところを緩急つけて、右ストレート。


「おっと」


その読みをさらに読み切ってか、右ストレートに移る攻撃よりも先にカウンターとして、金習から一歩踏み込んでの左の貫手が迫る。明らかに攻撃を止めにきた攻撃。



バシイィッ


「お」


その左手を、ナックルカシーは反射的に自分の左手で掴んで、そこを基点に金習を振り回そうと力一杯になる。ステップを踏みつつ、半回転して



「おらああぁぁっ!」



金習を投げ飛ばした!

滅茶苦茶な体勢での投げなため、引き離すためにしか見えないもの。金習にダメージはないだろう。難なく着地し、一呼吸して。


「うははは、凄い緊張だなぁ。これが戦いか~」


体を動かせる喜びとか、強い相手と戦っている喜びとは違う。

金習のその笑顔と発言からしても、これまで戦ってきた事の相手とは異なる者だとナックルカシーは分かった。


「ただの人間じゃねぇってより」


こー言った方がいいだろう。


「お前等は人間か!?」


それくらいの戦闘。本来ならナックルカシーにぶっ飛ばされていいところがいくつもある中、金習は劣るもついてくる。その雰囲気も不慣れなのか手練れなのか。

そんなナックルカシーの疑問に、金習は腰を落としながら拳法の構えをとった。



「戦えば分かる。そー学習している」



体は相手に向けて半身。前に出る左足と突き出すようにしている左手。右手は後ろが開きながら、高い位置に持っていく。

本気で拳を交えようってんなら、冗談が過ぎるとナックルカシーは、拳が届かない間合いで思う。

身体能力の差は明確であるが、謎の経験値から来る対応力が金習にある。拳法の構えはしっかりとされているが、両足が動く気配ない。誘っていると思われるが、……。

スーーッと、金習の頭近くまで上げていた右手が下がり始めていく。

やがて、ナックルカシーの視線から隠れ、再び金習の右手が現れた時。



「分かってるじゃないか!!」



その右手には拳銃が握られており、拳法を繰り出すと思わせての銃撃。



パァンパァンッ



銃撃を見切り、接近するナックルカシーに対し。金習は足を止めて彼を迎えている。銃弾程度ではナックルカシーは止まらず、両手を合わせて変形させる。


「『蟻守皮ありすがわ』」


煎餅のような色となるも、硬度は鋼鉄級。作り上げた巨大なハンマーが金習の左側から襲い掛かったのが



パシッ



「君にも色んなバリエーションがあるようだな」

「!」


ナックルカシーの能力込みでのパワーに対し、金習は拳銃を握っていながら


『か、片手で受け止めた!?』

「左手だけで止めるかよ」


いとも簡単に金習の動きは、見切りとは違った能力によって止められる。

受けられたナックルカシーからすれば、この感覚は


「慣れか?学習か?」


金習に触られた時、生物の体温や感触を感じない。しかし、内部で流動的に変形している。

事細かく。細胞が喜んで動くみたいに。こいつの全てが、俺を止めたというデカイ表現。

この場でただの人間が、この世に生まれて来てはいけない化け物。それを相手に悟らせつつも、



ギュウゥゥッ



「!?」

「君は……」



金習に攻撃を止められてから握られる。

握手に近い馴れ馴れしさ。だが、生物と生物。人間と人間のやり取りじゃない。商品についたバーコードを読み込む、スキャンのように握られ調べられる。その何気ない事を恐怖に思わせるプレッシャー。


「うぉっ!」


ナックルカシーがゾッとし形状変化を解いてまで、後方へと飛んだ。


「なんだ。全然、分からなかったよ」

「!」


高速のバックステップを行った直後に、拳銃を眼前に突きつけられる程の俊敏性。金習は異常な速度で成長していく。学習していっている。



パァンッ



ナックルカシーの顔面を撃ち抜いたと思われた銃弾。しかし、間一髪でナックルカシーは避けるほどの対応を見せる。こんな距離まで詰めて来た金習の体を横から床へ転がすように倒す。その様はまさに道連れ。


「うおぉっ」


必死な表情で金習の両肩を抑えつつ、自分が圧し掛かるようにして、金習の動きを封じる。

問答などせず、金習の頭を


「『盾神たてがみ』」


右手をチョコ状に変化させて、棘のような先端を作らせる。棘付きのメリケンサックと言えばいいだろう。材質はチョコのようにトロトロに溶けて変形したかに見えて、カチコチの冷凍チョコにも瞬時にできる。

ナックルカシーには珍しい”貫通”を狙った攻撃。対人をより意識した攻撃にシフトしたのは、それだけの必死だ。



バヂイイィィッ



両腕も抑えられた状態の金習が、この一撃を無防備にもらい。殴ると刺すを合わせた攻撃に無事でいられるわけがない。血も骨も、脳みそだって吐き出してくたばった。それは事実であり、死んだ金習がいれば



「万が一を考えて手札を見せる。その若さで修羅場を良く知る。良い判断だ」



現れる金習が出てくる。

彼が引き連れていた仮面の連中の1人が、仮面を外して晒す姿は。



「そうかよ、マジかよ」



金習なのだ。付き添っている仮面の連中は



「お前等が、”全員”、お前かよ」

『!ええぇっ!それって、残りの6人が……』


全ての金習なのだ。



◇              ◇



虐殺とは見せしめ、虐殺とは見られない歴史の詳細。

概ね、人間達の狂気。その集大成が、一つ。



「古くからある王朝の存続がそうさせたのか。あなたの遺伝子は、人間に”近い”と言える」



脈々と血の流れを保ったことと、それによる執念が宿ってしまったのか。

人間誰しも憧れる、不老不死。未だ疑似的とされてはいるが、やがては完成させそうな予感。人間という超生物な素体、人間という超頭脳が神域と踏み込もうとしていた。



「老化に留まらず、あらゆる病気・今後発見されるであろうウィルスにしても、あなたは克服できる」



生きると死を循環させる、不老不死。

それは記憶・経験・それらを科学で保管し、別の人間に差し込む。アンドロイドのような人に寄せた形の生命体を用いた、疑似的な再現。そこを飛び込んでいく、生命体。

誰も生きていない時代になっても生きられる。オリジナル。

夢やロマンを詰め込みたいのはもちろん。そこに人間達の狂気が必要だ。



「極めて、”理不尽”」



”あなた”は最初、拒否をした。

とても。とても。

世界でたった一人の特別である事に誇りもなく、周りと同じ人でしかないという同族な思い。


「しかし、あなたが生きる事は、未来の人達を救えるに繋がる」

「……………」

「これも必要な犠牲。世界の半分の30億人と死んでも、それ以上の幸福が生まれる。今を考えてはいけない」


なんとしても、”うん”と言わせたい事だ。

これは地球にいる人間の全てを賭けるべき、プロジェクト。

希望のあるプロジェクトに、人間の狂気が宿った時。そのやり方は想像を超えていく。人間に不可能という文字が少し、可能に近づけばどんな手段も、どんな非道も、己自身も壊れて歩んでいく。歩き出す。


権力・資金・資源・時間。


足りない多くを補うためか、戻ることをさせない。代々と復讐や怨念が続けるためか。

その一環である。

世界を変えるのは、非道な暴力・虐殺であり、恐れからルールを作る。それこそが目的になる。世界の多くが知る必要性はないが、世界を動かせる存在達はそれを知って、ルールに準じなければならない。



一部の民族への虐殺は、計画の狂気と彼への耐性を強め、屈折しても折れず砕けぬ信念を。

政治的な圧力を、武力に言わせて支配しなければ。世界全てが計画にならないことを。

有用な資源を奪い取るため、装飾もない名目で武力侵攻することも。

世界への影響力を強めるため、自分の国を他国に作り上げることも必要。



金習の計画は、完遂かんすいさせなければならない。



NOや戻る、立ち止まるは終わらせてはいけない。

進歩は急速に走り、ブレーキを壊した。

その壊したブレーキを作った科学者達は納得の上で昔に死に、金習が担う形で世界でも10数人の富豪・権力者は賛同した。



夢の1つである不老不死とよりよい世界の繁栄を。

無限に等しい資源は必ず有る。不老不死になれる生命体は存在する。

そこに多くの犠牲と資金・戦争を起こしてでも、”よりよい”世界を作らなければならない。



……その”よりよい”ってところに、人類の多くは参加していない。

彼等は、この世界の中で動いている一つの生物に過ぎない。



◇          ◇



疑似的に。不老不死。

疑似的に。無限の資源。



人間の頭脳をかしこくするよりも、さかしくしたような言い回し。どっちも同じに近いが、後者は否定もできる。

人類として力ある者は、やがてそれを掃える出来事・偶然・機会を待っていた。



ドスウウゥッ



「…………君、強いな……」

「うっせー。……はぁー……」




3人目の金習がナックルカシーに殺された。

”盾神”による、拳の貫通が金習に有効だった。とんでもない速度で成長を遂げてくる金習でも、物理的な法則を無視するような超常的な生命体ではあらず。しかし、それは今のところでしかもないが。



「あと4人!とっとと来い!」



奴等の付けてる仮面は学習装置みたいなもんか。そいつを外しちまうと、互いに経験や知識を共有できない。だから、奴等は一人ずつこっちに向かって来ているわけか。

にしても、こいつ等はなんなんだ?人間じゃねぇよな?改造人間アンドロイドのような存在か。

どこまで成長しやがるんだ、こいつ。妖人の範疇に入っているぜ。



カランッ



「強いな。名を聞きたい」


仮面を外した新たな金習はナックルカシーに名を尋ねられる。


「調べりゃ分かるだろ。バーカ。権力者さんよ」


ナックルカシーは拒否し、4人目と対峙する。

濡利達からの連戦を考慮すると、ナックルカシーの強さもこの場で相当な跳ね上がりを見せてはいるが、ナックルカシーの強みである”菓子を食べて”の能力強化は、すでに金習に晒している。

今、ナックルカシーにとって、考えたくもない金習の奥の手。それが可能なんじゃねぇかと、心のどこかで予感している。



”ここにいる、こいつ等が全てなのか?”



それはYES。事実、彼の別動隊がキョーサーの全てを奪い取って、討ち果たした。

だが、もっと言えば



”こいつ等は、どうやって増えているんだ?”



という人間でも、生物でも。

雄と雌があり、数億の精子に卵巣が絡んで出来上がるオリジナル。そーいう神秘な競争をしてきたような雰囲気に見えない。人を攫って、人格を壊し、肉体を科学で弄んで、生まれたような産物であるのなら。今、この時は……ホッとする。

それなら来ねぇ。

そーいう安心は裏切られるもの



「君が強すぎるから」

「こちらも犠牲は必要だ」

「!!」



これまで仮面を付けていた連中は沈黙をし続けていたが、ナックルカシーへの危機感からか。金習という生命体が持つ特異性からか。そして、キョーサーの能力を得てしまったからか。本来以上に速度と正確さが出てくる。



ジュブブゥ



排水管で鳴りそうな音を出しながら、後ろの金習達の背中から生成されていたのは奇妙な管。

その大きさはストローほどに小さいものであったが、金習達の体内から人が動くエネルギーを放出しながら蠢くナニかを作り始める。


「!」

「余所見はらしくないな」


ただでさえ、1人の金習を始末するのですら時間を要するナックルカシーだ。

1人1人の戦闘力には気を抜けない。元々の戦況が、ナックルカシーに不利であるのも事実。確実な疲労・蓄積・重圧。



パァンッ



「っ~~」

「左胸に銃弾が直撃しても貫通しないか」

「やろぉっ」

「さらに反撃か。大した精神力はある」


致命傷にぜず、拳で反撃に転ずるほどの強者。それを支えているのが、妖精個人の性能とは思っていない。濡利達をナックルカシーにぶつけたのも、調べるためだ。



バギイイィィッ



「ぐおぉぉっ!?」


ナックルカシーの疲弊に対し、体力の底などを疑似的に感じさせない金習の個人的な差。

急速な成長・学習を含め、ナックルカシーを蹴り一発で原子力潜水艦の壁にまで押し付け、艦を揺らす。明らかにナックルカシーのパワーに対抗しうる肉体を持とうとしていた。

深海という空間で脱出する術などないからこそ、ナックルカシーの神風ばりの特攻は容易に想定できる中。



「はてさて、君に信念を感じる。やはり、本質的には私と似たような……」

「あん?」



金習は勝ちを確信する。そして、ナックルカシーにとっては絶望的な事が前方。待機している金習達の行動で悟れる。恐れていた。


『ええっ!?に、人間が。人間を産み出してる!?』

「言葉違うだろ、マルカ……だが、なんだありゃ……」


金習が、自らの肉体を犠牲に2人の自分を産み出しているとも言える光景。

成人男性に近い裸かつ培養液でもついているような体が、金習の管から産み出されている。


「人間かよ」

「性別や人種の関係などなく、人間ができるほど効率的で安定した思想ができるものだがね」


ナックルカシーの疑問に、金習はこれまでの多くが納得できる理想な答えであり、同時に人間を超えている領域からの答え。

さらに金習が増えるというのならば、どうしようもない。

ナックルカシーが諦めるような、肉体にかかる力が抜けても仕方がない。これ以上のことは……。

金習が追い討ちをせず、貴重な存在を前に尋ねる。



「人間は”資源”だ。だが、”人権”などという人未満のカス共が五月蠅い。何もなせない愚か者」



そう罵った上で、



「それらを世界が認める”資源”になれるかどうか、今。見極めたい」

「?」



金習の目的。

それを逃げ場なく、勝ちの目なんてないナックルカシーに告げたのは、彼なりの敬意である。人を従える者は、他者を死へと追い込むのではなく、実力を認めて勧誘する度量かもしれない。そんな心理かもしれない。


「”妖精”は、人間のためになる”資源”になるか?」



そんな問いをナックルカシーへとした時。



ゴゴオオォォッ



この原子力潜水艦の外部から、大きな揺れを引き起こす爆発が起こっていた。




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