Aパート
『手土産?』
まだキョーサーが存命中のこと。
どうして、金習とキョーサーがコンタクトが出来たかというと
『ふーん、それなら良いだろう』
キョーサーが早くに濡利と椰子葉に接触しており、金習と会いたい事を切望していた事もある。
そして、この時にはすでに濡利も椰子葉も、一度はキョーサーに取り込まれては体内でジャネモンへと改造されていた。イチマンコの命令を二人が聞かなかったのは、本当の主人がキョーサーであったからで効果的な裏切りを与えられた。
多忙な人に会ってあげるという条件を満たすのは大変なこと。
キョーサーはやってのけたが、……結局は金習の底知れない生命としての違いを見せられて、死亡する。
金習が求めていたのは、ジャネモンと呼ばれる怪物とそれに使役する妖精の力。
自分が学習するためでもあるが、もう1つ。世界の支配者として、自分が優れているだけではできない事があるからだ。
キョーサーの懇願していたような出会いよりも、”以前からの付き合い”を優先した形もあって。
今、原子力潜水艦の中で起こっている事は、金習の理想通りのテスト環境。
危険な戦場になりそうな広いフロアで、観戦するためか椅子を出して
「さぁ、3人共。戦ってくれよ。私達は端で見守っている」
金習は戦いの開始を促す。
「言われるまでもねぇ」
ナックルカシー VS
「金習様」
「あぁ~~?俺はお前の事を今、ハッキリ言うぜっ!!死ね嫌い!!」
濡利 + 椰子葉。
2人共、伝説級のジャネモンである。
濡利は一定の範囲を、沼や泥のように変換させる能力。一方で、椰子葉はその能力をまだ見せていないが、怒れる感情を活かした能力である事を思わせた。
金習に対して、怒りに任せた本音を吐く。吐かれた当人は、それも彼の個性だと思って笑ってあげ。聞いている濡利はため息をこぼしていた。
この怪物になっても、金習の命令に従う2名。
いつかはこうなると、分かってはいたのだ。
スゥ~~~
椰子葉が息を吸い込むと同時に胸部が膨れ上がった。
怒りの感情を集めているように思える行動。力を溜めていると
「隙がでけぇっ!」
モロバレしている行動に、ナックルカシーが待ってやるわけもない。椰子葉の胸部を蹴り飛ばし、彼の空気を吐かせる。
原子力潜水艦という閉鎖空間。それも乗り込んだ瞬間から、海中へと潜って行かれている。
「ぐはあぁっ!お前っ!このやろう!!デブの癖に素早ぇっ!」
「……お前が悪い、椰子葉」
「お前が悪い……そんな言葉ぁっ!!俺の大嫌いな言葉、ベスト2だあぁっ!!妖怪爺っ」
音が響く環境だ。打撃や斬撃といった攻撃ならナックルカシーはやり過ごせるが、音のような特殊な攻撃はパス。味方事巻き込む可能性も、椰子葉の怒り具合から察してはいた。
その上で、相性の悪さから言って。妖怪爺こと、濡利を始末する事をナックルカシーは選んだ。
2VS1の状況ではあるが、椰子葉の攻撃が鋭く強くても、サポートを前提としたアタッカー。そのサポートとして沼のような力で動きを封じてくる濡利の能力は厄介。
通常の戦闘ならばだ。
バヂイィィッ
「お前等に勝ち目はねぇ」
「!」
周囲が海中かつ大きくても潜水艦という閉鎖空間。ゴリゴリの接近タイプで戦うナックルカシーからすれば、搦め手を得意とする相手を逃がさないで戦えるこの状況は、大きく有利。2VS1というハンデは確かにあるが、2人が息ピッタリというわけではない。
濡利と接近戦ができ、その上で逃げられない状況。
分からないのは、金習の動きではあるが。彼等はただただ観戦するだけ。なら、目の前の敵から葬るのが常套手段。
バギイイィッ
「があぁっ!」
ナックルカシーのパワーに飛ばされ、天井にぶつかってから、床へと叩きつけられる濡利。
身体能力の差は歴然としており、動きを止める隙が欲しいくらいだ。
「互いにちょっとは硬ぇな」
一方でナックルカシーも、濡利と椰子葉に思いの外、手こずっている。それもそう。相性と状況から言えば、ナックルカシーの優位は数では覆せないのだが、伝説のジャネモン級となった2名。頑丈さは相当上がっており、瞬殺するに至らない。
2人を同時に相手どっているのも、瞬殺ができない理由でもある。だが、目を離さないで済むこの空間なら、相手のチャンスを潰せば勝てる。
「…………」
あいつ等は動かねぇのか?
なにを考えてやがんんだ?
ナックルカシーの懸念としては、金習の観戦である。奴が只者じゃないというのは、キッス達からも話を聞いている。ただ、どーいう化け物かまでは分かってはいない。彼への注意も怠らない。
そんな中で
「濡利、椰子葉」
「!金習様……」
「お前等、その怪物の姿になったんだ。彼をその程度にしてたら、妖精の凄さも分からないだろ?」
「……けっ。俺からしたら、テメェの方がよっぽど怪物だよ」
「…………椰子葉」
金習の言葉で、濡利と椰子葉の二人が気を引き締め始めた。
それで、ナックルカシーをどうにかできるわけじゃない。
彼等、生まれ育った国が違う中で、金習に付き従っているわけ。それは単に、自分に利益があったため……。
それでしかない。
だが、1つ。気にかかる事を知りたかった。
人間は……
◇ ◇
一方。まだ、病原菌を蒔く雨が降る中。
金習がキョーサーを完全に撃破してから、白岩達の動向も変わって来た。
月継を討つことから、回復優先の長期戦へとシフトした白岩達。月継が白岩達を積極的に攻めて来ないという事もあって、未だに生き延びてはいるが、
「はぁー……はぁ~……」
「ちょっとーー!レンジラヴゥ!!しっかりしてくださーい!」
「アセアセの背中にいると、ちょっと落ち着いちゃって……」
「私はずっとあなたを担いでいるんですよーー!私がため息をつきたいです!」
白岩の不調が終わらない。
妖人化すらも解いて、アセアセに背負われている状況。アセアセは驚きつつも彼女に文句を言っているが、
「っ…………」
白岩の胸ってすごっ……じゃなくて!じゃなくてね!……凄い熱と汗が出てる。
私や寝手が無事なのは、彼女がいるおかげだとしたら。文句を言っても護らなきゃいけない。街の皆さんを助けるためにもです。
「寝手ーーー!早く、抗体を作りなさーーーい!」
「言われなくてもさ…………待ってよ」
今、住民達はアセアセと白岩のおかげで、全員を一か所に集めることができ。彼等のデータを参考に寝手が抗体を作成中であった。
「もうちょっとなんだけどなぁ……」
寝手にも病原菌の影響が出て、不調があるのは確かである。あと少しと行ったところであった。もし、こんな状況でエフエーや月継が襲い掛かって来たら、一溜りもない。
バギイイィィッ
山中の遠くから聞こえる、何かが割れた音。そこに目をやったアセアセ、
「う、う、うわぁぁんっ!!寝手寝手!大変ですぅ!ムノウヤの空間が壊れましたぁぁっ!」
終わりだ!これはムノウヤが負けてしまって、解除されてしまったんだと錯覚してしまうアセアセは号泣し狼狽える。だが、
「あれが負ける姿を想像できるのかい?勝ったんだよ、ムノウヤ達が……」
負ける事を考えてたら全滅だ、これ。
「!っ……」
「わぁっ!レンジラヴゥ!あ、あ、あなたはジッとしてていいですから!」
「でもね…………っ!」
ムノウヤの真意は不明だが、SAF協会とは利害関係でしかない。むしろ、人質に近い形でいる白岩だ。こんな弱りきった状態で、ムノウヤとぶつかってしまえば殺される。だが、足掻いて見せるような戦意を出した。
そして、ムノウヤの影の空間が解かれた事で、反応を見せる奴もいる。
「おっ!ついにエフエーが出て来たか!遅いぞ、馬鹿野郎!!まったくよぉー!」
違うぞ、月継……。
「ようやく、使いこなせるようになってきたんだぜ!」
両足が2頭の蛇の姿になっている月継のジャネモン化。最初はその行動を上手く制御できなかったが、時間をかけることで制御のコツというのが分かって来た。そして、自分のフルパワーに発揮できると自信満々。
だが、月継は白岩を狙うよりもエフエーとの合流を優先した。それだけ、彼女の強さを警戒しているからだろう。得られるモノだけ持って、帰るのがいい。
そんな戦況ではあったのだが、もう1組いるのだ。
「……あたし達の勝ちだよ」
「え?」
「はははっ、遅すぎるなぁ」
白岩と寝手は同時に気付いた。そして、アセアセも遅れながら気付いた存在。
「やーっと、来たようだね」
「別に待ってもなかっただろ?お前の方は……」
戦意を失って逃亡したエフエーの事など、あれくらいで十分だと判断してしまったムノウヤは興味を動かし。ようやく来てくれた存在にトラストと一緒に顔を向けるのであった。小さい姿であろうと、そんだけデカイ……
「えっ!?なんですか、あの部屋は!?檻!?丸ごと、持って来てるんですけど!!」
「ルミルミちゃん。ヤバ過ぎでしょ……」
使い手がいない妖精達が収容された部屋ごと、涙一族の里からここまで高速で運んできてしまった。
「はぁー、はぁー。みんなは大丈夫?……邪念の気配が多いし、濃いし、飛ばしてきたよ……」
さすがに本人もヘトヘトであり、すぐに戦うような状態にあらず。しかしながら、ルミルミの帰還である!
間違いなく、この場で一番の主導権を持つ存在が来たことが、SAF協会の勝利を確定づけていた。
だが、そんな事など月継は知ったこっちゃない。
「待ってろ、エフエー」
月継からすれば、ルミルミの存在は夜ということもあって、飛行船みたいなものだと勘違いしていたようだ。実際、ルミルミの体は小さいのだから見えてはいなかったんだろう。
視覚的には……。
自分のおかれた状況など分からず、月継はその両足を使ってエフエーを追いかけていく。
『ギョギョギョギョギョ』
『ジゴゴゴゴ』
月継の命令を聞いて、素直に言う事を聞く蛇達。道路を素早く高速移動。
慣れてしまうと走るよりも楽で速いことに
「うはーー!すげぇっ!快適~!」
月継の笑顔が眩しいくらいの喜び。戦いに勝ってなくても、何かを達成したという喜びを楽しんでいる。
だが、そんな喜びもすぐに……
「ん?」
カーーーーーーーッ
この夜を一気に白い光が照らした。
街全体を覆った時。目が眩んでしまう者達が多くいたのは事実。月継もその一人だ。
「うぉっ!?眩しっ!なんだ、こりゃあっ!?」
何も知らぬ者達にとっては理解できない閃光。しかし、知る者にとっては
「はぁ~。せいぜい、死なないでよね」
特に白岩は、本人がいないところで、応援をしてあげた。
月継が目を瞑ったことで移動条件を満たし、彼の目の前へと現れた。月継からすれば、どこのどなたでどーやって現れたんだと思う相手。危険な雨が降る中で、その雨よりも間違いなく危険な男。
「テメェか?ここの異変を作ってる、ジャネモンはよ」
「なんだなんだ?テメェは……」
月継の前に立ちはだかったのは、槍の妖精であるアタナを握る男。此処野神月であった。




