Eパート
そもそも。
「なぜ、エフエー様と戦う?」
トラストがここに遅刻したのは、ムノウヤの妨害に遭っていたからだ。
ムノウヤの力を使えば、エフエーのような強者を感じ取れる事もできる。先回りされて戦って
「強いからだ」
そんな理由に、トラストは訊き返す。
「前々から気になっている」
そんなに強者を求めている割に
「なぜ、お前は白岩印と戦わない?お前とエフエー様が組めば、確実に勝てる。懸念材料の、此処野も今はいない」
寝手とアセアセがこの戦いに介入するとは思えず、此処野がそうするかもとトラストは思っていた。
SAF協会という組織の中を見て、やはりリーダーシップに欠けた、個人主義共の集まり。裏切りも批難されやしない。白岩も覚悟している事だろうに
「いや、無理だね。彼女は僕よりも強いよ」
「白々しい」
ムノウヤのウソを容易く看破し、それに対する答えとして、ムノウヤの首を剣で撥ね飛ばしてやった。
血ではなく、黒い影が液状となって、宙に舞ってから、粉のように背景に溶け込んでいく……。
その様を見せたムノウヤであり、トラストはそんな彼を眺めずに。こんな自分にめがけて、刃を振るってくるエフエーの方に意識を向けていた。
ガギイイィィッ
「エフエー様」
「トラストぉぉ」
手加減なしのスピードに反応したのは見事として、エフエーは会話をしてやった。
「お前の方こそ、どーいう事だ?」
「……………」
「白岩印を殺せと命令し、なぜ達成しない!?」
「……………」
「勝てないなど、言い訳だぞ。殺しに勝ち負けは要らん!!」
やはり。
そーいう思惑をトラストが感じなかったわけではない。自分はジャオウジャンから、白岩印の抹殺を命令されている。それを見逃してくれる主人であらず。
「結果全て」
「よく分かっている」
トラストとエフエー。
接近戦に加えて、後方には今にもエフエーの龍が衝撃波を打ち込もうと、口を大きく開けてエネルギーを溜めこんでいる。それを阻止しようにも、近距離でエフエーの剣と小太刀の斬り合い。
口に小太刀を咥えるという形、四足動物のように低い体勢から猛攻を仕掛けるエフエーの攻撃は、トラストの左手首を切り裂いた。剣で握っている手首を斬られるということは
「!!っ」
「本来なら、”斬られぬ箇所”を斬られた、その事実は?」
逆立ちしようが、トラストにはエフエーを倒すなどあり得ないこと。余裕を持って実力差を分からせる。
トラストが傷の具合などを確認するまでにエフエーは、トラストに下に潜り込むように入り、ほぼ垂直に打ち上げるハイキックを彼の顎に叩き込んでみせた。
トラストが宙に浮き、防御も回避もままならぬところで、
エフエーの神速からの蹴りと斬撃の連続攻撃。敵を通り過ぎ様に葬ってみせる、必殺の手段。
メリイイィッ
「!」
手応えに違和感を覚えるも、エフエーの攻撃でトラストの動きは完全に封じて、そこに至近距離まで大きな口を近づけて放つ、龍の熱光線がトラストの体を全身で貫いた。
ゴオオオオォォォォッ
「ファルルルルル」
業火と突風。
中心を巻き込んだトラストの姿は一切なく、その先には炎だけとなっていた。
全体の場を一気に明るい地獄と化し、日の沈んだ景色と時刻だったのを忘れさせた。
龍の方はその破壊に満足をし、快感の余韻に浸る顔になったが
「まだだ」
「ファルル?」
「奴等は生きてる」
エフエーの気を引き締めさせる言葉で、ハッとする。
トラストの力量ではどうにもならないものではあるが、
「一瞬ではあるが、トラストは自分の剣で今の攻撃を吸収し、若干軽減した」
その証拠か。本来ならトラストが巻き込まれた地点の中心が半球を描くのだが、W状の妙な地形で炎と風が走った痕。しかし、それは可能な限りの軽減であり、エフエーからすれば
「吸収できる最大の容量を超えたがな」
全てを吸収できずに、その残った威力は容易くトラストを吹っ飛ばしている。
致命傷が確実なのだが、それを阻んだ奴がいる。
燃え上がる炎に寄ってたかるのは、黒い虫のような蠢く存在。それらが水の役目を果たすのか、石の役目を果たすのか。炎は消えていき、風も止んでいく。
「トラストが気を利かせたのに」
その言葉は闇の中。影の中。
エフエーと龍の後ろに、ムノウヤと傷ついているトラストが地面に広げていた影の中から、ゆっくりと現れる。
振り返るエフエーに対して、ムノウヤは
「まぁ、君達らしいかな。トラスト、どうする?」
「……邪魔を、……するな……」
「ふふっ、邪魔させてもらうよ」
悪戯な笑みを見せる。トラストのほんの少し、可愛く、そう思わせる心を折る声と言葉をムノウヤは聞きたかった。
「………礼は言わないぞ」
「あぁ、そんなの要らないよ」
まったくの関心を寄せていない。傷ついたトラストの事に心配をして、
「僕は君の体を癒せない。辛いだろうけど、いいかな?僕の楽しみが優先で……もちろん、あいつを”存分に楽しんで”殺しちゃうけどさ」
「……好きに、しろ……」
エフエーにはどのように二人が映ったか。仲間のやり取り。ムノウヤ個人のわがまま。そんな、他者の気持ちが想像つきそうなこと。
対峙する元ジャオウジャンであるムノウヤと、エフエーの精神エネルギーの派生で生まれたトラストには分かる。
「だそうだ、エフエー」
二人のやり取りや関係など知らぬと。エフエーはその神速と小太刀でムノウヤの体を切り裂いてみせるが、
「これから君は」
ムノウヤは体を斬られようと、口から言葉を出す。それは興味津々。どうなるんだろうか、どうやってくれるだろうか、ワクワクに包まれた期待を込めて
「僕の玩具だ」
ズパァァンッ
ムノウヤの言葉とは裏腹に、その体はエフエーに幾度も斬られて、四散していった。
「やってみろ!ムノウヤもトラストも、ここで処分してくれる!!」
怒りに近い表情。自分のことを、”そーしてくれる”、そんな事にエフエーは苛立ち、部下であるトラストの言葉に許せなかった。
ズズズズズズズ
大地に広げていたムノウヤの影が空に向かって雲のように昇っていく。それはムノウヤ、エフエー、トラスト。彼らが暴れるに十分過ぎる領域でのこと。黒い影を触れる事ができないが、皆の視界はこれに奪われていく。
「な、なんだあの黒い球体は!?」
「山火事があったかと思えば……今度はなんじゃありゃあ!」
ムノウヤ達が戦うその外側では、街の人達がムノウヤとエフエーの戦いの凄まじさに驚愕していた。とてつもない突風と山一つが吹っ飛んだ現象。大火事。その大火事をかき消す、黒い影の質量。
その影が大きな球体となって、山一つ分の大きさになっている。
外側からは、誰も手出しができないような空間を作っていた。
外のことは分からないが、つまりは
「ムノウヤ。お前を殺せばいいだけだな?」
「え?君に僕を殺せるって?御冗談を~……」
影に覆い尽くされた、この空間。
ムノウヤは告げていた。
”ここは僕の体”
◇ ◇
ムノウヤ + トラスト VS エフエー。
その戦いが災害クラスとなり、周囲への影響力は計り知れない。
「い、一体。あの球体の中で何が……」
「人のようで怪物のようなのが……」
近くの住民達が混乱するのは無理のない事であった。その不安がる表情が、徐々にではあるが、眠気に誘われているような顔つきとなっていき
「あれ……」
「あー、あ、……」
「あったような、なかったような」
災害が起きた後となれば、それがいつ頃起きたのかを忘れるくらいの時間を感じてしまうと、いつもの事になってしまう。
多くの者達は今。今起きている戦いが昔にあった出来事だと、思い込み始めていた。
そんな情報操作・記憶操作をやってのけるのは
「行かなくていいのかい?白岩ちゃん」
「あ、煽るのはダメですよ!寝手!……というか、妖人化でそこまでの事を……!」
寝手食太郎の妖人化、フーロンの仕業であった。
そんな彼でもこのような無理矢理な記憶操作には限界もあり、人数制限や記憶操作の禁を大いに破って発動しているため、相方のアセアセが名前の通り、焦りながら心配するのであるが、当の本人は気にしていない様子。
あれだけの出来事を普通の事にしている、寝手にも驚かされるが
「あたしはここにいた方がいいです。戦ってるのは、ムノウヤとレイワーズの誰か」
「ふーん……」
「寝手くんの記憶操作は、住民に害はないですか?」
「可能な限りは何事もないように」
「いや、超無理してるでしょ、寝手!そもそも、フーロンは感覚操作がメインです!記憶操作までやったら、寝手の体と精神が!」
その心配を他所に寝手本人は、アセアセの胸をさわさわしながらこう言ってのけた。
「僕は天才だよ」
「胸触りながら言ってたら、変態ですよ!!」
顔を真っ赤にしながらもアセアセは、しょうがないって感じで抵抗を少なめにしてあげる。寝手がこーいう表情でこの言葉を発するとは大真面目だということ。
「ううぅ。分かりましたよ~、好きなだけしてください……」
「え~、その薄いリアクションだとひくわ~」
「なんですかぁっ!もうぅぅ」
泣きながら胸を揉まれ続けるアセアセ。そんなやり取りになんら感情を抱かないで白岩は、
「そっちは任せますね……」
その言葉を最後にどこかへと向かった……が、旅館内に自分で用意していた部屋に入ったのだ。
「……ふー……ふー……」
その部屋でへたれるように座り込んでしまう白岩。息がやや荒れており、汗の掻き方も通常とは異なっていた。
誰もいない事を確認しつつ、この体調を整えたいところではあったが
「こ、困っちゃうなぁ……ヒイロ……」
いかに白岩印という存在が、妖人としての才覚がずば抜けていても。彼女の相方である、ヒイロも同じく天才と呼ばれる者。
”レンジラヴゥ”の能力。
ヒイロとの距離が近いほど、圧倒的な強さを得られるのであるが。
「副作用が早いよ」
その距離が近いほど、レンジラヴゥに加わる強さが高まるが故、本体の白岩印が崩れてしまう諸刃がある。だから、白岩とヒイロは現在、別行動をとっている選択にしたのだが。
いくら二人の距離が離れていようと、ゆっくりとではあったが、確実に白岩の体をヒイロの力が壊し始めていた。
ヒイロは離れる白岩のため、自分の力のほとんどを白岩に貸し与えていた事。これがなければ、此処野達を纏めることはできない事ではあったが。監視などの役割となると、常に回ってしまう毒を抱えるというのは辛い。
「はー……はー……」
トラストとムノウヤ、此処野など。自分の命を狙う者達が今、動ける状態でない時。感じてないフリをし続けた振る舞いに、神経をすり減らしていた。
今ならほんの少しと思っているが、そう回復できるものでもない。
寝手とアセアセを治療するのも、決して簡単なものではなかった。
「フーッ……」
自分がこうなった時。ヒイロは、
『キッス達に助けを求めろ。それなら白岩は生き残れる』
それが次に。ヒイロに。どーいう選択をとらせるかが。白岩には分かっているから
「ないよ。絶対」
だって、それは悲しい。今だって、とても来て欲しいって思っている。でも、二度と会えない事は嫌だった。
ヒイロが助からない選択は自分で選びたくない。きっと、辛い。体の不調よりも……自分が壊れてしまう。
絶対に死なないし、絶対にヒイロと一緒に……。
「頑張ってるし、頑張ってるよね、ヒイロ……」
別れる前に約束したこと。
その実現を夢見て、”まだ”戦わない戦いをしている。
白岩がここで選んだ行動は、本人からすればヒイロを信じ切っての事。しかし、その他からすればあまりの危機の連続で命をいくつも落とす判断だろう。
その危機の1つとして、放置されていた1つの危険の存在が。
メギギギギ
「あー。使いたくねぇなぁ~。エフエーの奴は、あの球体に入っちまったようだし」
お昼に白岩の手によって、山から車ごと投げ飛ばされた男。
「あの巨乳っ子が白岩印だな?とっ捕まえて、特別に看病してやるよ。えれぇー、でけぇ乳だ。マジハンパねぇ」
古野月継が意識を取り戻し、白岩印を正確に確認した事で、ふざけた雰囲気を捨て、躊躇していた”ジャネモン化”を使う決心をしたのだ。
その発動を行うと、古野の体は変化していき。契約者である、エフエーと似通うかのように
『ギョギョギョギョギョ』
『グゴゴゴゴゴゴ』
月継の体から生えてくる生物が2頭。
青い色のシャチのような尾ひれが月継の背中から生えていき、月継の両足が2頭の赤い蛇のような生き物に変化していく。
月継の意志で2頭の蛇を制御できないため、彼にとっては実質、両足を奪われてしまう姿に不便を感じてしまうが、
「さーって、使ってみるかぁー」
戦いとなれば、そのハンデをものともしない凶悪さを誇る。
「……あ、白岩の居場所が分かんねぇんだ。まぁいいか。こっちから仕掛けりゃ動くだろ」
プシューッと、両足の蛇から出てくる煙のような鼻息と、青い点滅を始める尾ひれ。
エフエーの強みと異なって、サシの戦闘よりも拠点を丸ごと襲う戦闘を得意としている月継の能力。
◇ ◇
SAF協会とレイワーズの戦闘が、互いのやり方で長期化する中。
その深夜に、
「無事にできたようだな?」
「あんたはあたしに近づくな。教えてやったでしょ」
一定以上の距離を置いてなら、言葉を交わす事を許している。
「キョーサーは”そこ”で何をするわけ?」
「おいおい。まるで私を怪しむような……」
「メーセーを喰っておいて、そーいうのは良くないんじゃない?」
イチマンコはこれから涙キッスの命を狙いに行く。
そして、彼女がいる場所もイチマンコの能力で特定し、自分が使える部下を2名用意したところまで準備した。
キッスの実力がどれくらいかなど、考えもしていないが
「あんたは要らない」
「酷い言われようだ。私も涙キッスを狙っていただけ」
「私を狙ってるんじゃないの?」
「この前も言っただろう。お前を喰おうという気はない」
そこにキョーサーも同行するってのが気になっていた。
メーセーを喰っているのだから、今度は自分も喰われるという結末を警戒している。
「私にキッスの居所を聞いてくるし……」
「お前の金さえ用意できれば、何でもやりくりできる能力は便利だ」
「そのアイデンティティを奪おうってんじゃない?」
「それしかないお前には興味がない」
「…………」
ふーーっと、鼻息を荒くして、イチマンコはもうキョーサーを無視して出発する事を決めた。
「別ルートで来なさい。真正面は私が陣取る」
「そうする」
派手好き。目立ちたい。そんな思惑もあるんだろうが、イチマンコは正面から堂々とキッスと戦闘を行うとする。それがとても好都合か、キョーサーは別の手段でキッスを狙いに行く。
イチマンコが部下2名を従えて行った後。
キョーサーはとある港に向かっていた。別ルートもそこから行けるものであるが、
ザザ~~~
朝日昇る大海原。その海原に1隻の漁船が沖合へと出た。その漁船の先端にいるのは、キョーサーであった。メーセーの能力を借りて、近隣の人間達を操って海へ出ていた。
向かう先にいるのは、
「なんだ……漁船?」
「一体なんだ?」
国内外への警備・警戒としている、海上自衛隊の巡視船。一隻の漁船がこんなところまで来るということはない。巡視船はキョーサーに警告を入れる。
「コラーー!そこの漁船!止まりなさい!!これより先はこの国の領海を超える!」
「…………」
戦闘の意志がない警告。
キョーサーはそれを見抜いており、先手を打っていた。防衛に徹するというのは、攻める側の何倍よりも難しい。それ故、”攻められない”ほどの防衛が求められるもの。巡視船は漁船ばかりに気をとられており、海中で起こる異変を知った時には遅かった。
ゴポポポポポ
「な、なんだ!?渦!?」
「お、おい!揺れてるぞ!」
キョーサーの両足からは小さな管のようなものが無数に生えて、それが海に入っていた。その管が膨れ上がっては、ポンプのような働きをしてキョーサーの体内に取り込むよう働く。
「……塩辛ぇ」
管の先端にあるのは、不気味な顔を持った存在だった。それらが口を開き、海水を取り込んで不規則な海流を生み出す。その海流はやがて、巡視船すらも飲み込みそうな渦を作り出す。
海水を飲み込み続ける不気味な顔が、時折海面に浮かべば、ピラニアやサメのような獰猛な眼や奇声を発し、巡視船にいる者達を脅かす。
「よ、妖怪かよ!」
「な、なんの化け物だよ!」
海洋生物というより、深海の生物と思える姿。渦に飲まれ、身動きがとれない巡視船を取り囲んでは、キョーサーは襲い掛かった。
ガブウウゥゥッ
巡視船をケーキでも見立てているのか、四方八方から汚く喰いまくり、船も人もなんでも食い尽くしてはキョーサーに吸収されてしまう。
「ふぅ~……」
漁船はさらに進むが、その前に。巡視船を食したキョーサーは重要なモノだけを取り出すように、管から食べたモノを吐き出していく。
喰ったものを取り込む事もできれば、喰ったものを加工・変換して取り出すこともできる(消化前なら)。
キョーサーの頭部が膨れ上がり、マスクを取り外して口を大きく開き……。
ギョゴゴゴゴゴ
噛み砕いたはずの巡視船ですらも復元して、海上に浮かべる。取り込んだ際に汚れを落としている分、吐き出したという行為に反して清潔にしている。そして、惨く取り込んだ人間達に関しても
「ん~。パーツが混ざってしまったか」
おそらく、ワザとと思える。巡視船にいた人間達もごちゃ混ぜにした状態で、人間として吐き出した。
そして、キョーサーの能力だけではここまでだったが。メーセーを取り込んだ事で、人間達の教育・洗脳に関与できるまでになる。喰われた事すら忘れた虚ろな瞳となって、
「キョーサー様……」
巡視船の者達はキョーサーを迎え入れるようにしていた。
対象の捕食から、吸収・洗脳。レイワーズの1人として、十分過ぎる実力を見せつけ、その心にある思惑ほどの彼の邪悪はないだろう。キョーサーは巡視船に乗り換え、領海のその先へ進んでいく。
「……そろそろか」
定まらぬ領海。
警告を破ってやってくるという違反に対し、巡視船とは比べられない脅威が現れる。
それが明らかな危険を予測して来たというより、出迎えに近い形に思えるのは。警告も何もなく、脅威が海中から浮上して来た事。キョーサーが巡視船を乗っ取りからとても手早く、異変が周囲に気付かれていない事も含め。
ザザザ~~~~
巡視船を押しのけ、ひっくり返そうとする波。
浮上してきた、大型原子力潜水艦にキョーサーはニヤリと笑って
「ようやく、出会えるようだな」
早く顔を出せと急かすようにしていたが、潜水艦の方では動きなし。巡視船を沈める事など容易く、キョーサーだって殺せる。それでもあえて、待ってくれる。手招いてくれる。
キョーサーの方が待てず、潜水艦の上部まで跳んでしまい。早く中に入れるようにコツンコツンと蹴りを入れていると、ゆっくりと出入り口と思える場所が開く。それに罠など考えず、キョーサーは潜水艦の内部へと潜入。
居住区にでもできそうなくらい、広い潜水艦内部。その先へと進んでようやく、
「ようやく、出会ってくれたね」
「……お前が金習で良いんだな?捜していた。それはとても……他の旨そうなのを我慢してでも、求めた奴」
周りに誰もおらず、金習ただ1人がキョーサーを出迎えていた。
敵地の中にいる状況。それでも金習も、たった一人で巡視船を喰い散らかした怪物を待っていた。
キョーサーからしたら、彼ほど自分とマッチする”宿主”の存在はいないだろうと、体が熱く疼いてしょうがなかった。それとは違う意味であるが、
「面白い存在がいると聞いて、その案内を探していたところに。渡りに船……」
「ここは潜水艦じゃないか」
金習としても、出会いたかった存在。
その姿だけで異形な怪物と分かっている。金習はこれより先にキョーサーが近づく事を許さないでいたが、キョーサーはそんな事をお構いなしに金習へと進んでくる。暴力の絶対を分かっている2人。野蛮さに
「は~、おいおい。マナーがなってないなぁ。怪物にはないのかい?」
「私の”宿主”になれば、それでいい」
「情報をくれないとね。……君が濡利達と交流したのは知っている」
視線が近づき、キョーサーの口が近づき、金習は顔を下げて目を合わせやしなかったが、警告した。
「……止めなよ。後悔するよ」
「穏便に話し合う、柄じゃないだろう?」
「…………だから、止めなって。”私1人”を相手にしてもさ。君の同類なんか、いっぱいいる」
「ああ、そうだろう」
金習の警告をキョーサーは聞かなかった。
「まぁ、その”宿主”とやらに私がなってやるさ。涙一族の連中にも用があるなら、君に食われる事も良い」
「…………ああ、全て任せろ」
ガブウウゥッ
キョーサーが、金習を丸のみするのであった。
彼から感じ取れる力、邪念に、……
「ん?なんだ、お前達……」
酔いしれそうになるが、潜水艦の奥の方から感じる無数の気配に興味を持った。
確かにこの原子力潜水艦を金習1人で動かしているのはあり得ない話。金習に護衛がつかないのもおかしなこと。金習がキョーサーに食われた事でやってきたのは
「……不思議な気分だ」
ゾロゾロとやってくるほどの人数。キョーサーとは違った方向にある、同じ柄の不気味な仮面を被った連中がキョーサーの前に現れた。
金習の護衛を任されている連中だとすれば、大失態。
その仮面連中の1人が、キョーサーに話しかける。
「はてさて、死んだのか?生きてるのか?」
「……何を言っている?何者だ、お前達」
今食べている、金習に匹敵する邪念を感じさせる連中。
喋る1人は仮面に手をかけ
「外すか、外さずか。キョーサーと言ったな。どちらがいい?」




