Dパート
ブロロロロロロ
月継はスポーツカーで白岩達がいる街に普通に入っていく。
彼女達の宿泊施設とかは分かっていないが、ひとまず。
「温泉だーーーーー!!」
もう旅行者の気分でいた。
ここには珍しい温泉があるらしく、それを楽しみにしている模様。まだ時間は10:00前。物騒な事をするわけだが、人らしく楽しんでいる最中。
カポーーンッ
1人温泉は寂しいもんだが、身なりと気持ちのリフレッシュは生きる上で楽しめる事だ。
温泉・サウナ・絶景とは言えないが海を眺める時間。
「ふーーーーぅっ」
風呂上りの牛乳1パックの一気飲み。
「くーーーーぅっ」
洗われた体と流れる汗に染みてくる牛乳。
その後に女をナンパしにいく……。
「と、いきたいんだがな」
田舎過ぎて、ほとんど地元民しかいない。ドストライクな可愛い子ちゃんには会えず。海も近くにあるから行ってみるかと思ったが、強い日差しと潮風には当たりたくない体。温泉から出た直後でもある。
涼しいこの旅館で居続けるのも違うんだが
「山でも登るか」
白岩達を見つけなきゃいけないが、時間もまだまだある。近くの山道をスポーツカーでつっ走るのも面白いかもしれない。
……つーか、よく考えたらエフエーの奴は部下を通じて、相手の姿とか分かってんだろ?ズルくねぇか?
俺は何一つ、可愛い子ちゃんだけしか知らんし。
「試験かよ」
エフエーが名前と大まか過ぎる性別しか伝えなかったのは、怪しまれないためというのもある。
意識の有無とは非常に大事である。
ブロロロロロロ
月継が旅行ガイドを見ていた時。ここらへんの山道を上手に周っていくと、サーキットコースのように丁度1周できる道になっていた事を知った。昔にトラック運転手もやっていて、安全運転を信条としているが。それ相応の見栄を張りたい運転というのが何処かある。
強い風に当たりながら、自然の偉大さを肌で感じつつ。
「ヤッホーーーーーー!!」
童心に変えるかのように叫ぶ。
空に近づいたような山頂の景色も良い。
もうこれ、ただの一人旅している観光客である。車こそスポーツカーではあるが、旅の中身はとっても貧乏な感じの一人旅。
「はー、はーっ……もう、12:00過ぎたな。つーか、13:00じゃねぇか」
時間とはあっという間だ。約束は18:00に決行となっているが、まだ相手を見つけてすらいない。
そもそもどんな女の子かも月継には分からず。
車内でスマホの動画を聴きながら、どーするかを考える。いちお、本人なりに真剣な気持ち。
「んーーーっ……」
とりあえず、昼飯食いに町に戻るとして。
残り5時間切って、白岩って女の子を探さなきゃいけない。エフエーには場所分かってなくても、標的が分かってるみたいだから。むしろ、エフエーを捜した方がいいか?
……いや、ダメだろ。つーか、エフエーは龍が髪にくっついてんだから、街中の潜伏には不向きだろ。時間になったら来る気だろ。というより、
「あの野郎。俺が自分から”ジャネモン化”するよう促してんだな」
”宿主”となって得られた能力を1度使ったが、それは伊塚院長や田熊勇雄ほどの広範囲な攻撃ではないが、街の1つや2つを覆えるくらいの範囲がある事は感じ取れた。
無差別の攻撃に白岩を巻き込みさえすれば、あとはエフエーがやるという判断。
彼の思惑である接近は、何も白岩が対処可能な格闘戦の間合いじゃない。
「やなこった」
エフエーの意図が分かった上で月継は拒否するつもりだ。
自分が楽しければそれでいいが、他人を巻き込むようなマネはそうしたがらない。どこか臆病な性格が出た。もちろん、得られた力は使うのだが……。
ちょっと困ったところ。白岩印を知らない事がこれほど困ったことか。それを分からせるかのように、月継はとんでもない事を思いついた。
「……!そうだ!あいつがいるのを忘れてた!!知ってるかもしれない!」
スマホの動画視聴を止めて、急いで”ある人物”に電話を入れる。連絡がとれるか分からなかったが、粘り強く月継は電話を続ける。4回ほど続けて、向こうから根負けするかのように
ピッ
『あの~。私、仕事中なんですけど?どーいう用件ですか、兄さん』
「おー!明継!!悪いなぁ!」
『元気そうに悪いことやってるんでしょうね』
そう。弟の古野明継に電話をしたのであった。着信拒否をしてないだけ温情ある弟さんだ。
敵になってしまった兄が唐突に訊いてきた事は
「お前、白岩印って知ってるか?」
『!!……兄さん。馬鹿な事は言っちゃいけません。ですが、兄さんって馬鹿でしょ』
「お!やっぱり、その反応は知ってるな!」
『ちょっ。何をしようというんですか?あの、喧嘩吹っ掛けるのは止めた方がいいですよ』
兄のハイテンションぶりに対して、それは死刑宣告されてるのと同じだと感じている弟の、声の違いがよく分かる。
しかし、兄である月継にとってはそんなの関係ない。
「写真とか持ってねぇか!?あと4時間くらいでそいつを捜さないといけないんだよ!」
『ないわけじゃないですけど、戦っちゃダメですよ』
「いーからいーから。貸せって!連絡先でもいいからよ!」
この時。兄からすれば、弟の大事なもんを奪いとっちゃうような行為に思える。しかし、弟からすれば、危険物を面白がってとっていく兄に思える。
そーいうモノを
『あ』
「なんだ」
『ちょっと待ってください。っていうか、兄さんは白岩さんの近くにはいるんですか?』
「そうらしいな」
『少ししたら、こちらから”電話”するんで』
兄に対して、ロクな死に方をしないと宣言した弟だ。それが現実味を帯びて来ているのだから、もうそうなってろって感じに切り替えた。弟との電話が切られて、5分。
「あいつ、電話よこさねぇな」
10分
「…………」
30分
「くーっ、……くーっ……」
1時間経過!
「腹減った~~!すぐに電話が来ると思ったから、ここで待ってたのによ~!」
月継は仮眠をしつつも律儀に待ったのであるが、弟からの電話は来なかった。すっぽかされたと思ってしまう。腹の減り具合からもう街に戻ろうとした頃。
コンコンッ
「あのー。すいませーん」
「ん」
全然、車が停まっていない駐車場とはいえ、長時間使っているからか声を掛けられたと思った月継だったが。
「うおっ」
なんという、爆乳っ子!!こんな大きなおっぱいを持った女の子なんて、俺のナンパ、女付き合いの歴史からも見た事はねぇ!なんつーもんぶら下げて、車の窓を叩いて声を掛けて、しかも幼い顔つき。これ、歳は20いってないだろ!反則おっぱいを使ってるな!
そんな感じに声をかけてきた女の子についての印象を見る月継であり、女の子は名乗らず
「えーっと……あ、時間って分かります?スマホとかで」
「あー。待て待て」
月継は言われるがまま、車内にあるスマホで時間を見せてあげつつ
「14:16だな。俺丁度、街に降りて飯食おうと思ったんだけど、一緒に降りてかない?」
ドライブのお誘いをかますのであるが、女の子は月継に興味を示さずに、そのスマホに注視していた。なんていうか、時刻にも焦点を合わせておらず。どちらかというと、月継がスマホを握る左手に……。
そして、女の子は何か決めた表情を見せるや否や、思いっきり、右手を車内に突っ込んだ。
バギイイィィッ
「はぃ?」
フェラーリのサイドガラスを右腕でぶち破っては、その勢いのまま、月継の左手首を思い切り掴んで
「いでででっ」
「ご、ごめんなさい。あなたのスマホを借りたかったんです!」
「な、な、なんだ!?」
月継のスマホを奪いとるや否や。女の子はしゃがみ。
「街に降りるならそーしておきますね」
「はぁっ!?」
よっこいっしょって。感じの力でこの車を持ち上げると同時に。
「街の駐車場に着地するように投げまーーす!!」
「なにいいいいぃぃぃぃっ!!!?」
車内にいる月継ごと、山の上から車を投げ飛ばしてしまうのだ。
「な、な、なんだあの子はーーーー!?やり過ぎだろーーがーーーー!!」
月継に声を掛けてきた、この人物こそ。
ビイイィィッ
「もしもし、古野さん?」
『白岩ちゃん。ごめんねぇ、驚かせちゃって』
「いえ。いいんです。……でも、お兄さんなんですよね?」
『いいのいいの。あれくらいで死んでくれたらラッキーなんで……ともかく、私の兄がこれからあなたに迷惑をかけると思うので、注意してくださいね。レイワーズの一員になったばかりなんで』
月継から先に奪っておいたスマホに、古野明継が電話をかけ。それに躊躇なく出た白岩。
かなりの時間が掛かったが、白岩との連絡に成功した明継。
白岩に狙われている事も含めて伝え、彼の相手を頼むとした。
ところでどうして、白岩と古野が情報のやり取りができたかというと……
「表原ちゃんは助かったんですよね?」
『君と連絡できる本気を使えるくらいには、ちゃんと私や野花さん達が手当てをしたよ』
「良かったぁ……ホント……」
『けど、君も気を付けてね。表原ちゃんが死にかけるくらいの相手なんだ』
表原麻縫。マジカニートゥに協力をしてもらったからであった。
◇ ◇
17:40
日が沈みかけようとする時。
エフエーは山中である人物を呼んでいたのだが、
「遅い……」
その人物は遅れていた。そう思っているようで、状況からいって、すっぽかしているんじゃないかとエフエーは考え始めた。
怪護がやられた事を気遣っているのとは違う。不始末。不手際。
なぜ遅れるのか?その疑問については
「お待たせして申し訳ございません。ジャオウジャン様……エフエー様と言うべきでしょうか」
「わ~~、ホントに僕の同類が来てるねー」
エフエーが呼んだ人物を、執拗に付き纏う存在がいるからだった。
「……トラスト。私は1人で来いと言ったはずだが?」
「ファルルルル」
エフエーの表情に対し、髪につく龍は好戦的な表情になる。
「時間がなかったため、こうして来てしまいました」
「やー。気にしなくていいよ。ホントー」
呼び出されたトラストと、彼についてきたムノウヤ。数え方に違いがあるが、ジャネモンというくくりならば同数の2と2。
エフエーはトラストの動きに妙な感じをしていて黙っている。それに気付いているのか、トラストは
「白岩の居所でしょうか。ご案内いたします」
月継とは違って、トラストを経由して案内してもらえれば、迷いなくベストタイミングで強襲できる……。
ここにいる4名と月継で白岩に気付かれぬ事無く、襲い掛かれば
「……どうかしましたか?」
「戦意が消えていない。むしろ、初対面から高揚している」
なんでついてきた。なんで連れてきた?
そーいう疑問をトラストに訊かないで、エフエーは……。先ほどからウズウズとしている表情をつくるムノウヤに尋ねていた。その表情は明らかにエフエーに向けられている事に気付いている。
「案内よりも前に、ムノウヤ。どうして、私達にそーいう敵意をみせる?なぜ、トラストはそれに気付かない?お前は私の部下であり、同類」
「かはっ……はははは」
尋ねられてから笑ってしまう声を出し、ムノウヤは……。
背中から飛び出す黒い影と共に
「お前、強いだろおぉっ。僕と戦わないかい!ドキドキゾクゾク、胸が躍って苦しいだよぉっ、今ぁっ!」
「…………そうか」
「ファルルルル」
エフエー VS ムノウヤ。
明らかな敵意をエフエーが感じ取っている中で、ムノウヤの隣にいるトラストの不思議な違和感。微動だにしていない動きだが、徐々に彼の姿が影に変化していき、ムノウヤに取り込まれていく。
この場にいたのは、ムノウヤだけであった。
エフエーからすれば、なんの得もない殺し合い。だが、本来の戦闘スタイルとなるべく、小太刀を引き上げては口に収める。後ろにいる龍もまた衝撃波を放つ態勢へとなる。
その戦闘態勢にムノウヤのテンションはさらに上がる。エフエーが聞かずとも、ムノウヤはただただ純粋に
「強い奴とはぁっ!!戦いたいぃぃっ!!」
エフエーに対して無防備過ぎるくらい直進しながら、この戦いを求める理由を叫んでいた。
圧倒的に強い。そーいう存在だと自負しているようだが
「理解に苦しむ」
ズパアァァッ
言葉と共にエフエーはムノウヤの目と体では追えぬ速度で、切り刻んではムノウヤを通り過ぎる。そして、追撃というには大きすぎる衝撃波がエフエーの龍の口から斬られたムノウヤへと放たれた。
静かでも激しく動くムノウヤの影とは違い、大きな衝撃波は
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
山の2つ3つを揺らすほどの突風が吹き荒れ、街にも襲い掛かっていた。
ガラアアァァッ
「わぁ、窓が!」
「壁も傷ついてる!とんでもねぇ風だ!!」
住民達も近くにある建物に避難したり、掴まったりしてやり過ごすも。窓が割れたり、電線のいくつかが切れたりと……。
街からは遠い山中での攻撃の余波がここまで来ていたのだ。
「ファルルルルル」
地面に大穴をあけ、風の攻撃故、土煙も酷く。……エフエー達にはムノウヤの現状が見えていない。それはムノウヤにも同じく、大樹のような大きな影を作り上げ、その成長と同じくらいに枝分かれしていく、影の刃が数百と現れる。
「ん」
相当深く落とされたムノウヤの位置から影の大樹を生み出し、無差別に周囲を切り裂こうとする影の軌道はムノウヤ自身にも読めない。明らかに、エフエー達の命を狙っていない。
山というフィールドそのものをぶち壊しに来ている。
ゴゴゴゴゴゴゴ
土砂災害と思わせる山の崩壊に足場をとられ、地に埋もれる事だろう。自然の驚異の前ではいかなる生物も屈するものではあるが、エフエーの異常な足腰は土砂の崩壊に抗うようなものになく、それを使いこなす・乗りこなすかのように対応。異常過ぎるバランス感覚で山が崩壊する中でもほぼほぼの無傷に加え、闇雲に向かってくる影の刃をはじき飛ばしもする。
そして、あるところでエフエーは宙に止まった。
「ファルルルル」
「ゆっくり降ろせ」
龍の方は上空に昇って、ムノウヤの攻撃を最小に抑えていた。こちらもムノウヤの影では、その鱗を傷つけるのは困難といったところ。固い。
龍が空を飛ぶおかげで、エフエーも急な落下に巻き込まれずに済んだ。
1つの攻撃で山1つを容易く崩壊させたムノウヤではあるが、その攻撃は無差別・広範囲。巻き込まれたらヤバイが
「スピードも威力も足りていない」
影の動きを見切れ、その一撃を喰らおうともダメージは薄い。
エフエーはこの戦いの無意味さと、こちらに負ける要素がないという意味で、ムノウヤには落胆を示したのだが。
相手の事などお構いなしとばかりにムノウヤの攻撃は連続して続く。宙にいるムノウヤに影を飛ばして、こちらに引きずり落そうとしてきた。
「そう急くな」
攻撃が通らないと感じるや、龍の方がエフエーを中心に蜷局の形となって上や横からの攻撃を保護。下から来る影も、エフエーの脚力で蹴り返してしまう。
ほぼほぼエフエーは無傷のまま、ムノウヤが暴れて壊した、かつては山だった場所の地面と、楽しそうな表情でエフエーを見るムノウヤが見えてくる。
「はははは、そのくらいできなきゃねぇ」
「止めておけ。お前に勝ち目はない」
エフエーの強さには、”宿主”となってくれた月継の影響も多い。明らかに録路・黛と戦っていた時よりも、強くなっている。
ムノウヤはその強さに嬉しそうな表情を作るが、エフエーは真逆だ。
地面が見えてきたのだが、その地面は土という色合いではなく、底の見えない穴じゃないかと思うくらいに暗い。
チャプッ
泥水の上に立つような感触ではない。ぶよぶよとしているが、人の肌に近い柔らかさ。底知れない色合いもそうだが、山一つあった場所にそいつを一面に広げているところ。
「影の大地か?」
ムノウヤの仕業と分かっては確認するエフエー。
どうやら、地面全体を自分のフィールドにしたという事か。
そーいう認識を察知してか
「大地?そんな認識かい?」
「……………」
「ここは僕の体。君はもう、僕に食べられてるんだよ」
「……なら、その体。中から切り刻んでやる」
会話を少しほど楽しむ時間に、影の領域に足を踏み入れているのを知っていて。
「!」
ムノウヤもエフエーも気付く。ムノウヤの背後をとり、彼の首筋にまで剣を近づけながら
「何をしている、ムノウヤ」
「トラスト。僕に剣を向けるのは止めてよ」
今度こそ。本物のトラストが、この戦いをどうするか。どう動かすか。
ひとまず、ムノウヤの首に剣を突き立てて出方を伺う。




