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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第45話『そんなお前が家族で不幸だよ。それでも忘れない』
165/267

Fパート


廊下で出会った。このもう少し先に、野花達を匿わせている部屋がある。

まだそこに辿り着く前に怪護とこうして、向き合えたのはマジカニートゥにとってはラッキーだった。しかし、その一方で



「お前!!なんで追いかけてくんだ!!」



怪護からしたら全身から血を噴出させ、殺したに違いない事をやってのけたというのに



「あり得ねぇだろ!!死んだテメェが、こんなに早く立ち直ってくるんじゃねぇ!!ゾンビかテメェ!!」



罵倒を含め、これほど早い再起は予想できず、動揺を含んでいた。

怪護が焦るのも無理はない。怪護自身からは分からないが、おそらく、こうして立ち向かってきたのはマジカニートゥの”本気”が出せるという判断もある。

そんな大声で訴える怪護に対し、マジカニートゥは意外にも



「えーっと……」



マジカニートゥが”知らない”という理由が2つある。

1つは、寝手のアシスト。体の異常を意識できていない状態であること。

もう1つは、次の”本気”ができるということ。前の”本気”で記憶が朧気になることを軽減していた”本気”が無くなったこと。

怪護と田熊を同時に見る事で、”暗示”に掛かった事と同じ状態。

レゼンも意識を失っているせいで冷静さも判断力も、低下させていただろう。

だからか。

両膝に両手をつけて、もうバテバテな体だとアピールしつつ、


「そちらの方がきっと、記憶操作をするんですよね?まいっちゃうな……」

「!」

「田熊、耳を閉じてろ!あいつの言葉を聞くな!」


ここで田熊に”暗示”を解除させるわけにはいかない。そんな本気を出させてたまるかと、怪護は焦りながら言うのであるが。

そんな事などせず、マジカニートゥは率直に田熊に尋ねた。


「あなたは忘れたりできるんですか?」


生死の境で見た、家族の様子を見て


「家族とか友達とか、楽しかった事まで忘れるんですか?答えてください」


ボロボロな体で、顔で、……それでも笑いながら、田熊に質問をした。

自分がどうするべきか。そーいう状況にも関わらず、相手の様子や気持ちを聞いてきた。

挑発をしたつもりもない。

田熊はその言葉に。……すぐに答えは出ず、ただただ


「……………」



黙った。

唇を噛みしめて、……。

人の記憶を奪えても、自分の記憶を奪えないこと。

今だって苦しんでいること。

自分の手で。自分の判断で。自分の子供を。後ろから殺したこと。

振り向くなと思って、誰がそうしたのか、分からないままって……。せめて、子供は何も気づかず死んでほしいと思った。


「は~~。忘れるって大変……」


田熊が黙ってるもんだから、マジカニートゥの方から口を出した。


「答えなくてもいいですよ。あたしだって、忘れたいのに忘れないから、こーいうことしてるし」


時間ないから手短に


「辛い事を忘れさせてくれるあなたは、きっと良い人ですよ。でも」


マジカニートゥの体に反して、顔がシャキンっと引き締まった。もうここに決めたとする本気。マジカニートゥの体に装飾された、8つの菱形の空間の基点が弾けると同時に、相対する怪護は一気に間を詰めて、マジカニートゥとの接近戦を選んだ。



バギイイィィッ



怪護の拳に反応が相当遅れ、顔にクリーンヒットを浴びては吹っ飛ぶマジカニートゥに、


「お前に本気は出させねぇ!」


マジカニートゥの言葉と表情から、次の”本気”を出せることを察知した。

だからこそ、それを封じるために怪護はマジカニートゥとの短期決戦を選んだ。一方で、マジカニートゥは怪護のこの先手&追い討ちを好都合と判断した。ボロボロな体で意識も途切れ途切れになってきたが、



「本気、出します……」



向かってくる相手が敵!絶対に倒す!

記憶が”朧気”になるの、結構甘く見積もってた!



マジカニートゥも立ち上がってくる。絶対に退かない。もし、怪護が逃走を選んでいたら、時間的にアウトだった。判断の誤りは誰にだってある事であり、それが不運にも幸運にもなる。

両者の血が飛び散るほどの格闘戦にもつれ込んだ。



バギイィィッ



ダメージなどを含めて、マジカニートゥの反応がやはり悪い。怪護は本気にさせないためとはいえ、小細工に走らない。真っ直ぐ、マジカニートゥにダメージを与える戦い方にしている。

明らかに限界を超えて動いている。理屈は把握できていないが、


「ダメージを与え続けりゃ、お前が本気になる機会はねぇ!」


必ず、倒れる。そーいう状況だ。その状況のはずなのに、マジカニートゥが倒れない。それどころか、反撃に転じてくる。


「!」


怪護の拳を避けてカウンターをとりにきた拳。だが、遅すぎて怪護に見切られる。しかし、その攻撃そのものに怪護は怯んでもいた。倒れない相手というのは、戦う相手として脅威なのだ。

倒れてくれぬ相手と戦う怪護。一方で、マジカニートゥは怪護と戦うだけでなく、その後ろに控えている田熊にも視線を向けていた。

あの人を倒せば、全てが元通りになる。その確信がある。しかし、その本気を作れたとして、残った怪護はどうするだろうか?間違いなく逃亡。そして、自分と似たような人に接触をして、またこのような悲劇を作るだろう。



ボゴオォッッ



「うぶぅっ」

「とっととクタバレ!!」


腹にアッパーが炸裂し、血を吐き出すマジカニートゥ。

相当な量の血が入れ替えられているにも関わらず、動いて立ち向かうところ。本気を出していねぇことに、怪護も違和感を察し始めた。自分が想定していない何かがあると、感じ始めた。



「まだっ」



反撃するも空ぶってしまう拳。なんとか怪護に当てようとする打撃も、簡単に捌かれる。必死に思えるが、子供と大人の差があるくらいの運動能力の差。

何かに堪えるようにその2人の戦いを見ている、田熊は……



「……………」



血が飛び交う喧嘩に顔を背けることはなく、かといって止めるわけでもなかった。

どちらも正解ではなかった。本人は知っている。

今、マジカニートゥに言われた言葉に頭を抱えたいほど、苦悩していた。

本当に辛いことが忘れられない。こーして、多くの家族を救いたいと思っての事をやっている。その理由に自分がこーいう目に遭ったから、もう止まれないからとブレーキを踏まないと進んでいる。

それでも、忘れられない。



「くっ…………」




人は大変な何かに出会うと、それを理由にするものだ。

もう後がひけない。そうして、人のようで人じゃなくなる。まだ間に合うのかと、誰かに確認をとっても、誰も返してくれない。これは田熊勇雄個人の問題。

自分のような不幸な子供を持つ、家族を救うため。楽にさせてやりたい。それって




「……怪護!!手を止めて、俺の質問に答えろ!!」



田熊は戦う怪護に向かって叫んだが、怪護自身は必至だ。マジカニートゥに本気を出されたら、逆転負けがあり得るからだ。


「今忙しい!!後にしろ!!」


その返事は怪護からして、正しい判断だった。余裕なんかないのだ。しかし、田熊の第三者の目線からはズタボロなマジカニートゥの抵抗にしか見えず、これ以上の暴行は必要ないと思っていた。

その思いを分かってもらえず、後にしてくれと、言う怪護に……自分の息子の面影を感じた。


だから、



「お前”達”にとって、家族とはなんだ!!」

「!」


反論も。聞いてもらう必要もない。訴えだけでいい。そして、自分のやるべきことをする。

田熊はあの時のように吠えているようで、実際には父親としての側面を出して、怪護に叫んで語った。


「家族を助けるのは当たり前じゃないか!!助けられなかった家族を切り捨てて、より良い社会ができると思うか!」


戦ってる中でそれに対する回答なんかできるわけもない。

怪護は無視する。それでも


「私はお前に切り捨てる事が正しいと思わされた!」

「……俺と契約したのはお前だろ」

「そうだ!それに違いはない!でも、おかげで良く分かった!私が父親なら、本当はっ」



自分に出来なかったことだ。出来ないことでも、目指す事がある。

息子が落ち込んだ時、失敗した時。優しくすることができても、更生させることができなかった。時間は誰だって平等だから、知っている人が大きく変わっていることもある。周囲の人間がいつの間にか、自分よりも優れた人だったりもする。

そんなギャップに耐えられない。自分の努力・才能と、他人の努力・才能を比べてしまう。そー思う社会をほんの少しでも



「辛い家族を作らないため、今を頑張るんだってな!!」



息子を自分の手で殺しておいて、こんなことを言うのは良くないと思う。ただ、もうこれ以上。自分以外の家族を不幸な気持ちにはできないという気持ち。家族が、一人で考え込まず、一丸となって乗り越えること。夢物語だろうが、そーいう温かな家庭。その家庭を理想として、社会を作るべきなのが。1人1人が真剣に取り組むべきこと。

真面目さ故、田熊勇雄が出した答え。


それに怪護は



「はははは、自分で息子を殺したのに、今を頑張るか?ホントにお前等親子は手遅れ過ぎるだろ……」



もっとも、現実的な言葉である。過ぎたものは仕方がない。

そして、怪護が長い言葉に余裕があったのは、マジカニートゥが2度目のダウンを喫したからだ。さすがに限界。もう起き上がって来れないと判断し、視線も体も、力説をしていた田熊の方に向けてやった。


「じゃあ、どうする?ここで止めるか?俺はお互い、破滅するまでいきたいところなんだ」


”暗示”の能力を解除するも良し。

だが、それは怪護にとって田熊の用済みを意味する。田熊はそれに後悔がないという気持ちであった。だが、


「私もお前と共に破滅したい」

「ほー」


怪護を野放しにはできない。しかし、自分には勝ち目がない。

”暗示”を解いただけでは怪護を変えられないと感じ、田熊は向かっていった。



「ん?」


田熊は今立っている廊下の近くにあった部屋に、入っていった。そこはかつての”十妖”である飛島華が使用していた、私室。そこに戦う道具でもあったわけではない。怪護には田熊の意図が分からなかった。マジカニートゥへの警戒を解くわけにもいかず、数秒は動かなかったが……。田熊が静かなことに


「!!……まさか、あいつ!!!」


背筋が凍るほどの、悪い予感がした。怪護は急いでその部屋に入り、すぐに窓を捜した。

下を見ず、前を向いて……窓の向こう側にまで体を出している田熊がそこにいた。

怪護が来たことに気付き、振り向きつつ田熊は言ってやった。



「悪い事を言ったが、……最後にお前達と出会えた事。私にとって、嬉しいことだった」



田熊勇雄は、怪護に笑顔を向けて窓から飛び降りた……。

20階建て以上の高層ビルからの飛び降りは、確実に死を意味する。


「お、お前!!俺の”宿主”までも止める気か!?状況を考えろおおおぉぉっ!!」


怪護は、田熊が万が一。”暗示”を解いたとしても、すぐには殺さなかった。”宿主”がいるのといないのとでは、自分が発揮できる力に差があるからだ。それがあるからこそ、マジカニートゥを圧倒していたと言える。(本気が出せない状況だったが)

だが、”暗示”が解け、”宿主”までいなくなったら、復活するだろう野花に手も足も出ない。瞬殺されるのが濃厚である。

地上へと落ちていく田熊に怪護は叫び続けた。



「死ぬんじゃねぇーーー!!」


自分自身の都合もある。それが8割以上だって感じてしまう部分がある。

そんな思いがあっても、田熊の体は




バヂイイイィィッッ



地上に叩きつけられてしまう。そして、ゆっくりと流れていく血に怪護は戦慄し始める。

もうここに長く留まるのは危険と判断。急いで脱出しようと、廊下に出た時。



「や、やっと!本気になれた。……諦めなくて、良かった」

「!!マジカニートゥ!しつけぇぞ、テメェ!!」

「負けるわけにはいかないんです!!あなたのせいで私の家族が滅茶滅茶になったんです!!」



記憶の”朧気”も解除され、本気の空間も作り上げた。体がボロボロでも練り上げた本気にマジカニートゥは、自らの時間制限を排除し、さらには刹那で良いくらいの大爆発を望んだ。

まだ倒れている、野花桜の妖人化、エクセレントチェリーを模倣したととれる。


「『キラッとワン☆パン』」


そう名付けた空間。……というより、この状況で有効な本気の空間を生み出す。

自分が本気になれるのは、たったの5秒。

怪護にはボロボロな体で戦いを挑んで、成す術なく痛めつけられた。だが、それに驕る怪護の隙を突く。


拳と拳の、一発で決まる早いモノ勝ちとなる勝負。


「!!」


自らに向かってきたマジカニートゥの速度に驚愕し、込められている右ストレートに恐怖するパワー。完全にこの死にぞこないの体を見誤った怪護が、マジカニートゥの拳を先にもらう。



バギイイイィィィッ



「ぶべええぇっ」


たかが一発。しかし、その手から時速200キロの新幹線でも発射されたかのように、怪護の体は吹っ飛び、軽々と壁を貫通。先ほど飛び降りた田熊を追いかけるような感じに見えず、拳を振り切ったマジカニートゥをして、


「星までぶっ飛べ」


それくらいの気持ちに本気で練り上げた空間で行った打撃。

一発逆転。


「あ~……もぅ、……ダメ……」


勝利を確信した瞬間。これまでの疲労とダメージを体が感じ取って、ついに力尽きる。

しかし、マジカニートゥが諦めずに本気で勝ち取った勝利。



マジカニートゥ VS 怪護。


勝者、マジカニートゥ。



◇          ◇



「ぐおおおぉぉっっ!?」



マジカニートゥの拳を受けた怪護は、空を吹っ飛びまくる。そして、拳から伝わった破壊力が体をボロボロにしていく。

死ぬと思っていたのだが



「!?」


どーいうことだ!?まだ、俺の力が衰えてこねぇ!田熊がまだ死んでねぇのか!?

なら、1チャン俺が生き残れる可能性があるかもしれない!



もしも、”宿主”がいなかったら、耐えきれなかった。怪護にも分からなかったが、田熊がまだ死んでいないのだ。20階建て以上の高さから飛び降りたというのに、彼はまだ生きていた。それは怪護も同じだろう。

吹っ飛ばされる勢いは止まらずも、マジカニートゥの拳から伝わった破壊は止まった。とにかく、吹っ飛ばしたかったマジカニートゥの思いが影響となっているんだろう。


相当遠く。都心を離れても、まだ遠くに飛んでいく。




「…………どこまでぶっ飛ばされるんだ、俺?」




抵抗する事もできず、とにかく自分が吹っ飛ばされるのが止まるまで空を飛び続ける、怪護。

彼がこの先で出会うのは、いったいなんだろうか。そして、彼の運命はいずれ、何かを変えるかもしれない。



次回予告:


表原:よーやく、新しいの来たーーー!!

レゼン:作者なりに挿絵のマジカニートゥには時間をかけたらしい。これもう、5か月くらい前のなんだが……。

表原:いや、良し!!でも、これくらいのクォリティを維持しろ!

レゼン:時間掛かるんだよ。ゆとり持たせても、時間が足りてない。(今現在、これが作者なりの一番いい出来)

表原:この馬鹿!!それくらいいつもやれ!そうしないと成長しない!

レゼン:喜んでいるお前に言われたくねぇ。けど、精進はするとのこと

表原:よーし、次回は……!

レゼン:しばらく、俺達の出番はねぇぞ。9月現在、今年は出番ない。1か月のお休みもする予定だし。

表原:えーーーっ!今年、もうあたしの出番が終わりってマジ!?

レゼン:次回『五つ巴①、ムノウヤ+トラストVSエフエー』

表原:乱戦なのに出番なし!?因心界側は、ルルちゃん、録路さんがメインなんだね!

レゼン:多方面に絡む感じにしたってさ。俺達がいると、ぶっ壊れちまうからな。



挿絵(By みてみん)

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