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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第42話『過去編はフラグになりますよ、粉雪さん!粉雪VSムキョ!!』
148/267

Fパート


乾燥した季節の火は危険だ。

一気に燃え広がる。

雪道の中、夜遅くに帰ってきて疲弊した両親は、お酒とタバコを少し嗜んでからベットの中に入った。娘の粉雪の事など、どうも思っておらず、とっくに眠ったと思っていただろう。

寝静まった後、粉雪は母親がタバコに使うライターを使って、タバコの一箱全てに火を付けた。さらにその近くには紙などの燃えるモノを置いておき、火が広がるようにしていた。


「フブキ」

『う、うん』


適合者になる条件。

助けてほしいと願いつつ、親を殺してほしいと言われたのは複雑だった。


家に火を放って遠くに逃げよう。

不安だった自分の体の弱さを、妖人化することで一時的に克服し、どこの誰かも知らない人に助けを求めよう。粉雪はそう考えて、実行に移した。どうせ死ぬのならこんなところで死にたくはない。

行く当てがないのは、フブキも結局同じ。



付き合ったのなら、とことん、付き合おうと止めようとはしなかった。



そして、フブキが見込んだ以上に、この時の粉雪は狂っていた。死の近くにいたからこそ、大きく歪んだ人間性と将来性を感じさせ。その事がより、妖人としての資質を高めたのだろう。



『テンマと再会したらどうしよう』



フブキにも、とある事情があって、強力な妖人を求めていた。

街の中を探って見つけた、この原石とは離れたくなかった。

精神的にも不安定であり、妖人化するや否や、天候を猛吹雪に変えてしまうほどの力。

粉雪は燃える自宅を背にして走り、走り、走る。

逃げれば逃げるほど、降雪量は増し、火事になっている家はより燃える。その炎を止める消防車も雪の影響ですぐにはこれず、炎に呑まれていくだけ。


共にいるフブキが、この時の粉雪をどう思ったか。

それを告白するのは数年後のことになる。



「はぁ……はぁ……」



両親からの虐待。満足にも摂れない食事。

体の一時的な強化とはいえ、慣れない疲労に粉雪も倒れる事となる。

やっと全てから逃げ果せた。……そんな満足はない。

逆だ。

あんな地獄を乗り切ってやったからこそ、そんなことを変えていきたい。

体にある疲労とは反面、若さや幼さから来る無限大のやる気が死の淵を超えている。

フブキが心配に声をかけ、励ますも、……フブキにできるのは妖人化の維持だけ。この体を救える手が欲しかった。




「…………奇妙な気配がしたが、子供とはな」

「!」



粉雪が倒れてから1日半。妖人化したままの彼女が倒れていた場所が、雪に埋もれたせいで発見が大分遅れたが、妖人の気配を感じ取ったからか。人間的なものを感じ取ったのか。

近くに滞在していた南空が粉雪を発見した。その時の彼女の様子は、酷く虐げられていた姿でありつつも、獅子のような表情をしていたと思った。子供でもあり、逆境を乗り越えてきている表情、正義感に近い悪党ぶり。

妖人化した姿もこの間近で見たことも含めて、



「私が助けてやる。腕の良い医師も近くにいる」

「……………」


何も知らない人間を信じられるかどうか。

そんな運。

もう全て使い切っている、そーいう吹っ切れが粉雪の中にあったのか。

死んだように眠った。



南空に保護される事になり、後に南空の養子となって育てられることになる。

それが粉雪、フブキ、南空。3名の出会いであった。




◇           ◇




ゴオオオォォォッ




クールスノー VS ムキョ。


居所を把握しているクールスノーと、一時的に居所を見失ったムキョ。

戦闘においての情報の差は大きく、また持っている引き出しも大きい。単純な力比べのような強さじゃない戦闘であった。


猛吹雪の中、空中で待機しているムキョに異変が起こる。



「……………(なに、これ)」



機械的な体の影響からか、無関心な冷たい心がそう成せているかは分からないが。ムキョの体はとても寒さに強く、この猛吹雪による体温低下に対しては抵抗があった。体内の熱を外にも出し、雪を溶かしてはいた。

だが、その溶かした液体が少しずつではあるが、ムキョの体に貼りつき始めていたのだ。

溶接しているような優れた粘着力でムキョの体を固定し始め、さらに雪を纏わせる。

ここまでフブキの能力のみで戦い続けたのは、この手の内を晒さないため。クールスノーのフィールドの中では、いかに自分の領域であろうと、戦うのは危険。

体にかかる負荷と、それを取り除こうとする動き。


クールスノーの居場所を見失っている状況で、そのミスは大きなものとなり。クールスノーが見逃すはずもない。




ドゴオオオォォォォッ




再び、雪崩を発生させる。今度のは今までより滑らかで非常に柔らかい雪質だ。

空中にいるムキョをも飲み込もうとする高さにもなる。襲い掛かる雪崩を回避したり、武器で迎撃したりと逃れようとするムキョ。そして、クールスノーの居所を見失っていた最中。彼女がついにムキョの赤いグリッド線の空間に入り込んだ。



「『洗礼バプテスマ』」



もうここしかないと、ムキョの全力射撃がクールスノーを襲った。その速度よりも早く、雪崩を操作しつつ、自分から離れてしまったスノーボードを取り戻して装着したクールスノーは、雪の上を滑っては弾幕を回避し、ムキョの真下に迫る。

その道にジャンプ台のように雪道を創造しており、空中のムキョに向かって飛んできた。


「さぁ、ここまで近づいたわよ」

「!」



想像以上に二人の顔は近くなった空中戦だ。

ムキョはクールスノーの瞳に、自分と同じ色を見えたのだが……どうやら彩度は違っていたようだ。あれほど輝ける目は、この”虚無”にはなく、羨望せんぼうする。

まだムキョの反応は反撃を示しており、迫るクールスノーに銃撃をお見舞いするのであったが、



トーンッ



それよりも早く。装着しているスノーボードすらも足場にして、2段跳躍をするクールスノーに届かず。

クールスノーはムキョの空中戦を支える、プロペラに意識を向けていた。


「堕ちな」


高速で回転するムキョのプロペラでも、自身の体を鋼鉄ばりの雪で固めた攻撃で粉砕する。



バリイイィィィッ



飛行の維持を失ったムキョは地上へ……いや、雪崩の下に落ちる形になり。クールスノーのフィールドに、足を踏み入れる。



「………………」


そこからはもう、どうにもならないと、ムキョは悟る。

悟るが。悟っているのに、……瞳が死なない。

生きているのに死ねない。死なないから生きているのか。

雪の上で立ち上がるも、クールスノーはムキョの両腕も危険と判断し、



バギイイイィィッ




足蹴にしつつ、分解する。

基本攻撃がこの銃撃であったため、空間は補助的な役割が多いと判断できていた。

勝ち目がない戦いにされたと言うのに、



「なによ、その目。……どこか嬉しそう」



クールスノーにはそう見えた。変な奴だって思っているようで、……気持ちが少し分かる気がする。

ムキョはこの状態でようやく


「どうして、そんなに強くいられる?」


口から自分の言葉を発した。

意外にも人の声だ。少し楽し気に話せる声質。

クールスノーはただの無口っ子だと思っていただけに、


「ちゃんと言えるじゃない」


人と思って、そんな返しをしてから。答えてあげた。

ムキョの言葉の真意。”虚無”の悟り。


「私がちゃんとしてなきゃ、誰も付いて来ないわよ」


自分の命がどうしてあるかなんて、多くの人間は考えやしない。その中で、極小の確率で、命の価値を見いだせずに死んだように生きていく。誰にも必要とされていないような命に気付く、きっかけ。

その原因を他人にあると思う一方、自分にあると改められる己の強さ。

全て報われる事はない。それでも、それが、……


「自分で何かをできないから、”虚無”に囚われた気持ちになる。あんたは、まぁ……できてるのに、そんな気持ちになっただけよ」

「…………それなら、”虚無”が勝てないのは確かだね」


他人のせい。大いに結構。

それでも自分の命は、自分が主役。

”虚無”はそれを忘れていた。そんな忘れた心で、主人公のように輝く瞳を持った人間達には勝てやしない。

その気付きで嬉しい反面、悔しい反面、……心ができたみたいに、ムカついて……”虚無”を司る、ムキョが思うべきではないそんな言葉を残す。



「次は、人間に成りたいな」

「次頑張れば、成れるわよ」




慈悲として全てを悟らせた後に、クールスノーはムキョの顔面に渾身の拳を叩き込んで、ぶっ壊す。

一瞬の苦しみも感じられない。”虚無”のような即死で逝かせてあげた。




クールスノー VS ムキョ。



圧倒的な実力差を見せつけ、クールスノーが無傷の完勝!!

そんな中でクールスノーも、ムキョの最期の姿を見つつ



「ホント。あんたって、私にとって嫌な相手だったわ」



◇            ◇




鎮火された跡地にて。


「先ほど負けたムキョはともかく、……お前が1番に消えるとは思わなかったぞ」


訪れた者が1人。

ここは伊塚院長のお屋敷。……元、お屋敷だろう。

そんな場所にやってきたのは、レイワーズのキョーサーであった。その出で立ちは、レイワーズの中でも人間離れしていた姿。そして、メーセーと並んで非常に欲深く、ジャオウジャンの復活のためには手段を選ばないタイプ。

だからこそ、メーセーが敗れたという事実に


「メーセー。この我と最後の争いをすると思っていたが、なんと情けない奴だ」


落胆した。

メーセーが聞きたくもない言葉だろう。

彼と似たような邪念を司るキョーサーは、メーセーをライバル視していた。その中で彼が選んだ伊塚院長というのは、それだけの邪念を持っている人材と言えた。


ムキョが敗れたのは、自分の”虚無”に妥協したのが大きい。

だが、妥協するような邪念だ。

敗れて当然と思う、キョーサー。彼女に興味などない。

メーセーが敗れた地にやってきて、残っていた彼の体とその力の一部を回収しに来た。



「だが、共にしてやろう。そんな慈悲をみせよう。メーセー。我の下で、ジャオウジャンとなるがいい」



怪しく光る両目と共に、口が大きくなっていき




ガブウウゥゥゥッ



”毒を食らわば皿まで”

それを体現するように、メーセーの体の全てを口に飲み込んでしまう、キョーサー。



「!……おっ、……おおおぉぉっ!!いいっ、いいっ!!フハハハハハ!!」


漲ってくれる力。同類を食らって進化していく、ジャネモン。

まだキョーサーは、己の”宿主”を見つけられずにいたが、……それはメーセーと同じく、しっかりと選ぶためだ。中途半端な”宿主”では、帰って足を引っ張りかねない。伊塚院長を選んだミスとしては、あまりにも老齢だった……それが敗北に繋がっている。

そして、キョーサーは自分と同等に値する人間に目星を付けた。そいつは、今後。因心界に牙を剥くであろう。



「さて、用は済んだ。なんとしてでも接触しなくてはな」



金習という男に、キョーサーは接近しようとしていた。

人間の邪悪と怪物の邪悪が交わる時、その世界は崩壊する。




次回予告:


表原:よーし。次回は久々にあたしの……

古野:残念ながら、1回飛ばす事になりました。

表原:なんですと~~!?あたし、次だと思ったんですけど!

粉雪:その予定だったんだけど。ちょーっと、展開の都合で先にこっち挟まないといけなくてね。

表原:誰が先になったんですか!?

古野:いちお、こちらは私です。裏方が良かったんですけど、ちょっと迷惑な兄が出て来るので

粉雪:次回、『凶悪タッグ形成!?古野兄弟と涙姉妹が、結構違う!』

表原:キッスさんとルルちゃんの姉妹愛は、片側が重すぎるだけだと思います!

粉雪:それは言えてるわね

古野:でも、家族仲良しは良いもんですよ。


挿絵(By みてみん)



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