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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第42話『過去編はフラグになりますよ、粉雪さん!粉雪VSムキョ!!』
147/267

Eパート


血は争えぬ。



【人に暴力を振るえば、その暴力を振るわれる事もあるだろう】



因果応報。

そんな言葉もある。


この頃、まだ若き日の南空みなみぞら茜風あかねかぜは、国を護るための政治に奔走していた。自分だけが強ければいい武道とは違い、国を護るには周囲との協力が必要不可欠。その協力には互いの取引、利益などを用いたこともあれば、力ずくで協力させる強引なものもある。



【法がそれを裁定するものかね?】

【それは無理だろう。法の解釈など、個人の曲解。または、ある時理不尽に起こる出来事には、法では何もしようがない。全ては手遅れになってからだ】

【では?】



力でも無理。法律でも無理。協力など、さらに困難であろう。人間は、



【しっかりと、歴史を作る必要がある。世界はいずれ、この日本という国をモデルとした社会に統一するべきだと。遅れる事は何もないのだ。犠牲はあろうと、犠牲を無にしない】



犠牲を覚悟してでも、学んでいくことで改善していく。

日本という珍しい島国をまるで実験場のように歴史を作らせ、やがて世界にそのイズムをゆっくりと広める。

国を護るための秩序を世界に広げていきたい。その秩序はもしかすると、侵略の一種なのかもしれない。

そんな南空の思想を、聞き手なっている男の1人は、


生真面目きまじめ。簡単な道のりではない】


こちらも若き日の金習である。

ホテルを貸し切り、国を動かす者達の会合をしている中でのこと。


【この国は平和かもしれないが、誰でも狂暴な一面を出すものさ。それに国の歴史は様々だろう。改善できるものかな、受け入れられるものかな】



それこそできないと一蹴。


【…………では、金習様のご意見を訊こうか?】

【シンプルさ。自らの幸福を、人の幸福にするべきだと思うこと。私が君に死ねと思えば、喜んで死ぬようにね】

【とても邪悪な言葉だ】

【失礼な。あなたの瞳の奥は私となんら変わらない】




ゴクゴクゴク



似ているようで似ていない2人。

一緒に飲むお酒がこんなにマズイものか、強い猛毒が互いの口から吐かれているものか。

南空はこの時、まだ”不完全”な金習に警戒を示し始めた。急速に成長していく何かには、環境の変化が付き物。国の成長よりも、こいつの成長が世界に混乱を生み出し、日本を巻き込んでくる時。自分に対抗できる何かがいるかどうか。

自分には妻がいても、子供がいなかった。そーいう問題もあるが、時代の流れはそんな真っ当な世襲も非難するだろう。血を持っていても、相応しくない子がいてもおかしくないのもあること。

血も生まれも、なんでもいい。とにかく、自分と匹敵し、この金習を止めるべき存在は欲しいもの。



【噂程度に聞いたんだが、”涙一族”というのがこの日本にいるんだよね?】

【!……そうだな】

【南空。君が仲介して、その人達と私を会わせてくれないか?きっと私と気が合うと思うんだ。君なんかと違ってね】



まだ涙キッス、涙ルルが生まれていない頃の話。

”妖精”という存在を管理し切れておらず、その有効性も難しかった。”涙一族”が纏めていたが、国にも制御できないものではなかった。利用できれば、これまでにない資源になるかもしれない。それはあったが、到底……。とにかく、未知数で、その数も目的も分からない生命体には許せる気はなかった。


【断る。厄介な奴と厄介な奴を引き合わせると、ロクな事にならない。それに無理にでも会うだろう?】

【ははは、そりゃあ。まぁ……引き下がる事はないものだ】



後に涙一族の”棟梁”になった、涙メグと接触に成功する金習。

この時は


【侵略の話はまだ早計だったかな?まずは豊かな国を作り上げる事だろう。ゆすりや暗殺を頑張らないとね】

【冗談を言う口や行動に、国を任せられても、国民を任せられないものだ】

【ここでは商談”だけ”しかするつもりはなかったんだがね】


なんて軽い口で、誰でも忘れそうな10~20年先の夢を伝えるほどの話。そんな話をしっかりと警戒していた南空だった。

国同士の会合の中。

南空の他に、野花壌や伊塚院長などの大物の顔ぶれはいた。それでも金習という存在には最大の警戒を示した。”あれ”は危険だ。



その会合を終えて、自分の持っている家に車で帰る途中。

南空が初めて出会ったのが、網本粉雪であった。

当時、6歳。弱りきった体でも、人の目をしていなかった彼女と、相方の片割れである、”妖精”のフブキを南空は拾うことになる。





◇          ◇




互いに全力を引き上げる瞬間の照りつきは、戦闘狂バトルジャンキーの素養あり。

網本粉雪とムキョの、市街ど真ん中での対決。その始まりは互いに”虚無”を持ちながらも、それとは異なるような行動からだった。



「『てつき白染しろぞめ、クールスノー』」


妖人化し、クールスノーへと変身する。

一方でムキョは本人はノーアクションながら、何やら地面に現れたのは、触れられない赤色のグリッド線。縦横の□は、一軒家を収まれられるくらいの大きさで作られた、グリッド線。

自らの空間の範囲を晒すのは、少しリスクがあるか。



「『聖教会カリタス』」



それを差し引いても、圧倒的な制圧力を誇る。ムキョの本気の戦闘モード。

”宿主”のサポートを得られた彼女の戦闘能力はどれほどのものか。

一方でクールスノーも妖人化を完了させると同時に、両手の指でハートマークを作り出し



「闇に満ちた悲しい怪物ちゃん!このクールスノーの雪で、全てを無にしてあげる!」




シンシン…………



宣言と同時に、クールスノーの雪が降り始める。

雪原のフィールドが完成した時、クールスノーの本気に達する。

逃げられるという少ない選択肢を考慮し、戦闘開始からの行動だ。ムキョがそのスロースターターな戦闘の隙を見逃すはずもない。



「『洗礼バプテスマ』」



ガチャァァッ



ムキョの両腕が瞬時に変形を行い、機関銃の銃口になりながら、ムキョの抱える”邪念”を弾丸に変え銃口から連射する。

小手調べの連射ではあるが、相手の度量を図るように思えないほどの全力。その全力は機械と同じく、出力を決められている攻撃。やると決めたら、その事を真っ直ぐやり遂げるようなもの。



「!」


ムキョの両腕を見た瞬間にクールスノーは一気に横っ飛び。連射の範囲から逃れようとする動きを見せ、ムキョもその回避についていくよう追いかける。




ドバアアァァァァッ



銃弾が地面に着弾すると、そこに残るのではなく、小規模な爆発を起こして粉塵を舞い上げる。それが2つの機関銃からの連射となれば、地形が瞬く間に大きく変わること。




ドゴオオオオォォォッッ



水道管の破裂、道路の崩壊、建物の損壊。

ムキョの周囲には何一つも残さないような破壊力。攻撃の余波から来る粉塵が、ムキョの視界を封じてしまっているが。クールスノーの位置と状況は、逐一ムキョの頭に情報が届いていた。


「……………(冷静)」


弱い奴なら今の銃撃で瞬殺され、二流ならこの攻撃の余波から生まれた粉塵に紛れ、奇襲を仕掛ける。

しかし、クールスノーは仕掛けなかった。ムキョが思ったよりも距離をとり、ムキョの銃撃の射程範囲ギリギリのところで止まっていた。

ムキョがこの初手で周辺の空間に張り巡らせた、グリッド線の空間領域、”聖教会”の力を警戒してのことだった。



「派手にやるわね~。大好きだけどね」



クールスノーだけでなく、人間達にもムキョの空間の範囲が見えている。隔離空間に引きずり込むなり、グリッド線なりを消すなりして、戦いを優位に進めていくものだが。それがないという事は、クールスノーの経験からムキョがその場にいなくても得られる情報があると推察。GPSよりも正確な位置と状況を把握できる、レーダー機能。その領域を展開したモノだと仮定し、ムキョの様子を伺う選択をとっていた。

戦闘開始から7秒に達しない中での駆け引きに加え。



「……………(ヒーローかな?)」



クールスノーは意外なことに、今回の事件を引き起こしたであろう通り魔の男を抱えながら、ムキョの攻撃を避けきっていたのだ。逃亡するあの一瞬でだ。

その行動にはムキョも不可解を覚えながらも、クールスノーの実力が相当なものだと理解した。


「あ、あああぁっ!」

「黙ってくんない?」


通り魔をムキョの攻撃から逃れるようにさせてあげたクールスノーは、彼をゴミのように投げ捨ててつつも、


「死ぬ前に」

「んがあぁぁっ」

「見てから死んでけ」


”なに”をとは言わなかった。

クールスノー自身、ムキョの攻撃で死なせてやっても良かったが。仮にも人間側の立場がある。こんなどうしようもねぇ奴は、殺されちまっていい。生かしても税金がムダなんだよって、合理的に思っている。思っているけど、人も社会もそうはいけない。もう引き返せないから、こいつの苦しみをより分からせてやる。そんな感じのこと。



「……………(残酷)」


ムキョはクールスノーの甚振るような、救い方を気に食わず思った。万が一にも病院に連れていき、治療の手当てでもするかに見えたが。

クールスノーは殺す気なのは間違いないが、誰一人、その手を汚させる気はない。元々、ムキョが通り魔に放った銃撃で半分死んでいる。そこにクールスノーの大雪による気温低下も重なれば、死ぬのは当然。ひと思いにしてやるのが、人の情けだと思う。生きてても苦しいだけだろって、もっと深いところで分からせようなところ。

そんな中でムキョの体に落ちてくる、クールスノーが降らせている雪。ムキョが掌に付着する雪をマジマジと見ながら、



「……………(同じ能力)」

「じゃあ、始めようかしらぁ」




レーダー系の情報収集と、雪の降り方からの情報収集。

手段は違えど、お互いに顔を合わせもしない間合いで、位置情報以上のモノが相手に知られているとさとる。

クールスノーはムキョが攻撃からまったく位置を変えていない事を知りつつ、焦らずにこちらへ近づいて来ているのを知り、余裕を感じ取れた。少なくとも、ムキョが展開している『聖教会』の空間は、レーダー機能だけではないというのを把握。

雪原になれば、クールスノーの独壇場となる展開だが。それは向こうも同じ可能性がある。



ギュッッ



クールスノーはスノーボードを肩で背負いつつ、ムキョの隙を雪から得られる情報で探り始める。

隠れたところに銃撃されたら一溜りもない。かといって、逃げ回るだけじゃあカッコ悪いし、キリがない。向こうが他にどーいう攻撃をしてくるか、知ってからの方が戦いやすい。だから、向こうからの仕掛け待ちなのだが……



「……………(様子見)」



ムキョは自ら仕掛けない。

何一つ仕掛けない。

クールスノーのフィールドが出来上がる事を見逃す暴挙をとっている。無論、ムキョはすでに自分に降り積もってくる雪から、どーいう雪かも把握している。付着すると体から中々離れない、粘着性のある雪。体を固められそうな厄介な雪。動きが鈍くなるだろう。

それでも待つ。

この戦い。手の内を晒す方が負けると、考えての事だ。

クールスノーの強さは圧倒的だが、一撃でムキョを葬る手段がない。しかし、ムキョにはクールスノーに再起不能できる怖さがある。相討ち覚悟。この命を賭けて戦いに行く。

だから、




「…………ちょっとちょっと、あんたから来てくれない?」



こっちにカウンター系の手段がないの、あいつにバレバレってわけ?正直、私にはキッスや白岩みたいなガチンコの戦闘が弱いわけじゃないけど、無傷じゃ済まないのは確かよ。

あーいう振る舞いをされると、自爆で命捨ててでも仕掛けてもおかしくない。位置情報とかを知られているっぽいから、奇襲はまず無理だし。

私と同じく、何かの準備が整うと一方的になる可能性がある。



我慢比べ。

クールスノーも仕掛ける側が不利なのは分かっている。なんとなく。

しかし、性格に違いがある。ムキョが機械のように条件が揃うのを待っているだけに対し、クールスノーは人ととして行動に移す。罠や反撃を想定してだ。



シンシン…………



雪が地面に沢山積り始め、クールスノーが肩に背負っていたスノーボードを地面に置いて装着。そして、ムキョへと仕掛けていく。

降らせる雪と積もらせた雪を操り始め、雪崩を作り、その上にクールスノーが乗る。東京駅でムノウヤ達を巻き込んで見せた、広範囲の雪崩攻撃。



「”白竜逆鱗”」



ムキョの四方から雪崩を呼び込み、ムキョの正面からはスノーボードを乗りこなし、クールスノーが雪崩の上に立つ。



「……………(これがあなたの全力)」

「さぁ、見せてみなさい!!」



全方位からの雪崩攻撃を対処するのは不可能。しかし、クールスノーはムキョを試しているかのような表情。

雪崩攻撃よりも広い、ムキョの空間が雪崩でも消えていない。

赤い色のグリッド線が刻まれた空間だと、クールスノーは視界から得られている情報からそれしか分かっていなかった。自分が進む先に現れている、黒い色で囲われているグリッド線を初めて見たとき。


「!」


嫌な予感。

ムキョが雪崩に対し、銃火器で挑もうとする構えなところも。

クールスノーは黒いグリッド線に囲まれたところに、体を入れた瞬間。



フッ




スノーボードの上から消えてしまった。

そして、その上で飛んでいるのはムキョ。クールスノーはどこに落ちたかというと。



「ん」



四方からの雪崩をムキョに浴びせようとする。白色のグリッド線の中、その位置にクールスノーは無防備にも立っていたのだ。足の開きからして、スノーボードを乗ったままの状態。

一瞬にして、自ら発生させた雪崩の中心に立っているという状況。




ドゴオオオオォォォォォッッッ



雪崩に飲まれたクールスノー。そこへ追い討ちとして、背中のプロペラを高速に旋回させて空を飛んだムキョが、雪崩の中でも動いているクールスノーを的確に兵器攻撃。



「『洗礼バプテスマ』」



ムキョの攻撃 + クールスノーの攻撃の両方を浴びる事になる結果。

おまけにムキョはクールスノーの位置が雪で埋もれて見えなかろうと、空間内にいる限りは見失ったりなどしない。この瞬間で決めに来た。

撃って撃って撃ちまくり、雪を溶かし尽くすほど。



「……………(やった?)」



熱によって雪が蒸発し、クールスノーの動きは止まっているが。生命反応が確認できている。

それはまぁいい。問題なのは、どれだけのダメージを通せたかどうか。

不意を突いたカウンターを決めたが、


「それってフラグじゃない?」

「……………(!そうかも)」


クールスノーがいる中心地帯には雪の釜倉が作られており、雪崩もムキョの銃撃ですらも通さない鉄壁を見せつけていた。そして、雪の釜倉を自ら溶きながら、中にいるクールスノーは顔を出す。

自らの雪崩に巻き込まれたように思えたが、さすがに自分が操作している雪。衝突の寸前に直撃を避け、さらに自らを護る釜倉へと変化させ、ムキョの銃撃を無傷で阻止する。

カウンターを狙っていた事は分かっていても、その対処をここまでされて



「……………(すごい)」



クールスノーの戦闘力に感嘆とし、喋らずともクールスノーへの敬意が伝わる表情。特に、口元を緩めた。

微笑むように。

そして、クールスノーも笑っているようで、返す言葉は



「つくづく、あんたってムカつくわね」


言葉と口が合っていない。



「私の中の、嫌いな奴等にソックリよ。とーっても、ね」

「……………(嬉しそう?)」

「嫌いだけど、好きな人もいるモノよ」


よーく、知りたくもない奴等の能力を掛け合わせたようなもの。

クールスノーはムキョの胸元を見て鼻で笑いながら、ガムを喰らって、


「あんたの虚無って奴。覚まさせてあげる」


殺意を出す。

それと同じく、ムキョはグリッド線の空間で、その線の色を部分的に変え始めていく。

基本は赤色のようだが、青、緑、黒、紫、……などなど、24色ほど。

その動きを見て、ムキョが受けの構えから攻めの構えになったと見抜く。能力を見破られるとそうせざる終えないってところ。

クールスノーがムキョのカウンターを予期できたのは、そーいう似た系統の”妖人”と交流があったからこそ。

まぁ、……あいつの事だ。


「さぁ、今度はそっちから来なさい」



強力な効果はないにしろ、位置を入れ替えたり、地雷みたいな攻撃、行動不能は想定しないとね。

奴の空間に入ったらやっぱり不利。こっちの雪原のフィールドを関係なしに発動できるのが、厄介。罠がこちらに見えるとはいえ、その位置を変えられるのも気を付けないと。



ゴゴゴゴゴゴゴ




「……………(そう来るか)」



クールスノーの動きは、ムキョの空間を意識している。能力の特徴が分かれば、向こうから踏み込まなければなかなか掛からない。そして、先ほど。スノーボードはそのままに自分だけが位置を移動させられた事で、無生物には効果がないと予測。

本来なら雪崩と共に自ら接近して、敵を仕留めるやり方だったが、自らはムキョの空間に警戒しつつ、雪崩をあちらこちらで発生させてムキョを雪崩の中に押しつぶそうとする。

とはいえ、そのムキョは背のプロペラを利用し、空を自由に飛ぶことはできる。猛吹雪の中でも飛行し、雪崩に巻き込まれんとしつつ、クールスノーをムキョの体に付けられた重火器で狙う。



ドバアアァァァッッ



体から炎を放って、ムキョの体から弾幕の嵐が、地上で逃げるように動くクールスノーに向かっていった。

撃たれつつも背を見せず、ムキョをしっかりと把握しながらも、空間内に張られたグリッド線の色に注意している。



「いいわね」



地上にいるクールスノーからムキョを見る視界と、空中にいるムキョからクールスノーを見る視界は大きく異なる。ムキョの銃撃は確実にクールスノーを狙っているが、それを受けてくれるような甘い相手とは思っていない。赤色のグリッド線は、中にいる存在の位置情報をムキョに報せる効果がある。

黒色のグリッド線は入って来た存在を、白色のグリッド線へとワープさせるもの。


空間の効果範囲は誰にでも視認可能という代償を払って、切り替えと広範囲、多様な効果に動かせる。

クールスノーを銃撃しながらも、わずかに隙を作り出しては罠を張った方向に誘導している。いくら銃撃を回避できていても全ての空間から逃れる事は不可能。クールスノーの雪の偵察では、ムキョの位置までは把握できていても、空間が入れ替わっている事まで把握できない。



「……………(追いつめた)」

「!」



クールスノーの目の前には、グリッド線が黄色になっている空間が広がっている。その方向に逃げずに立ち止まれば、ムキョの銃撃が待っている。無事じゃ済まないは予想しつつ、クールスノーは黄色の空間に飛び込んだ。



ピタッッ



空間の中央に入ったクールスノーは、電撃のような痺れが体を襲い、両足の動きを止めてしまう。

黄色のグリッド線の空間は対象者を痺れさせ、機動力を奪う。

クールスノーの動きが格段に落ちたところに、今まで以上の攻撃を空中から放つ、ムキョ。


「……………(終了)」



黄色のグリッド線の空間全てを対象に攻撃を仕掛ける。

回避に徹する当たり、クールスノー本体に防御力と回復力はないというムキョの判断。そんな最中に、地上でムキョを狙っていた雪崩がクールスノーの方へと押し寄せていく。雪崩とはいえ、そのスピードはムキョの銃撃よりも早くやってきて、クールスノーを飲み込んだ。



ドバアアァァァッッ




雪崩の上に銃撃をかます事となる。

赤色のグリッド線ではないところでは、ムキョがクールスノーの位置情報を取得できない。

それはムキョの攻撃の成否が、ムキョ自身には確かめようがない事。雪崩の勢いを止まらず、黄色のグリッド線の範囲を軽々と超えて、さらに大きくなっている。通常ならば、クールスノーの体は雪崩で飛ばされ、赤色のグリッド線に入ってその生死を確認できるが。


「!…………(いない!奴はまだ、体を痺れさせたままか!?)」



銃撃を止めたムキョは、クールスノーを確かめる事ができず。

そして、見失った。

それでもムキョは冷静。吹雪の空で冷静に場を見る。猛吹雪の中、クールスノーはまだ生きていると分かっている。グリッド線の色を変更し、黄色の周囲は赤色になる。クールスノーがそこに入れば生存を確認できる。奴が潜ろうが飛ぼうが、この索敵は逃れられない。

その索敵範囲を徐々に広げれば、分かること。



位置は時期に分かる。だが、




「……………(問題は私の攻撃を耐えられること。無事なのは雪の壁を使って防御しているはず)」



集中砲火で仕留めきれない場合。ムキョの逆転負けは決定的。

だが、クールスノーも防御に徹しては勝機は訪れない。いずれ顔を出す。その顔に弾丸をぶち込んで殺す、ムキョのわずかな勝ち筋。

我慢比べとなれば、性格的にムキョが勝てるというところ。しかし、その我慢がどれだけ大切か。

雪崩の中ではわずかな空間を作って、身を隠しているクールスノーが無事で生きていた。



「あと2分かな」



ガムを噛みながら、時間を待つ。

クールスノーもムキョの情報だけでなく、周りの状況を把握し始めていた。




◇         ◇




『誰か助けて……』



昔話。網本粉雪は死の淵にいた。

それは因心界として活動したばかりの頃でもないし、ムノウヤとの戦いで敗北をした事でもないし、……少なくとも、戦闘においては一度でも本当の死を覚悟したことはない。

それを”うん”って頷けるのは、6歳頃の出来事があったからだ。



『役所の者です。お宅に粉雪ちゃんがいるかと思われるのですが』

『あー、今。妻と買い物行っちゃってー』

『そうですかー』



声を出したくても、手を伸ばしたくてもできない。

粉雪の押し入れの中で口をテープで塞がれていた。

食事は満足に与えられず、喚けば父と母に暴力と罵声を浴びせられる。この中で震えて過ごし続けるしかない。服はシャツ一枚、パンツは履いていない。常に肌寒く、顔色も非常に悪く、体重や身長に至ってはとても6歳児にはないものであった。

大人になって、高身長でナイスバディな体つきになるとは、到底思えないその姿。



助けを願う。


願い続けた。



『はー、粉雪。私達は出かけるけど、大人しくして、明日の朝まで待ってなさい』



両親は時折、二人でどこかに行ってしまう。その時、粉雪はこの家の中だけは自由にされる。そうはいっても、何かできるわけではない。いつもやっているのは、父親が食べているガムをコッソリと盗んで、自分の口の中にいれること。あれがあれば、胸と喉からくる空腹感を和らげる事ができるからだ。

家から出たら何をされるか……。どこに助けを求めればいいか。

この家に戻って来るのは、結局ダメだ。

あんな二人といれば、私は死んでしまう。



スゥッ



弱り切った体。首筋に手を触れて、あの痛みと臭いを思い出す。

父親が吸ったタバコの火を首に押し付けられた痛み。泣くなと言いながら、食事が乗ったお皿でこの体を叩く母親。

痛みを負う度に学習していき、恐怖の反面に復讐心が出てくる。それに応える力が欲しいだけ。

捜していたのだ。

必死で必死で。

やってきて欲しい、その何か。




シンシン……



雨というか霧に近いものが、外では降っていた。粉雪は窓にかかる水滴を見た。

姿をまだ保てておらず、外から助けを呼んでいた。


『開けて、助けて、……溶けちゃうから……』

「?」

『け、契約をお願いしたく……私は、妖精のフブキ。……このままじゃ、体が蒸発しちゃう……』

「え。え?」


窓を挟んで対面した両者。この時は、フブキだけである。

粉雪は開けたこともない窓をなんとか開け、体の半分以上が溶けてしまった、雪達磨の妖精、フブキを家の中に入れた。

掌に乗せ、お互いに困っている中。

一緒に言っていた。


「『協力しよう』」


粉雪は力を、フブキは適合者を求め。

お互いに契約を交わした。

そして、外の霧はハッキリと雪へと変わっていき、その範囲も気象学の例にはないほど、異常な現象を引き起こした。

ルミルミとサザンの同期にして、その実力も極めて高い。

それ以上に、適合者となった粉雪の人としての欠落した器もあり、適合した当初ではそれを制御できずに暴走させてしまった。




街に豪雪がやってくる。

その雪の影響で足が止まる事になったのは、これより先までお世話になり、自分を教育してくれる人だった。


「季節外れの雪だな」


会合から帰る途中の南空が、粉雪のいる街の近くで足止めを喰らっていた。


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