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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第42話『過去編はフラグになりますよ、粉雪さん!粉雪VSムキョ!!』
145/267

Cパート


怪護に教えられた人間を信じたわけではない。

ムキョは自分で調べるべく、その人間が住む地域にやって来た。

とても静かな町の裕福そうな人達が暮らす場所。

子供達が外で賑わい、奥様方の買い物や談笑、仕事をしている人達など……とても普通な町。だからこそ、裕福。



こんな町を滅茶苦茶にするのか。

そーいう躊躇を見せた表情だった。




とはいえ、やり方はいつもと同じこと。

人間達の情報が詰まった役所を襲撃するムキョ。もちろん、そこで働く人達や利用者には手を出さない。

役所が抱えている個人情報を取得。

ここには必ず、周りの人達でも知らない人がいて、生きているという情報が残る。

ムキョはそれを手にし、怪護が持ってきた情報と照らし合わせた。

フルネーム、住所、職歴、……それは確かに一致していたが、それだけで本当の”虚無”かと思われると信じがたい事。



「………………(確認)」



ムキョはそのお宅に向かう。だが、いきなり尋ねたりはしない。

刺激してはいけないタイプの人間だからだ。

まずは基本的な情報収集。不思議な恰好とはいえ、顔は少女。無口であるが、……ムキョ、思い切って。



「………………(監視)」



ムキョは近くのマンションの屋上から双眼鏡で監視を始める。もっとも、家に引き籠っているとされる存在の監視は、どーにもならない。しかし、情報によればそんな彼を世話している叔母さんがいるという。彼女の生活から監視を始めるのだ。

彼女は今、周囲からすると、旦那さんと家で暮らしているとされているのだが。実はその旦那は10年以上前に亡くなっており、未亡人。息子と娘も、独立をしている。しかし、買い物袋には常に2人分に相当する食料があった。

叔母さんは週4で、清掃のパート勤め。

60半ばの年齢を考えれば、息子か娘のどちらかと同居しててもおかしくはない。

でも、それをしない。

ムキョはそんな叔母の行動に、こー読み切った。



「…………………(鳥の巣)」



鳥の巣症候群。

自分が育てた子供達が、独立などをしたきっかけで体調や精神状態を崩す、人間の精神的な症状。

良妻な人ほど成りやすい。

周囲にその変化はすぐに感じ取れないが、本人は寂しさに耐えられず、苦悩している。

叔母さんの場合。

自分の息子達が独立しているため、虚しさや寂しさが来ているものの、家に残った人物を世話する事を、これからの生き甲斐として生きている。そんな気持ちの整理をしたのだろう。だから、周囲の人達が知りもしない、その家の中に17年間も引き籠る人間を世話することができた。

叔母さん自身。彼が17年も引き籠っていながら、それを改善しようという思いは、比較的薄い。



とはいえ、自分の息子達は違った。

彼に対しては家から追い出すなり、社会復帰を促したい。

それと、自分の母親が高齢になっており、施設に入って穏やかに暮らして欲しいという案も出していた。

当然。とても自然なこと。

それでもできなかった。しかし、見捨てる事も出来なかった。

かなりの緊張感の中でいた。



「…………………(バランス崩す)」



引き籠る彼の気持ちと、もう寂しさを味わいたくない叔母さんの気持ち、母親を楽にさせたい息子達の気持ち。

この3つの気持ちのバランスをぶち壊せばいい。

ムキョはそれに気付く。

そして、素早く実行に移る。


要となるのは、やはり叔母だ。彼女以外はその彼と直接的な交渉ができない。彼女の行動だけが彼に影響を与えられる。

死んでしまうのはダメだ。訴える事は生きていなきゃ、できない特権。

ムキョはそれでも優しく行動をしていた。



ドンッッ



清掃の仕事をしている彼女を、こっそりと後ろから突き飛ばすムキョ。

叔母さんは倒れないよう地面に勢いよく着いた左手を負傷させる。打撲くらいのダメージを与え、料理が大変な状態にしてやった。とても陰湿だが、優しい仕打ちな方だ。口は出せるようにして、家に帰らせる&しばらくお仕事も休ませる。



「……………………(姿を見せるかな?)」



再びマンションの屋上から監視を始めるムキョ。

お金さえ払っていれば、住める部屋と食事を提供されていた男。決められた食事が毎日出されていたのだが、今日に限っては手の負傷も相まって、出前を注文した。

お蕎麦を二つ。それから叔母さんは、申し訳ない気持ちからか、手紙を添えて扉の前に食事を置いた。

手紙の内容は怪我をしてしまい、しばらく家にいる事と、食事のほとんどはお弁当や出前といったモノになるということ。ホントにできている叔母さんだ……。

だが、その中で叔母さんからのお願いは



『自分でお弁当を買ってきてください』



扉の前に食事代を置いておくので、外出して買うようにというモノだった。

これくらいはして欲しいと思ってのことだ。



ガチャッ



「………………?」



夕食を受け取りにきた、引き籠りの男は出前のお蕎麦と手紙を受け取った。

ムキョからはまだ、その姿を見れないが……。それはもう、人前に出るような風貌ではない。風呂などは10日以上も入っておらず、無精ひげが生えており、髪の毛の生え方は自然に荒れたようになっており、ところどころ抜け落ちて、禿はげを醜くした頭部。男性特有の加齢臭も酷い。

歯も黄ばんでおり、垢の溜まった爪。



ジュルルルル


引き籠りの男は蕎麦を仕方なく啜った。

叔母さんが怪我をしたという事は手紙を読んで分かった。その手紙の裏面に彼は字を書き記して、食べ終わった食器と食事代のお金と共に手紙を置いていた。内容はシンプル



『自分で買いに行け』



とてもシンプルだった。

その応えに叔母さんは、自分の怪我以上のショックを感じた。

自分の息子達にも言われて来たことであったが、心のどこかではこのままではいけないと思っていた。なんとかせねば、どうなるか。この人は自分がいなくなったら、どうなるのか。その辺の整理が必要なのは違いない。

叔母さんは、自分の息子と娘を呼び掛けた。



「………………(いよいよ)」



事件は、4日後に起こる。

虚無を目指している男と、虚無になる人を恐れる女と、虚無を捜している怪物と。



そして、本当の虚無の怪物と。




◇               ◇





ドンドンッ



激しいドアのノックに、引き籠りの男が目を覚ました。


「おい!もういい加減にしろ!!」

「そーよ!!お母さんに甘えてないで、とっとと出ていけ!お前の家じゃないんだよ!!」


実力行使しかない。そーいう決意をしている叔母さん、その息子さん達。そして、彼等だけではない。以前にこの彼を公正させようとしていた、施設の人達の3人。合計6名が引き籠もりの男を追い出そうとしていた。


「まずは外に出ましょう。それから始めましょう」

「部屋でお話をしましょう」


そんな言葉も飛んだが、やり方はとても強引だった。そして、その強引ぶりには彼等の鼻栓からも伝わる。彼の体臭がちょっとした兵器だ。

扉を無理矢理開け、鍵を壊し、彼を広い客室へと運び込んだ一同。その最中、彼は抵抗を見せる声は出すも、会話をするような感じではなかった。嫌々とした態度をとるが、力で抑え込まれてソファに座る。


「………………(虚無……かな?)」


そんな最中にムキョはこっそりとこの家に侵入し、引き籠りの男の部屋へ。

虚無を求める男の私生活というのを覗き見た。


「………………(人の虚無か)」


その部屋で一番目に飛び込んできたのは、TVゲーム。それも随分と古い機種。コントローラーからして、相当使い込まれている。小さな本棚には漫画が数点合ったが、どれも完結していない作品。

机には日誌となっているようなノートも数点。それをチラリと覗いてみたムキョ。


「………………(遠い)」


そこに綴られているのは、彼が抱える生きた怒りのような内容。

自分の生い立ちを呪うように、とても汚い単語をただ並べており、文章になっていないほど。恨み募った怪文といった出来。この小さな部屋しか世界がない毎日。

なんのために生きているんだと、自問するような言葉もノートに書いていた。

また、最後に外出をしたのは、8年前という記録も発見された。

外出理由は、……髪の毛を全部剃ってもらうため。それと、


「………………」


人を刺すための刃物の購入。

そして、その刃物の場所があるところ。そこに説明書のように自ら作っていたのは、人を襲うときのやり方だった。どんなところを刺せば、抵抗されずに人を殺せるか。より多くの人間を殺せるか。新聞のスクラップ記事を始め、TVニュースで流れた、通り魔事件の記録をノートに書き写した代物。

刃物は時折、部屋の中で振り回し、その時が来たらしようとしていた。

この刃は世界への復讐。叔母とその息子達への復讐…………



「!!…………(人は愚か)」



彼の日誌から読める計画。

間接的とはいえ、それをさせたムキョは罪悪感を持った。この計画で初めて自分の求める怪物が生まれるのは確かだが。



その頃。リビングで引き籠りの彼は、叔母さん達の前でこう告げる。


『明日には、この家を出るから。荷物を纏めさせて欲しい』


強引なやり方ではあったが、その約束を取り付けた叔母さん達。念のため、扉の鍵も壊したため、引き籠もりの彼が引き籠り続けるのは難しい。叔母さんはここに残るが、息子達は一旦戻り、施設に引き受ける手筈を整える。

叔母さんは


「よ、よかったわ。これから頑張りましょうね……」


その意志だけでも持った、引き籠りの彼を褒めた。だが、そんな言葉に動じはしなかった。

すでに彼は別の意志で固められていた。

彼が部屋から戻って来た時、すでにムキョはこの場を後にしていた。だが、彼がいずれは手に取るだろう。その刃物は部屋に入って来た彼に見えるようにしていた。それに手をかける……。



「…………………」



覚悟はできている。




◇              ◇




「叔母さん以外に人が住んでるって?」

「バカな!あそこは夫が死別してから1人だよ。見た事ないよ!」

「息子さんと勘違いしてるんじゃないの?息子と娘は、別のところに住んでるのは知ってるけど」



革新党の情報網はムキョのいる地域に入り、情報収集をしていた。

求めている情報は、強い”邪念”を抱えてそうな人間。この地域で生きている事すら知られてない、17年間も引き籠もりをしている男の捜索。

役所のデータによれば、確かにその男はここに実在しているらしい。

だが、本当に近所の人達はその男の事を知らない。

確証はなかなか得られなかったが、



「確かに4年前。その方とお会いしました。社会復帰のためにと、叔母さんとその息子さん達からのご依頼で。力不足で申し訳なかった」



働けない人や引きこもりの人達の職業訓練をする施設の関係者が、その情報を公開してくれた。


「不気味でしたよ。……ここだけの話、彼は居候の身で。父親が殺人犯で刑務所で亡くなり、母親に至っては幼い頃から知らず、別の母親に育てられ……酷く言えば、虐待ですね。叔母の家には中学時代から世話になってたとか。複雑なんです」



早々ある事ではない。

もしかすると、日本では彼1人しかいないような事例かもしれない。

近所の人達は見た事がなく、情報提供をしてくれた施設の人も、4年前ということで。今、どーしているかは分かってはいない。可能な限り、集められた情報はある人物に届けられる。



「ふーん。そーいう事情ってわけ」


網本粉雪だ。

レイワーズが狙っているであろう、強力な邪念を持つ人間は、おそらくそいつだろうと踏んで、行動するのを待っていた。

その一方で、狙われている彼の経緯に、



「……それ、きっと。ヤバいわね」



意味ありげな言葉を吐きつつ、胸ポケットに入れているガムを取り出して、口に含む。

一噛みから、その栄養を抜き取ろうと感じるくらいに力強く。

彼女のどこかにも思うところがあるという事。

家族からの愛を知らない。理不尽のような生い立ち。なんで生まれてきたのか、分からないような気持ち。

動くべきはずなのに、粉雪は動かない。動かないという決意で、レイワーズの出方を見ていた。



彼女も彼女だ。



挿絵(By みてみん)


おまけ:

ムキョ:………………

ムキョ:………………

ムキョ:………………

ムキョ:………………


怪護:あ~、たぶん。自分の挿絵があるとは思わず、驚いている。ところで挿絵描いてから本編書くのは、あまり良くないんじゃないかというご指摘だな。うん。

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