Cパート
ドクンッ
表原達も同時に急な胸の反応を感じ取った。
空間を認識しており、何かが変わったというのは理解できている。
ブロロロロロ
2台のタクシーは丁度、右折をしようとするところであった。
前方を走る、北野川達の乗るタクシーはそのまま右折レーンに。後方を走る、録路達が乗るタクシーはそのまま
「!おい、なんで通過してるんだ!?」
「ちょーー!右ですよー!」
あろうことか、直進し。北野川達と離れてしまう。
運転手の行為に助手席から録路が腕を掴みに掛かった。運転手は分かっているようだが、ダメなようだ。
「だ、ダメ……つ、捕まえなきゃ……お、お前等を」
胸の苦しみを訴える表情をしながら、体はさらにアクセルを踏み、北野川達とひき離すように車が進む。
そして、進む先には
「じゃね~~~」
「じゃねも~~~」
「ええええぇぇっ!?ジャネモン~~!?」
今まで姿を隠していたと思われる、色んなジャネモン達が道の真ん中で現れ始めた。ジャネモン達の格好の狩場にご紹介されてしまった、表原達。
タクシーごと葬るかのように、襲い掛かってきた。
ドゴオオオオォォォォッ
しょうがないなど思っておらず、こちらからタクシーをぶっ壊して、応戦の体制をとる。
録路はすぐに妖人化しナックルカシーへ。車外に飛び出し、向かってくるジャネモン達に攻撃を放った。
「じゃねぇ~~!?」
「ちっ。ルル、お前も手伝え!」
「はい!」
表原とルルもなんとか車の外へ飛び出し、妖人化する。
「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!!』」
「『晴れ晴れと橙煌け、ハートンサイクル!』」
かなりの強さを持つ妖人が3名集まってはいるが、
「じゃね~~」
「じゃねも~~ん」
「ナックルカシー!!30頭以上のジャネモンに囲まれてるんですけど!?っていうか、向こう、増援もしてくるでしょ!?」
「なんでこんな数のジャネモンがいて……平穏な雰囲気を作れているんですか!?」
「今は少し、ゴチャゴチャ考えるな!」
その10倍以上のジャネモン達に囲まれ、マジカニートゥの懸念通り、ジャネモンはまだまだいる。
1頭はそこまで強くはないようだが、数の暴力はしんどい。
それに加えて、
「あ、あの3人を」
「と、捕えないと」
「あ、あのー……周りの皆さん、顔色が悪いんですよー」
先ほどまでは普通の生活を送っていた人間達であったが、心臓と頭に針が突き刺すような痛みが襲い、指令のようなモノが送られる。人々の表情が怯えや混乱を表していたが、
【因心界の面子を捕えろ、殺せ。これは命令だ】
指令をこなせば苦しみをとく。自身の体と心を人質にされ、操作する。
普段は何もすること、されることもないが。一度、指令を与えられた者が逆らうことは難しい。指令をこなしている間は、苦しみから逃れられるから。
ジャネモン達と並行して、人間達は……。ここの住民や仕事でやってきた人達なども含めれば、”万”という人数を軽く超えて、指令のみをこなし始める。指令に精密的なものを求められていないが、単純な数が膨大。
押し寄せる波のように人間達もマジカニートゥの方へ。それと同じく、ジャネモンも同じように行動をすれば、人間達の何人かが巻き込まれてしまうのは当たり前のこと。
「ちょーーっ!人を無理矢理操るのは反則でしょーー!」
「老若男女問わず、こんな操作を……!」
自分達が襲われるという事実よりも、こんなことを行える存在。平然と行ってくる奴に怒りやズルなどを覚える、マジカニートゥ達。
「こっちは逃げながらジャネモンと戦うぞ!」
「そうですね!場所を変えましょう!」
マジカニートゥ達3人は被害を抑えて戦うため、もっと広い場所に操られた人間やジャネモンを誘導。
そして、タクシーを引き離された北野川達はというと、
「ちょっと!何やってんのよ!」
後部座席にいる北野川は怒って叫んだ。さっきまで普通に運転していた運転手だったというのに、こちらの言うことを聞かず、録路達を置いてどんどん先に行ってしまう。
これはあの新幹線の時と同じだ。いきなり、金縛りのように人々の行動が制限されている。
運転手は苦しみながら、北野川達を先へと進ませる。
「表原達と離れていく!」
「と、止めてくれ!それやばい!」
「ダ、ダメ……め、命令だから……い、伊塚様の、ご、ご命令で……」
「!伊塚!?」
強制的な操作ではないし、任意な操作に近いようで、精密さはない。町どころか、空間内にいる人間達を平然と操れるレベルもあるかもしれない。走行する車から飛び降りるかと思ったが、北野川は表原達の方にジャネモン達が集中していき、こちらにはまったく意識していない。
「ジャネモン達も操られてる」
解析するべきことと、成すべきことを考える。
その間に車内での異変が起こる。
「うっ…………」
助手席に座る茂原が胸に来る急な痛みを感じて、うずくまった。
「どうしたの!?茂原!」
「い、い……嫌だ。……あ」
ブルブルと体が震え始めて、精神のバランスが崩れ始める。いきなりの攻撃に加え、大勢の人間達に敵意を向けられることや、自分と同じ人間であっても、巨大さに慄いた。どちら側に行けばいいかと、考えさせるような恐怖は体にしみ込んでくる。
そんな苦しみにある茂原に黛が顔を近づけていた。その時、
ドンッッ
「きゃあぁっ!」
女の子らしい声を挙げ、茂原に突き飛ばされて後部座席の背もたれに当たる黛。
「お、お、お、」
黛のダメージよりも、茂原の心臓と脳に与える圧迫感は凄まじく、いつもの暗い表情をさらに暗くさせ、焦燥な表情で黛と北野川に叫ぶ!
「ダ、ダメ!い、い、伊塚に会っては……あっ、あっ」
「な、なにが起きてんの!?」
「し、従わないと、ぼ、僕がし、死ぬぅっ!!」
「!!」
北野川はこの時。茂原の表情から、自身の能力を使わずとも感じ取れる。恐怖から来る、服従を感じ取った。他の人間やジャネモン達が見せる動きの共通点であると、すぐに察知した。そして、茂原はというと、怖がっていながらも、
「お、お前等も早く従うんだーーー!助からないぞーー!」
「ちょっ!いきなり、なに!?」
茂原は這うゾンビのように、黛に襲い掛かった。
そこを北野川は躊躇なく、懐からハンマーを取り出して、茂原の頭をぶん殴る!
「べほぉっ!」
意識が刈られる一発に茂原の動きはすぐに止まった。体にダメージを与えれば、得体の知れない恐怖の服従から一瞬だが、逃れられるようだ。
「『Talk Dancing、"シークレットトーク"、オ・シ・エ・テ・ネ』」
北野川は妖人化し、シークレットトークに変身!
北野川と分身体で茂原と運転手をそれぞれ抑える!操られているとはいえ、普通の人間。身体能力の低い、シークレットトークでも十分に制圧できた。そして、運転手のシートベルトを外し、ドアを開けて
ポーーーンッ
走行中の車から外へと追い出す!空いた運転席に北野川が座り、運転を交代する。
黛は少し遅れた形であるが、茂原を取り押さえて、北野川に確認する!
「ど、どうすんの!?これ!」
「そいつのことは、”さぁ?”だけど」
ここからUターンして、表原達の手助けをしに行こうにも、なんの前触れもなく、茂原が操られたという事実。
向こうがどうなってんのか分かんないし、ジャネモン達が大勢向かっている。
リスクが高い。
「!」
そんな状況確認中。シークレットトークは、車外に追い出した運転手の様子をサイドミラーで確認。重症には違いないが、意識があって強制的に操られている状況。そんな中でその運転手の足取りと意識は、自分達よりも表原達のいる方向へ。傷ついていながらも向かおうとしていた。
町中の人間や生み出されたジャネモン達も同様だ。
北野川と黛も敵であるはずなのに、二人に襲い掛かってきたのは運転手と茂原のみ。
そういえばと、新幹線で襲われた時も似たようなことを思い出す。
あの時も、金縛りにあった連中は一斉にほぼ同時だったし。新幹線が普通に駅を通過しているように、他の人間達が運転していただろう車も止まることなく、交通事故になるまで進み続けていた。
操作にはかなりの制限があり、大雑把なところがある。
「表原達のところに戻って、加勢した方が……」
「……違うわ。黛!このまま表原達を加勢しても、キリがないだけ!本命を狙いに行く!この仕業が伊塚だってのは、確定だからね!!」
「えぇっ!?」
「ビクつかないで!これはチャンス!!それもまたとないチャンスよ!!」
秘密を探れる能力があるとかよりも、北野川の経験値がこの窮地の打開を導き出せた。
「録路達がジャネモン達の相手をしてくれて、私達には寄ってこない。このまま、フリーパスで屋敷に乗り込んで、ぶっ倒して解決できる!」
「!少しは説明してよ!また茂原が……」
茂原がまた意識を取り戻すと、心の中にある恐怖が蘇ってきて、黛達に抵抗を見せた。
それでも無理矢理だ。
「い、行くな!従うんだ!安心なんだぞ!」
「何言ってんのよ、さっきからあんた!?」
この場面で黛も新たな妖人化を試す。
「チアー!力を貸しなさい!」
『分かった!』
新しい相棒、チアーとの妖人化。黛がセーターの妖精、チアーを装着することが条件。
チアーが七色に光り輝き、セーターが変身していく。
「『描け!自然の美!エレメントアーチ!』」
ダイソンと組んでいた時は、ダイソンから感じるエネルギーに恩恵を感じていたが。このエレメントアーチは、自分自身の体が感じる力。漲ってくる力ってこーいうのかって、よく分かる。
ガシャアアァァッッ
「い、い、痛いんですけど……」
「さっき突き飛ばした分」
体全体で押しまくって、助手席のガラスを突き破り、茂原の頭を外に出す。
身体能力の強化ってこーいう感じかって、喜んでいるエレメントアーチ。多少の余裕が出てきて、シークレットトークに尋ねる。
「あたしとあんたで、伊塚院長って奴をぶっ飛ばしに行っていいんだね!?」
「ええ!頼むわよ、エレメントアーチ!!」
これは思わぬ良い誤算って、二人共思っている。
ここまでは得体の知れない攻撃の数々であったが、恐怖をぶっ飛ばす高揚感が出てきた。
「いでぇ~……、か、体は自由に動けないし、…う~、胸も圧迫されてるし……」
「茂原!あんたも妖人化すれば解放されるんじゃない?」
「そ、そうか!」
「ダメよ!あんたはもう手遅れ!」
「はい!体中に伊塚院長の恐怖が巻き付いています!」
操られている茂原はもう、シークレットトークが言うには手遅れらしい。彼の意志が多少戻っても、再び操られるとか。
妖人化して操られる方が厄介だと判断し、我慢しろというシークレットトーク。
とはいえ、茂原に役割がないわけではない。伊塚の能力のギミックが分かりかけてきて、操られた茂原ならできるミッションがある。
「あんたは自分の事と、私達が伊塚院長を倒しに行くことを表原達に伝えに行きなさい」
「はいっ!?」
「エレメントアーチ。そいつ、車外に追い出していいわよ」
「分かった!」
シークレットトークに言われ、エレメントアーチは躊躇いもなく茂原を車外に追い出してしまう。
「ぐへ~~~、お前等、覚えてろーーーー!」
「頑張りなさーい!」
時速40キロは出ている車から追い出されたら衝撃はヤバイ事だろう……。
それはさておき。
「茂原の奴。こっちに襲い掛かって来るんじゃない?」
操られたとはいえ、こんな形で放り出したら、表原達のところに向かうかなんて怪しいものだ。しかし、シークレットトークはすぐに理由を教えた。こんなやり取りをしている間でも、北野川達が襲われない理由も含め。
「操っている人間の行動には、条件があるみたいよ」
「条件?」
エレメントアーチは振り返って、倒れる茂原の様子を見てみた。ふざけんなって顔をしているが、すぐにまた操られた時のように苦しみだし、体が勝手に北野川達の方ではなく、表原達がいる方へ動いていく。
「うあああぁっ!、うううっ!た、戦わないと……その指令が……」
体のダメージも深刻なのに無理矢理戦わされる感じだ。
茂原は心臓に来るダメージを軽くするためにも、表原達の方へ向かわざる負えなくなる。
「ど、どーいうこと……?」
「操ってる奴等は全員、大雑把だけど”同じ行動を取らせないとダメ”って事よ。個々には操作できない」
伊塚院長の能力の解析の一つが、これでできた。
関西地方全域にいる人間達を一気に操れるようであるが、操作方法は個別で操作できるのではなく、統一しなければならない。今、茂原達が操られている目的には、表原達の討伐が入っているんだろう。そのため、そこから離れている北野川達には攻撃も対処もできないのだ。
「空間ごとに目的を決められる。茂原と運転手が私達を妨害してきたのは、この車に乗っている人間にはそーいう命令を出しているんでしょうね。具体的な操作じゃなく抽象的な操作だから、臨機応変に動けるけど、強制力はまだ薄い」
「……でも、それを日本全体にやられたら」
「本気でマズイ事になるわね」
操作のされ方も意識を奪うのではなく、脅迫や恐怖による体の制御。下手な抵抗は命を削りかねない。
操られ方と範囲、対応力などは掴めた。ただ、未だに伊塚院長のこの人を操作する条件が解析できていない。運転手や住民達はきっと、大分前からこの術に掛かっていたのだろうが、茂原を一瞬で操作してしまった方法。
茂原の様態からしても、攻撃手段に繋がる可能性も高い。
ともあれ、この戦い。
伊塚院長を倒さなければ、どうやっても抑え込めない状況。
北野川と黛の2名が鍵を握るのは間違いない。
◇ ◇
恐怖は体を突き動かす。
しかし恐怖は、動きを2つ遅らせる。
心技一体と呼ばれるだけあって、心の恐怖は迷いにもなり、無理矢理は悪影響。
「じゃね~~~」
ジャネモンにもそれはしかり。
鈍くなった動きで、戦やすい場所に移ったナックルカシーとハートンサイクルの2名を同時に抑えるのは難しい。
バギイイイィィッッ
「このくらいならまだ問題ねぇ」
「はい!」
来るわ来るわ、ジャネモンの群れ。それでもマジカニートゥ達の3人は、それぞれ視界に入れるだけの距離をとりつつ、戦いを続けられていた。
ジャネモン達の相手のほとんどは、ナックルカシーとハートンサイクルの2名が行い。
「ちょっとー!あたし一人で操られた人達を相手にするんですかーー!」
「俺達の攻撃だと、人間を殺しちまうからな!上手く戦え!!」
「お願い!マジカニートゥ!!」
操られた人間達はマジカニートゥが徒手で相手をしていた。めっちゃ疲れるんだがって、表情。
囲まれてはまったく打開策が出てこない。もう北野川達を追うことは難しい状況だ。
バサバサァッ
「!」
「な、なんでしょうか?」
そして、合流はさせまいとした考えではなく。明らかにマジカニートゥ達を葬りにやってきたとする、ここに来た連中とは違うオーラを放った大鷲の姿のジャネモンが現れた。
空を悠然と飛びながら、マジカニートゥ達の様子を見ていた。
「……あいつ等か……」
伊塚院長の空間内にいるというのなら、そろそろ体に恐怖が襲い掛かり、意識を操られるものであるが。それが見られないのは対抗できる力があるということ。
ならば、削げばいい。目の前で一人を葬り去り、わずかでも勝ちの目を失いさえすれば。
「な、なんか。鳥人間のお婆さんがこっちを見てるんですけど!空飛びながら様子見ですか!?」
「ジャネモンですね!」
空を飛んでいる相手ならと、ハートンサイクルがジャネモン化した伊塚夫人と戦おうとしていたが。
「ハートンサイクル、マジカニートゥ。お前等はあいつの相手をすんな」
「ナックルカシー……」
ここでナックルカシーが行かせるのを止めた。パッと見で分かるのは、伊塚夫人にはちゃんとした目的があり、こちらに対しての敵意が強いこと。人間達を操っている存在なら絶好機である。
「あの鷲は俺がやる。お前等はここのジャネモンと人間達を惹きつけろ。北野川達のところにもジャネモンが来てるなら、な」
2人に気を遣ったというのもある。
もう一つに伊塚夫人の実力が今まで見てきたジャネモンの中では、飛び抜けている。雑魚の相手よりかは手強い感じだ。
だが、もっと強い奴等と戦ってきたナックルカシーだ。
空中戦で戦った方が利口のような気がするが、
「あいつは俺が地上に叩き落とす」
その一手で終わると、ナックルカシーは発言。それでも少し心配をしたハートンサイクルではあったが、マジカニートゥは危機感の高さから。
「じゃあ、そっちは任せて、あたしは逃げますねーーー!!」
「えっ!?マジカニートゥ!?」
「あたし達は逃げながら戦った方がいいよ!ちょっと良いこと思いついた!」
「逃げたいだけじゃない!?」
マジカニートゥとハートンサイクルはナックルカシーと別れて、敵を惹きつけることに専念する。
操られた人間達が多く、ジャネモン達も同じだ。だが、戦っていて気付いたが。
「飛び道具の類は少ないから、距離とりゃ大丈夫!」
ゾンビのような襲い掛かりが基本であり、一人一人倒していく必要はない。倒さないでいた方が被害が少なくて済む。
この行動も適切と言える。
一方でナックルカシーは伊塚夫人に狙いを定める。そして、伊塚夫人もナックルカシーがこのメンバーの要であると理解した。
「ふーーーっ……」
「叩き落してやるぜ、婆」
ナックルカシー VS 伊塚夫人




