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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第40話『誰も罪を問いさせません!?みーんなみんな、伊塚院長の言いなり世界へ!?』
134/267

Bパート

カチカチ……



「こんなもんだろ」



暗がりの空間でレゼンは一人で作業を行っていた。

表原達と同行しているが、こうして人間だけでなく、妖精達が集まって待っている事はあまりない。また、レゼンからこれをやりたかったのは、妖精の国の不穏な動きが関係している事もある。



パチンッ



空間に灯りをつけて、小道具を収めるような箱の中という雰囲気に仕立てた空間に、妖精達を紹介する。ここに集まった妖精達は、レゼンと同期、あるいはその下の世代の妖精であった。



「にゃにゃ~、準備ご苦労にゃ~」


北野川が所持している、手鏡の妖精、カミィ。


「よ、よ、呼んで頂き。その、あの、ありがとうございますっ!」


録路が所持している、オーブンの妖精、マルカ。


「こんな面子と話すことになるなんて、ドキドキ」


ルルが所持している、雲の妖精、ターメ。

妖精の国の王様であるサザンの孫であり、キッスが所持している、甲冑の妖精、イスケとは親戚である。

世代はレゼン達の一つの世代である。


「……なんだか気に掛けて、申し訳ないなぁ。サングと代わってやりたい」


茂原が所持している、缶の妖精、ダイドー。茂原とは未だに不正契約であり、この任務が終わったら、しっかりと契約したいと思っている。


仲間だった妖精もいれば、敵となっていた者もいる。しかし、こうして仲間として集まった6名。

その最後に現れたのは、現在は黛が所持している事になる妖精。前の持ち主は、涙一族に属して、涙メグの側近の矢萩が使っていた妖精。


「同窓会のつもりか?」


セーターの妖精、チアー。

彼もレゼンと同じ世代に当たる妖精であった。

レゼンが作った異空間で妖精達だけの話し合いの場。ここでは人間達に話の内容が届くことはない。


「それもいいけど、こうして妖精達だけで話し合いたいんだ。なぁ、カミィ」

「あたしを巻き込むにゃ。あたしは嘘かホントかを見抜くんだからにゃ」


そんな力を持っている奴と話し合うってのは、非常に嫌に思う。そして、カミィの言葉とは裏腹に、話しがしたいのは行動を共にできるかのチェックだろうか。契約者はともかく、その妖精も力を貸さねばならない。

ダイドーとチアーの二人には向けられている。


「まだ黛とやらと妖人化を果たしていない。矢萩以外と合うとも……」


チアーの手厳しい言葉には、元の適合者との思いがあるんだろう。案外、仲が良かったのだろうか?


「茂原の気分次第さ」


一方で適合者である茂原の意志に従うという言葉を伝える、ダイドー。

レゼンという天才やら、カミィとサングという秀才が同世代にいるせいで、目立っていないが。あの茂原にはもったいないほどの出来る妖精だ。どこかダイドーの苦労を理解できるレゼンの表情。


「……まー。その方がいい。因心界は別に悪いところじゃねぇし。それに世界的に窮地な状況だ」


SAF協会という妖精同士の戦いではなく、こっからは妖精本来の戦いである、邪念を司る怪物、ジャネモン達との戦い。それもジャオウジャンという、かつてのジャネモン達の王が放っているジャネモン達だ。

放っておけば、地球はもちろん、妖精の国の危機にも繋がる。

そんな戦いが中心だというのにレゼンにはどうしても拭えない事がある。この中にいる妖精達は、自分と同世代で、非常に若い世代だ。


ジャオウジャンというジャネモンの王も、語りでしか知らない。そして、



「みんなはこの前の世界の改変について、どう思ったよ」


多くの人間達が違和感を感じていないが、因心界やら革新党はその動きを察知した。そして、その察知したレベルはどれくらいの規模だろうか。未だに分かっておらず、忘れた者達も現れている。

妖精の国がどーいうところなのかも、レゼンには気がかりになった。

サザンが”何か”を隠しており、SAF協会にいるルミルミとシットリは、その”何か”を知っていたんだろう。


「……俺は、未だに気味悪く感じるし、あんなのが妖精の国にあるとしたら、人間達は黙ってねぇと思う」


表原達にこんなことを相談するなんてできないから、妖精達に話をしてみた。この妖精達から人間に話されるかもしれないが……。


「レゼンが思うなら、あたしも思ってるにゃ。とても人間には言えないにゃ」

「う、う、うん。サザン様が知ってるのは確かだろうけど。不安だよね」


そんなことを思っているのは、当然、レゼンだけではなかった。

みんなみんな。あの出来事を不安に思っていて、人間達との行動を考えているのは確か。


「……なにか知らないのか?ターメ。サザン様の孫なんだろう?」

「え!?知りませんよ、ダイドーさん!そもそも、サザン様と私ってあんまり長く過ごしているわけじゃないんですけど!?」


子供はそこそこいるそうだが、サザンはもっぱら城に籠りっぱなしで、子供達や孫の前に来るのはそんなになかったとか。むしろ、付き合いならレゼンの方が長かったりするかもだ。


「カミィ。話してやれよ」

「にゃ?」

「というか、お前がいるから、こうして集まろうと思ってたんだ。安心させてくれよ」


カミィは、この真面目な天才野郎がって、内心で毒を吐く。

確かにあの時、サザンの言葉の秘密を知れたのは、カミィと北野川だけだ。

嘘を話すかもしれないのに、信じろって言ってくる。カミィが、レゼンにムカつくのは分かる。少し間を置いて


「……なんというかにゃ~。サザンの様子からして、困っていた秘密は……その”存在”じゃないにゃ」

「”存在”じゃない?」


世界を改変できる力があることに、困っているわけではない。制御できないからとも違っている様相。

カミィも常識的に考えて、そんな力が自分の祖国にあることがヤバイと思える事なのだが。


「サザンの隠したいことは、その”存在”がにゃ、”存在している理由”だったにゃ」

「存在している理由?……分けわからん」


チアーの一言についつい頷いてしまう、ターメとマルカ。

そこの秘密まで探れなかったのはカミィの能力が劣ったからではなく、”存在”がそこにある理由に繋がっているんだろう。


「サザン様が、そいつの事情を大まかに知っているんだろうな。聞いたとかそんなのだろう。おそらく、ルミルミもだ」

「そうだろうね。2人は同期だし、長く同じ行動をしてたから、そこは想像がつくなぁ」

「理由を知っていて、争っているとしたらにゃ。サザンにつくか、ルミルミにつくか、あるいは独立するかは思うにゃ」


因心界についている以上。サザン側に立つことになる、レゼン達。しかし、サザンはその”存在”をとても隠したがっている。


「にゃ!さては、レゼン!!自分で妖精達を纏めようと思ってるにゃ!!」

「思ってねぇよ!むしろ、お前だろうが!!俺は!万が一、サザン様が事情を話してくれた上で、協力するのを辞めると思ってるだけだ!」


その事情が分からないから、従いつつ探ろうとする。

キッスや粉雪などはおそらくそーいう気持ちだ。人間達が妖精という存在を疑っていて、……それを見越して、レゼンはみんなに警告してみた。


「俺達の存在についても、色々立場が変わるかもしれない」

「そ、そ、そ、それって。録路達が、あたし達を裏切るとか、そーいうのですか!?」

「それが最悪で済めばな。個人の裏切りよりもデカイ波は、覚悟した方がいいって事」


人間達と契約し、超常的な力を手にして協力できる仲だったら、どれほどいいだろか。

妖精が甘美に出来上がっている存在だったなら……。



◇         ◇



そんな妖精達との真剣な話し合いとは裏腹にほのぼのとした、自由時間を過ごす表原達。


「ぐーっ……ぐーっ……」


菓子を食いまくった後で眠る録路と、


「ぎひひひ」

「うぇ……なんでこんなバカなことができるの?」


久しぶりの大好きな不謹慎動画の視聴を楽しむ茂原。

そんな不謹慎動画を嫌そうにしつつも、一緒に見ているのは、表原であり、……茂原がやっぱりまともではないと、思っていたところ。ついつい見ていたが、気持ち悪くなりそうだった。まぁ、ルル達の方に気持ちを向けるのはもっと嫌なのだが。

そんな不真面目3人組に対し、


「……あ、そーか」

「ふーん」


ルルは真面目に勉強。そして、黛も受験生であったためか、車内で勉強に勤しむ。

そんな勉強を教えるようにか、北野川が二人に勉強を教えてあげた。


「そうそう。あんた達、できるじゃない」

「ありがとうございます」

「あ、ありがと」


ルルからしたら、凄い意外に思っていたが。素直に感謝。一方で、黛は少しどもるように感謝をした。

偉そうな先生タイプの印象だったが、教え方が上手い。人の悩んだところを適格に教えてくれるというのは、先生という職業でそうできることではない難しいこと。

北野川にその自覚はないが、能力を利用しているだけでしかない。

ちなみに表原がこの輪に入れなかったのは、北野川にキレられたからだ。


『いいなー、北野川さんは秘密を知れる能力で、テストでカンニングできるんだから。そうやって、教えることもできるんでしょ?』


ちなみに会話がないと、北野川は秘密を知ることができないため、テストのカンニング行為はできない。

あまりに敬意に欠けた言葉を放ってしまったため、表原は仕方なく、茂原の動画視聴に付き合っている。

もちろんな話であるが、秘密を知れる能力があっても、それに答えられる受け答えというのは北野川自身のコミュニケーション能力であろう。人心掌握が上手い。


「勉強は無理してするもんじゃないし、楽しんでやるもんよ。高校や大学ならなおさら」


北野川は因心界を引退したら、教員の道を思ってたりもしていた。

戦うことや尋問とかじゃなく、こうやって教える道で活かせるかと思ってのこと。

まだまだ先のことになりそうだから、北野川はとりあえず。まだ必要とされている時までは、因心界に身を寄せようと思っている。あるいは教育係も悪くないのかも。



名古屋駅で録路が目を覚まし、速攻で駅弁を買ってくるという事。

表原と黛が珍しそうに琵琶湖を車内から眺めたり。

勉強を止めて、自分達の妖精達を準備させる、ルルや北野川、録路。レゼンも旅行気分な表原の頬を引っ張って、気合を入れさせる。


もうすぐ、京都駅に入るところであった。

録路がこの場を指揮する以上は、一番に切り出した。


「新大阪まであと一駅だ」


そこからさらに在来線を経由して、数駅……、徒歩10分ほどで、伊塚院長のお屋敷にたどり着くわけだが。

早くも戦闘準備を整えている4名には分かっていることと、早く妖精をもらいたい2名も勘づいている。


「琵琶湖に入った辺りからか、妙な領域に入ったのは気づいたみたいだな」


一般人ならともかく、妖人だったなら気づく。奇妙な違和感があった。

表原は自らもやっている事で言うと、


「レゼンが使っている、空間操作みたいな感じがします。あたしのマジカニートゥに近い感じ」

「けど、空間の広さを考えたら桁外れだよ」


関西全域を覆いこむほどの大きさ。

しかし、どんな影響があるのかは不明。人間への影響はまだ、表原達には把握できていない。


「?」


窓から外を見ていた黛が、外の異変に気付いた。地元のバスが平然と、人が並んでいる停留所を通過したというくらいのこと。そして、その周囲を走る車が信号のある交差点を、平然とスルーし、スピードを維持したまま走行し始めていること。

お互いがそうなっていれば


ドゴオオオォォッッ



「な、なんだ!?」

「交通事故!」


京都駅の周囲で連鎖するように交通事故が起こり始める!

それでもなお、周りが止まったり、救急車を呼んだり、車が止まることがない!新幹線の中からだからか運転手達の様子が分かりにくいものの、操られているような表情や態度には思えない。

何も感じていないような雰囲気は、表原達も一か月前に感じ取った、世界の改変にも近く思える異質ぶり。背筋がゾクゾクとする。

そして、京都駅のホームが見えてくる。それにも関わらず、新幹線は速度を緩めない!


「この新幹線も駅を通過する気か!?」


乗客である者達にとっては、理解できない状況だ。

もう駅の中に入り、本当に通過しようとしているところ。それに気付いた、”何も知らない”乗客達が騒ぎ出すのも当然だ。


「ちょっとー!なんで京都駅を通過するのー!?」

「俺は京都旅行の予定がーー!」

「京都に出張なんだよー!」


説明を求める声が車内に響くのも当然。アナウンスも特になし。何かが起きているというのは把握できるから、表原達は警戒する。そんな中で車内で悲鳴が上がる。


「ぎゃああああ」

「いやあああああぁぁぁっ」


前方の車両で上がった悲鳴。


「様子を見てきます!」

「待ってよ、ルルちゃん!私も行く!いいよね、録路さん!」

「待て!北野川、茂原、黛。お前等、三人が行け!」


助けなきゃという気持ちが先行したルルと、そのルルを心配しての表原の行動であったが。録路が冷静に止めて、行かせるメンバーを変えた。不本意な顔になる北野川であったが。


「この空間で何が起こってるかは、あたしが一番解析できるからね。他、二人はやられてもいいし」

「その言い方ってなによ!」

「早く妖精を渡してくれよ!」


京都駅を通過したところで、前方車両の方に北野川、茂原、黛の三人が異変を探りに向かった。

黛と茂原は妖精を貸せと求めたが、まだ必要ないとして貸さなかった。

とにもかくにも前方の車両。おそらく、自由席のところでの叫び声だ。



ガーーーーッ



北野川と茂原、黛は何事もなく、2号車の自由席の車両にたどり着いた。悲鳴が確かに挙がったと思っていたが、車内の乗客達が……この異変に何も感じていない。表情が真っ直ぐしているというか、何も考えていないような感じ。


「騒ぎ声があった気がするけど」

「次の車両かな?」

「……………………」


騒ぎ声は1号車であろうか?様子を伺いに行った後、車内で異変は起きていない。しかし、北野川は見逃さなかった。座席に付いている、まだ新しいわずかな血痕。乗客が大人しくしているが、その有様は皆揃って、綺麗なお客様としている振る舞い。

そして、一人の乗客の唇から殴られたような感じで血が流れていること。


「ねぇ、あなた!その傷とこの状況を教えてくれない!」


その乗客に北野川は声をかけて、秘密を探るに行った。すると乗客は顔を強張らせながら、パクパクと、口を動かすも喋れていない。それほど高齢でもない男がそんなことになるなんて……。だが、口パクでも北野川には乗客の秘密を聞き取れた。


『喋れないんだよ!動けないんだよ!!名誉と権力には誰も逆らえないんだよおおぉぉぉっ!!』

「!」


争いを止めた後ではなかった。すでに操られた後であった。

すでにこの新幹線にいる多くの乗客を強制的に操作、制御されている!

悲鳴はそれに抗った後だろうか。



「黛、茂原!録路のところに戻るわよ!」

「え!?」

「すでにこの新幹線全体がやられてる!」


この自由席に来るまで気づけなかったのが、温い。乗客はもう全員、何をしても助からない。

戻りながら北野川は乗客に向かって声を挙げる!


「誰にやられたの!?どーして動けないの!!あんた達、死ぬわよ!」


心に訴えるような言葉。でも、乗客達はなにも答えられない。

誰もが必死に伝えようとしているのに、言葉が詰まってしまい、大量の汗を流し始める。


『助けて助けて助けて!』

『お母さん!怖いよぉぉっ!』

『逆らってはいけません!社会の在り方なんです!』



意志を無理矢理、強制させていること。

京都駅を通り過ぎても、もう何も思えないし、訴えられない状況されている。どーしてそうなったかは理解できないが、操られ方は分かった。そして、表原達と合流した時。表原達もこの異変をおおよそ、把握していた。


「しっかりしてください!」

「どーしたんですか!」


表原とルルの呼びかけにも、乗客達は応えることができない。体全体が金縛りにあっているんじゃなく、心だけが縛られているという状況。


「おー、戻ったか。前方の車両はどーだった?」

「こっちも人知れず、やられてるわけね」

「新幹線にいる連中は、もうロクに動けねぇだろうな」

「操られてるってのは分かりやすい症状だけれど、無意識な強制力はそこまで高くないわ。反応は薄いけど、乗客はみんな、抵抗の意志がある」

「これは俺達の目的に辿り着くのと、同じになるか?」


新幹線がこのまま進んで、どこかで終わる空間の範囲外を出れば助かるだろう。

だが、表原達が来た目的はこの空間を解くことであろう。

伊塚院長という人物が関わっているか、否か。


「近いかも。乗客の中にいくつか、”名誉”や”権力”という単語に恐怖し、体を従わされていた」

「俺達が会う予定にある人物の特徴だな」


ワクワクしているようじゃないが、退屈な移動が終わったって感じ。録路が少し楽し気になりつつ、ひと暴れしたい気分になった。新幹線の中にいてはどうしようもないとはいえ、ひとまず。


「表原、ルル。茂原と黛に妖精を貸してやれ」

「え!?はい!」

「うおーー!早く貸してーー!」

「早く早く。脱出しましょ」


それを待ってましたと、茂原と黛は表原達に強請る。

録路は妖人化し、車両の出入り口のところに向かい。大胆にドアを蹴っ飛ばし、破壊。


「”荒猛努・卯砂実うさみ”」


ホイップ状の液体を列車から外に流し、長いクッションのような滑り台を作り出す。走っている新幹線からやっているから、ドンドン伸びてしまう。


「早く降りていけ」

「茂原、あんたが一番で!」

「僕が実験台!?」

「うん!」


狭い通路というか、録路が横の幅もあるせいだ。録路はしゃがみ込んで、その上から表原と北野川の二人が茂原を投げ飛ばす。ちょっとした虐めだなって、ルルは気の毒そうに思う。ホイップの上に乗った茂原は転がりながら、無事に外へ出られる。


「あは、大丈夫そうね」

「ちょっと楽しそう!」

「早くしろ。長いこと作るのは大変なんだ。下向いておくから」


録路は顔を下に向けて、その上を超えるようにしたが。


「分かったわ!」


ガンッッ


「こーやって、超えていいんですね!」


ガンッッ


「もっとしゃがんでよ!」


ガンッッ


北野川と表原、黛の三名は録路の頭を容赦なく踏みつけて、ホイップの滑り台に乗り込む。楽々の脱出である。体験した事はないが、飛行機にある緊急脱出用の滑り台みたいな感じだ。


「面白ーい!」


それはどっちなんだ?って


「……あいつ等……」


録路は3人に思っておく。そんで、まだ残ってるルルは


「私も妖人化して脱出するんで、もう大丈夫です。お先にどうぞ」

「だったら、お前があの3人を運んで脱出させろよ……」

「えーっ。3人も抱えられないですし、走行中の新幹線に3往復するのはちょっと……」

「冗談だよ。んじゃ、先に行くぞ」


録路もこの滑り台に乗って、新幹線に脱出。遅れてルルも妖人化し、ハートンサイクルとなり、飛行して脱出する。



◇        ◇



京都駅から少し離れた線路内に脱出した表原達。そこから街中に入っていき、周囲の様子を伺った。


「……なんか普通な感じですね」


街中は特に金縛りにあっているとか、人が争っているとかはない。

人が行き交うこと。何もかも普通な日常を送っているような雰囲気が、意外に感じさせた。もしかして、空間外に出たのかとも思ったが。皆、違和感を感じ取っていた。

まだ見張られているような感じがする。


「車でも奪うか?」

「そーいう発想は良くないです!」


録路の提案を真向に否定する、ルル。新幹線を丸ごと攻撃するとは思ってなかったし、こうも簡単に攻撃してきたのは予想できなかった。なにせ、こっちには敵意がなかったから。敵の正体についてもだ。


「あんまり居たくないなぁ」

「分かるなー。早めに様子を見て、帰りましょー!」

「でも、ここの人達を救うのは大切です!きっとまた、攻撃されると思います!」


早いとこ任務を終わらせたいというより、京都からの脱出を口にする茂原と表原。それはまだダメだと、ルルのご指摘。

ホントに真面目な奴だと、全員が思う。


「俺達がいれば巻き込まれるのは確かだろうぜ」


新幹線を狙ってきたというより、自分達がそこにいるからピンポイントに攻撃されたと、録路には感じていたようだ。

またすぐに攻撃が来ると予感している。

そんな事よりも北野川は


「車なしにどうやって伊塚のところに行くわけ?ルルがここから空飛んで行く?敵がいるとしたらお一人でって、感じだけど」

「むっ……」


先行して行けるのは、録路とルルの2名だけだろう。

突撃は構わないが、最悪の場合は避けたいことだ。逆にそうされても、北野川達は困るところ。


「間をとって、タクシーで行きましょう。請求は因心界ってことで」

「むーっ……」

「それがいいぜ、ルル。だが、6人乗りなんてできねぇから、3人2組に分かれるか」

「どーやってグループ分けするんです?2人3組の方がいいですよ!」


それ絶対にメンバーが決まってるだろって、顔で……。


「あー……俺とルル。でー、北野川、表原、黛。……茂原だな」

「はぶらないでよ!しょうがないから、そーいうとき僕は録路と組むよ!」


俺が嫌なんだよって、顔を茂原にする録路。

まともな組み合わせができそうにない。不公平なしに


「不公平なしにジャンケンで負けた方と勝った方でいいんじゃない?録路、ジャンケンしましょ」

「お前とジャンケンしたら、絶対に負けんだろうが!」


それも不公平だろって思いつつ。北野川の提案に乗って、ジャンケンで決めることに。

その流れで表原は黛と、ルルは茂原とジャンケン。

どちらでもいいやと思いつつも、表原とルル、茂原の3人は、録路を選びたかった。全力で負けに行く。一方で黛は録路とは因縁があるため、北野川を選びたいところ。意外と決まっていた。


「ジャンケン」


勝ったのは表原、茂原。

負けたのはルル、黛。


「……ちょっと、黛ちゃん。代わって!」

「奇遇。あたしも逆が良かった」


そこから交渉の結果。表原と黛が入れ替わり、チームが決定。

Aグループ、録路、表原、ルル

Bグループ、北野川、茂原、黛


「確認しておくが、俺達全員で伊塚院長に会う必要はねぇ。タクシーで別れるだけだが、状況によっては置いていって構わない。様子を確認できて解決すりゃ、すぐに撤収だ」


行動を共にできるか不明なため、どちらかに何かがあった時の対応を決めておく録路。

その間に北野川がスマホアプリでタクシーを2台同時に呼んだ。ルルは地図を確認して、ここからの所要時間などを計算。

各々が待っている間、特に町の異変などもなく。



ブロロロロロロ



「来た!ちゃんと2台」


タクシーが2台、ここにやってきた。


「北野川、目的地は言うなよ」

「分かってるわよ」


新幹線にいる人間全員を制御した能力内にいる。運転手が操られた人間という可能性も入れ、伊塚院長のお宅の近くを目的地に決めておいた。

やってきたタクシーにそれぞれ乗り込んだ、表原達。



「”〇〇××町”ってところまで頼む」

「へーい!皆さん、お友達ですか?」

「仕事仲間だ。前にいるタクシーも同じところを目指すから、後ろついて行ってくれると助かるぜ」



前方車両は北野川達、Bグループが。後方車両には録路達、Aグループが。

助手席には茂原。録路。後部座席に女性達が並ぶ形になった。

Bグループが戦闘タイプが多いため、前より後ろのタクシーを選んだ事は対応のしやすさもある。特にルルはこの面子の中では珍しく、中・遠距離の攻撃と空中戦を可能としている。何かがあれば、飛んでいける。


「京都観光したいなぁ~」

「今度にしろ。表原」


黛の強さは認めているが、知っている強さには安心がある。表原はルルと録路のチームに安心して、周囲警戒という形で外の景色を満喫。

だいたい、40分か50分。タクシーに乗っている事になる。




◇          ◇




戦後という時代ながらも、自らは生まれたところから恵まれていた。綺麗に整った容姿に、積めるだけの札束の山、自分に仕える大人達。

所謂いわゆる、生まれた時からの勝ち組。

それに奢ることなく、この家に生まれた事のおこない。自分の意志も自らそれに作り上げて、それを崇める大人達。スーパースターの輝きを背負って、色んな舞台で華麗で品性のある踊りをしたものだ。

そうして、お金は来る。そうして、褒められるものだ。それは自分に、それは相手に、……求めて、求めて。究極に追い求めて、ようやく。この人だという人物が現れた。



【瞳が綺麗だ】



彼は素直にカッコよかった。

私が彼と出会うまで、誰よりも輝き、見下ろしていた。そんな空の上よりも上。

彼は星の輝きだった。本当のカリスマというのを見た。人に、異性に、うっとりとしてしまった。

国を代表する名医。様々な患者を治療し、新たな医療技術にも携わり、……人の成長や時代の速度についていく。金も名誉も、そして、私という女を抱いたということも。

積み上げた自分を引退にし、この人の傍に愛して、支えたいという。庶民達の似非な幸福論を、信じてしまうくらいの魅力があった。


彼に付き纏ってしまっただろうか。

それでもお互い、魅力的に惹かれて、自然に。自然だったくらいに抱かれたもの。

そうして、暮らしましょう。ずっとずっと。

彼の不安ない正しさ、絶対的な価値を揺るがないよう。ずっとずっと、誰よりも尊重されるでしょう。


国が認めて、勲章を授かった、貴方あなた

私は支持をする。

なにがあっても、それが務め。

もう、貴方は私を見ていなくても、私は変わらぬ貴方の傍におります。




バサバサッ




「………………」



一羽のジャネモンが京都・関西の空を飛んでいた。その者には大鷲おおわしの両翼が生え、かろうじて人型の女性の姿であった。若ければ、艶やかなハーピィなどと言われるだろうが、老齢な女性。

そう。伊塚院長の奥さん、伊塚夫人である。

伊塚院長とメーセーが契約を結び、宿主になった。そして、その力を実感した後に、夫人に対してもその力を得るように促した。メーセーの存在に恐怖した夫人だったが、夫の言葉に従ってジャネモンに堕ちた夫人。夫同様に異質な力を授かり、個人で空を飛んでしまうという異形へ。


「…………ふーっ……しゅ~……」


関西地方全域を覆っている奇妙な空間は、伊塚院長がメーセーから得た能力の一つ。

因心界の面々がここにやってきて、攻撃を仕掛けて自分達の邪魔をさせないようにしたのだが、失敗。メーセーも遅かれ早かれ、彼等との衝突は予期しており、その殲滅に伊塚夫人を中心としたジャネモン達が用意されていた。

空を飛びながら、表原達がどこにいるのかを探っている伊塚夫人。屋敷に近づく者達をぶちのめすという考えで構わないのだが、ジャネモンとなったその根源は、”伝説”に並ぶべき、歪んだ愛から。その暴走は容易に伊塚院長の空間内にいる雑兵共に及び、街の外観などにも気にかけない。



バサバサァッ



空を華麗に飛ぶ姿。風に乗り、羽ばたく。

しかし、その下。地上では



「かーっ、かーっ」

「ちゅんちゅん」


荒れ果ててしまった地上にいるカラスやスズメは、空にいる伊塚夫人の姿を見上げた。

飛ぶには気持ちいい風がやってくると。鳥達だけでなく、野生動物はそんな自然の素晴らしさに気づき始め、……



ブシュウウウゥゥッ



体内から水分が抜け落ちいき、綺麗な皮膚がダルンダルンな段差を作る、”しわ”になっていく。

心地よい風を浴びたというのに、鉛のように無気力な感じになっていく生物達。

体の穢れは、心の穢れになるように。生物達の体を化け物のようにしていく。そんな行いを、因心界の連中が近くにいるであろうという理由でやり始めた、伊塚夫人。



「がああっっ」

「うぅぅ……」



女性達のメイクはすぐに崩れて、スッピンよりも醜い姿になっていく。

男達も実年齢に+10以上はしたんじゃないかという体になり始める。

頭の中もモヤモヤし始めて、難解な思考ができなくなる。淡々としたというか、ボーッとするかのような頭になったところで。今度は伊塚院長の空間の条件を満たし、住民達に攻撃が始まる。



「あああぁぁぁぁっっ」

「うぅっ」


胸と頭から、血が沸騰するような痛み。内臓が過敏に反応を示し、無駄に汗を流し、その旅に心労をさらに感じる。

体が衰えるように頭の記憶にも隙間が生まれ、その隙間に伊塚院長の”名誉”と”権威”を根源とした、支配と思想が流れ込む。



「うぅっ!あーーーっ」


自分より地位を持つ者に逆らってはならない。

心臓に小さいが鋭い針が刺さったかのような、恐怖の圧迫感。逃れるには圧迫感から伝わる、簡易な指令に従うことだけ。



【因心界の奴等を探せ、見つけて拘束しろ】




バクバクバクっと、心臓と脳が圧迫され、住民達は皆、それを行おうと動く。

そして、その厄介ぶりは同時に全て、住民達全員に起こっている出来事ではないということだ。



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