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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第39話『ジャオウジャン、動き出す!8名の王、レイワーズが大暴れ!』
132/267

Dパート

 バババババババ

 

 

 大型のヘリに乗り、この大きな国の空を移動する。

 ただただ昇り、ゆっくりと円を描くような軌道で進むヘリ。

 自らの国で

 

 「ははははは。今、このヘリが撃ち落されたら、お互い死んでしまうな」

 

 命を狙われている身であるため、そんな心配を冗談で口にする。

 彼の名は、金習きんしゅう

 彼自身はまだ知らない事であるが、この人物によって、ある未来では世界を崩壊させるほどの存在になっていた。

 

 

 「ふふふ、こーいう場の方が私は好きなんだ」

 

 国では国の慣習に従って欲しいと、敵国のやり方に従わせる。だが、懐柔している人間に対してだ。

 

 「いえ。空でのご会談もまた貴重な体験」

 「楽しみでございました。次は潜水艦の中でやりますか」

 「ははははは、いいねぇ」

 

 表原達のいる日本を代表してやってきた国の重鎮……。という重々しい役職よりも、邪悪さを感じる人形使いといったところ。老齢の奸臣かんしん達である。

 金習もそんな奸臣達を心配できることではないが、

 

 「濡利ぬらり。体調は大丈夫なのか?昨年、病気が悪化したと聞いたぞ」

 「ええ。ですが、伊塚さんのご紹介された医者に診て貰いましてね。お酒の飲みすぎだと」

 「濡利さんは普段からご接待に勤しみ過ぎですぞ」

 「はははははは、職務とはいえ、程々が一番じゃないかい。私より年上なんだから」

 「まだまだ、現役でいますぞ。政界を引退などと……」

 

 世間話らしい挨拶はこの辺で。

 秘密裏にここにやってきた、濡利と椰子葉やしはという政治家。

 良好な関係というのは、お互いの仲。国と国という境になれば、反抗的な連中も当然いるもの。国の声にならずとも、余計な動きを見せてくる。

 危機を感じ、あるいは好機を感じて、金習との接触をした。それは本人も分かっていて、あえて訊いてみた。

 

 

 「日本とはこれからも親密に付き合いたい。……技術、土地、人……優れたものだ。なにか邪魔が来たのか?」

 「……南空みなみぞらが、きな臭い動きを……。北海道の土地買収を邪魔する動きや、九州にいる技術者達の退き止めをしております」

 「あーぁ。あのお爺さんか……党内の派閥争いに苦戦しているわけね。君達、ちゃんと勝ちなさいよ。せっかく、他所よその党が君達の派閥以外を責めているんだから」

 「申し訳ございません」

 

 

 政治団体に限らず、同じ組織が人間達で組み込まれている以上、内部ではなんらかの派閥というのが出来上がってしまう。

 金、女、宝、……色んなご支援により、派閥の動きは団体の行動を大きく乱すものだ。金習の支援。およそ、20億人も超えるこの大国からのご支援は、強大であり、派閥の末端までに支援は行き通り、金習の言葉一つやお願いで……。国から平等に選ばれた存在達が、こぞって金習の声を聞く。

 国に対しての罪だろうが、なんだろうが、金習の力は凄く。誰もそれを裁けない。裁いても意味がないほど、膨れ上がっていた。

 

 

 「南空。いい加減、死なないかな」

 「奴は死んではいませんが、組織の弱体化が起きました。奴等は構成員の多くを失い、その支援や武力、人脈が揺らいでおります」

 「今こそです。どーか、お力を貸してくださいませ」

 

 

 SAF協会との死闘で、構成員の多くが死んでしまった革新党。

 末端からの繋がりもあるものが、ここに来て途切れてしまった。粉雪、南空、野花財閥がいるといっても、金習達の支援がさらに増えれば……。派閥から追い出せる。

 そして、もう1つ。

 

 

 「涙メグが死んだ」

 「!」

 「お参りにでも、近々。日本を訪れようかと思っている」

 

 

 涙一族の存在である。涙一族の巨大さには、この金習からの援助もまたあったのだ。革新党よりも支援をしていた存在であり、……特に涙メグとは友好的であった。

 

 「そちらはもう、"ご興味ない"かと」

 

 椰子葉は、金習を後押しするように。自分の口癖を

 それに呼応してか

 

 「"小心(お元気で)"」

 

 金習も自分の口癖で応える。

 

 「……分かった。半年前、メグの研究を預かるようにと、本人から言われていた。興味はないが、妖精という新たな資源には可能性がありそうだ。地球の外から来た資源なら、自然保護を語らせる連中の広告的にも良さそうだ」

 「妖精をですか」

 「魅力はありますが、やはり非生産かつ独自の行動をとる」

 「はははは、それは人間も同じ。人間じゃないなら、もっと非道な事もできる。それに妖精以外にも興味がある」

 

 不可能とは言われていない。誰もそれを実現できていないからだ。

 

 妖精、妖人、ジャネモン。……それらが存在していても、力があり、精神のコントロールが国全体から見ても難しく、被害ばかりを生んでしまう。

 国のためという目的で使用するのは難しい。

 しかし、それが可能だったとき。人類の進歩と、生物界としてのさらなる躍進に繋がるだろう。

 金習のしばらくの狙いは決まった。

 近々、日本にもやってくるという。

 

 

 ◇       ◇

 

 

 ボオオオォォォッ

 

 

 「アチッ!」

 

 大きな熱い鉄板の上に、縄で身体を縛られ吊らされている存在が涙目になっていた。

 鉄板から来る熱を身体に浴びる拷問を受け

 

 「もう止めて!!こんな事をしても意味がない!」

 「ルミルミの分ということで拷問されてくれ」

 

 死ぬ恐怖よりも甚振られる恐怖が上。

 妖精の国のお城にある大庭でそんな拷問が行なわれていた。

 裁かれているのは、アダメ。裁いているのは、サザンである。

 なんでこんな事をしているかというと

 

 「なんでルミルミの所在を見失うんですか!!?"リセット"しといて、肝心なことを怠らないでください!」

 「しょ、しょうがないでしょ!!そんなことするとは思わなかったんだもん!!ルミルミってそーいうの、する!?」

 

 アダメとサザンの知っているルミルミなら暴虐の赤ちゃん。

 力の限り、暴れまくる妖精だと思っていた。

 しかし、人間界で1ヶ月以上も音沙汰なし。何が困るかって、ただでさえ、行動が読めないのに姿まで捕捉できないんじゃ、こちらからも動けない。

 地球ではジャオウジャンが分裂し、暴れ回っている。なんとか動きたいところであるが、

 

 「ルミルミは不正な力で妖精の国にアクセスできる。きっと、妖精が大量に地球に降りたら……本気でアダメさんと私を殺しに来る」

 「ひぃっ」

 「そうすれば、この妖精の国から妖精を地球へ移住できる。妖精が生きるために必要な人間達もいる。あいつの目的の1つになり、……もう1つの人間達の駆逐は、ジャオウジャン達がやってくれる」

 

 無理に来てもらうのではなく、地球のピンチに駆けつける妖精達を利用し、ほとんどを移住させようという狙いだろう。

 おそらく、シットリが立案した作戦。死んでもなお、あれは厄介だ。

 

 「"リセット"できるアダメさんを殺し、人間達を駆逐したジャオウジャンを倒す。ルミルミにはそれくらいの実力があって、勝算がある。……誤算があれば、人間達の強さを甘く見ているところだろうが。勝手に争う分にはルミルミの目的に問題はない」

 

 妖精の国に戦力となりそうな存在は、ハッキリ言っていない。だが、何一つの援助なく、地球の危機を指咥えて見守るだけしかない。それでいてサザンが指示や情報を開示するというやり方。

 "リセット"の件についても、人間や妖人達からの不信感は強い。

 

 

 「……ところで鉄板の上から降ろしてくれませんか?」

 「嫌です」

 

 

 そうか。

 一時期、ルミルミが不思議なほど大人しくしていたのは、この時のための予行演習だったか。ルミルミが本気で隠れたり、逃げたりしたら、誰にも捕捉できない。

 "リセット"すれば、全ての組織が情報収集から始まってしまうからだ。

 これで本当にどー動いてくるのか、読めなくなった。

 日本を、……人間同士の中でも、歴史的に残る大きな戦争を作るつもりだ。ジャオウジャンの完成の中には、大きな戦争の中で生まれるジャネモンがいくつかいる。

 

 

 『ジャオウジャンを完成させた上で、我々が倒すという事が、ルミルミ義姉さんを救える手段です』

 

 ヒイロはそう言って、妖精の国を旅にし向かった。ギリギリまで実力を引き上げるためだ。

 サザンにはもう、ナギとカホがおらず、食い止める力なんてない。こちらの頼みはヒイロしかいない。しかし、ヒイロはその戦争すら許容している。

 良いものか?

 

 

 「ヒイロには自信があるのよ。私やサザンと違って、引き篭もって雑務をこなしていた奴等と違う」

 「王の政治的な雑務と、逃亡しながらの執筆活動をご一緒にして欲しくないんですが?」

 「それって私が大変って意味だよね?」

 

 またイラッと来たから、熱々の鉄板の上にアダメを落としてあげる。

 

 「アチチチッチ!に、人間がちょっと減るくらい良いじゃん!!そもそも、こっからのジャネモンは元の人間と差はない!」

 「抑え込めればでしょ?邪念を乗り越えたり、断ち切れば、……自らの欲望のために動く。無関係な人達にまた大きな被害が出る!」

 「ヒイロがそうしたって事は、白岩だけじゃなく、キッスや他の連中も信じているのよ!」

 

 クソっ、アダメに言われるとムカつく。

 あんたは何もしてないどころか、周囲の足を引っ張っているだけのくせに。こーいう恥かしめと拷問をされているというのに、めっちゃ偉そう!!

 

 ◇       ◇

 

 

 因心界 VS レイワーズ。

 今後の戦闘はゲリラ的なものが多くなる。

 レイワーズの中でも、過激だったり、変だったり、よく分からん行動をとる奴等がいる。

 

 「むふぅ~~~」

 

 鼻息を荒くし、幼稚園の柵に捕まりながら、園児達とその先生が遊んでいる光景に興奮する者。下半身を激しく摩りもしていて

 

 「先生ー、なんか変な人が見てるよー」

 「そ、そうね。気味悪い……」

 

 園児や大人もヒクほどの奇行だ。

 完全なる不審者は見た目、40~50代のやばそうなおじさんである。

 その存在こそペドリストは、幼稚園児、小学生の誘拐と甚振りをしていたり、こうして園児達の楽しむ姿にも興奮する。

 

 「ちょ、ちょっとあなた。誰かの親ですか!?」

 

 とてもそうは見えない。絶対に違う。完全に犯罪者だと分かっていて、恐る恐るも注意をしに来た先生。それに言われても

 

 「むひ~」

 「ひぃっ」

 

 奇声とヨダレを垂らす。そして、なぜだか分からないが、彼が着ている兎柄のTシャツも……目の錯覚だと想いたいが、服の変色とは違ったもの。表情だけでなく、涙を流しているかのようなもの。

 

 「お、俺!ペドリストって言うんだ!」

 「は、はい!」

 「お、お姉さん。て、て、手を繋いでいいかい」

 「キモッ!!!」

 

 どストレートな悪口を言ってしまったと思ったが、ペドリストは特に思わず。むしろ肯定する感じ。先生はそれでも負けじと

 

 「え、園児達が怖がっているんです」

 「むむ?」

 「親でもない方がこーいう行為をしないでください。警察を呼びますよ!」

 「むぅ~……」

 

 凄く落ち込んで先生に後ろを向き、分かってくれたのか。退散し始めるペドリスト。

 

 「ふ、ふふ~ん」

 

 しかし、次の瞬間には見た目とは思えない軽やかさを出し、スキップするかのようにどこかへ向かう。絶対に別の幼稚園か保育園に行くのだろう。

 園児達を1人にさせちゃいけない。必ず、親や集団行動をさせて帰らせよう。

 

 「ここは先生も綺麗だったお」

 

 こいつ、幼児クラスの子供だけじゃなく、女の先生にまで強く反応するのかよ!

 すでに2件ほどえげつない事をしているが、彼の危険性からすれば大人しい部類ではあった。

 

 

 

 「キャー!なにあの人!」

 「カッコイイ!顔ヤバ!めっちゃイケメン!」

 

 一方、気持ち悪いペドリストとは違って、女性から明るい黄色の声が出るくらいの美形。

 しかしながら、

 

 「えぇ……コスプレ?」

 「侍みたいな格好だけど、イベントなのかな」

 

 髪の毛にくっつき、動き回っている龍に……。美形の彼には、両腕がない。血の気を引かせるような姿は、健常者達が関わるのを止そうとみせる。

 それを気にする素振りは見せない彼。落ち着きがない龍は周囲の人間をビビらせるように睨みつける。ある意味では優しさなのかもしれない。

 

 「ファルルルル」

 

 龍は青色の吐息を出し、自らと繋がっているエフエーの傍に来た。

 

 「まずは俺達の"宿主"を探そう。それからトラストの元に行く」

 「ファル?ファファファファ!!」

 

 龍の言葉だろうか、全く人には分からないがエフエーには伝わるらしい。完全な以心伝心とはいかないが、会話は可能。

 そんなエフエーが訪れたところは、自分の格好からはまったく正反対な場所。いい女達がいそうな場所に来ているだけでなく。

 

 「おいおいおいおいおい!!」

 

 泥臭く、愛の執着を語りながら、お金を払うくらいの男達がきたる。

 演奏すらできない彼からしたら意外過ぎる場所。曰くつきの大きなライブハウスであった。

 

 

 「メルメーク!」

 「いぇい!」

 「ハッピー!ハッピー!ハッピー!ですかーーっ」

 「いぇーー!」

 

 

 可愛いアイドル達がパフォーマンスと共に歌い、男のファン達もペンライトを片手に熱く叫んでパフォーマンス。一般から受け入れがたいような不思議な曲であるが、大盛り上がりである。まだ注目されていないが、……だからこそというファンもいたり。アイドル側も色んな事情を抱えて、ここにいるのもいる。

 エフエーはライブを観に来たわけではなく、このライブを観に来たファン達を観に来たのだ。この異形ぶりに気付かず、目の前の推しに熱狂できる者達。

 エフエーの邪念の動力は、"信者"。

 

 「……………」

 「ファルルル」

 

 共に信じる者が手をとり合うという理想は、ジャネモンであるエフエーも感嘆、時には感動もする。だが、その中には面だけを被った悪者もいる。

 それは対象外。メーセーやキョーサーなどが好む邪念だ。エフエーが求める宿主にはそうでなく、狂気。

 

 「……ここでは足らん」

 「ファルルル」

 

 エフエー自身は目を瞑り、龍の瞳が怪しい光を放った。

 その光を浴びた信者やアイドル達は熱狂に、瞳の光が無くなり、口々に

 

 

 「俺の美癒美癒だぉぉっ!!」

 「僕の美癒美癒ちゃんんんっ!」

 

 憧れに対する歪んだ感情を晒し、吼えては同じだった連中に襲い掛かる。強烈な独占意欲がファン達の心を蝕み、

 

 「あたしが№1だから!センターだから!」

 「いやいやいやだ!!あんたの隣なんか嫌だ!!」

 「あたしがセンターになりたいっっ!!消えてぇぇっ!」

 

 アイドル達も仲よさげなユニットとして、一緒に歌って踊りもしていたが。チームである以上、誰かの優劣は存在し、抑えていたはずの嫉妬を晒してでも、奪い取ろうとする。

 自分が信じる者。信じてきている者。だからこそ、それが歪に形作られると、言葉でも止められない狂気の行動に走る。

 

 

 ドゴオオォォッ

 

 

 アイドル同士、ファン同士で血塗れの乱闘騒ぎ。時には

 

 「お、お、お前なんか殺してやるううぅぅっ」

 「私を愛さない人は許さないっっ」

 

 刃物やマイクのスタンド、楽器なども使ってでも、人を傷つけるに至る。

 それが終わるまで、ライブハウスの外でエフエーは空を見上げながらのんびりと待つ。龍の方はライブハウスで提供されているお弁当を勝手に食べている。

 

 「……………」

 「ファルルルル」

 「他の奴等は大丈夫かな?」

 

 惨劇ではあるが、エフエーの仕業かどうかまではいかない。事件としては、ファンとアイドル達の異常な暴走としか語られない。

 彼は自分の"宿主"を見つけるまで、このような場所に現れては惨劇を起こそうとしていた。

 このようにレイワーズの連中は、人間達に影響を与えて来ている……、

 

 

 「すみませーん、求人みたんですけどー」

 

 

 こんな奴等を野放しにしていては、世界の危機だ。

 

 

 「履歴書、持って来ました。お願いですぅっ」

 

 

 ……そんな危険な連中とは裏腹に、なぜか人間社会に馴染もうとするのか。金の欲しさに仕事をするのか、分かったもんじゃないが。

 レイワーズの中で唯一、バイトに励もうとするかのような存在。

 

 

 「はい、ハーブと申します。……日本人っす……はい。俺でも、できそうな仕事かなって……」

 

 

 姿こそ、人間そのものに近いが。肌の色や身体の火傷などから、不安しか感じさせない存在。人間じゃないけれど。

 人に頭を下げて働く事を志願するというジャネモン。

 

 「ほ、本当ですか!?あ、ありがとうございます!」

 

 無事に採用……ってか、人手不足なんでもう誰でもいいという。形式的にやっただけ……。

 ハーブはコンビニ店員の格好となり、レジやら品出し、陳列などを教えてもらった。指導されている時、ハーブの態度は見かけによらず、実直じっちょくらしい。

 操作方法は分かるが、色んな作業をするのが大変だった。ハーブは必至さは意外に感じるが、それだけの状況に思える。

 

 「はぁ~……」

 

 ただの一店舗のコンビニであるが、働いていくことで学んでいく。こーやって人間達って生活するんだって、感嘆と。

 ハーブは少しだけ、笑顔を見せる。案外、悪い奴じゃないようだ。

 そんな時だ。

 

 

 ピロリローンッ

 

 

 「げっ」

 

 一緒に働いている店員が思わず、嫌なお客様がやってきた。有名なクレーマーという奴だ。

 

 「あのお客。いちいちセルフレジに文句言ったり、商品にイチャモンをつけるんだい」

 「そ、そうなんですかぁ……」

 

 自分が陳列している商品。この商品を運んでくれているトラックと運転手。この商品を作っている工場。そーいうのが一致団結して提供しているというのに……。

 ハーブの心中はとても純粋であった。そんな純粋を汚すようなお客様は

 

 「ちょっと、このお惣菜。上げ底してるんじゃない?この値段ってぼったくりじゃない?」

 

 こちら側に利益がでなきゃ、商売と言えないだろう。ただただ、お客様に尽くす商品を求めるならば、全てを無価値にした方がいいという極端なお客様。話しかけて欲しくないし、交渉したところで値下げもない。

 

 「そうでしたら、他のお店行ってください。ウチは身近な分、商品は他所より少し値が張るので」

 

 相手をしないという態度。

 他を捜せばいい。こっちは消費期限ギリギリじゃないと、値下げシールを貼らない。

 

 「いい加減、こんな役に立たないコンビニ潰れたら?他にも店があるんだし!」

 「……………」

 

 言いたい事言って、タバコと酒だけ買って出て行った。

 普段は何をしているか分からないが、こんな相手をしていると末端の待遇を改善して欲しいものだ。

 

 「俺、許せないっす!」

 「だ、ダメだよ!ハーブくん!落ち着いて!」

 「でもっ!!」

 

 一生懸命やっている人達をなんだと思っている。我慢というモノがあれば、これでも堪える。しかし、ハーブは許せなかった。

 

 「殺すのは止める!!」

 

 後を思えば、殺してやった方が良かったであろう。

 ハーブはコンビニの制服のまま、飛び出した。その頃、クレーマーさんは車に乗っていて、発進していた。とても荒い運転でクラクションを鳴らしながら、車道に入っていた。

 それを見たハーブもまた、

 

 「逃がさない!!絶対にっっ!!」

 

 あろうことか車道に出た。そして、そのまま突っ走る!!

 

 「あぶねぇだろうが!!」

 

 後続車がそんな言葉を吐くほど危険なものであったが、

 

 「ええっ!?」

 

 ハーブは車よりも速く走る!狙った車めがけて走っていく!

 

 「うおおおおぉぉぉっっ」

 

 ついには、時速50キロも出していた車に追いつき、飛び捕まった。その時の衝撃はとんでもなく、タバコを咥えて運転していたクレーマーもビックリして、ブレーキを踏んだ。

 

 「な、なにっ!?」

 「許さない!……真面目に頑張る人達を……愚弄するのは、許さないっっ!!」

 

 そーいうあんたはジャネモンなんですが……。

 人を思う故か、イカレた思考。

 車に捕まると同時に、装甲を破壊するのではなく、"潜る"ように車内の後部座席へと侵入するハーブは

 

 「殺しはしない!だけど、許さん!!」

 「ひいぃっ!!」

 

 運転席もろとも、クレーマーに対して、腕を貫通させる!

 血も身体も狂いだし、奇声を上げるクレーマー。

 

 「ぎゃああああぁぁぁっっっ!!」

 

 車は無事に停車。騒ぎを知って、周囲にいた人達がざわつく。恐る恐る、その車に声をかけるのであった。

 

 「だ、だ、大丈夫ですか」

 

 車内にはハーブの姿は無く。クレーマーだけが取り残されていた。口から吐いたであろう血が運転席に零れていた。

 クレーマーは……命こそ、無事であった。

 

 「っ……んんっ~~……んんん!!」

 

 だが、命だけである。ハーブの一撃は痛いや重いではなく、恐怖そのものを現していた。クレーマーは周囲の人達に顔を見せるが、皆揃って

 

 

 「うあああぁぁっ」

 「な、なんだああぁっ!!?」

 

 クレーマーの恐怖に満ち溢れた顔面に恐れて逃げ出した。そんな態度をしないでくれと、運転席から出て訴える。困っていると訴えるが。

 

 「んっ!んんんっ!!んんーーー!!」

 

 顔面に……口がない。縫われているとかではなく、正真正銘、存在してないである。それだけでなく、

 

 「おぉぉっっ!んんんっ」

 

 クレーマーはお腹が苦しみ出し、地面に蹲った。肺、心臓……それらに異常はない。だが、内臓器官もハーブはイジっていた。

 

 「いぃぃぃっ!!」

 

 どうしようもなく訴えている。空腹を訴えている。人間の胃が本来の機能とサイズを超え、消化能力が早くなりすぎ、穴も開きそうになる。栄養を取らねば、なんでもいいから食わねばと、胃は身体全体に訴え、胃の欲求を満たすために他の内臓器官さえも取り込もうとしている。

 その痛みは立ち上がることすら許さず、身体の筋肉や血の力すらも奪おうとしていた。口は塞がれ、栄養をとるには無理に開けてもらうか、ケツから入れてもらうしかない。だが、胃は本来以上に機能が上がり、常に食べてないと空腹の痛みが襲う。

 生き地獄。

 

 

 「これくらいで許してやる」

 

 

 車から気付かれずに脱出し、路地に身を隠すハーブ。


 騒ぎが落ち着いてからコンビニに戻るのであった。

 

挿絵(By みてみん)



次回予告:


表原:ちょっとーーー、これ〇〇広告じゃないですか!?

レゼン:作者も悩んでいるという事だ。最近、広告などをデザインの参考にしている。

表原:というか、なにこれ!?怖いんですけど!?全体的に白い画像なのに、怖いんですけど!

レゼン:本音が駄々洩れだよな。

表原:次回からはこの老夫婦が相手ですか!?マジキチの相手ですか!?

レゼン:ここからの相手は、思想から常軌を逸しているからな。伊塚院長は相手を洗脳する能力の持ち主だ。だが、それ以上に性格がヤバイ。

表原:あたしも派遣されるんですか!?怪しい宗教とか勘弁なんですけど!

レゼン:まー、その……お前はたぶん大丈夫だろ。結構な遠征になるぜ。次回!

表原:『誰も罪を問いさせません!?みーんなみんな、伊塚院長の言いなり世界へ!?』

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