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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第39話『ジャオウジャン、動き出す!8名の王、レイワーズが大暴れ!』
130/267

Bパート

 時の長れは早いもので、シットリ達との戦いから1ヶ月半の月日が流れていた。

 

 「遅れてすまない」

 

 事故処理やら情報収集やら、戦力の整備など……。

 キッスは粛々と業務をこなし、因心界の立て直しを図っていた。本部が復活した事は良かったが、因心界の中に絶対の信頼を置ける者がおらず、時間を作るのに苦労した。

 

 

 「お前のおかげで、みんなが助かった。ありがとう」

 

 誰かに頼みたかったが、できなかった。……待ってる奴は、キッスを待っていたからだ。

 

 「蒼山」

 

 ヒイロが去る前に教えてくれた事は、……蒼山ラナの遺体をしっかりと保管しているところであった。アダメの改変で少し位置が変わってしまったが、無事にキッスは発見できた。

 そして、彼を……ブルーマウンテン星団のアジトへ運んであげた。

 

 苦しんだような表情なのか、嬉しい表情なのか。……しっかりとした保管でも1ヶ月半という時間のせいで、皮膚も肉も削がれたようになっており、骨だけで……彼をかろうじて現していた。

 

 その姿を棺に入れ、……、因心界の本部やアジト内にあった、彼の漫画道具やエロ漫画、下着、エロ写真などなど……遺体と一緒に入れてあげる。

 

 「ふぅー……」

 

 一通りの弔いの準備に溜め息をつき。

 遺体となった蒼山の隣にある、エロ本を眺めてキッスは……。

 

 「お前。……蒼山。……私のパンツでも奪おうとするんじゃなかったのか?心を圧し折って、屈服させたいんじゃなかったのか……傍に置いてやったんだ」

 

 彼を葬儀しようとする、女がいるとすれば。彼を因心界に誘ったであろう、キッスくらいしかいない。家族にすら見捨てられ、汚いおっさん達に誘拐+教育をされ、……変態クソ野郎になって、散々過ぎる人生に

 

 

 「死んでどうする?私の心の折れたを見れずにして、どうする……?お前が死んで、私の心は悲しくなったんだぞ」

 

 

 慕った女性は、キッスだけだ。

 死んでも守れた命。

 少しの涙を流し、……。ほんのちょっとだけだが

 

 「佐鯨、飛島、……お前に、……父さん、母さん……メグさんも入れてやっていい。最近の私には失った大切な者達が多すぎる」

 

 "たった1人"だ。蒼山との仲には自分との共通点が、偶然にもあるから気にかけていた。

 自分が彼等の元に行くのは人の寿命に近い年月でいけるのだろうか。

 これ以上、悲しいことを見てこなければいけないものか。だから、もう……彼を最後に。

 

 「また新たなジャネモン達との戦いだ。お前が命を懸けて護ったみんな。……この戦い、命を懸けずに私達で終わらせてみせる」

 

 仲間の死を迎え入れるなんて、蒼山は絶対にやらない。

 もし行くとき、待ってはいて欲しい。

 キッスは……腰に手をかけ、浴衣の中に……

 

 

 スルッ

 

 

 「今は」

 

 

 ちょっと、下がスースーするが。

 その汚れた顔面でも拭いてろと、言いたげな表情で

 

 「それで我慢して、見ていてくれ」

 

 

 パラァッ

 

 

 遺体の顔を覆うには違いすぎるが、蒼山が求めていた事の1つを特別大サービスでやってあげる。

 キッスは蒼山の入った棺を閉じて、このアジトの地下に埋めて眠らせておく。

 ジャネモン達との戦いが終わったら、この土地を丸ごと焼き払う予定である。ここには色々な情報が眠っているからだ。

 

 

 「ふむ」

 

 

 "ブルーマウンテン星団"

 幻の犯罪組織と言われただけあって、世界のタブーにも関わっていたと言われている。それは蒼山ラナの前、蒼山ラオの代に関わるらしい。

 ナギがラオを勧誘していたが、それができなかった理由。ラオが断り続けた理由は、そのタブーのヤバさもあっただろうか。

 

 

 「伝説のジャネモンを作り出すなら、それを作れる者からヒントを得るべき」

 

 

 じゃの道はへび

 蒼山に相当する邪念を抱えた存在を奴等は捜している。先回りして潰すか、そこで迎え撃つか。

 

 「!……これは……」

 

 ブルーマウンテン星団がかつて管理を任されていた、とある島の情報。

 世界の政治に関わる重大な機密を握る、闇の島にして邪悪の集まり。

 記録こそ古いが、蒼山ラオと猪野春雅、宇多田響、田所翔也の4名が、そこに行っていた記録を発見した。

 

 

 ◇       ◇

 

 

 この1ヶ月半。

 またしても、因心界では色々な出来事は起きていた。その中には当然、ジャオウジャンの分身体。"レイワーズ"との衝突があった。

 

 

 「じゃね~~」

 「わーーー!ジャネモンが現れたーー!」

 「怪物だーーー!因心界を呼んでー!」

 

 

 街に現れるジャネモン達。その近くにいて、指示を出しているのは

 

 「あーあ、これもハズレね。でも、人間達を混乱させれば現れてくるわ」

 

 "札束"の邪念、イチマンコ。

 良さそうな邪念を抱える人間に接触しては、ジャネモン化していき、争いの中で人々に不安を抱かせ、新たなジャネモンを産もうと考えていた。

 もっとも、

 

 「そりゃあーーー!」

 

 

 

 ピーーンッ

 

 

 イチマンコの指でコインを弾くと共に、コインはスピードとサイズを増させて、大砲となる。

 

 ドゴオオオォォォッ

 

 

 「ははははっ!暴れるのは気持ち良いわね!!」

 

 逃げ惑う民衆に放つ一発に快感を語る。イチマンコ自身はただただ暴れたい。実力は隠すものではなく、自分を振舞うためにあるものだ。金とは貯めるのではなく、使うことと同じこと。

 だからこそ、

 

 「あんたは暴れないの?怪護かいご

 

 自分と同じ実力を持つ仲間に疑問を抱く。

 "レイワーズ"の中でも怪護は異質に思えるが、人間と比べれば常識的なところがある。イチマンコとの交流を深めるためか、彼女の傍にいるのは

 

 「私は幸せを邪魔することが好きではない」

 「らしくねぇ~~?それでも、ジャネモンの王を名乗る?昨日からあたしに付き纏うの止めてくれない」

 「……"レイワーズ"の中で、まともなジャネモンは私とお前と、エフエーの3名だけだ。ペドリストとムキョ、香草ハーブは何を考えてるのか分からない。メーセーとキョーサーは信頼できんほど、邪悪を持ってる」

 

 他の連中が怪護の話しに聞く耳を持たないというのは、イチマンコも想定できる。

 今現在、暴れている"レイワーズ"は、イチマンコとペドリスト、エフエーの3名のみ。他、5名は息を潜めているといったところ。

 中でも暴れぶりはイチマンコが一番である。ペドリストは幼子を相手にするなど、キチガイの選び方をしている。エフエーは無難にジャネモンを出しつつの逃走を繰り返している。エフエーはどうやら、因心界がどれだけの器であるか測っていることと、トラストを捜しに行っているようだ。

 

 

 「嬉しいわね。あたしをあんな連中と一緒にしないでくれるのって」

 

 傲慢的なところが隠れていないものの、同じジャネモンながらもメンバーのイカレぶりを感じているイチマンコ。怪護を少しながら、美味しいところを持っていく嫌な奴と思ってはいた。

 

 「宿主を探すのなら、派手に暴れるお前の傍にいた方が効率がいいからな」

 「そーいうとこはあんのね?」

 

 まだお互いに宿主を見つけられていない状況。イチマンコも欲しいと言えば欲しいが、お人形のように自分の意志で動かせる奴がいい。たぶん。適合する宿主と自分は相性が悪いだろう。

 自ら派手に動いているのは、そーいうところ。

 宿主を手にしていない状況で因心界と本格的な激突があれば、やばい。逃げられるような相手ばかりであったが、因心界も動いてきた。特に派手に暴れていたイチマンコを狙い、襲撃ポイントを予測して張っていた。

 

 

 ブロロロロロロ

 

 

 「なーんで私が、あんた達と出向かなきゃいけないわけ?」

 「それ言ったら、あたしもです!北野川さんが苦手なんですけど!」

 「今日のあんたは、ただの運転手兼尋問役。敵と戦うのはこの私」

 

 

 因心界、"十妖"の3名。幹部クラスの登場。

 表原麻縫、網本粉雪、北野川話法の3名が、イチマンコと怪護の戦闘範囲に車で侵入した。まだその姿を捉えていない表原達であったが、生み出されたジャネモンの後ろでさらに隠し切れていない強力なジャネモンの気配を察知。

 3人共車から降りて、目に見えるジャネモンを見たり、周囲の様子を伺っている。

 

 

 「お?なんか今回は、強そうなのが来てるじゃない」

 「…………私達より強い。戦うのは止めた方がいい」

 

 特にあの青い長髪の女。……あれは確か、網本粉雪という妖人か。

 相当な使い手だ。宿主なしで戦うのは危険過ぎるな。

 

 

 影に隠れて表原達を見ているイチマンコと怪護。そして、捜す粉雪と表原達。表原と北野川が生み出されたジャネモンの注意をしている事もあり、イチマンコ達は少しの余裕があったと思った。

 

 「連れの2人もヤバイな」

 「……ふん。いいんじゃない?手出しは要らないわ」

 

 だが、一瞬。

 粉雪への注意を疎かにしただけで、粉雪はその場で消えるかのように動いた。影に隠れて覗くイチマンコ達の位置を正確に割り出しているかのように、その影からでは見えない死角に入った。

 

 

 「!」

 「あいつ、どこ行った!?」

 

 動揺して、足が止まる。

 うろたえて捜すイチマンコに対し、冷静に気配を探る怪護。

 敏感な怪護はすぐに左に身体を向けて、発見する。

 

 

 「あんた達が新しい敵ね」

 

 網本粉雪にもう見つかってしまった。

 見た目からしたら綺麗な人物であるが、戦闘に入れば鬼神のような雰囲気を放ち、怪物を萎縮させる強者そのもの。

 自分達より強いと評価しつつも、この2対1をどうと思っていない。

 

 「おぉっ、ととと……ビビッたー」

 

 急に見つかって、動揺を隠せないイチマンコに対し。怪護は堂々として粉雪と向かい合う。

 改めて、この近くで拝見し。

 強さにおけるあらゆる要素が抜きん出ている。そういう評価を見た怪護。

 

 「うむ。強い……やはり、勝てないな」

 「あーら。大人しく死んでくれると良いんだけど。色々話してくれた方がもっと良いわね」

 

 東京駅奪還作戦から、とんでもない強さのジャネモンが現れたことは知っている。

 どーいう連中がいるかは、それと同じ連中に聞けばいい。

 

 怪護の様子と粉雪の睨み合い。先に動いたのは粉雪の方であり、

 

 「『てつき白染しろぞめ、クールスノー』」

 

 妖人化をし、クールスノーへと変貌し、さらなる強さを相手に見せる。お互い小細工なしでぶつかろうと、この2対1をやろうとする意思。とんでもない強さのさらに上を見て怪護は

 

 「……お前があの中で一番強いのか?色々、知ってそうだ」

 

 粉雪の考えと同じように、怪護もまた勝てぬと分かれど、知れること知ろうとする。そんな複雑な事よりもガサツに単純に

 

 「怪護、引っ込んでな。あたしがやる。っていうか、手出ししないんじゃないの?」

 

 イチマンコは不意だったため、動揺していたものの。クールスノーの強さを感じられないタイプではなく、喧嘩を買うように怪護を抑え付けてクールスノーと戦うつもりだ。

 召喚したジャネモンを含めていいなら、綺麗に主力同士で3対3。しかし、クールスノー達の様子を見るにクールスノーが1人で相手にしようという雰囲気。イチマンコの考えは、1人では危うかった。

 

 

 ボォンボォンッ

 

 

 「!」

 

 人に驚くなというのは無理な事だが、……。イチマンコの周囲から降るように出現してきたのは、色んな国々で使われている紙幣の束。手にしたい札束だ。

 強さとは単純じゃないって、分からせるような奇怪な能力。

 そんな札束の一束をイチマンコは、

 

 「まずは挨拶!!」

 

 

 クールスノーに向けて蹴り飛ばす。すると、札束はクールスノーに向かっていきながら、形を変化させて。

 

 

 「!」

 

 爆弾へと変化させる!

 

 

 ドゴオオオオォォォォッ

 

 

 金の力で様々な現象を起こすという、シンプル過ぎる力。

 挨拶代わりの爆弾攻撃の後。クールスノーの目的を助けるように、イチマンコは名乗ってあげた。それだけ気が強い。

 

 「私はジャオウジャンの分身体。"レイワーズ"の1人。札束の邪念を司る、イチマンコ!よろしくー?……聴こえてる~?返事しな~?」

 

 まぁいいかと、呆れ顔の怪護を他所に。イチマンコはクールスノーを挑発。

 クールスノーは不意の爆弾を喰らいつつも、ノーダメージで防いでしまう。その正体は強固な雪の壁。

 

 「あはっ。よー分からないけど、あんたとは気が合いそうね」

 「名乗れよ、女」

 「……今日のところは、因心界の"十妖"をやってる、網本粉雪。妖人化は、クールスノー。雪とシールの力を操ってるわ」

 

 自らの能力までも言ってしまう(元々、有名だが)。久しぶりに楽しそうな戦いになると、クールスノーのワクワクと、舐められてると感じつつも、居心地の良い相手を見つけ、好戦的な笑みを作るイチマンコ。

 絶えず、札束を召喚しつつ。それらを蹴り飛ばす。

 

 「ははっ!楽しませそうね!」

 「お互いね」

 

 クールスノーはイチマンコへ接近していく。蹴飛ばされる札束が変化し始め、様々な事象を引き起こす。かなり多彩な変化が可能と見切り、その変化はイチマンコにも影響があると察知。距離がなければ上手く扱えない。

 変化にもタイムラグが存在し、イチマンコが蹴り飛ばすなどをした時に変化する先が決まる。それを一瞬で見抜いたクールスノー。

 

 

 「そりゃあぁっ!!」

 

 

 ドゴオオォォッ

 

 イチマンコの腹部に前蹴りを叩きこんで吹っ飛ばす!

 建物1つを貫通させるほどの一発。急に接近されると、能力が追いつかない。だが、

 

 

 ガラァッ

 

 

 「効いたわねぇ」

 

 瓦礫をどかして、起き上がるイチマンコ。ダメージは確かにあったが、札束の力で回復。汎用性が高く、速攻性も十分なレベル。クールスノーの接近戦が異常に強いだけだ。

 そんな時。

 

 「ふむ。お互い強いな。実践ならなおさら」

 「2人同時でいいんだけど?」

 

 怪護かいごはクールスノーの様子を伺う。放たれている殺意を介さない。

 

 「手を出すんじゃない!怪護!!あたしの獲物!!」

 「助けを呼んでもいいんじゃない?」

 

 再び動こうとするところに、不意に動いてきたのは。

 

 

 「うおおおぉぉっ!!」

 「ん?」

 

 クールスノーの存在が大きすぎて、気付けなかった小動物ほどの存在感。宙に舞いつつ、飛び蹴りを繰り出し……

 

 「札束よこせーーー!!」

 

 

 ドゴオオォォォッ

 

 

 イチマンコに攻撃を行ったのは、欲望に満ち溢れるマジカニートゥであった。突然の攻撃と同じくして、それをなんとも卑怯と感じず。

 

 「うりゃああぁっ!!」

 「ぐふうっ」

 

 イチマンコをぶん殴りまくるのである。戦うつもりなどなさそうな彼女が、こんなにも好戦的に相手に挑むことに。クールスノーも少し驚きがある。怪護はなんだあいつ?っといった様子。

 イチマンコをタコ殴りにするマジカニートゥの様子に

 

 「なに勝手な手出しをしてるの」

 

 クールスノーは残念そうな声でマジカニートゥに尋ねるのであった。そして、マジカニートゥが言ったことは。

 

 「不意打ちした方が早いです!!卑怯上等!!」

 「……………」

 「ほら!札束を出せーーー!!」

 

 お金欲しさと効率の良さを重視し、イチマンコとの勝負を挑んだのであった。成長とも見れるが、

 

 「あの子は……あなたのお仲間なのかい?」

 「失礼ね。けど、仲間よ」

 

 敵である怪護にすら心配されるレベルで、金の欲望に動くマジカニートゥ。色々と理由もあるが、そもそも……

 

 ガシッ

 

 「な、なんで俺まで掴むんだ。マジカニートゥ」

 「レ・ゼ・ン~~……」

 

 イチマンコの能力が、マジカニートゥの能力の面倒くささを一笑に付す。見た目、チート。現実、そのまま。といったところ。

 

 「本気出すより、金の力で強化した方が楽だよーーー!!」

 「ぶほおぉっ!?」

 

 自分の妖精であるレゼン共々、イチマンコをぶん殴る。本気を出すよりも簡単で、多彩な力を発揮するとか。

 またしても、イチャモンである。

 

 「何が本気を出すだーー!!世の中、お金が全てだよ!!この方の能力はまさに、社会そのもの!!妖精さん達よりずーっと人を理解してくれてるじゃん!!どーしてっ!!どーして、そーいうところを理解してないの!?」

 「お、お前。それ言って恥ずかしくないのか?」

 「恥ずかしくないよ!!お金大好きだもん!!」

 「主人公だろうが、どーしてそんな性格ができるんだ!?」

 「人はお金で変わるんです!!」

 

 突如の乱入に、味方であるクールスノーも髪をくしゃってしつつ、このイチマンコよりも強い雰囲気を出す怪護に意識と身体を向ける。

 

 「そいつは任せるわよ、マジカニートゥ……」

 「!交代か?」

 

 怪護に交戦意識はなかったが、クールスノーの戦意を当てられたら、身構えざるおえない。

 徒手空拳。戦闘経験。そのどれもがクールスノーが上回っており、少しでも反応が遅れれば、一気に殺される。

 互いの脳内で強さと強さのぶつかり合い、ようやく両者が動き出す。

 

 「!」

 

 クールスノーは右の正拳。動きが早いが、見切れる。十分に避けられる。

 

 「!!」

 

 バリイイィィィッ

 

 「っ!」

 

 雪を纏った拳は、掠っただけでも吹雪の冷たさを襲った。怪護に対して威嚇から入り、思考を鈍らせるという先手できたクールスノー。当然、怪護はそれを十分なくらい余裕で避けたが、一発の恐怖感を与えた。

 思考から動作、攻撃まで。

 両者はAIのように組み立てられたプログラミングを実行するように動き出し、ほんの僅かな

 

 

 バシイイィィッ

 

 

 「つっ!」

 

 この化け物が!!

 人間のくせに……。人間とは思えん、冷徹かつ静かな攻撃。こちらの動きを見切って、封じ、無駄なく精密な動きで人間を辞めている。こちらは耐え凌ぐのが精一杯だ!

 

 

 「ほらっ」

 「!」

 

 クールスノーの攻撃をただ受けてしまうと、怪護の身体に雪とシールがくっつき、動きをわずかに鈍らせる。恐怖と行動低下は直結し、防御を固めさせつつ、判断を単調にさせる。

 その状態になったと同時に、腰を使って上段蹴り!

 

 「!」

 

 というフェイントを加えて、がら空きになる怪護の右脇腹に蹴りの軌道を修正!

 

 

 ドゴオオオォォォッ

 

 

 「ぐううぅっ」

 「そんなもんかしら!?」

 

 勝てない。この女は相当強い。

 直撃をもらってしまったが、耐えてみせる怪護。それでもまだ手を抜くというのなら、死ぬだろう。少しは手の内を見せろと、クールスノーが迫る。

 ダメージを負っても、接近で受けてたつ怪護。その狙いは……

 

 

 バギイイィィッ

 

 

 「っっ!」

 「脳みそと心臓、どっちから死にたい?」

 

 いくつか狙いがある。1つに、生まれた自分の忍耐力を体で感じること。頑丈タフさには自信があるようだ。身を持って実力を知れる事もある。

 暴力と精密な動きは、個人の才能と努力、環境……。それらを分からせる。

 怪護は一言。

 

 「君は、家族がいるかい?」

 「は?」

 

 怪護は起き上がりつつ、クールスノーにもう一度尋ねる。

 

 「クールスノー。君は、家族がいるか?」

 

 少し本気を出すか。そんな気配を感じ取ったが、ちょっと違う。

 結論をして

 

 「いないようだな。その拳に心の温かさはなく、冷徹そのもの。鬼神の姿、見事」

 「……………」

 

 怪護の言い方は、予想を述べているだけに過ぎない。だが、あんまり自分のことを知っている人間は少ない。クールスノーには、当たってはいた。

 

 「素晴らしい出会いがあっても、血と肉と共に、家族と言える者は誰一人もいなかった。寂しい戦士だ」

 「あらあら。そのくらいかしら?」

 「相性から言って、私の宿主にはなれないだろうが。……君からは相当な邪念を感じる」

 「それが妖精の動力でもあるでしょ。素晴らしい出会いとか言ってるけど、あんたにとって。私に会ったのは、最悪じゃない」

 

 

 その言葉通り。

 クールスノーの攻撃は激しく来た。格闘戦では歯が立たない。中途半端な受け方では耐え切れないどころか、意味をなさない。不用意に開いた怪護の左手をとったクールスノーは

 

 パシィッ

 

 「!」

 

 怪護の指を掴み、冷却からの

 

 

 バギイイィィッ

 

 

 指折り。

 ほんの些細なミスすらも、致命傷に変える。

 隙を見せれば仕留めにくる。

 

 「ちっ!両眼を抉ってあげたかったけど……」

 「……君の連れも、なかなか面白い家族のようだな」

 「さっきからそーいう事を知って楽しい?北野川みたいで嫌いね」

 「うむ。母親のような願望でも、嫌いな父親に似る子供。……本当の家族を知らない君にはその楽しさが分からないかもしれないな」

 「そーね、残念!!」

 

 イライラとしてくるが、冷淡な攻撃。会話で身体の動きを一切乱さない。

 素晴らしいと賞賛する。

 その戦いの中。

 

 「みぎゃ~~~~!!」

 

 突如として、悲鳴が挙がった。その声はマジカニートゥのもの。

 怪護ではクールスノーに太刀打ちできなかったが、イチマンコの方は伝説のジャネモンクラスの実力を見せ、マジカニートゥに対して

 

 

 チャリーンッ

 

 

 「お、お、お金……」

 「し、しっかりしろ!マジカニートゥ!!」

 

 両眼をお金の目に変えてしまうほどの変貌ぶり。イチマンコが生み出した札束に触れてしまい、マジカニートゥにその力が伝わってしまった。

 相性の悪さというのが如実に現れたもの。イチマンコはその効果を見て、

 

 

 ボンボーンッ

 

 

 「マジカニートゥ!この札束を渡すから」

 「……………」

 

 金を使って、手駒にする。

 ざっと見て、300万円ほどの量で

 

 「あの女に勝負しろーー!」

 「はいーーー!!」

 「うおおぉっ!?ひ、拾うな!マジカニートゥ!!しっかりしろ!」

 

 先に札束を拾いあげ、頬でスリスリするほど。金に媚びた下種過ぎる少女の顔。お金の魔力に魅了され、判断能力を見失い、イチマンコの命令をこなす手下に成り下がる。

 金をGETし、約束通り。

 

 「お金のためーーー!!約束だものーー!」

 「む、無茶すんなぁーーー!!」

 

 300万。300万でクールスノーを相手にするという行為。

 怪護と交戦しているところ、横から入ってきたマジカニートゥ。クールスノーに攻撃を仕掛けた。

 

 

 ドシイィッッ

 

 

 操られたとはいえ、クールスノーを蹴り飛ばした。

 

 

 「や、やりやがった……」

 

 

 唖然とするレゼン。自分にはどうやら効果がないが、マジカニートゥが完全にイチマンコの支配下になってしまった。金の力で妖人を操る能力なんて、シンプルでえげつない。

 2対2から1対3という優位にイチマンコは

 

 「さぁっ!怪護、この女をやるわよ!!」

 「…………」

 「マジカニートゥ!ボーナス出すから、そいつを殺せぇっ!」

 「ありがとうございますっ!」

 「!だ、だからしっかりしろ!!そりゃ無茶だ!!マジカニートゥ、止せ!!」

 

 マジカニートゥを特攻させる。レゼンが必至に抑えようとするが、どうにもならない。能力まで発動したら、とんでもない事になる。

 その一方で怪護は、

 

 「退くぞ!イチマンコ!」

 「えっ!?」

 「3人掛かりでも、あの女には勝てない」

 

 空で雪雲が積もろうとする。視界を広くし、クールスノーの底知れない強さを把握した怪護は、この好機で逃げを選択した。イチマンコを無理矢理抱えて、逃走!

 

 「ちょっと!?」

 「宿主がない俺達では勝てん」

 「そんなわけ!あたし達は、ジャオウジャンよ!」

 「その慢心がいけない」

 

 納得がいかない逃走に、不満の顔を出すイチマンコ。

 その判断が正しいかどうか。

 お金に操られたマジカニートゥが、分からされるだろう。

 

 「いた~……」

 

 不意に蹴飛ばされたと思いきや、しっかりと防御していた。仲間から攻撃されている、戸惑いを何一つ感じていない鬼神の両眼。

 クールスノーは冷たく、暴走しているマジカニートゥを見て、

 

 「お金~!ボーナス~!」

 「うおっ!?」

 「…………」

 

 飛び込んでくる相手に飛び掛かる。その際、あまりの怖さにマジカニートゥの頭に乗っていたレゼンは、その場から離れた。

 

 ドゴオォォッ

 

 クールスノーはマジカニートゥの首をがっちり掴んでの顔面への膝蹴り。

 

 「ぐへっ」

 

 カウンターのように決まったところ、マジカニートゥの右頬が90度以上も曲がりながら、

 

 

 バギイイィィッッ

 

 

 マジカニートゥの頭、側頭部を地面へと叩きつける。力技過ぎる、投げ技。一連の攻撃、操られているとはいえ仲間に向ける攻撃じゃない。

 だが、仲間であるからこそ。こーいう言葉をかける。

 

 「失態ね」

 

 

 靴のハイヒール部分で心臓と肺の隙間を突き刺すほどの、精密な踏みつけ。

 呼吸を乱し、洗脳されている頭を恐怖で正常化させようとしている。それをより早くしろとでも、クールスノーはマジカニートゥの左足を捻りながら上げてやる。

 

 「いだだだだだっっ!」

 

 曲がってはいけない方向に折る。

 万が一、洗脳が解けなかったら……動けると面倒だ。マジカニートゥの能力を相当警戒していること。

 お金になっていた両眼から、恐怖から来る本能的な判断が押し寄せ。

 

 「ああーーーっ!苦しいですうぅっ!」

 「しょ、正気に戻った!戻ったから、クールスノー!!」

 「私の獲物を逃した罰よ。……さっきの2人、もう追いかけても無理そうね」

 

 

 全員、厄介な能力持ちなのは間違いなさそうね。

 私とキッス以外で一対一で戦うのは危険かも。

 

 

 「北野川!帰るわよ!!情報、秘密、全部取れてるんでしょ!?」

 


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