Aパート
戦闘の後は病院ってのはお決まりだろうか?
ここでなら治療と反省、さらには警護されてもらえるという安心な場所で
「テメェ!よくも投げつけやがったな!!おかげで俺も体にダメージが残っただろうが!サングでも直しきれないダメージだぞ!」
「なによー!あたしの活躍でジャネモンっていうパチモンが倒せたんじゃない!」
「倒し方を考えろよ!お前が注意を惹きつけて、俺がコッソリやりゃあ勝てたんだよ!難しい相手じゃなかったんだよ!表原アホウ!!」
「勝つことが大事って言うじゃない!中身まで問うの!?初戦だったんですけど!」
人間と妖精が揉める。
「ここは病院なんだがねぇ~」
『レゼンが悪いといえば悪いな。なーんで、あーいう子を選んじゃったんだ?』
古野とサングはこの醜い争いを止めようとしたが、割って入ることすらできない状況。
お互いに患者というのも珍しい。
「あたしのテンマとフブキは生命を持つけれど、装備している変身。常に生物型の妖精は自由に行動ができるというのが、強みでもあって弱点ね。レゼンくんが強いから良いけれど」
妖精に物体や生物などの種類があるため、戦う手段は様々である。
レゼンのように自由に動き回る妖精は割と少ない。
粉雪がここに留まることで、二人は治療に専念できるようになっている。
「ぜーーたい!あんたの言う事は聞きません!」
「んだとテメェ!今すぐ死ぬか!?」
「できない事は脅しになりませんよ~」
「ふんっ」
ほとんどの脅しはそーであるが、レゼンにとっては違う。
「ぎゃああああぁっ!痛い痛い痛い!胸が痛いぃぃっ!」
「俺が与えていたエネルギーを少し弱めてやった!傷に対する抵抗力が弱まっただけで、お前はこの痛みを死ねるまで味わうんだよ!ざまーみろ!」
悪魔の如き、高笑いをするレゼンに対し。止めてください、ごめんなさいと懇願するかと思われた表原であったが、意外過ぎるが普通過ぎるとも言える行動をとる。
バヂーーンッ
「ぐおおぉっ!?テメッ!頭殴りやがったな!縫ってもらったばっかだぞ!……ぎゃーー!血が噴きでとる!」
「そ、そんなズルイ攻撃に!いつまでもあたしが屈すると思うなーー!傷だらけになったおかげで、レゼンだって一撃叩き込めば苦しむのは知っているのよ!!」
「お前、俺怪我してるんだぞ!お前のせいで、生身のまま車に撥ね飛ばされたんだぞ!」
「あたしはもっと怪我してるのよ!あんただけズルイ思いさせてたまるか!!」
なんて仲の悪いコンビだろうか……。相性は最悪である。
「こーいうの珍しいよねぇ?粉雪ちゃん」
「そーね。人間同士仲悪いってのはあるけれど、人間と妖精。それもコンビ組んでる同士が仲悪いってのは、聞かないわ」
「勢力争いというわけでもなしに」
『普通なら妖精側が譲歩するものだが、レゼンは生まれ持って天才だから。そーいうことには欠けた面があるんだよなぁ』
「そーなのか、サング」
人間社会にも、妖精社会にも色々なものがあるんだろう。
そんなやり取りをしているところに珍客が訪問するのであった。
「やー、古野さん。丁度良かった」
「!君は、太田くんじゃないか」
同じ因心界ではあるが、やはり奇抜というか。騎士の格好のまま、こんな病院に入ってくるんだから驚きである。
太田ヒイロが表原とレゼンのお見舞いに来たのだった。
「と、思いきや。本当に丁度だったみたいだね」
「あら。ヒイロじゃない、珍しいわね」
粉雪も同じ事を思う。
「どーしたのよ?普段は本部在住でしょ?」
「キッスからの指令だ。表原麻縫とレゼンの2名を警護してくれと。君と野花ちゃんが引き受けていた事だろうが、野花ちゃんが北野川と佐鯨のチームに合流するよう通達されたはずだが……」
「……えーっ!?あたし聞いてないわよ!野花、北野川のとこに行くわけ!?ヒイロが行きなさいよ!」
「そー言ったんだがね。それもそれで、こちらとしてはあとが怖いものだ。野花ちゃんなら上手くやるだろう?」
粉雪は不満顔になるものの。
指令と配慮があることには多少理解ができる。レゼンという本当の天才をある一派で抱えるのは、キッスとしても見逃せないというわけか。
三強同士、上手に分け合いましょうってメッセージ。
「!あの、そちらの方は?」
表原がヒイロに気付き、五月蝿かった言い争いが一時的に止まった。
ヒイロの姿が病院内とか関係なく、目立つ。完全に騎士なのだから。色んな方と出会いすぐに
「因心界ですか?」
「そうだよ」
うわぁっ、色物ばっかり……。
というのは胸の中に秘めておく、表原。ヒイロは病室にちゃんと入って、正式に挨拶をする。
「私は太田ヒイロ。粉雪や古野さんと同じく、因心界の幹部を務めている。よろしく」
「は、はい!」
礼儀正しく。服装もそれに匹敵するオーラ。外見だけみれば、カッコイイ人。白馬の王子様がしっくり来るほど、清楚な男性であった。表原もちょっと憧れる空想男性像が、太田ヒイロであった。
「よろしく、レゼンくん」
「ああ」
レゼンとも握手をする、ヒイロ。
「君のことはキッスやイスケから聞いているよ。その腕、少し見させてもらうけれど。構わないかい?」
「使い手があれだからなぁー」
「なによー!レゼン!」
「五月蝿い!……まぁ、その時はお互い様で。力を見させてもらいます」
「ああ、構わないよ」
「…………」
太田ヒイロ。因心界の"十妖"のナンバー2。
トップは涙キッスだが、同じ3強の白岩と粉雪を抜いて。因心界で2番目の権威を持っているという話だ。なのに、こいつからは妖人の資質を感じない。よく分からないが、すぐ隣にいる粉雪の方が遥かに強い。
相当強いはずだが、未知数ってところか。
◇ ◇
ガチャコンッ
キャスティーノ団はいくつもの少数組織が集い、録路を統括に据えた組織である。
この組織の運営における、資金源と武器の数々は録路が握っている。
そんな彼が消えた。
心配という感情がまるで込められていない、長身のイギリス人は
「デブはどーした?」
国から漂う紳士さなどまったく現れていない、いつもの隠れたところでの呼び方。
誰か分かっていて、派手なヤンキーや暴走族的な格好をしている男は、荒げた感じは口調にこめず、
「さぁな。韮本の馬鹿は捕まったとか聞いたが、まさか……」
因心界と違い、法のような統率は成されていない。録路から直接、資金や武器を賜る事もあれば。書置きを残し、組織が管理する建物に置いておくという手口が多い。
「録路なら"萬"の連中を直接呼びに行くってさ。1週間はいないって」
「権田。そんな理由でいねぇのか。ちっ、あいつだけはズリーな」
録路の直属という部下はいるものの、忠誠心はなく。金や武器に固執している者達ばかりである。
その中で最も欲しいのが
「妖精が欲しいぜ。できるなら、俺の求める妖精。録路の奴は入手経路を持っているんだろうな」
妖人化していない人間もいる。ジャネモンでは力を得られても、突発的や条件的なものであったりする。彼等が所属しているのは、妖精を入手するためでもあった。
あの録路に気にいられるなんて、吐き気がすることであるが。それが近道だとすればやるものだ。あるいは、
「奪い取って売り捌いてやる。因心界をぶっ潰して手に入る金だっていい。SAF協会を潰して妖精を奪い取るのもいい」
身の程知らずとも言えるが、悪を貫くとは正しさとぶつかる事だ。
キャスティーノ団から仕掛ける。身勝手を中心とした理不尽な迷惑行為。
それはどこであろうと、家のようなところだろうとする。
「あーっ、金欲しい。女欲しい。妖精欲しい!全部が欲しくなった!!コンチクショー!!」
目に入ったのは、ゴミが大量に入っている箱。何故、それを蹴飛ばす?ゴミ箱の中身が散らばる。
「アレッチャー、ここでキレてんじゃねぇぞ。周りに当たるなら、外でやれ!なんのために武器集めてんだ?陰キャのイライラか?」
「そーだよ。誰が片付けてんの?あたしだよ」
「あーっ!分かってんだよ!イライラしてきたんだよ!お前や録路がカントリーマームを食い散らかしてるのも、腹が立つんだよ!つまみを買って来いよ!ビールに合うもん買って来い!よこせ!」
「二十歳超えてるのはアレッチャーだけなのが悪いだろう。俺も飲むけど」
「パシリに買い付け行かせろ!!お前の良いところだろ!」
ここで現在のキャスティーノ団の構成について。
統括、資金、武器を管理しているのは録路空梧である。
一方で現在絶え間なく、不当で悪ぶっている人間達を集めているのは、このヤンキー君である。
様々というわけではなく、悪や不当な連中をかき集められる事に向いているのは、ガキの頃から付き合いがあったからだ。
「自分で行けや!やるか、害人よぉ!」
フルネームは近藤頭鴉。……近藤頭鴉というフルネームである。
普通の思考をしていたら読めるわけがない当て字。
ヤンキー君がしっくり来るほど格好が似合うのは、両親がそーいう関係であった事だ。ちなみに服はほとんど父親の御下がりという貧乏性。金の欲しさがあって、ここにいる。
ちょっとは仲間想いだというのは、仲間である権田は知っている。(というか、権田もアレッチャーも、近藤経由でここに所属している)
「デブみてぇに暴れてろ!馬鹿!活動を広めれば、因心界に悪評が広まっていくんだからよ!」
「言われなくても、行くっつーの!」
録路と同じく、元エンジェル・デービズに所属していた人物。妖精という金になって、武器にも成り得るものを求めていたが、所属してから半年。因心界との激しい抗争に巻き込まれ、エンジェル・デービズという組織が壊滅。
縁もあって力もあった録路と組んで、キャスティーノ団の創設に関わっている。
お互い、因心界には恨みもあるって間柄にしては打算的なところが多過ぎる。録路が持っていない人間の数を近藤が補い、金銭と武器を確保しているという条件付きで近藤が録路に協力しているとも言える。
「アレッチャーの野郎。金巻き上げねぇーと、意味ねぇのは分かってるよな?」
「あいつは暴れたいだけだからね。妖人になったら大変よ」
「その前に自分に合う妖精を捕まえるか、録路倒して金と武器ルートをゲットするか。そん時は、飴子。お前を側近にしてやるよ」
「あたしの側近は、オ・カ・ネ!」
「つれねぇな」
◇ ◇
因心界の本部には、公園のように自由で広い遊び場という待合室がある。
人間のためにではなく、妖精のためにある施設だ。
ここに毎日のように来る人間はいつも麗しき若い清掃員だ。やらしておくにはもったいないキレイさ。
『あーっ、飛島だー!』
『おはよー!今日も掃除ー?』
「おはようございます!今日も元気ですね、みなさん」
妖精というのは、"いつ"、"どこで"、"何頭で"降りてくるか。人間達には把握できない。
妖精の国にいるサザンから、正式なる許可が降りている妖精なのかどうかも、判断ができない。
人間側から分かっているのは、妖精というのはしっかりと管理が必要な難しい存在である事だ。妖人に妖精を携帯させている事にも繋がっている。
「今日は花壇の整備を致します。お手伝いしてくれる方、いますか?」
『はーいっ』
表原とレゼンの例で分かるように、パートナー選びというのは大事である。
現時点でパートナーがいないが、いずれ悪い人間に悪用されかねない。そんな妖精を保護という名目で捕えて、この公園で良識な適合者が現れるのを待っている。
妖精達にとっては平和な一時であり、不安も抱える日々である。
因心界の本部に在住している幹部、"十妖"は最低でも2人いる。その確実な1人が涙キッスであり、あとは飛島かヒイロといったところか。本部を離れた事が珍しいと言われるのも、納得がいく。
『ねぇーねぇー。私達の適合者って現れないのー?』
『僕達、まだまだ大丈夫だけど。妖人化できる人と出会わないと、痛くて痛くて死んじゃうんだよ』
「えー、すみません。まだ"因心界"には現れてないようでして。申し訳ございません」
飛島はその風紀委員的な性格で、こーいった施設の手入れには抜かりなく、能力を加味しても防衛向きである。妖精達にも優しい。
「妖精の方々が心配されていますよ。キッス様」
「……」
この外と同じような公園の近くには墓地もある。これまで因心界に所属し、戦死していった人間、妖精が静かに眠っているところである。
妖精が死を気にするように並の人間なら、その危険性に震える者もいる。妖人の死は互いの死にも?がる。
あくまで
「因心界が妖精を保有する事で、人の犠牲者を出さないためだ。秩序も命も全てに犠牲を作らない」
「難しい議題ですね」
「私と飛島がここを護り続ければ妖精達は生きていられる。命はいつか途切れるというのは、特別な事でもない。彼等の役目と命の在り方は別であると考えてもいる」
堅く考えているのは飛島の方だ。焦りがあるのかもしれない。
「……キャスティーノ団やSAF協会といった、我々から見れば敵がいる。キッス様や粉雪さん、白岩がいるとしても、果たしてそれだけで今。良いんでしょうか?徹底した正義で彼等を抑え込むことこそ、因心界の意義と思っておりました」
「焦って良い結果が出るわけもないし。粉雪と白岩に余裕はある。不正に不正を重ねちゃ、正義の意味が揺らぐものだろう?強さとは、ただの強さだけじゃない。私の方針が生温いと見えるのも致し方ないが、平和を忘れちゃいけないだろ?」
涙キッスとレゼンが追いかけている、"妖精を人間界に手引きしている者"。こいつ、あるいはその複数が両方の社会を乱している元凶。獲るべき命。
この事件を追いかけている人物は人間側では、涙キッスのみ。
敵対勢力にそれらを成せる組織があるとすれば、キャスティーノ団とSAF協会。ただ潰すだけじゃなく、取り逃がす事なく、秘密は秘密のままにすること。情報はまだ、秘密にしている。少なくとも、レゼンと出会うまでは様子見を貫くつもりである。
飛島の焦りをもっと自分が自覚するべきところ。
勝てば正義であると決め付ければ、不正に勝てる正義などそうはないものだ。統括だからこそ分かっている事実。こちらの強さに自信はあれど、敵も分かったものじゃない。いつか、強力な人間、妖精、ジャネモン。そんな連中が突然現れてもおかしくはないこの世の中。
着々と戦力という人員を集めているキャスティーノ団。怪しげなアイテムや強力な妖精を擁して、人間界に牙を剥いているSAF協会。因心界が今、一番強いだけと思われるのも仕方ないか。何か1つ、手を出す必要はある。双方が手を組むとは思えないが、その万が一もあり得る。人間同士による取引行為は確認されてもいる。




