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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第38話『なんじゃこりゃ!?リセットってなんですかー!!』
127/267

Cパート

シットリとダイソンがどうやら死んだらしい。

そして、一時的ながら、サザンが人間界に降り立った。


「サザンが動いた事をルミルミに報告してやるか」



妖精の国では、サザンの一時的な不在によって、騒ぎが起きていた。

今こそ戻って来てはいるが、数刻だけでも妖精の国の治世は乱れた。

情勢としては、妖精の中でも


「えええぇっ!!?シットリとダイソンがっ……」

「死を……」

「あの2人は妖精の国に帰還できる者達と言われていたのに……」

「因心界の方がやっぱり良いのかな~……」


SAF協会の敗戦。その勝敗云々よりも、妖精の国でも優秀な妖精であったシットリとダイソンの2名が人間界で死亡したという情報が流れたのだ。

評判はともかく、その実力は凄まじく、ルミルミの懐刀と言える2名。


「ルミルミ様はどうなってるんだ!?」

「サザン様!なんとかなさるんじゃないんですか!?」


さて、そんな妖精の国の中での混乱は確かである。

そんな中で猿の妖精は傲慢ごうまんに振舞っていた。



「このゴックブ様の出番が、いよいよ来たというわけか!キモナメクジもゴミ箒も役に立たなかったな!SAF協会の切り札。このゴックブ様が行くぜ」



シットリは場合によっては、妖精の国からの動きは予見していた。だが、人間界にいる以上、妖精の国の情報はそう入手はできない。サザンが動き出す事があれば、すぐに知れるようにするには妖精の国にも、情報を掴む協力者が必要であった。


その協力者がこの猿の妖精、ゴックブである。

SAF協会、最後の一員!


世代はヒイロ、シットリ、ダイソンといった、妖精の国でも黄金世代とも言える世代の妖精。

その実力はいかに。

サザンの動きをキャッチし、ゴックブは人間界へと不正に降り立った。彼もまた、シットリ達と同じく人間嫌いであった。最もそれは、自分自身の力を協力し合うという性質が大半だろう。



「はーはははっ!人間達よ、このゴックブ様の力を思い知り、滅ぶが良い!!」



ヒュンヒュンヒュン



妖精の国の混乱。

それは確かであったが、妖精の国の城では……



「ヒイロ。連行、すまない」

「俺の方こそ、サザン様に会わせる顔がない」

「いや、ヒイロが剣を向けている奴の方が色々と、ヤバイんだよ。ね、アダメさん」

「あわわわわ。ちょちょちょ!私をどうしようというんだーー……」


ヒイロの帰還によって、その混乱を治めていくのは案外早かったりする。元々、妖精達にとっては有名人が亡くなったからのショック程度の混乱でしかなかった。

サザンも粛々と混乱を抑えることと、人間界の様相から判断を出さなきゃいけない。


「レゼンのせいで、私は人間界に色々と情報を流した」

「責任とれーーーー!サザーーン!!」

「責任をとって、王位をアダメさんに譲りますね」

「逃げるのかーーーー!!最後までやり遂げろーー!」


どこぞの批判しかしてない組織のダブスタを披露するアダメ。

無事に因心界の状態を戻した。これでまだ底知れないSAF協会の戦力と、世界の流れについていけるだろう。だが、その本番。


「ジャオウジャンとの決戦までには、こちらも意志を固めて、総動員する必要がある。ヒイロ、協力を頼む。それで私からお前を問うことはない」

「……分かりました」

「アダメさんは収束させるための処理を願います」

「ルミルミをなんとかしてよぉぉっ。あいつ、殺しに来たんですけど」

「私が殺してあげましょうか?アダメさんを」


それ変わらねぇじゃん。


「ルミルミはジャオウジャンの力で人類が滅びないと解れば、もう諦めるはずです。今はキッス達を信じましょう。その手伝いをアダメさんはしたんでしょう」

「…………私は、全てを無くしたかった……」



人間達が勝手に暴れて滅んでしまえばいい。

そんな願いが込められたかのような、ジャオウジャンの性能を知るアダメの心。ムノウヤの時とは違い、生み出す部下達も強力であろうと推測していた。そして、人間もまた成長している。より恐ろしい生物として成長している。


「大丈夫。なんとか私がこれからでも、全員を救う道を導きます」


妖精の国は結集し、サザン、ヒイロ、アダメの3名の力を元に、きたる決戦までに大掛かりな準備をするのであった。



◇      ◇



そんなこんなの妖精の国。

不正に降り立ったゴックブはというと、


『ほう、ここが人間界か……人間共がいっぱいいるな』


夜の東京に降り立った。

暢気というか、平和ボケをしたかのような、平穏な連中が集まるところ。ゴックブはすぐに


『むっ……良い匂いがするな』


飲食店の匂いに釣られていた。

色んなお店があり、色んな食い物がある。


『くくくっ、どれから食べてやろうか』

「おい。街中に猿がいるぞ」

「なんだあれ!?どっから来た!?」


ゴックブは食物に意識をしていたが、周囲の人達は猿が東京にやってきた事で驚いているところであった。


「警察を呼ぶわ!」


まさに捕り物になろうという状況。

猿一頭とはいえ、そう簡単に捕まるわけがなく、そいつが妖精と来たら、さらに難しいだろう。


「む?」


その中でとても美味しい匂いがするところを見つけ、店内に入り込む。

そこはお好み焼き店であった。


「うわぁっ!?猿が入ってきた!」

「きゃーーー!」

「なんだなんだ!?」

『怯えているな、人間共!今日からこの俺が人間共を支配してやる!!妖精こそ、頂点だ!!』


声を出しているが、猿の鳴き声であるため、キーッキーッしか伝わらない。

それ故にお客様や店員などは逃げ惑う。

同調するようにゴックブは腕を振り回し、威嚇も行なう。


『はーははっはっ、お前達はバナナを作り、皮を剥く仕事でもしていろ!』


そんなこんなで店内を大混乱にさせたわけだが、……3人一組だけ。この店に残っているのがいた。


「ちょっ!録路さん!なんか猿がお店に入って来ましたよ!」

「いい加減、食い意地張らないでください」

「食える時に食っておけ」


表原麻縫、録路空梧、涙ルルの3名。

たまたま、このお好み焼き店で食事をしていたのだった。すでに何十枚とお好み焼きを1人で食している録路に


「やっぱりこの人、呼ばない方が良かったよね。ルルちゃん」

「美味しいお店ですけど、録路さんのせいで台無しですよね。表原」

「俺に聞こえてんぞ」


録路とルルは、東京駅周辺の様子を探る任務を終えて、因心界の本部に戻ってきた。

そこから夕飯というか、落ち着けぬが祝勝会という形で


『美味しいお店を紹介してください』


表原が録路を誘い&お願いをし、ルルも連れてのお好み焼き店へ。という流れであった。


「店を紹介して頂いたら、録路さんには帰って欲しかったです」

「良い店を教えてやったのに貶されるのは初めての事だよ」


未成年の飲酒などはしていないのに、この言われよう。

そんなやり取りをしている中で絡んできたのは、


『おい、貴様等!何を食べている!!この俺を前にどんな態度をとる!』


そうやって叫んでいるも


「きーっ!きーっ!」


猿声でしか分からない表原達。猿に威嚇される光景。


「うわあっ!!」

「思ってたより粗暴!」


表原とルルはビックリしている感じの様子。しかし、3人の妖精達にはゴックブの言葉が分かっており、


「ん?もしかして、こいつ。妖精?」

『そ、そんな感じがしますね……。傲慢な方ですね』

『こんな妖精っていたっけ?』


レゼン、マルカ、ターメの3名共、世代の違っている妖精のため、ゴックブとの面識もその存在についても知らなかった。因心界の戦力を考えても、妖精が増えることは心強い事だ。

どーすればいいか、そんなことを考えるよりも。



ガシッ


「俺の飯の邪魔をすんじゃねぇよ、猿」

「きっ!?」


な、なんだこのデブ!?俺の言葉が通じてねぇのか(通じてません)!?

このパワー!俺より腕力は上っ、っていうか怒ってる!?



録路は掴んだゴックブを



「ぶっ飛んでろ、ゴラアアァァ!!」

「きーーーーっっ!!?」



ドゴシャアアァァッ



店の外までぶん投げた。自分の食事を邪魔する奴は許せないのだ。それも自分よりも下な猿に言われると余計に……



「おい、マルカ!」

『は、はい!』

「あの猿をぶちのめす」

『え!?録路、相手は妖精だよ!!』

「うっせー!!猿まで俺の食事を邪魔すんじゃねぇ!!」


妖人化してまで、ゴックブを相手にする録路。


「『このナックルカシーに食えねぇもんはねぇ!』」


菓子を食べていないからエネルギーはそこまでではないが、ゴックブをさらにぶっ飛ばすには十分過ぎるパワー。自分で吹っ飛ばしたゴックブを見つけ



ドゴオオォォォッ



夜空の中に消すかのような、強烈な蹴りをゴックブに喰らわせるのであった。



「き~~~~~~っ(覚えてろ、貴様ーーー)」


悲鳴を上げつつ、夜空に消えていく、ゴックブだった。


「はぁー。もう一回食い直しだ」

『ま、まだ食べるの!?』


ナックルカシーはまだまだ食べる気のようだ。別の意味で店の食い物が無くなりそうだった。

このゴックブ。まだ、因心界も深くは関わらないが、後に厄介ごとを巻き込む存在となるのであった。シットリとダイソン、この2名と同期なだけに厄介な妖精となるのか!?


それはまた別の機会となる。

店に戻ってきて、表原とルルに怒られる録路。


「暴れ過ぎですよ、録路さん!せっかく、街が戻ったのに!」

「そうですよ!」

「俺のこれに比べたら、白岩の暴れぶりをどうにか言いやがれ。ネット中継されてたんだぞ!食い直しだ!」

「まだ食うのか!?」



◇      ◇



時は夕方。

粉雪と別れた白岩は、東京駅周辺を駆けづり回っていた。


「はーっ!どこにいんのよ、此処野くーん!」


目的は此処野の捜索である。本人の身を案じているような言葉を漏らすが、……ぶっちゃけ、


「人前で殺戮なんてしたら、許さないんだからね!」


彼の監視が役目である。

そのまま死んでくれてると、確かに助かるのだが……。彼が死ぬとはまったく思っていない。何度も戦っているため、彼の強さは評価している。人間としてはまったく評価していない。

連絡先も交換していない事が裏目に出た感じ。

これほどの世界改変。此処野自身も、戸惑いはあるだろう。

そんな白岩に対して、……此処野はというと。



「…………ああ、これから集まるだろうぜ」

『ちゃーんとやるんだぞぃ!かみっきー!』

「その呼び方は止めろ!なんでテメェが連絡係やってんだ!!」



ピッ



誰かと連絡を取り合っていた、此処野。

その相手からシットリとダイソン、アイーガの死を知り、世界が変わってしまった原因についても大まかな理由を聞けた。


「……さて、俺は品川までぶっ飛ばされたみたいだが。白岩はー、生きているみてぇだが、他の連中はどこに行った?」


急な事態は連絡を取り合った相手側もそうであり、混乱している様子。此処野も動揺ではないが、SAF協会を集結させるにはどうしたらいいのか。考えものである。

此処野神月本人も、殺人鬼として指名手配されているようなもの。警察などが来てしまう。


「確かにシットリがいれば、もうなんかのアクションはしただろうな」


散り散りになったSAF協会を集めるには、まずは簡単な生存報告が必要だ。自分がやったとしか思えないほどの騒ぎを起こし、アピールする。

といったことは、ちょっと前の此処野ならしたかもしれない。殺戮をなんとも思わない彼を、ルミルミは買っている。

だが、彼はやらなかった。シットリが動いていない=死という報告は確かと思っていた。自分が暴れたところで、他の面子を信用していない。



「真夜中になれば、アタナで光らせれば生きてるのは伝わるだろう」



そして、アタナの存在により自分の生存を周囲に報せる術がある。

急ぐ必要はないだろう。

シットリを失ったことで此処野が感じているように、組織が不安定になっている。どーいう動きをするのか、サッパリ読めない。纏め役がいない。ひとまず、腹ごしらえと眠る場所くらいは見つけておくかと周囲の散策を始める。


「……………」


ダイソン、アイーガもいないとなると。残ったメンバーとの交流があまりにも少ない此処野にとっては、関わりが難しい。というより、もう外様集団のようなものだ。ルミルミの位置がまだ分からない事とこの場所からそう遠くない場所に



「シットリ達の死体でも捜すか」



因心界とシットリ達が戦っていた場所がある。此処野はコンビニで食い物を万引きしてから、そこを目指した。さすがにシットリの様子を探るだろうと思っている。

だが、寝手とアセアセはネット情報。ムノウヤとトラストは高所からの情報収集と、……現場に駆けつけようとする者はいなかった。

徒歩+走りで……だいたい40分。現地入り。激しい戦いがあったとされる場所は、何事もなかったかのように平穏な街並みで日常に溶け込んでいる。この場所が東京湾に沈んだと言えば、馬鹿にされそうなくらい。



「……………」



因心界の連中でもいるかと思ったが、いねぇーんだな。

現地入りまでは即決できないか。



辺りを見渡し……。調査し……。それでもシットリがいない。

舌打ちと共に


「シットリ、勝手にくたばりやがって。俺の楽しみが1つ、減っちまったじゃねぇか」


戦闘する姿が直接的なところが多く、嫉妬に大きく偏るが、執念のあるシットリの戦いは此処野の狂気と似ているところがある。信念があるかないかでどれだけ強くさせるか。純粋な戦闘をしたかったのは事実だ。



ドドドドドドドド



「あ?」


何かがこちらに向かってくる。一人の走る音だが存在感が違う。強さを誇示するように動き、アピールしている。敵か、


「どこですかーーー!!」


味方か。


「白岩。何してんだ?」


此処野と同じく、シットリが戦っていた場所に向かったのか。だが、妖人化してまですることか。


「みんなどこですかーーーー!!あと何区回ればいいですか!?25ですか!?」

「……23区だ」


レンジラヴゥが、白岩が走ってくるコースを先読みし、此処野が待ち構えていた。地面が焦げそうなくらい走り回った感じだ。


「あーーーっ!此処野くん!!」

「白岩、東京都全部を走り回るつもりだったのか?」


呆れた言葉。すぐには止まれない全速力故、一度、此処野を通り過ぎてしまうが、Uターンして


「死んでないのは、良かったね!!」

「それ、俺の存在について言ってるな?」


無事に此処野を発見し、妖人化を解除する。


「はーーっ、ずーっと、走り回っていたんですよ。もう1時間以上」

「シットリ達が戦ってた場所に向かうくらい、想像もつかねぇのか?」

「えっ!?ここがそうなの!?」

「元に戻っちゃいるし、……シットリ達はどこにもいねぇ。他の連中は?」

「あ。あたしも、此処野くんが初めてなんだー……。あとルミルミちゃんと寝手、アセアセ、ムノウヤ、トラストの5名なのかな」


ヒイロがその中に入っていないって事は、白岩も最低限の情報は持っているのが分かる。

信用できない4人は捜す気になれないが。ルミルミがどこで何をしているか。白岩と似ている奴だから、飛び回るんじゃないかと思っていた。


「ルミルミちゃん以外はどーでもいい連中だな。白岩。俺はしばらくそこの公園で寝てるから、なんかあったら起こせ」


少しホッとしてる感情なのか。此処野にもよくは分からなかったが、休息が必要な感じだ。


「走っていたあたしを休ませるとか……」

「汗臭い。シャワーでも浴びてろ。そんじゃ」


まったく失礼な奴だと、心配したのが損な気分になる白岩だった。

公園のベンチで寝そべり、すぐに寝始める此処野。本気で寝るのかと、白岩はふつふつとだが


「……………」


SAF協会って仲間意識ってものがないんですか?


「……シットリって苦労してるなぁ」


此処野に対して向けるが、組織全体の不安定さに怒りが出てくる。自分は人質のような形でいるのだが、これじゃあ出るのも簡単過ぎる。

なんとかヒイロが戻ってくるまでは、この組織を護ってくれって、ヒイロに言われているのに。



「くーっ……かーっ……」

「……………」


寝ている此処野の顔を見て、……健やかに眠っている感じではない。多少、気を張り詰めて、両眼を閉じているくらい。何かあったら起こせと言いながら、警戒を解けない睡眠。きっと、こーいう感じで組織内で過ごしていたんだろう。此処野は危険人物とはいえ、このSAF協会で人間として活動している1人。

安眠とは遠いと、白岩は思い。


「此処野くんさ」


寝ている此処野を、一瞬で全回復させるような言葉を伝える。


「あたしと戦わない?」


両眼をかっ開いて、アタナを生み出し、立ち上がっては戦闘体勢をとる此処野。


「目が、覚めたぜ……バッチリ8時間寝ましたってくらいにな」

「20分のサービスをしてあげる」


白岩は通信アイテムを取り出し、ピンク色のハートマークが噴水のように溢れ行く


「『愛してる』」


レンジラヴゥとして、今ここで。此処野と一戦交えようとする。


「『繋がる力に愛を込めよ!』」


ヒイロ抜きとはいえ、その戦闘能力は絶大。そして、ヒイロが戦うことも想定して、力を白岩に大きく割り振っていること。


「『みんなの愛を繋ぐ!レンジラヴゥ』」


人工島をその存在だけで揺らせる迫力。

殺意ではなく、愛情などという。


「この俺を否定してやがる」


此処野にとっては、一笑するかのようなチンケな存在を、自分を打ち負かすほどの力に変えやがる。


「面白ぇっ!!面白くなってきたぁっ!!」


殺戮する狂気。"人間卒業"と揶揄される、此処野の戦闘狂の顔が出てきた。レンジラヴゥには悉く負けているが、その多くは不意打ち。純粋な一対一の戦いは久しぶりであり、連戦後とかでもない状況。



「アタナァァッ!!準備しろぉっ!!この俺が本気になっても勝てねぇ奴が!!この俺に拳を向けるんだぜぇっ!!」


自ら鼓舞。そして、此処野は正面からレンジラヴゥへ向かった。容赦なしに顔面へ、槍となるアタナを突きつける。レンジラヴゥは身体を横に数歩ずらす程度にして、神速の動き。槍の突きを続けては、5連突き。


「へっ」

「楽しそうな顔」


まったく掠りもしない攻撃であるが、此処野が敗北を悟りはしない。



チカッチカッ



アタナが点滅するように光り始め、


「しぇああぁっ!」


そこから此処野がさらに槍を突き出す。掠りもしなかった5連突きを2度も行なう行為。そのあまりに単調な攻撃にレンジラヴゥは怠慢をわずかに抱いたが



チイィッ


「!!」


首の横をわずかに刃が掠めて、血を流した。眼を疑い、感覚を疑ったが、……スイッチが入ったように、レンジラヴゥは顔を引き締めた。

此処野の槍、アタナが点滅した状態で攻撃してくるだけ。掠った攻撃に緩めることなく、突きの弱い横の動きで対応。



ビュウウゥゥッ



此処野の5連突きが止まり、レンジラヴゥは後方へと飛んだ。首から流れた血を左手で撫でるだけで止まっては、回復してしまう。ダメージを与えたが、とても微々たるもの。



「少しはやるじゃん」


血を流したのは久しぶりだ。少々、心のどこかで見くびりすぎていた。

一方で此処野は手応えを感じ、突っ込んだ。あのレンジラヴゥにダメージを通したのは久しぶりであり、興奮している。


「はっはーーっ!」


レンジラヴゥの斜め下から薙ぐ、槍捌き。少しでも対処をミスれば、指を飛ばしにいく。レンジラヴゥに対処される前に繰り出す。



バシイィッ


「点滅は"影"を作るのかな?」

「!」


1度喰らった技を見切れないほど、温くはない。アタナが点滅すると、此処野の行動が1テンポ、遅く見えるようにされている。レンジラヴゥの目に届いている情報が遅れるから、先ほどの攻撃を喰らってしまった。

しかし今度は、攻撃の軌道を見切って、先を行く槍を掴んだ。



ヒュアァァンッ



「!」

「助言する暇ねぇぞ!」


対応が早すぎるだろうって、内心は感じ取る此処野。掴まれたと同時にアタナを消し去り、さらに接近。レンジラヴゥの左手首を掴み、投げ技を行なう。



ドゴオォッ


「まだまだ!」


一度、レンジラヴゥの背中を地面に叩きつけ、さらに投げ技を続ける。彼の体術も人間レベルを超えており、無事じゃ済まないだろう。だが、レンジラヴゥにとってはこの投げ技もついさっき、経験済み。それもより高いレベルの投げで。



ガシイィィッ



「クールスノーの投げ技は!こんなレベルじゃないです!」

「!!」

「こーいう感じ!!」


技で投げるのではなく、力技で投げるそれは。此処野の殺人術を小馬鹿にする圧倒的なもの。



メゴオオォォッ



衝撃でクレーターができるほどの威力。技術と威力をゴッチャにしやがると、


「はっ!」


血を流しつつ、笑いのける此処野だった。そして、アタナが光り輝く。


「"センコームーヴ"」


強烈な光と共に、眼を瞑った相手の元に瞬間移動する技。速攻の殺戮を生み出す攻撃であるが、レンジラヴゥは眼を瞑らない。眩い光の中で此処野を見ている。

瞬間移動ができないとなると、立ち上がって走り込んでいくだけ。そんな予想を覆すように、此処野はアタナをレンジラヴゥへ投擲。奇策で翻弄するような戦いぶりで、実力差を埋めようとしているだろうが。レンジラヴゥは対応している。


「っ!東京湾に入っちゃうよ、アタナちゃん」


輝く光の中にいながら、アタナを避けては変な心配を見せるレンジラヴゥ。光になれば、また此処野の手元に来るため問題なし。

視界を奪った光が消えたと同時に、此処野は跳び、レンジラヴゥに対して殴り合いを挑んだ。

その彼の心は、戦闘を楽しむ表情だった。


「うりゃあぁっ!」

「ふんっ!!」


身体能力。妖人化しているというのもあるが、このレンジラヴゥは間違いなく最強だ!シットリが死んだ以上、俺を楽しませる戦闘を演じられるのはもうお前しかいねぇ!

見せろ、魅せろ、俺を楽しませろ!


「はっはーーー!」


此処野は限りなく、突きのモーションを静かに小さく、……そして鋭く放っている。拳の動きを見てから避けるより、そこに繋がるまでの動作を見て、予測が入って、身体が反応する。レンジラヴゥはそこの領域を使っていない。攻撃されるから避けるといった、短文になってしまうほどの感覚でやってのけている。


愛だの、恋だの。長々と付き合うことを愛おしく思っておきながら。

人の努力を笑っちまう戦い方をしやがる。気に喰わない。


「!!」



バギイイィッ



腰を深く落とし、両腕で受け止めたというのに身体を痺れさせる打撃。

奇襲からペースをとりに来る此処野を、身体能力の高さから圧倒し、攻撃の回転を増させて押し切る。一度、本気で防御に回されると、反撃の気を奪ってくる。

レンジラヴゥの、追撃のボディブロー。



ガジイイィッ



「はあぁっ!」


アタナを呼び戻してまで、レンジラヴゥの拳を受け止め。握る左手を開いた。

そこからレンジラヴゥに飛ばされたのは、公園の砂。目潰し!


「っ!」


レンジラヴゥの眼を瞑らせ、アタナを光らせる。


「"センコームーヴ"」


至近距離でも瞬間移動を使い、レンジラヴゥの左に移動する此処野。殺気、狂気、威圧感。攻撃をするという気迫を分からせ、


「そっち!」


目潰しの砂を掃って、自分の左に移動したであろう此処野を襲う。だが、そこに此処野はおらず。レンジラヴゥの背をとっていた。此処野は2連続で瞬間移動をし、



ドスウウゥッ



「へっ!」


レンジラヴゥの背を突き刺した!槍に突き刺されるレンジラヴゥは、……変化が現れない!

此処野の手に感じる手応えは、自分の殺戮経験から来る誤報。自分の名前を呼ばれた程度の感覚だったこと。


「残像か!!」


此処野がレンジラヴゥの対処を叫び。レンジラヴゥが彼の頭上から襲ってくることも、



ドゴオオォォッ



「君も?」


把握した上で似たようなやり取りで、レンジラヴゥの攻撃を回避する。


「一緒にすんな。テメェの残像は、技じゃねぇ。デタラメな身体能力め」


殺気や狂気から来る存在感で相手の心に隙を作らせ、恐怖から生んでしまう残像が此処野の技術だ。気圧されなきゃ残像は成立しないが、此処野の狂気はレンジラヴゥに届いている。

レンジラヴゥが気圧されたか、中途半端な攻撃を仕掛ける。



バヂイイィィッ



拳と拳がぶつかりあって、言葉を交わす。


「少し」

「あ?」

「強くなったんだね」


その半端な攻撃は此処野に伝える程度の、余裕だったのだろうか。


「!」


レンジラヴゥの攻撃が増していくだろうという予感に、此処野は生き甲斐を感じまくった。



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