Dパート
決着と共に、
「お姉ちゃん!!」
ハートンサイクルはシットリが引き上げた大地に着地し、妖人化を解除してルルとして叫んでいた。
「お姉ちゃん!嫌だよ!返事してよ!!勝ったんだよ!倒したんだよ!!お姉ちゃんがいないなんて嫌だよ!!」
キッスと野花の姿がまだ見えていない。海に向かって、……海中にまだいる姉の名を叫ぶ。ありたっけ
「あたしだけにしないでよぉっ!!」
泣いて、感情を込めて、気持ちを吐いた。目も鼻も声も、勝ったとは思えない震えでいた。
「ううっ、うーーーっ。大好きだったよ、お姉ちゃん」
「うむ。それを聞けて安心して」
「ひぐぅ………」
「お姉ちゃんが大好きか」
「好きだよ。お姉ちゃん……」
涙で前が見えない。耳もよくは聴こえていないはずだった。
顔が赤くなるほど、今だから言える事を言っていた。
「…………」
「よかったよかった。私も嬉しいぞ」
ゆっくりとキッスはルルの後ろから歩いてきて、抱いてあげた。
ルルは姉が生きている事と、姉に伝わってしまった事が同時に
「わーーーーーーっっ、恥ずかしいよおおぉぉぉっ」
「うりうり~、私は生きているぞ。ルル~!心配させたな~!」
激しいスキンシップを楽しんでいるキッス。ルルの困惑と嬉しさの色々を……もう少し早めに伝えてやるべきだと思っていたのは、マジカニートゥこと表原麻縫とレゼンの2人。
「言った方が良かったかな?」
「……まぁ、お互い楽しそうだからいいんじゃね?」
表原達がキッスと野花の2人が大丈夫だったのを知っていたのかは、
「キッス様。野花さんを助けるためにずーっと海中にいたんですよね」
「ああ。そんで救助した後、俺達をシットリに向かって投げ飛ばすんだからな」
"ルルに内緒で手伝ってくれ"
そう言われて投げ飛ばされた。その勢いのまま、シットリの背を剣で刺せた。
「まったく、この女はいつになったら目を覚ますわけ?」
「~~~~~~」
そんなことを北野川は言いながら、マジックで野花の顔や身体に落書きを始める。それも18禁的なエッチな言葉を含めた、非常に嫌過ぎる行為。
キッスが野花を助け、マジカニートゥをシットリに向けて投擲した後。船を動かす北野川と合流。全ての決着を見届けた。激しいことになって、この後をどうするか。
そいつを決めるかどうかは、こいつ次第か。
「…………キッス。戯れはその辺でいいか?」
「!ああ。ヒイロ。助太刀、ありがとう」
「きゃーー!ヒイロさん!ありがとうございますぅ!」
ヒイロの言葉でルルを解放したキッス。そのお礼はどっちに言っているのか分からないが、ルルは赤面のままキッスから逃げるように離れた。
「北野川ー、ルルと野花を任せる。古野に治療をしてもらってくれ」
「分かったわよ。人が荒いわねー」
「じゃ、じゃー!お姉ちゃん!先に行くね!」
北野川、野花、ルル。その3名がこの人工島から脱出していく。
「?え?なんであたしが残るの?」
「お前はしょうがなくだろ」
「?????」
疑問に思っている表原。それと違って、何か理由があると感じたレゼン。キッスに手招きされ、近寄る表原。そんな表原とレゼンをどう見るのか、ヒイロ。
「…………北野川が良かったが」
「へ?」
「白岩を思ってのことだ。表原ちゃんとレゼンくんでも、俺は大丈夫と思っている」
何が始まるのか、何を言われるのか。おそらく、規模が大きすぎることで表原の整理はついていない。ヒイロは始めに自分のこれからをキッスと表原、レゼンに伝えた。
「キッス。俺とシットリ、アイーガは、妖精の国に帰る」
海に沈んでしまったダイソンは見つけられなかった。見つけてやりたかったが、もう時間がない。仕方ない。
「2人の命を埋めてやるなら、地球よりも妖精の国にしてやりたい」
「……ああ」
「だから、キッスも落ち着いたら、"この場所"に迎え」
口にはできなかった。でも、なんとかそれだけはしてやれた。キッスもそれが分かって、指定された場所を教えてもらった。
この戦いの後処理はもうここで良いだろう。これからの事が大事であり、表原にとってはまたしても、大きな戦いの鍵となる役目。
「SAF協会の目的は人類の駆逐。その手段が分かった」
「!!」
「!えっ」
なんとなく、分かってはいるし。そのための因心界への攻撃だった。まだキッス達は出会っていないが、その要となっているのが
「"ジャオウジャン"という、ジャネモン達の王の復活をルミルミ達は目的としている」
「ムノウヤの時と同じく、失敗にできるかな?」
「表原ちゃんも知ってる通り。邪念を怪物化させるわけだが、こいつは違う。シットリや此処野のような、"あくまでも正攻法"をする連中とは違う」
「!そ、それって」
予測ができない。科学的な根拠や人としての感情がない、そんな事を怪物化させる。
不運な事故などと片付けられるような、人為的な悪魔の所業。
それが世界中で起こる。ジャオウジャンがきっかけとして。
ヒイロからしても予測できないが。
「人と人をぶつけ合い、人類を駆逐させる手段としている。憎悪と憎悪がぶつかれば、互いに破滅するのは分かっているし。さらなる憎悪を作り、連鎖は続く」
「止める手段はジャオウジャンを殺す事か?」
「……残念ながら、それは無意味だな」
「え?」
強力なジャネモンを生むために、それだけイカれた人間の持つ邪念を利用する。力を与えるわけだが、それはそれとして
「対象となる人間そのものが邪悪だから、力の上下はあまり問題とされてない」
「??????」
「頭、悪いな。表原。よーは、対象となる人間がそもそも、どーしようもねぇ役立たずでクズでゴミで命の価値がねぇ、まるで蒼山ラナのような人間だから、いずれは事件やらを起こすって事だろ」
「な、なるほど!下着ドロを再犯するような連中がターゲットってわけですね!!死刑以外にどーする事もできないじゃないですか!」
色んな人間があれど、常識内ではどーする事もできない。護ることも見つけることも、助けることも難しい連中。そんな奴等の邪念が濃いのは分かっている。
だからこそ、ジャオウジャンを狙ったところで被害の規模はそう変わらない。抑えるべきは
「より大きな被害は覚悟で、ジャオウジャンが利用するジャネモン達を倒し、そして復活するだろうジャオウジャンを倒すこと。これなら"因心界"や"妖精の国"が責任となって、戦っていける。シットリがいなくなっても、これならルミルミを正しく止められる」
……ヒイロの作戦。これに自分の私情が入っているのは否めない。北野川にそこらへんを見極めて欲しいところであったが、キッスはヒイロを最初から信頼していた。
彼の作戦、考え。実行するとなれば、人間達の被害はハンパではないが、
「人間と妖精。2つを無事に治めるには、その案が妥当か」
対象となる人間を先に殺すことも、ジャオウジャンを先に殺しに行くことも難しい。
シットリ達を失ってはルミルミも気が休まらず、睡眠期に抵抗する長期戦になり、さらに有利になる。長い戦いと見るべき判断は、キッスからしても正常。
「問題は人間側。粉雪と革新党が、ヒイロの案を素直に受け入れるとは思えない。涙一族の生き残りが私とルルだけになれば、後ろ盾のない因心界を切り捨てる事もあり得る」
トップ同士は仲が良いというのは、事実ではあるが。組織同士だと仲が悪い。
立場と考えがそもそも違っているのが原因。
「あの、南空茜風がまず、……納得しない。おそらく、解体を提案するか。粉雪はもっとえげつい事をするかもしれない」
「…………粉雪には魅力的なところはありますが。あの女を信用するのは、妖精から見ても人から見ても、信用できない」
ヒイロを信じているにしては、裏切り行為も事実。そんな中、キッスとヒイロが表原の前で粉雪の黒さに悪態を付ける。ちょっと、意外。今だからこそ、表原から訊いてみた。
「革新党って、実際どーいう組織なんですか?キッス様から見て。……あたしだって、政治団体ってのは知ってますし、粉雪さんが広告塔なのも知ってます」
社会の勉強には良いだろう。
政治団体にも色々いるし、どーしてキッスやヒイロが粉雪をそこまで信用していないか。ひとまず
「革新党は過激な政治思想のグループ。国を良く思う故、軍事力だけに留まらず、資源や権力を求めていると言える」
「………戦争屋とかそーいうのですが?」
「いや、この国を護るためだ。日本を護るため、他国に負けない力を手に入れ、誇示する。外交などを優位するためにも、国力や治安は単純に重要だ」
「じゃあ、とても良い組織じゃないですか!!国を思うため、そーいう力ずくなところ!嫌いじゃないです」
この国の人間からすれば、粉雪や革新党に期待を寄せる人間は非常に多いし、命を賭けれる人間も当然いる。色んな人脈、資金、研究など……。
ただ彼女達はあくまで
「この日本という国。人間を大切にしている……ということだけだ」
「じゃあ、"妖精"はどーなっても良いって事か?」
レゼンがすぐに答えを言えたのは、粉雪が2つ所持している妖精、テンマとフブキの姿からだ。口を抑えつけられ、不安を与えるような姿。本人達は合意しているようだが、とても人間と妖精の関係とは言えない。
「ああ。だから、革新党も同じく。平和が困らせる。妖精を欲しているのは事実であり、涙一族の研究とはまた違うが、良い噂はない」
妖精としての立場。その中間を担う立場からすれば、粉雪はとても苛烈なのだ。
「…………」
ヒイロと白岩が抜け、母体である涙一族を失い、因心界の"十妖"でも欠けた者達が多い。革新党がこれから協力するとは良い難い。
また、キッスが革新党のやり方に従うわけもない。気に食わないとかそーいうものではなく、彼女はバランスをとるためにいる存在。
「表原ちゃんも関心を持ってくれてありがたい。粉雪の事を仲間と思っているだろうし、野花に関しては一番、信頼できる人間だろう?」
「……でも、みんな同じくらいです」
「ふふ。……革新党との協議はこれからする。なにかと忙しいし、対策を練らねばいけない」
仲間同士モメ合っている状況ではない。ヒイロの言うとおり、強力なジャネモンが生まれ、ターゲットとなるのは蒼山のような凶悪な邪念を抱えた人間達。それらを護るも、見捨てるも、切り捨てるも、……結論が出せていない。
キッスから言える事。ヒイロがおそらく、またすぐに来ないだろうから。言いたい事を彼に言ってやった。
「……ヒイロ。粉雪達にとっても、正しいことをしているんだ」
「……………」
「思いつめることじゃない。私も、粉雪のやり方は気に食わないが、正しさを分かっている」
◇ ◇
ゴゴゴゴゴゴゴ
雪崩が襲う、東京駅内。
クールスノーが出会ったのは、ルミルミ、レンジラヴゥ、……そして、謎の存在であるアダメの3名。そのアダメに対して、強い意識を持つクールスノー。アダメを護ろうとするルミルミを突破してでも、狙おうとしていた。
目的が同じようで、ちょっと違うというのはルミルミとクールスノーから見ても明らか。
「!!」
どっちに付くか。
この時、大切に考えたのはヒイロの事であり、事情は聞かないが勘で想像つく。
ドゴオオォォォッ
「粉雪さん。少し、戦いましょうか!」
「……レンジラヴゥ。……白岩。あんたさ、……まぁいいけど」
レンジラヴゥがクールスノーに奇襲を仕掛け、ルミルミとアダメを護ってあげた。
「わーーーっ、わーーーっ」
「うっさい!さっさとしろ!」
慌てて、怯えるアダメ。何しに来たんだテメェと言いたげなルミルミ。
レンジラヴゥとルミルミの2人を突破し、謎の存在であるアダメに向かうのは難しい。クールスノーは、1つずついった。レンジラヴゥと少しは、
バギイイィッ
「!」
「たぶん、あんたの方が強い。でも、人としてなら……私はあんたの100倍強い」
好戦的な者を、喜ばせてくれる圧倒的な強さ。強さを表した、とてもいい姿をするレンジラヴゥとの戦いが、クールスノーを熱くさせていく。
ヒイロの加護もあって、身体能力で勝るレンジラヴゥに対し。クールスノーも妖人化のみで得られる身体能力で応戦。
「はあぁっ!」
レンジラヴゥの正当な攻撃。拳も蹴りも、とてもシンプルで鋭い。身体能力任せにあるところがまたいい。自分よりガタイが大きいジャネモンなどの相手ならば、十分過ぎるパワーがある。だが、自分より大きいとはいえ、人並ではあるクールスノー。
経験と技量からある程度の予測がされている。
バシイィッ
攻撃を回避し、弾き、防ぐ。
素手のみの応戦。
そうなってもレンジラヴゥは勢いのまま、この攻撃の回転をあげて、敵を押し込んでいける。ギアを上げてくる。そんな呼吸を逃さないクールスノーは、
バギイイィィッ
レンジラヴゥの頬を蹴り飛ばした。
「っ!」
一撃。遅ければ、攻撃を喰らっていて。早ければ、回避できた。
レンジラヴゥのリズムを掴んでの一発。
精神的な気負いをクールスノーの前で見せれば、
「!」
目潰し!!
「っ!」
パシイィッ
「あ」
急所を狙ってくる殺気。そして、動作。身体の反射には、経験などによって得られたパターンが現れる。レンジラヴゥは目潰しと判断し、その回避と防御をしたが、クールスノーはしたたかにピースを描く目つきから、レンジラヴゥの左手首を掴みにいっていた。
「そらあぁっ!!」
ドゴオオォォッ
「もういっちょっ!!」
バギイイィッッ
打撃と思わせての投げ技を展開。格闘戦において、身体能力はレンジラヴゥであるが、技術では圧倒的にクールスノーがいっていた。掴んですぐに投げ技を繰り出すのは
「さすがですっ!」
投げ技を喰らっても、そうダメージを見せないレンジラヴゥが褒めること。クールスノーは気を集中させるとマズイと思ってか、レンジラヴゥの左手首を跳ね除けるように離し、
「はははっ!ヒイロがマジで近くにいないの!?」
「…………」
「だったらあんた、ホントに私達のところに来ないの?」
戦闘狂を隠し切れない、楽しんでいる笑顔から。人や仲間らしく、心配する顔で言葉をかけるクールスノー。ルミルミのために戦っている事が伝わっているが、それがホントにヒイロのためになるのか。レンジラヴゥ、白岩からすれば
「……粉雪さんも信頼します。でも、ヒイロがもっと信頼できる!」
「なーんか私。……嫌われてるわよね。最古参なんだけどー?」
もしかして、ルミルミよりも信頼されていないのかと。ちょっと落ち込んじゃう粉雪。
やはり白岩とは戦い辛い。まぁ、このまま戦えば、どちらが勝つかは明白。
ブウウウウゥゥゥッッ
「!!」
「!!」
時間制限がある。決着は次回となるだろう。
レンジラヴゥはしっかりと、ルミルミを護ることを果たした。
アダメの身体から出てくる、眩い白い光がゆっくりとではあるが進行していく。その光の力を、クールスノーとレンジラヴゥをして
「ちょっとあれ、ヤバくない?」
「……一時休戦です。でも」
およそ、出会った事の無い力。しかし、不思議なことに恐怖するような圧迫感はなく。とても優しくて強力な光と、認識できるもの。
クールスノーも、レンジラヴゥも、アダメの光に呑まれていき。
そして。
◇ ◇
「!!!」
「!!?」
「え」
その存在を知るヒイロだけが、反応していた。
逃げるだの、護るだの、……思考停止に追い込まれるしかない。この世の全てやこれまでの時の全てが、今ここにやってきたかのようなこと。
「キッス、レゼンくん!……人間界を護ってくれ!!俺も戻ってくる!」
「ヒイロ!!」
おそらく、因心界がこの次に相手となる存在は……。
ヒイロが戻ってくるよりも前に、人間界が終わってしまうほどに大きいものかもしれない。
世界が"リセット"する以上。
邪念は色濃く……。
ガチンッ
地球の全てを覆うほどの巨大な箱が現れ、鍵がかけられたような音が鳴る。
ガスにしては早すぎるし、なにより白過ぎる。
カーーーーーッッ
地球規模に射出された聖なる光。
存在全てを包み込み、あらゆる事に影響を与えるのであった。
次回予告:
アダメ:私って女ですか?男ですか?
サザン:は?
アダメ:設定ではどちらもイケると、決めているらしいんですが?
サザン:知りませんが、この時点で女の方に寄らせたとか言ってますね。
アダメ:そう……えええぇぇっ!?止めてよおぉぉっ!!私の恥ずかしいエピソードが色々とおぉぉっ!恥ずかしすぎるるるぅぅっ!!
サザン:あんたのせいで、妖精の国も人間界、地球も大変なんですよ。
アダメ:やだやだやだやだ!そんな次回は来ないでえぇぇっ!!
サザン:……あまりの事をしても発狂しないでください。
アダメ:次回!『なんじゃこりゃ!?リセットってなんですかー!!』




