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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第37話『ついに決着!シットリの執念を断ち切れ!!』
122/267

Bパート

強敵を前にし、昂ぶる気持ち。

シットリは下から昇っていったからこそ、その状況は珍しいことではない。這い上がり、這い上がり、……続けた成果が……。


「ぶふうぅっ」


負けるわけにはいかない。死ぬわけにはいかない。

俺が負けるという事はヒイロが敗れること。ヒイロが負けないのなら、俺が負けるわけにはいかねぇ。

自分が許せねぇんだ。ヒイロが絶対に許さない。


「俺が、負ける事は、許されない!!」


今、自分に向けられた最大の攻撃に対し、1つの敬意も払う事はなかった。それほど追い詰められていたという状況。計算などしていない、無視をしていた存在の攻撃。

涙一族の出。涙キッスの妹。涙ナギ、涙カホの子供。

素質はあれど。



涙ルルがそんなに強いわけねぇっ!!



シットリからすれば、キッスの足枷としか思っていなかった存在だ。そんな奴に殺されるという状況は、今までにない。

自分が積み重ね、這い上がってきた、強者の屍の山。それを見上げるかのように飛んでいる。



「貴様も落ちろおおぉぉっ!!」



ミサイル攻撃を浴びながらもハートンサイクルに対して、粘液をぶちまける。身体のダメージからかコントロールが上手く行かず、宙を華麗に舞うハートンサイクルの動きを捉えきれないシットリ。


「!は、反撃してくるなんて……」


全力攻撃後。破壊による喪失をわずかにし、冷静になっていたハートンサイクル。シットリにとって何が一番嫌なのかを本能的に理解し、見せ付ける。

対空中への攻撃となると、シットリの攻撃手段は大きく限られる。

攻撃が当たらないという苦しみを見たシットリの、精神的なダメージは大きい。



「っ!」



フィニッシュを決めに来た攻撃の後ならば、隙があるはずだ。

反応しやがった!クソッ!



「ぶふうぅっ」



精神の弱りから来た吐血。身体が海面へ崩れるシットリ。

今までどうして死ななかったのか、分からないほどのタフネスぶりを見せていた彼だが。ハートンサイクルの攻撃がとても効いていた。

負けたくない。許されない負けだと。

自分が認め、嫉妬し、ハングリー精神の元、戦いを続けた。互いが意識をするか、あるいは自分だけがそう意識していたか。

知ってこそいたが、改めて。意識の外にいた奴の攻撃がこれほど痛いとは思わなかった。

シットリは海面で数秒、考えた。


「ごおぉっ」


あの回避。あの動き。この状況の俺にとって、一番嫌な事をしやがった。

あいつ、感情をコントロールしている。

死線を乗り越えてなきゃできない事。口や言葉で分かっても、実践になれば体は動かない。なんだ?なにがどうなって、ルルの奴が強くなっているんだ!?


奴は、キッスの最大の弱点、汚点、出来損ない。だからそれを利用し、奴をキッスの足枷になるように俺が利用した。そもそも、あいつがなんでこの戦いに参加していやがる。そこまで精神が強かったのか?

"姉に対する感情、嫉妬、邪念を利用し、ジャネモン化させ"、思い通りにキッスを足止めさせ、キッスの弱体化までさせた。俺の考えは間違いじゃなかった。

奴はキッスの弱点なんだ……っ。

奴が強くなった理由はっ



「あ」



俺かああぁぁっ!!?俺が、奴をジャネモン化したせいで、あいつは自分の力を自覚しやがったのか!?自分の弱さを知ることで強くなる。それは俺が強くなってきた時に、あったこと!

奴を強くしちまったのは、俺!?



ボオオォォォンッ



「だからなんなんだよっ!!この野郎ぉぉっ!!」



身体を持ち上げ、再び不屈の闘志を出すシットリ。高々と打ち上げた水飛沫。地震を引き起こしても空中にいるハートンサイクルには意味がない。海を震動させ、辺りを震わせる。何かをしてくるのは海の異変で分かり、ハートンサイクルはそれに備えた。

まだ海面にいることで、シットリが無力化されているわけではなかった。



「うおおおおぉぉぉぉっ!!」



ハートンサイクルに向けて、地震を引き起こすと同時に粘液を体外から放出。地震によって爆発のように辺りを吹き飛ばされる塩水。そこに粘液を通させ、水の弾丸+粘液の接着を行なわせるという応用。

向かってくる水飛沫を少しでも触れれば致命傷と、行動の制限ができる。

射程範囲に速度、弾の多さ。

シットリの起死回生に放った攻撃をハートンサイクルは



「ふうぅっ」


迎え撃とうという判断を以前ならしていた。表原に感謝する。戦いとは残酷なもので



ブオオオォォォッ



さらに高く飛び上がり、水飛沫が届かないところまで逃げ切る。

シットリの表情が見えないくらい高かったが、伝わったのは自分が上手く行かない時に見せるような、顔だったと思う。冷静じゃいられない。



「あ……」



仕留め切れなかった代償は大きい。

シットリの背に飛んできたのは



ドスウウゥゥッ



「ルルちゃんが作ったチャンス!逃しませんよ!」

「"あと3分"だ!」



マジカニートゥとレゼン。シットリの背後から剣で貫き、ダメ押しを加える。……だが、そのつもりにしか思えない。シットリの身体に深く突き刺した剣が抜けない。それを知るや。


「はい、逃げまーーーーす!!」

「もう島は沈む!あとは俺達とハートンサイクルが生き残るだけだぁぁっ!」

「ハートンサイクルを狙ってくださいよ!!私は後ろから刺しただけですから!!」

「お前は逃げながら、何を訴えてるんだ!!」


マジカニートゥの全力逃走。数秒、海面を走ってしまうほどの超ダッシュで逃げる。

さらに高く上がったハートンサイクルと、自分の背を襲い、速攻で逃げ出したマジカニートゥ。



「………………」


沈黙にして、不動。

シットリはマジカニートゥの攻撃を受けた後、動かなくなった。

ダメージを回復させているのだろうか。それとも死んだのだろうか。島が沈み行く中での行動。


「あれ?」

「止まるな。逃げるぞ!」


レゼンの一声で逃げる速度を抑え、必至の泳ぎを止めたマジカニートゥ。

ハートンサイクルも空中にてシットリの動きを注視する。

身体の限界は来ていた。それでもあの動きとタフネスで暴れ回っていた。死んだという事を望みつつも、ありえないと思う化け物。

島が沈み。それと同じく、シットリが海へと沈んでからの確認が何より安全な方法。


「………………」


"3分"か……。

島が崩れる時間はそうだったろう。

大地が沈むって事はデカイ亀裂が起きたという事だ。支えきれずに滑り落ちていくのだろう。奴等の狙いをまずは崩す!

今、俺が動けないという事を前向きに考え、力を蓄える。



シットリは窮地の中で冷静かつ身体の力を抜き、粘液を噴出していた。それは海に沈み見えていなかった足から出されていたものであった。前半、マジカニートゥとの戦いの最中、この誘ったような島全体が罠の可能性があると察知し、大地の様子を探っていたのが幸いだった。

この場所を調べていたことで大まかな亀裂の箇所とその規模が分かっていた。

地下へと染み込みつつ、スポンジほどの小さな隙間を繋ぎとめながら、到着に至る。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ



「!!え」

「な、なに……」



破壊だけの事が強さに限らず。強さは時として、直す事も言う



ガシィッ



「あ、足がついちゃった……」


海を泳いでいたマジカニートゥが気付く。物理的に足がつき、浮上してくる。


「だ、大地を持ち上げやがったーーー!!」

「えええええぇぇっ!!?」


海に沈める計画だったのに、これを隠していたシットリの奥の手。島全体ではないが、マジカニートゥとハートンサイクルがいる範囲ぐらいの地形を、ほとんど元通りにしようとしてきた。

そして、それが可能と分かるや否や。



「おおおおぉぉぉっぉっ!!」


シットリが再び猛り、マジカニートゥではなく、ハートンサイクルを狙った!まだ沈まないとなれば、沈める可能性が高いハートンサイクルから消す。

そんなハートンサイクルは空中から


魚座シーステルス


大量の爆弾を投下した。シットリではなく、この持ち上げた大地を壊すため。シットリのこれには驚いたがあくまで一時的に過ぎない。自分が真っ当に戦える場所を確保しただけ。一対一じゃ、あのシットリを相手に勝てない。地の利を活かす。



ドゴオオオォォッ



「っ!」



粘液をくっつけ、ルルを海に沈めれば俺が勝つ!ここで勝つ!!


「来なさい!!」


勝負はいつも、一撃と一撃のぶつかり合いで決まるものではない。今のハートンサイクルは時間を稼ぐこと。シットリの粘液に捕まり、海に落とされないこと。

もうすぐ、来るのだ。レゼンの言った、"本当の3分"は、



ブシャアアアァァァ



鯨の潮吹きの如く、空を飛ぶハートンサイクルへ高々と上がった粘液。しかし、それでも届かないところにハートンサイクルはいた。彼女を見上げ、嫉妬の顔を作り上げるシットリ。

島が爆弾で再び崩れ始めようとした、その時。



ガヂイイィィッ



「"満月を探した"」



マジカニートゥの次の本気になれる1時間がやってきた。レゼンの言っていた、"3分"はこちらの事だった。

場の理解も、出したい本気も固まり、範囲だってシットリが分かりやすく島の形にもしてくれた。

完成まで早く、そして何よりも強力に空間内に強いられた。

空間の天辺てっぺんに満月が現れた瞬間。



ドゴオオオオオォォォォォォォォッ




「うぼおおおおぉぉぉぉっ!!?」


じゅ、重力ぅぅ!?なんだ、この重さはっ……!まずい、沈む!!海に沈まされるぅっ……マジカニートゥの能力が、再発動したのかっ!!


「ぐおおおおぉぉぉぉっ!!」


シットリの身体に掛かる痛みはもちろん、継ぎ接ぎと言っていい形で作られた大地にも影響は大きく、マジカニートゥもハートンサイクルも倒せないまま、海に沈むことだろう。

早く沈め。早く終われ。

そんな想いで様子を見ているマジカニートゥとハートンサイクル。もうない。こんな瀕死がここまで粘ってくるのが、これほど怖いなんて……。


「ぐうぅっ」


負けちゃいけねぇ。

俺が負けたら、……俺が負けることは……まだ。



「え?」


この空間は決して大きくはなく、侵入や脱出もまた簡単……むしろ、素通りできるほど軽いものだ。とにかく、空間内の重力が桁外れなのだ。マジカニートゥも色々と驚いてしまった。

そんな場所にわざわざ入っていく者。誰であろうと、その重力を受けて苦しむはずなのに……


「調子はどうだ、シットリ?」

「!」

「俺はこれくらいの条件でも本気でいけるし、お前を相手に短く済みそうとも思ってる」

「…………」

「俺を待ち続ける人もいる。お前の調子は?」


剣を抜き。その命をちゃんとした形で終わらせようと、してあげていた。

東京駅から脱出し、様子を探りながらこの場にやってきたのは、ヒイロだった。

その存在にシットリは。


「ヒイロ……俺は……問題ない」

「……………」


起き上がる事すら困難だったシットリ。もう身体も精神も限界を超えていたはずだが、この奇跡的な存在を前に



「絶好調だああぁぁっ!!全力で殺しに来い!!ヒイロおおおぉぉっ!!」



完全な状態となって、ヒイロに襲い掛かった。



◇      ◇



分かる気がする。

そして、まだ分かっていない事はそこに自分がいないって事だ。



【俺なんかを助けなければ良かったって、後悔するよ】

【誰かのせいで後悔を言うなんて、俺はしないさ】



弱いことを悔しさと教えられた。

そして、強いことは……奴の言葉とは違っていた。だから、もっと強くならなきゃいけねぇ。あいつの姿は勝利や成功じゃないんだよ。

誰かのために罪まで背負い、護ろうとするお前はどうしてそこまでできる。どうして、お前を怨む俺を助けられる。


【ヒイロ。お前がムカつく】


クソが。クソが。クソがっ!!

貴様のように生まれたかった。貴様のように強くなりたかった。貴様のような生き方。俺は何もお前のようになれなかった。悔しく思うことは弱さじゃねぇかっ!俺はお前を超えられない!

そのいつかを、お前がいつか。



俺のどん底を知っているお前なら!!

きっと!

俺の殺し方を知っているだろう!?

後悔するだろ!

お前ですら。俺をこーして卑怯に、剣をっ……!



俺はっ。そーじゃなきゃ死なねぇ。絶対にそうしなきゃ、ヒイロに……。



そーいう妖精になるんだ。ヒイロを苦しめて、そーやって……。

俺を殺すことを後悔させてやる。

そして、ありがとう。



◇      ◇



ありたっけの今ある力でシットリは、ヒイロへ突進した。

粘液で纏った身体、地震を引き起こすためのパワーを放つため。

一方でヒイロも剣に力を込め、この重力場を物ともせずに向かっていき。


両者は激しく交錯した……。




ドバアアァァァッッ



「……………」



シットリの首がヒイロの剣で吹っ飛んだ。だが、マジカニートゥの重力空間によりすぐに地面に落ち、海水に浸る。

ヒイロは剣を握り締めながら


「多勢に、罠、不意打ち、奇襲、さらに瀕死のお前との対決……。シットリ、お前は強くなり過ぎだ」


表情はどこか晴れない。本人としては、別の形でやっていたなら……。白岩と契約を結んでいなければ、単独でシットリには勝てなかっただろうと理解できた。

白岩と共に、シットリとの勝負をする。

そーいう事をヒイロは頭の中に描いていたと思うが、シットリの想いは違っていた。

おそらく、ヒイロこそが最強だとシットリは思っていて。その最強が、こーいう卑劣な勝利をもぎ取る。後悔させるような勝利をさせる。生きたまま……。

もう言葉も喋れないが、表情がやけに満足そうなシットリ。その彼を後悔させるようにヒイロは、シットリの心残りを見抜いていた。

シットリもまた、もう少し先にこの決着にしたかっただろうに。


「……お前だったら、ルミルミ義姉ねえさんの暴走を止められた」

「!」

「俺やサザン様じゃできない事を、お前ならできたはずだ」


SAF協会の勢力と運営は間違いなく、シットリの貢献が大きい。因心界の影からキャスティーノ団やエンジェルデービズといった、犯罪組織を運営していたヒイロも凄いものであるが、シットリの手腕もまた凄い。特に言えば、因心界をここまで追い込んでいるのは他の組織にでもできなかった事だ。

もし、シットリがルミルミの誘いに熟孝でもしてくれたら……。世界はまだ、安心できたものだろう。でも、すぐに


「俺を後悔させるためだけに……か?」


シットリがルミルミと共に行動したのは、ヒイロへの恨みのため。

それと同じくらい。むしろ、それ以上に。


「ルミルミ義姉ねえさんも、世界も、俺は護るからな」


ヒイロという存在は凄いのだ。こいつならやってくれると、信じているシットリがどこかいる。それだけ自分が妬んだ存在。



「……………」



シットリは安らかに両眼を閉じた。

後は頼んだと…………。



人工島大決戦編、決着!!


シットリ、ダイソン、アイーガ。3名の妖精が死亡!!


SAF協会の敗北。

そして、因心界の勝利で幕を閉じた!


だが、彼等との戦いでできた傷は残り。新たな存在がやってくるというものだ。

そして、そいつはシットリの死から2分後にやってきた。

強烈かつ最大の元凶であった。



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