Bパート
ダンッ
「……ふんっ」
ヒュアンッ
ナックルカシーは妖人化を解き、元の録路空梧に戻った。
空の様子が雪雲が消えて、元通りになったからだ。向こうも戦闘の意識を断ったということだ。
その彼を心配そうに、マルカは声をかける。
「…………」
『ごめん。あたしが強くないから』
「お前の力があったくらいで、あの女との差が覆るとは思ってねぇーよ。マルカ。戦力を探っただけだ」
『…………録路』
「うじうじしてんな。一度、二度、例え。何千回と敗北してでも。俺達は生きてんだ」
『でも、危ないことは良くないよ!録路はこんなこと』
「黙ってろ!!俺は、……引き返すことはねぇ……。戦い続ける」
その意味は?
「生きてる限り、何度でも戦ってやるんだ。相手がなくなりゃ作るまでだ」
手に入れたパワーを誇示する事。それは少年が持つ純粋で幼い意識であった。
そんな心の張りは他人だったら勘付く。しかし、パートナーであれば違う気持ちを察する。
『あなたは、あたしのために』
「何を深く考えてる。……ま、ちっと。因心界も良い動きをしてやがる。仕方ねぇが"萬"の連中を咬ませる。部下共の時間稼ぎと、俺の目的はひとまず、佐鯨とのタイマンだしな」
◇ ◇
「はぁー、逃げられちゃった」
こちらも粉雪が妖人化を解いて、車に戻ってくる。
「ちょっと、粉雪!まだジャネモンが残ってるわよ!」
「ん?」
乗り込もうとするところ、野花に止められる。録路との激戦で忘れられているが、粉雪との直接対決を避けるように隣町に移動。周囲に攻撃を開始しながらのことだった。
「うー……すっごく、気分悪い臭いがします。魅入っていて、気付くの遅かったです」
「ジャネモンの能力だろうな」
ひとまず。因心界最強の実力を見る事ができた2人。敵を逃すも、その強さは本物だった。
「んー……野花がやれば?」
「え?」
「あたしはさっき戦ったしー。次は野花がやればいいじゃない」
「ちょっと止めてくれない?あたしは嫌よ」
そういえば、強さでは差があるものの。同じ幹部という格である。野花は何もしないどころか、戦うという気持ちをあまり出さない。かなりの拒絶を示していた。
「あなたは因心界のシンボル。ヒーローなのだから、ジャネモンを退治するに相応しいじゃない」
「こーいう時は凄くおだてるんだ」
「あたしは人前で戦いたくないの!!本当の緊急時にしか戦わないから!!知ってるでしょ!」
「知ってて言ってるんだけど……?」
「やらせないでよ!!あなたとあたしは友達じゃん!!友達、戦地に行かせる友達がいる!?あなたが行って!!」
「自分で言ってて矛盾してない?」
一体どうして戦わないのか、良くは分からない。まぁ、女性にしろ男性にしろ。争い事は好まない人というのもいるものだ。
「表原ちゃんはどう?」
「ええっ!?あたし、車椅子ですよ!怪我人は大人しくさせてください!!」
「レゼンくん。妖人化すれば、戦える状態にはできるでしょ?」
「!!」
野花が戦わない理由は知らないが。
なるほど、今度はこっちの番かと。
「本人がまだ、戦うのは無理だと言っている」
「そうですそうです!!」
この時、レゼンがす~ごく。優しいと、常識的で良識的な言葉を言えるんだなって。感激しながら首を縦に振る。こんな状態で化け物と戦えって、頭がおかしい人達に囲まれている。野花さんも、なんで戦わないと訴えたい!
「しかし、妖人化させて様子を見るのは賛成だな。戦えたら、戦おう」
「えええええええぇぇっ!!?」
ボォォンッ
「さぁ、やるぞ!表原麻縫!!」
「ちょっとーー!!心の準備ができてないっ!!」
レゼンは巨大なドライバーへと変化し、車椅子に座る表原の頭上めがけて突き刺し、
グイイイィィィィィッッ
「ああああああぁぁぁぁぁ」
超高速回転が行なわれる。
「……ちょっと気の毒だった」
「目、回らないの?」
2人だって、表原のことを言えるような妖人化ではないのだが、物理的なダメージが酷そうな変身だと見ている。
変身の衝撃で車椅子は吹っ飛び、大破。座っていた体勢だが、レゼンが変身させやすいように自然に立たせる感じに持ち上げている。そして、回転は止まり。一瞬だが表原はしっかりと立った。
「おぇっ」
あまりの回転に酔い、地面に転がって。
「おえええぇっ」
吐く。人の目など気にせず、この体の意志に従ってやる。
怪我によるものではなく、明らかに変身による副作用である。だが、それでめげずに。
「あ、『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!!』……おええええっ」
意味を叫び、能力の解放も果たす。中にあったものも、全部出す。
「おえっ、おえっ!ちょっ……超気持ち悪い……」
「なんだ?どこか痛むのか?」
「お前のせいだろうが!!どんだけ他人事なんだ!?この野郎!!」
メッチャクチャ気持ち悪いが、この原因を作ってる奴には強気になっちまう。
泣いても泣いても。この時、意味がないのをどこかでもう知っているようだ。
「戦える?」
「そーいう事も言わないでください!イジメですか!?」
「あなたが好きに考えなさい」
ひとまず、妖人化は成功したようだ。
気分が多少落ち着いて、マジカニートゥはすっと立ち上がっていた。
「!」
人間状態では起き上がるのも一苦労であり、歩行となると松葉杖が必須であった。
だが、妖人化するとそれらの不便はなくなり、人間以上の身体能力を持っていた。
マジカニートゥは考える。おだてはしないが、野花は心配そうに
「隣町、危ないわね」
ジャネモンの侵略は行なわれようとしていた。
この状況は冷静に考える事よりも、情熱的に考えた方が早いのだろう。
「レゼン。妖人化して戦わないとダメなんでしょ。寿命が来るんでしょ?」
「ああ。その通りだ」
ムッとした表情であった。
人は避けようのない危機と出会った時、これまでの過去及び遺伝子が決まった反応をするという。
おそらく、こんな似たような状況。レゼンと出会わなければ、マジカニートゥはその反応に従っただろう。
だが、今。その反応に抗った。全てにおいてそれが正解とは言わないのだが……。
「粉雪さん!あなた、ズルイです!!」
「ずるい?」
「あたしは病室で寝たい。病室で漫画やゲーム、ネットをしてたい、楽をしたい。そー、助けて欲しいと、叫びたい人がこの目の前にいるのに……」
「ふっ」
「あなたはあたし達を助けないんですね!!」
守るべきモノがあるとすれば
「大切なモノを護りたい。そんな人を、この網本粉雪は護りたいの」
「それが"まだない"あたしは……」
「護る価値なし。今はね」
けど、それを育もうと。
手荒で野生の猛獣感ある1つの愛の印。
「行こう!レゼン!!ついて来なさい!」
「おおっ!!」
自分の望みがある。そいつをぶちまける、ちっぽけで幸せな、ただただ1つの行い。
ならばそいつに辿り着くのなら、うじうじと、ずっとはしていられない。
誰も助けに来てくれない。そんな孤独感があるが、1つに。誰も誰かを好き好んで助けなどしないのだ。ただ、誰かが誰かを助けたいという意志を抱かせるのに、たった1つの命の行動が不可欠であった。
マジカニートゥは、戦いを決意したのだ。
「鬼だね、粉雪」
「あたしからすると、野花が戦わないのが悪いと思うんだけど?」
「……私を鬼扱いしないで」
『粉雪ちゃん、勘違いは良くないよ。まだ野花は』
「黙っていなさい、セーシ。私は絶対に戦わないから。粉雪が助けなさいよ」
「……セーシが何言ったのか分からないけど、そのつもり。今の彼女は、ちょっと助けてあげたいわ」
◇ ◇
ドドドドドドド
そして、場面はマジカニートゥとレゼンの方へ流れる。
猛烈なスピードでダッシュをし、隣町に入って暴れようとするジャネモンに迫る。マジカニートゥは走ると同時に、目一杯叫ぶ。
「あんな化け物に反抗したらぶっ殺されるよーーーーー!!病室じゃなくて、墓場に送られるーー!!」
振り返ればそーいう気持ちがあっての、戦闘決意でもあった。
録路空梧という男が組織のトップであり、その隣で暴れていた化け物はただの召喚獣。そいつ等が2人纏めて戦っても、勝てそうもない相手があの網本粉雪なのだ。
無論、粉雪にそんな無意味な殺意などない。勝手にマジカニートゥこと、表原麻縫が恐怖を煽られて、妄想している事である。
「絶対倒してやる!!絶対倒して、スマホをやる!!寝る!食べる!!っていうか、お腹減った!吐きすぎ!!」
「………やれやれ、ちょっとは前向きになったかと思えば……」
「生きてあげるよっ!畜生!!今、あたしは物凄く!生きていく事を知ったよ!!レゼン!」
まだ多くが恐怖によって支えられているが、無意識だった己にある生きたい執着を知った。
熱く。さらに熱くなってくる。
『この街が俺達のゴミを引き取れーーー!』
「そうよ。ジャネモン!やっちまいなさい!!……でも、ちょっと臭い抑えてくれない?マスクしてても臭うんだけど」
ぷ~~~~~ん
強烈な臭いもそうであるが、存在も目に捉える。ジャネモンとその使い手も。
「ううっ……」
「気分が………」
「目と鼻が痛いよぉー」
道端で倒れている、哀れな市民達。そこに駆けつける妖人。ヒーローは……
「さっさと死になさーーい!」
ドゴオオォォッ
『じゃねも~~~』
やった事も無いドロップキックを見事にジャネモンに命中させ、ぶっ飛ばしての1ダウンを奪う!
「よ、妖人!!因心界の者か!……でも、粉雪じゃないなら!立ちなさい!ジャネモン!あの小娘、やりなさい!!」
キャスティーノ団、構成員の権田飴子。高校一年生の女子である。まぁ、どーでもいい情報だった。ジャネモンは彼女の指示によって、立ち上がろうとするが。
「あああぁぁっ!!」
コマンド入力を失敗したかのように、マジカニートゥはただただ猛然とダッシュ。さっきのドロップキックもどーやったか分かっておらず、その意識すらなく。単純な悪質タックル。
ドゴオオォォッ
「た、倒れた相手にタックルを!!なんて悪質な奴!!」
飴子もビックリするマジカニートゥの攻撃。だが、我を忘れている感がある。
「よく分からないけど!!」
小さい車。もとい、ミニバイクってところか。
それが時速70キロ以上で怪物にぶつかる事を続けている。相手が幸いにも柔らかいからこそ、マジカニートゥへの衝撃も少なく、ダメージを与えているのだが。
「と、止まれ!マジカニートゥ!!」
「!?」
「体当たりだけじゃ、あのジャネモンは倒せねぇ!」
「でも、それしか!」
「お前!自分の力を忘れたか!?冷静になれ!相手の弱点を突くことが、戦うコツの1つだ!!」
レゼンがストッパーとなり、ようやくマジカニートゥは止まる。そして、言われた通り。ジャネモンは吹っ飛びこそするが。
『じゃね~~。ゴミにタックルする気力あるなら!分別ちゃんとしろーー!!』
まだまだ元気である。相手のジャネモンはゴミ袋にゴミが詰まったデブ姿ゆえ、ふくよかな衝撃吸収を持っているのだろう。打撃系はあまり良いとは思えない。
それに加えて街中を襲う、ジャネモンから発せられる異臭。
突如、マジカニートゥの膝が地面につく。
「うっ……」
恐怖と混乱が混ざっていた事。妖人になっていたところも含めて、効き目が遅かったが。確実にもらっていた。
「な、なにこれ……」
「異臭から発せられる毒だろうな。どうやら俺達、妖精には効きづらいみたいだが」
「ずるくない、レゼン。ちょっと……」
「いや、効かないんだから。気持ちわかんねぇよ!!」
「毒にかかれ、毒にかかれ、毒にかかれ」
「おい!仲間を道連れにする奴がいるかーーー!やらないなら逃げるぞ、俺!!」
耐性というものもあるだろう。ともかく、レゼンもこの毒は自分にも降りかかると想定している。
マジカニートゥは直接攻撃を3度叩きこんでいるため、この毒をモロに浴びているとも言える。動けなくなったらヤバイ。距離をとるにしても、あの異臭はかなりの広範囲に散布できそうだ。
「マジカニートゥ!お前の力で打開するんだ!本気で想像しろ!!この異臭と毒を取り除く、アイテムをイメージしろ!」
「!!」
マジカニートゥの能力。それは相手に応じて有利に立ち回れる能力を持てるという利点がある。
本気というトリガー、創造するという意志、それに応え生み出される武器。
「お前ならできる!」
掃除機だろ!掃除機だろ!相手はゴミのジャネモン。ゴミをぶっ潰すといったら、掃除機をイメージしろ!マジカニートゥ!やればできる子だ!!こんな分かりやすい相手なら余裕で勝てるアイテムを作れる!
レゼンの期待。それは一般的という天才ぶりを1ランクダウンした位置からの予想。しかし、マジカニートゥの生み出したのは
「はぁぁっ!!これよ!!」
ボンッ
現れたアイテムは、なんと4つ……で、1つ扱いのアイテム。箱上の詰め物に、それを立たせている妙な形をした台。人が手にとれる程度の大きさのアイテム。
「あわわわ」
マジカニートゥは無様に1個しかキャッチできず、
「なんだこりゃ!?」
レゼンも想定していない奇妙なアイテムで、とりあえず。1個だけキャッチ。残り2つは2人の足元に転がったのであった。このアイテムに名前をつけるとしたら、
「"一軒に4個の清涼剤"」
「いや、なんだよこれ。おい、説明しろ。カッコイイアイテム名を付ける前に、なんだこれは?」
「……これ、部屋に置くタイプの清涼剤だと思うよ。あたしの部屋に1つ置いてあるもの。でも、能力ってあたしもレゼンも使ってみないと分からないんでしょ?」
「それもそうだな。ははははは」
少し笑ってあげるが。キレながら本音を述べる。
「ふざけてんのか、テメェ!?なんでこんな簡単な事も創造できねぇんだよ!!」
「ええええぇっ!?なになに!?」
「相手!ゴミ袋がジャネモンになってんだぞ!ここは掃除機か!あるいは焼却炉、ゴミ集取車、清浄機だろ!!お前っ!なんだこのアイテム!?どー戦うつもりなんだよ!!」
「うーん、分かんないや。投げつける用途でもなさそうだし」
「そーいう使い方を訊いてんじゃねぇんだよ!!ちゃんと、敵をぶっ殺すアイテムを!!創造しろって言ってんだよ!なに真面目にこのアイテムで戦う気なんだよ!!」
レゼンは考える。
見た目。完全に空間に作用する、サポート系の能力。
粉雪や録路のように優れた格闘能力と身体能力を持っていれば、わりと良い能力なのかもしれないが。あいにく、今のマジカニートゥにそれはない。
これは相手を倒す能力ではなく、周囲を回復させるタイプと言えよう。誰かと協力する事で活かせるアイテム。この時に選択するものではない。
「あれ?毒にやられた感じがなくなってる!」
「だからって、現状変わってねぇぞ!」
まぁ、あのジャネモンの異臭は住民達に被害を及ぼす。
「落ちたアイテムを住民達の元へ渡すんだ!助けられるはずだぜ!!」
「そうだね!よーし!まずはそれから」
マジカニートゥは落ちたアイテムの1つを拾う……
「……え?」
「……は?」
拾う。……拾う、わけだが……
「あの拾えないんだけど?地面にくっついているみたい……」
「ふざけんなぁぁっ!!すでにもう半分、地面に落としてんぞ!持ち運べないとか、馬鹿性能入れてんじゃねぇーー!!」
「そ、それすらランダムなんでしょ!!レゼンの能力が悪いじゃない!」
「うるせー!お前が弱いから、全然能力が使えてねぇーんだよ!制約が入ってんだよ!」
「なによーー!?あたしのせいだっていうのーー!?」
妖精と言い争いを始める姿を見て、敵である飴子は唖然としている。
「なによあれ」
完全に隙だらけ。どんな妖人かは知らないが、
「やっちまいなさい!!ジャネモン!まず1人!!」
『じゃねーーー!ゴミの不当投棄はこれほど、迷惑だーーー!!』
ゴミ袋ジャネモンから放たれるのは、捨てられた大型冷蔵庫と大型テレビ。先ほどのマジカニートゥを真似たかのような速度で、放たれるゴミ砲弾はマジカニートゥとレゼンに向かっていた。
それに気づく事なく言い争っていたら。
ドゴオオォッ
「うぎゃああぁっ!痛いよぉっ!」
「テメェが話してるからだよ!」
テレビの角が後頭部に直撃。冷蔵庫は側頭部を凪ぐようにぶつかり、マジカニートゥは倒れる。
呻きながら、呪いを呟くように。敵ではなく、味方に対して。
「お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ」
「俺なわけねぇだろ!避けるくらいしろ!相手は直線的にしか飛ばせねぇだろが!!」
んなことより!もう俺だけでいい!
このアイテム使って、どーやってジャネモンを倒すかを考えた方がいい。
『好きにゴミ出してんじゃねぇーー!』
ジャネモンは動き出す。戦意がねじれたマジカニートゥはまったく役に立たん。妖人と妖精が別れて行動することができると、利点に思えばいい。最大限のサポートが、最大の武器かもしれない。
マジカニートゥは
「テメェは囮だ!」
レゼンはその小さい体で、ジャネモンに狙われないようマジカニートゥから離れつつ接近を試みる。妖精であるため、物理的な耐久面は乏しい。マジカニートゥが壁になっている間に、敵に攻撃を叩き込む算段の準備。
「やろぉ」
先ほどゴミ砲弾攻撃の最中。本体のゴミ袋を破って、発射していた。奴の体内に侵入できるチャンス。そこにこのアイテムを置く。それで倒せるはず。問題はどーやって!その隙を突くか。あいつ!壁機能ちゃんとしろ!
「ううっ……」
マジカニートゥは肉体的な痛みと精神的な痛みが合わさって、立ち上がれなかった。
戦士の始まりに関わらず、何かを始めるだけでも戸惑いというものがあり、未知数という言葉が大きく行動を制御させる。迫り来るジャネモンに、マジカニートゥは何かをするか。
動くきっかけは……
『なんだこのゴミ、動けるのか。道に倒れてゴミのマネをすんじゃねぇよ!』
「!」
褒められる事でも、希望でもなかった。
そーいうものもある。
『お前みたいなゴミは捨てられた方がいいんだ!』
楽しさなんかない。ただそれを受け入れるというには、まだまだ早くて、拒みたい事だった。
相手がなんだ。関係ないこと。自分はゴミだと、認められる事に。
腹が立ったって事は
「あたしばっか、馬鹿にしないで!!」
単純な言葉遊びではあるが、大きな声で噛まずに良く言えたものだ。暗く、落ち込み、呪っていた彼女の目に光が入った。啖呵を切った本心は
「あんたなんかっ……おえええっ、えほっ」
リアルに吐いてどうする……。
カッコつかないヒーローとしての素質がハンパではない。マジカニートゥ。
でもね。
「ゲロを吐くほど気持ち悪いくせに!!そんな、そんな……」
彼女は必死にやっているのだ。
笑われようが、今。この自分とこの街を救える。ただ1人の自分という者。思う気持ちが1つ。
「そんな奴等に、あたし達は哂われたくない!!」
覚悟をぶつける。ただ、相手の拳を嫌うように後方へ避ける。動きに躍動感があり、彼女は分からずともその戦闘の特徴は。
「気分屋で超不安定」
一度の戦闘で、その戦意は浮き沈み激しい。敵の罵声に反応し、取り戻した戦意は相手にとっては誤算と同時に甘いことだった。
まだ希望が右手に。そして、相棒の妖精。レゼンが1つ所持している。
「レゼン!こいつを倒したい!!」
たった一人じゃない。
それは自分が言われた事じゃなく、みんなに伝えられたことだと想ってのこと。
レゼンもマジカニートゥに合わせるよう、彼女を囮ではなく。相方として、隣に並ぶ。
「よく言ったよ。じゃあ、やってやろうじゃねぇか」
「うん!!」
褒められた事を意識できないくらい、自分の戦意が湧いてくる。
アイテムの効果じゃない。表原麻縫という人間にある、意志がこれを選んでいるのだって、レゼンには分かった。
この気持ちは、成功させなきゃって。相方だろうと友達だろうと、想い合えることだ。
「マジカニートゥ、よく聞け」
「なに!」
「あのジャネモンはお前と距離をとると、砲弾攻撃を始める。そいつはあの柔らかいが故に破り辛い袋のバリアを通り抜けられる機会だ。そのわずかな隙に、このアイテムをジャネモンの体内にぶち込む」
「もっと可愛い浄化はないの!?魔法のステッキや呪文でさ!」
「ねぇーよ!馬鹿野郎!とにかく、お前が距離をとらないとその攻撃はしてこない。その攻撃をしている間に俺が奴の体内に、この……置き型の清涼剤を入れる。この作戦だ」
絶対に決める。
失敗者に必要な小さな成功の積み重ね。その一歩目は慎重に成さなければいけない。周囲の人達が鍵となること。当の本人は、深くは考えていない。
"やる"という成功は、もうしているぜ。
ドゴオオォォッ
『ゴミの分際でちょこまか動くなー!風で舞うなー!ガムの袋を路上に捨てるなー!』
ジャネモンが砲弾攻撃をするのに、若干のタイムラグがある。
砲弾攻撃をしている間。ジャネモンに近接攻撃がないのも、レゼンは察している。
「よし!!」
レゼンは敵の動きを見逃さない。動く。このタイミングで、マジカニートゥが4,5回。この砲弾攻撃を避け続ければその隙に奴の体内にぶち込める。だが、
ガシッ
「このタイミングだね!」
「……え?」
マジカニートゥはあろうことか、レゼンを捕まえたのだ。何をするのか、馬鹿の考えは分からなかった。
『山中に車捨ててんじゃねぇ!!』
ゴミ袋の中から放たれるのは、なんと車だ!今度はもっとヤバイ。しかし、レゼンにとってはマジカニートゥの意味不明な行動の方が、ヤバく感じている。
天然なダメ人間なんだろうな。
「行くよ!レゼン!あたし達の力!!」
「おい!何する気だ!?」
マジカニートゥの右手に力が込められる。レゼンは2つ、"一軒に4個の清涼剤"を抱えている状況。振り被り、足が前に進んで。
「いけぇぇっ!!」
たった一人だけが熱くなるって事。あるある。あちらが砲弾ならば、こちらは投擲である。
力一杯で放たれる車よりも、速く、強く。自分の命を護るため
「俺の命は護ってねぇだろ!!」
あ、そうかもね。でも、この技で決着をつける!
「ミラクルゴーシュート!!」
「そんな技はねぇっ!!」
ドヒューーーーーンッ
レゼンを敵の砲弾発射口めがけて、投じるマジカニートゥ。本気でやる奴がいるか!?
『!!』
「ひっ」
直線的に向かっていくのだから、時速70キロの車との衝突は必定。レゼンの投げられた速度はその倍以上だ。
ドゴオオォォッ
真正面から車とぶつかっただけではなく、車を半分にぶち壊し。なおも直進するレゼンの勢い。
「ぐほぉっ」
あいつ、ぶっ殺す。
そう願う相手にダメージを与えるわけではなかった。ただこの捨て身で、命を散らせたくなかった。奴の成功など、もうどーでも良くなったが、任務は遂行させる。
ドボオォォッ
『じゃね!?』
見事に砲弾発射口からレゼンが侵入し、"一軒に4個の清涼剤"が発動し、ジャネモンの体内にあるゴミというゴミが浄化されていく。これにより、生命源が断たれていくのだ。
『じゃね~~~~』
苦しみ、苦しみ。
感覚が徐々に奪われていくという優しさあるやられ方に対し、
「いてぇっ!?いてぇっ!!臭っ……がはぁっ!!覚えていろ、マジカニートゥ!!テメェは地獄のリハビリ刑に処す!!必ずだぁぁっ!!」
悪役のような叫び声が体内からする。
ジャネモンが完全に浄化されるまで、その中で苦しんでいるボロボロなレゼンは死んでたまるかと叫び続けるのであった。またあとで、マジカニートゥはレゼンには悪い事しちゃったって、思ったのであった。
「くっ!新米の妖人に倒されるなんて、情けないジャネモンね!まぁ、いいわ!また機会はあるもの!」
ジャネモンを生み出した飴子は逃亡。
キャスティーノ団のアジトに戻るのであった。
次回予告
レゼン:表原アホウの奴、ぜってー許さねぇー!俺も怪我したじゃねぇか!
表原:きゃー!そんな事より、カッコいい人がお見舞いに来ましたよ!太田ヒイロさん!優しくて、勉強も教えてくれて、強い!こんな妖精よりもずっと良い人ですよ!!
レゼン:なんだとこの野郎!!
表原:戦闘だって堅実で華麗!こんなにも理想を分かっている人から少しは学びなさいよ、レゼン!
レゼン:それはお前も同じだろうが、ダメ人間が
表原:それでは次回!
レゼン:『太田ヒイロのバトル!それと、ルルちゃんは灰皿に転職されそうです!』




