Dパート
シットリが人工島の中でマジカニートゥと。アイーガは高速道路の端でドクターゼットと。
各々、戦闘が始まり。早期に決着をつけたいと願っているのは
「こりねぇ奴だな」
「汚い豚は下で、ぶひぶひ言ってろ」
ナックルカシー(録路+マルカ)VSナチュラルズーン(黛+ダイソン)。
島の上での戦い。
箒で自由に飛べるナチュラルズーンと違い、ナックルカシーは自分の菓子を作る力で、足場を積み上げて彼女と戦えるようにする状態。
前回、圧倒したナックルカシーではあったが。ナチュラルズーンがムキになったり、経験が浅いことで間合いの大切さを意識していなかった。
ズバアアァッッ
『あーー!またチョコレートが消されるーー!』
「いちいち反応するな、マルカ」
ナックルカシーが基本、接近を好んでいるのなら。こっちは卑怯だろうがなんだろうが
「空中で消失領域を展開しまくって、消してあげるわ!」
単純に強い戦法だ。自由な行動範囲を活かし、圧倒的な破壊力と射程距離と範囲……。ナチュラルズーンの特性を活かした戦い方。
『力の消費は激しいぞ。ナチュラルズーン』
「分かってるけど、あたしは勝ちたいの!!」
『やれやれ。ナックルカシーの回復力を考えたら、どこかで休みは挟むんだぞ』
出力的にはナチュラルズーンの方が多い。ナックルカシーの場合、接近に強くて、回復もできる。長期戦になればナチュラルズーンが結果として負けるのは分かってる。が、
「橋は落として豚共を閉じ込めたんだから、島から離れたところに着陸すればいいでしょ!」
『そうだがな(ナックルカシーは菓子で足場を作れるから、追ってくる可能性があるぞ……とは言えないな)』
自分の考えた最強戦術的な事をやっているが、……悪くはないナチュラルズーンの選択。考えちゃいないが、ナックルカシーは早急に彼女を倒したい事を考えたら、こーいうやり方はちょっとしんどい。
「あの野郎。絶対に地上に降りてくる気がないな」
『野郎じゃなくて、女の子だけどね』
もうここに上陸したであろうシットリの事など関係なく、ナチュラルズーンは消失させる領域を空から放ってくる。それを喰らうナックルカシーではない。あえてそれを、シットリにぶつけようとしたいところだが。
シットリの粘液で自分の動きが封じられたら、たちまちピンチになる。彼としても、シットリからは距離をとりたかった。
ナックルカシーがナチュラルズーンと戦う場所を選んだのは、この人工島の公園側。
遮蔽物があまりなく、しっかりと空を飛んでいるナチュラルズーンを把握できるからだ。常に見上げる必要があるため、
「首が疲れる奴だ」
届かない高さにいるわけではない。しかし、ナチュラルズーンの戦い方が一方的な事を好む感じに(長期戦なら勝てるのは録路も分かっている)。迎え撃とうなどという考えはない。
『菓子を積み上げれば届くはずだよ!』
「アホか、マルカ。届いてもあいつはすぐに逃げるから、捕まえられねぇ」
ナックルカシーが仕掛けずに、ナチュラルズーンの攻撃を避けたり、あるいは受けたりしている。見た目からしては一方的に見えるが、決定打にはなっていない。
「あははははははは!豚が、豚が、豚があああぁぁぁっ!!」
上空から消してやればいいと、思うだけでの戦い方。黛のキチガイな一面を感じつつ、彼女の才能もまた……。急成長も含め、とてつもないものとダイソンは理解した。
バシュウウゥゥッ
「ちっ」
ナックルカシーに再生能力があろうと、ナチュラルズーンの攻撃は地形すらも消し去ってしまう。公園の近くは東京湾にも近く、海水が流れ込んでくる。
「菓子で補強しても、これじゃあふやける」
究極を言えば、ナックルカシーに回復があろうと。
「この島ごと消してやれば、全員死ぬでしょ!」
過信&過信。ナチュラルズーンの一方的な戦いには、一方的な勝ち方というのを頭に刻み、それを実行させていた。
改めて、ダイソンという妖精の力を実感し、ナチュラルズーンは狂喜する。
「お前等なんか全員、消えろおぉっ!!」
消失空間をどんどん飛ばし、ナックルカシーを公園から追い出し、わずかにある市街地の方へ走らせる。逃げるナックルカシーを見て、追跡するナチュラルズーン。
「はーっ、はーっ」
攻撃後に移動する。単純な事でも疲労を本人自身、感じ取るも。この力に呑まれ、溺れ、ナックルカシーを消し去る事しか頭にない。
ナックルカシーが再び、地形の安全を確保に成功した時。ナチュラルズーンが追ってきて、その上すぐに攻撃を仕掛けてくるところも読めていた。
「隠れても全部消すから!あたしはねぇー!」
宙に浮きつつも、恨みあるナックルカシーを消すには相応の力を放出する。空中から攻撃してくるものの、攻撃時はその場でほとんど停止しているような状態。障害となるもの、防ぐものなどない状態。一方的な攻撃こそ、無防備を晒すという戦いの基本。
ドンッッ
一発のライフルの銃声がナチュラルズーンの腹部を捉えた!
「!っぶふぅ……」
『!?ま、黛!!』
どこからかなど分からない。だが、不意で強力な一撃と、蓄積していた疲労によって、予測不能な落下を始めるナチュラルズーン。
「意外とやるじゃねぇか。野花」
ナックルカシーがここにナチュラルズーンを誘い込んだのは、野花の狙撃を狙うため。相手の攻撃を単調にさせた上でのこの誘いは、見事な連携であった。
一発で仕留めたのは見事であり、連射しなかったのは自分の位置を特定させないため。ナックルカシーとは違い、消失空間が来たら防ぐことは無理だし、避けるのもしんどい。
「妖人化してる奴が、銃弾一発でくたばるとは思ってないわ」
ライフルのスコープから目を離し、落下するナチュラルズーンを目で追う野花。
『おおおぉぉっ!!黛いぃっ!!』
生きてこそいるが、意識を失ってしまっている。ダイソンは自分の力を振り絞り、再び浮上。落ちてしまったら、ナックルカシーの間合いになってしまう。どこからライフルが飛んできたのか、分からなかったが空中を保とうとする。
『すぐに避難を……』
この孤立した人工島から離れられればいいが、一度、急降下したことと。黛自身が意識を失ったことで相当厳しい。ダイソンはなんとかして、浮上後。
『高速道路のところにはアイーガか、その近くにいるシットリも……それどころではないか』
仲間の応援を頼もうとしたが、厳しい状況。仕方なく、公園の方を通って、その少し先にある工場側へと逃げ込む。6階建ての少し高いビルの屋上に不時着する、ナチュラルズーン達。
『はーっ、はーっ……』
しかし、ダイソンは黛が意識を取り戻さないと自由には動けない。ナックルカシーに狙撃をしてきた野花。2人に追われる形になる。
◇ ◇
マジカニートゥVSシットリ。
キッスとルルの手助けもあって、マジカニートゥの本気の空間は完成した。シットリは一連のやりとりから、自分を極力削ってから、キッスが出てくるという単純な作戦を想定した。
だとすると、マジカニートゥがどれだけやれるか。期待をしたいもの。
「あなたのための本気!」
マジカニートゥは、どーいう力が来るのか分かっていない。
「『BACK STREET GIRL』」
自分の体が光り始め、重量を感じ、変身した姿がさらに変身と……。余計じゃないかと思っていたら。
パキイィィッ
「ん?」
「えっ……」
マジカニートゥもレゼンも、……空気が冷たく感じるようになる。マジカニートゥにしては創造するとは思えない、代物が背に乗り。身に纏う鎧はかなり見覚えのあるデザイン。
「えー……っと……」
背に付けられた武器を取り出す。凄く大きいが、今の自分でも軽々持てる。
「剣だね」
「剣だな。……っていうか、このコスチューム……」
改めて、自分の格好を見直す。髪色とか顔までは完全に変わっていないが、
「ヒイロさんの格好だよね。これ……」
「ああ」
今、自分のことを見返しているところ。マジカニートゥとレゼンはゆっくりと恐れながら、シットリの方に目を向ける。彼にとって、ヒイロという存在はライバルである。何をやるか分からないとはいえ、自分の目標に化ける相手に冷静でいられるわけがない。
「……お前等は、よっぽど俺に殺されたいらしいな」
「…………ははは」
「いやー、……」
マジカニートゥはヒイロの姿になっても、一目散にシットリから背を向けて逃げ出す。
「うおおおおぉぉっ、なんなのよ!!この本気!!あたしの能力、メチャクチャ使いにくい!!」
そう愚痴るも、マジカニートゥの頭の上に乗っているレゼンは。
「お前、身体能力上がり過ぎだ!!速過ぎるーーー!!」
「あーーーっ、捕まってろボケぇ!」
本来のマジカニートゥよりもさらに強化された身体能力を感じ取る。怒りの表情を出したシットリは、自分の体から粘液をマジカニートゥに向けてぶっ放すもその逃げ足により、不発に終わる。そんな事に目をやれないマジカニートゥとレゼン。
「あたし、剣なんか振るえないんですけど!!」
「それがシットリを倒す本気なんだ!立ち向かえ!」
「立ち向かえるか!!むしろ、あちらさんが激怒してるんですけど!!」
おそらく、自分への注意をより惹きつけるという目的が空間に作用してしまったとレゼンは思っている。っていうか、
「!俺の姿もなんか……むずむずと」
「え」
マジカニートゥの変身が完了すると、今度はレゼンの格好も変化していって
ボーーーーンッ
「……これは。白岩の格好か」
「わー。男の子が女の子の格好をしてるー……」
最終的にはレゼンがレンジラヴゥのコスチュームを着ているような姿となって終了。完全にシットリを怒らせるような姿になってしまった、2人。だが、シットリよりも早く。
「いや、その格好はあたしにするべきでしょーーー!?レンジラヴゥのコスチューム、羨ましがってたじゃん!」
「いででで!握るな握るな!」
「キモイ通り越してムカつくんですけど!」
「お、俺だってこんな格好したくねぇよ!」
遠目で見ると、あのラブラブぶりからは想像できない粗暴な喧嘩の光景。マジカニートゥがレゼンの身体を握り、脅迫染みた。
「あんなに大きいなら少しくらい分けてくれてもいいじゃん!!」
「なんの話だ!?」
どことは言わないが、握っているところを何度も確かめようとしているマジカニートゥだった。そんな2人のやりとりなど、関係なんてないと
ドゴオオオォォォッ
「うわあああぁぁ」
マジカニートゥに襲い掛かる、シットリ。服だけとは思わず、その得られた身体能力もヒイロに重ねるところはあるが。彼が逃げ回るという姿は、シットリにとっては耐えにくいものだった。
「ちょっ、タンマ!!タンマタンマ!1時間待って!もう一回、本気を出させてください!」
いくら身体能力が強くなっても、シットリを上回れるとは思っていない。せめて、レンジラヴゥの能力があるのなら、……今、超無敵じゃねぇかと思えるが。あいにく、そーいうパワーはマジカニートゥもレゼンも感じない。
多少の身体能力の強化と、挑発するかのような格好。
「ふざけんなっ!!」
シットリの身体が凝縮されるように縮んだかと思えば、膨張する前の予備動作だった。
自らの身体を火山と思わせるように、上方へぶちまける粘液の雨。
周囲に潜んでいるだろう、キッスとルルをも標的とし、ヒイロとレンジラヴゥの姿で逃げ回るというマジカニートゥとレゼンをも巻き込む攻撃。
ドボオオオォォォォッッ
「粘液の雨がああぁぁっっ!!」
捕まると動き辛くなるし、ダメージは必至。
今のマジカニートゥでも避けきれない。だが、
パシイィィッ
シットリの粘液に対して、完全耐性を持つかのような、マジカニートゥとレゼンの装備。一度くっつくと早々離れない粘液をあっさりと、こびりつく汚れを弾くかのように。
相手を怒らせるだけではなかった。
それを知ったとマジカニートゥは逃げと弱きの態度から一変。
「よーし!ナメクジ退治やっちゃうぞ!!粘液が効かないなら半分くらいは怖くないもんね!」
「調子の良い奴……」
シットリの攻撃のほとんどに、粘液が関わってくる。彼の戦いにおける、起点と呼ぶべきものだろう。それが通じないとなれば余裕もでてくるものだ。
「さー、この剣を使ってあげるわ!」
「さっきまで振り回したことないとか言っていたのに、有利と見るやすぐこれだ」
やはり、この能力。カラクリが分かると優位に戦いを進められる。マジカニートゥは思い切って、シットリに剣を振り下ろす。斬ることすらできなかったが、シットリがカウンターでくっつけてくる粘液はこの剣にも通じない。弾いてくれる!
「よしっ!」
「ふんっ」
シットリは小細工と見ている。事実であろうと、それしきで差が埋まるとは思っていない。調子に乗らせたところで。先ほどぶちまけた粘液を操作し、自らの身体に引き寄せ、くっつけた瓦礫などを操り回す。
マジカニートゥの右腹に突き刺す瓦礫。
ベジイィィッ
「!!っ」
粘液がマジカニートゥに効かなくても、周りの地形を活かしてぶつけることは可能。視野の広さと精密な操作により、こーいう戦いも可能。
さらにそこから瓦礫の山を粘液につけ、操作してマジカニートゥに向ける。
「とー。危ないっ!」
「だが、威力は思ったよりないぜ」
「じゃあ、レゼンがあたしの盾になってください」
「嫌です」
力押しで来るかと思いきや、テクニックを魅せた戦いをし始めるシットリ。そこになんの思惑があるか。
◇ ◇
バシイィィッ
シットリやダイソン達の戦いに比べれば、派手さはない。銃撃のような音も衝撃もない。
アイーガの弓矢の連射と、ドクターゼットの防御の応酬。
お互いに消耗が少なく、気を抜くか抜かないかの精神勝負といったところ。攻勢に出ているのはアイーガの方だ。なにせ
「攻撃されないって分かってたら、怖くないもんね!」
ドクターゼットの攻撃手段があまりにも限られているからだ。
メスを投げ飛ばし、刺すくらいのことしかできない。そして、そのメスもあっさりとはじき落としているこの状況。
連射しながら間を詰め、精密な防御をすり抜けて、ドクターゼットの身体に矢を突き刺す。そーいうイメージをアイーガの中ではしていた。
自由に動かせる瓦礫を盾にし続け、活路を捜しているドクターゼット。
「…………」
その視線はアイーガに向けておらず、少しその後ろに行っている。慎重に、慎重に……何かをやっている。
パスッ
「っと!」
「はははっ!余所見はダメだよ!掠ったしね!」
これ以上、間合いが縮まれば瓦礫の隙間を通ってくるだろう。
アイーガも自分と同じく、接近での武器がないため。ある程度の間合いを維持したがる。
それを合図に、ドクターゼットは決死の覚悟を決め
ダッ
「……っ……」
「え?」
前と走って来た。アイーガに向かっていくのではなく、ここまで来た高速道路の方へ引き返すように。アイーガはなんの企みかは分からなかったが、その場でドクターゼットに向かって矢を放ち続ける。
動きつつ、矢を弾くこと。
ドクターゼットの覚悟はまだまだ、それで終わっていない。アイーガを走り抜き、背を見せてでも逃げる。
「あ、待て!」
さすがにアイーガも追いかける。障害物はほぼなく、ドクターゼットを仕留めるチャンス。
そんな気の逸り。
自分の元に迫り来ていた物に、気付くのが遅れる。
「!?」
あれ、あたしのバイクがなんでこんな近くに倒れてるんだろ?
座席が上がっているし、鍵がついてるし……ガソリンが漏れてるし……
「すみませんね、女の子にこーいう事はしたくないんですけど」
上から偶然かのように落ちてくる、火のついたライターが。ガソリンを零すバイクの上にくる。その近くにいるアイーガは直撃になる。
ドゴオオオオォォォォッ
高速道路上での激しい爆発。
手応えとかは分からないが、今のところドクターゼットがやれる最大の攻撃。
アイーガが攻撃を集中している間に、彼女の服からバイクの鍵を抜き取り、その鍵を操作にガソリンの挿入口を開かせ、静かにバイクを倒し、ガソリンを広がらせる。
あとは逃げると同時に、上に仕込んだライターを落として、アイーガを火達磨にする。
精密な防御だけでなく、精密な物体の操作によって気付かれずに仕組んだ罠。
「ふーっ。体力ないですね。私も」
火の上がるバイクを見ながら、息を整えるドクターゼット。
これで倒れて欲しいと思ってアイーガの様子を見る。
炎の中で
ドシンッ
「!?」
煙も酷く。見間違いかと思ってしまったが、
バシンッ
支柱を壊され、不安定な高速道路が揺れている。その揺れの原因がそこにあると思える。
様子を見るという落ち着いた行動はすぐに
「やばっ!」
身体に退避を訴えた。何かは分からないが、恐ろしい物を開けてしまったような物が炎の中にいる。矢を飛ばし、洗脳をするといった妖精であると思っていただけに、こーいうのは予想外。
洗脳していた女の子の声ではなく、野太く、オゾマシク、カタコトで
「アチチチチチチチ、アツイヨォォォ」
現し始める怪物。シットリが身体を大きくするのと、同じくらいのサイズになるほど
ドゴオオオォォッッ
そいつの重さに耐えられず、アイーガがいた橋の部分が東京湾に落ちる。火達磨にされたアイーガは考えていなかったが、運良く身体の火を振り払えた。実質、ドクターゼットが倒したかに思えたが、
「サング。今の姿、見ましたか?」
『ああ!でも、あんなの見た事ねぇ!アイーガは僕と同期だけど、……あんな姿は見た事ない!』
「カチューシャの妖精と言っていましたが。そーは思えない姿ですし、デカイですね」
東京湾に落ちたアイーガの様子を、高速道路から見下ろすドクターゼット。
そんな彼に向かって、海中から飛び出て来たのは鋭く唸り、とても大きな
ビュンッッ
「!」
ガシイイィッッ
人の腕であった。
海中から出てきた腕。そして、手は崩れた高速道路を掴み。まるで、寝ている自分を起こすための棒のように扱い。浮上を始める。
そして、腕は1つだけであらず、もう1つ。同じく、高速道路を掴んでここに登って来ようとする。
一体なんの腕だと、疑問もあるが。ドクターゼットはそれ以上に恐怖のようなモノを察知し、その腕から逃げる。
腕の部分にはなにやら不思議な模様がある事は分かっていた。しかし、それが
「コノスガタヲミタヤツハ、イキテカエサナイ」
模様が蠢き、目を作り出す。背を向けて走るドクターゼットにはそれが分からず、さらにはその目から光線のように放たれるのは、矢。
ドスウウゥッッ
「ううっ!」
貫かれこそしなかったが、動きを抑えられる攻撃。ドクターゼットは振り向いて、アイーガと思われるその異形の生物を見た。率直に
「な、なんですか……あなた」
『妖精なのか、その姿……』
妖精であるサングも、そう言ってしまうほどの異形ぶり。長くて太い腕に、その腕にはいくつもの目玉や別の腕が飛び出ているという。オゾマシイ姿。
サングの言葉は聞き取れはしなかったが、アイーガは
「コレガアタシダヨ!!アイーガ!!カチューシャの妖精ニシテ、妖怪トノハーフ!」
怒るような声で、自らを名乗った。
この姿だけは出す気はなかったが、命には代えられない。そして、これを知った者達を殺そうとするべく、動く。手始めにドクターゼットから
「!……か、身体が……」
『どうしたんだ!?逃げないと!』
「う、動かないんです」
人間状態では普通の矢でしかなかったが、この状態から放った矢には特別な力を持つ。洗脳能力の簡易版であり、
「アタシノヤハ、貫イタ相手ヲ少シダケ操作スル。動ケナイヨウニナ」
「!!」
「大量ニ浴ビレバ、ワカルナ!手駒ニナレ!」
アイーガの手が不気味にドクターゼットの方へ近づきつつ、目玉を増殖させては、矢を放つ状態へ。10数本も刺されば、完全にドクターゼットの身体を操作できるようになる。
まさにピンチの時に
「"獅子座"」
アイーガの真の姿を見て、こちらへ飛んできたのは涙ルル。ハートンサイクルのミサイル攻撃であった。ドクターゼットを狙う目玉のほとんどを爆撃し、攻撃を封じる。
ドゴオオオォォッ
「ドクターゼットさん!逃げてください!」
海上で浮きつつ、指示を出すが。
「いや、身体が動かないんだ!あいつの矢に貫かれたら、身体の自由を奪われる!」
「ええええぇっ!?」
救ってみせるも、ドクターゼットが動けないと分かり、アイーガと緊急に戦うよう動くハートンサイクル。なんとかして、高速道路からアイーガのデカイ両腕をこの東京湾に落とす。
狙いを定めたところで、
ザバアアァァッ
「ジャマスンジャネェェ!!」
「!?」
海中からハートンサイクルに向けて飛び出してきたのは、アイーガの手であった。あの2本だけではなく、いくつもの腕を持っている化け物だったのだ。不意に足を掴まれ
「わあぁぁっ」
ドボオオォォォッ
東京湾の中に引き摺りこまれてしまう、ハートンサイクル。引き込む力が強く浮上できない。高笑いするアイーガ。
「全員、皆殺シ!!」
「ルルちゃん!」
「ルル!!」
ようやく、アイーガの簡易洗脳から解け、動くことができたドクターゼットと。妹を引きずり込まれ、助けに行こうとする姉のキッス。
アイーガの予想外の姿と強さ。それに海の中でどのようになっているのか、分からない。キッスもドクターゼットも飛び込みはできなかった。少なくとも、まだ。
ブロロロロロロロ
「!」
ドクターゼットは振り向いた。東京駅方面から来る、スポーツカーの音。
物凄いスピードでやってきて、2人が乗車しており、双方……なんとも言えないが、不満そうな表情でいた。クラクションを鳴らし、さらには
「邪魔よ、古野」
呼びかけし、ドクターゼットを道路の端へと移動させる暴走。その先に道がなかろうと、突き進み。このスポーツカーが狙っているのは、アイーガの腕。
ドゴオオォォォッッ
「イダアアァァァ!」
あまりの痛さにぶつかった腕は東京湾に引っ込むほど。そして、その痛みは身体全身を伝えていたんだろう。
「ぷはあぁっ!」
「ルル!」
掴んだであろうルルが、すぐに海中から浮上してきた。キッスがすぐに飛び込み、ルルを地上へ引き上げる。キッスの位置からじゃ、正確に何が来たかは分からなかったが。
あーいう事をして、ようやくかといった気持ち。
ドクターゼットもここに駆けつけた人物に、嬉しい笑顔を送ってしまう。
「ははは、私は病院をお願いしたんですけど?」
「あ~?あんたのいない病院を護って、何かあるわけ?」
「……なるほど」
「スポーツカーを新車にしてもらいたいからね。古野、デカイ借りよ」
強情だなって思っているが、彼女らしい。
「それにあんた達、因心界の味方をしに来たわけじゃない。別で頼みごとされたから私は来ただけ。野花はどこよ?」
「あの島のどこかにはいますよ」
「そう。世話のかかる淫乱女め。……それにあんた達もしょうがないから、途中の敵も私が倒してあげるわよ」
そして、吹っ切れた感じ。
「ありがとう、北野川ちゃん」
北野川話法が帰って来た!!
「アイーガ!!あんたの相手はあたし達がしてあげるわ!さぁ、上がって来なさい!化け物!」




