Eパート
『トラスト………トラスト………』
東京駅の地下深くに眠っているジャオウジャンが反応を示した。この近くにとんでもない邪念を持った人間であり、それがこちら側にいるジャネモンと来た。
邪念を求める生命にとってはなんとしても捕食したい、同類。
念波で連絡係であるトラストに伝え、今すぐ捕えに行けと命令を下す。
「承知しております」
そのトラストは宇多田……。彼の妖人化、ミガミノウと対決中。
自分を含めて、4体のジャネモンを相手にミガミノウは善戦。唸る舌がジャネモン達を襲う。
バギイィッッ
「ははははっ!お前等、そんなんで天下でもとる気か!?」
その内の1体を撃破してみせる。足止めという逃げのように見えて、特攻を決めた彼等の強さを認める。
「足掻いてどうする」
トラストの言葉は事実で、ミガミノウが無傷なわけではない。形勢は何も変わっていない。
「死に方などを決めて、お前に何がある?」
「歳をとって、老いれば分かる(まだ、そーいう歳でもないが)」
自分がたまたま拾って、育てる決心をして、仲間と一緒に統括を作った。
ジャネモンという怪物と、人という生命体の違いを分かりやすく。そして、ハッキリと。
「いつの日もガキの成長と決心は、楽しくて嬉しいんだよ。分かったか、化け物」
それだけで戦える。理解に苦しむものではある。
宇多田、猪野春の2名が手強い上に、覚悟を決めているというのは相応の被害を受けると分かる。勝ち負けを度外視しているのも、トラスト達にとっては性質が悪い。
死が先に訪れるか、心が折れるか。トラストが見ているところは東京駅の正面口。理由は分からないが、シットリという化け物が戦っている、化け物。
あのジャネモンをジャオウジャンに捧げなければと、トラストは焦りを見せてはいた。
◇ ◇
東京駅、正面口。
蒼山ラオVSシットリ。
「うごごご、ぎいいぃぃっっ!」
本人を再現しているが、彼は絶えず悲鳴を上げている。動力となる邪念に体が蝕まれている。だが、それで命を消してくれるほど甘くはない。
またしても身体を引き千切られても、粘液でくっつけて動くシットリは、
「貴様、なんの能力だ」
今まで見た事の無いタイプの能力。
ルミルミに斬られたはずの身体が何事もなく戻ってくるところを見たシットリは、ただの回復ではないと察し、注意深くなっている。
蒼山ラナ、スカートラインの転送能力には思えない。完全に別の生物になっているのも、含め。こいつの脅威は自分達が危険視するものと判断。
「おおおおっっ。お前、……ぶっ殺すぞ」
「!」
自分でも制御ができず、最後に残した気持ちだけで動いているようなこと。シットリに対する殺意で、シットリに向かっている。
キッスほどの身体能力ではないが、拳から繰り出される破壊力は、
バヂイイィィッッ
彼女と同等。シットリの身体にダメージを与えているのは確か。
「っ!」
人間の領域内で超人的な動きを見せる。それならば、見て体験している慣れがあり、予測がつく。初動は確かに見えてきて、それに対応していくものだが蒼山ラオの戦闘は天衣無縫だった。部分的な重さと軽さの操作は、人間の領域というより液体が生物となっているかのように動き、宙に舞えば綿毛のように軽やかにもなる。
読めない上に、一発の威力は致命傷にもなる。
ネチャアッ
「じゃね?」
「拳しか取り得がないなら、俺の粘液の餌食だよ」
とはいえ、相手も易々やられてくれるわけじゃない。シットリは何度か見て、冷静に自分の基本を忘れずに戦った。カウンター狙いで粘液をつけて、動きを鈍くさせていく。
風に舞うような軽さになろうが、粘液が外れなければ避けられない。シットリの攻撃が蒼山ラオの身体のど真ん中を貫いた。
ドゴオオオォォォッッ
身体を粉々に砕く一撃。だが、邪念がまるで消えていない。
シットリは目を絶対に見開いて、蒼山ラオの身体を見た。
左腕は吹っ飛び、首は折れて、両足の膝から下は砕かれている。
「へへ」
「!!」
が、幻でもなく、現実に。
瞬間再生とは明らかに違う変化で、蒼山ラオの身体は戻ってしまう。何一つのモーションも、アクションもなく、身体を取り戻すこの回復。
蒼山ラオはシットリの身体に向かって、自身の身体を軽くしダイブしてくる。
「二度も喰らうか」
シットリがせっかく付けた粘液を解除してまで、蒼山ラオの攻撃を回避した。したたかに攻撃方法、戦闘の間合いを理解したが。まだ解けないこの回復能力。
これを突破しないと、いつまでも戦い続ける事になる。
自分が万全ならば、負けることはないと冷静な答えを出すだろう。
バヂイイィィッ
蒼山ラオの攻撃を慣れるのすら難しいはずなのに、シットリは対応し始める。
相手に心があれば、諦めるというミスもあるが。それすらも失っているとしつこいだけ。シットリが思うとあれだが、粘着質のある奴。
蒼山ラオが攻撃を繰り出し続けていると、時折。
「いいいっ、ぐうぅっ」
呻き声を出し、動きが止まる。シットリの状況を把握できずに隙を晒せば、攻撃が飛んで来るのは当然。
ドゴオオオォォォッ
身体を圧し折られるも、
「へへへはははは」
即座に身体を取り戻してしまう、蒼山ラオ。発狂しながら笑って戦闘を開始する。
何度か体験し、シットリは
「やはり、意図的な回復か」
ルミルミの自動回復とは異なるのは確かだと判断。
また、受け身な回復をする姿からして、なんらかの条件が整わないと回復できないタイプ。条件を掻い潜って、ダメージを通せば完全に倒れる。
シットリへの敵意で動いている中。第三者の攻撃ならば、どのような反応となるか。
ズパアァァッ
卑怯と思われようと、いらぬ手助けと思われようと。ヒイロは蒼山ラオの背を剣で切り裂いた。
「蒼山くん。悪いが、お前の邪念を祓わせてもらうよ」
「おぉぉ?じゃね~~?」
前にシットリ、後ろにヒイロ。
奇襲攻撃に反応できずも、その回復力ですぐにヒイロの姿を見てしまう蒼山ラオ。反撃に出ようとするが、ヒイロの剣技がさらに炸裂し、身体をさらに斬られて倒される。
「うぎゃあああ、はははははは、じゃねぇ~~」
「!」
倒れて、斬られても、やはりすぐに身体が戻ってしまう。ヒイロの攻撃にシットリは不満そうな言葉を吐いた。
「邪魔だ、ヒイロ!引っ込んでろ!!」
「いいだろ、シットリ。俺とお前が共通の敵を倒そうっていうのも」
「…………ふん」
「今回限りの共闘だ」
「な、仲良くやってやるよ」
シットリと蒼山ラオの戦いを遠くから観察し、蒼山ラナの事を知っているヒイロだからこそ。シットリよりは情報が多い。
蒼山ラオの攻撃は斬ってきたヒイロに向かっていったが、牽制のようなもの。すぐにシットリの方へと攻撃対象を切り替えた。
ヒイロとシットリのタッグ。呼吸もすぐに合い、蒼山ラオの攻撃など気にも留めず、回復を上回る攻撃の連続でまずは押し切りまくった。
ネチャアァッ
シットリの粘液で動きを止め、
ズパァァッ
その一瞬でヒイロが斬り、シットリはその間に身体に力を込めて、さらに巨大化。
ポーーーーンッ
蒼山ラオを剣で串刺しにし、宙へと放る。無防備にしたところ、シットリの全ての身体を活かした地震攻撃が蒼山ラオを押し潰した。
ドゴオオオオオオォォォォッ
確かな手応えを感じ、シットリは素早く蒼山ラオから離れた。蒼山ラオへ、今度は宙に飛んだヒイロが剣に力を込めて葬る。
「"紅魔聖迅剣"」
邪念を祓う剣技でジャネモンと蒼山ラオへのダメージを確認する。
小さな攻撃を繋げて、互いの大技を叩き込んだ。
「おおおええええぇぇっ、おおぉぉっ」
悲鳴こそするも
「ははははあは、ぁぁぁっ」
またしても、蒼山ラオは起き上がってくる。
間近で攻撃を与えたヒイロは、
「身体の部品をどこからか転送しているわけでもないようだね」
わずかに蒼山ラオの影響が出ている回復とも予測していた。それがないと分かれば、余計に力が出る。遠慮なく戦える。
接近の間合いで、10秒ほど。蒼山ラオと剣と拳で応戦。軽い身のこなしから、重い一撃。知れば知るほど、おぞましく思えるのは蒼山ラナが持っている、邪念の濃度だった。妖精、フォトの身体が持たないのも理解できる、蒼山の本気はかなりのもの。
回復させられているのは、その邪念の強さ故。底が尽きればそれもなくなるが、底が見えない。条件で回復するタイプであるため、消費も見た目ほど少ない。
だが、
「うがあぁっ」
蒼山ラオが時折見せる、その隙。
「君の邪念と君の戦い方はやはり合わないようだね」
悲鳴を上げて、止まってしまう。それが一番のダメージにも思える姿だ。
元々、蒼山ラナは肉体を使って戦うタイプではなく、サポート面に特化している。その才能を持っていながらのこの肉弾戦は合っていないんだろう。ジャネモンになってもそうだ。
このジャネモンは邪念という原動力のみで、不得手な事を挑んでいる。
勝てる、勝てないが重要な戦闘において、苦手とあらば突かれるが必然。
ズパアァァッ
数回の斬撃を叩きこんでヒイロが気付いた違和感は、意識のない蒼山ラオには致命的なもの。
「シットリ!強い攻撃をするな」
「指示をするな!」
「いいから、俺に少し任せろ!」
斬ったり、殴られでもする時。誰しも防御や回避動作を見せる。だが、こいつにはあまり感じられない。さらに剣で斬られた時、すぐに剣と身体が離れるように動いている。
重さと軽さを操作する。そー思っていたが、もっと深い部分まで操作できるなら、回復とは思えないこの早さにも一定の理解はできる。
ズパアァァッ
蒼山ラオの身体を切り裂いた。再び、動作なく身体が元に戻るだろう。
ガシィッ
「ごぉっ!」
ヒイロは蒼山ラオの首を掴み、顔面を剣で突き刺そうとした。それは目に分かるほど、必殺であっただろうが。
スパァッ
斬ったのは蒼山ラオの頬。剃刀で切ったような、とても小さな傷であった。
その後に首を掴んだ蒼山ラオを地面に叩きつけて、頭蓋骨にヒビを与えた。念には念をと、首も折る。容赦ない攻撃。
「はははは」
しかし、蒼山ラオの頭と首は何事もなく復活する。ヒイロを蹴っ飛ばし、彼から解放される。だが、それも理解している。シットリはヒイロが離れたところで蒼山ラオの上に圧し掛かった。粘液を十分につけ、彼の身体を振り回しながら、地面に叩きつける。
ドゴオオォォッ
反動をつけて、シットリが続けたことは。蒼山ラオに付着させた粘液の回収であった。
連続で攻めず、1つの様子見。おそらく、立ち上がってくるのは分かっている。
「へへへへ」
案の定。しかし、蒼山ラオは違和感を感じ、自分の頬と左足の傷を見た。
骨折、ヒビ、流血など。様々な酷い傷を負っても、何事もなく蘇り続けたわけだが。不完全なところが今、現れた。
とても小さい傷ではあったが、あの酷い傷からの完全復活をしてきただけに
「やはり、ただの回復じゃなかったな」
「面倒だが突破口が見えて来た」
ヒイロに斬られた頬と、シットリが粘液を回収すると共に肌を剥がしたダメージがまったく消えない。
人によりけりだが、そのラインがどうやら蒼山ラオの考えと一致するんだろう。
おおよそではあるが、間違っていない。
「"重たい怪我を無くせる力"と見た。それもすぐに"瀕死になるような致命傷"のみに絞ってる」
「嬲り殺さないとダメなようだな。しょうがないよな」
時間はかかる。しかし、それが蒼山ラオの狙いでもあった。
ゾンビのような敗残兵でいいから、時間を稼ぐのが目的。
涙キッスを護るため、くたばるまで敵を惹きつける。
もう何もかも思い出せないジャネモンになっていても、それだけは……
「生命は時に、死なない痛みや恐怖であろうと、あまりの苦しみに身体も心も死を選ぶ。お前はどこまで死なないでいられるかな?」
「………………」
叶えさせてくれ。
◇ ◇
今、向こうで何が起こっているかは分からない。
しかし、分かっているのは。
「た、助かった……というか、蒼山さんは!?」
ブルーマウンテン星団がシットリ達を相手に時間を稼いでいること。
表原は素直にその助かった瞬間を喜んだが、ルルはやや複雑……。キッスの方は少々無言で、放心しているようにも思えたが。
「…………ルル。古野さんに連絡を。表原ちゃんは、録路くんを捜してくれ。あっちの方に吹っ飛ばされた」
「は、はい!」
「お姉ちゃんは大丈夫!?」
「しばし、古野さんの治療を受ける。イスケが繋がればいいが」
自分もまた組織のトップ。蒼山達を下に就かせたんだ。泣き言も、悲しい感情も、今浸っているわけにはいかない。
キッスはルルに担がれる形で、ここから立て直す事を考える。
「因心界の病院を仕方ないが、仮の本部とする。生きている者達、避難させている者達をそこに集める」
「う、うん!」
「粉雪と革新党は無事か。戦況の確認も急がないと……」
「……そーいうお姉ちゃんがいい」
「!」
「なんでもない」
自分の事なんか考えていない、姉のことがステキと思っているルルの一面だった。
キッスの言葉通り。
今、やっている事は退却戦から情報の収集。
東京駅の奪還を狙っていた革新党も同じくだ。因心界の被害、涙一族の状況など、詳しく調べ始めて戦場から去っていく。
追撃されないのは、その中にまだ男達が戦っているからだ。
死ぬと分かっていながら、必死と書く行動をとる。
「網本党首」
報告がいつもよりも機械的なものに感じる。車を運転しながら南空は、やはり確定的な情報でも感情を殺すように伝えるしかなかった。
「涙ナギ、涙メグ、涙カホの3名の戦死は確実のようです。そして、涙一族はほぼ壊滅と見ていいでしょう。キッスとルルは無事でしたがね」
「……………そう」
革新党が向かった先は、彼等が構えている本部の拠点だ。
「せっかく、胸なしカホさんが死んだっていうのに……あんまりよねぇ。メグも死んで良かったけど……」
強がって、嫌いな奴が死んだことを愚弄する。そーしたら怒ってきて、生き返ってくれないかなって。なんでもいいからちょっと、受け入れたくないものだ。
まだ口で
「ナギさんが死ぬわけないでしょ」
「…………現実です」
間を置いたのは、南空も信じられないからだ。だが、もう前を向かなければいけない。どーするか、どーなるのか。分かっていない2人ではない。この東京駅奪還作戦で、涙一族が大幅に弱体化したのは事実で、あらゆる組織の体制が変わる。
南空はそれを踏まえて
「因心界から外れる時期です。ナギがいなくなった今……」
「ぶち殺すわよ、南空」
軽率。失言。
「あなたが因心界に身を置く意味はもうない。彼のために、キッスの傍にいた!依頼者が亡くなれば、契約は破談します!」
このまま殴り合いにでもなろうという。南空の発言が、粉雪を冷静にさせたのは……。長い付き合いからだ。ナギの死を知って、冷静でいる方がどうかしている。
親の心だ。
「ナギが死んだからって何よ!!あたしの大好きな人!あたしの初めての気持ちっ!あたしを護ってくれた人!教えてくれた人!」
感情が爆発して、車内で暴れ回るも。南空に攻撃することは一度も無く。
粉雪は今までにないくらい、吐露した。
「奪いたい愛だったもん!悔しくて諦められないんだもん!うううぅぅっ……なんで、ナギが死んじゃうの!!帰ってきてよぉっ!!」
前を向かなければいけない時もあれば、今にぶつける時もある。
平静でいるのがとても辛くて、粉雪は悲しみと怒りの感情を吐き出し続けた。その人の影を追って、今の自分の姿がいること。そこまで感謝するまで、ずーっと……。
「お休みになられてください。キッスも同じことでしょう。私がその間、指揮をとりますから」
気の済むまで。
◇ ◇
東京駅での戦闘。
ブルーマウンテン星団は賢明に戦い続けた。
3時間ほど前に
ドスウゥゥッ
「……十分……か……」
宇多田がトラスト達に敗北し、命を落とした。たった一人で複数のジャネモンを相手に善戦。賞賛されるべきものだ。
それから30分後。
ズパアァァッ
「!!……ちっ……」
「ははは、楽しかった。やはり強者との戦いは生きているって感じだ」
ムノウヤが猪野春を撃破。影で彼の身体を貫き、絶命させた。
強力だった部下達が死んでいったが、彼等の実力は確かにSAF協会に大ダメージを与えた。
そして、SAF協会が未だに行動をとれない原因に。
「ぐふぅっ」
蒼山ラオがいる。弱点を見抜かれ、嬲り殺しにあう。
時間を稼げるのならそれでいい。もはや、あとは死なないだけで耐え凌ぐ、酷い状況だった。
「じゃね………」
「機械に諦めが無いのは悪い事だ」
よもや、邪念の底が尽きるまで粘ってしまうとは思わなかった。だからこそ、シットリは敬意の言葉を送った。
彼との戦闘開始から5時間を越える長期戦、それももう終わりが見えて来た。
ほっとけば死ぬところ、跡形も無く消してやろうとシットリが攻撃を仕掛けようとしたが……
スッ
「その辺で終わりにしてくれ、シットリ」
「ヒイロ」
ヒイロの剣がようやく、シットリに向いた。やるべき事はやってやった。だからここから、元の仲間として
「ゆっくりと元の蒼山ラナという男にしてから、殺させて欲しい」
助けられないが、せめての想いだった。
飛島の遺体を確保できなかったヒイロがそー言うのだから、
「……手を貸してもらった、借りがある」
シットリも仕方なく退いた。死体になれば、興味はない。ジャネモンになったその身体に、ヒイロの治癒術は意味を成さない。どー考えても死ぬ。
ジャネモンの動力である邪念が消えれば、姿が蒼山ラナに戻れるだろう。
戦闘が終わり、ヒイロもシットリも……疲れやダメージがある。特にシットリのダメージは深い。気を抜けば当然、対応に遅れが生じるもの。
この機を地下深くから待っていた。
ギュポオォッ
蒼山ラナの背後から突如現れたのは、影のような色をした人食い草。花の中心は牙つきの口となっていて、すでにガス欠に近い邪念を持つ彼を取り込もうとした。
「なっ!」
【こいつを元にして……】
ヒイロも突然のことであり、気を緩めてしまっていた。瞬間に来た攻撃の主は、ジャオウジャン。邪念に飢えた怪物が蒼山を
「あたしの仲間を食べないで!!」
ドゴオオオォォォッ
無造作に蹴っ飛ばして消してみせる。間一髪……に思えるが。どうやら、注意深く警戒していたらしい。彼女の左肩にはある男がすでにノックアウトされており、シットリが退いたことと余計な邪魔をしようっていう奴に対し。
「この場はあたしとヒイロが決めさせてもらうから!!」
レンジラヴゥが叫んだ。
「あたし達の決めた事を勝手に邪魔しないで!」
彼女は開戦と同時に野暮用で離脱していた。
帰ってきた時にはもう終盤。此処野が宇多田や猪野春を襲えなかったのは、彼女が彼をぶっ飛ばしていたから。そして、トラスト達が動けなかったのも彼女がいたから。
そんなことで諦めるわけもない、ジャオウジャンの本体は蒼山ラナの遺体を襲ったが、結果は失敗。
「レンジラヴゥ!ありがとう!」
正直、これが精一杯。でも、納得してる。蒼山だからってのも、若干ある。
取り込まれる寸前に蒼山ラオは邪念を使い果たし、蒼山ラナの姿になっていく。その姿を見て、白岩は遺体袋に彼を優しく詰め込んだ。その間、ヒイロが2人を護る。影になって隠れていた、ムノウヤとトラスト達も姿をしっかりと見せてきた。
「……ごめんね、蒼山くん。ありがとう」
因心界はまだ、終わっていない。せめて、彼の好きな人にこの身体を届けてあげるのが、レンジラヴゥとヒイロの想い。
そんな2人を見て、まずはムノウヤが
「……あーーっ、なーんか。だるぅぅ。気が抜けちゃったな」
「どこに行く。ムノウヤ」
「今日は十分楽しんだし、すげーだるいんだぁ~……。夜になってるし、もうこの辺でいいんじゃないか?」
ジージジジーの能力のせいだろう。しかし、もうおしまいとなればその能力を受けてもいい。ムノウヤはあっさりと東京駅の中に入って、……とりあえず、寝る。
一方でトラストは、
「ジャオウジャン様を攻撃した事は、許されると思うか?」
「あたしはあなたの味方じゃないもん!」
白岩印。レンジラヴゥに向けて、敵意を見せる。彼女もまた、蒼山と並べられるほどの邪念を感じる。だが、苦手な味がしそうだ。
「あんたはこの。殺戮おバカな此処野くんでも、治療してやりなさーい!」
レンジラヴゥは気絶している此処野を荷物のように、トラストに向かって投げ飛ばす。そんなトラストは当然のように避けるのであった。そして、
「自分のした事を悔いながら、覚えておくんだな」
捨て台詞を吐いて、ムノウヤの後を追っていくトラストだった。
東京駅奪還作戦は、いちおの終結。
因心界:
蒼山ラナの戦死。また、ブルーマウンテン星団の壊滅。
革新党:
橋下明太、遠江タチサラの大幹部2名の戦死。さらに、87名の戦死者。
涙一族:
涙キッス、涙ルルを除く、一族の戦死。組織は完全に解体されることだろう。
SAF協会:
ルミルミ、激戦に次ぐ激戦により、しばらくは睡眠期へ。
ムノウヤ、ジージジジーとの戦闘の後遺症により、キツイ鬱病になり、しばらく戦闘不能。
寝手食太郎、蒼山に敗れ、現在も絶頂のまま気絶中。
東京駅は奪還できず、多くの被害だけを残すのであった。
次回予告:
キッス:2人共ください。
蒼山:言ったーーー!躊躇なく、言ったよ!この妹好き!
表原:それより死体になった蒼山さんがここに来ないでください!!
蒼山:酷くない!?前回、ナギさんとカホさんだったじゃん!今回、僕達がいなかったら絶命してたじゃん!扱い良くして!
キッス:ふむ。よくやった。それで切り替えていく。ルルを2人くれ。
表原:一番切り替えてない!!大丈夫ですか、キッス様!?
キッス:とりあえず、蒼山達のおかげで時間稼ぎはできた。とはいえ、すぐにでもシットリは私達を潰しにかかるだろう。急ぎ、何かの手を出さなければいけないが……あいにく、私にはない。
表原:ふぁっ!?蒼山さん達が犬死じゃないですか!
蒼山:ちょっ!死ぬんだったら、僕達は逃げてましたよ!
キッス:落ち着け。そこであいつの作戦で、シットリ達を迎え撃つ。
表原:次回!
キッス:『因心界 VS SAF協会!人工島大決戦①』




