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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第34話『東京駅奪還編決着!蒼山と涙の関係!』
106/267

Aパート

「ふぅ…………」


涙ナギ。この世を去る。

かつて、因心界を創設し、その力とカリスマで多くの猛者達を束ね、慕われた男がこの世を去った。

そして、涙メグと涙カホ……その他の涙一族の多くもこのルミルミとの戦いで戦死。



涙一族という組織はこの日、壊滅したと言えよう。

これ以上。非道な人体実験はこの一族からは現れない。


「ナギ…………」


息を引き取ったナギの横には、彼のパートナーであるサザンが力のほとんどを失って立っていた。失ったことが大きく、これ以上の戦いはできない。

そのサザンにルミルミは妖人化を解除し、いつもの赤ちゃんの姿になる。

サザンの横まで来て、ルミルミは


「サザン、あんたは妖精の国を纏めてよ」

「ルミルミ!……お前は本当に地球を妖精の国にするのか」

「もちろん!あたしは絶対に人間を許さない。マキを許さない奴等を許さない。悪い奴等は殺す」

「それで人間を滅ぼしてもか」

「うん。変わらない!!あたし達妖精だけが住む!!それが楽しい!!」


付き合いは長かった。だから


「嘘をつくな。お前はもう止まらないだけだろう」


妖精のためにと握った剣は、想像以上に重たくて、錆付いていた。復讐は終わり、復讐の後始末をつけるための壮大な戦いがこれからだ。

それがサザンからしたら同じ方へ向いているはずなのに。


「止まれと言われて、止まるあたしじゃないもん」


ルミルミは拒んだ。

これまで通り、人間界から人間と妖精の在り方を変えようとする。

サザンは妖精の国から、人間と妖精の在り方を変えようとしてきた。

2人の戦いと、2人の同じやり方はまたぶつかるだろう。それで



「なら、教えておく。妖精の国にもいずれは来るんだろうからな」

「?」

「今、アダメさんに妖精の国の権限を任せている」


サザンが妖精の国の王でいながら、ここに来れた理由でもある存在。そのアダメについて、ルミルミも知っているからこそ。



「"お前もあたしが殺す!!"、遺書を書けって言っておいてよ」



言葉だけでも伝わる。アダメに対しての嫌悪感。ルミルミからしたら涙一族と並んで、頭に来る存在だ。アダメがどーいう存在なのかを知っているからの発言でもある。


「というか、だったら!!とっとと妖精の国に帰ってよ、サザン!!さっさとアダメを隠居させて!!アダメのせいで、妖精の国も人間界もメチャクチャなんだから!!」

「……分かった。改めて伝えておく」


そりゃそーいう反応するよなって、……サザンも気まずそうな表情。

しばらくはルミルミ達の様子を妖精の国から見守る他はなさそうだ。きっと、内部もとんでもなくごたついている事だろう。

こんなに近くに会えるのもまた、……



「生き抜けよ。ルミルミ」

「…………」


また、ない事だろうから。サザン個人の気持ちを一言伝えてから。これからを教えた。


「お前は今、世界を支えている巨大な柱を圧し折った。とんでもない力がお前を襲いかかることになる。……それでも私は、お前を妖精の国で待っている」

「……余計だよ。人間全員とアダメが死んだら、サザンはあたしの味方をしてよ」



◇      ◇



ドゴオオオォォォッ



「ふむ」



ルルの空中からの何十回目となる爆撃が、かろうじてキッスの身体にダメージを蓄えつつあったが、キッスの余裕ある表情は崩れない。


「はぁ~、……はー……」


ジャネモンとなってさらなる強化をしても、この姉を倒せない。それは分かっているのに無力感とは違う何かをルルは感じ始めた。

怒りのそれが尽きたと言える感情の変化。邪念が無くなり始めた兆候。


「なんなの、お姉ちゃん」


普通じゃないとか、最強とかじゃない。

こんなに怒りを込めて放った爆撃の全て、無事じゃないはずなのに笑って過ごす。



「お姉ちゃんはあたしをなんだと思ってる!!苦しんだり!!嫌がったり!!そーやって笑って、……笑って!!あたしを見てるのはなんでだ!?」



人を超えている姉と、凡人の妹。

答えろなどと口にするまでもなく、姉は優しく教えてくる。


「私はルルが好きだからだ。妹が好きな姉がいるのは不思議なことか?お前は可愛いじゃないか」

「!!」


答えになっていて、なってないと思い込んでしまうような事。

そこに妹を小馬鹿にするような、見下すような気持ちは感じられない。

純粋に言っている。

それに理由を探せば、


「恥ずかしい思い出も、私を頼った思い出も、……一緒にジャネモンを退治に向かった時もよく覚えている。楽しかった」


姉もまたよく、妹を知る。

妹を攻撃しない姉だと自覚しているから、妹が姉を殺せないのも分かっていたのだ。


「……ううぅぅっ」


ルルのジャネモン化が解け始める。恨みや妬みで作られた化け物も、それを全てぶつけてしまえば元に戻る。ストレスを発散するため、大声を出すかのような解消。

ルルの戦意が崩れ、泣きながら地面にゆっくりと降りていく。それを見てキッスがルルへの意識を解いた。ルルの爆撃でいつ決着がついたか分からなかったが、……勝敗は分かった。



「連戦でいいか、ルミルミ」

「ナギとカホ………あんたの両親は殺した。それとメグもね」



助太刀というより連戦上等という気持ちで、ルミルミがキッスの前に現れたのだ。

だが、本来の赤子の姿。妖人化できるような状況ではないくらい疲弊している。戻ってもいいのにわざわざ顔を出した。



メゴオオォォッッ



「お前も死ぬけどな」



キッスから目を離すとか、逃げるという行為の方が……危険という判断だ。



「やっぱり」



口で言ったときには、キッスの蹴りがこの小さい体にぶつかった。血反吐出して、吹っ飛ばされる。背を見せてたらすぐにあの世行きだ。

ルミルミを数百mと吹っ飛ばしたのは、キッスはルルを巻き込みたくないから。ルミルミを始末するのが、今の最良。的確な判断とそれを成しえる戦闘能力。底知れない強さ……この一撃だけでもまだ、キッスの実力が分からない。

吹っ飛ばしたルミルミにすぐさま追いついたキッスは、


「ルミルミが"逃げて"くれた方が殺しやすい」

「…………予想はされてたけど」



実力がまだ見えないのは、キッスが妖人化をしていないでのこの強さだからだ。因心界のトップが妖人化をしないなんてあり得ない。妖精のイスケだってちゃんと着ているのに。

長い事見ていたし、ルミルミからすればキッスの事を妹だって思えるくらいだ。

なんで彼女がそれをできないかは……予想できていた。散々と予定をぶち破ってしまったルミルミではあったが、彼に託すためだ。



ヌチャァッ



「!!」

「やっちゃいな、シットリ!!」



まさか、あのルミルミが囮役をやる。キッスの死角から、体を繋いで元に戻ったシットリが襲い掛かったのだ。

今更かと、キッスは少し呆れ気味ではあったが、シットリの粘液がキッスの身体にぶつかった。


「それで私に勝てるとでも?」

「お前がなんで本気を出せないか!!俺には想像がつく!」


まだ生きている事に驚いてはいるが、シットリの諦めの悪さに苛立ちを見せるキッス。多少動きづらくなったところでキッスは無理矢理突破して、シットリを攻撃するだろう。

本気になれない事が分かってしまったとはいえ、負けるつもりはない。



ヌチャアァッ


「!」

「お前の弱点はいくつもあるが!!この瞬間こそ決定的だな!」


シットリのこの自信。彼女の強さを仮説、解析などの全てを行なったからこそ。この瞬間に高揚するのは無理もない。


「1つ!!お前とイスケの妖人化の能力は、敵味方関係なく広範囲に巻き込む能力!!妹や家族が近くにいる時、お前は本気を出せない!!」


東京駅奪還作戦において。

涙一族を因心界の本部に据えた理由は、ルミルミをおびき寄せることだけでなく。万が一の場合、キッスが本気で戦える状態であるからだ。

因心界のメンバーをなるべく外したのもそのため。

革新党も、ブルーマウンテン星団も。因心界の味方ではあるが、決して力を合わせて仲良くできる関係ではないのは過去から分かっている。

そーいう配置をするだろうし、何かがあればキッスが動くことはシットリの計画通り。



「!これは……」

『な、なんだ!?俺とキッスの間に!』



シットリの粘液が蠢き、キッスとイスケの装着部の隙間に入り込んできた。

防御にも絶対の自信があるからこそ、キッスは相手の攻撃を避けるということはあまりない。受けて知ろうとする戦い方だ。多くの攻撃は彼女にはまるで通じない。ルルの攻撃でもびくともせず、シットリの攻撃でもそれは変わらなかった。

だが、シットルの今回の攻撃は違う。



「そして、お前達の硬さ!!互いを高め合って何者も受け付けない無敵の身体!」



仮説のまま、シットリが仕掛けていたらキッスは警戒しただろう。何重もの試行錯誤は、戦闘においては1分もないことではあったが、この体で受けた痛みも与えた痛みもあっての決定打。



「興味はないが、お前とイスケ!!どっちが硬いか、それとも互いに壊れるか!助かることはない!」


妖精史上、最硬と言われるイスケ。人間を超越した硬さを持つキッス。着ているわずかな隙間をさらに広げ、本来ならば互いで抑える衝撃をシットリは奪ったのだ。

そんな状態で受ける攻撃は、


ドゴオオオォォォッッ


「!!!っっ」

『!!ぐぅっ』


シットリはあの地震を引き起こす術を、今のキッスとイスケに与えた。

お互いの身体を激しくぶつけ、……シットリの攻撃よりも互いの身体の硬さでダメージを受ける。そのダメージは決して大きくはないが、両者に与える傷が痛い。



ビキイィッ



「!」


キッスも、イスケも。生まれて初めて、身体にヒビが入った。決して大きいものではないが、シットリとルミルミがそれを逃すわけがない。


「ルルからのダメージが効いてるようだな!!」


イスケを纏っているため、キッスの身体にできたヒビの形と大きさは、シットリには見えなかったが手応えは感じた。イスケの方がヒビが少ないが、それよりもキッスのダメージはでかいと確信した。機を逃さずに尻尾でキッスを薙ぎ払い。



「"雷槌千煩らいづちせんぼん"」



ルミルミが上空で雷雲を作り出し、そこから放たれる稲妻がキッスを貫いた。ヒビの入ったところから伝わってくる痛みと痺れに、キッスの身体が反応を遅らせる。

遅れた分、シットリへの対応はさらに遅れる。

シットリの攻撃をガードするのはまずいのだ。



ドゴオオオォォォッッ



「!!!」

「避けることに慣れていないな!」


シットリの攻撃から伝わる震動で、キッスとイスケも大きなダメージを負ってしまう。

SAF協会の最強2人を同時に相手どるなんて、いくらキッスでも無理だ。



「なにをしている……」


姉が戦っているところを見ないで自分にそう呟き続ける、妹がいた。あの無敵で、最強な姉が……敗れる予感がするのだ。


「なにをしている」


自分なんかと比べ物にならない強さを持つ姉。妹は震えながら、心を落ち着かせていようとするが。こんな姿になっても、あの姉が敗れるって分かる闘いがすぐに近くにあっても。

何も力になれない。あの戦いの中に飛び込んで、姉を助けるなんて。小さな気持ちも出せない。


ただただ怖い。その恐れに付け込むように、心の悪い声は呟く。



【姉を消せたのは、お前の功績だ】


「!!」


【お前がダメージを与えたからこそ、姉が死ぬんだ。自分の大嫌いな姉が死ぬんだ!メグも死んだ!ナギもカホも死んだ!!お前を不幸にさせた姉ももうすぐ死ぬ!お前以外は全員死ぬんだ!】



「やめて」



【お前はいつも!!あの姉と比べられた、不幸な人生だったろうが!!なんのためにお前は生まれて来たんだ!!】



邪念は再び、沸きあがる。

抵抗という理性を奪おうと、無理矢理。精神を完全に奪おうとする。


【もういい!!ダメだ。お前はこのままじゃ、役立たずだっ!!】

「ふぁっ!!」

【心をよこせ、身体を使わせろ、お前はもう死んでいろ!】


涙一族の負の部分がルルの心に与えたのは、姉の排除。……そう思える事の行動に思えるが、全ての家族をこの場で失わせ、キッスの精神にさらなる負荷をかけ、一族の悲願を見せてもらうため。

もっともルルが嫌っていたが、メグの一面が彼女の悪に見えた。


「キッスを殺して私は幸せにっ……」


敵うわけがないと全て理解しているはずだ。

しかし、


「うあああぁぁぁぁっっ」


人間の姿をしていたジャネモン化が、もう戻れぬように大蛇の化け物の姿へとルルを変えていく。その形態はシットリの影響かもしれない。

人間を完全に離れ、怪物となって、理性をなくして、姉を殺す。

そして、


「あたしは……好きで生まれたんじゃないんだ!!」



メギョメギョッ


キッスがその身体を使って、ルルの邪念を祓ったというのに。それを元通りにするほどの邪念を発生させて、完全な化け物となる。

そんな化け物の気配を察知しつつ、自ら負ったダメージも意識しながらも。キッスはシットリとルミルミの2人相手に反撃に出ていた。



ガシィッッ


「悪かったなっ!避けるのが下手で!!」

「!おっ、掴むんじゃねぇ!」


基礎的な身体能力で戦う方が向いている。ルルよりも不器用だって、キッスは自覚しているから自分の得意な戦いをするだけ。シットリの粘液+打撃に合わせ、彼を掴んで


「やあぁぁっ!!」


ブヂイイッィッ


身体の一部を引き千切る。悲鳴を上げるシットリと、お互いしぶとく戦っているルミルミ。キッスはシットリの千切ったシットリの身体の一部をルミルミに向かって投擲!


「っ!!」


かろうじて避け、そのバランスを崩れたところでのキッスの追撃すらも、避ける。

援護していた者が距離を詰められると途端に不利に陥るが、ルミルミの場合は万能な戦闘をこなし、剣だって扱っている。接近での戦いにも慣れがある。キッスほどの強者に対しても、焦りは顔に出ても体は冷静。



ビュオォッ



風切り音と放った攻撃の衝撃が周囲を揺らす。直撃は危なかったと表情に出たルミルミは、キッスの拳と蹴りを7秒ほど避けた。

刹那すら隙にもなりかねない場面。シットリは悲鳴をあげつつも、執念でキッスの背を襲った。だが、キッスはそこをカウンター。シットリの大きな顔へ飛び蹴りをかました。大きく上体が後ろへ反れるシットリ。強烈な一撃が入ったことで、ダメージを喰らわなかったルミルミもシットリの名を叫んでいた。が、



「!!」

「俺を……倒せるのは……」



シットリは自らの顔面に大量の粘液を塗り、キッスの攻撃を受けるつもりだった。捕えた彼女に再び。


「ヒイロだけなんだよぉぉっっ!!」



ドゴオオオォォォッ



大地を叩きつけ、地震を引き起こす震動!衝撃!


『ごああぁぁっっ』


悲鳴をあげたのは、キッスではなくイスケだった。やられる瞬間、


「自分の硬度を落として犠牲になり、キッスへのダメージを軽減したのね。サザンの息子だけあって良い判断をする」


ルミルミも賞賛するほどだった。イスケの対応によって、キッスは致命傷を避けられた。キッスはシットリの粘液から脱出し、一度シットリから距離をとる。シットリもキッスを追撃するのは厳しく、ルミルミに至ってはもう戦闘不能に近いだろう疲労。


「ふーっ……イスケ。後は私に任せろ。シットリは私がやる」

「はぁー……俺に勝てるわけねぇだろうが!負けるわけない!!」


キッスVSシットリ。

1対1ともなった場面に、


「ああぁっっ!!お姉ちゃんのせいでぇぇっ!」

「!!」


人間の姿を完全に失った、ジャネモン化したルルがキッスに襲い掛かったのだ。

あれが妹であると分かっているキッスは、攻撃も反撃もせずに。この状態でルルの攻撃を浴びたのだった。


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