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ぼくの好きな人が鈍感なので、こちらから攻めることにします。

作者: 北風

「こうちゃん、今日も疲れたよー」


安井こうきが高木愛衣と出会ったのは高校一年の時だった。

初めての席替えで、席が隣になった女の子が彼女だった。


―――――――――――――――


自分の教室を好門近くの掲示板で確認し、自分の教室1-Aに向かってみるとなぜか教室がざわざわしていた。

中を覗いてみるとそこには天使がいた。


透けるような金色の髪は日の光を浴びてきらめき、しみひとつない乳白色の肌はまるで赤子のような滑らかさを保っている。整った鼻梁に長い睫毛に覆われた大きなブラウンの瞳、天使のように美しい少女がそこにいた。


はっきり言って、ひとめぼれだった。というかクラスの男子ほぼ全員そんな感じだったと思う。

どこか浮足立った空気の教室。その中心に彼女がいる。



教室の入り口で立ち尽くしていると後ろから声がかけられる。


「全員席につけよ~」

ちょっと緩い声が伝わりみな自分の席に着く。


「今年お前らの担任になった宮前だ。よろしく頼む」

眼鏡をかけた、くせ毛の先生だ。雰囲気がなんか緩い(のちに分かったが生徒人気はNo.1らしい)。


「まあ今日は入学式と軽く説明があるだけなんだが、この学校は珍しく初日から席替えをすることになっている。めんどうだが伝統みたいなもんでな」


ちょっと教室がざわつくそして集まる視線。もちろん天使様(そういえば名前知らない)に向けてだ。

あからさまな視線はないがみんなチラ見している。


「じゃあくじ回すから名前書いてくれ」

端の席からくじが回ってくる。あみだくじになっているらしく名前を書いて後ろの席に回す。

みんなに回ったくじが先生の手にもどる。


「じゃああけるぞ~、とその前に入学式に体育館に行く、全員廊下出ろ」

「「えー」」

「席はかえって着てのお楽しみだ」


にやついた顔で生徒を廊下に出した後先生だけ教室に戻り席を書いて戻ってくる。

「じゃ、行くぞー」


それからの入学式はうちのクラスだけ明らかそわそわしてた。


退屈な式も終わり教室へ戻る(みんな速足)。

教室へ戻り黒板に書かれている席を確認、一番後ろ窓際の一つ横の席が僕の席だった。

横も前もまだ自己紹介もしてないので誰かわからないがとりあえずカバンをもって席につく。

まだ窓際の席は空いている。


「となり失礼しますね」

隣の席は天子様だった。

「高木愛衣です、これからよろしくお願いしますね。」


「や、安井こうきです。よろしく」

窓からはいってくるあたたかな光を浴びながら、天使様改め、高木さんは優しく微笑んでいた。


―――――――――――――――


もう彼女と出会って4年目だ。お互い大学生になり、彼女の美しさも留まるところを知らない。

それからも高校生活は彼女と一緒にいる時間も多く、男女間ではありえないかもだけど、親友みたいな関係になった(呼ぶのもこうちゃん、あいと呼び合う仲だ)。もちろん今でも好きだし、彼女も僕のことを好きだと思う。

それでも付き合えていないのは彼女がモデルをやっているからだ。


高校2年のころ町で声を掛けられて僕が、悪質なものか何かだと勘違いしてちょっといざこざがあった。

そのお詫びで一度体験してみたらすぐに人気が出てそれからはモデルとして活動していて、今ではたまにだがテレビに出ることもある。

彼女からの好意はすごくうれしいが、あいの活動のことを思うと一歩が踏み出せないでいた。


「こうちゃん、今日も疲れたよー」

「おつかれさま、あい。晩御飯で来てるから一緒に食べようか」

「帰り遅くなることもあるんだし先に食べていいっていつも言ってるのに」


頬を小さく膨らませながら怒られるが、これもいつものことだ。

あと、うれしさが溢れていて怒っていてもかわいいのもいつものこと。


「あいと食べたいんだよ、あいのために作っているようなもんだしね」

「そう、えへへありがとー」

「じゃあ食べようか」

「「いただきます」」


大学に入学して一人暮らしを僕たちは初めていた。同じアパートに部屋を借りているが、ほとんど僕の部屋しか使っていない。モデルに大学生活と多忙な毎日をおくっているあいのために家事や勉強の面倒を見てあげているうちにだんだんとあいが部屋に戻るのをめんどくさがり出して半同棲状態になってしまっている。


「今日はどんな仕事だったんだ?」

「今日は秋物の撮影、まだ夏なのに先取りも大変だよね。おかげで今日はいつも以上に疲れちゃった」

「ご苦労様、いっぱい食べて元気になってくれ」

「うん、ありがとー」


食事も食べ終わり、洗い物をしていると今日は後ろでチラチラ見ている。大体こういう時は


「後で構ってやるから、ソファーで待ってろ」

「うっ、はーい」


図星を突かれて不思議な顔をしながらリビングのソファーに座っている。

あいの考えていることなんて手に取るようにわかる。まったく何年一緒にいると思ってんだ。

早めに洗い物を終わらせて僕もソファーに座る。

あいの仕事も遅くまであるからもう10時過ぎ。あしたも早いかもしれないし、甘やかす時間もあまりないかもしれない。

チラチラ見てくるあいに両手を広げる。


「あっ」

「おいで、あい」


飛びつくように腕の中に入ってくる。

これは高校二年生になったころに初めてやったんだが、それからもちょくちょくやっている。

基本的に僕の方からするときはないが、あいが特別疲れているときなどにやってあげている。

最初はモデルの仕事にまだ慣れていないころだったか。緊張でガッチガチだったが、いまはさすがにそんなことはない。


「ん~」

ぐりぐりと頭を僕の胸に押し付けてくる。

自分のものだとマーキングするように体を押し付け、それと同時にぼくのにおいを堪能するように

スンスン鼻を鳴らしている。

ぼくは背中をポンポン叩いてあげながら、あいのきれいな髪に触れる。


それに反応してあいがもうない隙間をさらに埋めるように体を押し付けてくる。

柔らかい体がぼくにあたり、あいの匂いがぼくを包む。

なんで女の子ってこんなにいい匂いがするんだろうか。一説には好きな人は匂いでわかるっていうのもあるけど確かにそうかもしれないと実感する。あいも僕の匂いを嗅いでるしそういうことなのかな。


こうしているとぼくの中の独占欲が顔を出す。


部屋に二人、密着状態、お互いに想い合っている。


そんなことが頻繁にあれば押さえつけられた心が騒ぎ出す。


「ねぇ、あい」

「ん~」

「ぼくね、あいが好きだよ」

「わたしもすきだよ~」


ここまではいつものこと、あいは鈍い、マジで鈍感系主人公かってくらいに。

このすきも男女間のものかわかってない。

いつもは今日も伝わらなかったか、とあきらめるが今日のぼくは歯止めが利かなくなっていた。


「あい、こっち向いて」

「ん~」


ぼくの胸に埋めていた顔をあげて見つめ合う。

いつ見てもきれいな顔だ、ぼくの好きなあいの顔。

顔にかかった髪をよけるように手を動かす。

くすぐったそうにして可愛い、そして顔の横で手を止める。


いつものじゃれ合いだと思っているのかあいもうれしそうだ。


顔の距離は数㎝


顔を傾けその数㎝を縮める


唇が触れ合った


「好きだよ、あい」


一瞬だけど確かに感じたお互いの温かさがまだ唇に残っている

赤くなっているであろう顔を自覚しつつ優しく微笑みながら

いつもより好きだって気持ちを込めて言葉を紡ぐ


まだ事態を把握しきれていないのかあいはフリーズ状態

次第に顔が徐々に赤くなってくる


「え、え、え、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ」


プシューと顔から蒸気が出そうなほど顔を赤くアワアワしだす

追い打ちをかけるようで悪いが


「付き合ってほしい」


精一杯の誠意をこめてずっと言いたくて言えなかった

自分の気持ちを言葉にした


あいのアワアワも収まりだした。


「私でいいの?」

「あいがいいんだ」

「私家事出来ないよ」

「いつもぼくがしてやってるだろ」

「甘えん坊だよ」

「どんとこいだ」

「嫉妬深いかもよ」

「いいよ。その分愛してあげる」

「ほんとにいいの」

「じれったいなぁ」


「きみのすべてが好きだ、ぼくと付き合ってくれませんか」

「はい!」


小さなアパートの小さな部屋でムードもへったくれもなかったけど、これもぼくたちらしいかもしれない。

お互いのことが好きなのはバレバレで散々友人たちにも煽られて、それでも付き合ってなかったが、動静が始まってからは大変だった。二人だけの空間に、こちらの好意には鈍感なくせに自分の思いは全身で表現してくるあいに何度理性が崩壊しかけたことか...。

はっきり言ってもうボロボロだった理性の壁が崩壊しかかっている。


「これからもよろしくね、あい」

「うん。でも突然でびっくりしちゃった」

「ごめんね、ちょっとね」



まだ顔が少し赤い。その中でも僕の目を引くのはあいの薄い唇だった。

さっきキスしちゃったんだよな。

もう付き合ったんだし、我慢もしなくていいかな。


さっきと同じようにあいの顔に手を添える。

「きゃっ」と声をあげているが彼女の目からは期待の色が見える。


「あい、もう一回したい。いいかい?」

「うん、いいよ。わたしもしたい」


ゆっくりと瞳を閉じ、ゆっくりと顔を傾けあいの準備も万端。

ぼくもゆっくりと顔を近づける。

唇が触れる。視界いっぱいにあいの顔が広がる。彼女の髪が頬をくすぐる。

そして、改めて唇に感じるやわらかく、あたたかい感触。

唇に神経を集中するため僕も目を閉じる。


今度は一瞬では済ませない、お互いの存在を確かめ合うように長い時間をかける。

やっと一つになれた。そんな思いが僕の理性を溶かしていく。

安心感と、自分の芯が厚くなるような気持ちよさが体を支配する。


小さな水音を立てて、唇が名残惜しそうに離れる。

目を開けると上気したあいの顔。滑らかな頬は赤く色づき、額はほんのり汗ばんでいる。


「えへへ、キスしちゃったね」

「ああ」


二人の間に甘い空気が流れる。まだ近いお互いの顔、存在を確かめ合うように熱いキスをした。

自然と僕の手が彼女の手を握る。あいもうれしいのか指を開いて五指のあいだに挟めてくる。


「恋人つなぎだね」

「うん、ずっとしたかったんだ。二人で出かけるときも手はつないでたけど

 これはできなかったから。うれしい」


とろけた顔が本当にうれしそうに微笑む。ぼくもうれしくてつないだ手をにぎにぎと握り返した。

そうすると、あいも同じようにしてくれる。


恋人だからできること。それがたまらなくうれしくてこんな些細なことでも幸福に感じる。

でも、いまのぼくはもうこれじゃ満足はできない。

つないだ手を一度ほどいて、ぎゅっとあいを抱きしめる。回した手で背中を撫で、あいの耳元でささやく。


「・・・もう一回いいかな?」

「えぇ、だめだよ。今日はもうやめとこ?ね?」


ダメと言いながらもあいは離れない。顔も想像しているのか、また赤くなってる。

でもあの気持ちよさはあいも感じていたはずだ。

ぼくは攻めるために彼女の顎をくいっとつまんで持ち上げる。


「おねがい、あんなの知ったらもう我慢できないよ」

「ええぇぇ、聞いてきたくせに~」


まだ慌てている彼女がさらにかわいく見えてくる。それでもちらちらとぼくの唇を見てきている。


「あーもー、かわいいな」


ぼくは少し強引に彼女の唇を奪う。今度は重ねるだけじゃく、すり合わせるように唇を動かす。

ちょっと抵抗しようとするあいを押さえつけるように、気持ちよくなってもらえるように、抱きしめて頭を撫でてあげる。そうしていると、あいも力が抜けてきて、さらにはあいも動き始める。

少しづつお互いの動かし方がわかってきて唇の密着が強くなる。すると、ふとした瞬間に舌先がかすかに触れ合った。

今までとは違う強い感覚にびっくりして唇が離れてしまう。お互い息を荒げ、離れた唇にはきれいな銀色の橋が架かっていた。

息を整える、すると今度は彼女の方から


「もっとしよ」


とろけた顔で僕を誘ってくる。いつもの元気できれいな顔とはまた違う、色気を感じるような初めて見る顔をしている。

示した合したようにまたキス。今度は最初からすり合わせるように、そして下坂を触れ合わせる。

強い快感が押し寄せる。ぼくは求めるようにあいの舌を捕らえぼくの口に連れ込む。

脳内には水音が反響する。意識がぽーっとしてくる。

あいも舌を求めてよりかましてくる。もうあいと一つになったような感覚、お互いの境目があいまいになり、もう帰ってこれないんじゃないかってほど、より深くより深く絡まっていく。

お互いの頭に手をまわし離れないように。


―――――――――――――――


「ぷはっ」

「はぁはぁ」


何分立っただろうか、あいまいになっている感覚を取り戻すように体を離す。時計を確認すると12時過ぎ。

洗い物が終わったのが10時過ぎだったから。約2時間くらいいちゃいちゃしてたことになる。

ずっとくっついていた唇が離れ空気に触れる、ちょっとピリピリするような感覚がする。

お互いに体力を使い果たしたのか息を荒げ顔を真っ赤にしながら余韻に浸っている。


「こうちゃん、激しすぎだよ」

「ごめんね、テンション上がりすぎちゃったかな」

「もう」

「でも最後の方はあいのほうが情熱的だったような」

「ちがっ」


あいのほうが早く息が整う。モデル業もやってるし体力つくのかな。


「でも、最後の方は確かにそうかもね」

「あいさん?」


ぼそぼそ言いながらこちらにじりじり近づいてくる。

若干目の光がうつろのような。

恐怖心から僕も少し後ずさる。


「あい、明日もあるしそろそろ寝ようか」

「こうちゃん明日何かあるの」

「いや、午後から抗議が」

「私は特にないんだー」


なんで近づいてくるのかな?

こわいよ、あい


「だから、ね?」

「いやちょっと」


後ろには壁、前面には猛獣。打つ手なしかな

ぼくはまだ寝れそうにない。





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