どやすべ
1 全力疾走
僕は走る、疾る、はしる。
無我夢中、胸はバクバク、前からきた自転車とぶつかりそうになりながら。
小雨が顔にあたる、顔が濡れる、風を浴びて気化熱で涼しくなる。
久しぶりのダッシュで脚は疲れて熱くなってきたけど頭は冷やされて落ち着いてきた。
いつ以来だ?この本気走りは。陸上部だった高校以来だろうな。
けど今は陸上大会に出た時以上の緊張感がある。
そんな事を思い返しているとハッと気づく。そうだ!捨てないと、上着に着てるシャツとリュックを。
暑いんだ、重いんだ、もっと身軽になりたい。速く走りたい、遠くに行きたい。
走るのやめてピンク色したアパートのゴミ捨て場に捨てた、走りやすくなった、よーし。
また走り出すと線路にぶち当たる。僕は左に曲がる、広い歩道が次のレーンだ。ヨーイどんっ。
線路が右側に見える、後ろからきた電車が相手だ。負けるもんか、全力で走る、駅をゴールにしよう。
息が切れてきた、あー きつい、電車にはすぐ抜かれた。くそっ、なにくそ、駅までは走り抜けるぞ。
うわあああああぁぁぁぁーーーっ、駅に着いた時には汗が垂れていた、暑い。タイムは?距離は?
頭空っぽで走ったが無心ではない、邪念があった。
僕は悪い事をしたんだ、走っていたのはトレーニングでもレースでもない、逃走ってやつだ。
オレンジ色のタクシーが目に飛び込んだ、額の汗を左手で拭いながら近づくと後ろのドアが開いたので勢い良く乗り込んだが頭をぶつけた、ゴチんっ。
息を切らしながら、ぶつけた頭を右手で押さえながら言った。
「東京駅まで」
2 逃げ旅 タクシー編
東京って車多いなあ、混んでてなかなか進まないや。
先程飛び乗ったタクシーは渋滞でなかなか進まない。早く遠くに行きたい気持ちを悟られないよう自分を抑えながら窓からの街並みを見ている。
曇り空だけど窓から見える緑の木々は綺麗だ、汚いけど川景色も見える。
ふと自分の地元八戸市を思い出す、川があって海があって食べ物は美味しい。
自分が釣ってきた魚をお母さんが煮付けや唐揚げにしてくれた事もあったな。あー お母さんが作った飯が食いたい。
お袋の味ってのを思い出すと少しお腹が空いた感じがした。
そんな事を思っていたら少し肌寒く感じる、運転手が暑がりなせいか車内はクーラーが効き過ぎているようだった。
僕はさっき走って逃げてきて汗だくになったから、汗とクーラーのコンビネーションで体が冷えてきた。しかしクーラー弱くしてくれとは言い出せなかった、コミュ障な自分が嫌になる。
寒そうな素振りをしていたら運転手が察して話しかけてきた。
運転手「お客さん寒いですか?クーラーちょっと弱くしましょうか?」
僕「あっ はい、少し…。」
運転手は若いのに長い距離を頼んだ僕を気にしてるようだった。タクシー乗った駅から東京駅までは電車だと30分位かな。
ちゃんとこの若造は料金払えるのか?そんな事思われていたのかもしれない。
運転手「道混んでますね、電車とかバスの時間大丈夫ですか?」
僕「大丈夫です、まだ余裕あるんで。」
運転手「それは良かったです、どこかお出掛けですか?」
僕「そうですね、友達の所へ…。」
僕は適当にはぐらかした、探られているような会話に気持ちの悪さを感じたのだ。
そんな折、パトカーが横にならんだ。ギクッ、内心驚いて心臓がドキドキした。少し寒かったはずの体が熱くなった。
なんだ、信号待ちかよ。そう安心しながら警官と目が合わないように前を見た。
僕はさっき犯罪を犯してしまったのだ、現場近くから電車に乗ると駅の防犯カメラに映ると思いタクシーに乗った。
そうこうしてる内に東京駅に着いた、料金は7,000円位だった。
やけになっていたとはいえ高い、タクシーに乗った事を少し後悔した。タクシーにも防犯カメラってあるんだ、僕は馬鹿だ…。
運転手は疑いながらも料金を伝えてきたが僕がすぐ払うと笑顔になった。
運転手からのありがとうございましたーを背中で聴きながらタクシーを降りて東京駅の改札口に向かう。
3 逃げ旅 新幹線編
人が多い、スーツ姿の大人がいっぱい視野に入ると僕は東京にいるんだと実感する。
僕も周りの大人につられて急がなきゃと今になって焦り出してきた。
人混みを不器用に進んで新幹線の券売機を探す、コミュ障な僕にはみどりの窓口ではなく券売機なのだ。
電光掲示板を観ると次の発車は新潟行きのmaxときだ、あれだ 早く乗らなきゃ。
長岡までのチケットを買ってホームを目指す、え〜っと 22番線発か。行き先が決まると安心したのかグゥ〜とお腹がなる。
まだお昼食べてないんだ、僕は駅のホームにある売店でカツサンドとお茶を買った。
行き先と言ったって、ただ逃げてるだけ。さっきの事を思い出すと胸がドキドキする、安心してお腹が空いたというのは変な話だなと思いながら新幹線の座席を探す。
ここだ ここだ、僕は席に座るとため息をつく、口の中は乾いていた。
新幹線が動き出すのを確認してからお茶で口と喉を潤してからカツサンドを頬張った。
新幹線のドアが開いてると誰かが自分を捕まえにくるんじゃないかと怖かったから。
こんな精神状態でもカツサンドは美味しかった、窓から見える景色がドンドン速く流れて目で追えなくなると僕はようやく落ち着いた。
4 振り返ると
もうここでいい加減吐き出しておこう。
僕はタカ、青森県出身の19歳だ。恥ずかしながらまだ童貞である、彼女が出来た事はあったが一週間で振られた。
理由はアイドル好きな事をオタクだと思われたみたい、ちょっとハロプロに関してツィートしてただけなのに。
思えば学生時代迄はそれなりに充実して楽しかった、クラスの中では見た目は派手で目立つ方ではなかったけど陸上部に打ち込んでいて青春の炎はそこで燃やしていた。
コミュ障で人付き合いは器用じゃないけど陸上を通じて仲の良い友達はいた。
学校の中では僕は何軍だったろう?二軍か三軍?
毎日が楽しくなくなったのは去年高校卒業後に工場で働くようになってからだ。
元々働きたかった訳ではない、大学に進学して陸上を続けたかった。けど家が裕福じゃないから卒業後は働くことに。
お父さんに奨学金は返すのが大変だから辞めとけと言われ怖気付いてしまった、進学は諦めた。
フリーターはいかんと言われたので、地元の工場に正社員で入った。工場なら黙々と出来ると思ったから、コミュ障な僕はお店で接客するとか考えられなかったんだ。
勤務先まではチャリンコで通った、近くて最初は良いと思ったが工場は自分の想像以上に人間関係がめんどくさい。
僕は正社員なのに古株のパートは態度デカイしコミュ障な僕はあのおばちゃん達との接し方に困った。
同期の爽やかイケメンはおばちゃん達にチヤホヤされていて格差を感じた、くそっ 何で僕だけ。
内向的な性格もあって上司や先輩にも自分の気持ちを伝えられず、意思疎通がうまく出来なくて怒られてばっかだった。
春には軽やかに漕いでいたペダルも次第に重く感じるようになっていて、エアロバイクを漕いでるかのような負荷がかかっていると感じていた。
結局僕はその年いっぱいで工場を辞めた、嫌だったし冬になるとチャリンコは危なくて通勤で使えなくなるからだ。
仕事を辞めると言った時お父さんには怒られたけど、年末年始はお酒を飲んでご機嫌だったようで年明けには、
「おまえも今年こそ自分に合った仕事見つけろよ、応援してるぞ。」
とお年玉をくれた、お父さんは東北の親父といった感じで言葉数は少なくて真面目で厳しい人柄だ。そんな親父が… 嬉しかったな。
ツンデレ女子は可愛いけど、ツンデレオヤジも癖になりそうだ。
再就職には少し時間がかかったけど今年のGW明けから、なんと東京で働く事になったのだ!今度は警備会社だ、体力には自信があるし自分にぴったりだと思った。
東京で働く事にしたのは実家を出てみたい気持ちもあったし、秋葉原に行きたいと思っていたから。
ネットとかテレビで観ていたけど、リアル秋葉原ってどんな感じだろう?僕はちょいオタク寄りかもしんないけど、オタクの街だからデブではない痩せマッチョの僕ならメイドの彼女が出来たりして、ムフフ、そんな期待を抱いて僕は上京した。
両親はまだ未成年での一人暮らしは心配だけど会社の寮ならと喜んで送り出してくれた。お父さんは特に喜んで奮発して函太郎に連れて行ってくれた。
家の近くにあるんだけど、グルメ回転すしというだけあってネタが大きくて美味い!かっぱ寿司とかスシローより値段は高めなんだけどね。お母さんも美味しそうに真鯛を頬張りながら、
「タカもここの寿司ネタ位大ぶりになりなさいよ、今度帰ってくる時はお父さんとお母さんにご馳走してね。」
変なはげましだなと笑ってしまった、お父さんは、うんうんと頷きながらおちょこをクイッと上げる。
「たまには顔見せに帰ってくるのよ、お母さんいつでも待ってるからね。」
穏やかな夕食の雰囲気と母からの愛情を感じて僕はこの時久しぶりに嬉しくて幸せだなと思った。
そして僕は巣立った、八戸から東京には南部煎餅を食べながら南下した。気持ちは青森県代表だった(笑)
思い返していると長岡に着いた、やっぱ新幹線は速い、当然ながらウサインボルトよりも圧倒的に速いのだ。
僕はサササササッと素早く降りた。
5 鯉の町
あれっ?長岡駅から出てロータリーに出ると僕はがっかりした。なんだ思ったよりも都会だな、田舎の景色で僕の傷を癒したかったのに。
なんとなく長岡に来たのは花火大会が有名と聞いた事があるから、漠然と綺麗なものを見れるんじゃないかと思った。
けど夏前のこの時期じゃ花火なんか見れる訳もない、時間だってまだ3時過ぎの明るい時間だ。
さっきの東京駅ではそんな余裕がなかったのだ、僕はその場で周りをキョロキョロ見回すと駅に引き返した。
どうしようかな、在来線に乗り換えるか。僕は小千谷という名前が気になって上越線に乗る事にした。
小さな千の谷?田舎の風景が思い浮かんだ、そこなら今の僕のが求めている風景がありそうだと思った。
上越線で揺られながらスマフォで調べると小千谷は錦鯉が有名のようだ。
そういや、おじいちゃん錦鯉好きだったな。広い家に池を作って錦鯉を眺めて、のんびり暮らせたらどんなに幸せかと。
小さい頃の僕がおじいちゃんに「僕が大きくなったらそのおうち作ってあげるね!」って言うと、おじいちゃん嬉しそうな顔してたな。その後でミニストップでソフトクリーム買ってくれた、美味かった。
ガタンゴトン、川がすぐ近くに見えるようになると小千谷にはすぐに着いた。
改札を出ると良さげな風景が飛び込んだ、道が真っ直ぐ続く先に山が見える。
あんまり栄えてない感じの街並みが心地よさを感じた。
なんだありゃ?鯉のでかい口に人が吸い込まれてる、近づいてみてみると錦鯉の形をした地下通路の入り口だった。驚きながらも僕は階段を降り山の方向に歩を進めた。
両側のステンドグラスを抜けると地上よりいくらか涼しい。
鯉から吐き出された僕はスマフォで小千谷を調べた、錦鯉の里というのがあるらしい。歩きだと20分位か、行ってみよう。
デカイ川を超え行ってみると立派な施設だった、でかい水槽に沢山の錦鯉が泳いでたり、庭園の池が沢山あって中では悠然と泳いでる。錦鯉って鮮やかな色が何色も泳いでて綺麗だな、見ていると心が落ち着いて来る。
僕は今年の冬二十歳を迎える来年の1月には地元で成人式がある、きっと振袖を着てくる大勢の女子達はこんな感じで綺麗なんだろうな。今見ている錦鯉と成人式で見れるであろう女子達が重なった。
けど、この先の事を思うと心が落ち着くどころか落ち込んでくる、はぁ〜。
落ち込んだ気持ちを抱えつつ僕は錦鯉の里を後にした。さっき超えて来たデカイ川を見に行きたくなった。
信濃川というらしい、少し歩いて川辺を探す。川が良く見える場所を見つけると、陽がだんだん落ちていくのを感じながら腰を下ろした。
6 信濃川のほとりで
もうすぐ夕暮れか、信濃川は初めてだ。黄昏スポットとしては申し分ない。黄昏ながら振り返るとする。
東京では今度はしっかり仕事を続けようと心機一転決意した、住むとこは会社の寮だった。
寮は青森から出てきた僕にとっては立派なマンションのようで嬉しかった、早くも出世したかのような気がした。
東京の大企業で働いて立派な社員寮に住んでる俺ってどうよ?地元八戸の奴等に自慢したくなり気持ちがワンランクもツーランクも上になった。
順調に新任研修を終え配属もされた、元々の勤務形態である朝10時から翌朝10時迄という勤務が始まりしばらくすると僕の心身は悲鳴をあげた。
面接の時点で説明を受け分かってはいたつもりでも想像以上に肉体的、精神的にも辛く辞めてしまいたいと思っていた。
東京に出てきて誇らしげだった気持ちはへし折られていた。
一人暮らしの面でも毎日コンビニやスーパーのお弁当、お惣菜を食べていると持病の皮膚炎が悪化して辛かった。
お母さんの手料理が恋しくなり、家を出て親の有り難みを噛み締めていた。
完全にホームシックにかかっていた、そして一人暮らしをしてからこんなにも自分はマザコンだったのかと思い知った。
戦時中特攻隊や兵士は最後母の名を叫んで死んだという気持ちが良く分かった。それからしたら僕の状況など比較するまでもない屁みたいなもので、只の平和ボケなんだけど、それ程母親が恋しく僕は追い詰められていた。
いっそ仕事を辞めて八戸の実家に帰りたいと思い始めてきたが、前職の工場を8ヶ月で辞めてしまったのと、上京を賛成してくれた両親に申し訳ないという負い目から親には相談出来なかった、せっかくお父さんが奮発して函太郎に連れて行ってくれたのに。
本当に自分が情けなかった、不甲斐なかった。知らない地で知り合いもいなくて不満や悩みを吐き出す事もできずコミュ障で誰にも相談出来なかった。
思いつめた僕はとうとう眠れなくなった、負の感情が最高潮に達した。自分でもどこに気持ちを持って行けば良いのか分からない。
その時に卑怯な考えがよぎっていた、犯罪を犯せば今の生活を壊せる。今の状況から逃れられるんだ。
もうまとも精神状態ではなかった、その時僕はそうするしかないと思いこんでいた。
そう思った休みの午前中フラフラと外に出た、寝不足で頭はボーッとするものの気持ちは高ぶりどこかギラギラしてる僕がいた。
背負ったリュックにはアレを入れて…。
7 僕の罪
寮を出てフラフラ歩いていると、程なくして前方に小柄な女性が歩いているのを見つけた。小雨が降っていたからその女性は傘を差していた、ピンク色の傘が女子っぽい。後ろからのシルエットに何とも言えない愛嬌を感じた。
僕はしばらくその女性の後をつけるように息を殺しながら歩いた。
道を曲がる時に横顔が見えると、その女性は肌が白くて眼鏡を掛けていた、髪は栗色で後ろで束ねている。清楚でおとなしそうだなと思った。
話し掛けてみたい、僕はそう思いながら考えた。ナンパなんて高等技術は僕にはない、イケメンかパリピ系の特権だと思っていた。
今の毎日をぶっ壊して変えたい、そう思っていた僕はいつもより大胆になりたかった。
そうだ、道を知らないふりをして話し掛けてみよう。優しそうな人だし少しは会話が成立するだろう、そう思いながら声を掛けてみた。
僕「あの〜 すみません。」女性は少し警戒気味に僕を見た。並ぶとなおも小柄で可愛らしい人だった。
僕「田舎から出て来て、道が全然分からなくって。駅までの道を教えてほしいんですけど、良かったら途中まで一緒に行ってもらえませんか?」
女性「えっ、ああ… はい、途中までなら…。」女性は驚きながらも断れなかったのか行ってくれるという。
僕「ありがとうございます、助かります。」ああ、予想通りの優しそうな人で良かった。しかし一緒に歩く事は出来ても次にどんな風に喋れば良いか分からなくなり。無言の状態が続く、その女性はいい加減気まずいと思ったのか。
女性「田舎から出て来たんですか?大変ですね。」と聞いてくれた。
僕「そうなんです、青森の八戸から出てきて、慣れなくって。」
女性「青森なんですか〜 私も秋田出身なんです、慣れるまで苦労しますよね?」女性が少し笑顔になる、だから白くて綺麗なんだと合点がいった。
僕「あ〜 そうなんですか、お姉さん秋田美人ですね。」僕から柄にもなくそんなセリフが出たが、本心だった。
女性「そんな事ないですよ〜。」笑ってくれた。女性との、しかも好みのタイプとの久しぶりの会話に舞い上がりながらも楽しい時間はあっという間に終わった。
女性「じゃあ私はこっちに曲がるんで失礼します。お兄さんはあの線路沿いに左に歩いて行けば駅に着きますよ。」と線路を真っ直ぐ指差して教えてくれた。
僕「ああ… ありがとうございました。」僕は名残惜しさを感じながら秋田美人の背中を見送るしかなかった。
ああ、落胆した気持ちを抱えながら駅の方に向かい彷徨った。
これから何をしようか、悪い事をしようにも不良経験の無い僕にはハードルが高い。道行く人に喧嘩を売ろうにも反撃が怖い、痛いのはやだ。
うるさいバイクに乗り回している奴のバイクを奪ってバイクをぶっ飛ばす、そんな尾崎豊のような真似も出来ない。僕はバイクになんか乗れない。くそっ もっと男らしくなれたらいいのに、EXILEみたいに。
HiGH&LOWみたいな世界は僕にとって異次元でしかない。パッと思いつくのは陸上で鍛えた脚力を活かしての食い逃げ位か。
ステーキのチェーン店で1万円分位食いまくって食い逃げしたら、田舎の少年達の間では即英雄扱いされる位のワルさ加減だろう。
よしっ 素早く動けるように靴を買おう、僕は大通り沿いにある靴屋に入った。
涼しい店内の中で僕はランニングシューズを手にした。買ったものはビニール袋に包んでリュックの中に入れた。
その後靴を履き替える場所と今の自分にできるであろう悪さをする為に徘徊した、リュックを背負いながらブツブツ言いながら歩く僕ははたから見たらキモかったかもしれない。
そうこうしてると何とさっきの秋田美人を見かけたのだ。彼女はさっきのようにピンクの傘を差していた、僕は嬉しくなった。さっきの優しい彼女ならこんな僕でも受け入れてくれるかもしれない。僕の現状を聞いてくれるはず。
ホームシックだった僕は勝手に男の子が母親に対する想いのような期待をした。
運命なのかな?2時間ぶりの偶然にテンションが上がった。
僕は彼女の後をつけた、人気が無くなった道に入るとサササササッと彼女に駆け寄り再度話しかけてみた。
僕「あの〜 さっきのお姉さんですよね?さっきはありがとうございました。」
彼女は少し不審に思いながらも対応してくれた、調子に乗った僕は続ける。
僕「さっき駅前で用事済ませたんで靴を買ったんです、僕俊足なんで。」
女性「はあ、そうですか…。」
さっきよりもつれない気がした。けど余裕がなかった僕は自分の身の上話がしたくなった、とりあえず話を聞いて欲しかった。
僕「今日は休みなんですけど、仕事がキツくって。朝の10時から翌朝10時の24時間勤務なんです。」
女性「えーっ!それって大変ですね。ずっと起きてるんですか?」
彼女は少し興味を持ってくれたようだ。
僕「仮眠を交代で取りながらなんですけど、なかなかすぐ寝付けないからずっと起きてるようなもんです。」
女性「それは大変なお仕事ですね、労働基準法とかに違反してるんじゃないんですか?」
僕「どうなんですかね、これってブラック企業なんですかね?とにかく寝不足で…。」
女性「お兄さんお若いのにキツいなんて激務なんですね、お疲れ様です。」
僕は癒されるような会話にこんな人が彼女だったら良いなと思った。小さくて可愛くって優しくて癒されるなあ。
年はいくつ位だろう、20代後半から30代前半といったところか。
しばらく彼女と並んで歩きながら勝手に充実感を感じていた、そして僕は聞いてみた。
僕「お姉さん結婚してるんですか?」
女性「はい、そうですね。」
僕「……… そうなんですか…… 」
撃沈…。ショックだった、勝手に期待して好意を抱いた僕が馬鹿みたいにだった。
世の中の全てから見放された気分だった、そして僕は黙り込んでしまった。
彼女は少し気まずさと不審さを感じているようだ。
女性「まだ寄るとこあるんで私こっちに行きますね、失礼します。」
彼女はすぐにでも離れたそうに去ろうとした。
行くなっ!僕の元から勝手に離れるな!結婚してるのに何で僕に優しくしたんだ!弄びやがって!指輪をしてなかったから勘違いしたじゃねえか!
自分勝手でドス黒い感情が湧き出てきた。タコとかイカは天敵から逃げる時に墨を吐くというが、きっと今の僕がタコやイカなら獲物を捕まえる時逃がさないよう真っ暗にして視界を奪うのに使うだろう。
胸の中から湧き出たドス黒い感情を墨にして吐き出して彼女を追い詰めてやる、彼女を支配してやる、そんな気持ちだった。
僕にそんな超能力は無いけどリュックの中には家を出る時に入れたアレがある、包丁だ。
自分でも驚く位スッと取り出した、取り出した右手で包丁を彼女に向けた。
「待てっ!」そう言うと彼女は驚いた様子で目が大きくなった、僕の胸はバクバクして今までにない緊張感だ。
「うごぉくなぁよんっ!」動くなよと言ったつもりが声が上ずってしまい震えてしまった、凄いキモい言い方だったと思う。
思い切ったものの、この後どうしようか。行き当たりばったりな行動だけどもう引けないので彼女に包丁を向けたまま迫る。
そうするとその秋田美人は小柄な体からは想像もつかないような大きな声で、
「ぎゃああああぁぁぁーーー!殺されるーー!誰かあーー!助けてーー!わあああああぁぁぁーー!」
と騒ぎ出した。頭が真っ白になった僕は黙らそうと近づこうとするが差していたピンクの傘を大きく広げて向けられ必死の抵抗をされた、とても強固なガードだった。
桃太郎に成敗された鬼になった気がして、僕はどうにもならなくなった。僕の前進が止まると彼女は脱兎の如く逃げ出してしまった。
僕もオロオロしてしまいその場から立ち去った、陸上で鍛えた脚力で。
もうそれからの事は逃げる事しか考えていなかった。
しでかした事を振り返り、ため息をついて空を見上げるとだいぶ日が暮れていた。
ああ、今日起こった事も信濃川の流れのように水に流れれば良いのに。
どやすべ… 僕はそう後悔していた。
8 犯罪初夜
日が暮れた信濃川のほとりで僕は後悔していた、自暴自棄になっていたとはいえ何故あんな事を…。
不満だらけの日常を壊すつもりが、大それた事をできず怖くなって逃げただけ。逃げる事しかできず余計に追い詰められている。
誰にも正面から向かって行けず、自分より弱そうな女性を狙い、それすらも怖くなって未遂に終わる。
普通に考えて卑怯で最低な行為だ、全てが半端者の自分が情けない。僕は悪党にもなれず真面目に生きてく事もできないのか?
完全に見失い人生の迷子になっていた、やった事は後悔してるけどあの町には怖くて帰る気がしない。
決まった、今日はここに泊まって行こう。
僕は段々と日が暮れて行く小千谷を歩いた、そういえばさっき錦鯉の里の近くにビジネスホテルがあったな。
少し前の記憶を辿ると橋の袂にあるビジネスホテルに着いた、一人で旅行や宿泊予約などもした事ない僕はスマフォで料金などを調べてから入った。
フロントに聞いてみると空きがあるのでそのまま宿泊する事に、初めての体験してだったがフロントの人は慣れた様子で手続きをして鍵を渡してくれた。
エレベーターを上がり部屋に入る、狭い部屋だけど効率良い配置の部屋にだった。窓からはそばを流れる小さな川が見える、タバコの臭いが気になったので小さな窓を開けた。
んっ?全部開かない、くそっ ちょっとしか開かないようになっているのか。
僕はベットに腰を下ろすと今日は随分汗をかいたなと思い出した、部屋にある狭いシャワーを浴びる事にした。
心身共にカチコチになっていた気がするのでシャワーの温度は熱めにする。ああ気持ち良い、汗と共に邪念が流れていく気がした。
熱いシャワーをしばらく浴びるとだいぶほぐれて体が楽になってきた。体を拭きながら部屋に出ると涼しげな風が入り込んできた気持ちよかったけど、まだタバコの臭いが残っている。
部屋の時計を見ると7時半を回っていた、ちょうど飯時だ。僕は少し悩んだコンビニやスーパーで買ってきてこの部屋で食べるか、周辺のお店に食べに行くか。
純粋に旅行で来てる訳じゃないので外食するのを躊躇ったが、もうコンビニやスーパーのお弁当には飽き飽きしていた。
今に至るまで全てが中途半端だったからご飯位は冒険してみよう、外に出る事にした。
小千谷の街を歩くと風が涼しかった、ホテルの部屋はタバコ臭かったので尚更爽やかな風で空気が美味く感じた。
ビジネスホテルを出て10分程歩くと赤色の幌から黄色い灯りが漏れている、何処にでもありそうな町の中華屋だ。
昼間錦鯉を見たから赤に敏感に反応したのかもしれない。店の前には配達用のバイクがラフに置かれている、ここにしてみようかな。
どこか懐かしさを感じながら暖簾をくぐり扉を開けると人の良さそうな中年の夫婦でお店を切り盛りしていた。
15席位のお店には僕の他に作業着姿のおっちゃん3人と子供連れがいた。
「いらっしゃーい、何名様?」中華屋のお母さんに聞かれたので僕は「一人です。」と答える、「カウンターにどうぞー。」とカウンターに案内された。
僕は出された水を飲みながらメニューを見るとおっちゃん達が食べていた酢豚が美味そうだったので、それにする事にした。
中華屋のお母さんと目が合ったので「すみません、酢豚定食と餃子を下さい」と注文した。「あいよー 酢豚定食と餃子ね。」伝票に書きながら厨房に入ろうとする中華屋のお母さんを僕は呼び止めるように後ろから「ビールも下さい!」と言った、人生で初めてお酒の注文をした。
中華屋のお母さんは「はーい ビールね。生と瓶があるけどどっちにする?」と言う、僕は生の意味が分からなかったので瓶と答えた、実家でお父さんが瓶ビールを飲んでるのを思い出したのだ。
すぐに瓶ビールとコップを持ってきてくれるとなんと中華屋のお母さんはビールを注いでくれた。「はーい お疲れ様です、ゆっくりしてってね。」
人の優しさに触れて僕は嬉しかった、「ありがとうございます!」飲み慣れないビールを口に含むと苦くて口の中がピリピリした、普段僕は酒も煙草もやらない。
大人の階段を一歩登った気分に浸りながら注文したのを待つ。先に餃子が来た、程なくして酢豚定食もきた。
酢豚は黒酢のやつでパイナップルが入っていた。美味しくて箸が進んだ、僕はご飯をかきこんだ。
餃子、酢豚、ビールのトライアングルをしながらおっちゃん達の会話に聞き耳を立てると仕事の愚痴とかを語り合ってるようだった。
僕もあんな風に言い合える同僚がいたら良かったのに、こんな風にはならなかったのに。
気分が落ち込んだけど、中華の美味さがそれをなだめてくれた。久しぶりに真心が入ったあったかいご飯を食べて満足だった。
完食して会計すると帰り際に中華屋のお母さんが「ありがとうございました、また来て下さいね。」と声をかけてくれた。
僕は嬉しい余韻にひたりながら外に出た、店を出るとあたりはすっかり暗くなっていて少し歩くと急に寂しくなった。
さっきの中華屋あったかい雰囲気の良いお店だったな、名残惜しさをかんじた。
今日の事もあり寂しい僕はこのままでは夜に勝てないと思い、コンビニに寄りお酒を買って部屋に戻る事にした。
缶酎ハイ2本とウィスキーの小瓶を買った、部屋に戻るとさっきよりはタバコの臭いがましになっていたが虫が入り込んでいた。
ベッドに大の字で寝転ぶと今日1日の事を振り返る、冷静に考えると怖い。僕はどうなるんだろう、警察に捕まるのかな?そうなら仕事もクビだな。
寮だって追い出される、けど一方では捕まらないのでは?と期待してしまう自分もいる。
自分が分からなくなる、だって証拠だって隠滅したし目撃者だっていないのだ。
耐えきれず僕は缶酎ハイを開けると飲み干した、喉が渇いていた。甘くて飲みやすい、ウィスキーはワイルドにラッパ飲みなんて怖いので部屋のコップに入れて舐めるように飲んだ。
かぁっと口の中、喉が熱くなった。僕には強すぎたようだ、自分が未成年だと再認識した。
おじいちゃん元気かな?しばらく会ってないけど錦鯉を見たので気になっていた。
スマフォを取り出して発信した、8回目のコールでおじいちゃんが出た。
おじいちゃん「もしもし?」
僕「おじいちゃん僕だよ、タカだよ。久しぶり。」
おじいちゃん「ああ、タカか。久しぶりだな元気か?」
僕「うん、元気だよ。」
おじいちゃん「そういや東京行ったって聞いたけど。」
僕「そうだよ。」
おじいちゃん「凄いな!偉いぞ、花の都大東京で働くなんて。」
僕はチクンと胸に刺さるものを感じながらも「まあね」と答えた。
僕「おじいちゃん、それよりね、今日錦鯉見てきたんだよ。錦鯉好きだったでしょ?」
おじいちゃん「ああ、好きだ。錦鯉は良いぞ。どこで見てきたんだ?」
僕「新潟県小千谷市にある、錦鯉の里って施設だよ。本当に凄かったんだ。」
おじいちゃん「休みだったのか?良かったな、今度帰ってきたら写真見せてくれな。」
僕「うん、動画沢山撮ったから今度遊びに行った時見せてあげるね。いつ行けるかは分からないけど。」
おじいちゃん「ああ、東京で忙しいだろうから、すぐじゃなくていいよ。落ち着いてからでな。あっ タカ、もう時期夏になるな。東京の夏は暑いって毎年ニュースでやってるからおまえも体に気をつけろよ。熱中症で倒れたりするなよ。」
僕「……………」優しい言葉をかけられて熱いものが込み上げてきて言葉が詰まった。
おじいちゃん「んっ?タカどうした?」
僕「何でもないよ、ありがとう。おじいちゃんも元気でいてね。また電話するから、じゃーね。」
そう言って通話を切った。目から涙が溢れた、僕の事を心配してくれる人がいるのに僕は何て事を…。今日1日の出来事を激しく後悔しながら嗚咽した。
実家の両親にも電話しようとしたけど、申し訳ない気持ちで出来なかった。親の声を聞いたら泣いて言葉にならないと思ったから。
涙を拭くとまた缶酎ハイを開けた、泣くと喉が乾く。
明かりを消してベッドに横たわると記憶が途切れた。
んーっ。寝てしまったのか、部屋の時計を見ると真夜中の3時だった。まだ窓の外は暗かった。寝不足が続いたのと女性に対する犯罪行為、お酒を飲んだ事で疲れ切っていたようだ。
中途半端な時間に起きたけど、よく寝れたようで頭はすっきりしていた。その頭で結論を出した、今日あの町に戻って出頭しよう。
あの女性に対して、自分の家族に対して僕は最低な行為で裏切ってしまった。自分の弱い部分に対しても逃げたくなかった。
そう決心すると僕はシャワーを浴びて身を清めた、薄いけど髭も剃った。
まだ朝方だ、アウトまで部屋にいよう。外に出る事で自分の決心を変えたくなかった。
しかしいざ出頭するとなると怖くてガタガタと震えがきた。両親、おじいちゃん含めた家族には怒られるだろうし苦しい思いをさせてしまうだろう。
逮捕されたらどうなるんだろう、厳しく取り調べとかされるのかな?僕はまだ19歳だから少年院に入るのか、そこから出れたとしてもこの先どう生きて行けば良いのか?僕なんかに務まる仕事はあるのか?
今までの人生の挫折から、思い詰めると寝れなくなった、窓の外は明るくなってきている。
色々考えていても今日という1日が押し寄せて来る。怖い、逃げない、怖い、逃げない。まだ自問自答を繰り返してしまう。
世の中が動き出す時間になると、僕は朝食を食べようと下に降りた、ビジネスホテルの小さなレストランでは500円で【地元食材をふんだんに使った栄養満点の朝食バイキング】をやっていた。
僕は今日これからの事を考えると栄養をつけておこうと思い食べる事にした。自由に食事できるのはしばらくないと思うし、ブタ箱の飯はクサイ飯っていうしな。
お腹いっぱい食べて部屋で休んだ後、僕はチェックアウトし小千谷の町を後にした。
9 あの町へ
小千谷駅から電車に乗り、長岡から新幹線に乗って東京に戻る、東京メトロに乗り換えあの町へ向かう。
しかし僕はこの間の事は覚えていない、何処にどう出頭しようと緊張していた。
覚えているのは人が多くて暑いなあという事だけ、もう夏目前なのだ。
昼下がりにはその町の駅に着いた、どうしようかと駅前を歩いた。
ロータリーに駅前交番があるけど直ぐには入れなかった、何回も行ったり来たりしてしまう。
怖い、どうしよう、お母さんお父さんおじいちゃん、胸がドキドキして苦しくなる。
たまらず駅に隣接したロッテリアに駆け込む、緊張感からか胃がムカムカして食欲は無かった。
胃をなだめる為にシェーキのヨーグルト風味だけ頼むと交番が見える窓際の席に座った。
交番の見ながら行こう行こうとするが足が向かわない。シェーキを吸いながら張り込みの刑事のように交番を見てるしかなかった。
交番の前ではたまに警察官が出てきて立ったりしていた、その制服の威力に僕は圧倒されて出ていけない。
気を紛らわすように自分の罪はどれ位の処罰になるのかスマフォで調べたりした。
結局2時間程シェーキ一杯で粘りながら僕は決めた、よし 行こう。もう逃げないで向き合うんだ。
自首をする為一直線に交番に向かう、その交番は三角屋根の年季の入った平屋だった。
ちょうど入り口で立番してる警察官はおらず僕は緊張しながらも戸を開ける、胸が飛び出しそうな思いだった。
戸を開けると中には警察官が2人いた。
警察官「こんにちは、どうしました?」緊張してどんな顔だか年齢だかも覚えていない。警官の制服と帽子を着用しているのっぺらぼうにしか見えない。
不思議な感覚で僕は頭が真っ白になった。
僕「あのっ… 道を教えて下さい…。」
僕はとっさに嘘をついてしまった、怖くなったのだ。
警察官「はい、どちらまでですか?」
僕「……………」
警察官「どうしました?」
僕はとっさについた嘘をつき続ける事が出来ず黙り込んでしまった。
緊張、恐怖が入り混じりどうしても口から言葉が出ない。
僕「あのっ… えーっと… そのっ…」「…………」完全に僕は動揺していた。
その内に警察官同士で、「どうした?」「いや、こちらの方が道を尋ねてきたのですが様子がおかしくて。」「どうしたんだろな。」「んっ?署から回ってきた不審者情報の男の写真に似てる気が…。」「確かにこんな雰囲気だ。」「署に確認して刑事課に応援を。」
ヒソヒソ… ヒソヒソ…。
やばい、僕は怖くなって交番から立ち去ろうとした。そんな僕を察してか警察官が出口に立ち行く手を阻む。
警察官「ちょっとお兄さん、聞きたい事有るから座ってもらえる?身分証とかあるかな?」
僕「あっ… はい。」座らされた僕は観念した、終わったな。そう思うとどこかホッとした自分がいた。
しばらくすると刑事が大勢来て乗って来た捜査車両で警察署に連れて行かれた。
何でこんな大勢で来るんだ?不謹慎だけど僕のような人間が大勢の人に注目されているというのがちょびっと嬉しかった。
警察署に連れてかれた僕はすぐに自白した、自分で決めて実行するよりも他人に促されて罪を認めるのは驚く程楽だった。
けどそれをするのは勇気がいることだ、僕は一度は自首すると決めたけど最後の最後で逃げて嘘をついてしまった。
そんな情けなさを懺悔するかのように事件の事を自白した。
取り調べや現場検証がひと段落して留置所に入れられると、ああ 僕はこれからどうなるんだろう?いつまで身柄拘束されるのかな?きっと10代最後の夏はシャバで過ごせないだろうな。
蝉じゃないけど、塀の中でじっくり考えて自分に向き合ってしっかり反省してちゃんと成長してから外に出よう。
外に出る事ができたら不器用でもいい勇気を持って人に気持ちを伝える事のできる大人になろうと思った。
その手段は暴力ではなく、相手の事を思いやれる言葉で。
6月下旬でまだ蝉は鳴いていないが、もう夏が来る。そう思いながら僕は深く思った。
〜完〜
あとがき
この少年はニュースで報道されるよう重大な事件ではないが、とても愚かな事をした。
大人しい少年がある日ぷつんと切れてしまった、平凡な事件だけどもしかしたら誰にでも起こりうる事かも知れない。
また被害者も殺されたり大怪我をしていないので、被害の有無で言えば大した事件ではないのかもしれない。(精神的な傷、影響についてはこの際触れないでおきます。)
よく考えて欲しい、自分が愚かな事をすれば周りには大変な迷惑がかかり、悲しむ人傷つく人心配する人がいる事を。
【もうこんな馬鹿な真似は二度とするんじゃねえぞ。】
この少年に何か言葉をかけるとしたら、こんな言葉だろうと思う今日この頃。
平成30年9月初旬