六
大鎌を持たせて外に出させて冒険者ギルドなんて匂わせてみたは良いものの、戦闘する未来が全く見えない……。この状態から想像してる展開まで、さてどうやって持って行けば良いのん……?
さて、お城の外に着いたわけだが、これからどうしようか。
『異世界系のテンプレとしては冒険者ギルドだけど……』
果たしてこの世界にあるのだろうか。無いとしたらどうやってお金稼ごうかね。高校生男子の脳ミソには淫らな妄想しか浮かばなくなってしまうでござる。
クラウ、綺麗だからなぁー。まじ石原さとみより綺麗。
「冒険者ギルドはあるわよ?」
『ああ、ほんと?それは良かった。じゃあ早速向かお……』
「町に出たことが無いから、どこにあるかは判らないけど」
『うかぁ……』
そっかー道知らないかー。知ってるわけ無いよなーお姫様だもんなー。
あのクソ爺神何考えてやんだよ。俺の武器生、ハードモード過ぎ……っ?
人に聞こうにもクラウの今の格好はフリフリドレス。クラウディアという人物を知らなくても一目で上流階級の人間とわかってしまう。
どうせ貴族と市民的な、差別あるんだろ?もうなんとなく読めたよ。
中世ヨーロッパに不思議パワーぶち込んだ感じね。はいはい把握把握。
『取り敢えずそのひらひらドレスをお金に変えつつ安心して道が聞ける、服屋さんにでも行きますか』
流石にお客さんに嘘をつかないことを願って。
「いらっしゃいませー」
町の中を何度も何度も迷子になりながらようやく服屋にたどり着いた。ここら辺の地理難しすぎだろ。何で服屋がこんな裏路地にあるんだよおかしいだろ。
何はともあれ、見つけたからにはこっちの物だ。さっさとドレスをうっぱらって普通の服にシフトチェンジしなければ。
服屋の中は何と意外なことにハンガーがあり、それに一着一着かけられている。ちゃんと試着コーナーもあるみたいで、異世界にしちゃ中々生活水準が高めだ。なのに何で服は異世界的なままなのか、うーん異世界って不思議。
……ん?何か重要なことを忘れている気が。
「お洋服をお求めですか?お客様お綺麗ですねー。今流行っているのは……」
うわー服屋の店員ってこの世界もこの調子なのか。多分何も言わなかったらラジオみたいに最近の流行について語り続けるからな。コミュ障にはこういうタイプの店員ほんと駄目。話しかけられた途端「あ、はい、あの、えっと~はい、あの~ですね?うん、はい……」みたいになる。
……クラウコミュ障だよな。大丈夫か?
『お、おいクラウ。大丈夫?』
「……」
やべえなんか駄目そう。顔青くしながらぷるぷるしてる。涙目になってる。えなんか口元押さえて……もしかして、吐きそう!?
クラウさんゲロインですか!?
えーまじか。俺選んじゃったのゲロインだったか。うわー人選ミスったわー。
……てか冗談抜きに、どうするよ?コミュ力無いと言っても限界があるぞ。まさか話しかけられると吐くぐらいだとは思わなかった。
話さずに相手に意思を伝える方法?んー……?
文字にして読ませるぐらいしか思いつかないな。仕方ない。レジにあるメモ用紙を少々拝借して、用件を伝えて貰おう。
『クラウさーん!吐かないで、吐ーかーなーいーでー!俺の女子に対する幻想が脆く崩れ去っちゃうからねー!』
『え、ええ……。まだ、大丈夫よ……』
『その言い方からして大丈夫じゃ無いんだよなぁ……』
あ、そういえば余談だが、服屋を探してる間、クラウが武器に向かって話しかけるのはやばい奴だから何とかしようって事になって色々試したら、クラウは俺にだけ念話?みたいのが出来ることが判った。流石クソチート武器。クソ爺アウターケアちゃんとしてるところは高評価。でもそれ以外がゴミクズだから結論ゴミクズ。
『レジにあるメモとペン使って書いたらどうだ?それなら直接話してはいないから行けるんじゃ無いか?』
『……!それは良いアイデアね……!流石ユキ!早速やってみるわ』
よし、これで上手くいけば金と普通の服が手に入る……!
クラウは急いでメモを書き、店員の目の前にぷるぷるしながら差し出した。
なんて書いてあるのかな、えっと……
【ИДГИЛИАχЛИМГЖГЕГКЁЛРЛМСГЛОЛФЧФОСФГ】
うん、何語?
くっそー流石にそんなご都合主義には作られてねえかこの武器。ほんとあの爺使えない。やっぱゴミクズだな。いつかあの長い髭ちょん切ってやる。
俺が読めないのはともかく、店員はあれで読めたらしくニコニコ笑顔を浮かべた。
「判りましたー。それでは、お好みの服をお取りになって試着室でお着替え下さい」
え、服の代金とか気にしなくて良いの?と思ったが、一国の姫が着てるドレスだもんね、そりゃ中古でも良い値段するよね。はーブルジョワって良いなー。お古も金になんのかー。俺のお古の服なんて金払っても持ってってくれる人いないだろうに。結局世の中は地位と金。はっきりわかんだね。
『ユキ?どれが似合うかしら』
俺が世の中の不条理について考えていると、俺的不条理ランキング第一位のクラウが周りの服を一着一着ゆっくりと見回しながら聞いてきた。
クラウに限っては美少女だからほんとに酷い色の組み合わせとかじゃ無い限り基本的に何でも似合うんだよな……
頭(そんな物は無い)の中で色々な服を着ているクラウを想像しながら、こう答えた。
『多分、いや絶対、何でも似合うと思う』
ナース服にメイド服、ネコ耳、ここはブカブカのパーカーとか!?
……クラウさんまじぱない。人類の至宝っすわ。
『もうっ!適当に答えないでよ。私だって洋服なんて選ぶの初めてで、よく判らないんだから』
『いや、クラウさんや』
『なあに?』
『まじお前の場合はほんとに致命的なセンスじゃ無い限り似合うから。だって素材が良いから』
ほんとこの人何に迷ってんだろうね?こんなに着る服考えなくてもいい人珍しい位なのに。
『……好きに選んで良いと思うぞ。他の人がどう思ってもお前が可愛いと思うなら、それは可愛い物だろ?』
ファッションなんて判らないから、適当に良い事っぽい事を言ってお茶を濁す。ファッション?なにそれうまいの?ファッションじゃ腹は膨れねぇんだ。高い金かけて服を一着買うなら安いカップ麺を沢山買うぞ。
しかし、俺のエセ名言に感化されたらしく、目をキラキラさせながら
『……そうねっ!自分が好きなのを選んでみるわ!』
って凄い良い笑顔で洋服を見始めた。えがったえがった。
暫くして、クラウがばっと顔を上げた。いつもは眠たげな目も今回はぱっちりと開いている。あらーかわいい。
『決めた!これにするわ!』
手に取っているのは青がベースのワイシャツみたいので所々に黒の線が入ってる奴と、黒いロングともショートとも取れない、丁度良い長さのスカートだった。
良い感じに髪色と合いそうだ。なんだ、才能あるじゃないか。
『へー良いじゃん。着てみれば?』
『そうするわね』
そう言うと、さっさと試着室の中に吸い込まれていった。
やっぱ女子って服とか好きなんだなぁ……。俺には恐らく一生判らないであろう感覚だ。遊戯王のルールぐらい判らない。
「あれ、この武器、あのお客様が置いてるのかな……でもあんな可憐な感じなのに、戦いなんて出来るのかしら?そもそもこの武器、みたこと無いなぁー」
何やら店員に目をつけられたようだ。それにしてもやっぱりこの世界には大鎌は無いみたいだな。そうだ、ここらでちょっと知名度を上げますか!
『聞こえておるか?』
ちょっと声を低く響く感じにして、店員に話しかけた。
「だ、だれっ?どこにいるの!?」
人影が無いか探しているのだろうが、あるわけが無い。話しかけてるのは目の前の変な武器なのだから。
『待て待て落ち着け、儂は今、お主の脳内に直接話しかけておる』
人生で一度は言ってみたいよね。お前の脳内に直接話しかけている!って奴。そんなちょっとした願いを叶えられて俺は今日も幸せです。
「直接って……一体何者……?ええ、私疲れてるのかしら。きっとそうよね。最近は休みが殆ど無かったし……」
おっと中々難易度が高そうだ。この状態からクラウが出てくるまでに大鎌のことを教えることが出来るか、俺の熱いバトル開始のゴングが鳴り始めた。